あたしだけだと思ってたよ、ずっと……大事に思ってるのも、好きだっていう気持ちもさ……
んなわけねえだろ、オレはそこまで薄情じゃねえ。
さつきの実家――その土地の買収を狙う
Igel。その
重要人物二名が零示、さつきそれぞれに接触を図ってきた。
それでも抗ってみせると、零示の力を借りて、新たな高額報酬の望めるクエストへ参加する事を決めたさつきだったが……
そんな二人が滝御庵に戻った時、さつきの父親は倒れてしまっていた。
多大な精神的負荷を抱えたまま、日々の経営を続けた結果の過労――という事で、一命はとりとめたのだが。
……病院から戻り、零示の部屋を訪れたさつきはどこから見ても心も体も、ギリギリの状態だった。
今はとにかく休め、クエストの方も今回は不参加にするしかない、とボロボロの幼馴染を説得する零示に、
さつきは、それでも自分が絶対にやらなきゃならないと言う。
失いたくない存在故に苦しみ曇っていく、そんな彼女の貌を見つめ続けた少年の胸には、
これまで以上の、目の前の相手に何かしてやりたいという強い感情が燃え滾り始める……
さつきは意志の宿らぬ目で、俯きながら痛切な想いを呟く。
「あたし、間違ってるのかな……これまでしてきた事ってどこかおかしかったのかな……」
「――うちを守りたかったの……ただ、それだけだったの……」
「でも……我が侭、だったのかもね……無理だったのかな、ずっと今のままでいたいだなんて……」
譫言のように呟くその姿に、零示は自分にとって滝沢さつきという少女が如何に大切な存在だったのかを…
明るく活発な姿も、大切なものの為には一途に踏ん張ろうとする姿も、皆全て眩しく、愛おしく思っていたと痛感させられる。
だから、桐原零示は決意する。
――こいつは、こんな風に悲しんでちゃいけない。
――大切なものを失うような、そんな側の人間になんかさせてやらない。
――笑っていてほしい、いつものように自分の傍で。
纏まりなど考えてなんかいられない。昂る感情が言葉を走らせる。
「──失わせねえよ、オレが」
「だいたい、なんでおまえはそういうこと一人で解決しようとしてんだ。あんまり思いあがってんじゃねえぞ」
「一杯一杯じゃねえか。テンパってんじゃねえか。なら、オレを使えばいい。遠慮だのなんだの、つまんねえ話は今更ナシだ」
「悩む必要なんか全然ねえ。おまえはただ、いつものおまえでいればいいんじゃねえのかよ……!」
涙ぐむ少女を前にして―――
つまらなかった、クソゲーだと思ってきたこの現実にも……
隣にはずっとこいつがいた、いてくれた。
違ったんだ。これまでだって悪くはなかったんだと。
ようやく気付けたこの想いを、決して離しはしないと、荒れ狂う熱が彼を急き立てる。
「何度だって言ってやる。オレが守ってやる」
「家族も、場所も、思い出もだ。いくらおまえが悲観的にものを見たって、そうはならねえってことを教えてやる。
飯食って寝て、学園行ってツレと楽しくしてりゃいいんだ。ちっとキツいなってことがありゃ、そんなのオレに任せてればいい」
「だからグラグラ迷ってんな。泣いてんな。しおらしいおまえなんざ、あんまり不気味でぞっとしねえ」
「――支えてやるよ。たとえ何があったって、オレが引っ張り上げてやる」
笑っていろ。おまえらしくいろよ。
できないって言うのなら、いつでも身体くらい張ってやるから。
ずっと、隣にいてやるから。
「ほ、んとに……? 零示は……ずっとあたしの傍にいてくれるの……?」
今にも消えてしまいそうな声を漏らして問いかけるさつき。
「当たり前だ。ってか、そんなのは確認するまでもねえ事だ」
「これまでだって、オレらは一緒にいた。そして、これからもそうしたいってだけなんだから」
「あたしが守りたかった事……零示も大切なものだと思ってくれてたの……?」
「ああ……あの家も、今まで過ごしてきた時間も……顔を合わせる度におまえがいちいち煩いのだってそうだ。
全部に手出しさせやしねえ。一切合切、誰にだって渡しゃしねえっつってんだ───」
言葉をどれだけ並べても、まだあいつが遠い―――
湧き上がる想いに突き動かされ、零示はさつきの小さな身体を後ろから抱きしめる。
「見た目より細いんだな、おまえは……」
「……こんなになるまで、無理なんてすることねえんだ」
最終更新:2022年10月13日 20:16