「……吸血鬼の力など、こんなものだ。つまらんぞ。こんな力に振り回され、身を滅ぼすというのは」
「世界を征服した気でもいたか? 生まれ変わったとでも思ったか?
生憎、どこまでいこうと現実は現実だ。ほんの少し姿形を変えるに過ぎない」
非日常の闇へと飛び出し……
『吸血鬼』となったケイトリンは、高揚する気分のまま
手当たり次第に、夜の街で人間の血を奪い取っていたが。
そこに現れた、陰鬱な雰囲気を纏った
同族の男は
、夜の掟に従えと
「教え諭し」彼女を制止しようとする。
「洗礼を享けた後は、多かれ少なかれ誰でもそうなる。夜を掴む感覚は、かつてない昂揚をもたらすものだ」
「おまえのように弾ける輩も多い。だから───誰かが、こうして伸びた鼻をへし折ってやらなきゃならない」
トシロー・カシマ……そう名乗った男は、自分達が「
縛血者」と呼ばれる存在であり、
ケイトリンに
力を分け与えた血親には、成り立てを監督する義務が発生する事等。
仕事として、自分達が生きる夜の世界の
常識を説明し、彼女からその血親の情報を聞き出そうとする。
しかし、超人を求める者とそれをつまらぬ幻想だとする者――
彼らの意思は交わることなく、ケイトリンは一刻も早くこの分別臭い男の相手から逃れ出ようと、
既に
吸血していた人間の男の身体を操り、彼の命を奪おうと鋭く爪を繰り出す。
だが――通じない。先刻、少女の肉体が一方的に破壊された光景が再演される。
トシローにその動きは見切られ、手首を捕えられたケイトリンは体術によりそのまま肩関節を砕かれていた。
またしても激痛に染め上げられる意識。優位に立ったはずの少女の躰は悶絶し地面を不様に転げまわる。
「どうした、吸血鬼」
そんなケイトリンを見下ろすトシローのその表情は、ぞくりとするほどに無表情で、透明であった。
「先の腕と同じだ。そんなものは、俺たちにとっては手傷の内にも入らんはずだが。
ならば、そこまで痛がる必要もあるまい」
未だ痛みに顔を歪めるケイトリンは納得がいかない。
先に眼前の男に加えてやった暴行による損傷は明らかに自分が受けた傷よりも大きいはずなのに。
なぜ、お前はそんな平気な顔をしていられるのか――と。
「単純に気構えの問題だ。おまえには、殴る気はあっても殴られる覚悟はなかろう」
反撃を想定した戦闘者と、そうではない狩猟者――それこそがこの結果を生み出した差異だと。
不死身になったのに、変わらず痛みを感じるなんてナンセンスだ……
そう悪態をつく少女に、トシローは続ける。
「それほど吸血鬼になりたくば、どんな痛みにも慣れてしまえばいい。転んで泣く大人がいないようにな」
「だが、そっちには何も無いぞ──進むのは、やめておけ」
これまで訥々と語ってきたトシローだったが……
そう幼童に告げる年を重ねた男の眸には……初めて切実な感情が籠っていたのだった。
- あるとも。痛みを越えた先には素晴らしき銀刃の洗礼、そう!電磁抜刀を受けることによる一段上を登ったような覚醒の高揚が!! -- 名無しの模倣犯 (2020-04-16 19:13:14)
- ↑でたわね... -- 名無しさん (2020-04-16 23:19:47)
- 心、体の痛みに慣れて何も感じなくなったらできるのは《伯爵》や三本指みたいな化け物ばっかだしね -- 名無しさん (2020-04-17 22:36:58)
- そいつら割とやりがいある人生送って満足気に死んでるが そもそも伯爵は慣れてるんじゃなくて傷つかないだけだし -- 名無しさん (2020-05-12 19:01:15)
- そういう意味ではそう創られた故に生まれついてのかいぶつたる伯爵は死ぬ間際に心ある人間に近づけたってことだよな、そりゃ満足できる -- 名無しさん (2021-05-07 09:17:15)
最終更新:2025年07月29日 16:48