「どうして……どうして、そんなことを───」
「ありがとう……」最後の彼の言葉を耳にして、キャロルが感じたのは──ただ不条理な想いだった。
……どうして? なぜ道具であるはずの私を“守った”の?
己は庇われたという揺るがぬ事実を認識した時、彼女の魂に埋めようのない傷が広がっていく。
「諦めて……いられたのに……」
しかし、終局は訪れ、真実が彼女の心を打ちのめした。
キャロル・ザ・ウィッチは、物言わぬ骸に向けて慟哭する───
「そんな優しさ……欲しくなかった!」
「道具でよかった! 武器でよかった!
あなたのために生きて死ねれば、それでよかった!」
「なのに、どうして───どうして私なんかのために!?」
死者は答えない。だが、角鹿彰護がキャロルという少女に示した最後の行動とその死は、
十字架にて刑死した聖者のそれと同じく、我が身を犠牲にし他者を救おうとする行い……紛れもない“愛”の証明だった。
しかし彼の献身と慈愛は同時に、永久に満たされることのない喪失の苦痛をキャロルへと齎すものでもあった……
これより先、少女が抱きしめるのは、与えられた一片の愛に対する幸福などではありえない。
与えられることさえなければ、感じる事もなかった渇き、餓えであり……決して癒されない魂の傷痕だったから。
破壊的な叫喚が、遺骸に縋り付く少女の喉、いや魂の底から衝き上げ迸る。
“魔女”キャロルの絶望──いかなる凄惨極まる被虐でも生まれ得なかったそれは、
今、愛という奇貨によって誕生のおぞましい産声を上げようとしていた………
- 悲しいなぁ…ひたすら、悲しい結末だ。 -- 名無しさん (2020-06-04 03:54:48)
最終更新:2021年01月17日 23:02