いいから早く行け。トシローを絶対に死なせるな



一発の銃弾が踵を捉えた。着弾の衝撃で吹っ飛ばされる。だが痛みよりも、倒れた拍子にトシローの躰を手放した事実にシェリルは凍った。
その悪寒を現実の物とするように、警備部署の縛血者たちが廊下の向こうから殺到する。
動けぬその身を銃弾から守る為に、シェリルは必死にトシローへと覆い被さった。
思わず瞑った瞼の奥で……一斉射撃の銃声が鼓膜に響く。だが、覚悟していた痛みはやっては来なかった。
その代わりにシェリルの耳を打ったものは……銀光と共に響き渡った鈴鳴りの音。
再び開いた彼女の視界には────


────よう。久しぶりだな、シェリル」


飄々と片目を瞑るアイザックの足元に、余さず二つに断ち切られた銃弾が転がっていた。



シェリル√、敵だらけのカルパチアで、瀕死のトシローを背負い決死の脱出を図ろうとするシェリル。
格好いいBGMを背景にそのピンチを救い、地獄から生還を果たした“親友”が命懸けで彼らの逃避行を助けようとする熱い場面――と傍目からは見えるのだが。

「……あんた一体、何者なの?」

当事者であるシェリルのこのセリフが示すように、彼女の知る限り、情報通のバーテンダーに過ぎないアイザックが……
“どうして”生還することができていたのか。
“どうやって”この急場にタイミングよく現れる事ができたのか。
何より、“なぜ”追われる身となった自分達の状況全てを弁えたように振舞う事ができているのか。
全てが謎めいた霧に隠され、しかし表には道化た仮面(ポーズ)以外に何も読み取れない。

奪われていたはずのトシローの愛刀まで渡してくる、その異様な手際の良さも含め。
シェリル視点から見れば、単純な“仲間”の助けと受け取るには、アイザックの存在はあまりにうそ寒いものを感じさせたが……


それでも、自分達にとっての活路はこれ以外になく。
真剣なトーンでトシローを死なせるなと、託す言葉に背を押されるように、シェリルは男を背負い昇降機の空間へ身を躍らせる――

+ アイザックの真意
賜力を駆使し追っ手を鏖殺したアイザックは独り、血に染まったフロアに佇む……

「やれやれ。あれだけ手間を掛けた仕込みも、仕切り直しか……」

「ハッ、(ざま)はない……他でもない俺自身が、自分の物語(・・・・・)に酔い痴れすぎてたって訳か。
そう言ってやったシェリルにも笑われちまうな」

トシローとシェリルの間でし、最高の瞬間に限りなく近づきながら――予期せぬ横槍で崩れてしまった己の企み。
だが、自嘲する男の声はすぐに焦がれるような昏い熱を取り戻していた。


「だが、俺は諦めない……この世に俺たち(・・・)がいる限り、
三本指(トライフィンガー)もまた決して死なないのだから……


餓狼の瞳は、既に足元の斬殺死体ではない何かを……何処かを遠く見据えていた────






  • この腐れバーテンダーいつもシェリル驚かせてんな・・・ -- 名無しさん (2020-12-11 22:06:15)
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最終更新:2025年02月21日 23:44