賛辞を送るよ、勝利者諸君。我が同属と清き弱者──久方ぶりに、高潔な反逆を見れて満足だ

発言者:アポルオン
対象者:秋月 凌駕青砥 美汐


『さあ、これで願い通り(・・・・)なのだろう?』


破壊された母艦の上で……不可解な言葉を告げて美汐の心臓へ一撃を加えた《預言者》。
その光景を見た凌駕は、これ以上美汐から奪うのかと……怒りと共に飛び掛からんとしていたが……
腕の中で大切な恋人は目を覚まし、のみならず機人の証たるあの永久機関の針の音が全く鳴っておらず。

「凌駕……私の、永久機関(しんぞう)……」

「───ああ、止まってる。だから美汐は、もう」

心臓()の鼓動のみを宿す、ただの人間に戻っていた
あまりに不可解な事態を前に困惑する少年少女。それに対し、《預言者》は薄笑いを浮かべながら答を告げる

『言ったろう? 褒美だよ。そこの彼女が心から求めていた結末だ。市井の民へと戻るがいい、君の役はもはや無い。
真理にこそ至らなかったとは言え、ある程度の情報は取れたのだから。褒章は与えるべきだろう?』

何より────』

『秋月凌駕、君は非常に興味深い。陰我(イド)を己の内に飼い慣らし、影装に到達した現在も尚成長の余地がある。
流石というか、当然というべきかは迷うがね』

『実に今後が楽しみだ。そのためにも、荷物は少ない方がよいだろう?
彼女を支え続けては、君自身の到達が疎かになってしまう』

巨大な存在感を纏った得体の知れない存在。だが、凌駕には先程まで戦っていたネイムレスの奥から響く()と、
目の前の半人半機の怪人とが同じ意思に動かされているのだと、直感的に理解できていた。

鉄仮面の謎めいた語りに、反抗の意思を籠めて言葉を返す凌駕だったが……同時に彼には奇妙な感覚があった。
それは、直接会ったわけではないはずが、どこか相手の在り様が自分と似ており、故にその本質が理解したくもないのに判ってしまう
まるで水面に映った己の影を覗き見ているような、そんな感覚が。

思案を続ける凌駕を満足そうな面持ちで見つめながら、《預言者》は……

『さて、もはや分かっていると思うが彼女は落第(・・)
そのためにお帰り願ったが──残念かな、君は十分に及第点(・・・)だ』

『今回はここまでだ。それだけでも収穫として余りある。今は身を退き、次なる挑戦を心待ちにしていよう。
それまでは、勝ち取った喜びを猶予の中で噛み締めているといい』

『賛辞を送るよ、勝利者諸君。我が同属と清き弱者。久方ぶりに、高潔な反逆を見れて満足だ』

それに対し、凌駕はきっぱりと告げる。

お断りだ(・・・・)、アポルオン───俺達は、二度とおまえに会うつもりはない」

『いいや、会うさ。君はそういう星の元に生まれている』

『ああ……それを言うなら、この地球上の誰もがかな?』


最後まで謎めいた言葉を残し……アレクサンドルを連れたアポルオンは夜の闇へと消えていく。
あれほどの存在感を撒き散らしながら……一瞬後にはその気配も、吹き抜ける風が掻き消していった。




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最終更新:2025年02月23日 23:27