忍ルート、一方的に他プレイヤーへ傷を負わせられる
悪意の『パッチ』──
すなわちType-Cプログラムを探知システムの穴を掻い潜り、プレイヤー間に流通させていた内通者……佐伯をようやく捕捉した綾鷹。
だが余裕を崩さず、見る者に嫌悪感を呼び起こすような嗤いを浮かべ、佐伯は殺人兵器へと
アームズを変貌させていく。
それに対し、若社長も同じくC型プログラムを実装した管理者側の切り札……
マスターアームを構え、その武装を解放しようとするが。
芝居がかったように裏切者が指を鳴らすと、一瞬にして展開された最強の
アームズは、デジタルの記号情報へと分解されてしまう。
その現象を成せたのは、ここまで事態を優位に運んできた《ラプター》と並ぶプロフェッショナルが佐伯のバックにいたからであり――
「───ごめんね、綾鷹クン。愉しかったゲームの時間はもうお終い。
おたがい世知辛い現実は、一つ眠ればまたやって来てしまうものだからね……」
そう、ここまでIgelとして大きな活動を見せなかった《笑い猫》が、、管理者の武装を解体してしまっていたからだった。
……一転、丸腰となった綾鷹だったが、彼女の離反も予測は出来ていたようであり、
C型を物質化させ、運営の探知システムの網を潜り抜けるように図ったのもチェシャがいたからだと理解していた。
単独で出向いた事で助けも呼べず、裏切者の手には容易く人間一人を抹殺できてしまう凶器が握られている。
しかし藤堂綾鷹は、裏切られた事実を見て嘲笑う佐伯に苦笑を返すのみ。
「自由な猫を支配する事は誰にもできない。ゆえに、猫と暮らす事を飼うとは言わない。
永遠に同居人のままなのさ。女という、男にとっての“永遠の隣人”もまた同じだよ……」
「まさか、知っていて二重スパイ放任してたっての? そりゃいくら幾らなんでも余裕こきすぎっしょ。
大企業のセレブなんつったって、相手はアメリカに股を開いた雌猫だぜ? 繋ぎ止められるとでも思ったの?」
「いやいや、言ったろう? 女は誰にも繋げない。そばに居たいと思わせた男の勝ちなんだ」
あくまで泰然自若の態度を崩さない綾鷹は……そのまま、謎めいた言葉を告げる。
「だから……その賭けに勝つべく、僕は今日ここへ来たのさ」
苛立つ内通者は、
ゲームを捨てて、現実での刹那的な快楽を得るべく銃口を向け―――
それに対し、
ゲームの主人公のように、この絶対絶命の窮地にも足掻く意思を消さない社長。
……互いの主張は平行線のまま、無慈悲な
ブレイズガルムの一撃が社長の肉体を消し飛ばし……
ついに米国陣営の目論見を押し止めていた存在は、消失してしまった。
―――しかし、その光景を見届けたチェシャの胸には、
まだ綾鷹には更なる切り札があるのではないか……そんな予感が消えなかった。
「何なの、これ……こんな数式、私は知らない」
そして、彼女は発見する。Igelのメインホストコンピュータから、とあるデータが発信された事を。
「藤堂社長の生体サイン消滅に同期して擬装プロテクトが解除……
指定アドレスへと自動送信され元のデータは自己崩壊する使い捨てのシステム。……けれど、これは―――」
仮想キーボードを高速で操作し、チェシャは消失した元データの残滓を解析……
記号情報は集められ、ホログラムとしてその全容が図像化されていったのだが――――
「あは、ははははは……!」
眼前に詳らかになったデータ、藤堂綾鷹が命を賭した最後の切り札を理解し……彼女は心からの笑い声を上げる。
「これは、確かめてみる価値は大いにあるわね……」
「もしも、こんな事が本当になるなら──ゲームがこの現実をひっくり返す……私の負けという事になるんだから」
黄玉の瞳が、陶然と送信先のID、それが表示する名前を映す。
全ての始まりとなった少年―――桐原零示の名前を。
- 猫好きな昏式さんらしい文体よね>「自由な猫を支配する事は誰にもできない。ゆえに、猫と暮らす事を飼うとは言わない。 永遠に同居人のままなのさ。女という、男にとっての“永遠の隣人”もまた同じだよ……」 -- 名無しさん (2020-07-08 14:44:12)
- バトルの熱さだとレオナルートが飛び抜けてるけど、お話自体の出来は忍ルートが一番完成度高いと思う -- 名無しさん (2020-07-08 15:15:27)
- ↑わかる -- 名無しさん (2020-07-16 23:30:47)
最終更新:2021年10月23日 23:31