――三本指による五人目の犠牲者が発見された。
現場に残された“メッセージ”からトシローが謎めいた真犯人の手掛かりを一人感じ取る中、
モーガンは、トシローが
上と一悶着起こしてまで守ろうとした新入り……すなわちアンヌの事に言及する。
縛血者として生きる上で不可欠な
吸血行為……それは避けられないだろうと告げた上で、
モーガンは、仲間をあえて人間に戻そうとする、この陰気臭い男の考えに疑いを挟まずにはいられない様で……
「……そこまでしてその娘を守ろうとする理由が、俺には皆目分からん。単なるよくある話じゃねえか」
「たった一度血を吸われただけでトラウマは残るんだぜ? まして吸う側になっちまったら……
人間に戻したとしても、影響は結構でかいんじゃないのか?」
彼の指摘はもっともな事であり、縛血者の《魅了の眸》で表層的な記憶は消せても、
深層部分の記憶には消せない傷が残るであろうことは間違いなく……
何より、アンヌのように巻き込まれる形で縛血者として生きるようになる事は、別段珍しい事ではないのだ。
それを、あえて自らの立場を危うくするような真似までして、人間に戻すなど……
「……そうだな。愚かだ」
これは自己満足に過ぎないのだろうと。トシローはそんな身勝手な理由に振り回されている事を自覚し嫌悪しながらも、
言葉にできない何かが、心をつかんで離さず……
これしかないのだろうと感じてしまっていた。
「理想論だとは判っている。それでも《掟》と重なっている今ならば……とな」
「ハッ、そいつはとんだ慈善家だ。お優しいことじゃねえかよ」
「おかしいか?俺だとて気まぐれを起こす事ぐらいはある」
だがその言い様に対し、モーガンは鋭い疑いの眼差しを向けるのみ。
「……ヒロイズムに酔ってるのか、その娘に惚れたのかは知らんがよ。おまえのやっている事は愚行だ。
道端の一セントを募金箱に入れに行く為に地雷原を突破するぐらい、ナンセンスな事だ」
「やめろとは言わねえ。バカも死にたがりも自由の内だからな。だが、俺の目には異常に見える」
それは、シェリルが以前語ったような「らしくない」という言葉を深く重くしたものであり。
「縛血者としての俺の目には、な。それほど自分の仲間が増えるのが嫌か?」
沈黙を保つトシローに、貌に深い猜疑と苛立ちを隠さぬモーガンは詰め寄り。
その太い腕が、彼の襟首をねじ上げていく。
「おまえを見てるとな……時々、俺たちの存在を否定されてるような気分になってくるんだよ」
「おいクソ探偵。てめえは、自分がまだあったかい人間様のつもりででもいやがるのか?」
「馬鹿を言うな」
……巨腕を振り払い、トシローはモーガンの言葉を否定する。
全てはもう終わってしまった事。今更、アンヌという少女の運命をどう改変しようが、過ぎ去った己の運命は変えられなどしない。
そんな事はとっくに承知している。そう……とっくに───
「人の首筋に喰らい付き、生き血を啜り、命を繋ぐ……そんな人間など居てたまるものか」
「けッ。そういう言い草が気に食わねえって言ってんだ。ったく………」
――そんな変人の言に付き合い切れるかと言うように、モーガンはFワードを吐き捨てるのだった……
- モーガンの見る目は実に正しい。 -- 名無しさん (2020-07-09 01:57:22)
- 自分がブラインドで周りもブラインドで話してる相手もブラインドなのにすげーブラインドdisりまくってるわけでキレられても仕方ない -- 名無しさん (2020-07-09 18:13:38)
- 一番トシローさん嫌いなのがトシローさん本人だったり、とにかく面倒くさいやつである -- 名無しさん (2020-07-09 20:49:32)
- ここでモーガンが縛血者はそんなに否定されなきゃいけない悪なのか?ってはっきり言ったらどう答えるのかな? -- 名無しさん (2020-09-10 18:20:07)
最終更新:2021年06月26日 16:08