加護ルート、強大な個としての能力者としての自負心によって、組織の力に敗北した傭兵二人組の末路と……
部隊を抜けながら、結局は生きた妹を守ることができなかった兄の無念を絞り出した言葉。
暴走する加護から“
ザ・シックス”の能力者を遠ざけるように現れた
虎一と
虎二の二人組の超能力兵士。
バロック能力者を追った
ウォーゼル、姿を消したナドレックを欠き、
クラリッサは単独で虎一と対峙するが……
能力の性質、戦士としての相性から彼女は劣勢を強いられ――肉体は限界近くまで追い詰められた。
高度な武術と超能力を組み合わせ、相手の反撃を悉く潰す
接近戦のエキスパート。
容易く胴体を破砕できる一撃を倒れ伏すクラリッサに向ける虎一は嘲るように告げる―――
「一人じゃ所詮この程度。群れて粋がるなぞ雑魚のすることだろうがよ。
無力な者は強者にただ奪われ、蹂躙されるのみ。
この世はそういう風にできている。さあ、弱者は弱者らしく、野垂れ死ね」
──瞬間、虎一の黒衣に風穴が空く。胸部に穿たれたそれは心臓を貫く銃弾による産物で……
「狙撃かッ……」
自らを襲った攻撃が財団の私設警備部隊によるものだと理解し、彼女は離脱を試みたが。
跳躍の寸前に、無数の弾痕がその肉体へと穿たれた。
能力により状況を監視していた虎二もすぐさま駆け寄ろうと試みるも、彼の巨体にも幾つもの狙撃が襲い掛かった。
意識を失い倒れ伏した少女は銃弾の嵐により、無残な肉片へと姿を変え。
救わんと手を伸ばした虎二も、慟哭の叫びを上げながら―――力尽きるのだった。
目の前で戦っている個としての強者にしか興味を持たない驕慢。
相手取っているのが巨大な組織であるということを知りながら、ただ狭い戦場で対峙する相手だけを警戒するに足る敵と認識していた不遜。
――消耗しきったクラリッサは、それが彼女らの致命的な敗因だと理解していた。
彼ら二人の持つ気功術と
超感覚的知覚に感知されない範囲、有効射程ギリギリの距離からの狙撃。
もしも
トレゴンシーからのテレパシーが遮断されるような事態となれば、
戦闘区域へと警備部隊が即座に配備され、意識外からの狙撃――念動防壁を破る唯一の方法を以て二人組を射殺する。
強大な能力者を前にして、本来利害が一致しないはずの米国側が日本側に対能力者戦のノウハウを提供する形で決まった作戦であった。
……そして、現れたナドレックはかろうじて人体を保っている妹の亡骸を抱いて、瞑目する。
「すまない、小麗。おまえを救えなかった……」
街を焼く炎が火の粉を散らす音だけが響く、静謐なる時間。
今更どれだけ強く抱いても、手から砂が零れ落ちるように少女の遺骸からは体温が失われていく。
今となってはもう命の無い抜け殻。そうと分かっていても離すことはできなかった。
「やはり、おまえの妹だったか」
いつの間にか、
キニスンはナドレックの傍らに立っていた。
悼むようなその声に、彼は背を向けたまま振り返らない。
「俺を殺しに来たんですか、隊長」
「おまえに未だ反意があるならな。だが、もう戦う意味もないだろう」
「……。そう、ですね。まったくその通りです。妹は死んだ。離反する理由なんて、もうとっくに消えている」
隠しきれない悲哀と怒りを滲ませるナドレックに、
今回の作戦の責任者、そしてサンフランシスコでおまえの妹を救えなかった責のある私だけを恨め……と告げる指揮官。
それに対し、彼は力なく首を振り、全ては無力だった己のせいだと語るのみ。
そんな彼を前に、一人の軍人としてキニスンは行動する――――
「ならば命令だ。原隊に復帰せよ、ナドレック。
現在、異能力者の一人、対象γが街を破壊している。探し出してこれを排除せよ」
「……了解」
答えるナドレックの心には、昏い戦意と敵意が満ち始める。
守るべきものなどない。失うものもない。ただ、やりばのない怒りと悲しみをぶつけられる何かが欲しかった。
ならばそう、この捻じれた運命を生み出した異能力者を、この手で―――。
最終更新:2020年11月11日 10:39