アンヌルート……誰よりも早く、真実へとたどり着いたバイロンへと下される、王からの無情な宣告。
トシローを裏切りの牙で貫き……
カーマインを確保したバイロン。
その目的は一つ、これまで血族として悪逆非道を重ね、それを罰するために現れる事を望みながら……
しかしこの6世紀もの間、一度も見える事の無かった
裁きの王にして父―――《伯爵》、その手掛かりを、神秘の人型に求めていたからであった。
血に隠された情報を求めバイロンは、その首筋に咬みつく。
既に裡に蓄えられた
マジェンタからの情報と融合し―――膨大な情報の波が今、大いなる真実の扉を開こうとしていた……
……だが、その扉の向こうに垣間見えた
秘密。
それは、バイロンが望んでいたものなどではなく、致命の裏切りに等しいものだった。
見開かれた瞳孔が戦慄く。驚愕と混乱と、そして絶望が、彼を嵐となって襲う。
悲嘆。狼狽。憤慨。あらゆる感情が魔性の公子の精神を灼き尽くす。
「全てが……誰もが……創めから……」
「───あの方さえもそうだと言うのかアアア!!」
牙が震えと共に引き抜かれ、絶望の慟哭が天に向かって突き上げる。
そんな中―――二体の
『柩の娘』が、全く同じ挙措で並びバイロンに向いていた。
人型の口を通して何者かの「声」が、バイロンへと伝えられる。
『何をしている。我が継嗣よ』
『これこそが我が意志。我が使命に他ならぬ。ならば従え』
無表情な少女の声ではあったものの……語る言葉に宿る意志は、紛れもなくバイロンのよく知る闇の巨人の面影そのものを思わせた。
だが、バイロンは喉から、苦渋の一声を漏らすばかり。
「違うッ。貴方は、絶対者たる貴方だけは……断じてそうであってはならぬのです!」
焦がれ続けた、縛られぬ無二の存在。不夜の王たる貴方だけは。
しかし、熱情を籠めた縋るような声に、返ってくるのは冷厳たる否定の言辞。
『己の中の虚像を追い求めるならば、それは鏡との問答に他ならぬ』
『私の知る他者は、何処までも私の一部でしかない。
人間は己の幻想を通してしか、他者を理解することが叶わない』
『とは言え、貴様は些か妄執の度が過ぎる。
余りに永く渇望しすぎた。心も魂も、渇望によって縛られすぎた』
『貴様の抱いた虚像たる私と、真実の私。その誤差はもはや修復不可能』
だから、王は一つの決定を下した。
『よってカーマイン、マジェンタ双方ともの所有権を剥奪。我が元へと移動する』
『貴様は自由だ。狂うなり滅ぶなり好きにするがいい』
“見捨てられた”バイロンは絶望に声を引きつらせ、手を伸ばすも……
もはや制御を離れた人形二体は、元所有者を一顧だにせず稲妻の如き速度で疾走───
硝子を突き破り、薔薇園の外、摩天楼の谷間の闇へとその姿を消すのだった。
- ああその通りだ。しかしそんな事はもはや些事に過ぎぬ。私は唯一、生命を生み出せる血族なのだ!ならばこう生きて、そう死んでいこう! -- 超越者となった吸血鬼の人形 (2020-07-18 09:54:05)
- 『私(こちら)の知る他者(そちら)は、何処までも私(こちら)の一部でしかない。 人間は己の幻想を通してしか、他者を理解することが叶わない』これは後の虚空のバロックにも繋がってるな -- 名無しさん (2020-07-19 13:07:14)
- 憧れは、理解とは程遠い感情だよ -- 名無しさん (2020-12-09 15:54:09)
- フフ、彼に善きモノを還せたようで何よりだよ -- 名無しさん (2021-01-13 15:35:42)
- バイロンは人間時代が最悪だからマジで吸血鬼幻想しかすがるものはないのよね -- 名無しさん (2023-12-01 22:36:41)
最終更新:2023年12月01日 22:36