リリス


己の理が及ぶ世界を越える者を、怪物として排斥する傲慢と狭量。
それがお前たち、老いと病に怯えるアダムの子らの本性よ。

我を怪物と呼ぶならば、望み通りに真正の怪物となってやろう。

お前たちアダムの子の血を喰らう獣として、暗闇に君臨しよう。



闇に潜む縛血者達の物語、その歴史の背後で巨大な謀の糸を引いていた女性。
元は人類の始祖たる女にして、全ての縛血者(ブラインド)の母神。
そして後述するように、縛血者は彼女の“分身”とも言うべき存在である。

――――………

西暦の発生―――その時期に大地に足をつけた一組の始まりの男女。
不死なる存在として、永遠の時間を確約されていた彼らは、いつしか
いつしか自分達の、“不変(かんぜん)”で喪失の全く無い生に飽きを感じはじめた。
そしてその状況を変えるべく、男の血液(イノチ)を女は吸い……彼らは異なる種となった。
欠けた男は不死(かんぜん)を失い、凡庸な《人》となった。
一方の女――リリスは、吸血によって異能……“賜力(ギフト)”を獲得した。

異なる他者は受け入れられない……こうして二つの存在の道はそこで分かたれる。
男は新たな伴侶を娶り、脆弱な個としてではなく、
群を、社会を形成することにより、寄り添い生きるという道をとり……
女は、不死と宿した異能により、
人と共に時を歩めず、手を携えることも出来ず、一人きりの超越者として寄る辺なき放浪の旅へと赴いた。


リリスはその旅の中、陽光に愛されし者との出会いを経験する。
どのような関係が彼らの間に持たれたかは定かではないが―――
“彼”の血を女が吸ったことにより、超越者は、忌呪(カース)をその身に受け、
人の世には繁栄が齎され、リリスは日の下を歩む権利を初めに奪われ……数多の縛りを肉体に課せられていった。


呪いと痛みに苦しみ悶え、弱体化したリリス。
確かな欠乏を痛感した彼女は、嘗ての伴侶のように種を、群として増やさんとして、
各地の人類に対し“洗礼(バプテスマ)”を行い、縛血者(ブラインド)が誕生したのである。



――――…………


しかし、縛血者が増加し続ける中、リリスは自らの企てが初めから「誤り」であった事に気づく。
忌呪の強大さ……それは命の生産という機能を縛血者から奪い去っており、
洗礼という行為においてもその不完全さは変わらなかった。
洗礼という行為、その実態とは彼女の魂を分割・譲渡することでヒトの魂と肉体を「汚染」し、
(しばり)と人間の心の弱さを備えた“劣化品”を量産することに過ぎなかったのである。


大半の力を既に子らに与えてしまった時点で、ようやくリリスはその事実を認識し、
しかし、世界の頂点に相応しい“超越者”の種を殖やし……その母となること、その渇望を捨てきれなかった…… 
狂おしい程に“過ちをやり直したい”“縛りを超越(こえ)たい”と願った彼女はある企てを行う。
すなわち、始まりの過ちである“縛血者”、出来損ないの存在を全て回帰(リセット)させ、
分かたれた薔薇を一つにし、忌呪(しばり)を持たぬ原初の一として己を再生させるというあまりに途方もない企てを。
また、元の忌呪を持った状態での再臨を防ぐために、
リリスは人として、縛血者として彼ら一人一人が歩んできた生の軌跡、蓄積を利用することを考えた。
そのために、直ぐには回収を行わず、縛血者の総数が増大し必要量を集めるための環境(・・)も必要とされた。


そして世界各地に散らばった薔薇(イノチ)の回収のために、
リリスは病み衰えながらも、尚超絶の力を宿す自身の肉体を“4つ”に分割、それぞれを個別の縛血者として創造した。

それらはいずれも隔絶した不死身性を宿す。
三体の『柩の娘』……彼女らには増大した縛血者を効率的に“狩る”ための裁定者(テスタメント)の生産機能を担わせた。
最終的には自己の再生するための()、それに彼女らも回収されその糧と成るように。

最後に造られた要の一体は、刈り取りの実行役である柩の娘、裁定者を制御し、集めた魂を収容するだけでなく、
より早く、より確実な母の再生を行うための環境を整えるという指揮官役として“設定”された。
“彼”は母の思惑通り、その強大な力と謎めいた発言を残しながら、
血気に逸りがちな縛血者達に“鎖輪(ディアスポラ)”という共同体(ぼくじょう)と《夜会の掟》を生み出させ頭数と蓄積ある命の持続を行うよう秘かに誘導した。
さらに回収を円滑に進めるための実験として、柩の娘を継嗣の一部に与え、
名を隠し新大陸という最大規模の「牧場」を主導して生み出し、真意を気づかせることなく、先行して魂の回収の一端を担わせた。


始まりが過ちであったのなら(・・・・・・・・・・・・・)正せばよい(・・・・・)
  ─────呪縛(しばり)など、我が(・・)完全なる不死には要らぬ


――全ての薔薇を取り戻す為、狂気と妄執を詰め込んだ完全な被造物を作り終えた始祖は、その意識を失ってゆく。
  何時の日か、己が唯一にして真なる聖母と成る瞬間を夢見て……リリスは眠りについた。

それから二千年の時が流れて……ついに、最後の薔薇(イノチ)の華が咲く。


――――…………


“彼”は揺るがない。なぜなら母が“そう”造ったから。
ヒトの子らのように揺らぎ惑い、過ちや安楽に逃げ込むという弱さ……
その原因を生み出し得る無数の過去(きず)を持たぬような、
“こんな絶対者(ヴァンパイア)に成りたい”と狂おしく願いを込めた偶像として製造されたのだから。

だが、回帰の最終局面、何よりもその“過去”に葛藤し、苦しみ悔やみ続けてきた一人の男との出会いが“彼”に変革を齎す……その果てに待つものとは―――?



  • グランドのトシローさんがなった"吸血鬼を殺せる何者か"って「完全なる人アダムカドモン」ってイメージなのかね?傷だらけだったから「完成」したトシローさんで朱銀幻燈・人魂帰譚の詠唱の考察とかでそういう解釈が出来ないだろうか。 -- 名無しさん (2018-01-24 20:22:39)
  • なんだかんだで人間に受け入れてもらえなかったのがショックだったのかな、この人・・・・・。 -- 名無しさん (2018-01-24 20:32:14)
  • ↑何をどうしたらそんな陳腐な解釈が出て来るんだ・・・(スペース猫画像省略) -- 名無しさん (2018-01-25 12:14:18)
  • ↑いや、何となくここ読んでて思っただけなんだ。不用意なコメだった。ごめん。 -- 名無しさん (2018-01-25 13:14:16)
  • でも、種としての孤独に耐えられなかったって感じはするよね。いくら吸血鬼を増やしても己の同種ではなく劣化品しか生まれないことに気付いたことが動機なあたり -- 名無しさん (2018-01-27 16:21:14)
  • 唯一無二の美しい終わりこそ、超人や怪物にとって最高の宝ってのが理解出来た。 -- 名無しさん (2018-02-18 14:41:04)
  • こうしてリリスの経歴を見ると、伯爵が理想的過ぎる吸血鬼として生み出されたのが納得出来るな。他ならぬリリスですら、過ち犯し、後悔する生命でしかなかったからこそ、理想の存在(伯爵)を生み出せたって訳だ。完全を作るには不完全を理解してなきゃならないからな。 -- 名無しさん (2018-08-31 14:38:00)
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