牙をへし折り、這い蹲らせて血を流させる。──喜べ、敗北をくれてやる



超常の力を使い突如出現したシェリルと、亡者の拘束から逃れ出たトシロー。
今や形勢は二対一ケイトリン(不良吸血娘)は追い詰められたかに見えたのだが……

蝙翔狂舞(ライヴ・ガールズ)ッ!』


トシローの発言から自らの血に眠る異能――賜力(ギフト)を自覚し、少女は今こそ覚醒する。
恍惚とした笑みのままに、ケイトリンは魂に刻まれた呼び声を掴み取った
肉体を群生化し、吸血蝙蝠の一団へと化ける異能。触れば吸われ、噛み千切られては餌と変わる暴食の森が迫る。


……それを前にして、抑揚のない声で相棒に退避を命じ、トシローは前へと進み出る。
同時に膨れ上がるのは暴食の森、黒々とした蝙蝠の密生体は、霧のように周囲を取り囲み、旋回する。
浮かび上がる目が、悠然とトシローを見下ろし、告げる。


『さぁ――踊って喰われな色男。
この羽ばたきよりもずっと大きな、醜い悲鳴を響かせてね!』


沈黙を保つトシロー。思惟はケイトリンの発動している異能の状態について向けられる。
――血統は上々、しかし未だ成り立て。
――それでも尚、こうして発現した賜力。さらに規模も大きい。
――となれば、結論は一つ……

「ケイトリン、と言ったな。一つ訊きたい」

『んー、なに?命乞いなら惨めにやってくれるって?』

「何人吸っ……いや───何人、吸い殺した(・・・・・)

吸い上げた命の雫こそ、今展開されている異能の源だと言う事。
虚偽は許さない――張り詰めた声で問いかけた言葉に。

『あははっ、さぁ?たぶん、両手の指くらいじゃないの?』

返ってきたのはどこまでも陽気な肯定(・・・・・)。罪悪感の欠片もない、愉悦に塗れた口調が彼の耳朶へと届いた。


だが夜警(処刑人)の前で、それは余りに迂闊だとしか言いようがなかった。


超えたな、一線を。ならば。


「見過ごすわけにはいかなくなった」


此処で初めて、トシローという男に始めて敵意が浮かぶ。
脚を整え、手を軽く前に。構えとも言えない自然体を取って、今も無邪気に嗤う蝙蝠を睨みつける。

『へえ……それじゃあどうするの?』


説諭(ガイダンス)の時間は終わり。
ここからは、異国の処刑人による冷たい断罪の時間が始まる。


「牙をへし折り、這い蹲らせて血を流させる」


「喜べ、敗北をくれてやる」


『ハ、くく───やってみなッ!』

敗北の宣告(・・・・・)に、ケイトリンは覚醒の昂揚感のままトシローへと襲い掛かる事で答えたが。
もう、闘いの道筋は既に組み上げられている。彼の佇む姿は不動のままだった。


賜力(ギフト)は、闇の生命力に賦活した血がもたらす異能の業だ。
今まさに、おまえが見せているそのように」

「だがしかし、俺たち(・・・)は相対的な存在だと先程も言った。
賜力(ギフト)の異能と言えども、また同じ────」


トシローの血脈は、体内に一つの流れを生み出しつつあった。
偏在する鉄の分子一つ一つに、異能の流動(ながれ)が互いに干渉し合い(フォース)を付与していく。
目に見えぬ、けれど確かに存在する力――その名は磁力。鼓動と共に、それは起動した。

「見極められ、対処の手を打たれたならば、
超常の力と言えども容易く打ち破られる――このように」


森羅を(とざ)せし(あおぐろ)き流動、今我が血に宿れ──《絶戒闇手(ミッドナイト・ブルー)



発動するトシロー・カシマの賜力。見えざる雷気が走り抜け、強力な磁場が迸る。


「―――きゃああああッ!!!」


それで、終わり。―――返り血(干渉材料)を浴び過ぎていたケイトリンは磁気により総体を磔られた末に、
強制的に反発を引き起こしたことで……屈辱と共に、男の前に這いつくばる羽目となるのだった……




  • 敗北を知りたい(BK感) -- 名無しさん (2020-08-03 23:59:14)
  • 「解決方法は両断一択のこのお方」……第二回人気投票第五位入賞時のコメントより -- 名無しさん (2020-08-04 00:04:28)
  • ケイトリンはビターンって顔面地面に押し付けられるのが似合う -- 名無しさん (2020-08-04 17:45:15)
  • わかりみがふかい -- 名無しさん (2021-03-10 16:37:13)
名前:
コメント:

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2024年03月20日 06:57