「嘘つき」
「ほんと、自分で思ってるほど嘘が上手くないんだから……
私を騙してくれるなら、そこで黙らないでよ。きっちり白を切り通してよ」
「私やだよ、そんなの。照がいなくなっちゃうなんて」
互いの想いを吐き出し、ようやく拗れすれ違った原因である過去に
決着をつけた照と真魚。
だが、すでに照の躰は“死”を迎えており、いずれ個としての情報は喪われ、存在は消え去ってしまうという事実が突きつけられる。
それを理解した照は、真魚を悲しませまいと、会えなくなるわけじゃないと優しい“嘘”をつくも……
少女はそれをあっさりと見抜いた上で、痛みも悲しみも含め大切な人を忘れてなんかやるものかと隠さずに告げるのだった。
本編より
『やっぱだめだな、俺……ほんとはさ、きっちり別れを言おうと思ったんだ。俺がいなくてもちゃんと生きていけよって』
『でもまたおまえの声を聞いたら、全然そんなこと言いだせなくて。結局、また嘘ついて楽な方に流れちまった……』
「同じことだよ!」
「ちゃんと生きていけなんて言われても、私、こんなの納得しないよ……
笑顔で別れるなんて物わかりのいいヒロインっぽいこと、絶対しないから!」
『つったって……しょうがないじゃん』
「しょうがなくない!男の子でしょ、簡単にあきらめんな!」
『おま……』
『そういうとこ、めっちゃガキだな……いい加減にしろよ』
その声が、すっかりあきれたものへと変わっていく。
――さすがに、自分でも駄々をこねてるのが少し恥ずかしくなった。深呼吸して、少し冷静さを取り戻そうとする。
「お互いを思いやって、涙をこらえて綺麗に別れるのが大人っていうのなら、そうかもね。私にはそんなことできないから」
『人間ってのはさ、時間が経てば悲しみとか怒りとかは忘れるようにできてるもんなんだよ。
逆に、そうじゃなきゃ生きててキツいだろ?』
『少なくともさ……俺はおまえに、いつまでも俺のことで泣いていて欲しくないと思ってるよ。
ずっと憶えててくれなんて、無理なことも言わないし』
――照が言うことも、一面の真実ではあるんだろう。
――でも私は、そんなのはごめんだ。
――私は、大切なものを失う痛みを我慢したり忘れたりなんかしたくない。
――時間が経てば消えてしまうものなんだとしたら、なおさらだ。
「いいじゃない……ずっと忘れられなくて毎日泣きわめいてたって。
いつまでも悲しみから立ち直れなくたって。それがどんなに無様で苦しくったって」
つまり───ああ、そうだ。
「どうやって生きてこうが、私の勝手よ。だって、生きてるのはこっちなんだから。死んでく側が、あれこれ指図しないでよ」
『……身も蓋もねーな。そこは普通に、お互いそれっぽく良いこと言い合って終わりでいいじゃねーかよ……空気読めっつーの』
「そんなのクソ食らえって感じ」
『汚ねー言葉使うなよ』
「じゃ、うんこ召し上がれ」
『丁寧語で言えって意味じゃねーよ。つか、それで合ってるのか微妙くさいし』
照がまた、深いため息をついた。
『はあ……さっきまで、悲壮感たっぷりに最後の別れをする予定だったんだぜ? 俺なりに納得しようとしてたのに、グダグダじゃねーか……』
「それは……なんかごめん」
――可愛げがないなって、自分でも思う。
――こういう無駄に意地っ張りなところも、照とのことで回り道しちゃった原因だったのにね……やっぱり最後まで相性最悪だな、私たち。
最終更新:2021年12月10日 00:28