したらば3スレ/(023-028)美女剣士敵討ちSS - 女が男を倒すスレまとめ

したらば3スレ/(023-028)美女剣士敵討ちSS

• 仇討ち
• 剣術
• 戦国時代
• 河津りよ

寛政年間のある秋の夜、伊豆藩士河津喜左衛門とその妻はるは、自宅で同僚の藤内幸右衛門に斬殺された。
藤内は柔術の達人で、長身の力自慢であった。
こういう男が最も嫌うのはひ弱な男である。
そして、河津喜左衛門は藤内の嫌いなタイプの人間だった。
喜左衛門は病弱ではあったが、学問に優れ、書の才能もあった。
彼の妻、河津はるは藩内で「女為朝」といわれた怪力だった。少女時代、男の子に混じって参加した弓の稽古で、彼女の放った矢は空を飛ぶ鷹を射抜き、さらに下を走っていた大猪をも仕留めた。
男勝りの彼女は、夫を文弱だと嘲笑う者たちに言い返すのが常だった。
なら、私と勝負しなさい。と
そして河津喜左衛門を嘲笑った者は、はると竹刀を使った剣の戦いや素手素足の取っ組み合いに完敗し、気絶することになるのだった。
藤内幸右衛門もその例外ではない。
喜左衛門を藩主の面前で馬鹿にしたために、それを知ったはると柔術で勝負することになった。
藤内は余裕であった。女ごときに、自分が幼い頃より磨いていた柔の技を打ち破れるはずがない。
はるの、まだ若さの残る美しい身体を、勝負と称して執拗に触ることを想像して興奮していた。

藩邸近くの山で密かに行った1対1の対決。
はるはさすがに女為朝と言われるだけあった。油断する藤内に当身の技を繰り出し、またたく間に押し倒す。足をかけ、形勢逆転を狙う藤内の抵抗も虚しく、はるは藤内を絞めあげる。
「参った!」と藤内。
「勝負、有難うございました。今後は主人と仲良くしてくださいませ」はるは笑顔で言う。
その姿は美しかった。藤内はこんな可憐な女に完敗した自分が情けなかった。そして、喜左衛門に鬼のような嫉妬心がわいた。

数日後の満月の晩、藤内は河津喜左衛門邸に忍び込んだ。
囲炉裏の前で疲れて寝ているはるの首を刀で斬る。
はるの苦痛の叫びを聞いて寝所から飛び出した喜左衛門を滅多切りにする。
喜左衛門は即死してしまった。
その首を藤内は切り飛ばす。
藤内は剣の達人でもある。喜左衛門の首は綺麗な軌道を描いて床に落ちる。
藤内は言った「わしの勝ちじゃ!」
その時、はるが立ち上がった。
はるはこの期に及んでも烈女だった。
凄まじい量の血を滝のように首から出しながら藤内にしがみつく。しかし、急所を突かれただけに
弱々しい。
藤内は怒鳴る。
「女の分際で生意気じゃ！」
首からの出血多量で徐々に弱るはるの着物を脱がすとその血まみれの身体を犯す。
騒ぎを聞きつけて、10歳の娘りよと、6歳の息子宇平も起きてきた。
2人は滅多切りにされた首のない賢い父の身体を見た。
巨漢に犯される瀕死の強い母の姿を見た。
藤内ははるを好きなだけ犯して、最後は刀を彼女の胸に刺して家を出ていった。
再び着た着物の赤い返り血を秋の月が照らす。
罪から逃れられないことを暗示しているようで気味が悪かった。
藤内は自らの非道を後悔していた。

はるは、藤内が出たあとまだ息があり、2人の子に言った。
「りよ、宇平。」
「母上、しっかりしてください」気丈なりよは言う。
「お母様!」幼い宇平は泣く。
「大きくなったら、仇の藤内幸右衛門を必ず討ってください」
そう言ってはるは息絶えた。

翌朝、凶事を知った使用人たちが駆けつけてきた。
彼らはその日、暇をもらって月見に行っていた。
その為、あの夜の河津邸はあまりにも無防備だった。
使用人に余暇を与える喜左衛門の優しさが最悪の事態を招いたとも言える。
宇平は真っ青な顔をして震え、泣き続けた。
「藤内幸右衛門というお武家様が、父上と母上を斬りました」りよは弟を抱きながら涙ながらに言った。
「藤内様が！まさか」一人の使用人は打ち消したが、
別の使用人が言った。
「この刀は藤内様のものじゃ」
はるの胸を突いていたのは紛れもなく藤内幸右衛門の愛刀であった。
その夜、捜査に入った藩の役人に藤内幸右衛門は河津家を襲ったことを告白した。
河津喜左衛門に男兄弟はなく、久我家に嫁に入った妹の梅が処断を藩に願い出た。
だが、藩はこれを拒否した。
伊豆藩は尚武の気風に溢れ、親が殺されたら息子が仇を取るのが当たり前の土地だった。
武士同士の争いにお上が口を出すことに慎重だった。
「男子がおるじゃろう」藩家老は、幼い宇平が18歳になるまでに仇・藤内幸右衛門を討ったら家督を継がせると言った。
逆を言えば、敵討ちを果たさなければ河津家は耐えてしまう。

藤内はその後も何事も無かったかのように過ごした。
宇平は梅の勧めで、葬儀が終わるや否や剣を習った。
敵討ちの意味を理解しているかどうか分からない年齢であったが、宇平は必死だった。
だが、その冬、病にかかって宇平は高熱を出して寝込んだ。
心労もあっただろう。
病床で宇平は「お母様!」と叫ぶ。
あの晩、はるに言った様な声で。
看護にあたったりよは、その声であの夜の情景を思い出す。この数カ月、胸の奥底に閉まってきた記憶だ。
苦しんでのたうち回る宇平の顔が、父の生首に見えた。宇平の出す鼻血は母の首から流れる血か？
そしてあの男のことが頭に浮かぶ。
「いやあ！」りよは叫んだ。
庭の石を埋める外の雪も、あの晩の悲しい情景を埋めては暮れなかった。

宇平の病は良くなったが、高熱の後遺症でその身体に重い麻痺が残った。
敵討ちなどできなくなった。

「河津の家の嫡男はこの通り不具者だ。仇は討てまい」
伊豆藩のとある橋の上、気にしていた人物にばったり会って、大声で付き人に言う武士がいた。
事件の翌年の夏、藤内幸右衛門は意気揚々としていた。姉におぶられて歩く河津宇平の7歳になったその不自由な身体を見て、藤内は笑った。
この世に鬼というものがいるなら、この男のことだろう。
りよは思った。
仇討ちの心配がなくなった藤内は出世の階段を登る。
河津家は終わる。
理不尽に涙が出た。

家に帰り、食事の準備をする。もう使用人は去った。
静かな家にりよが米を研ぐ音だけが響く。

気がつくと庭に宇平が降りていた。歩けないため、手を使って降りる。りよが慌てて追いかける。
「宇平！その体で外に出たら危なかろう」
宇平が振り向く。泣いていた。
「私が強くならなきゃ、お父様お母様の仇は討てないでございます」
宇平は健気に立とうとする。まだ7つの子供なのに。
しかし、転ぶ。
その時、りよの胸の中で何かが弾けた。
口から勝手に言葉が飛び出す。
「安心なさい、宇平。姉が、代わりに藤内幸右衛門を討ってやります。私が父上と母上の仇を取ります。」
自分でもびっくりしていた。11歳の女子の言う言葉ではない。けれども、あの夜から、母の最期の言葉を聞いたあの瞬間から、ずっと心のどこかにあった言葉だった。
「姉上。」宇平が頼もしそうに見つめてくる。
「宇平が16になる頃に、私が藤内幸右衛門の首を取ってきます。」
りよは、宇平を抱きしめた。
その日からりよは梅から薙刀を教わった。
護身の為という名目だったが、りよの目からは殺気が溢れていた。
暇があれば農民に混じって力仕事をした。
腕力をつけるためだ。
やがてりよは母によく似た烈女に成長していった。

事件から10年後。
20歳になったりよは剣術と柔術を身につけて、男にも力で全く引けを取らない烈女に成長していた。
16歳で身体に障害をもつ宇平を優しく守る姉でもあった。
宇平を馬鹿にする者がいたら、容赦なく決闘を挑む。
そしてその勝者は常にりよだった。
母、はると全く同じだった。
そして、今夜、彼女は宇平を家に置いて父母の墓前にいた。白装束に鉢巻きを巻き、足は素足で、手には日本刀が握られていた。
あの夜、藤内幸右衛門が父を斬り、母に刺したあの刀である。
この数年、りよは宇平を寝かしたあと毎晩のようにその刀を研ぎ続けていた。その刃先から怪しい光すら発するようになっていた。
「今から、藤内幸右衛門を討ちに参ります。
この細腕に力をお与えください」りよは墓に向かって言った。
尤も彼女の腕はいまや並の男より太いのだが。

彼女は藤内の屋敷に侵入した。くノ一のような動きをも身につけた彼女に不可能などなかった。
木の枝によじ登り、塀を軽々と越える。
廊下を全く音を立てずに進む。
その時、藤内の家来とすれ違った。
りよの異様な風体に驚いた家来が声をあげようとするが、その次の瞬間、りよの手刀は彼の首に入っていた。バタリと倒れる。
りよは彼に息があるのを確認し、近くの部屋に寝かせた。無駄な血は流させたくない。
ついに、藤内の寝所に行き当たった。ここだ。
藤内は遊女といるようだ。
りよは息をひそめた。ついに本懐達成の時だ。
宇平、姉がやるからね。
「幸右衛門さまの身体は三十路を過ぎても引き締まってますね」
女の声がする。
「おう、なぜなら仇がおるからな。武芸に励んでおるのじゃ」あの低い声だ、藤内だ。
りよは震えた。恐怖ではなく、興奮から震えがきた。
刀を強く握る。
「だが相手は不具者。心配はないんだがな」
この声を聞いた瞬間、りよの全身から汗が噴き出す。
河津家の寂れた家、熱に苦しむ宇平、転がる父の首。
そして何事も無かったかのように暮らし出世する藤内。
最後に出てくるのは犯される母。
首から血を流す母の上に裸になって跨がる藤内。
「大きくなったら、仇の藤内幸右衛門を必ず討ってください」声が天より降りる。
りよは寝所の戸を蹴った。
彼女の蹴りは戸を吹き飛ばし、藤内と遊女が目の前に出現する。
「父母の仇!覚悟！」

「貴様、どこの者か!」
藤内は言う。好色の表情は消え、武士の顔に戻っていた。
「10年前、あなた様が斬った河津喜左衛門とその妻はるの娘、河津りよです。不具者の弟、河津宇平に代わって首級をいただきにきました。いざ勝負せよ。」
藤内は遊女を逃し、太刀を手に取る。
しばらく向き合う。1分足らずの時間だったが、永遠の時のようにりよには思えた。
「左様。お前の如き小娘、河津喜左衛門のように切り飛ばしてやる！」
藤内が斬りつけてくる。
しかし、りよはかわすと、逆に藤内の右胸を斬った。
一瞬痛みに怯む藤内の後ろに回るとりよはその腰を横一線に斬った。
磨き続けた名刀に切れぬものなどなかった。
畳が真っ赤に染まる。
倒れる藤内の腕から刀をはたき落とし、りよは藤内を
柔術の技で投げ飛ばす。
藤内は受け身を取れずに叩き落とされる。
りよの投げ技の受け身を取れる者などいまやいないのだ。
それでも藤内は剛の者、四つん這いになって逃げ出す。
「待たれよ。逃げるとは武士にあるまじき行為ですよ。父母の無念を思い知れ。」
りよは藤内の頭を勢いよく蹴る。血の海の蹴鞠だ。
藤内の鼻から血が出た。
鼻を切ったのでなく、脳が傷ついたのだろう。
やった！とりよは思った。ずっと鍛えてきた当身の技の威力は凄まじかった。
倒れ込む藤内。もはや動けない。
「母上、ご照覧！」りよは藤内の上に馬乗りになると、その股に刃を突き立てた。
母を犯した忌まわしいモノが許せなかった。
そして、りよは藤内の首を刎ねる。
あの夜の父のようにしてやりたい。
「父上、ご照覧！」りよの研ぎ続けた刀、つまり10年前、藤内が父の首を斬った日本刀は、今宵、もとの持ち主である藤内幸右衛門の首を切り飛ばした。
藤内の主を失った胴から血が噴出する。
りよの顔に生暖かいものがかかる。
りよは藤内の首を持って叫ぶ。
「親の仇、討ち取ったり!」

河津喜左衛門夫妻殺害事件から30年。
河津りよが親の仇、藤内幸右衛門を討ってから20年。

40歳になった河津りよは、尼僧となって寺で暮らしていた。今日は叔母の梅が家の許しを得て会いに来た。
「りよが仇を討ってからもう20年ですね」梅が言う。どこか寂しげだ。
「では宇平が河津宇左衛門になってから20年ということにもなります」
りよが言う。容貌は相変わらず美しい。その身体にはかつて程の強さはないが、少なくとも同世代の女性よりがっちりしている。
「今朝も父上と母上と、そして藤内幸右衛門殿の冥福を祈っていました。」

あの夜、藤内を討った後、りよは、藩主の前に堂々と出頭した。当時、伊豆藩の女に仇討ちは認められなかった。だが、りよの父母への思いと弟への愛、そしてどんな罰も受けるというりよの覚悟と潔さに藩の首脳たちは感動した。
宇平の河津家相続が認められた
そしてりよは藤内の霊への償いとして出家したのだ。

梅は言う。
「まさか、女子（おなご）のりよが仇を討つなんて誰も思ってなかったから、りよが藤内殿を斬ったと知って本当に驚いた。でも私、嬉しかった。」
りよは怪訝な顔をして、梅を見た。
「女でも一生懸命武芸を磨ければ男を斬れるっていうことを、りよが証明してくれた。気分が良かった。
あの後、久我家でも女子の立場が強くなった。」
梅は言った。
りよは答えた。
「私はただ父母の無念を晴らしたかっただけですから」
「でもりよのお陰で伊豆藩でも清水藩でも強い女が増えた。そのうち女大名まで出るかもしれない。」
りよは笑った。
いつか男に混じって戦場に出て、敵の大将の首を取る女武者が出たら素敵ね。私のように敵討ちをする女も一杯いるみたいだし。りよは思った。
同性ながらドキドキしてきた。

河津りよは90歳まで生きた。
彼女が死ぬ頃、幕末の志士には強き女性たちもいたという。彼女たちは男たちとともに幕府と戦い、女の力を見せつけた。

【完】

尚、作中の人物はフィクションです。実在の人物団体とは一切関係ありません。
ご了承ください。