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夢の遠足

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夢の遠足


作者:あびす




 ついにこの日が来た。
 待ちに待った。庭の葦が忍者でも跳び越せないほど成長するぐらいまで待った。
 この学園に入ってから、一番待ちわびた行事――。
「はーい、イベント強化月間ということで、明日は遠足でーす」

「初等部との遠足だああああああーーーーーーッ!!!!」

 俺は興奮のあまり席を立ち上がり、その拳を教室の天井に掲げる。ここが王宮なら「天上天下唯我独尊」とでも言い放つ勢いだ。
「初等部との遠足ですねぇーっ!」
 俺に続いてなぎー―柚木渚―も立ち上がる。まさか同志がいたとは思わなかった。レジスタンスを見つけたときのマイケル大統領の気持ちが今わかる。
「ちょっとハーゼ君、渚君、ホームルーム中は席を立っては駄目だ! 正義にもとる!」
 何か正義の声が聞こえた気がする。
「そうよ、いくら若くても、しちゃならないとき、例えば背泳ぎ中とかに起立したものは着席しなきゃならないわ!」
「せんせー、意味がわかりませーん」
 汁先生―こう書くといやらしいが、本名はシルフィーナ―の言葉に、なぎーが首をかしげた。俺はよくわかるが、教育者としてその発言はまずいんじゃね?
「もー、話が進まないから二人とも座ってよ!!」
 たまりかねた諏訪ちゃんが声を張り上げた。後ろからの視線が非常に痛い。後々が怖いので、俺はすごすごと着席した。なぎーも座ってる。これってよく考えれば学級崩壊ってやつだよな!
「私が怒っても聞かなかったのに、すさむわー」
 先生は肩を落としつつも、遠足の予定を黒板に書いていく。
 その内容は、一緒に目的地の公園まで歩いて、班ごとにレクレーション、というものらしい。
「先生、レクレーションって何ですの?」
「トライアスロンよ」
「ちょ、初等部でトライアスロンとか無茶すぎない!?」
「間違えたわ、オリエンテーリングよ」
「どう間違えればそうなる訳!?」
「細かいルールは明日説明するわ。質問とかは……シュネーちゃぁん?」
「……はいっ!?」
 シュネーが飛び起きた。あの状況で寝てるってどんだけ鈍いんだよ!? ……はっ、さては夜に激しい運動を!?
「え、えっとー……。……バナナはおやつに入るですか?」
「いやん、バナナが入るかなんて、そんなの私の口から言える訳ないじゃない♪」
「せーんーせーっ!!!」
 また諏訪ちゃんだ。諏訪ちゃんがいなかったらこの教室は止まらない暴走特急になること請け合いじゃないか。
「もう、つれないんだから。バナナはおやつに入らないわ。あと、明日は体操服で川原に集合ね。怪我だけはしないよーに」
「はーい」
 そのままホームルームが終わる。そのまま俺は初等部の校舎へ向かった。別に変な意味があってのことじゃない。知り合いの送迎という重要なミッションが待っているのだ。

 初等部校舎。まさにここは天国(ヘブン)。汚れを知らない、純粋な瞳がきらきらと輝いている。
 いつまでもここにいたい―そんな気にさせるほど。いや、子供というのはいいもんだ。
「……ハーゼか? 何をしている」
 おっと、目の前にランドセルを背負った小さな女の子がいる。シューノちゃんだ。初等部にいる友達の一人である。
「ん、レミングの送迎に。明日はよろしく!」
「明日?」
「明日は遠足だろ?」
「あぁ、そういえば」
 ついさっき思い出したような口調だ。覚えてなかったんかい!
「私はハーゼとは一緒にならないぞ。中等部とだ」
「な、なんだってー!?」
 そんなバカな! 一番期待していたのに! 終わった! 俺の今年一年はもう終わった!
「……しょげすぎだろう、馬鹿」
「馬鹿もヘチマもないよ!?」
「まぁ、縁があったら会うかもな。じゃ、また」
 シューノちゃんがクールに去っていった。そしてしょんぼりしてる俺。
 少しして、今度は男の子がたたた、と降りてきた。誰かを探している様子だ。そう、彼が今日のターゲットである。
「おーい、レミングー!」
「げ」
 少年―レミング―があからさまに嫌そうな顔を浮かべた。すさむわー。
「よー、元気してっかー?」
「元気だけどさ……。どーしたんだよ……」
「いや、アキラちゃん今日は部活の助っ人なんだって。で、俺が頼まれた、と」
 あからさまにしょげるレミング。ちょ、マジですさむんだけど!? 俺はわざわざ頼みごとを引き受けたというのに! これは謝罪を要求せねばならん! 何か見せてもらおう!
 ……いや、あの子なら頼んだら本当に何か見せかねないからやっぱりやめとこう!
「いーだろ、明日遠足だから、思う存分いちゃつけって」
「ば、バカ! そんなんじゃないよ!」
「ふふふ、アキラちゃんとミナちゃんは多分体温的に同じ班になるはずだ! 楽しみだな!」
「オレは楽しくないよ!!」
 なぜか初等部と高等部は仲が良い。このレミングとうちのクラスのアキラちゃんとかかなり有名なカップルと言ってもいいかもしれない。ま、こんなふうに本人は否定してるが。
「とりあえず帰ろうぜ。おやつでも買ってな」
「わかったよ……」
 とまぁ、こんな感じで俺達は学校を後にしたのだった。

 たどり着いたのは近所のスーパーのお菓子売り場。明日が明日なだけに、うちの学校の制服を来た奴がたくさんいる。
 とりあえずはガムと駄菓子だな。籠を持って棚を物色する。
「レミングは、おやついくらまでだ?」
「三百円まで」
「ほほう。俺は制限無しだ! ノーリミット!」
「いや、そこ自慢するとこじゃないだろ!? その歳なんだからさ、自重ってこと覚えようよ!」
 え、何で俺、六つも下の子からダメ出し食らってるの!?
「……ハーゼ?」
「おー、レイラちゃん……って買いすぎだろ、それ!?」
 同級生のレイラちゃんがいた。両手に数え切れないほどのお菓子を抱え込んでいる。というか籠を使おうぜ!
「ん……まだ足りない」
「まだ買うのかよ!?」
 レイラちゃんがふらふらと去っていった。前見えてるのか、アレ。
「……とまぁ、無制限だとあんな子が出る」
「アレは特別なんじゃないの?」
「お、ハーゼか。明日のおやつか?」
「ブリッツ先生?」
 数学教師のブリッツ先生。今はまだ五時前。どう見ても仕事が終わってる時間じゃないだろ、オイ。
 っていうかこの人も買いすぎだろ!? しかもケーキとかシュークリームとか、生菓子ばっか! ブルジョワめ!!
「ほどほどにしておけよ。明日、もし遠足が中止になったら、その処理に困ることになる」
「いやいや、先生も買いすぎでしょそれ」
「ん、これにはおうち用も含めているから問題ない」
「おうち用て」
 甘物が似合う感じの人じゃないんだけどなぁ。そんなことを考えていると、先生はふらりと去っていった。行き先は多分、スナック菓子の売り場。またお菓子かよ!?
「……オレ、この学校に結構いるけど、先生みんなヘンだよな……」
「それは否定しない」
 ここで俺はレミングと別れ、自分の分のお菓子を買うことにした。まずはガム。やはりここは定番のミント系のやつにするか。ペンギンの絵が描かれたガムを買い物籠に入れる。
「あ、ハーゼ君、ちょっといいっスかー?」
 またまた知り合いだ。クラスメートの稀石明菜。通称あかりちゃん。
「何? あかりちゃんもおやつ買いに来たの?」
「はいっスー。レイラさんとかブリッツ先生も見たっスよー!」
「おー、俺も見た見た。二人とも買いすぎだよな」
「ハーゼ、ねるねる○るねとか買わねーか?」
 いきなり後ろから声をかけられると同時に肩を叩かれた。この声は真田、通称さなだんのだ。
「なんでだよ!? 買わない!」
「ねるねるね○ねって何スかー?」
「お、あかりちゃん。よし、俺達がねるね○ねるねを説明しよう。これは練れば練るほど色が変わって、食べるとうまい!」
「テーレッテレー♪」
 うん、ごめん、言わなきゃなんないと思った。
「おおぉ、なんだか美味しそうっスね!」
「おう、うまい!」
「テーレッテレーって音がなるくらいな!」
 うん、確かにねる○るねるねはうまい。でもまぁ、遠足に持っていくもんじゃないよな。水ないと食べれないから。
「とりあえず買ってみるっス!」
「おお、さすがあかりちゃん!」
「駄菓子の神から認められた俺が言う、いいセンスだ!」
 俺とさなだんの二人で、あかりちゃんに向けて親指を立てる。
「何買うか迷ってたっスから、ちょうどよかったっスー!」
 あかりちゃんがにぱーっと満面の笑みを浮かべた。痛い! なんか良心が痛い!

 その後、俺たちは適当に喋りながら明日のおやつを買い揃え、レミングを送って終了。
 さあ、明日は決戦の日だ! 晴れるかな!?



 さて、翌日。ここ教室からお届けしています。
 いや、雨が土砂降りとか意味わかんないんだけど!? 俺はやけくそ気味に昨日買ったガムを三枚同時に噛むという暴挙に打って出た。
「おはよー。いやー、雨とは残念ねー」
 汁先生が入ってきた。今からホームルーム。雨天時のことまで先生達は考えてなかったのか、今日は普通どおりの授業をやるらしい。余計に意味わかんない!
「おやつとか持ってきてるかもしれないけどー、授業中は食べちゃ駄目だからね。休み時間にこっそり食べなさい」
「禁止はしないのね……」
「ところで、正義君はどうしたの?」
 そういえば正義の奴がいない。休むとは珍しい。……はっ、さては正義が休んだから雨が降ったのか!? 俺は正義を捨てることを決意した! 悪こそ正義だ!
「諏訪ちゃん、ちゃんと連絡網入れた?」
「入れたわよ! っていうか連絡網にぐらい本名で登録してあげない!? ジャスティスマンとか電話かけにくいじゃない!」
「おかしいわねー、休みって連絡も入ってないし……。シュネーちゃんには連絡来た?」
「はい、来ましたですよ。妹さんからですけど」
「んー、まーいっか。正義だし」
『先生がそれでいいのかよ!?』
 クラスの心が一つにまとまった瞬間だった。



 一方その頃、集合場所になるはずだった川原には、体操服を着た正義が一人立っていた。学校指定のジャージを着て、リュックを背負ったその姿はまぎれもない遠足に向かう格好だ。その頭にかぶっているマスクを除いて。
「おかしい……なぜみんな来ないのだ」
 正義は折りたたみ傘を差しつつ、てのひら側にしている腕時計を覗き込む。マスク被っているから傘の意味はあまりないが。
「「他の奴らは来ないぜ!!」」
 二つの声が同時に響いた。正義はすぐさま声のした方向に振り向く。
 そこには二体の骨がいた。彼らも学校指定のジャージを着ている。骨が服を着るな。
「何だと!? さてはきさまら悪の組織の仕業か!?」
「ちょ、おまwww」
「話せばわかる!」
「問答無用! ジャスティィィス、アンブレラッ!!」
 正義はおもむろに傘をたたむと、グリップ部分のみを残して本体部分をロケットのように打ち出す。
 が、相手は骨。スカスカのそのボディに、傘はすり抜けていった。
「とりあえず落ち着こうぜ、兄弟!」
「私は悪と兄弟になった覚えはない! ファイナァァル……ジャァァァスティスアンブレラッ!」
 正義の叫び声と同時に、傘の部分が爆発し、骨は粉々に吹っ飛ばされた。吹っ飛んだ骨の一部を野良犬が咥えていく。
「悪は滅んだ……! しかし、他のみんなはどこに……」
 雨に濡れながら、正義は一人で拳を握る。
 いや、連絡網が来る前に張り切って出かけていったあんたが悪いから。


P(ピンク)S(スモウレスラー)


 一時間目、とあるクラスは数学の時間。
 教師はブリッツ。彼女は片手にはショートケーキ、もう片手にはチョークといったいまだかつてない奇抜なスタイルで教壇に立っていた。
「えー、もぐもぐ、xが3とすると、もぐもぐ」
『先生自ら授業中におやつを食うなよ!?』
 この教室の心も一つになった。
 雨降って地固まる瞬間である。クラスの団結を図るという意味では、今回の遠足中止は成功であった。
 きれいにまとめたつもりである。




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