-正義の嵐の前の静けさ-
ジャスティスマンの行動により連続襲撃事件の犯人は九割がたジャスティスマンが犯人であるという事が明確になってしまい、ジャスティスマンの言葉を聞いた者達はそれぞれが一体何をするつもりなんだ? と出るはずのない答えを考え続けていた。
真田達は学校を終えた後、ムーンバックス、通称ムンバと呼ばれるカフェショップに集まることにした。
「やれやれ、昨日は災難だったなぁ」
真田がカフェラテを口に含みながらつぶやく。
「こう言っちゃアレだけど、俺としてはラッキー。もう少し探し回らなきゃいけないと思われた妖魔を見つける事が出来たんだからなぁ」
大介はホットドックをかじりながら言う。
本来大介がジャスティスマンの騒動に首を突っ込む必要性はないのだが、大介が探している妖魔とジャスティスマンが何らかのかかわりがあると見た大介はこの騒動に手を貸すことを決めたのだ。
「そもそも、妖魔って一体何?」
「妖魔って言うのは全てを無に還す者。奴らは人の負の感情によって生み出され、その負の感情をリセットするために動いている」
諏訪は大介の答えを聞いて首を傾げる。なんとなくは大介の言いたい事が解るのだが、漠然としすぎて理解したとは言い切れないようだ。
「例えばだ。交通事故に遭い、家族とか大切な人を失ったとする。そうなれば当然、大切なものを失ってしまった奴は、その事故を引き起こしてしまった人や、その事故の原因となったものを憎む。その憎悪こそが負の感情であり、その憎悪が強ければ強いほど、魔がとり付きやすくなる」
「とり付くっていうと人に?」
「それは人とは断言できない。物にとり付く事もある。ただ、言える事は、魔にとり付かれたら、その憎悪を晴らそうと動き始める」
「じゃあ、最終的には因果応報的なものになって、それの原因であるものが消えれば、その魔は消えるの?」
「いや、魔は更に力を貯え、好きなように動き出す。それこそ、関係のないものを巻き込んで。魔を生み出したものは、負の感情をすべて吐き出したことによって気分的にも幾分かは楽になるが、その所為で関係のない奴が不幸になると……」
「その連鎖は続いていく。いえ、さらに大きくなり広がっていくのね」
「そういうこと。だから俺はその連鎖を断ち切るために退魔士やってんだ」
大介は頬を指で掻くとコーヒーを啜った。
「しっかし、こんな話してもただの痛い人に見られるからあまりしたことがなかったんだが、話せばやっぱりわかるもんだよな」
「私たちが特殊なだけよ。それに現物を見てるって言うのもあるし。ほかの人にこんな事話せば絶対頭の可哀そうな子に見られるわ」
中留御は大介の説明をメモ帳に書き写しながら言う。
「確かに慣れってのはありますよね」
「それがいいことなのかは微妙だけどさ」
春日と夕日もそう付け加える。
「でも、慣れてるとはいえ、これ以上皆さん、この件に係るのはやめたほうがいいです!」
かかりがそう言って、カフェオレを口に含もうとして熱くて息を吹きかける。一同の視線がかかりへと向けられる。
「確かに。コスプレ娘にゃこれ以上首突っ込んじゃまずい問題だよな」
真田が苦笑を浮かべながら言うと、かかりは顔を真っ赤にする。
本日のかかりの服装はなんてことない、高校の制服を着ている。
「わ、私はコスプレ娘じゃありませんッ!」
「いや、だって昨日の反応、万一あなたが魔法退魔士だとしても疑っちゃうわよ?」
盾にされたことを根に持っているのか、諏訪の言葉には刺がある。
「にっ、苦手なものは苦手なんですっ!」
いくら言い繕ったところで、先日のかかりの失態はどうにかなるものではない。魔法退魔士としての信用は地に落ちるどころか、落ちた上に穴を掘っているようなものだ。
「重要なのはこれからどうするかってことだよな。俺と大介は引き続き警備隊と一緒にジャスティスマン捜索および捕縛に手を貸すつもりだが……」
「ちょっと真田、それってかなり危険じゃない! 確かに警備隊に手を貸すのは賛成だけど、捕縛にはかかわらないほうが……そういうことは本職である彼らに任せたほうが……」
「大丈夫、今日の俺は昨日の俺とは違うからさ」
真田はそういうと机のそばに立てかけてある包みを叩く。
「何を渡されたか知らないけど、昨日の時点で私たちの手に負える相手じゃないことぐらいわかったはずよ?」
「大丈夫だって、俺を信じろよ」
そう言って真田はじっと諏訪の瞳を見つめる。
「はぁ……どうなっても知らないから」
諏訪はため息をひとつ。これ以上真田に何を言っても聞かないというのは長い付き合いで理解していた。それと、諏訪は真田がこんな真面目な顔をして大丈夫というときは絶対に大丈夫なんだという事も分かっているからこそ、止めることをやめたのだ。
「大丈夫だって。兄弟の身のこなし、昨日の立ち回りでとりあえず口だけじゃないって事はわかってるから」
「あいつらの思惑通り協力するのはしゃくだけど、四の五の言ってる場合じゃないわよね。私たちは警備隊の本部で情報収集の手伝いをする。それでそこのバッチ星人と蕎麦はモミアゲと一緒に捜索でいいかしら?」
大介と真田は口々に誰がバッチ星人だだの、蕎麦じゃねぇだの言うが、中留御は聞く耳を持たない。
「で、あんたはどうするの、コスプレ娘?」
「だから私はコスプレ娘じゃありません! 私も大介さんや真田さんと一緒に回ります!」
「い、いや無理しなくてもいいぞ?」
「そうそう、ここで引いても何にも文句言わないって」
真田と大介は慌てながらもかかりを思い留まらせようとするがそれがかえってかかりの意地に火を付けてしまったようで、何を言ってもかかりは決めたことを曲げようとしなくなってしまった。
真田達は学校を終えた後、ムーンバックス、通称ムンバと呼ばれるカフェショップに集まることにした。
「やれやれ、昨日は災難だったなぁ」
真田がカフェラテを口に含みながらつぶやく。
「こう言っちゃアレだけど、俺としてはラッキー。もう少し探し回らなきゃいけないと思われた妖魔を見つける事が出来たんだからなぁ」
大介はホットドックをかじりながら言う。
本来大介がジャスティスマンの騒動に首を突っ込む必要性はないのだが、大介が探している妖魔とジャスティスマンが何らかのかかわりがあると見た大介はこの騒動に手を貸すことを決めたのだ。
「そもそも、妖魔って一体何?」
「妖魔って言うのは全てを無に還す者。奴らは人の負の感情によって生み出され、その負の感情をリセットするために動いている」
諏訪は大介の答えを聞いて首を傾げる。なんとなくは大介の言いたい事が解るのだが、漠然としすぎて理解したとは言い切れないようだ。
「例えばだ。交通事故に遭い、家族とか大切な人を失ったとする。そうなれば当然、大切なものを失ってしまった奴は、その事故を引き起こしてしまった人や、その事故の原因となったものを憎む。その憎悪こそが負の感情であり、その憎悪が強ければ強いほど、魔がとり付きやすくなる」
「とり付くっていうと人に?」
「それは人とは断言できない。物にとり付く事もある。ただ、言える事は、魔にとり付かれたら、その憎悪を晴らそうと動き始める」
「じゃあ、最終的には因果応報的なものになって、それの原因であるものが消えれば、その魔は消えるの?」
「いや、魔は更に力を貯え、好きなように動き出す。それこそ、関係のないものを巻き込んで。魔を生み出したものは、負の感情をすべて吐き出したことによって気分的にも幾分かは楽になるが、その所為で関係のない奴が不幸になると……」
「その連鎖は続いていく。いえ、さらに大きくなり広がっていくのね」
「そういうこと。だから俺はその連鎖を断ち切るために退魔士やってんだ」
大介は頬を指で掻くとコーヒーを啜った。
「しっかし、こんな話してもただの痛い人に見られるからあまりしたことがなかったんだが、話せばやっぱりわかるもんだよな」
「私たちが特殊なだけよ。それに現物を見てるって言うのもあるし。ほかの人にこんな事話せば絶対頭の可哀そうな子に見られるわ」
中留御は大介の説明をメモ帳に書き写しながら言う。
「確かに慣れってのはありますよね」
「それがいいことなのかは微妙だけどさ」
春日と夕日もそう付け加える。
「でも、慣れてるとはいえ、これ以上皆さん、この件に係るのはやめたほうがいいです!」
かかりがそう言って、カフェオレを口に含もうとして熱くて息を吹きかける。一同の視線がかかりへと向けられる。
「確かに。コスプレ娘にゃこれ以上首突っ込んじゃまずい問題だよな」
真田が苦笑を浮かべながら言うと、かかりは顔を真っ赤にする。
本日のかかりの服装はなんてことない、高校の制服を着ている。
「わ、私はコスプレ娘じゃありませんッ!」
「いや、だって昨日の反応、万一あなたが魔法退魔士だとしても疑っちゃうわよ?」
盾にされたことを根に持っているのか、諏訪の言葉には刺がある。
「にっ、苦手なものは苦手なんですっ!」
いくら言い繕ったところで、先日のかかりの失態はどうにかなるものではない。魔法退魔士としての信用は地に落ちるどころか、落ちた上に穴を掘っているようなものだ。
「重要なのはこれからどうするかってことだよな。俺と大介は引き続き警備隊と一緒にジャスティスマン捜索および捕縛に手を貸すつもりだが……」
「ちょっと真田、それってかなり危険じゃない! 確かに警備隊に手を貸すのは賛成だけど、捕縛にはかかわらないほうが……そういうことは本職である彼らに任せたほうが……」
「大丈夫、今日の俺は昨日の俺とは違うからさ」
真田はそういうと机のそばに立てかけてある包みを叩く。
「何を渡されたか知らないけど、昨日の時点で私たちの手に負える相手じゃないことぐらいわかったはずよ?」
「大丈夫だって、俺を信じろよ」
そう言って真田はじっと諏訪の瞳を見つめる。
「はぁ……どうなっても知らないから」
諏訪はため息をひとつ。これ以上真田に何を言っても聞かないというのは長い付き合いで理解していた。それと、諏訪は真田がこんな真面目な顔をして大丈夫というときは絶対に大丈夫なんだという事も分かっているからこそ、止めることをやめたのだ。
「大丈夫だって。兄弟の身のこなし、昨日の立ち回りでとりあえず口だけじゃないって事はわかってるから」
「あいつらの思惑通り協力するのはしゃくだけど、四の五の言ってる場合じゃないわよね。私たちは警備隊の本部で情報収集の手伝いをする。それでそこのバッチ星人と蕎麦はモミアゲと一緒に捜索でいいかしら?」
大介と真田は口々に誰がバッチ星人だだの、蕎麦じゃねぇだの言うが、中留御は聞く耳を持たない。
「で、あんたはどうするの、コスプレ娘?」
「だから私はコスプレ娘じゃありません! 私も大介さんや真田さんと一緒に回ります!」
「い、いや無理しなくてもいいぞ?」
「そうそう、ここで引いても何にも文句言わないって」
真田と大介は慌てながらもかかりを思い留まらせようとするがそれがかえってかかりの意地に火を付けてしまったようで、何を言ってもかかりは決めたことを曲げようとしなくなってしまった。
「っと、あれがこうで、これがあぁで……あーー畜生! ジーニア何とかしてくれッ!」
アリシャがタッチパネルを前に頭を搔き毟るとジーニアに助けを呼んだ。
ジーニアはまたですかと言うような表情を浮かべるが、ジーニアはコンピューターに向き合っていてアリシャの相手をする暇はなさそうである。
「エリ……シルフィーナさんアリシャさんのほうを見てもらっていいですか?」
助けをエリファに求めようとしたが、エリファも手順書を片手にああでもない、こうでもないとパソコンに向かっていたので、しょうがなく週刊誌を読んでいたシルフィーナに助けを請う。
「ジニーちゃん、私も忙しいのよー? アリちゃんは何度教えてもセンス無いから嫌だわぁー」
そう言いながらも週刊誌を机に置いてタッチパネルに悪戦苦闘するアリシャのもとに向かう。シルフィーナに忙しいとまで言わせた週刊誌の記事は『男を悦ばせる48のテクニック』と書かれている。内容はとても馬鹿らしい内容なのだが、ところどころに蛍光ペンで印を付けられている。この何とも馬鹿らしいテクニックの犠牲者となるものが哀れでならない。
「シルフィーナか。飯を注文しようと思ったのだが、なんか思うように注文がいかねぇんだ」
アリシャはそう言って画面を操作しながらシルフィーナに問いかける。
「それじゃ駄目よー。項目タップしてそれをスライドするのよ。あぁん、だめよ激しすぎるわ! もう少しゆっくり優しく。焦らすように! そう、愛撫するみたいに……え、ちゃんとした言葉を喋れ? 愛撫っていうのは優しく身体を撫でまわすことで、アリちゃんもやったことあるんじゃない、自分の身体……」
もっと他に言いようがあるだろうと思うシルフィーナの卑猥な指導をアリシャは右から左に聞き流し、こうだと思うように操作すると、ようやく注文はセンターに送信された。
「注文いったわね。これで次からは大丈夫でしょう」
そういうとシルフィーナはまたも週刊誌のもとへと戻っていく。おそらく次もアリシャは一人では注文できないだろう。今回のだって自分の記憶を頼りにこうだろうとやったがうまくいかず、助けを請うたのだから。
パソコンを使いこなしているジーニアやシルフィーナにそもそもやり方を聞くというのが間違いなのだ。実質アリシャはタップやスライドがどういったものが理解していない。こういう分野で聞くとするなら適任なのがレイラかエリファである。
エリファは少し横道に話が逸れるという欠点こそあれ、教え方は丁寧。アリシャはエリファに聞けば絶対にタッチパネルの操作をマスターするというのに、アリシャはエリファの横道にそれる指導がどうも苦手なようだ。
だとすれば残るはレイラ。寡黙で必要最低限のことしか口にしないレイラには人に教えるということが向いてなさそうに思えるのだが、きっとアリシャとの相性は抜群に良いと思われる。レイラ自信のコンピューターに対する知識はエリファには遠く及ばないものの、レイラの興味のあることだけは人並み以上にできる。
食事が趣味といっても過言ではないレイラ。警備隊の詰所の一つを貸し与えられた時に真っ先に食事注文を行い、その操作をマスターしたのはレイラである。レイラがコンピューターに興味があるのなら、その知識はジーニアやシルフィーナを超え、コンピューター操作関連を任されているエルフォースに並ぶほどの知識を得たに違いないが、残念なことにレイラは食事注文やコンピューターの基本操作を覚えるだけで満足している。
アリシャにもしレイラが操作を教えるとするなら、これを触って、触り続けたままこっちに持ってく……と専門用語一つもないシンプルな説明になるだろうが、専門用語を理解してないアリシャとしては解りやすいはずなのだが、そのことにアリシャは気が付いていないし、レイラも必要とされなければ自分から教えようともしない。
しばらくすると、アリシャの食事注文が詰め所に届く。はじめは機械が料理を運んでくることや、自動で扉が開閉すること、スイッチ一つでどんな時間にでも部屋が明るくなることにすら驚いていたルネイヴの将らだったが、慣れるのにはそう時間はかからず、便利な道具を使いこなそうとすらしていた。
異文化と触れあう将らの中で唯一馴染めないのがカコウである。
カコウはこの進みきった文明に対応することができず、しまいにはエルファーストが言った冗談を真に受け、電気をすべて断ち、明かりはロウソク、食事は自ら歩いてもらいに行くといった進化した文明に対する挑戦をおこない続け、エルセカンドやエルフォースから原始人と言われながらも自らの道を貫いている。その姿は気高く、これも一つの正義なのだと思えてくる。
「しかしカコウも変わっているよな。こんな便利なものに触ろうとしないなんて。サナダの奴が言っていた話正直嘘みたいだと思っていたが、実際に目にしてみると確かに便利だよな」
感心したようにつぶやくアリシャに同感だとジーニアも頷く。
「ふぅ。これでようやくここに留まる兵たちの各部屋との通信設定も完了しました」
エリファが肩を叩きながら目頭を押さえながら手順書を閉じる。やはり肩に来るのだろう。
「やっほーカコウさんいるー?」
その時、詰所の扉が開き、ショートカットで耳のとがった女の子が二人入ってくる。
服装は一人はレオロナ達が日頃きているジャケットを上に羽織り、その下は動きやすそうなキャミソールとショートパンツを履いている。もう一人はショートパンツがショーとスカートになっただけで、顔つきなどは目つきが違うだけで双子みたいに外見はまったく変わらない。
「エルファにエルセカか。カコウならいつものように部屋にこもりきりだ」
「ったくーあの原始人、何日ここで生活しているんだよ、いい加減慣れろっての」
目つきの鋭いショーとスカートのエルセカンドが苦笑を浮かべながら答える。
「りょーかい! じゃ、ちょっとカコウさん借りてくねー」
ショートパンツのエルファーストが手を振りながら答えると二人は揃ってカコウが居る部屋へと向かう。
本来操作をすれば、鍵が掛っていない時は自動で開くはずの扉を手でこじ開けると二人は部屋の中に入っていく。これはカコウの部屋の扉が壊れているということではなく、カコウの部屋には電気というものが通っていない。警備隊からカコウに対する嫌がらせなどでもなく、カコウが自ら電気をシャットしているのだ。
自動で開く扉に誰よりも驚き、一向に慣れる気配のないカコウにエルファーストが言った冗談、『大丈夫、すぐに慣れるよ。ずっと生活していれば知らず知らずのうちに電気が身体に溜められるぐらいになるから』と言ったのを真に受け、『それは危険ではござらぬか』とカコウの電気断ちが始まった。
「うわぁ! 原始人、ついに空調まで止めたのか、お前!? こんな蒸し風呂みたいな部屋にずっと居れるよな!?」
部屋の中からはエルセカンドの驚いたような声が聞こえてくる。
「大丈夫でござる。拙者らの生まれ育った東国の夏に比べればこれぐらいどうということはないでござるよ」
警備隊の施設の中は人が快適に過ごせるように28℃程に空調が整えられているのだが、カコウは自身の部屋の空調までもきり、その部屋の温度は30度を超えていた。
「しかし最近あいつらはよくこっちにくるよな。余程カコウに懐いたみたいだが……」
部屋の中で騒ぐエルファーストとエルセカンドの声を聞いてアリシャが頬を緩める。
「カコウ様はこの環境に慣れないご様子で。こんなに便利な物を使わずとも不便とも思わない振舞が彼女たちにとっては新鮮に映るのでしょう」
「それにあの派手な黄金の鎧はいやでも目立つのです。一見重そうに見えるあの鎧、実際はかなり軽いのですからそれもあるのでしょう」
カコウの身につける金陀美具足といわれる鎧に金箔の押された鎧はすべてが金でできているわけではなく、その素材の殆どが皮と紙で出来ている。その鎧を手にしたエルフォースの表情は誰もが驚きすぎだと言ったのだ。
「こんなところにいないで、外に行こうよ」
「しかし拙者は……」
「見聞を広げるのも大事じゃないか?」
いつものやり取りとなった会話をした後、カコウとファースト、セカンドが部屋の外に出てくる。
「じゃ、カコウさん借りてくねー今日はどこに行こう、エルセカ?」
「どこでもいいんじゃないか? 全てが原始人にとっては目新しいだろうから」
そう言って三人は詰所から出て行った。
「ったく毎度毎度飽きないよな、あいつらも」
アリシャが苦笑を浮かべて言うと、ジーニアが意地悪そうな笑みを浮かべる。
「そう言うアリシャさんだってクライシスさんとよくつるんでるじゃないですか」
「なんだよその顔は。言っとくが二人きりってわけじゃねーぞ」
アリシャはアリシャでよくクラーク・ドーイシスとつるんで、ファング隊の隊員たちとよく街に出かけている。
部下を大事にしている兄貴肌のクラークや子犬のように付いてくるアヴィーナ達とは馬があうようだ。
「れ、レイラさん! 今日こそは絶対に負けませんわよ!」
詰所の扉を開け、気合十分といった様子でエルフォースが詰め所に入ってくる。彼女はその場にいるアリシャ達にごきげんようと優雅にお辞儀をすると、剣を磨いていたディレイラの隣に座る。
「フォリエル……今日も来た。どうせやっても無駄。私の勝ちに揺らぎはない……ちょっと待って。もう少しで剣の手入れが終わる」
「私との勝負を後回しにしますの!? そんな……いえ、その余裕もすぐに消えますわ」
エルフォースはそのままレイラの剣を手入れを見守る。エルフォースはそんななまくら剣の手入れなど後回しにしろと言いたかったのだが、毎日手入れをするほどディレイラが大事にしている宝物を馬鹿にはできないと思ったのだ。
ディレイラとエルフォースは全く馬が合わないように見えるのだが、実際はその逆でかなり仲が良い。
コンピューター関連が得意なフォースはゲーム関連でも得意で、パズルゲームやシューティングゲームといった警備隊内のゲームランキング上位に入っていたのだが、ある日パズルゲームで『REIRA』というプレイヤーに自身のハイスコアを塗りつぶされていたのだ。プレイヤー『REIRA』というのはディレイラで、そのことを調べたフォースはディレイラにゲームで勝負を挑み、完膚なきまでに叩きつぶされた。
レイラはゲームなどには向かない性格のように思えるが、一つのことに対する集中力は凄まじく、淡々とプレイしていればいつの間にかハイスコアをたたき出してしまう。
フォースとこうやって連日ゲームばかり勤しむレイラは手をつけなかったジャンルでもメキメキとその実力を伸ばし、ゲーマーとしての才能を開花させつつあった。
そんなレイラを心配するのはエリファ一人。ゲームばかりやって目を悪くしないかとばかりを気にしている。流石皆のお姉さん。だが、その一方、ディレイラもゲーム対戦という形ではあれ、他人と楽しそうに付き合うようになったことをうれしく思っているのだ。
「すいません皆さん! シリーズたちが迷惑をおかけしてないでしょうか!?」
今にも土下座しそうな勢いで部屋に入ってきたのはエルサード。エルファースト、エルセカンド、エルフォースの姉のような存在で連日三人がルネイヴの詰所に通っているという事を聞いて、迷惑を掛けているのではとお土産持参でやってきた。
「いえいえ、お気になさらず。こちらもご迷惑など掛けていないでしょうか?」
「いえいえ、とんでもない!ルネイヴ軍の方には良くしてもらっていると三人は言いますので……」
まるで子供の保護者のような会話を繰り広げ始めるエリファとサード。アリシャはため息をつきながら、こいつら同類かと席を立った。
「アリシャさんどこか行くのですか?」
ネットで情報を集めていたジーニアが問いかけると、アリシャは牙隊のとこだ。ウィンからかってくると言った。
「あ、アリちゃんファング隊行くの? じゃ、私も一緒にウィンちゃん誘惑してくるわ」
「いってらっしゃいなのです」
ジーニアはそう言うとまたネットサーフィンに戻りつつ、これからシルフィーナやクラーク達に下ネタ攻めされるであろう警備隊電子捜査担当のウィンに同情した。それと同時に警備隊の人間と仲良くできている他の将らが羨ましく思えた。
「ま、私には関係ないのです」
頭を振ってジーニアはまた情報収集へと戻った。
アリシャがタッチパネルを前に頭を搔き毟るとジーニアに助けを呼んだ。
ジーニアはまたですかと言うような表情を浮かべるが、ジーニアはコンピューターに向き合っていてアリシャの相手をする暇はなさそうである。
「エリ……シルフィーナさんアリシャさんのほうを見てもらっていいですか?」
助けをエリファに求めようとしたが、エリファも手順書を片手にああでもない、こうでもないとパソコンに向かっていたので、しょうがなく週刊誌を読んでいたシルフィーナに助けを請う。
「ジニーちゃん、私も忙しいのよー? アリちゃんは何度教えてもセンス無いから嫌だわぁー」
そう言いながらも週刊誌を机に置いてタッチパネルに悪戦苦闘するアリシャのもとに向かう。シルフィーナに忙しいとまで言わせた週刊誌の記事は『男を悦ばせる48のテクニック』と書かれている。内容はとても馬鹿らしい内容なのだが、ところどころに蛍光ペンで印を付けられている。この何とも馬鹿らしいテクニックの犠牲者となるものが哀れでならない。
「シルフィーナか。飯を注文しようと思ったのだが、なんか思うように注文がいかねぇんだ」
アリシャはそう言って画面を操作しながらシルフィーナに問いかける。
「それじゃ駄目よー。項目タップしてそれをスライドするのよ。あぁん、だめよ激しすぎるわ! もう少しゆっくり優しく。焦らすように! そう、愛撫するみたいに……え、ちゃんとした言葉を喋れ? 愛撫っていうのは優しく身体を撫でまわすことで、アリちゃんもやったことあるんじゃない、自分の身体……」
もっと他に言いようがあるだろうと思うシルフィーナの卑猥な指導をアリシャは右から左に聞き流し、こうだと思うように操作すると、ようやく注文はセンターに送信された。
「注文いったわね。これで次からは大丈夫でしょう」
そういうとシルフィーナはまたも週刊誌のもとへと戻っていく。おそらく次もアリシャは一人では注文できないだろう。今回のだって自分の記憶を頼りにこうだろうとやったがうまくいかず、助けを請うたのだから。
パソコンを使いこなしているジーニアやシルフィーナにそもそもやり方を聞くというのが間違いなのだ。実質アリシャはタップやスライドがどういったものが理解していない。こういう分野で聞くとするなら適任なのがレイラかエリファである。
エリファは少し横道に話が逸れるという欠点こそあれ、教え方は丁寧。アリシャはエリファに聞けば絶対にタッチパネルの操作をマスターするというのに、アリシャはエリファの横道にそれる指導がどうも苦手なようだ。
だとすれば残るはレイラ。寡黙で必要最低限のことしか口にしないレイラには人に教えるということが向いてなさそうに思えるのだが、きっとアリシャとの相性は抜群に良いと思われる。レイラ自信のコンピューターに対する知識はエリファには遠く及ばないものの、レイラの興味のあることだけは人並み以上にできる。
食事が趣味といっても過言ではないレイラ。警備隊の詰所の一つを貸し与えられた時に真っ先に食事注文を行い、その操作をマスターしたのはレイラである。レイラがコンピューターに興味があるのなら、その知識はジーニアやシルフィーナを超え、コンピューター操作関連を任されているエルフォースに並ぶほどの知識を得たに違いないが、残念なことにレイラは食事注文やコンピューターの基本操作を覚えるだけで満足している。
アリシャにもしレイラが操作を教えるとするなら、これを触って、触り続けたままこっちに持ってく……と専門用語一つもないシンプルな説明になるだろうが、専門用語を理解してないアリシャとしては解りやすいはずなのだが、そのことにアリシャは気が付いていないし、レイラも必要とされなければ自分から教えようともしない。
しばらくすると、アリシャの食事注文が詰め所に届く。はじめは機械が料理を運んでくることや、自動で扉が開閉すること、スイッチ一つでどんな時間にでも部屋が明るくなることにすら驚いていたルネイヴの将らだったが、慣れるのにはそう時間はかからず、便利な道具を使いこなそうとすらしていた。
異文化と触れあう将らの中で唯一馴染めないのがカコウである。
カコウはこの進みきった文明に対応することができず、しまいにはエルファーストが言った冗談を真に受け、電気をすべて断ち、明かりはロウソク、食事は自ら歩いてもらいに行くといった進化した文明に対する挑戦をおこない続け、エルセカンドやエルフォースから原始人と言われながらも自らの道を貫いている。その姿は気高く、これも一つの正義なのだと思えてくる。
「しかしカコウも変わっているよな。こんな便利なものに触ろうとしないなんて。サナダの奴が言っていた話正直嘘みたいだと思っていたが、実際に目にしてみると確かに便利だよな」
感心したようにつぶやくアリシャに同感だとジーニアも頷く。
「ふぅ。これでようやくここに留まる兵たちの各部屋との通信設定も完了しました」
エリファが肩を叩きながら目頭を押さえながら手順書を閉じる。やはり肩に来るのだろう。
「やっほーカコウさんいるー?」
その時、詰所の扉が開き、ショートカットで耳のとがった女の子が二人入ってくる。
服装は一人はレオロナ達が日頃きているジャケットを上に羽織り、その下は動きやすそうなキャミソールとショートパンツを履いている。もう一人はショートパンツがショーとスカートになっただけで、顔つきなどは目つきが違うだけで双子みたいに外見はまったく変わらない。
「エルファにエルセカか。カコウならいつものように部屋にこもりきりだ」
「ったくーあの原始人、何日ここで生活しているんだよ、いい加減慣れろっての」
目つきの鋭いショーとスカートのエルセカンドが苦笑を浮かべながら答える。
「りょーかい! じゃ、ちょっとカコウさん借りてくねー」
ショートパンツのエルファーストが手を振りながら答えると二人は揃ってカコウが居る部屋へと向かう。
本来操作をすれば、鍵が掛っていない時は自動で開くはずの扉を手でこじ開けると二人は部屋の中に入っていく。これはカコウの部屋の扉が壊れているということではなく、カコウの部屋には電気というものが通っていない。警備隊からカコウに対する嫌がらせなどでもなく、カコウが自ら電気をシャットしているのだ。
自動で開く扉に誰よりも驚き、一向に慣れる気配のないカコウにエルファーストが言った冗談、『大丈夫、すぐに慣れるよ。ずっと生活していれば知らず知らずのうちに電気が身体に溜められるぐらいになるから』と言ったのを真に受け、『それは危険ではござらぬか』とカコウの電気断ちが始まった。
「うわぁ! 原始人、ついに空調まで止めたのか、お前!? こんな蒸し風呂みたいな部屋にずっと居れるよな!?」
部屋の中からはエルセカンドの驚いたような声が聞こえてくる。
「大丈夫でござる。拙者らの生まれ育った東国の夏に比べればこれぐらいどうということはないでござるよ」
警備隊の施設の中は人が快適に過ごせるように28℃程に空調が整えられているのだが、カコウは自身の部屋の空調までもきり、その部屋の温度は30度を超えていた。
「しかし最近あいつらはよくこっちにくるよな。余程カコウに懐いたみたいだが……」
部屋の中で騒ぐエルファーストとエルセカンドの声を聞いてアリシャが頬を緩める。
「カコウ様はこの環境に慣れないご様子で。こんなに便利な物を使わずとも不便とも思わない振舞が彼女たちにとっては新鮮に映るのでしょう」
「それにあの派手な黄金の鎧はいやでも目立つのです。一見重そうに見えるあの鎧、実際はかなり軽いのですからそれもあるのでしょう」
カコウの身につける金陀美具足といわれる鎧に金箔の押された鎧はすべてが金でできているわけではなく、その素材の殆どが皮と紙で出来ている。その鎧を手にしたエルフォースの表情は誰もが驚きすぎだと言ったのだ。
「こんなところにいないで、外に行こうよ」
「しかし拙者は……」
「見聞を広げるのも大事じゃないか?」
いつものやり取りとなった会話をした後、カコウとファースト、セカンドが部屋の外に出てくる。
「じゃ、カコウさん借りてくねー今日はどこに行こう、エルセカ?」
「どこでもいいんじゃないか? 全てが原始人にとっては目新しいだろうから」
そう言って三人は詰所から出て行った。
「ったく毎度毎度飽きないよな、あいつらも」
アリシャが苦笑を浮かべて言うと、ジーニアが意地悪そうな笑みを浮かべる。
「そう言うアリシャさんだってクライシスさんとよくつるんでるじゃないですか」
「なんだよその顔は。言っとくが二人きりってわけじゃねーぞ」
アリシャはアリシャでよくクラーク・ドーイシスとつるんで、ファング隊の隊員たちとよく街に出かけている。
部下を大事にしている兄貴肌のクラークや子犬のように付いてくるアヴィーナ達とは馬があうようだ。
「れ、レイラさん! 今日こそは絶対に負けませんわよ!」
詰所の扉を開け、気合十分といった様子でエルフォースが詰め所に入ってくる。彼女はその場にいるアリシャ達にごきげんようと優雅にお辞儀をすると、剣を磨いていたディレイラの隣に座る。
「フォリエル……今日も来た。どうせやっても無駄。私の勝ちに揺らぎはない……ちょっと待って。もう少しで剣の手入れが終わる」
「私との勝負を後回しにしますの!? そんな……いえ、その余裕もすぐに消えますわ」
エルフォースはそのままレイラの剣を手入れを見守る。エルフォースはそんななまくら剣の手入れなど後回しにしろと言いたかったのだが、毎日手入れをするほどディレイラが大事にしている宝物を馬鹿にはできないと思ったのだ。
ディレイラとエルフォースは全く馬が合わないように見えるのだが、実際はその逆でかなり仲が良い。
コンピューター関連が得意なフォースはゲーム関連でも得意で、パズルゲームやシューティングゲームといった警備隊内のゲームランキング上位に入っていたのだが、ある日パズルゲームで『REIRA』というプレイヤーに自身のハイスコアを塗りつぶされていたのだ。プレイヤー『REIRA』というのはディレイラで、そのことを調べたフォースはディレイラにゲームで勝負を挑み、完膚なきまでに叩きつぶされた。
レイラはゲームなどには向かない性格のように思えるが、一つのことに対する集中力は凄まじく、淡々とプレイしていればいつの間にかハイスコアをたたき出してしまう。
フォースとこうやって連日ゲームばかり勤しむレイラは手をつけなかったジャンルでもメキメキとその実力を伸ばし、ゲーマーとしての才能を開花させつつあった。
そんなレイラを心配するのはエリファ一人。ゲームばかりやって目を悪くしないかとばかりを気にしている。流石皆のお姉さん。だが、その一方、ディレイラもゲーム対戦という形ではあれ、他人と楽しそうに付き合うようになったことをうれしく思っているのだ。
「すいません皆さん! シリーズたちが迷惑をおかけしてないでしょうか!?」
今にも土下座しそうな勢いで部屋に入ってきたのはエルサード。エルファースト、エルセカンド、エルフォースの姉のような存在で連日三人がルネイヴの詰所に通っているという事を聞いて、迷惑を掛けているのではとお土産持参でやってきた。
「いえいえ、お気になさらず。こちらもご迷惑など掛けていないでしょうか?」
「いえいえ、とんでもない!ルネイヴ軍の方には良くしてもらっていると三人は言いますので……」
まるで子供の保護者のような会話を繰り広げ始めるエリファとサード。アリシャはため息をつきながら、こいつら同類かと席を立った。
「アリシャさんどこか行くのですか?」
ネットで情報を集めていたジーニアが問いかけると、アリシャは牙隊のとこだ。ウィンからかってくると言った。
「あ、アリちゃんファング隊行くの? じゃ、私も一緒にウィンちゃん誘惑してくるわ」
「いってらっしゃいなのです」
ジーニアはそう言うとまたネットサーフィンに戻りつつ、これからシルフィーナやクラーク達に下ネタ攻めされるであろう警備隊電子捜査担当のウィンに同情した。それと同時に警備隊の人間と仲良くできている他の将らが羨ましく思えた。
「ま、私には関係ないのです」
頭を振ってジーニアはまた情報収集へと戻った。