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ミュークト名鑑

正義の騒動 1

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 ー始まりの正義ー


「最近の連続襲撃事件、警備隊は様々な証言を元に犯人を特定いたしました」
 街の中央にある巨大なモニターにはアナウンサーが真正面を向いて原稿を読んでいる。
 誰もが足を止め、その正義のニュースに耳を傾ける。
 連続襲撃事件とは、最近この界隈で連続して起こっている無差別暴力事件だったのだが、つい先日初めての死者が出たという事もあり、世間の注目は日に日に非正義な事件だと高まっていた。
「犯人は、ジャスティスマンと呼ばれている人物です」
 アナウンサーが原稿を読み上げると、モニターにジャスティスマンの写真が写った。
 フルフェイスヘルメットに角などを取り付けた正義の改造人間のようなヘルメットをした男が映し出されていた。
 それを蕎麦屋でざるそばを食べていた真田槍助はその正義の報道を見て蕎麦を鼻から吹き出した。
 自宅でラフな格好……ぶっちゃけタンクトップとパンツ姿でテレビを眺めていた諏訪加奈はその報道を見て正義のドーナッツを喉に詰めかけた。
 携帯のニュースサイトで面白い情報がないかと正義の画面を眺めていた中留御氷雨は口元を緩めた。
 街中で目撃証言を集めていた警備隊のレオロナ・ヴァッシュはエル・フォースからの正義の通信を聞いてもうひと頑張りしますかと腕まくりをした。
 それぞれが真実へと向けてその足を動かし始める。この時、誰一人として迫りくる世界滅亡の危機に気が付いていなかった。



 -知り合い達の正義-


「ちょっと真田、昨日のニュース見た!?」
 諏訪加奈は学校の教室に真田槍助が登校してきたらすぐさま詰め寄った。諏訪の質問に真田はコクリと頷いた。
「あぁ。見た見た。例の事件の犯人……ジャスティスマンだってな」
「信じられる?」
「いや、それだけは絶対にないと思うぞ? だってジャスティスマンじゃん」
 諏訪と真田はお互いに頷き合う。
 確かにジャスティスマンは正義の名の元に人を襲撃したりするのだが、全て善悪がはっきりしている。
 カツアゲをされていた中学生を助けたり。車道に飛び出てしまい、車に引かれそうになっている子供を助けたりと。
 その手段に少々問題はあっても、ジャスティスマンは誰もが苦笑いを浮かべながらも認める正義の味方なのだ。
「あのモミアゲ達をきちんと問い詰めないと始まらないわ!」
 諏訪は知り合いである、ある男の顔を思い浮かべて舌打ちをした。
「じゃ、今日はあそこな」
 真田がそう言うと諏訪は当然よ、と真田と正義のハイタッチをした。


「ユーヒ、春日ちゃん! 今日放課後絶対開けてなさいよ!」
 愛好会会室の扉を開け放つと同時に中留御はそう宣言し、先に会室に来ていた二人がそれぞれ表情を変えた。
 一人は日之出夕日。いつもやる気がなさそうというか、全てがめんどくさいと言わんばかりの表情が一層険しくなった。また何か面倒な事をするのか? そう顔に書いてある。
 もう一人は春日春日。誰もが癒される正義の笑顔で良いですよと頷いた。
 そんな春日の表情を見て、夕日は諦めたかの様に溜息をつくと、了解と答えた。


「こちらレオロナ・ヴァッシュ。たった今ニュース番組を確認したぞ、フォース」
 モミアゲの長さが胸の近くまであり、長い髪を後ろで一つに、短い尻尾のように束ねた、後ろから見れば誰もが女性と間違えるような髪型をしているレオロナは手に持った小型の通信端末に話し掛ける。
『何度言ったら解りますの!? わたくしの事はフォリエルとお呼びなさいと何度っ!』
 通信機からはお嬢さま口調の女の子が怒ったように声を荒げている。
 レオロナはそれを聞くとはいはいと右から左へと聞き流す。
「で、だ。今夜例の場所には報道を聞きつけた奴らがこぞって集まるだろう。あそこには俺達牙隊が向かう。フォースらエルシリーズは精霊騎士達と連携してそこを包囲してくれ。もしかしたら『奴』が現れるかもしれん。そうしたら一気にチェックメイトだ!」
 通信機からはまたもお嬢様口調の女の子の怒ったような声がしたが、声は諦めを含んだ口調で、解りましたわとだけ告げ、通信が切れた。
「弘法も筆の誤りと言うが、お前もそうなのか? しかし、理由がどうであれ、これだけは見過ごすわけにはいかないな……」



 -いつもの場所でいつもの正義-
 今日のレストランはレオロナの予想通り満員状態である。報道を聞きつけた常連客が集まって来て、レストランは居酒屋のようなにぎやかさである。
 いつもと違うと言えば、いつもは話題がてんでバラバラな状態であるのに、今夜だけは違う。話題の全てがジャスティスマンの事である。
「レオロナさん、いっぱい人が来てますね。やはり皆ニュースを聞いて来たんでしょうね」
 ティナ・ファーラはレストランの盛況さを見て顔を引きつらせた。
「だな。で、俺らはきっと今から質問攻めにあうぜ? 対応は任せる」
「ちょ、絶対嫌ですよ!? こんなの嫌に決まってますよ!」
 不祥事を起こした役人が謝罪会見に挑む状況とさほど変わらない。大勢のマスコミ関係者が次々に質問してくるように、レストランの客が質問してくる事が目に見えて解る状況だったためにティナは強く首を振るが、レオロナは聞く耳を持たない。
 ティナは内心、同期なのになんで私がこんな部下紛いの事をしなきゃいけないんだろうかと思った。
 ファング隊に配属されたのもティナの方が早く、たった二ヶ月ぐらいの違いとはいえ、隊の中では私が先輩なのにと唇を尖らせたが、これまでのレオロナとティナの功績では明らかにレオロナの方が優れているという事は認めざるを得なく、渋々ティナはレオロナの言葉に従う事にした。
『いらっしゃいませー』
 一体どこに居るのか予測が出来ないウェイトレスとウェイターに出迎えられ、二人は店内へと足を踏み入れる。
 二人の格好はスカートとズボンの違いはあれ、服の造りは一緒なのだが、二人の浮かべる表情には天と地の差がある。
 特に何も気にすることなく、馴染みの店に顔を出したといった表情のレオロナと、今から絞首台に向かう罪人のように疲れきった表情と輝きを見せていない暗く濁った瞳。人これをレイプ目という。
「やっぱり来ると思っていた!」
「来たわね!」
「ちょっと聞きたい事があるんだけどいいかしら?」
 そう言って二人を囲みだす先客たち。レオロナはそれを手を振って払うと全てはティナに聞けとバトンを全部ティナに丸投げ。これが徒競争のリレーであればティナは地面にバトンを全てばら撒きそれを必死に拾い集めているだろう。現にティナは次々に投げかけられる質問を拾うのに必死で、既に全身を悉く嬲られた被害者のような光のない瞳をしていた。それは数秒前よりも悪化している。
「何かの間違いだろ。流石に手がかりがないからと言って、ジャスティスマンを生贄にするなよ!」
「もう少し調べた方がいいんじゃないの? だって相手はジャスティスマンよ?」
「どうしてそういう経緯になったか知りたいわね。詳しく話て頂戴。いや話さなければならないのよ」
 これだけを聞けばジャスティスマンがどれだけ皆に慕われているか一目瞭然だが、そう口にする者たちはそうは思っていない。
 赤子がバブーと言いながら戦国時代の侍たちを子供パンチで次々に打倒し、天下人になったと聞かされることと同じぐらい信じられない話なのだ。
 あり得ない話だからこそ、皆口を揃えて『あのジャスティスマンだ』と言うのだ。
 ちなみに固く握った拳を一度解き、親指を先に曲げ、残る四つの指で親指を包むように拳を握り、愛を持って相手をその拳で殴る。これを『おともだちパンチ』と言う。内に潜めた親指こそ愛なのだそうだ。
 そう言う事は置いておくとして、ティナは一つの質問を聞けば、質問が終わらぬうちに次の質問を投げかけられる質問攻め地獄に陥っていた。
 聖徳太子でもこのような状況に立たされれば、来た来た来た十七条の憲法が降臨! いましらの言葉に付き王とる暇などないわ! 冠位十二階! などと耳を塞ぎながら馬小屋に籠るだろう。それが果して正義の対応かと問われれば答えに困るのだが。
「ちょっと、落ち着いてください、きちんと話しますから!」
 ティナはティナで聖徳太子ではないので馬小屋に籠ることなく質問攻めを行う客たちに向き合った。これぞ正義。
「確かに皆さんの言う事はごもっとも! 信じられないと言うのはこちらも同じですが、現場近くに居た目撃者全ての人が口をそろえてヘルメットをしていた、とか、怪しげなボディースーツを見たとか、『それに正義はあるのか?』等と彼としか思えないような言動、行動をしていたと……」
「それはジャスティスマンに罪を被せるための偽装じゃないのか? 怪しげなヘルメットにボディスーツ。何かにつけて正義と言えば誰もがジャスティスマンになりきれるだろ?」
「質問を質問で返すのはどうかと思いますが、槍助さん。あなたならそのような姿をしてコンビニエンスストアを襲いますか? そこまで準備するのならもっと別の方法をやるのではありませんか?」
 そうティナに問われると真田は押し黙った。今真田の頭の中では国会のように何人もの議員たちが議論を交わしているのだろう。
「ねーな」
 議論はあっさりと満場一致でそれはないと言う決定が下され、真田は首元を掻きながらそう答えた。
 実際、彼の頭の中で行われた議論は、ティナの問いを議題に始まったのだが、二人目の議員の発言で、パンツは真っ白な純白こそが正義なのか。それとも戦場に咲く一輪の華麗な花のようなワンポイントのはいたレース付きの方が正義なのかという、思春期の青年としてはまさに正義な議論を行っていた。結果としてはどちらにも良い所がある。純白か、レース付きの方が正義なのかと甲乙つけることこそが悪道、非・正義なのだ。
「だからこそ、ジャスティスマンと話し、事の真相が事実なのかを確かめる必要があるのです! したがって、皆様には協力をお願いしたく……」
「ちょっと待って、影薄い緑。協力してとは言うけれど、私達に何をさせる気なの? もしかしてジャスティスの馬鹿を探すのを手伝えって言わないわよね?」
 ティナの言葉を遮る様に中留御が口を開く。ティナは目を丸くし、一度『影薄い緑』と復唱し受験に失敗した学生のようにがっくりと肩を落とした。
「捜索に協力してくれると言うならありがたいのですが……」
 よほど『影薄い緑』と言われたのがショックなのか、ティナの声には覇気がない。それが更に影が薄いという評判を強めている事にまだティナは気が付いていない。
「い・や・よ」
 一言一言はっきりと発音し要請を拒否する中留御。彼女は人を厄介事に巻き込む事は好きだが、巻き込まれる事は嫌いなのだ。
 それぐらい良いじゃないかと、中留御に協力することをもう一度考えるように言おうと夕日が口を開きかけるが、何を言っても屁理屈が返ってくるだけなんだろうと思い、言葉を飲み込む。
 ここに居る誰よりも中留御との付き合いが長い夕日だからこそ解る事なのだ。
「いやいや、じゃあなんでお前はここに居るんだよ? ジャスティスマンの事で今日来たんだろ?」
 溜息交じりに真田が中留御に話し掛けると、中留御はキッと鋭い視線を真田に送った。
「私が今日ここに来たのはこの騒動の真相を他の誰よりも知りたいだけ。協力するために来たわけじゃないわ」
「協力するからこそ真っ先に真相を知る資格が生まれるんじゃないか? ニュースで真相を報道するよりも早く知りたいんだったらやはり何らかの形で手を貸さないといけないだろ?」
「そんな決まり誰が決めたの? 手を貸さなきゃ早く真相を知る事が出来ないなんて法律ないわよ」
 真田は口を開きかけたが、舌打ちを一つ。そのまま押し黙った。
 馬鹿な行動が多い真田であるが、彼は彼で自身の頭の中に論や理を持って話すことが多く、中留御のようなこう言えばああ云うというタイプの人間と話すのは苦手である。いくら論や理を説き伏せても中留御には真田の言う論や理は通用しないと言うのを真田自身が解っているために、それ以上の会話をするだけ無駄と思ったのだ。
「まぁ、協力とかは個人の自由だけど、ジャスティスマンを探すって結構大変よ? 彼は様々な場所で起こっている事件を察知し、東へ西へと渡り歩いてるじゃない? そんなジャスティスマンを探すのはよく道端で見かける野良猫を探すようなものよ?」
 真田と中留御の間に生まれた不穏な空気を察知した諏訪はすぐさま話題を逸らすためにティナに話し掛ける。気が付いていない人も多いのだが、諏訪加奈という女の子は縁の下の力持ちをやっている事が多いのだ。
「もし、協力してくれると言うのであれば、無理にジャスティスマンを探してもらう必要はありません。普通に生活していて、ジャスティスマンを見たという噂があれば、それを教えてください」
「教えるだけでいいの?」
「ええ。あとはこちらで目撃された場所などから次に彼が現れるであろう場所を割り出しますので」
「そんな悠長に構えてていいの?」
 捜査の事はよく解らない諏訪だったが、かなり警備隊が悠長に構えているという事だけは理解できた。
「それぐらいなら手を貸してもいいだろ、中留御。噂話を聞いたついでと思えば面倒でもないだろ」
「まぁ、私達の耳に入ってくる話なんてあまりあてには出来ないけどね」
 夕日と春日が協力を拒む中留御に言い聞かせるように声を掛ける。中留御は少しむすっとした表情でそれぐらいなら別に……と納得した。
 その時、タイミングを見計らったかのようにレストラン入口の客の来店を知らせるベルが鳴った。
 レストランに居た者全てが無意識に入口の方に注意を向ける。
『うわぁ……』
 誰ともなく口から声が漏れる。
 新しく店に入って来た客はどう贔屓目に見ても頭の可哀想な女の子だった。
 顔は少し気が弱そうと言った印象があり、美少女とはいかないまでも、不細工ではない。いうなれば微少女と言うべきか。美人を上の上とするならば、今入店してきた子は中の上か上の下ぐらい。
 それだけならば誰も頭の可哀想な子だとは思わないだろう。問題はその子の服装だ。
 十人にその子の服装はどういうものかと質問すれば、十人とも『アニメや美少女ゲームで出てくる魔女っ娘の服装』と口をそろえて言うだろう。白とピンクが主体のワンピースに機能性の欠片もないフリルがたくさん付いた服。こんな服を着て、レストランに行くとなれば、これは何かの罰ゲームじゃなかろうかと思える。
「え、えっと、確かここの決まりは、初めての人は自己紹介をするんでした……」
 注目が自分に集まっている事を知った女の子は少し赤くなりながらも、一度背中に手を回すと。杖を取り出して空高く掲げる。杖は言うまでもなく、先端部分は星やハートの装飾が付いた魔女っ娘の杖だ。
 女の子の取り出した杖を見て更に一同の表情が険しくなる。
「ま、マジカル・ラジカル・レインボー! 愛と勇気と友情の魔法退魔士かかり推参です」
 少々恥ずかしいのか、魔法退魔士かかりと名乗った女の子は顔を赤くしながら言いきった。
 しかし、それ以上に赤くなっているのはそんな名乗りを聞かされた方だ。
 真田は鳥肌の出た腕を擦り、諏訪は苦笑い。夕日は見ていられないと顔に手を当て、中留御は吹き出しそうになるのを必死でこらえている。レオロナに至ってはガン無視である。
「え、えーっとだ。まぁ、なんだ……しゅ、趣味は趣味で良いと思うぞ? そ、それは何のアニメのコスプレ?」
 お互いに『誰か声掛けろよ』とアイコンタクトを送り合い、結局お人よしである真田が代表してかかりに話し掛ける。
「こ、コスプレじゃないです!」
「あ、いや、わるい……」
 思わず謝る真田。その顔には『超めんどくせぇ』とありありと書かれている。
「で、かかりちゃんは今日はどうしたんだ? 何かのイベントの帰りなのか?」
「だからコスプレじゃないんですって!」
 かかりは強くコスプレなんかじゃないと強く言うが、真田の目にはどう見てもコスプレにしか映っておらず、どうやってもコスプレと言う方面でしか物事を考えられないのだ。
「あ、あの……皆さんにお尋ねしますが、最近何か変なもの見ませんでしたか?」
 かかりがそう問いかけると皆示し合わせたかのようにかかりを指差す。かかりは周囲を見渡し始める。
「な、なんで私を指差すんですかぁぁっ!」
 涙目になって叫ぶかかり。誰だってそうだろう。魔女っ娘のコスプレをしてレストランに来る女の子が変なものでないはずがない。
「私じゃなくって、そう例えば妖怪とか、そう言うの見た人いませんか?」
 再び一同はかかりを指差す。
「だから、なんで私を指差すんですかぁぁっ!」
「いや、だってねぇ……妖怪コスプレ女?」
 諏訪が苦笑いを浮かべたままそう答えると、かかりはその場にしゃがみこんで地面に『の』の字を書きはじめた。
「うぅ、事前の情報だとここに来る皆さんは人がよく、とても信じられないような話でも親身になって聞いてくれるって評判なのに……」
 いじけてしまったかかり。そんな彼女の様子を気にするよりも、一同は誰かフォローしろよとお互いに肘でどつきあっている。
「諏訪の台詞がトドメだったんだ。責任持ってお前何とかしろよ」
「いやよ、面倒臭い! 第一皆が指さすからああなったんじゃないの!?」
 責任の擦り付け合いでは事態は変わらないと思った一同はジャンケンをはじめ、フォロー役を決め始めた。かかりはその様子を誰が一体話を聞いてくれるんだろうと目を輝かせながら見守っている。
「あークソ面倒くせぇ……俺はレオロナ・ヴァッシュ地方警備隊だ」
 心底面倒くさそうにレオロナはかかりに歩み寄る。かかりは立ち上がって、
「マジ……」
「はい、それパス」
 また鳥肌の立つような名乗りを始めようとしたかかりの言葉を遮るレオロナ。
「えっと、妖怪だっけかかりの探してるもんは? それだったら俺達は目にしてない。以上」
「え? え?」
 急に会話を強制終了されたかかりはおろおろとレオロナの顔を見つめる。
「で、ではこれから目撃するかもしれないので、妖怪の注意を……」
「大丈夫。そんなの見るわけない。以上」
「え? え?」
 取りつく島もないとはまさにこの事だろう。レオロナはフォローするどころか、かかりの話を聞く気はない。
 それもそうだ。突然のコスプレ女の乱入で話は流れてしまっているが、実際レオロナはもっと大変な事情を抱えているのだ。今優先すべき事はジャスティスマンを発見し、連続襲撃事件の話を聞くこと。コスプレ女の与太話など聞いている暇などない。
 そしてレストランにまたも客の来店を知らせるベルが鳴る。
「っと、此処が例の場所だな。うぉ、なんかすげぇ恰好の奴もいる! 流石だ……噂以上だ」
 新たに入店していたのは男で、かかりの姿をみて一歩引くが、二歩目は踏みとどまり、そのまま真っ直ぐかかりたちの元に歩いて来る。
「よっしゃ、始めまして。俺は三条大介之助。三条でも大介之助でも好きに呼んでくれ。つか、大介之助って呼びにくいからダイスケでもかまわねーぜ」
 喋り方からも熱血漢といった雰囲気を持つ大介はそう言って笑顔を浮かべる。
「なんかすげぇ名前だな。俺は真田槍助。同じ助同士仲良くしようぜ?」
「真田槍助ね……おっ、此処に助ブラザーズ結成か? バッチオッケーよろしく頼むぜ兄弟!」
 真田と大介は東映まんが祭のようにがしっと熱い握手を交わす。
「私は諏訪加奈よ。よろしく」
「加奈ちゃんねバッチオッケー記憶した!」
 諏訪に向けてびっと親指を立てる大介。諏訪は先ほどとは違った苦笑いを浮かべる。
「私が中留御氷雨。こっちのやる気ないのが日之出夕日。で、こっちの可愛い子が春日春日。あんた元気いいわね。年中ダウナー思考なユーヒの対として愛好会に入らない?」
「愛好会? なんだそりゃ? 何か知らんが面白そーじゃねーか。俺は入会バッチオッケー」
 中留御は上機嫌にあんたは見る目があるわと何度も大介の肩を叩く。大介は笑いながら俺の瞳は未来が見えるなんて言っている。
「で、俺が地方警備隊のレオロナ・ヴァッシュ。で、こっちのがティナ・ファーラ」
「地方警備隊員!? これまたレアな職種の人が! もしかしたらお世話になるかもしれないからそん時名前出してもいいか?」
「殺人とかの容疑じゃなかったら少しぐらいは面倒見てやろう」
「ちょ、ちょっとなんですか、この対応の違い!?」
 大介と他の人のやり取りを見ていたかかりは叫んだ。
「私は門前払いみたいな状況で、なんで大介さんだけそんなフレンドリーに接してるんですか!」
 それぞれは顔を見合わせ、だって……なぁ? と頷き合う。
「っと、今日は遊びに来たわけじゃないんだ。ちょっとあんたらに聞きたい事あってな。俺は退魔士をやってて、最近この近辺で妖魔の気が感じられるんだ。何か変なのを見たことないか?」
「妖魔?」
「そ、妖怪みたいなもんだ。極端に言うと鬼とか。ちょっと人と違う異形なんだが、見たことないか?」
「悪いが、それを見た事はないなぁ。警備隊には結構な情報集まってくるが、そう言うのに襲われたという話も聞かなければ、見かけたという情報もないんだ」
 そんなレオロナの対応を見て更にかかりが叫ぶ。
「さっき私が同じ事聞いてもそこまで親切に聞いてくれなかったじゃないですかぁぁっ! この対応の違いはなんですか!?」
 涙声で叫ぶかかりの声が轟音でかき消される。
「何だ!?」
 レオロナは咄嗟に腰から護身銃を取り出すと煙が立ち込める先へと向ける。
「一体何だって言うのよ……」
「皆さんは私の後ろに!」
 レオロナと同じように護身銃を構えたティナの後ろに諏訪や中留御たちが移動する。
「久々だな、こんな騒動は……」
 真田はレオロナの横に片膝を立てて構えている。その手には木刀が握られている。
「ちょっと真田、何してんのよ、危ないからこっち来なさいって!」
 諏訪がティナの背後から叫ぶが真田は聞かない。
「私が守ってきた正義は死んだ!」
 煙の中から聞こえてきた声にその場にいた大介、かかりを除く全員が反応した。
 土煙が晴れると、レストランの壁には大きな穴が開いており、その前にフルフェイスヘルメットを改造したようなものを被った男が立っていた。
『ジャスティスマン!!』
 一歩、また一歩とゆっくり近付いて来るジャスティスマン。だが、いつもの赤と白を主体とした色ではなく、紺色と黒を主体にしたジャスティスマンはどこかいつもと雰囲気が違う。
「ようやくお出ましか、ジャスティスマン。お前には聞かなきゃならない事が山ほどある。一緒に来てもらおうか」 ジャスティスマンの姿を見ると、レオロナは唇を緩めた。
「その言葉には正義はない。私を連れてゆきたくば、正義を私に示せ!」
 そう言うと共にジャスティスマンの右手が突き出される。
 腕のカバーがスライドされ、黒い銃身が姿を現す。
「ハァァァンド・ガンッ!」
 ジャスティスマンがそう言うと同時に、銃身からビームが打ち出される。
「問答無用かッ!」
 レオロナは舌打ちをすると右側に転がる様に飛び、躊躇うことなく引き金を引く。
「ジャァァスティス・ミラァァァッ!」
 ジャスティスマンが左手を突き出すと、左手の先に幾何学模様を浮かべたサークルが出現する。三度瞬いたかと思うと床に三発の護身銃の弾が転がる。
「あめぇッ!」
 いつの間に接近したか解らぬほどのスピードでレオロナが電磁警棒を振りかざし、ジャスティスマンに飛びかかる。
「ぬっ、フン!」
 ジャスティスマンは右手で電磁警棒を受け止める。
「痺れろぉッ!」
 レオロナが電磁警棒のスイッチを入れると、電磁警棒から電流が流される。
「こんな正義のこもってない棒など私には通用しない!」
 ジャスティスマンは電磁警棒を振り払うと放電している右手をレオロナに向ける。
「ライトニングブラスト・ジャスティス!」
 ジャスティスマンの右手から雷が放たれると、レオロナは舌打ちを一つ。ジャケットで雷を受け止める。
「モミーッ!」
「大丈夫。ジャケットはある程度の電流なら防げる。スタンガン対策だ。っていっても、これはちょいと厳しいな……」
 片膝を付いてレオロナはその場に蹲る。
「なんだか知らんが凄い状況だな、兄弟!」
 大介は懐から札と刃の付いていないナイフを取り出す。
「詳しい説明は後だ。今はあいつを取り押さえるぞ、大介ッ!」
「バッチ了解! 兄弟、剣術の心得はあるのか?」
「舐めんな、人並み以上には出来る!」
 そう大介に真田は言うと、木刀を腰に駆けだした。
「せぁッ!」
 まるで日本刀の抜刀のように腰から木刀を一閃。そのまま斬り降ろし払い、突きと流れるような動きで繰り出すが、それをジャスティスマンは軽々といなす。
「無駄だ。借り物の力が正義と言う真田君では私には勝てん! ジャスティス・ブロー!」
 ジャスティスマンは真田の三度の攻撃を避けるとジャブを繰り出す。
「それはブローじゃねーーだろーーッ!」
 木刀でジャブを受け止めると、真中から綺麗に木刀が折れる。それでもジャブの勢いは殺せず、一撃を受けて真田が床を転がる。
「兄弟!? くっそ、結構やるな! だがッ……起きろ俺の眠れる獅子!」
 大介は札をジャスティスマンめがけて投げると、刃のないナイフを手に駆けだす。
「なんの!」
 ジャスティスマンは札を避ける。
 大介の手に握られた刃の付いていないナイフが輝いたと思うと、ビームサーベルのように光の刃が伸びてきた。
「むっ、なかなか面白いぶ……」
 ジャスティスマンがそう言いかけた時、ジャスティスマンの背後で異変が起きた。
 先ほど大介が投げた札が爆発するように煙を吐き出し、札が大介になっていた。
「バッチ掛ったな! 二重奏!」
 正面には大介、背後には札大介に囲まれたジャスティスマンは冷静に片手ずつで前後からの攻撃を防ぐ。
「マジ!?」
 まさか防がれるとは思っていなかった大介は驚きを隠せない。三分ほど攻撃すると、大介はそのまま後ろへ飛びずさる。大介が飛ぶのと同時に、札大介は再び爆発するように煙を吐き出し札に戻る。
「そのような小細工、腰を落とし胸を張り、全身に正義の気を纏う私には通用しない!」
「くっそ、バッチ意表を突いたと思ったのに。一筋縄ではいかないか……」
 舌打ちをする大介の隣に体勢を整えたレオロナと真田が並ぶ。
「イメージチェンジしたら急に強くなりやがって……あんなに強かったか、あいつ?」
 真田が折れた木刀を手に、舌打ちをしながら肩を回す。左手の方があまり腕が上がっていない。先ほど転げた時に筋を痛めたというのは誰が見ても明らかである。
「兄弟、大丈夫か? その様子だと腕痛めたんじゃないか?」
 真田を気遣う大介であるが、明らかに大介の顔色も悪くなってきている。
「くそ、まだか……」
 レオロナはしきりに時計を気にしている。
「君達では所詮はその程度。これから私の正義の天道を阻むと言うなら……」
 ジャスティスマンはそう言うと背中の放熱板を広げた。その体勢が何を意味するか、矢面に立っている真田やレオロナはすぐに理解した。
「どうやら本気らしいな……」
「畜生、こんな事になるのなら刀預けてなかった方が良かった……」
 レオロナと真田の頬に冷たい汗が流れる。
「さぁ、このまま私にこれ以上係わらない道を選ぶか、それとも此処で私に倒されるか。どちらか好きな方を選びたまえ。正義の選択を待っている」
 ジャスティスマンは自身の最大必殺技、ジャスティスフラッシュがいつでも放てるように、パワーを貯めつつ問いかける。ジャスティスマンの問いにレオロナ達は答えられない。
 ジャスティスマンの口ぶりからは更に大きな騒動を起こそうとしているのは想像がついて、それを見て見ぬふりをするというのは到底出来そうにもない。かといって彼を止めようにも、三人の力では結果は目に見えている。二つの選択のうちどちらかを選べと言われても選択をしてはならない選択なんだと三人は考えている。
「ジャスティスマン! さっきあなた、私が守ってきた正義は死んだなんて言ってたけど、なにかあったの!?」
 危機的状況で諏訪が口を開く。
 ジャスティスマンは諏訪の質問を聞いて、パワーチャージを中断させた。
「諏訪君。君にとって正義とはいったい何かね?」
「私にとっての正義?」
 そんな事を急に言われても諏訪は答えられるはずがない。
 彼女は少し変わった知り合いがいるけれども、大本の部分では普通の女の子なのだ。普通の女の子が常日頃自分の正義など考えて生きているはずもない。
「それは……」
 問いに答えられない諏訪。それを予想していたかのようにジャスティスマンが口を開く。
「そう、私はこの世界の生きとし生けるものすべてに正義を見出してもらいたく、日々正義のために働いて来た。だが、現実はどうだ? 誰もが正義とは何か。それを考えずに生きている。私一人正義を貫いたとしても、この世界の正義は変わらない! それを私は最近気がついたのだ」
 本当にそれを今更気が付いたの!? そう諏訪はツッコミを入れそうになったが、何とかその言葉を飲み込んだ。
 諏訪にしては人々の正義など大した事ではないのだが、正義の化身、ジャスティスマンからすれば許すことのできない事だったのだろう。
「最近って言うと……襲撃事件を起こす前なの?」
「その通り。私は非正義である者に正義の裁きを行っていたのだが、ある事に気が付いた。この世界に生きる者達に正義などないと。私は悩んだ。そして私は決めたのだ。私の手で世界を正しき姿に導こうと! その為には……」
 ジャスティスマンの言葉を遮る様にレオロナのズボンのポケットから電子音が鳴る。
「遅いぞ、いつまで待たせる気だ、フォース!」
 電子音の元は通信機のようで、レオロナが通信機に向かって叫ぶと、通信機からは焦った様子のエルフォースの声が聞こえてきた。
「申し訳ありませんわ、緊急事態発生ですわ。当初の予定通りには……」
「何を言ってッ……」
 エルフォースの報告にレオロナは目を丸くし、通信機に向かって怒鳴りかけたが、通信機のからは違う声が聞こえてきた。
「ヴァッシュ殿聞こえておりますか? わたくし、エース・トップ・ストロンガーですぞ?」
 エース・トップ・ストロンガー。ファング隊の隊長であるシュレツ・ハーディー・Jの上司に当たる人物で人工生命体エルシリーズを管理している人物でもある。
「当初の予定だとジャスティスマン殿が抵抗した場合ルネイヴの軍と協力して包囲しその身柄を確保する手はずだったのですが……」
 通信機からはエースの声の他に様々な人間達の怒号が聞こえてくる。金属がぶつかり合う音などから戦闘中であると言う事は明らかだ。
「突如人とは思えぬ容姿をした輩が襲いかかってきましてな、我らはその者たちを相手をするので手一杯の状況でございます。今回の作戦は失敗。次回の手立てを考えましょうぞ」
「ちょっと待ておい! 何なんだよそれは! こっちはこっちでのっぴきならない状況なんだぞ、解っているのか!?」
 レオロナが通信機に怒鳴りかけるが、既に通信は切られており、叫び声がむなしくこだまするだけだった。
「君達がそのような行動に出る事は予測できていた。私の正義の一歩、誰にも邪魔はさせん!」
 そう言うとジャスティスマンは腕を広げると、彼の影から数体の人が出てきた。
「妖魔ッ!」
 大介はそう叫ぶとナイフを握る手の力を更に込める。
「妖魔って、あれがお前の探していたものなのか、大介ッ!」
 目の前に現れた数体の人を真田は睨む。それは人と呼べるものではない。
 筋肉が膨張し、額には闘牛のような角を生やし、目は血走り、大きく裂けた口の端からは唾液がぼたぼたと地面に滴り落ちている。まさにその姿は鬼そのものであった。
「うわわ、あれがきっと私が探している妖魔です」
 ティナの後ろで小さくなっていたかかりが現れた異形を目にし、指をさして声を荒げた。
 異形達はレストランの中を見渡すと、部屋の角で固まっている諏訪達を目掛けて襲いかかる。
「わ、私に任せてください! 妖魔が居ると私は退魔の魔法が使えますから!」
 かかりは颯爽とティナの前に立ち、手に持っている痛々しい杖を構える。
「…………」
 口から涎を垂らしながら速くはないが、重量感のある動きで近付いて来る異形を前にかかりは……
「ひぇぇっ、駄目です、実は私こういったちょっと気持ち悪いのとかグロテスクなの苦手なんですぅぅっ!」
 涙を浮かべながら素早く諏訪の後ろに回り込み、諏訪を盾にした。
「ちょっと、あなた愛と勇気と友情のとか言ってなかった!? なんで私を盾にするのよ、それでも自称魔法退魔少女なの!? こんな魔法少女に勇気をもらう少女なんて居ないわよ!? というか魔法少女に謝るべきよ!」
 かかりのヘタレっぷりに諏訪のツッコミを冴えわたる。
「だだ、だって怖いものは怖いんですからしょうがないじゃないですかぁぁ! そんなに言うんだったらあなたが退治してくださいよぅ!?」
「私は自分の事を魔法少女だとか思わないわ! 魔法少女が小学校低学年で卒業したわ! というか、やっぱりコスプレなんじゃない!?」
 諏訪は必死にかかりを振り払おうとするがかかりはびくともしない。
 異形は当然待ってくれるはずもなく、あと数歩という距離まで近付いて来ていた
「こいつを打ち滅ぼすのが俺の使命。目覚めよ、俺の中の獅子!」
 大介は歯を食いしばると四肢に力を入れ、目の前の異形に飛びかかる。
 ナイフを一振り、二振りと異形の身体に刃を突き立てるが、異形は痛みを感じないのか、力任せに腕を振る。
「俺の獅子は止められない!」
 異形の力任せに振る腕は単調的な動きでそれを大介は避け続ける。誰もがこのままいけば楽に異形を大介が打ち倒すのではないかと思ったが、急に大介の動きが鈍くなる。
 それまでは舞うように動いていた大介だったが、その身のこなしは急に体中に錘を付けられたかのように衰え、よけ続けていた異形の拳が大介をとらえ始める。
「タイムリミットか!」
 唇を噛みしめる大介を庇うように真田が大介の前へと躍り出て、折れた木刀で拳を受け止める。
 ジャスティスマンとの戦闘で半分ぐらいの長さに折られていた木刀が握り手の部分だけを残してすべて砕け散った。
 しかし、レオロナが大介を安全圏に連れるには十分すぎる時間だ。
「どうしたんだ、急に」
「ちょっとな……俺にも事情があるのよこれが」
 ばつが悪そうにつぶやく大介。その正面では武器を失い丸腰になった真田が異形の攻撃を何とか避けている状態。
 すかさずレオロナが護身銃で援護射撃を行い、異形が怯んだ隙を見て真田が後退してきた。
「奴らとやり合うには条件が悪すぎる……どうする?」
 真田が冷や汗を浮かべながらレオロナと大介に問いかけるが、この中でこのまま異形達と戦う事が出来るのはレオロナだけである。非戦闘員の安全を確保しているティナも戦闘には参加できるが、そうなれば非戦闘員である諏訪や中留御たちが危険にさらされると言う事もあり、実質ティナは身動きが取れない状況である。
「だらしねーぞ、サナダ!」
 レストランの外から女の声が聞こえたかと思うと、青い影が三人のすぐそばをすり抜けてゆく。
「馬鹿をぶっ飛ばしに来たと思えば、ぶっ飛ばすのは何やら気持ち悪い連中と来たもんだ」
 三人のそばをすり抜けて行った影はぼやきながらも手に持った槍を異形の身体に突き刺す。
 仲間がやられているのを見て一体の異形が仲間の援護に回ろうとするが、それを阻むように幅の広い剣を持った巫女が行く手を阻む。
「……とんだ誤算」
 耳を澄まさなければ聞こえないような小さい声で巫女は呟くと、大きな剣を無造作に横に振り、異形の身体を両断する。
「なんとか間に合ったでござるね」
 金箔のおされた派手な日本甲冑に身を包んだ女の子がレオロナや真田たちを庇うように立ちふさがる。
アリシャレイラカコウ!」
 レストランに現れた三人はルネイヴ軍の将たちであり、その三人の姿を見て真田が安堵の溜息を吐く。
「さぁ、次は俺達が相手だ。俺達はその奴らと違って簡単にはいかない!」
 アリシャは背後にいる真田、大介、レオロナに一度視線を向け、ジャスティスマンを睨みつける。
 それぞれの武器を構えるアリシャ、レイラ、カコウを見てジャスティスマンは肩を竦める。
「確かに分が悪くなってきたようだ。私は正義を成すためにこんな所で足踏みをしている暇などない。さらばだ!」
 ジャスティスマンがそう言うと、アリシャがジャスティスマンに飛びかかるが、それよりも早くジャスティスマンの腕からボールが落とされる。
 ボールが地面に落ちると、ボールは周囲を光で包んだ。
「クソ、目くらましか!」
 アリシャは視界が失われたままでも槍を突き出すが、手応えはない。
 閃光が収まるとその場に残されていたのは大きく開いたレストランの壁だけであった。
「……逃げられた」
 そこまで残念そうにしているようには思えない口調でレイラは呟くとテーブル席へと腰を下ろした。
「……から揚げ定食大盛り」
「いや、この状態で注文するの!?」
  諏訪はたまらずつっこんだ。

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