唯澪@ ウィキ

ハートブレイク

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ハートブレイク


「マラソン大会」を見て思いついた。
なんか酷評だったけど、普通のアニメだったら
かなりおもしろい部類だと思うんだが・・・
まあ、書きます

息が、苦しい。
もう何時間も、この坂道を登り続けている気がする。
今までの道のりで、もう体力なんてゼロだっていうのに。
歩けば数分のこんな坂が、ここまでキツいなんて。

でも三人とも、全然平気な顔して走ってる。

りっちゃんは元気印だし、
ムギちゃんも、実は力持ちだし。
澪ちゃんは、真面目だし。

私ってやっぱり、体力ないんだなあ…。

みんなに申し訳なくて、先に行っててもらいたかった。
ふらふら遊んでたら、私に呆れて先に行ってくれるかなあと思って、
わざとふざけてみた。


だけど、そんな私と、みんな一緒に走ってくれて。


澪ちゃんは、わざわざ待っててくれて。


嬉しかった。

「あ、なんか良い詩浮かんできた」

「なんとっ!」

澪ちゃんが、りっちゃんに何か言っているのが聞こえる。

澪ちゃんの詩。

私、すごく好き。

だけど、いつも、いつもいつも、一番目には教えてくれない。

澪ちゃんは、最初は絶対、りっちゃんに聞かせる。

今だって、ほら。
やっぱり、りっちゃんに言う。

…何で、だろ?

ああ、駄目、もう走れない。
考えるのも、疲れてきた。

澪ちゃんがこっちを振り向いて、
「なあ、唯。聞いてくれよ」
なんて言って、出来立ての詩を私に教えてくれたなら、きっと頑張れるのに。

「私もその詩、大好きだよ!」
って答えたら、澪ちゃん笑ってくれるかな。
そんな可愛い澪ちゃん見れたら、私、学校までずーっとダッシュで行けちゃうかも。

「あっ」

ドテッ!

「いてて…」

にやにやしていたら、前のめりに転んだ。
膝がジンジンする。
そっとジャージをめくると、やはり、赤いものがついていた。

「うわあ…」

痛み以上に血の量がひどい。
まあ、痛みは気にならない程度だし、走れなくはなさそう。
取りあえず絆創膏か何かで、出血を抑えた方が良いのかも。

…って、そんなの今持ってないよ…。


こんなとき、澪ちゃんなら。


澪ちゃんならきっと、何とかしてくれる。


「ねえねえ、澪ちゃん!」

「…………あれ…?」

顔を上げると、もう坂道には誰もいなかった。

「ねえ、りっちゃん!ムギちゃん!」


返事はない。


「みんな……」


前にも後ろにも、人っ子一人いない。


…おいてかれた。


ああ、そっか。
これで、初めの望み通りだ。


…良かった。


だって、もう、疲れて走れないし。


怪我してる私に合わせたら、みんな、もっとゆっくりになっちゃうもん。


そんなことしたら、ビリになっちゃうかもしれない。


澪ちゃん、ビリは嫌みたいだったから。


だから、
これで良いんだ。


良いんだよ。

私はまだ、坂道に座り込んでいた。


そのうちに、痛くて痛くて、涙がこぼれてきた。


止まらなかった。


澪ちゃんとりっちゃん、
寄り添って走る背中。


そうだよ。


さっきの澪ちゃんは、私を待っててくれたわけじゃ、なかったんだ。


りっちゃんを、ムギちゃんを、待ってたんだ。


そりゃあ、そうだよね。


なのに私、舞い上がっちゃって。


辛いけど、頑張るぞ、なんて。


なに、勘違いしてたんだろ。


………もう、いいや。


走るの、やめ。


考えるの、やめ。



ああ。



私、誰のために、走ってたんだっけ。

唯がいない。

いつからいなかったのか、それすらわからない。

やけに静かなのが心配になり、ふと振り向いたら、
そこに愛しい彼女の姿はなかった。

…彼女?

走りながら詩なんて考えるから、変な言い回しになってしまった。


ただの、片想いなのに。


きっと唯は気付いていないだろう。

私にも、この想いがいつ芽生えたものなのか、わからない。


いつからだろうか。
無邪気に微笑む彼女が、
ただただ、愛しくて。


その唯が、いない。


「唯ー?どこにいるんだー?」

「こんなところまで迷い込んではいないんじゃ・・・?」


当たり前だろ。
唯はそこまで抜けてない。

でも、だとしたら。

(疲れてペースダウンしたのか・・・?)

それなら良い。
だけど、もし事故にでもあっていたら。


唯が痛みに苦しんで、立ち上がれないでいる姿が、まざまざと目に浮かぶ。
泣きながら、誰かの名を呼んで・・・。


澪ちゃん。


「!」


「唯・・・?」

周りを見回しても、唯の姿はない。

ただの、空耳か。

…そうだよな。

呼ぶなら、律とかムギとか、和とかだよな。
梓や憂ちゃんかもしれない。

唯を大切に想う人は、たくさんいるんだから。

わざわざ私を呼ぶわけ、ない。


「・・・そしたらー、秋山さんがー、作詞とか始めちゃってー」

律がさわちゃんに向けて、ふざけた声を出す。

「だって、良い歌詞が思い浮かんだんだもん・・・」


唯に、聞いてほしくて。


「私もその詩、大好きだよ!」
なんて、言ってほしくて。


でも、唯がいなくなったのは、多分その頃だ。

私が、そんなこと考えてたから・・・


そばにいるのに、何故だか遠く感じられる。

つかみどころのない彼女。

目を離したら、すぐに消えてしまう。


「唯・・・どこにいるんだよ・・・?」


あの優しい声を、今すぐに聞いて、安心したかった。

道で歩けずに--歩かずに--いる私を拾ってくれたのは、
隣のおばあちゃんだった。

家で傷の手当てをしてもらい、おやつまで頂いてしまった。

本格的に、全てがどうでもよくなってきていた。

「あ!」

「あら茶柱。今日はきっと良いことあるよ」

「ほんと?」

ほんとなの?おばあちゃん。

私、とってもかなしいことがあったのに。

今も、かなしくてどうしようもないのに。


「・・・あ、もうそろそろいかなくちゃ」

「まぁ。そうね。じゃあ、これだけ食べていっちゃいなさい。
 頑張って走るのよ?」

ごめんね、おばあちゃん。

今日はもう、そんな気分じゃないんだ。

おうちに帰って、眠ろう。

起きたら全部、忘れれば良いや。

嬉しかったのも、かなしかったのも、全部。


ピンポーン


「あら?お客さんかしら」



「ったくぅ、心配させやがって」

律が呆れた調子で言う。

唯の家の隣のおばあちゃん宅で、唯は無事保護された。

さすがは憂ちゃん、といったところか。


「ごめんなさい!」


唯は皆に頭を下げた。


転んで、怪我をして。
それを、通りがかったおばあちゃんに、手当てしてもらったらしい。

怪我はそんなにひどくないから。
だから、大丈夫。

そう言って、唯は笑った。


…違う。


その笑顔は、違う。


「なんで・・・」

「?」

「なんで何も言ってくれなかったんだよ・・・」

いや、私が気付くべきだったんだ。

怪我をした友達を…
…大切な人を、置き去りにするなんて。

「…ごめんね。私のせいで…」

唯は俯いていた。

「みんな、もう行っちゃったと思ってたから…」

「そんな…私達は、」

「ううん、澪ちゃんたちはなにも悪くないよ。
 私みたいなトロいの、置いてかれても仕方ないもん」


「私は・・・仕方なく唯を探してたわけじゃない!!」


「!?」


「唯がいなくて、心配で、事故にでも遭ったんじゃないかって思って・・・」


「・・・このまま会えなくなったらどうしようって・・・」


「仕方ないとか…そんな寂しいこと言わないでよ…。…唯」

澪ちゃんは、泣きそうだった。

すかさずりっちゃんが茶々を入れる。

「そうだぞー、唯。
 澪は血眼になって鬼のような形相で唯を捕って喰おうと捜してたんだから。
 んなこと言っちゃ可哀相だ」

ゴスッ

「いてっ!」

「誰が鬼だって?」

「あはは…冗談だってばぁ、澪しゃん」

りっちゃんがぺろっと舌を出す。
するとりっちゃんは、澪ちゃんに気付かれないように、
ちらっと私に目を向けた。


ごめんな。


りっちゃんがそう言ったみたいに、私は感じた。


りっちゃんは、ほんとに優しい。

場を明るくしようと、いつもこういう役を買って出てくれる。

それでいて、りっちゃんは、さりげないんだ。

まわりに気取らせない。
自分も気取らない。

こんなに素敵なんだもん、みんな、りっちゃんを好きになっちゃうよね。


りっちゃんの仕草に気付いたムギちゃんも、軽く手を合わせて、ごめんなさい、
のポーズをしている。

ムギちゃんの表情に、怒りなんてこれっぽっちもなくて。

見つかって良かった、っていう安心しか、感じてないみたいで。


ムギちゃんも、りっちゃんも。

なんで、こんなに優しいの?

澪ちゃんは、まだちょっぴり、目をうるうるさせてる。

「…でも澪ちゃん。私を捜してたら、ビリになっちゃうかもしれないのに」

気になっていたことを、聞いてみた。

返事が、少しこわい。


「…?」

だけど、澪ちゃんは、ぽかんとしている。


「唯がいるなら、そんなのどうでもいいよ」

「え・・・?」

今度は私が驚いてしまった。


澪ちゃんは、優しく微笑んで。


当たり前だろ、って。


「澪…ちゃん…」

今の言葉が、澪ちゃんの声が。
頭の中で何度もリフレインする。


心臓が、ぎゅっと掴まれたような心地。


澪ちゃん。


優しい澪ちゃん。
恐がりな澪ちゃん。
怒りん坊な澪ちゃん。
恥ずかしがりな澪ちゃん。


澪ちゃん澪ちゃん澪ちゃん。


心の中に澪ちゃんが溢れて、
止まらない。


「…み…みおぢゃん…ひっ、ひっく…」

「ゆ、唯!?」

気付いたら、また泣いていた。


「わ…わたし……えぐっ……」


今日の私は、泣いてばっかり。


「わたし…澪ちゃんが…」


でも、さっきの涙とは違う。


「澪ちゃんの…ひっぐ…こと、が…」


私、今まで気付かなかった。


私、こんなに、こんなに、


こんなに。


澪ちゃんのこと。




「大好きだよっ……!!」


………今、唯が「大好き」って。


大好きって、言ってくれた……


これって、もしかして、


告白、なのか………?


思い当たった瞬間、顔がかあっと赤くなる。

そんな急な。

心の準備、全然出来てないのに。


だって告白って、
下駄箱に

「放課後音楽室で待ってます」

なんて書いてある手紙が入ってて、
それをどきどきしながら読んで音楽室まで向かって、
けど音楽室では一波乱あって…


みたいなものじゃないのか?


少なくとも、マラソン大会の途中に
おばあちゃん家の前でするものではないのでは?


…それに…。


告白って、
どうやって返事すれば良いんだ?


「…澪?どうかしたか?」

律が私の顔を覗き込んできた。

「あ、いや…」

「なら、そろそろ行こうぜ」

ふと前を見れば、ムギはすでに走りはじめていた。

そうだ、走らなきゃ。

でも私、まだ、唯に返事してない…。


「……律…私、」


そのとき、律がくすっと笑った。

「…なんだあ?澪も疲れちゃったのかよ」

「ち、ちが」

「そうかそうか。んじゃ、私はムギと先に行ってるから」

私の言葉を無視して、律は私に背を向ける。

「は?いや、待っ」


「澪は、唯と一緒に走れ」


「!」


これ以上は、言わせるなよ?
律の背中はそう語っているようだった。


全部、お見通しってわけか。


勘の良い幼なじみを持って、私は幸せだよ、本当。


「律………ありがとう」

「へいへい」

律が投げやりに手を振る。

「…あ、そういえば、澪」

「何?」



「…ちゅーすると、傷の治りが早くなるらしいぞ」


それだけボソッと言うと、律はムギの元へと走って行ってしまった。



「りっちゃんとムギちゃん、いっちゃったね」

二人が行ってしまうと、唯が私に話しかけてきた。

「・・・うん」

「澪ちゃん、大丈夫?」

「え!?」

唯の顔がこんなに近くにある。
今までだってこれくらいのこと、何度もあったはずなのに。
すごく、どきどきする。

「私のこと捜してたせいで、疲れちゃった?」

「いや・・・それは、平気だ」



「ほんとに?でも、なんか、顔真っ赤だよ?」

誰のせいだよ・・・。

恥ずかしくなり、唯から目をそらすと、

唯の唇が、目に入った。


これは、違う。
変な気持ちがあるわけじゃなく、医療行為なんだ。
だから・・・


私はその唇に、キスをした。


「澪、ちゃん・・・?」

「こ、これはそのっ・・・傷が良くなるように!」

そう言う澪ちゃんの顔は、ますます赤くなっていた。


私は、さっきまで澪ちゃんとくっついていた唇に、指をふれさせる。

夢、じゃない。


「ありがと、澪ちゃん。・・・私の傷、治ったよ!」

「え・・・?」


だって、ほら。

あんなに辛かったのに、もう平気だ。

どこまでだって走っていけそう。


「私からも、お返しするね、澪ちゃん」

「?」

ちゅっ

「なっ・・・えっ・・・ゆ、唯!!?」

「さぁ、学校まで競争だあ!」

「あっ・・・待てよ唯ー!」



おわり

駄文・長文すまなかった
マラソン苦手なんで、唯の気持ちを代弁してやろうと思ったら
めちゃくちゃ長くなっちまった

初出:1->>855->>860,1->>862->>868,1->>872->>876,1->>883->>888

  • やはり唯澪は和む...ムフフ... -- (名無しさん) 2011-08-04 10:51:25
  • マラソン大会の途中におばあちゃんの家の前にわらてしもたw -- (名無しさん) 2011-08-05 16:04:55
  • 唯や澪の思いがすごくかわいいな。 -- (名無しさん) 2011-10-25 17:24:19
  • これは文句なしの完成度だとおもた -- (名無しさん) 2012-01-26 00:55:29
  • 唯澪、澪唯、どっちでも好いよ -- (KYな俺) 2012-03-26 19:50:29
  • これは良作だな -- (名無しさん) 2012-04-17 23:59:30
  • 凄く感動した。唯澪は、最高! -- (通りすがり) 2013-07-06 11:21:46
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