ティガれみりゃ その4
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≪はじめに≫
- 他の作者様の設定や名称を一部使わせていただいております。
以上、何卒ご理解・ご容赦ください。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
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4、誇りをかけた試練(後編)
『ティ~ガティガティガ♪ ティガれみりゃ~~♪』
「ティ~ガティガティガ♪ ティガれみりゃ~~♪」
歌いながら森を往く2匹のゆっくり。
よったよったどたどた歩く、巨大ゆっくり・ティガれみりゃ。
そんなティガれみりゃの頭の上に乗っている、通常サイズのゆっくりゃザウルス。
全長20メートルの、くてくてだぼだぼのヌイグルミ風恐竜。
大きく開かれた口から覗く、れみりゃ種特有の下ぶくれスマイル。
その大きな顔の上の、恐竜の頭部の上では、
ゆっくりゃザウルスが、腹ばいになって、ティガれみりゃにしがみついている。
ゲスまりさに襲われて千切られた手足と尻尾は、もう殆ど回復しきっている。
ニコニコ笑いながら、体全体を左右に揺らしながらリズムをとっている。
『うっう~うぁうぁ~♪』
「うっう~うぁうぁ~♪」
ゆっくりゃザウルス……先だって子供を失った親れみりゃは、
その悲しみを払拭するかの如く、楽しげに歌う。
親れみりゃにとって、ティガれみりゃの存在は、
まさに希望であり、憧れであり、救世主であった。
このティガれみりゃと一緒なら、どんな困難も悲しみも乗り越えられる。
親れみりゃは、巨大なティガれみりゃに揺られながら、かつてない安心と勇気を感じていた。
ティガれみりゃもまた、親れみりゃのことを、
親友のように、妹のように、娘のように愛おしく感じていた。
その巨体故に、他の生物から常に避けられ続けるティガれみりゃにとって、
自分をこの上なく慕ってくれる親れみりゃの存在が、嬉しくて楽しくてたまらなかった。
この温かい気持ちをどう言えばいいのだろう?
この胸にこみ上げる幸せをどう表現すればよいのだろう?
そんな時、不器用なれみりゃ種がとる行動は一つ。
嬉しい時も、悲しい時も、わき上がる思いをあらわにして。
(歌っちゃおう♪)
(踊っちゃおう♪)
『ティガ☆』
「れみ☆」
『りゃ☆』
「うー♪」
『「にぱぁ~~~♪」』
決まったぁー♪
渾身の「れみりゃ☆うー」が決まり、
ますます幸福感に包まれる2人のれみりゃ。
そんな2人の前に、1人の少女が現れた。
「やぁ! ずいぶんと御機嫌だねぇ~」
少女は空を飛んでいた。
知識のあるゆっくりならば、その時点でその少女が人間ではないこと。
恐い人間よりもさらに恐ろしい、妖怪と呼ばれる存在であることに気付いただろう。
しかし、そんな知識、れみりゃ種に求めるのは酷である。
『うっうー♪ れみりゃはいつでも御機嫌だどぉー♪』
「うー♪ おねぇーさんだぁーれだどぉ?」
屈託無い笑顔で少女とのコミュニケーションに応じる2人のれみりゃ。
「……ふふ、まぁ名乗るほどのものじゃないさ」
そう言って口の端を歪める少女。
『う~? おねぇーさんの角、とぉ~~ってもかっこいいどぉ~~♪』
そう言って、目を輝かせるティガれみりゃ。
角。
そう、少女の頭には、二本の角が生えていた。
れみりゃ達が知るよしも無いが、この少女こそ、
既に幻想郷からは姿を消したといわれていた伝説の種族・"鬼"の一角、
小さな百鬼夜行、伊吹萃香であった。
「それより聞きたいんだけどさ……」
『う~、なんでもきくがいいどぉ♪』
「ゆっくりれみりゃってのは、おまえ達のことであってる?」
『「うーっ♪」』
嬉しそうに反応する、2人のれみりゃ。
『そうだどぉー! れみりゃは~~♪ ティガれみりゃだどぉ~~~♪』
ティガれみりゃは、両手を頭の横に持ち上げ、うぁうぁとリズムを取り出す。
『「うっうーうぁうぁ♪ うっうーうぁぅぁ♪」』
最高に上機嫌なれみりゃ達。
そんなれみりゃ達に、萃香の真意など図れるわけがなかった。
「そりゃよかったよ。おまえ達をさがしていたんだ」
『「う~~?」』
不思議そうに首を傾げる、れみりゃ達。
「そう、おまえ達がほしいんだ」
笑顔のまま屈託なく告げる萃香。
一方、れみりゃ達は、いっぱく置いた後、
両手を自分の頬に充てて、身をよじりだした。
『きゃーきゃー♪ おねぇーさんだいたんなんだどぉーー♪』
「すとれーとなあいのこくはくだどぉーーー♪」
頬を赤くして、きゃーきゃー騒ぐ、れみりゃ達。
れみりゃ達は、萃香の言葉を、プロポーズと勘違いしていた。
「ま、というわけでね、どっちか一人でいいんで、私についてきて欲しいだ」
空高くを指さす萃香。
『「う?」』
意味を理解しかねる、れみりゃ達。
萃香は、山の上の天上の地で、大宴会を開こうとしていた。
しかし、天上の地にあるツマミといえば桃くらいのもの。
やはりここは塩味のもの、お腹にたまるものも欲しい。
腹が減っては夜通しどんちゃん騒ぎもできぬ。である。
そこで、萃香はかねてから噂に聞いていた珍味。
ゆっくりれみりゃの肉まんを探していたのだ。
それも、ただのれみりゃ肉まんではない。
一層珍しく、美味しいとされる、ゆっくりゃザウルスの肉まんをだ。
そんな折、巨大な肉まん……もとい巨大なゆっくりゃザウルスがやって来るのを見つけたのだった。
話に聞いていたのとは、ずいぶんサイズが違うが、
まぁ本人達がれみりゃだと言っているのだから、そうなのだろう。
萃香は納得し、ティガれみりゃ達を連れ去ろうとする。
しかし、それに異を唱えたのは、他ならぬれみりゃ達だった。
「う~~~! イヤだどぉ~~~! れみりゃはもうおうちにかえりたいんだどぉ~~~!」
『う~~~、そうだどぉ~~~! れみりゃたちはおねぇーさんとはいけないんだどぉ』
ティガれみりゃは、親れみりゃをお家(紅魔館)に送り届ける途中であった。
もっとも、2人とも紅魔館の場所など知らず、適当に歌って踊って歩いているだけであったが。
「ふーんそっかぁ……それは困ったな」
ちっとも困った風じゃない顔をして、萃香は腕組みをして考えるフリをする。
「……よし! じゃあこうしよう! 私と勝負して勝った方が負けた方の言うことを聞く!」
明らかに強引な論法。
だが、れみりゃ相手には、このムチャクチャな単純さが功をそうした。
『う~~~、わかったどぉ♪ れみりゃがあいてになるどぉ♪』
「おっ、話がわかるじゃないか! デカイの!」
『そんなに褒められると、さすがに照れてしまうどぉ~~♪』
もじもじと体をよじるティガれみりゃ。
"デカイ"というのは、褒め言葉として捉えるらしい。
『う~♪ れみりゃが勝ったら、おねぇーさんの角が欲しいどぉ♪
それがあれば、れみりゃはさらにぱーふぇくとなれでぃーになれるどぉ♪』
「はいはい」
適当に流す萃香。
「きゃーっ! ティガれみりゃがさらにかっこよくなっちゃうどぉー!」
興奮する親れみりゃ。
ティガれみりゃは、そんな親れみりゃを手に乗せ、少し離れた場所の地面に降ろす。
『あぶないがらぁ~ちっちゃいれみりゃはそこで見ててぇ~♪』
「わかったどぉ! ティガれみりゃ~がんばるんだどぉ♪」
『う~♪ まかせるんだどぉ♪ ちっちゃいれみりゃもおうえんじでねぇ~ん♪』
「うー! まかせとけだどぉ♪」
「やれやれ……そろそろいいかい?」
待ちくたびれて、肩をまわす萃香。
『うーっ、準備おっけぇーだどぉ♪ おねぇーさんなんかイチコロだどぉー!』
「ふーん、はたしてそうかな♪」
萃香は笑みをこぼし、スペルカードを使用する。
鬼神"ミッシングパープルパワー"
『「ううううう~~~~っ!?」』
目を丸くして驚く、ティガれみりゃと親れみりゃ。
小さな人間の少女でしかなかった萃香が、みるみる間に大きくなり、
いまやティガれみりゃと同等か、それより一回り大きい姿になっていた。
『うー♪ おねぇーさんおっききぃどぉー』
自分より一回り多くなった萃香を見上げるティガれみりゃ。
「それじゃ、勝負開始といこうか!」
『うっうー! いっくどぉー♪』
ぎゃぉー!
と叫びながら、ティガれみりゃが萃香に突進する。
いや、正しくは、それは突進などと呼べるシロモノではなかった。
どたばたどたばた。
短い手足を振り回しながら、えっちらおっちらやって来るティガれみりゃ。
(……お、遅っ)
萃香は、逆の意味で驚きつつ、
わけもなくティガれみりゃの突進をかわす。
『うっ?』
ドターン。
勢いそのままに前のめりに倒れるティガれみりゃ。
普通のれみりゃ種ならば、ここで泣き叫ぶところだが……。
『う~、ゆだんしちゃったどぉ♪』
ティガれみりゃは、笑顔のまま立ち上がる。
この点こそが、ティガれみりゃ最大の強点であった。
体の大きさや防御力ではない、言わば痛みを痛みとして認識しない超鈍感力。
根拠無きポジティブシンキングと思いこみ、そして実際に鈍い五感と思考の速度。
その自身が置かれた状況に対する"鈍さ"が、痛みや苦しみを和らげ、
いいこと・たのしいことだけを考えさせる。
そんな鈍感力こそが、ティガれみりゃの得た、ゆっくりするための切り札といえる。
『おねぇーさんはつよいからぁー、れみりゃもとっておきを披露するどぉ♪』
「ふーん、とっておきねぇ」
『くらっておどろくどぉ♪』
ティガれみりゃは、萃香に背を向けると、
両手を腰にあて、おしりと尻尾を左右に振り出した。
『ティガれみりゃの~、の☆う☆さ☆つ☆しっぽふりふりぃ~~だどぉ♪』
「きゃぁ~~~! しぇくしぃーーーすぎるどぉ♪」
ティガれみりゃの勇姿を見て、地上の親れみりゃが興奮する。
あんなセクシーな姿を見せられては、
どんな相手もメロメロになってしまわずにはいられない!
顔を紅潮させて叫ぶ親れみりゃは、本気でそう信じていた。
『うっふぅ~~~ん♪ 尻尾ふ~りぃふりぃ~~♪』
尻尾を左右に振りながら、徐々に萃香に近寄っていくティガれみりゃ。
だが、萃香は溜息をつくと、その尻尾をむんずと掴んだ。
『うっ?』
「そぉーら!」
『ううううっ!?』
萃香は尻尾を綱引きのように引っ張り、ティガれみりゃを引き寄せる。
ティガれみりゃは抗おうとジタバタするが、結局萃香の目の前まで引っ張られ、
「う~♪」と反転して萃香の方を向いた瞬間、両脇を掴まれ、空中に持ち上げられてしまった。
『うっうー♪ つかまっちゃったどぉ♪』
まだ余裕なティガれみりゃ。
『う~~~♪ たかいたかぁ~い♪』
いつも以上に高い位置からの眺めに、ご満悦だ。
「すっごいどぉー! ティガれみりゃがおそらをとんでるどぉーー!」
そんなティガれみりゃを見て、興奮する親れみりゃ。
「……はぁ」
ただ一人、萃香だけがテンションを下げていた。
『うー、おねぇーさんはつよくてやさしぃんだどぉ♪ れみりゃのめしつかいにしてあげるどぉ♪』
萃香が自分のために高い高いをしてくれているものと信じるティガれみりゃ。
観戦している親れみりゃにしても、萃香がティガれみりゃの力に恐れをなして、
"こうさんです~あなたがいちばんです~"とあがめているのだと勝手に思いこんでいる。
(もういっか。宴会に遅れてもなんだし)
れみりゃ種のペースに巻き込まれているのがバカらしくなった萃香は、
さっさと勝負を決めることにする。
「そりゃ!」
『うっ!?』
抱え上げたティガれみりゃを、背中から地面に叩きつける萃香。
ドシーンと、土煙が舞い上がる。
『う~~~♪ おねぇーさんつよいどぉ♪』
地面に大の字になったまま、萃香を見上げるティガれみりゃ。
思い切り叩きつけたにもかかわらず、まだ笑顔でいるティガれみりゃを見て、
鈍さだけは大したものだと呆れる萃香。
萃香は、ティガれみりゃの上に馬乗りになり、
大の字に広げられたティガれみりゃの腕を両手で押さえつけて固定する。
『うぅ~~♪ おねぇーさんのえっちぃ~~♪』
「きゃー! あかちゃんたぢには、みぜられないどぉー!」
勝手に興奮するティガれみりゃと親れみりゃ。
それに対し、萃香は冷静にティガれみりゃの体を眺めて、吟味する。
こんなやつが本当に絶品珍味なのだろうか?
だんだんと不安になってくる萃香。
ゆっくりが出没しはじめたのは最近のことなので、
鬼にしてもゆっくりに関する知識は殆ど持ちあわせていたなかった。
「うーん……いちおう味見してみようかな」
萃香はティガれみりゃの下ぶくれ顔に、そっと顔を近づける。
そして、舌をのばして、ほっぺたを舐め上げた。
『くしゅぐったぁーい♪』
照れるティガれみりゃ。
一方、萃香は口の中に、たしかに肉汁が広がっていくのを感じていた。
(へぇー! こいつの汗、肉汁なんだ!)
妙に感心した萃香は、引き続きティガれみりゃの顔を舐め回す。
最初は嬉し恥ずかし状態だったティガれみりゃだったが、
次第に嫌悪感をあらわにしだす。
『う~~~~、う~~~~』
レロレロレロレロレロレロ。
『うぁ、うぁぁ、うぁうぁうぁ~~~~』
なめ回されていくうちに、奇妙な感覚を覚えるティガれみりゃ。
肉まんの皮がふやけていくのと同時に、顔に適度に振動を与え続けられたことで、
なんともむずかゆい気持にさせられてしまっていた。
そして萃香は、とうとう一つの決断をする。
「う~~ん、思い切って食べてみるか」
肉汁はうまいし、これだけデカければちょっとくらいつまみ食いしても大丈夫だろう。
いや、むしろ宴会の幹事としてはツマミの味を確認しないわけにはいくまい。
萃香はそう己を納得させ、
口角を歪めて、牙をひからせる。
『う~~? れみりゃ、おねぇーさんにたべられちゃうどぉー♪』
顔を紅潮させ、
かぶりを振って、イヤイヤ♪とするティガれみりゃ。
だが、その顔は相変わらずの満面しもぶくれスマイルのままで、むしろ嬉しそうでさえある。
「さっすがティガれみりゃだどぉ♪ あんなにつよいおねぇーさんを、もぉーとりこにしちゃったどぉ♪」
親れみりゃも、何を勘違いしたか興奮気味。
変なところで耳年増なのか、2人のれみりゃは、萃香の「食べちゃう」発言を、
これからいっしょに「すっきりぃ~♪」しようという誘いに受け取ったらしい。
『れみりゃはじめてだからぁ~♪ やさしくしてねぇ~~ん♪』
どこで覚えたのか、恥じらいの台詞を口にするティガれみりゃ。
ちなみに、本当に「すっきり」するのが初めてかどうかは定かでない。
「はいはい、やさしくなっと」
萃香はティガれみりゃの勘違いを軽く受け流すと、
にぃーっと笑った後、徐々に口を開いていき、鬼の牙を煌めかせた。
次の瞬間。
ぱくり。
萃香の小さな(?)口が、
ティガれみりゃの下ぶくれ顔の端にかぶりつき、そのまま一部をえぐりとった。
『「う?」』
何が起こったかわからず、硬直するティガれみりゃと親れみりゃ。
構わずむしゃむしゃ租借し、モチモチとした皮と、上質な肉餡を舌の上で堪能する萃香。
口内にじゅわぁーと肉汁がひろがっていくのにつれて、萃香の顔が輝いていく。
「おっ、おいしぃー!」
パァーと輝く萃香の笑顔。
その笑顔と言葉で、超鈍感力の持ち主たるティガれみりゃも、ようやく事態に気付いた。
おそるおそる、視線を下に向けると、自慢のふくよかな顔の一部が、えぐれていた。
『いっ!』
認識した瞬間、痛みが一気に広がった。
『いだぃぃぃぃぃ!』
泣き出し、ジタバタと体を動かすティガれみりゃ。
だが、ティガれみりりゃの動きは、馬乗りになった萃香によって封じられ、
その場から逃げ出すことは出来ない。
『うぁぁぁぁぁっっ! うぁぁぁぁぁぁっっ!!』
ティガれみりゃは、唯一動かせる顔だけを左右に揺らし、わめき散らす。
『しゃくやぁー! はやくぎでぇぇ! ごぁいひどがいるぅぅぅぅっっ!!』
「ん~? 咲夜ならこないぞ。 今頃は山の上じゃないか?」
『うぞづくなどぉぉぉ! しゃくやはでみりゃが呼べばぎでぐれるどぉぉぉ!
でみりゃはおぜうさまだからえらいんだどぉーー! そしたらおまえなんがぁっ!!』
「そりゃお前がアノ吸血鬼だったらそうかもしれないけどねぇ。お前は違うだろ、恐竜さん♪」
『うぞだどぉー! うぞだどぉーー! ぎゃおーーっ! ぎゃおーーーっ!!』
自分が紅魔館のお嬢様でないはずがない!
れみりゃ種特有の絶対的矜持を揺るがされ、必死に抵抗するティガれみりゃ。
恐竜と言われて否定するつもりが、「ぎゃおー!」とやってしまうあたりが、
れみりゃ種の限界らしく、それはティガれみりゃといえど例外ではなかった。
一方、そんな苦しむティガれみりゃの姿を見た親れみりゃ。
当初は下ぶくれスマイルのままだった彼女も、
次第に冷や汗がうかびだし、顔が徐々に青くなり、いまではガクガクと小刻みに震えだしている。
親れみりゃは、ティガれみりゃを崇拝し、信じ切っていた。
その崇拝と信頼は、如何にティガれみりゃが劣勢に立たされても揺らぐことはなかった。
萃香に捕まれようと、持ち上げられようと、投げられようと。
ティガれみりゃにとっては何の問題もない。そう期待していた。
現に、ティガれみりゃは笑顔のまま立ち上がったではないか。
やっぱり凄い、きっと自分だったら最初に転んだ時に泣き出してしまっていただろう。
すごい、ティガれみりゃ。
そんなティガれみりゃとそっくりな自分も、きっといつかあんな風に……。
そう、思っていた。
だが、しかし。
今のティガれみりゃの姿は。
動きを封じられ、なすすべなく助けを呼ぶ光景は。
まるで、さきほどゲスまりさに食べられそうになった自分そっくりで……。
崇拝と信頼と憧れで栓をしていた、恐怖と不安がどっと湧き出てきて、
親れみりゃを混乱させる。
「うぁ、うぁ……」
笑顔は自然と消え、
目からは涙が流れ出す。
だめ!
ティガれみりゃは負けちゃだめ!
じゃないと! じゃないと! 私まで!
「ううううーっ! ティガでみりゃぁぁぁ!! だづんだどぉぉ!! がんばっでだどぉぉぉぉっっ!!!」
号泣し、ろれつの回らないまま叫び続ける親れみりゃ。
けれど、そんな親れみりゃの応援むなしく、
ティガれみりゃは、萃香に食べられ続ける。
『うあぁぁぁぁっっ!! うあぁぁぁぁぁっ! おねがぃぃぃぼぉうやべでぇぇぇぇっっ!!!』
耳を貸さず、萃香はティガれみりゃの下ぶくれ顔をパクパク食べ続ける。
「う~ん、こんなうまい肉まん初めてだよ♪」
「うっ!!」
"肉まん"
その単語を聞いて、親れみりゃはビクッと体を硬直させる。
ちがう、ちがう、ちがう!
れみりゃは、れみりゃは!
「ちがうどぉぉーーっ!! でみりゃはにぐまんじゃないどぉぉぉぉーーーっ!!」
まるで自分のことのように叫ぶ親れみりゃ。
だが、叫んだその刹那。
暴れるティガれみりゃから飛散した肉まんの小さな欠片が、
大口を開いた親れみりゃの口の中へスッポリと収まった。
「うっぎゃぁ!! ティガでみりゃのおかおぉぉ!!」
嫌悪し、吐き出そうとする親れみりゃ。
ほんの小さな破片とはいえ、崇拝対象の顔を口の中に入れてしまうなんて。
「うーっ! うーっ! ………ううっ!?」
吐き出そうと咳き込むその時、
親れみりゃは、誤ってティガれみりゃの欠片を噛んでしまった。
じゅわぁ~~~と口内に広がるアツアツの肉汁。
「う、うーっ!!?」
そのあまりの肉汁の美味しさに、
親れみりゃは反射的に、ティガれみりゃの欠片を租借しだす。
噛めば噛むほど味が染み出る肉餡の美味しさに、もはや罪悪感もなんのその、
親れみりゃは食べるのを止めることができなくなっていた。
ごっくん。
ティガれみりゃの欠片を堪能し、飲み込む親れみりゃ。
「う~♪ しあわせぇ~~だどぉ~~~♪ こんなにおいじぃにぐまんははじめてだどぉ~~~♪」
そして。
思わず、言ってしまった。
ぷっでぃんとも甲乙つけがたいその美味しさに、
親れみりゃは決して言ってはならないことを言ってしまったのだ。
そのことに、数秒後に気付き、
親れみりゃは震えが止まらなくなった。
ティガれみりゃ、食べちゃった。
とっても美味しかった。
美味しいなんだった?
ぷっでぃん?おまんじゅう?
ううん、ちがう。
おいしぃおいしぃにくまんさん。
あれ。
ティガれみりゃはおいしぃにくまん?
それじゃ、れみりゃは?
れみりゃはこーまかんの?
おぜうさ?
にく?
れみりゃは……。
にくま。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!」
親れみりゃの中で、決定的な何かが壊れた。
小さな体であげたその悲痛な叫びは、巨大なティガれみりゃと萃香がたてる音によってかき消されていった…。
数分後。
『た、たしゅげでぇぇ……』
既に下ぶくれ顔の三分の一近くを失ったティガれみりゃは、
ブクブクと泡を吹き、白目を向いて、ぴくぴくと体を痙攣させていた。
「……うっ、しまったな」
萃香はハタと我に返り、立ち上がる。
眼下で苦しむティガれみりゃを見つめて苦笑いする萃香。
「調子にのって食べ過ぎた。こんな食べ残しを土産にしちゃ悪いかな…」
とはいえ、この素晴らしい肉まんの味は、是非他の連中にも味わってもらいたいのだけど。
う~ん。と、しばし考える萃香。
すると。
「おや?」
ふと眼下の森をを見ると、そこには目の前でノビている恐竜そっくりな、小さいヤツがいるではないか。
その小さな恐竜は、逃げるでも戦うでもなく、ぼぉーとその場に突っ立ているように見えた。
「そういえばいたな。 あれって、おまえの子供?」
ティガれみりゃに話しかける萃香。
ティガれみりゃは、ずりずりと地面を這いつくばりながら萃香から逃げ出そうとしていた。
「なぁ、ちょっと!」
『は、はぃぃぃ!』
萃香に呼び止められたティガれみりゃは、
這うのを止め、両手で頭を抱えて、ブルブルと震え出す。
『う~~~~っ! う~~~~~~っ!』
やれやれと肩で息を吐く萃香。
この様子では聞くだけ無駄か。
「なぁ、お前…」
『ごめなざぃぃぃぃ!! あなだのかぢですぅぅぅぅう!!』
何を勘違いしたか、ティガれみりゃは萃香の方を向き、
へへぇー、へへぇーと、何度も両手をついて土下座を繰り返し始めた。
「お前、もういいよ。さっさとどっかへ行きなよ」
『は、はぃぃぃぃっ! ありがどぉぉございまずぅぅぅぅ!!』
ティガれみりゃは涙を流し、
そのままずりずりと地面を這い出す。
『うぅ~~~~~~、うぅ~~~~~』
痛くて、辛くて、悲しくて、悔しくて、恐くて、惨めで、
ただただ泣きながら、逃げ去っていくティガれみりゃ。
その後ろ姿を溜息で見送った後、
萃香は元の人間の少女大のサイズに戻り、
森で呆然と立つゆっくりゃザウルス……即ち、
先ほどティガれみりゃの欠片を食べてしまった親れみりゃの下へ降りる。
「あばっ、あぶあっ、あばばばばばばば……!」
親れみりゃの様子は、既に正常を失っていた。
目の焦点を失い、口から泡を吹き、足下に肉汁の水たまりを作って、
よれよれと体を左右に揺らし続けている。
「おい、おまえ!」
萃香が呼ぶと、親れみりゃは、反射的に体を強張らせる。
「はいぃぃっっ! なんでじょぉぉ!?」
じぃーと親れみりゃを眺める萃香。
やはり、先ほどの大きいヤツの子供なのだろうか?
そんなことを考えつつ、口を開く。
「おまえも、あのデカイ奴みたいに食べられるんだよね?」
すると、親れみりゃは、
実にストレートな答えを返した。
「そうでずぅぅ! でびりゃばおいじぃにぐまんでずぅぅぅぅぅぅっっっっ!!」
口角から肉汁を飛ばしながら喋る親れみりゃ。
「にぐまんいっばいうむがらぁぁぁ! いじべないでぇぐだじゃいぃぃぃぃぃっっ!!!」
その顔は満面笑顔だが、笑ったままの目尻から大量の涙を流し続けている。
「ふーん、じゃ鬼らしくさらわせてもらおうかな」
よくよく考えれば、こいつ一体いればツマミの肉まんとしては充分すぎる量かもしれない。
そう考えた萃香は、しばらく親れみりゃを物色した後、
ひょいっと親れみりゃを抱え上げ、その場を後にした。
無機物のように抱え上げられた親れみりゃ。
移動中、その顔は常に笑顔であり、ずっと歌を口ずさみ続けていた。
「うぁ~~うぁ~~♪ あばばぁ~~♪ でびりゃばおいじぃ~にぐまんだどぉ~~~♪」
……数時間後。
『ティ…ガ…ティガ…ティガ……』
息も絶え絶えに地面を這い続けるティガれみりゃ。
萃香に食べられた下ぶくれ顔は、既にかなりの部分が再生している。
だが、いくら表面的な体の傷がなおっても、
再生に栄養をまわしたぶん、体力の消耗は激しかった。
それに、深く心にえぐられた傷はそうそう治るものでもない。
『ティガ…れみ…りゃ……うぅ……』
少しでも気を紛らわせようと、弱々しく口を開くティガれみりゃ。
しかし、いくら歌を歌っても、
その気持は、痛みは、苦しみは、ちっとも晴れはしなかった。
おかしいな。
そうティガれみりゃは感じていた。
ついさっきまで、あんなに楽しく歌ったり踊ったりしていたのに。
あれ、そういえば、誰かといっしょにいたような?
おかしいな、だれだっけ?
とってもやさしくて、おうたもダンスもじょうずな子だったような。
思い出せないけど、きっとあの子は今頃たのしくおうたをうたっているんだろうな。
また、いっしょにおどりたい、な。
『うぅー…うぅー…うぁ…うぁ……』
森のはずれの湖のほとり。
そこでティガれみりゃは意識を失った。
『…………ZZZ』
それから、どれくらいの時間がたっただろうか?
たまたま湖を訪れ休憩する、ゆっくりの一団がいた。
「むっ、むっきゅーーーーーっ!!??」
昏睡するティガれみりゃを見つけて叫んだのは、
かつてティガれみりゃによって、群れを壊滅させられた、あの胴体付きぱちゅりーだった……。
to be continued
次回予告
『ティガれみりゃ5・さらばティガれみりゃ(予定)』
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(あとがき)
どうも、ティガれみりゃ第4回です。
今回は、『ティガれみりゃ3』から直接続くエピソードになります。
どうにも肉体的な虐め描写は苦手なのですが、
苦手ゆえに、敢えてこの前後編で挑戦してみました。
如何だったでしょうか?
……それにしても、ただの一発ネタのはずのティガれみりゃも、
随分書いた気がします。とりあえず次回で一区切りつける……予定です。
byティガれみりゃの人 (これって自分で名乗るものなんでしょうか?)
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最終更新:2022年04月11日 00:43