自分の体は醜い、と半兵衛は己を蔑む。
半兵衛は人を痛めつけることを楽しむ節があった。
先の伊達統合に失敗してからは、それがどういうわけか自分の体へと向かっているようだった。
火傷に紛れ、引っかいたような傷がいくつもあった。
秀吉を心配させたいのかと思ったが少し違う。どうやら自分を許せないらしい。
白い肌に火傷が広がる様は、確かに醜い。だがそれはただの火傷だ。
心まで醜くする必要はない。
言葉を知らない己を、悔しく思う。
どうすればこの女を優しく抱きとめることができるのだろう。
半兵衛の智恵の、ほんの少しでも自分にあれば。
自分の傷を広げるような真似を止めさせるのに。
「半兵衛、我が、己の意思で抱くのは」
お前だけだ。
愛姫も伊達政宗も、何の感慨も沸かなかった。
破瓜の血を流しながら震える女と、その女を守るために身を差し出した女。
抱いたところで、どうとも思わない。言葉をかけたり愛撫を施すことすら面倒だった。
伊達政宗の目を思い出した。鋭い目で、床を睨み付けていた。
本当なら秀吉を睨みたかったのだろう。だが、秀吉の背後には半兵衛がいた。
秀吉を罵倒しようものなら、伊達に関わったすべての人が死ぬ。そう脅したのだと、後で聞いた。
何故そこまでして、自分にほかの女をあてがうのか。
半兵衛の唇を塞ごうとした。半兵衛は微笑みながら駄目だと拒む。
「僕が、君に抱かれたいだけなんだ。そんな前戯なんて必要ないよ」
「違うぞ、半兵衛。我が、お前を抱きたいのだ」
「それは憐れみだ。……こんな醜く愚かな女を、秀吉は憐れんでいるだけだ」
いつもそうやって、肝心な言葉を言わせてくれない。
半兵衛。
我の妻になれ。
その一言を、いつも飲み込む。
半兵衛は人を痛めつけることを楽しむ節があった。
先の伊達統合に失敗してからは、それがどういうわけか自分の体へと向かっているようだった。
火傷に紛れ、引っかいたような傷がいくつもあった。
秀吉を心配させたいのかと思ったが少し違う。どうやら自分を許せないらしい。
白い肌に火傷が広がる様は、確かに醜い。だがそれはただの火傷だ。
心まで醜くする必要はない。
言葉を知らない己を、悔しく思う。
どうすればこの女を優しく抱きとめることができるのだろう。
半兵衛の智恵の、ほんの少しでも自分にあれば。
自分の傷を広げるような真似を止めさせるのに。
「半兵衛、我が、己の意思で抱くのは」
お前だけだ。
愛姫も伊達政宗も、何の感慨も沸かなかった。
破瓜の血を流しながら震える女と、その女を守るために身を差し出した女。
抱いたところで、どうとも思わない。言葉をかけたり愛撫を施すことすら面倒だった。
伊達政宗の目を思い出した。鋭い目で、床を睨み付けていた。
本当なら秀吉を睨みたかったのだろう。だが、秀吉の背後には半兵衛がいた。
秀吉を罵倒しようものなら、伊達に関わったすべての人が死ぬ。そう脅したのだと、後で聞いた。
何故そこまでして、自分にほかの女をあてがうのか。
半兵衛の唇を塞ごうとした。半兵衛は微笑みながら駄目だと拒む。
「僕が、君に抱かれたいだけなんだ。そんな前戯なんて必要ないよ」
「違うぞ、半兵衛。我が、お前を抱きたいのだ」
「それは憐れみだ。……こんな醜く愚かな女を、秀吉は憐れんでいるだけだ」
いつもそうやって、肝心な言葉を言わせてくれない。
半兵衛。
我の妻になれ。
その一言を、いつも飲み込む。
「はぁ……っ」
半兵衛は体を反らした。
揺れる体を、秀吉が抱きとめる。抱きしめてくる腕は優しくて、勘違いしてしまいそうになる。
ただ体を求めるだけ。
ただ肌を重ねるだけ。
ただ欲望を吐き出すだけ。
気持ちが溢れてくる。慕ってやまない、好きでたまらないと言葉にしたくなる。
言葉にすれば、秀吉はどんな顔をするだろうか。
それは想像するだけで楽しく、そして虚しかった。
「半兵衛……無理をするな」
「無理? なんのことだい?」
「まだ体力が戻っておらんというのに……」
「だって、秀吉に気持ちよくなって欲しいから」
微笑むと、秀吉の眉が寄った。醜い、と顔が言っている。
「僕は、どうだっていいんだ。僕の体は秀吉のものだ。僕の意思が介入する必要はない」
「それは違うぞ、半兵衛」
「違わないよ。醜い僕を抱いてもらうんだ。せめて、気持ちよくなってもらわないと」
半兵衛は絶頂の余韻にひたりもせず、褥から出ると夜着を纏った。防寒用の大きな肩掛けを羽織る。
「おやすみ、秀吉。――いい夢を」
男と女の関係ではない。君主が側近に伽を命じただけなのだ。
だから、挨拶代わりに唇を交わすことはない。
抱き締められて眠るようなこともしない。
こんな痩せた体を見られなくない。
半兵衛は体を反らした。
揺れる体を、秀吉が抱きとめる。抱きしめてくる腕は優しくて、勘違いしてしまいそうになる。
ただ体を求めるだけ。
ただ肌を重ねるだけ。
ただ欲望を吐き出すだけ。
気持ちが溢れてくる。慕ってやまない、好きでたまらないと言葉にしたくなる。
言葉にすれば、秀吉はどんな顔をするだろうか。
それは想像するだけで楽しく、そして虚しかった。
「半兵衛……無理をするな」
「無理? なんのことだい?」
「まだ体力が戻っておらんというのに……」
「だって、秀吉に気持ちよくなって欲しいから」
微笑むと、秀吉の眉が寄った。醜い、と顔が言っている。
「僕は、どうだっていいんだ。僕の体は秀吉のものだ。僕の意思が介入する必要はない」
「それは違うぞ、半兵衛」
「違わないよ。醜い僕を抱いてもらうんだ。せめて、気持ちよくなってもらわないと」
半兵衛は絶頂の余韻にひたりもせず、褥から出ると夜着を纏った。防寒用の大きな肩掛けを羽織る。
「おやすみ、秀吉。――いい夢を」
男と女の関係ではない。君主が側近に伽を命じただけなのだ。
だから、挨拶代わりに唇を交わすことはない。
抱き締められて眠るようなこともしない。
こんな痩せた体を見られなくない。