朝靄の中に慶次を見つけ、秀吉は軽く手を振って合図をした。
慶次は軽い調子で手を上げ、超刀を抱え直した。
夢吉が慶次の肩に乗ってぴょこぴょこ跳ねている。どうも仲間と思われているらしい。
「半兵衛は、なんと」
「なぁんにも言わねぇよ、あいつ」
「そうか。お前になら言うかと思ったが」
「あいつは、昔っから肝心なことは隠すからな。――気づいてんだろ」
「病か」
慶次は顔を曇らせた。ぎこちなく頷き、いつからだと問われる。
「気づいたのは最近だ。それまで、ただ痩せただけだと思っていた」
「……無理させんなよ。ありゃ、休んでも治るかどうか分からねぇぞ」
「半兵衛なしの豊臣軍などありえぬ」
「死ぬぞ」
「分かっている」
並び、庭を歩く。歩いたのはほんの少しの距離で、すぐに門が見えた。
慶次は門に足を進めた。振り返った顔は、どこか泣きそうだった。
友を、なくしたくない。
それは秀吉も同じこと。
「……半兵衛は、お前のためなら何だってするんだ。
お前が言えば、きっとなんとかしようとする。だから」
「それはないだろう。あいつは、何を言っても聞かぬ」
「秀吉! 半兵衛が大事じゃねぇのかよ!」
慶次は秀吉の胸倉を掴んだ。秀吉は慶次の手に自分の手を重ね、そっとどけた。
「大事だからこそ、最期の瞬間まで気づかぬ振りをするのだ」
「……分からねぇ、分からねぇよ! 病なら、養生しろよ……養生させろよ!」
慶次は頭を強く振り、超刀を抱えて門をくぐった。
門が閉じるまで見送り、きびすを返す。
庭に半兵衛の姿があった。いつもの衣装に着替え、仮面もついている。
夜明けの冷え込みに耐えられなかったのか、肩掛けを羽織っている。
「半兵衛」
「慶次は、どうしたんだい? 挨拶しようと思ったんだけど……」
「京に戻った。……恋をしろとのことだ」
「なんだいそれは」
半兵衛は困ったように笑う。肩掛けから手を離し、手に息を吹き掛けた。
秀吉の嘘に気づいていない。
「朝餉ができているそうだよ」
「分かった。――半兵衛、たまには膳を共にせぬか?」
「いいのかい? じゃあ、一緒に食べようか」
見上げて微笑む。仮面の奥に隠された柔和な顔。
失うわけにはいかない。
けれど彼女を欠くわけにもいかない。
「半兵衛。胸くらいはあった方がよいぞ」
「大きなお世話だよ。ちゃんと食べてるんだけどな…」
ぺたっと胸に手を当てる。思春期の娘のようで微笑ましい。
思いを通じてもなお、半兵衛は嘘をつき続ける。
ならば、半兵衛が言わぬ限り軍師の責務を負わせ続けよう。
「ならば、よいのだ」
朝日が昇る。半兵衛と共に見る日輪。
それは余りに目映く、秀吉は直視することができなかった。
慶次は軽い調子で手を上げ、超刀を抱え直した。
夢吉が慶次の肩に乗ってぴょこぴょこ跳ねている。どうも仲間と思われているらしい。
「半兵衛は、なんと」
「なぁんにも言わねぇよ、あいつ」
「そうか。お前になら言うかと思ったが」
「あいつは、昔っから肝心なことは隠すからな。――気づいてんだろ」
「病か」
慶次は顔を曇らせた。ぎこちなく頷き、いつからだと問われる。
「気づいたのは最近だ。それまで、ただ痩せただけだと思っていた」
「……無理させんなよ。ありゃ、休んでも治るかどうか分からねぇぞ」
「半兵衛なしの豊臣軍などありえぬ」
「死ぬぞ」
「分かっている」
並び、庭を歩く。歩いたのはほんの少しの距離で、すぐに門が見えた。
慶次は門に足を進めた。振り返った顔は、どこか泣きそうだった。
友を、なくしたくない。
それは秀吉も同じこと。
「……半兵衛は、お前のためなら何だってするんだ。
お前が言えば、きっとなんとかしようとする。だから」
「それはないだろう。あいつは、何を言っても聞かぬ」
「秀吉! 半兵衛が大事じゃねぇのかよ!」
慶次は秀吉の胸倉を掴んだ。秀吉は慶次の手に自分の手を重ね、そっとどけた。
「大事だからこそ、最期の瞬間まで気づかぬ振りをするのだ」
「……分からねぇ、分からねぇよ! 病なら、養生しろよ……養生させろよ!」
慶次は頭を強く振り、超刀を抱えて門をくぐった。
門が閉じるまで見送り、きびすを返す。
庭に半兵衛の姿があった。いつもの衣装に着替え、仮面もついている。
夜明けの冷え込みに耐えられなかったのか、肩掛けを羽織っている。
「半兵衛」
「慶次は、どうしたんだい? 挨拶しようと思ったんだけど……」
「京に戻った。……恋をしろとのことだ」
「なんだいそれは」
半兵衛は困ったように笑う。肩掛けから手を離し、手に息を吹き掛けた。
秀吉の嘘に気づいていない。
「朝餉ができているそうだよ」
「分かった。――半兵衛、たまには膳を共にせぬか?」
「いいのかい? じゃあ、一緒に食べようか」
見上げて微笑む。仮面の奥に隠された柔和な顔。
失うわけにはいかない。
けれど彼女を欠くわけにもいかない。
「半兵衛。胸くらいはあった方がよいぞ」
「大きなお世話だよ。ちゃんと食べてるんだけどな…」
ぺたっと胸に手を当てる。思春期の娘のようで微笑ましい。
思いを通じてもなお、半兵衛は嘘をつき続ける。
ならば、半兵衛が言わぬ限り軍師の責務を負わせ続けよう。
「ならば、よいのだ」
朝日が昇る。半兵衛と共に見る日輪。
それは余りに目映く、秀吉は直視することができなかった。
以上。
ちなみにくちなしの花言葉は「私は幸せ者です」「優雅」など。
歌人としてオクラとタッグを組むはんべなら、
これくらいロマンチストでもありかと思ったんだ…。
ちなみにくちなしの花言葉は「私は幸せ者です」「優雅」など。
歌人としてオクラとタッグを組むはんべなら、
これくらいロマンチストでもありかと思ったんだ…。




