「よろしい」
幸村は一番綺麗に握れた握り飯を幸村の手に置いた。幸村は顔を輝かせて握り飯を頬張る。
目を細め、頬を蕩けさせて無心に頬張る様子はどんな言葉より雄弁だ。
「うまいか?」
髪についた桜の花弁を摘みながら微笑みかける。幸村はごくりと飯を飲んだ。
「……大変に」
「変な言葉使うなよ」
笑って桜を見上げる。懐から帳面と矢立を取り出し、思いついた和歌をしたためる。
「君がため 吉野の山の まきのはの ときはに花の 色やそはまし」
横から幸村が覗き込んで読み上げる。政宗は肩と肘を使って幸村を遠ざけた。
「お前まだだろ。さっさと作れ」
「上田で吉野を詠まれるとは心外にござる」
「じゃあここを上田に変えれば問題ねぇだろ」
「吉野」の部分に線を引き、「上田」と書き直す。折角の歌が汚くなった。改心の出来だったのに。
今日のご飯はもう適当でいいや。
「何故吉野にござるか」
「桜っつったら吉野だろうが。万葉の時代からの常識だぜ?」
なんとなくそっちの方が収まりがいいと思っただけだ。
「吉野に行きたいのか?」
「……別に、行きたいところなんかねぇよ。上田に骨埋めるつもりだし」
矢立と帳面を懐にしまい、握り飯を頬張った。いつもと同じ炊き方をした飯なのに、
握って別の場所で食べるとどうしてこんなにうまいのだろう。
隣に、幸村がいるせいだろうか。
(ま、なんでもいいか)
鮭の身と皮を分け、身を幸村に譲る。皮をおいしく頂く。鮭は皮の部分が一番うまいと
信じている。しょっぱいだけの身なんかうまくないと思うのだが、幸村はじつにうまそうに食べる。
「政宗殿が作られるものは、なんでもうまいな!」
「……世辞はよせ」
一本つけてやるか。焼酎が好きなんだよなこいつ。うまそうなやつが手に入ったからそれを出そう。
政宗はぐうっと体を伸ばした。顔を上げれば鈍い色の青空と桜が広がっている。
「綺麗だなー……」
ほろほろと零れる桜を眺め、口を開けた。欠伸が出る。
「駄目だ、眠い。」
目を閉じ、体を横にする。政宗殿!? と素っ頓狂な声が上がった。
「具合いいんだよなぁ、これ……」
薄く目を開け、微笑みかける。幸村の顔が赤くなる。
桜が零れる空。傍らには好いた人。腹は満ちて陽気も最高。山菜も摂れたしあとは
山を降りるだけ。
絶好の昼寝日和だ。
幸村は一番綺麗に握れた握り飯を幸村の手に置いた。幸村は顔を輝かせて握り飯を頬張る。
目を細め、頬を蕩けさせて無心に頬張る様子はどんな言葉より雄弁だ。
「うまいか?」
髪についた桜の花弁を摘みながら微笑みかける。幸村はごくりと飯を飲んだ。
「……大変に」
「変な言葉使うなよ」
笑って桜を見上げる。懐から帳面と矢立を取り出し、思いついた和歌をしたためる。
「君がため 吉野の山の まきのはの ときはに花の 色やそはまし」
横から幸村が覗き込んで読み上げる。政宗は肩と肘を使って幸村を遠ざけた。
「お前まだだろ。さっさと作れ」
「上田で吉野を詠まれるとは心外にござる」
「じゃあここを上田に変えれば問題ねぇだろ」
「吉野」の部分に線を引き、「上田」と書き直す。折角の歌が汚くなった。改心の出来だったのに。
今日のご飯はもう適当でいいや。
「何故吉野にござるか」
「桜っつったら吉野だろうが。万葉の時代からの常識だぜ?」
なんとなくそっちの方が収まりがいいと思っただけだ。
「吉野に行きたいのか?」
「……別に、行きたいところなんかねぇよ。上田に骨埋めるつもりだし」
矢立と帳面を懐にしまい、握り飯を頬張った。いつもと同じ炊き方をした飯なのに、
握って別の場所で食べるとどうしてこんなにうまいのだろう。
隣に、幸村がいるせいだろうか。
(ま、なんでもいいか)
鮭の身と皮を分け、身を幸村に譲る。皮をおいしく頂く。鮭は皮の部分が一番うまいと
信じている。しょっぱいだけの身なんかうまくないと思うのだが、幸村はじつにうまそうに食べる。
「政宗殿が作られるものは、なんでもうまいな!」
「……世辞はよせ」
一本つけてやるか。焼酎が好きなんだよなこいつ。うまそうなやつが手に入ったからそれを出そう。
政宗はぐうっと体を伸ばした。顔を上げれば鈍い色の青空と桜が広がっている。
「綺麗だなー……」
ほろほろと零れる桜を眺め、口を開けた。欠伸が出る。
「駄目だ、眠い。」
目を閉じ、体を横にする。政宗殿!? と素っ頓狂な声が上がった。
「具合いいんだよなぁ、これ……」
薄く目を開け、微笑みかける。幸村の顔が赤くなる。
桜が零れる空。傍らには好いた人。腹は満ちて陽気も最高。山菜も摂れたしあとは
山を降りるだけ。
絶好の昼寝日和だ。
いちゃつくのならそう言ってよね、と佐助はため息をついた。
そっと遠ざかって木の中に姿を消しても二人は気づかない。
昨日帰ってきたばかりのときの、ぎくしゃくした空気が嘘みたいだ。
幸村は帳面と矢立を持ってうんうん唸って和歌を考えていたが、やがて思考を放棄した。
顔を俯け舟を漕ぎ始めたので涎落とすなよ、と念じておく。利くかどうかは分からない。
女中や下男が「お方様が元気ないんですうぅ」と騒いでいたのを、二人は果たして知っているのかどうか。
(ところでさ、膝枕って普通逆じゃないの?)
桜の花弁を褥の代わりに午睡を取る二人を見て、佐助は首を傾げた。
そっと遠ざかって木の中に姿を消しても二人は気づかない。
昨日帰ってきたばかりのときの、ぎくしゃくした空気が嘘みたいだ。
幸村は帳面と矢立を持ってうんうん唸って和歌を考えていたが、やがて思考を放棄した。
顔を俯け舟を漕ぎ始めたので涎落とすなよ、と念じておく。利くかどうかは分からない。
女中や下男が「お方様が元気ないんですうぅ」と騒いでいたのを、二人は果たして知っているのかどうか。
(ところでさ、膝枕って普通逆じゃないの?)
桜の花弁を褥の代わりに午睡を取る二人を見て、佐助は首を傾げた。
まぁいいか。どうせうちの旦那と奥方、普通じゃないし。
以上。
幸村の焼酎好きと政宗の鮭の皮好きは史実らしい。
桜の和歌はかの有名な醍醐の花見で詠んだものを流用させていただいた。
あと、矢立というのは携帯用筆記具のこと。
幸村の焼酎好きと政宗の鮭の皮好きは史実らしい。
桜の和歌はかの有名な醍醐の花見で詠んだものを流用させていただいた。
あと、矢立というのは携帯用筆記具のこと。




