わかってる。そんな表情も寂しそうな仕草も、全部偽物なんだ。すべて座興ですよ、と戦の度に言う光秀。
大事なものなんか何一つなくて、だから執着も背負うものもないから自由。愛してると夢見る顔で呟く信長ですら、
一生を誓うものではないのだろう。
『そんな事ありません。私は皆大好きです。愛してますよ、もちろん蘭丸、あなたもね』
戦の後、煙と火の粉にまかれながら口付けされた。ふいに落された唇は、血塗れなのにどうしてか味がしなかった。
「溶けてしまいます。早く食べましょ、かき氷」
木苺の実を潰して、蜂蜜とともにかけた氷を自棄糞になって掻きこんだ。頭痛がしてうずくまると光秀がけらけら笑った。
赤く小さな果実の味は、多すぎる蜜に誤魔化されてただ甘いだけになっている。でも蘭丸は知っている。
これは、本当はもっと酸味のきつい味なのだ。
赤い赤い、命を固めたみたいに酸っぱい実。甘さなんて微かにしかないのに、でも美味しいと感じた。
子供の舌にも妙に優しい。悔しい。そういえばいつか光秀が、血の味は慣れるととても甘いのだと言っていた。
慣れるまでは鉄の味しかしないのに。どうしてでしょうね?穏やかに笑った。今、祭を楽しんでいるのと同じ笑顔で。
「うんやっぱり、これで良かった。ありがとうございます」
「え、何が?」
「何がって、蘭丸が選んでくれたんじゃないですか、帯留めと髪飾り」
そうだった。色が合わない形がいまいち気に喰わないと、濃姫と光秀は二つの飾りを決めるのに偉く手間取っていたのだ。
焦れた蘭丸が手に取ったのは、蜘蛛をかたどった黒い鋼の揃いの物だった。
光秀の髪にかけられた巣から、細い鎖が垂れてゆらゆらと蜘蛛が存在を主張する。
少し乱れた白い髪は本物の蜘蛛の糸より真実に近い。
「気持ち悪いお前には気持ち悪いものがお似合いだからな」
「はいはい。ありがとうございます、ね」
お土産に木苺買ってゆきましょうね、と光秀が言う。そこの露店でざるに山盛り売ってます。皆でたくさん食べましょう。
甘くして煮るのもいいですね。ちょっと酸味が強いかもしれませんから。
また誤魔化されるのか。誰が、何をとは蘭丸は考えない。ただ甘くされる。子供だから?自分は信長ではないから?
うやむやにしているのは自分の方だと、蘭丸は気付かない。見えなかったことにしよう。子供だから。
「お砂糖たくさん入れましょうね。」
光秀は笑っている。
血よりも赤い木苺と、蜘蛛の糸より白い髪。鍋に放り込んで砂糖を嫌になるほどかけて、そうして、
どろどろと煮詰まっていく。
大事なものなんか何一つなくて、だから執着も背負うものもないから自由。愛してると夢見る顔で呟く信長ですら、
一生を誓うものではないのだろう。
『そんな事ありません。私は皆大好きです。愛してますよ、もちろん蘭丸、あなたもね』
戦の後、煙と火の粉にまかれながら口付けされた。ふいに落された唇は、血塗れなのにどうしてか味がしなかった。
「溶けてしまいます。早く食べましょ、かき氷」
木苺の実を潰して、蜂蜜とともにかけた氷を自棄糞になって掻きこんだ。頭痛がしてうずくまると光秀がけらけら笑った。
赤く小さな果実の味は、多すぎる蜜に誤魔化されてただ甘いだけになっている。でも蘭丸は知っている。
これは、本当はもっと酸味のきつい味なのだ。
赤い赤い、命を固めたみたいに酸っぱい実。甘さなんて微かにしかないのに、でも美味しいと感じた。
子供の舌にも妙に優しい。悔しい。そういえばいつか光秀が、血の味は慣れるととても甘いのだと言っていた。
慣れるまでは鉄の味しかしないのに。どうしてでしょうね?穏やかに笑った。今、祭を楽しんでいるのと同じ笑顔で。
「うんやっぱり、これで良かった。ありがとうございます」
「え、何が?」
「何がって、蘭丸が選んでくれたんじゃないですか、帯留めと髪飾り」
そうだった。色が合わない形がいまいち気に喰わないと、濃姫と光秀は二つの飾りを決めるのに偉く手間取っていたのだ。
焦れた蘭丸が手に取ったのは、蜘蛛をかたどった黒い鋼の揃いの物だった。
光秀の髪にかけられた巣から、細い鎖が垂れてゆらゆらと蜘蛛が存在を主張する。
少し乱れた白い髪は本物の蜘蛛の糸より真実に近い。
「気持ち悪いお前には気持ち悪いものがお似合いだからな」
「はいはい。ありがとうございます、ね」
お土産に木苺買ってゆきましょうね、と光秀が言う。そこの露店でざるに山盛り売ってます。皆でたくさん食べましょう。
甘くして煮るのもいいですね。ちょっと酸味が強いかもしれませんから。
また誤魔化されるのか。誰が、何をとは蘭丸は考えない。ただ甘くされる。子供だから?自分は信長ではないから?
うやむやにしているのは自分の方だと、蘭丸は気付かない。見えなかったことにしよう。子供だから。
「お砂糖たくさん入れましょうね。」
光秀は笑っている。
血よりも赤い木苺と、蜘蛛の糸より白い髪。鍋に放り込んで砂糖を嫌になるほどかけて、そうして、
どろどろと煮詰まっていく。
おしまい。




