「んだよ」
「城下まで、野菜の苗木を買いに行く。甘味くらいは奢ってやるから、付き合え」
「何で俺が…」
「テメェが一緒だと、市場のヤツらの『さーびす』が良いからだ。あと何故か、
お前が選んだ種や苗木は、良く実る」
「……わーったよ。葛きりにみたらし、うぐいす餅で手を打つぜ」
出された条件に渋々と応える割りには、元親は、軽い身のこなしで小十郎の用
意してきた馬に跨った。
そんな彼女の様子を、当然とばかりに見届けると、小十郎は驚愕の態度を隠せ
ない伊達の精鋭達に、やや鋭い一瞥をくれながら、自分もまた馬に跨る。
『ふたりを乗せた』馬を、残された男達は敗北感と奇妙な疑惑を持て余しなが
ら、呆然と見送っていた。
「城下まで、野菜の苗木を買いに行く。甘味くらいは奢ってやるから、付き合え」
「何で俺が…」
「テメェが一緒だと、市場のヤツらの『さーびす』が良いからだ。あと何故か、
お前が選んだ種や苗木は、良く実る」
「……わーったよ。葛きりにみたらし、うぐいす餅で手を打つぜ」
出された条件に渋々と応える割りには、元親は、軽い身のこなしで小十郎の用
意してきた馬に跨った。
そんな彼女の様子を、当然とばかりに見届けると、小十郎は驚愕の態度を隠せ
ない伊達の精鋭達に、やや鋭い一瞥をくれながら、自分もまた馬に跨る。
『ふたりを乗せた』馬を、残された男達は敗北感と奇妙な疑惑を持て余しなが
ら、呆然と見送っていた。
「……あれからだいぶ月日が経つってのに、あのふたり、まーだ気付いてない
のかよ。なあ、梵天」
「へ…?あ…な、何?」
「…ったく、こっちはこっちで、上の空だし」
自室の窓の外で、物思いに耽る政宗の姿を、成実は呆れながら眺める。
「長曾我部のしがらみは解けたとはいえ、あのふたりを何とかしないと、軍の
士気にも関わるぜ?今のお前なら、もう大丈夫だろう?」
「…ああ、そうだな。やっぱ、いつまでもこのままって訳には……」
「失礼します、政宗様。たった今、甲斐から政宗様宛の書簡が…」
「──え、マジ!?」
掛けられた言葉に、政宗は何処か上ずった声と共に、勢い良く部屋を走り去
ってしまった。
のかよ。なあ、梵天」
「へ…?あ…な、何?」
「…ったく、こっちはこっちで、上の空だし」
自室の窓の外で、物思いに耽る政宗の姿を、成実は呆れながら眺める。
「長曾我部のしがらみは解けたとはいえ、あのふたりを何とかしないと、軍の
士気にも関わるぜ?今のお前なら、もう大丈夫だろう?」
「…ああ、そうだな。やっぱ、いつまでもこのままって訳には……」
「失礼します、政宗様。たった今、甲斐から政宗様宛の書簡が…」
「──え、マジ!?」
掛けられた言葉に、政宗は何処か上ずった声と共に、勢い良く部屋を走り去
ってしまった。
元親の一件から暫くして、政宗はお忍びで出掛けた先で、甲斐の若者と知り
合った。
純朴ながら、心根の真っ直ぐなその若者に、はじめは頑なだった政宗の心
は、ゆっくりと解かされ、以来、書簡や日記を往復させては、互いの想いを綴
り、確かめ合っているという。
最近では、もうすぐ行われる祭りの時、お忍びで奥州に来るという若者の為
に、政宗は、早くも夢中で様々な支度を始めているのだ。
「……この中でまともなの、俺ひとりかよ。大丈夫か、奥州……」
バタバタと廊下を駆けていく従姉の妙に嬉しそうな後姿に、成実は深い溜息を
吐くと、大きく脱力した。
合った。
純朴ながら、心根の真っ直ぐなその若者に、はじめは頑なだった政宗の心
は、ゆっくりと解かされ、以来、書簡や日記を往復させては、互いの想いを綴
り、確かめ合っているという。
最近では、もうすぐ行われる祭りの時、お忍びで奥州に来るという若者の為
に、政宗は、早くも夢中で様々な支度を始めているのだ。
「……この中でまともなの、俺ひとりかよ。大丈夫か、奥州……」
バタバタと廊下を駆けていく従姉の妙に嬉しそうな後姿に、成実は深い溜息を
吐くと、大きく脱力した。
市場の主人に破格の待遇を受けた元親は、約束どおり小十郎に、甘味屋へ連れ
て行って貰うと、目的の品に舌鼓を打った。
「アンタ、食わないのかよ?」
「見てるだけで、腹いっぱいだ。良くそんなに食えるな」
「デカいからな。その分、腹も減るんだよ。何だったら、先に帰ってていいぜ?」
「テメェみたいな危なっかしいヤツ、ひとりにさせられるか」
「ンだよ、ヒトの事子供みたいに」
「ガキだ、お前は。……そうでないと、困る」
「…?」
濁された語尾に、元親は訝しげな顔をする。
小十郎は小十郎で、自分達を…特に、元親に注がれる視線から避けようと、己
の上着を脱ぐと、彼女の肩に掛けた。
「何だよ?」
「羽織ってろ。テメェは目立ち過ぎる」
「俺の何処がだよ。そりゃ、女にしてはデカいけど、他のヤツらと変わんね
ぇだろ!?」
「デカいのは、身体だけじゃねぇからだ!その……!」
続ける代わりに、小十郎の視線が、元親のたわわな胸元に注がれる。
すると、
て行って貰うと、目的の品に舌鼓を打った。
「アンタ、食わないのかよ?」
「見てるだけで、腹いっぱいだ。良くそんなに食えるな」
「デカいからな。その分、腹も減るんだよ。何だったら、先に帰ってていいぜ?」
「テメェみたいな危なっかしいヤツ、ひとりにさせられるか」
「ンだよ、ヒトの事子供みたいに」
「ガキだ、お前は。……そうでないと、困る」
「…?」
濁された語尾に、元親は訝しげな顔をする。
小十郎は小十郎で、自分達を…特に、元親に注がれる視線から避けようと、己
の上着を脱ぐと、彼女の肩に掛けた。
「何だよ?」
「羽織ってろ。テメェは目立ち過ぎる」
「俺の何処がだよ。そりゃ、女にしてはデカいけど、他のヤツらと変わんね
ぇだろ!?」
「デカいのは、身体だけじゃねぇからだ!その……!」
続ける代わりに、小十郎の視線が、元親のたわわな胸元に注がれる。
すると、
「ぁ…ゃ…やだ……」
甘味の器を脇にどけると、元親は心底恥ずかしそうに頬を染めながら、掛けら
れた上着の前を押さえたのだ。
そのあまりにもしおらしく、普段の彼女からは想像もつかない仕草を見て、小
十郎も僅かに顔を紅潮させた。
れた上着の前を押さえたのだ。
そのあまりにもしおらしく、普段の彼女からは想像もつかない仕草を見て、小
十郎も僅かに顔を紅潮させた。
「……恥ずかしがるくらいなら、最初っから、それなりの格好をして来ねぇか!」
「だ、だって、アンタが急に変な事言うからだろ!?だから俺、妙に意識しち
まって……」
「な…!?ヒトの所為にすんじゃねぇ!」
「いーや、ゼッタイアンタの所為だ!もう、俺帰る!」
「待て!お前ひとりじゃ迷うだろうが!止まれ!この……『元親』!」
「──!今になって、馴れ馴れしく名前呼ぶなよぉ!!」
「あ、コラ!待ちやがれ!」
「だ、だって、アンタが急に変な事言うからだろ!?だから俺、妙に意識しち
まって……」
「な…!?ヒトの所為にすんじゃねぇ!」
「いーや、ゼッタイアンタの所為だ!もう、俺帰る!」
「待て!お前ひとりじゃ迷うだろうが!止まれ!この……『元親』!」
「──!今になって、馴れ馴れしく名前呼ぶなよぉ!!」
「あ、コラ!待ちやがれ!」
鼓膜と心に響いた呼び声に、元親は、これ以上ないほど顔を赤らめると、自分
に向かって来る男から、避けるように足を急がせた。
そして小十郎もまた、素早く甘味屋へ料金を渡すと、自分から遠ざかる元親を
逃がさんとばかりに、追いかけ始めたのである。
に向かって来る男から、避けるように足を急がせた。
そして小十郎もまた、素早く甘味屋へ料金を渡すと、自分から遠ざかる元親を
逃がさんとばかりに、追いかけ始めたのである。
──果たして、その追跡劇の行方は。
──了──




