まただ、と思い、市はひそかに柳眉を寄せた。いくさの後は、必ずこうなる。
魔王の妹、浅井の妖妻、として、この乱世に英名を馳せる市はあるけれど、
薙刀を振るい敵兵を屠る殺戮の時は、市にとって苦痛しかもたらさなかった。
敵の断末魔の魂消るような叫び声、塵埃立ち込める戦場の生臭い空気――
どれも耐え難く気味悪く、めまいを起こして嘔吐したことも度々であった。
それでも、凶器を手に戦場に立ち続けるのは、長政がそこにいるからだ。
彼を守らねばならぬと思うからだ。長政は織田の血を有す市を邪険にするが、
それでも彼が死ぬことは浅井家の終焉を意味する。浅井家が滅べば、
また新たな戦乱が勃発し、市の身空はどこへ行き着くかわかららない。
そんなみじめな未来だけは……どうしても迎えたくないのだ。
(『長政様を愛しているから、おそばにいたい、守りたい』。
……市も、そんなことばが、言えればいいのに)
瞳を伏せて市はかすかなため息をつく。
脳裏に浮かんでくるのは義姉の濃姫のあでやかな立ち姿だ。
彼女には家の興亡などは念頭になく、ただ織田信長という男のためだけに戦地へ立つ。
美しい人だ、潔い人、そしてなにより……強い人だ。
彼女の中にあるのは夫への限りない畏敬と愛情……それだけなのだから。
(市はぜったいにあんなふうになれない……
おねえさまとは違いすぎる……
長政様をお慕いしているけれど……愛しては、いない、のだから)
暗い諦観を抱きながら、市は細い指を陰部に指を滑らせる。
――はじめて長政に抱かれたときは痛いばかりで、
この狭い部位を広げられ、圧されて貫かれ裂かれる激痛にひたすら翻弄されていた。
実直で一本気な彼は、寝所でも自分の信念を曲げることはなかった――
すなわち、自分本位に身勝手に快楽を求めるだけで、市は少しも
悦境へ至ることができなかったのだ。
一人遊び5
魔王の妹、浅井の妖妻、として、この乱世に英名を馳せる市はあるけれど、
薙刀を振るい敵兵を屠る殺戮の時は、市にとって苦痛しかもたらさなかった。
敵の断末魔の魂消るような叫び声、塵埃立ち込める戦場の生臭い空気――
どれも耐え難く気味悪く、めまいを起こして嘔吐したことも度々であった。
それでも、凶器を手に戦場に立ち続けるのは、長政がそこにいるからだ。
彼を守らねばならぬと思うからだ。長政は織田の血を有す市を邪険にするが、
それでも彼が死ぬことは浅井家の終焉を意味する。浅井家が滅べば、
また新たな戦乱が勃発し、市の身空はどこへ行き着くかわかららない。
そんなみじめな未来だけは……どうしても迎えたくないのだ。
(『長政様を愛しているから、おそばにいたい、守りたい』。
……市も、そんなことばが、言えればいいのに)
瞳を伏せて市はかすかなため息をつく。
脳裏に浮かんでくるのは義姉の濃姫のあでやかな立ち姿だ。
彼女には家の興亡などは念頭になく、ただ織田信長という男のためだけに戦地へ立つ。
美しい人だ、潔い人、そしてなにより……強い人だ。
彼女の中にあるのは夫への限りない畏敬と愛情……それだけなのだから。
(市はぜったいにあんなふうになれない……
おねえさまとは違いすぎる……
長政様をお慕いしているけれど……愛しては、いない、のだから)
暗い諦観を抱きながら、市は細い指を陰部に指を滑らせる。
――はじめて長政に抱かれたときは痛いばかりで、
この狭い部位を広げられ、圧されて貫かれ裂かれる激痛にひたすら翻弄されていた。
実直で一本気な彼は、寝所でも自分の信念を曲げることはなかった――
すなわち、自分本位に身勝手に快楽を求めるだけで、市は少しも
悦境へ至ることができなかったのだ。
一人遊び5