最後に見たのは濃いヒゲ面にして赤子の体、鳥の羽を持つ何かだった。
呆然としているうちに後頭部に衝撃を受け──
呆然としているうちに後頭部に衝撃を受け──
「ぬぅぁぁぁああああああああ!後頭部が!いたむぅぅぅぅうううううぁああああ!」
それからどれだけ経ったものか。気がついたのでとりあえず叫んだ。腹の底から声を出す事により気を体に巡らせて己の体調を知り、また活性化させる──
後に民明書房にも載る事となる、武田流朝の健康法である。
「だろうねえ、旦那でっかいタンコブできてる」
かけられた声は遙か頭上から聞こえる。室内でどうやって凧にのって、と振り仰ごうとするも、体が動かない。
なにやら、もいん、としたものが自分の体に回っているのだ。ううむこれはまるで、お館様に抱きすくめられた上のし掛かられているような、と気づき息を吸い込む。
真実お館様であれば、この直後関節を極められる。
「オーウ!怖くナイ、怖くナイヨ!」
だが、耳打ちされた言葉はぎこちない発音の、見知らぬ女のもの。
ふっと力を抜いた直後、再度もいんもいんと肩から首筋から後ろ頭まで何かが当たった。
「ホラ、怖くナイネ?」
どうやらこのもぬもぬした何かに挟まれているせいで首も動かないらしい。
餅ではなし、馬の腹でも無し、お館様の頬でもない。
「はあ。怖くはござりませぬが、そなた一体」
「ザビーとヨンデー!バーニングファイヤー・プロジェクト真田!」
何を言っているのか解らない。これは政宗の同類だろうか。ならば至極腕が立つはず、と思案する。
「旦那、敵の親分」
「ななななんと!」
腹筋を駆使し無理矢理体を起こし、勢い余って背中から倒れる。と、もいんもいんもいんと頭がやけに揺らされ目が回る。だが、確かに天井から吊された佐助を見つけた。
みのむしのような、と言いたいところだが、海老ぞるような体勢でひっ括られている佐助は吊された篭にしか見えない。
無論海老ぞり如きでどうにかなる佐助ではなく、幸村はこれっぽちも心配しなかった。
「敵じゃナイヨ!愛スルため…ァハァン…何度モ…星座の瞬キ数エ…巡り会ッタのヨー!」
もいんもいんとした揺れの合間に敵の大将が抗弁する。言葉の合間合間に荒い息を付いており、結果的に背を叩きつけた衝撃はそれなりのものだったのだと知れた。
「初対面でござる!そして佐助!捕まるとは情けない!今すぐ解いてやるから俺の槍を持て!」
「どうやって!」
吊された佐助は遠すぎ、声は聞こえるが表情は解らない。何故この珍奇な城は斯様に天井が高いのか。
「忍びのやる事に不可能はあるまい!槍さえあれば佐助の所までたどり着けよう!だから早く出さぬか!」
「旦那、一寸ばかし浮かべたからって調子に乗らない!俺様縄ごと切られる気はないからねっ!?」
いつも通りの叱責を浴び、幸村はいやしかし気合いさえこめれば一寸が三十尺程度に伸びるかもしれぬだろうと口の中でもごもごと呟いた。拗ねた小声が届く距離ではなく、佐助の返答はない。
「オーウ、コレが放置プレイネー!……バーニン、モミモミしながら無視はイヤッ!」
代わりに感極まった、カタコトの声が返る。そう、いつまでも捕らえられているから問題なのだ、熱く燃える魂と気合いでもって脱出すればいい。
「何を言っているか解らぬ!ううううぉぉぉおっ……!佐助ェ!出られぬぅぅぅ!」
頭を振ろうと、身もがこうと、体を拘束する……恐らく腕と足らしき何かがふりほどけない。もいんもゆんと暴れた力が全て吸収されているのだ。
「オホッ!そんなに激シクしたら、……ザビー感ジチャウ!バーニーン!……バニー真ァ田!カーワイーイ!」
「何を言っておるか!いいから離せ!離さぬかぁぁぁ!」
それにしても、このたゆたゆもゆもゆしたものは何なのだ、と幸村は苛立った。鳥もちでもあるまいに、首を持ち上げてもひっついてのび、ぱいんぱいんと引き戻す。そのたび前後左右に頭が揺られ、気分が悪くなりそうだった。
それからどれだけ経ったものか。気がついたのでとりあえず叫んだ。腹の底から声を出す事により気を体に巡らせて己の体調を知り、また活性化させる──
後に民明書房にも載る事となる、武田流朝の健康法である。
「だろうねえ、旦那でっかいタンコブできてる」
かけられた声は遙か頭上から聞こえる。室内でどうやって凧にのって、と振り仰ごうとするも、体が動かない。
なにやら、もいん、としたものが自分の体に回っているのだ。ううむこれはまるで、お館様に抱きすくめられた上のし掛かられているような、と気づき息を吸い込む。
真実お館様であれば、この直後関節を極められる。
「オーウ!怖くナイ、怖くナイヨ!」
だが、耳打ちされた言葉はぎこちない発音の、見知らぬ女のもの。
ふっと力を抜いた直後、再度もいんもいんと肩から首筋から後ろ頭まで何かが当たった。
「ホラ、怖くナイネ?」
どうやらこのもぬもぬした何かに挟まれているせいで首も動かないらしい。
餅ではなし、馬の腹でも無し、お館様の頬でもない。
「はあ。怖くはござりませぬが、そなた一体」
「ザビーとヨンデー!バーニングファイヤー・プロジェクト真田!」
何を言っているのか解らない。これは政宗の同類だろうか。ならば至極腕が立つはず、と思案する。
「旦那、敵の親分」
「ななななんと!」
腹筋を駆使し無理矢理体を起こし、勢い余って背中から倒れる。と、もいんもいんもいんと頭がやけに揺らされ目が回る。だが、確かに天井から吊された佐助を見つけた。
みのむしのような、と言いたいところだが、海老ぞるような体勢でひっ括られている佐助は吊された篭にしか見えない。
無論海老ぞり如きでどうにかなる佐助ではなく、幸村はこれっぽちも心配しなかった。
「敵じゃナイヨ!愛スルため…ァハァン…何度モ…星座の瞬キ数エ…巡り会ッタのヨー!」
もいんもいんとした揺れの合間に敵の大将が抗弁する。言葉の合間合間に荒い息を付いており、結果的に背を叩きつけた衝撃はそれなりのものだったのだと知れた。
「初対面でござる!そして佐助!捕まるとは情けない!今すぐ解いてやるから俺の槍を持て!」
「どうやって!」
吊された佐助は遠すぎ、声は聞こえるが表情は解らない。何故この珍奇な城は斯様に天井が高いのか。
「忍びのやる事に不可能はあるまい!槍さえあれば佐助の所までたどり着けよう!だから早く出さぬか!」
「旦那、一寸ばかし浮かべたからって調子に乗らない!俺様縄ごと切られる気はないからねっ!?」
いつも通りの叱責を浴び、幸村はいやしかし気合いさえこめれば一寸が三十尺程度に伸びるかもしれぬだろうと口の中でもごもごと呟いた。拗ねた小声が届く距離ではなく、佐助の返答はない。
「オーウ、コレが放置プレイネー!……バーニン、モミモミしながら無視はイヤッ!」
代わりに感極まった、カタコトの声が返る。そう、いつまでも捕らえられているから問題なのだ、熱く燃える魂と気合いでもって脱出すればいい。
「何を言っているか解らぬ!ううううぉぉぉおっ……!佐助ェ!出られぬぅぅぅ!」
頭を振ろうと、身もがこうと、体を拘束する……恐らく腕と足らしき何かがふりほどけない。もいんもゆんと暴れた力が全て吸収されているのだ。
「オホッ!そんなに激シクしたら、……ザビー感ジチャウ!バーニーン!……バニー真ァ田!カーワイーイ!」
「何を言っておるか!いいから離せ!離さぬかぁぁぁ!」
それにしても、このたゆたゆもゆもゆしたものは何なのだ、と幸村は苛立った。鳥もちでもあるまいに、首を持ち上げてもひっついてのび、ぱいんぱいんと引き戻す。そのたび前後左右に頭が揺られ、気分が悪くなりそうだった。