髪を梳き、幸村は紐を箱にしまった。箱は既に、小十郎がよこしたもので一杯になっている。
最初は飴玉だった。幸村はそれを、小十郎が見ている前で捨てた。頬を叩かれ、そのまま犯された。
それから、幸村が寝ている隙に小間物をよこすようになった。よくもまあこんなに、と
一杯になった箱を見て感心する。捨てれば酷く犯されるため、こうしてしまうようになった。
どれも一度も使った事はない。
何度も逃亡を図り、何度も小十郎を殺そうとした。
その度に捕らえられ、逃げるなと脅され、捕らわれて犯される。何かにつけて
犯されるため、陵辱に対して何も感じなくなった。
それから、幸村が寝ている隙に小間物をよこすようになった。よくもまあこんなに、と
一杯になった箱を見て感心する。捨てれば酷く犯されるため、こうしてしまうようになった。
どれも一度も使った事はない。
何度も逃亡を図り、何度も小十郎を殺そうとした。
その度に捕らえられ、逃げるなと脅され、捕らわれて犯される。何かにつけて
犯されるため、陵辱に対して何も感じなくなった。
女を囲っているつもりなのか、処遇を決めかねているのか分からない。
裸でいる訳にもいかず与えられた着物を着ているが、美しい着物ばかりで戸惑ってしまう。
そのくせ与える小間物は安物で、紅は鉛が多く使われている粗悪品だった。
裸でいる訳にもいかず与えられた着物を着ているが、美しい着物ばかりで戸惑ってしまう。
そのくせ与える小間物は安物で、紅は鉛が多く使われている粗悪品だった。
「お食事をお持ちしました」
女中が食事を運んでくる。幸村は頷き、膳の前に座った。
女中が給仕をする中、幸村は黙々と箸を動かした。互いにろくに言葉を交わしたことはないが、
ここに閉じ込められてから毎日顔を合わせている。腕の立つ女だということは、ふとした仕草からも十分見て取れた。
最初は食事を拒んだが、小十郎に圧し掛かられて無理やり食べさせられて以来、
おとなしく食べるようにしている。
女中が食事を運んでくる。幸村は頷き、膳の前に座った。
女中が給仕をする中、幸村は黙々と箸を動かした。互いにろくに言葉を交わしたことはないが、
ここに閉じ込められてから毎日顔を合わせている。腕の立つ女だということは、ふとした仕草からも十分見て取れた。
最初は食事を拒んだが、小十郎に圧し掛かられて無理やり食べさせられて以来、
おとなしく食べるようにしている。
いずれ、甲斐が幸村が捕らえられていることに気づくだろう。真田の忍びが
探っているかもしれない。痩せ細っていては、逃げられるものも逃げられない。
無言で野菜の浮いた汁を啜り、雑穀の混じった飯を食べる。食事はいつも質素だが、
肥えぬためにはこれくらいの方がいい。
探っているかもしれない。痩せ細っていては、逃げられるものも逃げられない。
無言で野菜の浮いた汁を啜り、雑穀の混じった飯を食べる。食事はいつも質素だが、
肥えぬためにはこれくらいの方がいい。
白湯と漬物まで平らげ、幸村は箸を置いた。女中が膳を運んでいく。
一人座敷に残され、幸村は障子の向こうを見た。縁側には格子がはまり、
閉じ込められていることを思い知らされる。
一人座敷に残され、幸村は障子の向こうを見た。縁側には格子がはまり、
閉じ込められていることを思い知らされる。
上田は、甲斐はどうなっているのだろう。死んだと言われれば、そうかと納得するだろうか。
遺骸も首も帰ってこない状況で、信玄が素直に信じるとは思えない。
遺骸も首も帰ってこない状況で、信玄が素直に信じるとは思えない。
(お館様は、ご健勝だろうか)
格子に近づき、顔を寄せた。朝日が頬を撫でて気持ちいい。
囲い女のような身に落ちても、朝日というものは温かく清々しい。
幸村を見張るような気配をいくつか感じた。おそらく、小十郎の雇った監視役だろう。
逃げるたびに数が増えたが、最近は落ち着いている。
格子に近づき、顔を寄せた。朝日が頬を撫でて気持ちいい。
囲い女のような身に落ちても、朝日というものは温かく清々しい。
幸村を見張るような気配をいくつか感じた。おそらく、小十郎の雇った監視役だろう。
逃げるたびに数が増えたが、最近は落ち着いている。
腰を下ろし、目を閉じた。水垢離で冷えた身体に、朝日の温かさは有難い。
冷水を使って体を冷やし、月のものを遠ざけていた。子を孕む可能性を、
少しでも遠ざけるためだった。
無理をしているのは分かっている。時々酷い熱を出すようになってしまった。
以前は風邪一つ引き込まず、頑丈そのものだった。
冷水を使って体を冷やし、月のものを遠ざけていた。子を孕む可能性を、
少しでも遠ざけるためだった。
無理をしているのは分かっている。時々酷い熱を出すようになってしまった。
以前は風邪一つ引き込まず、頑丈そのものだった。
――解放されるとは思えない。気まぐれならば、とうに解放されるか殺されているだろう。
着物に小間物を与え、食事も風呂も厠も自由に行ける。望めば、恐らくもっと
上等のものをよこすだろう。
着物に小間物を与え、食事も風呂も厠も自由に行ける。望めば、恐らくもっと
上等のものをよこすだろう。
捕虜とは違う。表向き行方をくらました武将など、人質としての価値は持たない。
では、これはなんだ。
好きなときに抱ける女。思いつくものは一つしかない。
では、これはなんだ。
好きなときに抱ける女。思いつくものは一つしかない。
――慰み者。
幸村は笑った。明るさなど一つもない、暗い笑みだった。




