夕刻、小十郎が現れた。幸村は書を閉じ、背を向けた。
「……甲斐でも、思っていたか」
幸村は答えない。どのように答えても、揶揄を受け、それが罵倒に変わり、
乱暴に犯される。いつものことだ。黙っていれば、それなりに扱われる。
錯覚してしまいそうなほどに。
「……甲斐でも、思っていたか」
幸村は答えない。どのように答えても、揶揄を受け、それが罵倒に変わり、
乱暴に犯される。いつものことだ。黙っていれば、それなりに扱われる。
錯覚してしまいそうなほどに。
「信玄公は、元気だそうだ。今川が滅んだが、領土は織田ではなくて武田のものになったって話だ」
「――まことか」
「――まことか」
振り向くと、小十郎は笑っていた。軍略家としての笑みだった。揶揄が含まれていない
笑みを見るのは、はじめてのことだった。
「嘘をついてどうする。今、三河の徳川と緊張しているな。徳川は、国土こそ小さいが家臣団の結束力と本多忠勝がいる。――どちらが勝つと思う」
「無論、お館様だ。……だが、本多殿は侮れぬ。武田騎馬軍団とて、そうたやすくは
本多殿を討ち取ることはできぬであろう」
小十郎は幸村の傍に座った。柱に身体を預け、幸村を見た。
「お前なら、どう討ち取る」
「俺なら……一騎討ちだ。全力で向かうが、不利と見れば引く」
「引くのか。――お前がか?」
「俺が死んだら、武田に動揺が広がる。それでは意味がない。俺が本多殿と何度も
一騎討ちを行っている間に、他の家中の方が徳川家臣団を崩す。そうなれば、徳川家康と
いえど無事ではすまぬであろう」
「――なるほど。真田幸村と本多忠勝の一騎討ちとあっては、どんな戦局もくらんでしまうな」
小十郎が笑っている。幸村ははっと我に返った。
笑みを見るのは、はじめてのことだった。
「嘘をついてどうする。今、三河の徳川と緊張しているな。徳川は、国土こそ小さいが家臣団の結束力と本多忠勝がいる。――どちらが勝つと思う」
「無論、お館様だ。……だが、本多殿は侮れぬ。武田騎馬軍団とて、そうたやすくは
本多殿を討ち取ることはできぬであろう」
小十郎は幸村の傍に座った。柱に身体を預け、幸村を見た。
「お前なら、どう討ち取る」
「俺なら……一騎討ちだ。全力で向かうが、不利と見れば引く」
「引くのか。――お前がか?」
「俺が死んだら、武田に動揺が広がる。それでは意味がない。俺が本多殿と何度も
一騎討ちを行っている間に、他の家中の方が徳川家臣団を崩す。そうなれば、徳川家康と
いえど無事ではすまぬであろう」
「――なるほど。真田幸村と本多忠勝の一騎討ちとあっては、どんな戦局もくらんでしまうな」
小十郎が笑っている。幸村ははっと我に返った。
この男と戦について語り合うのは、初めてのことだ。まともな会話すら交わしたことはない。
罵り、嘲り、犯される。
愛情も友情も芽生えるはずがない関係だ。
「――なにが、おかしい」
「いや。ただの猪武者かと思っていたが、違うみたいじゃねぇか」
顎を取られ、思わず手を払った。
しまった、と息を飲む。小十郎は幸村を机に押し付けた。足袋を履いた足が滑り、踏ん張ることができない。
「人の好意にも、素直になれねぇのか」
「誰が……」
甲斐が駿河を取った。それだけを話しに来たはずがない。
気配が膨れ上がった。喉を締められ、息が止まる。帯を解かれて腕を縛られた。
胸を潰すように握られ、痛みに顔をしかめた。
逃げようと体をよじるが、四肢を封じられ机に背を押し付けられたまま
起き上がれるはずもなく、体を机に押し付けるだけだった。
背中越しに愛撫を感じた。着物の裾をまくり上げ、小十郎は幸村の尻を担いだ。
腿の内側に唇と歯を感じた。
罵り、嘲り、犯される。
愛情も友情も芽生えるはずがない関係だ。
「――なにが、おかしい」
「いや。ただの猪武者かと思っていたが、違うみたいじゃねぇか」
顎を取られ、思わず手を払った。
しまった、と息を飲む。小十郎は幸村を机に押し付けた。足袋を履いた足が滑り、踏ん張ることができない。
「人の好意にも、素直になれねぇのか」
「誰が……」
甲斐が駿河を取った。それだけを話しに来たはずがない。
気配が膨れ上がった。喉を締められ、息が止まる。帯を解かれて腕を縛られた。
胸を潰すように握られ、痛みに顔をしかめた。
逃げようと体をよじるが、四肢を封じられ机に背を押し付けられたまま
起き上がれるはずもなく、体を机に押し付けるだけだった。
背中越しに愛撫を感じた。着物の裾をまくり上げ、小十郎は幸村の尻を担いだ。
腿の内側に唇と歯を感じた。
「ぅ……」
拳を握り、目をきつく閉じた。
女陰を小十郎の眼前に晒すことになり、恥辱に顔が火照る。
舌を感じた。心と違って身体は快楽に震え、小十郎を受け入れるために濡れていく。
言葉といえば罵倒や揶揄であり、触れ合いといえば陵辱である。それが、二人の間柄だ。
軍略や兵法を語るような間柄でも、情を交わすような間柄でもない。
縛られた手が、何よりも雄弁に物語っている。
舌を浅く差し込まれ、蜜を肉芽に塗りこまれ、食まれ、舐められ、あっという間に
達してしまう。息つく間もなく貫かれ、休むことすら許されない。
文机に身体を寝かせ、辱めに耐えた。乱暴に突きこまれ、身体を揺すられ、
声ではなく涙が漏れて袖に滲んだ。
拳を握り、目をきつく閉じた。
女陰を小十郎の眼前に晒すことになり、恥辱に顔が火照る。
舌を感じた。心と違って身体は快楽に震え、小十郎を受け入れるために濡れていく。
言葉といえば罵倒や揶揄であり、触れ合いといえば陵辱である。それが、二人の間柄だ。
軍略や兵法を語るような間柄でも、情を交わすような間柄でもない。
縛られた手が、何よりも雄弁に物語っている。
舌を浅く差し込まれ、蜜を肉芽に塗りこまれ、食まれ、舐められ、あっという間に
達してしまう。息つく間もなく貫かれ、休むことすら許されない。
文机に身体を寝かせ、辱めに耐えた。乱暴に突きこまれ、身体を揺すられ、
声ではなく涙が漏れて袖に滲んだ。
薄闇が広がっていく。甲斐は、今どうなっているのだろう。幸村以外の誰が
先陣を務めているのだろう。真田の忍隊は、誰が指揮を取っているのだろう。
考えてもどうしようもないことだ。
捕らわれて、辱めを受けて、貪り尽くされている。
先陣を務めているのだろう。真田の忍隊は、誰が指揮を取っているのだろう。
考えてもどうしようもないことだ。
捕らわれて、辱めを受けて、貪り尽くされている。
――もう……いい……
身体が熱い。ひどく頭が痛む。絶望が心を蝕んでいく。
精を感じた。ああ、と声を漏らす。
くたりとその場にしゃがみ込んだ。涙が溢れて止まらない。
「おい……」
小十郎の声が戸惑っている。これはなんだろう。気遣われているのだろうか。
慣れてしまった感覚だった。小十郎だって知っているはずだ。熱を出して
胃の腑の中の物を全部吐き出した後でも、抱きに来たではないか。
精を感じた。ああ、と声を漏らす。
くたりとその場にしゃがみ込んだ。涙が溢れて止まらない。
「おい……」
小十郎の声が戸惑っている。これはなんだろう。気遣われているのだろうか。
慣れてしまった感覚だった。小十郎だって知っているはずだ。熱を出して
胃の腑の中の物を全部吐き出した後でも、抱きに来たではないか。
――今更、気遣うな。




