その思い人はつい半日程前に、慶次のことは対象外だ、といったような意味のことを、口にした。
星の数ほど女はいれども、今、手に入れたい女はこの者一人だというのに、
向こうはそう思っていないらしい。
何が原因で嫌われたのかは見当がつかない。
否、心当たりはあって、それはやはりあの晩のことだ。
振り返れば、はじめてだという相手に随分無体なことをしたと慶次は思う。
あのとき元就は泣いて嫌がっていたようにも思う。
腹を空かせた犬のようにがっついて、夜中まで付き合わせた、それが響いているのかもしれない。
星の数ほど女はいれども、今、手に入れたい女はこの者一人だというのに、
向こうはそう思っていないらしい。
何が原因で嫌われたのかは見当がつかない。
否、心当たりはあって、それはやはりあの晩のことだ。
振り返れば、はじめてだという相手に随分無体なことをしたと慶次は思う。
あのとき元就は泣いて嫌がっていたようにも思う。
腹を空かせた犬のようにがっついて、夜中まで付き合わせた、それが響いているのかもしれない。
慶次が思考に没頭しているのは、現状を把握しようとしているからだ。
後ろの温もりが、もぞりと動いた。
後ろの温もりが、もぞりと動いた。
今は夜。
暗い空には満月が浮かび、冴え冴えとした光で雲を照らしている。
鈴虫の鳴く声が随分大きく聞こえて煩い。
慶次は身じろぎをして布団の中の体を丸めた。
…………後ろの温もりが、懸命に慶次の帯をとこうとしている。
勝手が分からないらしく、悪戦苦闘している様子だ。
その細い腕やしなやかな手が背中や脇腹を夜着越しに掠るたび、
ぴくりと反応しそうになる己の体を慶次は意志の力で必死に押さえつけていた。
後ろの相手が誰だかは分かっている。
しかし何故このようなことになっているかが、慶次には分からない。
己のことは対象外ではなかったのか。
慶次の女か、と、聞かれて、「そのような者ではない」と、元就は言った。
では、これは、何だというのだ。
帯が解かれた。
夜着の合わせ目から入ってきた細い指に、腹筋をなぞられる。
先程から頭をよぎるのは、りんごあめを舐める元就の舌だ。
ああやって一月前は俺の体を、と、思うだけで雄が昂ぶる。
しばらく腹を撫でていた指が、下に降りようとしている。
これ以上のことをされたら我慢が出来ない。
慶次は、うなされるふりで呟いた。
暗い空には満月が浮かび、冴え冴えとした光で雲を照らしている。
鈴虫の鳴く声が随分大きく聞こえて煩い。
慶次は身じろぎをして布団の中の体を丸めた。
…………後ろの温もりが、懸命に慶次の帯をとこうとしている。
勝手が分からないらしく、悪戦苦闘している様子だ。
その細い腕やしなやかな手が背中や脇腹を夜着越しに掠るたび、
ぴくりと反応しそうになる己の体を慶次は意志の力で必死に押さえつけていた。
後ろの相手が誰だかは分かっている。
しかし何故このようなことになっているかが、慶次には分からない。
己のことは対象外ではなかったのか。
慶次の女か、と、聞かれて、「そのような者ではない」と、元就は言った。
では、これは、何だというのだ。
帯が解かれた。
夜着の合わせ目から入ってきた細い指に、腹筋をなぞられる。
先程から頭をよぎるのは、りんごあめを舐める元就の舌だ。
ああやって一月前は俺の体を、と、思うだけで雄が昂ぶる。
しばらく腹を撫でていた指が、下に降りようとしている。
これ以上のことをされたら我慢が出来ない。
慶次は、うなされるふりで呟いた。
「…………やめろよ…」
後ろの温もりの動きが止まった。
やがて、その温かいものはもぞりと布団から出てゆき、
それから慶次の顔を覗き込んでいる気配がした。
逡巡した気配の後、ぺたり、と、色気の全く感じられない素振りで慶次の首筋に手を当ててくる。
そんな、医者が脈を診るような、邪気の無い触れかたでさえ
雄が反応してしまいそうになって、慶次はさらに体を丸めた。
しばらく脈を測っていた様子で、納得したのか、気配は立ち上がり、
そうっと部屋から出て行った。
忍ばせた足音が遠ざかっていく。
それから慶次の顔を覗き込んでいる気配がした。
逡巡した気配の後、ぺたり、と、色気の全く感じられない素振りで慶次の首筋に手を当ててくる。
そんな、医者が脈を診るような、邪気の無い触れかたでさえ
雄が反応してしまいそうになって、慶次はさらに体を丸めた。
しばらく脈を測っていた様子で、納得したのか、気配は立ち上がり、
そうっと部屋から出て行った。
忍ばせた足音が遠ざかっていく。
慶次は息を吐いた。