――羨ましい
最後に逢った時、故郷の事を彼女に話した。
――私には帰る所も家族も無いから
国境の大鳥居がある小さな峠には今も自分の家族が暮らしている。
「今度連れてってやるよ。何も無い所だけど」
「迷惑じゃない?」
今迄腕の中で泣いていたかすがはまだ涙の残る眼差しで佐助を見上げた。
「そんな事無い。『また娘が出来た』って喜ぶさ」
「また?」
「妹が生きてりゃ、お前と同じくらいの歳になってたからな」
危うい足取りでいつも自分の後をくっついて来た妹は、三才にならず逝ってしまった。
かすがの世話を焼くのはどこかに妹の面影を重ねていたからだ。
「正月休みに一緒に帰ろう。
ああ、でも俺、毎年親父に雪掻きさせられて休みが終るんだったな。
お袋も早く嫁さん貰えって煩くて……」
帰ろうと思った途端煩わしいあれこれを思い出してしまい、佐助は頭を抱えた。
「フフフ…」
そんな佐助を見てかすがは笑った。最初に会った時に見せた花の様な笑みだ。
「絶対連れて行く。約束だ」
「うん」
夕暮れの空に宵の明星が輝いている。
二人は初めて唇を重ねた。
絡めた舌先の柔らかさに、くすぐったい感覚とささやかな幸せを味わいながら――。
最後に逢った時、故郷の事を彼女に話した。
――私には帰る所も家族も無いから
国境の大鳥居がある小さな峠には今も自分の家族が暮らしている。
「今度連れてってやるよ。何も無い所だけど」
「迷惑じゃない?」
今迄腕の中で泣いていたかすがはまだ涙の残る眼差しで佐助を見上げた。
「そんな事無い。『また娘が出来た』って喜ぶさ」
「また?」
「妹が生きてりゃ、お前と同じくらいの歳になってたからな」
危うい足取りでいつも自分の後をくっついて来た妹は、三才にならず逝ってしまった。
かすがの世話を焼くのはどこかに妹の面影を重ねていたからだ。
「正月休みに一緒に帰ろう。
ああ、でも俺、毎年親父に雪掻きさせられて休みが終るんだったな。
お袋も早く嫁さん貰えって煩くて……」
帰ろうと思った途端煩わしいあれこれを思い出してしまい、佐助は頭を抱えた。
「フフフ…」
そんな佐助を見てかすがは笑った。最初に会った時に見せた花の様な笑みだ。
「絶対連れて行く。約束だ」
「うん」
夕暮れの空に宵の明星が輝いている。
二人は初めて唇を重ねた。
絡めた舌先の柔らかさに、くすぐったい感覚とささやかな幸せを味わいながら――。
彼女が居なくなったのは、その直後の事だった。




