「どうした?佐助」
突然足を止めた従者を見て、白い息を吐きながら幸村が馬上から尋ねた。
任を終え帰路を急いでいる所だ。
「いや…何でも無え」
「ならばぐずぐずするな。また雪が降り始めたら厄介だぞ」
若い主はせっかちに手綱を握り直した。
ただでさえ信濃は急峻な地形のせいで行軍が困難だが、これ以上雪で足止めを
食うのは何より避けたい。
「分かってますって」
答えながら佐助は妙な胸騒ぎを覚えた。
(まさか、な)
白いものがヒラリと視界を過ぎる。二人は同時に天を仰いだ。
「また降り出したか……急げ、後僅かだ!」
幸村は忌々しげに呟くと隊員達に号令した。
遅れたりはぐれたりする者が居ないか佐助は眼を光らせる。
ふと自分の掌に雪が舞い落ちるのを見た。
体温で雪が儚く融けていく様は余計な事を思い出させる。
掴んだと思ったものがすり抜けた時の苦い思い。
一度目は奪われ二度目は自分の目の前で喪い掛けた。
ふと三度目はあるのかと考え、佐助は拳を握り締め視線を隊へ戻す。
かすがに執着するのには理由があった。
彼女と居れば、普段忘れがちな人としての感情が甦る。
隠し切れない血腥さを持つ自分でも、まだ人間なのだと確認したかった。
自分が剣なら彼女は鞘で、二つ揃わなければ意味がない。
鞘を喪えば自分は返り血塗れの抜き身の剣になってしまう。
抜き身の剣は敵味方関係無く傷付け、徐々にヒビが入って最期は折れる。
かすがを喪うのは最も忌諱すべき事だった。
突然足を止めた従者を見て、白い息を吐きながら幸村が馬上から尋ねた。
任を終え帰路を急いでいる所だ。
「いや…何でも無え」
「ならばぐずぐずするな。また雪が降り始めたら厄介だぞ」
若い主はせっかちに手綱を握り直した。
ただでさえ信濃は急峻な地形のせいで行軍が困難だが、これ以上雪で足止めを
食うのは何より避けたい。
「分かってますって」
答えながら佐助は妙な胸騒ぎを覚えた。
(まさか、な)
白いものがヒラリと視界を過ぎる。二人は同時に天を仰いだ。
「また降り出したか……急げ、後僅かだ!」
幸村は忌々しげに呟くと隊員達に号令した。
遅れたりはぐれたりする者が居ないか佐助は眼を光らせる。
ふと自分の掌に雪が舞い落ちるのを見た。
体温で雪が儚く融けていく様は余計な事を思い出させる。
掴んだと思ったものがすり抜けた時の苦い思い。
一度目は奪われ二度目は自分の目の前で喪い掛けた。
ふと三度目はあるのかと考え、佐助は拳を握り締め視線を隊へ戻す。
かすがに執着するのには理由があった。
彼女と居れば、普段忘れがちな人としての感情が甦る。
隠し切れない血腥さを持つ自分でも、まだ人間なのだと確認したかった。
自分が剣なら彼女は鞘で、二つ揃わなければ意味がない。
鞘を喪えば自分は返り血塗れの抜き身の剣になってしまう。
抜き身の剣は敵味方関係無く傷付け、徐々にヒビが入って最期は折れる。
かすがを喪うのは最も忌諱すべき事だった。




