佐助は満身創痍で城の片隅で壁に背を預け胡座をかいていた。
全身の痛みで感覚が麻痺している。鉢金を外し落ちて来た髪を掻き揚げた。
城内には火が放たれ焼け落ちるのは時間の問題だった。
(なぁ…俺、これで良かったよな?)
ここに居ない彼女に問い掛ける。
突然、頬に誰かの掌が触れた。
その懐かしい感触に目を開けると、薄い浅葱色の単を着た彼女が居る。
「…嘘だろ…」
娶ってから三月半しか共に居られなかった愛しい妻。
彼女が生きていた時の思い出が次々に甦った。
初めて逢った時鞠を手渡した事。
再会した時美しくなっていて気圧された事。
彼女が叛いて敵と味方に分かれた事。
怪我をした彼女を背負って延々と歩いた事。
翡翠の簪を受け取ってくれた事――。
振り返るには遠く、眩し過ぎる日々。
群雄割拠の中陽炎の様に消えたあの日々と共に彼女は逝き、
自分は忘れ形見と共に取り残された。
赤子だった娘が今では母親の生写しだ。
「……夢でもいい、幻だっていい」
痛みを堪え生前のままの彼女に震える手を精一杯伸ばした。
「ただもう一度……お前に逢いたかった」
凍て付き枯れ果てた涙が温かく頬を濡らす。
妻の名前を呟いたものの、最早掠れて声にならない。
金の髪の柔らかい手触りも、触れた手の温もりも、まるで生きているようだ。
「流石に疲れたよ。ちょっと…一眠りさせてくれ」
佐助は妻にゆっくり凭れ掛かる。
――こんな所でうたた寝すると冷えるわよ
まだ上田に居た頃、縁側で寝そべっていると必ず妻に窘められた。
この陽気だから大丈夫だ、と佐助は言う。
そのまままどろむと小袖を掛けておいてくれたものだ。
――風邪引くぞ、馬鹿親父
佐助は僅かに笑みを浮かべる。
妻の温かい胸に抱き止められた刹那、燃え盛る天井が二人の上に崩れ落ちた。
全身の痛みで感覚が麻痺している。鉢金を外し落ちて来た髪を掻き揚げた。
城内には火が放たれ焼け落ちるのは時間の問題だった。
(なぁ…俺、これで良かったよな?)
ここに居ない彼女に問い掛ける。
突然、頬に誰かの掌が触れた。
その懐かしい感触に目を開けると、薄い浅葱色の単を着た彼女が居る。
「…嘘だろ…」
娶ってから三月半しか共に居られなかった愛しい妻。
彼女が生きていた時の思い出が次々に甦った。
初めて逢った時鞠を手渡した事。
再会した時美しくなっていて気圧された事。
彼女が叛いて敵と味方に分かれた事。
怪我をした彼女を背負って延々と歩いた事。
翡翠の簪を受け取ってくれた事――。
振り返るには遠く、眩し過ぎる日々。
群雄割拠の中陽炎の様に消えたあの日々と共に彼女は逝き、
自分は忘れ形見と共に取り残された。
赤子だった娘が今では母親の生写しだ。
「……夢でもいい、幻だっていい」
痛みを堪え生前のままの彼女に震える手を精一杯伸ばした。
「ただもう一度……お前に逢いたかった」
凍て付き枯れ果てた涙が温かく頬を濡らす。
妻の名前を呟いたものの、最早掠れて声にならない。
金の髪の柔らかい手触りも、触れた手の温もりも、まるで生きているようだ。
「流石に疲れたよ。ちょっと…一眠りさせてくれ」
佐助は妻にゆっくり凭れ掛かる。
――こんな所でうたた寝すると冷えるわよ
まだ上田に居た頃、縁側で寝そべっていると必ず妻に窘められた。
この陽気だから大丈夫だ、と佐助は言う。
そのまままどろむと小袖を掛けておいてくれたものだ。
――風邪引くぞ、馬鹿親父
佐助は僅かに笑みを浮かべる。
妻の温かい胸に抱き止められた刹那、燃え盛る天井が二人の上に崩れ落ちた。




