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矢車草の夢みたいな事3

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「秀吉。」
「もう、そのように呼ぶな!我はあの頃の我ではない。」
「秀吉。」
「慶次呼ぶなと!」
「幾らだって呼んでやるよ。お前がちゃんとこっち見るまではな!」

「……我が目を逸らしていると?」
「そうだよ。俺には分からない。分らないって、そればっか繰り返して俺から逃げたくせに!」
自分の事を棚に上げてそう叫ぶ。秀吉はそれを聞くと不意に動きがとまった。
どうしたのか分らなくて油断した。隙を付かれ、急に間合いを詰められて俺の両手は片手でひね上げられた。
「ぐ……。」
ぎり、とした痛みに思わず声が出る。
「痛いか慶次。」
当たり前のことを秀吉は聞く。
「ああ、痛いね。」
俺は負けるものかと睨み返した。

「何故だ。」
急に問いかけられて何のことか分らない。思わず秀吉の顔を見つめ返す。
秀吉は俺の方を見てはいたけれど俺から目を逸らしていた。
「何故我に構う。」
「なんでって……だって、俺たち友達だろう?」
今ではもう違うのかもしれないけれど。だけど辞めたつもりなんて一度も無かった。

「友達……。そのせいであのような目にあってもか?」
「ひで……。」
目が離せなかった。そう問いかけた秀吉の瞳の奥にあの頃と同じ、俺の好きだった秀吉と同じ光を見てしまったから。

「我はもう、お前を我に巻き込みたくは無い。」
ゆっくりと手を解かれ下に下ろされる。
何のことだか分らずに黙り込む俺に、秀吉は背を向けた。
「帰れ慶次。半兵衛を倒したのなら分っいる筈だ。目的があるのならば手段を選ぶべきでは無いのだと。」
違う。と思う。違うよ秀吉。半兵衛は――
「俺は半兵衛を倒して何かないよ。」
「どういうことだ?」
秀吉が振り返る。
「血を吐いたんだ。もう長くないって自分で言ってた。今、俺の仲間に見てもらってるけど……きっと。」
秀吉は驚いたように目を見開き、そして目を伏せた。

「半兵衛が……。我に関わる女は皆不幸になるな。」
それは俺やねねも入っているのかい?そう心で問いかける。
秀吉は顔を上げて俺を見た。口元には自嘲するかのような笑みが浮かんでいる。
一歩前に進み出て、秀吉の手がそっと俺に近づいてきた。
指先が俺の頬に触れそうになる。
だけど、秀吉は諦めたように手を振り下ろし硬く握り締めた。

「忘れろ。あの頃の我はもう死んだと思え。」
「……嫌だ。」
だんだん分ってきた。秀吉がなんでろくに俺に説明もせずの唯遠ざけようとしたのかが。

馬鹿だ。
相変わらず不器用で。
優しい秀吉が見えてくる。
「慶次!我儘を言うな!!」
「言ってるのは秀吉の方だろ!?」
目頭が熱くなってくる。
良かった。秀吉はまだ此処に居る。

「話せよ。お前が何も言わない限り、俺は……。」
「愚かな……あの時あった事を忘れたわけでは無いだろう。」
忘れる訳がない。今でも思い出すと総毛立つ。

だけど。

「……忘れた事なんか無いさ。今だって未だ怖いよ。だけど、俺の体なんて、お前が生きていてくれるなら。お前が居なくならないならどうでも良かったんだ。」

炎が迫る東大寺。
松永の浮かべる不吉な笑み。
何もかもが脳裏に焼け付いて離れない。
だけど、お前が生きていたと分かってどれ程嬉しかったか。
あの時の喜びは何事にも変えがたかった。

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