一連の会話はしっかりと幸村の耳に届いていた。
恥ずかしくて起き上がれない。
しっかりとばれている。
しかし、一体誰に会いに行っているのかはけして言えないし言いたくない。
武具に埋もれたまま、幸村はうおおおおと吼えた。
旦那うるさいよーと佐助が武具を払いながら注意してくる。
顔を上げると、佐助の顔があった。
「ねぇ旦那あ、どんなイイ女と会ってるのぉ? 教えてよぉ」
「言わぬ。例え佐助であっても言わぬ」
武具の真ん中に胡坐で座り、幸村は足の間に手を突っ込んで唇を尖らせた。
「何日も空けるよね。決まって満月のときにさー」
「り、領内を馬で駆けておるのだ!」
明らかな嘘に、佐助は目を細めた。
「……ま、敵方の間者に篭絡されてるんじゃなきゃいいけどね」
「そのような者ではない!!」
「じゃ、どのような者?」
鮮やかな切り返しに幸村は奥歯を噛んだ。
立ち上がり背中を向ける。
逃亡。
「甘いな、旦那」
佐助はぱちんと指を鳴らした。
どこからともなく湧き出した戦忍に、幸村は取り押さえられる。
貴様らーあるじを何だと思っておるー、という幸村の声がこだまする。
「佐助、よいではないか。幸村も武田の武将、そう易々と溺れはせんであろう」
豪快に笑い飛ばした後、信玄が助け舟を出した。
佐助はつまらなそうな顔をすると、戦忍たちに姿を消すよう合図をした。
忍たちが姿を消してもまだ地面に這いつくばっている幸村の近くにしゃがみ込み、顔を覗き込んだ。
真っ赤になっている。
佐助は子供の成長が楽しいという父親の気持ちってこういうのか、と一人で納得した。
「いやー、旦那に春が来るなんて思ってなくってさー。ま、いいことだけどねぇ。そのうち白粉の匂いさせて帰ってくるの? やっだー」
けたけた笑う佐助を幸村は見上げた。
幸村の視線に構わず佐助は続ける。
「そのうち「お情けをくださりませー」とか言われるんだ?」
佐助がくねっとした動きをして幸村をからかう。
幸村はぽかんとした表情を浮かべた。
「……情け?」
「据え膳てやつだよ、旦那。いいねぇ、男の夢だ」
「膳ならいつも据えてあるではないか。某、膳の用意などしたことないぞ」
信玄の豪快な笑声が弾けた。
幸村の肩をつかんで座らせ、幸村の前で腕を組んで胡坐をかく。
「幸村、情けとはな、女から男の種を貰うときの文句じゃ」
「種……」
たっぷりとした沈黙の後、幸村の顔が茹蛸のように赤く染まる。
「お、お、お館様! そそそそのような破廉恥なことおおおおお女子の口から申すなど、破廉恥極まりないでござる!!」
「破廉恥って……旦那、子供の孕ませ方知らないの?」
佐助はそれでもほんとに男ー? と幸村をつついた。
幸村も立派な男だ。
行為や結果を知らないわけではない。
が、それとこれとは話が別というもの。
女を知ったり、ましてや子を産ませるなど、まだまだ先のこと。
それに「彼女」とは、一度も、それこそ唇を交わすことすらしたことがない。
「情けないのう、幸村。それでも男か? 女の方も誘えずに焦れておるのではないか?」
「そ、そのようなこと……っ」
幸村は目をつぶってかぶりを振った。
そして、立ち上がりまた逃亡を図る。
破廉恥でござるううぅ、という幸村の絶叫が遠くなる。
佐助は信玄を仰いだ。
「放っておけ。まこと間者であれば、幸村を選ばぬであろう」
「まぁ、そうでしょうね。でも、万が一ってこともありませんか?」
「何、探られて痛いものなどないわ。わっはははは」
佐助はしょうがないなぁ、と肩をすくめた。木枯らしが身を切るように駆け抜ける。
恥ずかしくて起き上がれない。
しっかりとばれている。
しかし、一体誰に会いに行っているのかはけして言えないし言いたくない。
武具に埋もれたまま、幸村はうおおおおと吼えた。
旦那うるさいよーと佐助が武具を払いながら注意してくる。
顔を上げると、佐助の顔があった。
「ねぇ旦那あ、どんなイイ女と会ってるのぉ? 教えてよぉ」
「言わぬ。例え佐助であっても言わぬ」
武具の真ん中に胡坐で座り、幸村は足の間に手を突っ込んで唇を尖らせた。
「何日も空けるよね。決まって満月のときにさー」
「り、領内を馬で駆けておるのだ!」
明らかな嘘に、佐助は目を細めた。
「……ま、敵方の間者に篭絡されてるんじゃなきゃいいけどね」
「そのような者ではない!!」
「じゃ、どのような者?」
鮮やかな切り返しに幸村は奥歯を噛んだ。
立ち上がり背中を向ける。
逃亡。
「甘いな、旦那」
佐助はぱちんと指を鳴らした。
どこからともなく湧き出した戦忍に、幸村は取り押さえられる。
貴様らーあるじを何だと思っておるー、という幸村の声がこだまする。
「佐助、よいではないか。幸村も武田の武将、そう易々と溺れはせんであろう」
豪快に笑い飛ばした後、信玄が助け舟を出した。
佐助はつまらなそうな顔をすると、戦忍たちに姿を消すよう合図をした。
忍たちが姿を消してもまだ地面に這いつくばっている幸村の近くにしゃがみ込み、顔を覗き込んだ。
真っ赤になっている。
佐助は子供の成長が楽しいという父親の気持ちってこういうのか、と一人で納得した。
「いやー、旦那に春が来るなんて思ってなくってさー。ま、いいことだけどねぇ。そのうち白粉の匂いさせて帰ってくるの? やっだー」
けたけた笑う佐助を幸村は見上げた。
幸村の視線に構わず佐助は続ける。
「そのうち「お情けをくださりませー」とか言われるんだ?」
佐助がくねっとした動きをして幸村をからかう。
幸村はぽかんとした表情を浮かべた。
「……情け?」
「据え膳てやつだよ、旦那。いいねぇ、男の夢だ」
「膳ならいつも据えてあるではないか。某、膳の用意などしたことないぞ」
信玄の豪快な笑声が弾けた。
幸村の肩をつかんで座らせ、幸村の前で腕を組んで胡坐をかく。
「幸村、情けとはな、女から男の種を貰うときの文句じゃ」
「種……」
たっぷりとした沈黙の後、幸村の顔が茹蛸のように赤く染まる。
「お、お、お館様! そそそそのような破廉恥なことおおおおお女子の口から申すなど、破廉恥極まりないでござる!!」
「破廉恥って……旦那、子供の孕ませ方知らないの?」
佐助はそれでもほんとに男ー? と幸村をつついた。
幸村も立派な男だ。
行為や結果を知らないわけではない。
が、それとこれとは話が別というもの。
女を知ったり、ましてや子を産ませるなど、まだまだ先のこと。
それに「彼女」とは、一度も、それこそ唇を交わすことすらしたことがない。
「情けないのう、幸村。それでも男か? 女の方も誘えずに焦れておるのではないか?」
「そ、そのようなこと……っ」
幸村は目をつぶってかぶりを振った。
そして、立ち上がりまた逃亡を図る。
破廉恥でござるううぅ、という幸村の絶叫が遠くなる。
佐助は信玄を仰いだ。
「放っておけ。まこと間者であれば、幸村を選ばぬであろう」
「まぁ、そうでしょうね。でも、万が一ってこともありませんか?」
「何、探られて痛いものなどないわ。わっはははは」
佐助はしょうがないなぁ、と肩をすくめた。木枯らしが身を切るように駆け抜ける。