「旦那、文だってさ」
後日。幸村は伊達家から書状を受け取った。
函(はこ)に入った、いやに大層なものだ。
「文、で、ござるか。使者は」
「えーっとね、片倉って人。会う?」
「いや、まずは中を検めよう」
幸村は函を開けた。微かに白檀の香を嗅いだ。
後日。幸村は伊達家から書状を受け取った。
函(はこ)に入った、いやに大層なものだ。
「文、で、ござるか。使者は」
「えーっとね、片倉って人。会う?」
「いや、まずは中を検めよう」
幸村は函を開けた。微かに白檀の香を嗅いだ。
玉の緒よ 絶えなばたえね ながらへば 忍ぶることの よわりもぞする
古い和歌だった。
内容はただそれだけ。
恋をすることがこんなに辛いのなら、いっそ命が尽きてしまえばいい。
女の激しい心を詠ったものだ。政宗の心のうちが見え、幸村は笑った。
佐助がぎょっとした顔をしているが視界に入らない。
(また会いたいと、申してくれるのか)
幸村は机を漁り、墨と筆を吟味した。
これがいい、と一番上等の墨と虎の模様が入った筆を選ぶ。
「返書を書く。悪いが佐助、紙を探してくれぬか」
「いいけど。どういうのがいいの? ……って、会わない訳?」
「会わん。まだ死にたくないからな」
「――は? 旦那、伊達さんとこに何かやった? いや、俺としては別にいいよ?」
「やったといえばやった、かもしれぬ。佐助、紅の紙を探してくれ」
「……りょーかい。でも旦那、どうすんの? 毒でも仕込むなんてお茶目しちゃう?」
「白檀……は、やめておこう。余り気を使わせずかといって安くもない、となると……何がよいのか……」
「無理しなさんなよ。まったく、また消えたと思ったら長く空けて帰ってきてこんな手紙受け取って平然としてて殺されかかっててそのくせ凝った文もらっててもーなにやってんのー?」
佐助の言葉がちくちくと刺さるのを感じながら、幸村は埃をかぶっている和歌集をひっくり返す作業を始めた。
内容はただそれだけ。
恋をすることがこんなに辛いのなら、いっそ命が尽きてしまえばいい。
女の激しい心を詠ったものだ。政宗の心のうちが見え、幸村は笑った。
佐助がぎょっとした顔をしているが視界に入らない。
(また会いたいと、申してくれるのか)
幸村は机を漁り、墨と筆を吟味した。
これがいい、と一番上等の墨と虎の模様が入った筆を選ぶ。
「返書を書く。悪いが佐助、紙を探してくれぬか」
「いいけど。どういうのがいいの? ……って、会わない訳?」
「会わん。まだ死にたくないからな」
「――は? 旦那、伊達さんとこに何かやった? いや、俺としては別にいいよ?」
「やったといえばやった、かもしれぬ。佐助、紅の紙を探してくれ」
「……りょーかい。でも旦那、どうすんの? 毒でも仕込むなんてお茶目しちゃう?」
「白檀……は、やめておこう。余り気を使わせずかといって安くもない、となると……何がよいのか……」
「無理しなさんなよ。まったく、また消えたと思ったら長く空けて帰ってきてこんな手紙受け取って平然としてて殺されかかっててそのくせ凝った文もらっててもーなにやってんのー?」
佐助の言葉がちくちくと刺さるのを感じながら、幸村は埃をかぶっている和歌集をひっくり返す作業を始めた。
小十郎から返書を受け取り、政宗は緊張しながら函を開ける。
淡い紅に染められた紙と、幸村の首に下げられている六文銭があった。
間近で見ると、かなりしっかりした細工物だと気づかされる。
文を開くと、幸村直筆らしい豪快な字でこれまた古い和歌がしたためられている。
淡い紅に染められた紙と、幸村の首に下げられている六文銭があった。
間近で見ると、かなりしっかりした細工物だと気づかされる。
文を開くと、幸村直筆らしい豪快な字でこれまた古い和歌がしたためられている。
あまつかぜ 雲のかよひぢ 吹きとぢよ 乙女のすがた しばしとどめむ
天を吹く風よ、どうか雲で道を閉じてしまっておくれ。天女の姿をもう少し留めておこうではないか。
(嫁に来いと?)
そしてこれを返せと。
政宗は微笑み、六文銭を手に取った。一度唇に触れてから函にしまう。
「政宗様。恐れながら――」
「何かあったら、喰らってしまえばいい」
「しかし」
「Gofuckyourself(黙れ)! 俺がいいっつってんだ。間違いなんざあるわけねぇ!」
小十郎はぐっと奥歯をかみ締めてうつむいた。
政宗は腰を落とし、小十郎の顎に手をやって上を向かせた。
笑う。鮮烈な、竜の恫喝。
「あいつを殺すのは俺だ。戦場でヤってやるよ。毒だの暗殺だの、粋じゃねえ」
「しかし、政宗様」
「小十郎。お前は、伊達政宗一の家臣だろ? だったら」
「……御意」
政宗は上等、と笑うと立ち上がり、廊下の向こうに消えた。
所詮は女か。いやそれともあれが筆頭たる者のあるべき姿なのか。
小十郎は胸のうちに黒い物が湧き上がるのを感じた。胸をつかんでやり過ごす。
けれどあの笑い方は記憶の中にある「伊達政宗」そのもので、一体どちらがどちらなのか小十郎には区別がつかなくなっていた。
従おう。それが己の道なのだ。
政宗の笑い声が聞こえる。
心底楽しそうな声に対し、小十郎は低く、頭を下げた。
(嫁に来いと?)
そしてこれを返せと。
政宗は微笑み、六文銭を手に取った。一度唇に触れてから函にしまう。
「政宗様。恐れながら――」
「何かあったら、喰らってしまえばいい」
「しかし」
「Gofuckyourself(黙れ)! 俺がいいっつってんだ。間違いなんざあるわけねぇ!」
小十郎はぐっと奥歯をかみ締めてうつむいた。
政宗は腰を落とし、小十郎の顎に手をやって上を向かせた。
笑う。鮮烈な、竜の恫喝。
「あいつを殺すのは俺だ。戦場でヤってやるよ。毒だの暗殺だの、粋じゃねえ」
「しかし、政宗様」
「小十郎。お前は、伊達政宗一の家臣だろ? だったら」
「……御意」
政宗は上等、と笑うと立ち上がり、廊下の向こうに消えた。
所詮は女か。いやそれともあれが筆頭たる者のあるべき姿なのか。
小十郎は胸のうちに黒い物が湧き上がるのを感じた。胸をつかんでやり過ごす。
けれどあの笑い方は記憶の中にある「伊達政宗」そのもので、一体どちらがどちらなのか小十郎には区別がつかなくなっていた。
従おう。それが己の道なのだ。
政宗の笑い声が聞こえる。
心底楽しそうな声に対し、小十郎は低く、頭を下げた。




