概要
この論考は、ファシズムの本質、歴史的文脈、およびその批判点を考察したものである。ミュンヘン一揆100周年およびナチス政権獲得90周年に際し、アナキズムやリバタリアニズムの注目の中でファシズムを再考するものである。ファシズムを「結束主義」と訳し、階級協調を基盤とする一方で、その実践的な失敗と理論的欠陥を指摘する。左翼の失敗がファシズムの台頭を招いた点や、サンディカリズムからの起源を強調し、最終的にファシズムの本質を組合運動・共同体運動として再定義する。
背景
ファシズムの定義と誤用
ファシズムは、第二次世界大戦後の敗北とマルクス主義諸国によるレッテル貼りにより、本質が曖昧になった。言葉の氾濫が学界でも指摘され、例えば日本の岸田政権や安倍政権を「ネオファシズム」と呼ぶ例がある。論考では、ファシズムを民族の結束(協調)として定義し、階級闘争を否定しつつ階級的要求を飲ませる闘争は認めるものとする。
左翼の政治的失敗
第一次世界大戦後、イタリアやドイツでマルクス主義・社会主義勢力が拡大したが、内部分裂と無能により敗北した。イタリアでは1920年の工場占拠が革命の頂点だったが、社会党の準備不足と分裂がファシズムの台頭を許した。ドイツでは社会民主党と共産党の分裂がナチスに利用され、「社会ファシズム論」が共闘を阻害した。これらの失敗が労働者の失望を招き、ファシズム支持を増大させた。論考は、ブルジョア民主主義とファシズムの質的差異を無視した左翼の誤りを指摘。ブルジョア民主主義は労働運動の合法性を保証する前提であり、ファシズム脅威時には反ファシズム連合を追求すべきだったとする。これが1934年のフランス人民戦線につながった。
理論的基盤
サンディカリズムの影響
ファシズムは革命的サンディカリズム(労働組合主義)から生まれた。ムッソリーニはジョルジュ・ソレルの弟子を自称し、「行動→理論」の実践を重視。サンディカリズムは一定の教義なく、闘争を通じて革命を「遭遇」するものとした。ファシズム体制下ではナショナルサンディカリズム(コーポラティズム)として機能し、職能別組織による国家運営を目指した。
国家の役割
ファシズムは自由主義経済と統制経済の折衷を掲げ、反大資本・反マルクス主義を主張。国家は福祉、制度、市場の監視を担い、私有財産を維持しつつ生産管理を労働組合に委ねる。ムッソリーニは階級の多様性を認め、職能別組織の協調による評議会を構想。これは議会制民主主義より民主的とされた。ナチスも「ドイツ労働戦線」で階級対立を廃止し、民族共同体を目指した。
暴力の信仰と未来派
ソレルの『暴力論』が影響を与え、プロレタリア暴力は英雄的で世界を救うとする。神話は全体性として機能し、歴史的実在を問わず運動の基礎とする。イタリア未来派のフィリッポ・トンマーゾ・マリネッティは『未来派宣言』で戦争・軍国主義・破壊を賛美し、ファシズムの加速主義的側面を形成。マリネッティはファシスト党の前身に参加した。
戦争と反民主主義
第一次世界大戦がファシズム高揚の要因。レーニンは戦争を内乱に転化せよとしたが、ムッソリーニは革命戦争と捉え参戦を支持。戦後の議会制民主主義不信が反民主主義を生み、マルクス主義者や自由主義者を標的にした。ファシズムは議会を手段として利用し、信仰せず。ヒトラーやゲッベルスは政権獲得後、反対派の手段を認めないと宣言。
大衆運動としてのファシズム
ポピュリズムと大衆の統一
ファシズムは大衆運動で、中間層の欲求不満を基盤にナショナリズムと憎悪で統一。ボリシェビキ同様、宗教的性格を持ち、共通の敵(ユダヤ人やブルジョワジー)を煽る。ユダヤ人問題はファシズム固有ではなく、当時の一般的なものとする。
前衛党への移行
大衆運動から党へ移行し、統制が取れなくなる。ムッソリーニは1921年にファシスト党を前衛党とし、党内民主主義を呈したが、中央集権化。ナチスもバンベルク会議でヒトラーの絶対性を確立し、左派を粛清(長いナイフの夜)。これが大衆と党の分断を招き、真の革命から遠ざかった。
マルクス主義的解釈の批判
コミンテルンはファシズムを「資本の公然たる独裁」とし、資本主義の必然的段階としたが誤り。ファシズムは小市民の第三の道で、資本家を利用した。経済状況が台頭の要因だが、本質は政治的・ナショナリズム的。トロツキーは結果として独占資本従属となったが、特異性を保ったとする。
上からのファシズム
後進国(ポルトガル、スペイン、日本、南米)では大衆不在のため、軍による上からのファシズムが出現。日本は昭和維新運動(五・一五事件、二・二六事件)。ポルトガルはサラザールのエスタド・ノヴォ体制、スペインはフランコ体制で、中立を維持し長続きした。
ファシズム体制の現実と批判
理想(階級協調、国家監視)は敗戦や腐敗で崩壊。ポルトガルでは農村貧困が続き、スペインでは労働者参加が実現せず、資本家迎合。フランコ体制は封建制回帰で、反動的。ファシズム批判は独裁・反ユダヤ主義ではなく、固有の問題(中央集権化、資本迎合)を抽出すべき。アナキズムとの関連で、ファシズムはアナキズムの実践(サンディカリズム)の監視役。両者は実践的に同質だが、前衛党の欠陥が腐敗を招いた。
まとめ
ファシズムの本質は組合運動・共同体運動。サンディカリズムの原点に戻り、労働者自主管理(職場の民主化、生産手段共同所有)が必要。反独裁の独裁、反前衛の党を建設し、20世紀の反省を活かす。