疎外とは、人間が本来自己のものであるはずの活動や関係、存在様態から切り離され、自己にとって異質なものとして経験される状態を指す概念である。哲学史においてはヘーゲルに始まり、社会理論においてはカール・マルクスによって中心的概念として展開された。
ヘーゲルにおける疎外
ヘーゲルは『精神現象学』において、精神が自己を外化し、対象化し、それを通して再び自己へと回帰する運動を描いた。この過程は自己展開の契機であり、疎外(Entäußerung)は否定的であると同時に弁証法的発展の契機でもあった。ここでの疎外は、精神の自己展開に内在する必然的段階である。
マルクスにおける疎外
マルクスは初期著作『経済学・哲学草稿』において、資本主義社会における労働の疎外を分析した。労働者は自らの労働成果を自己のものとしてではなく、資本の所有物として経験する。その結果、労働は自己実現の活動ではなく、生存のための外的強制となる。マルクスは疎外を、労働からの疎外、労働生産物からの疎外、類的存在(Gattungswesen)からの疎外、他者からの疎外という連関的構造として論じた。