自分がいた時代から10年先の週刊誌を手に入れた伊月。
しかも、そこには自分がアシスタントをしている漫画が、なぜか自分名義で掲載されていたのだ。
傍から見れば、なんとも奇妙な出来事に戸惑いながらも、伊月は言葉を発した。
しかも、そこには自分がアシスタントをしている漫画が、なぜか自分名義で掲載されていたのだ。
傍から見れば、なんとも奇妙な出来事に戸惑いながらも、伊月は言葉を発した。
「あ………あはは……奇妙なことってあるものですね。
怪物にアンドロイドの宇宙人に私と同じ名前の人が描いた漫画、見たことのないことだらけですよ!!」
怪物にアンドロイドの宇宙人に私と同じ名前の人が描いた漫画、見たことのないことだらけですよ!!」
しどろもどろになりながらも、言葉を紡いだ伊月に対し、リルルは冷静に切り返す。
「違うわ。それはあなたの漫画よ。」
「流石にそれはあり得ませんよ。10年後のジャンプがあるのはおかしいです。」
「流石にそれはあり得ませんよ。10年後のジャンプがあるのはおかしいです。」
頑なにその漫画を自分のものだと認めない伊月。
それに対し、リルルはその事実を肯定するための、カードを切る。
それに対し、リルルはその事実を肯定するための、カードを切る。
「じゃあ、その漫画をもう一度私に見せてみて。」
藍野伊月に支給された、「ヘブンズ・ドアー」のDISC。
この説明書が正しく、なおかつこの『ホワイトナイト』がアイノイツキが描いた漫画なら、リルルがその漫画を見た際に、スタンドは発動するはずだ。
この説明書が正しく、なおかつこの『ホワイトナイト』がアイノイツキが描いた漫画なら、リルルがその漫画を見た際に、スタンドは発動するはずだ。
言われた通り、中身を見せる伊月。
絵を見るだけでも、凄まじいインパクトを受ける。
まるで中のキャラクターが、本当に出てくるかのようだ。
いや、例え話ではなく、本当に彼女が描いた主人公が出てきている。
その瞬間、漫画が光に包まれ、リルルの顔は本のようになってしまった。
絵を見るだけでも、凄まじいインパクトを受ける。
まるで中のキャラクターが、本当に出てくるかのようだ。
いや、例え話ではなく、本当に彼女が描いた主人公が出てきている。
その瞬間、漫画が光に包まれ、リルルの顔は本のようになってしまった。
「すごい!すごい!すごい!!」
伊月が興奮したのは、ホワイトナイトの持ち主が、彼女自身であったということではない。
伊月が興奮したのは、ホワイトナイトの持ち主が、彼女自身であったということではない。
本と化したリルルに、彼女を作ってきたことが、一つ一つ詳細に載っていたからだ。
元々、この戦いを取材と認識していた彼女にとって、嬉しいことこの上ない結果だった。
元々、この戦いを取材と認識していた彼女にとって、嬉しいことこの上ない結果だった。
先ほどリルルと行った情報交換は、最低限な物だけ。
しかし、彼女という本には、メカトピアの歴史や社会から、彼女が出会った人間まで、顔にびっしりと書き込まれていた。
しかし、彼女という本には、メカトピアの歴史や社会から、彼女が出会った人間まで、顔にびっしりと書き込まれていた。
「野比のび太……ドラえもん……剛田武……源静香……骨川スネ夫……ジュド……エトセトラエトセトラ………。」
興奮しながら、ページをめくっていく。
興奮しながら、ページをめくっていく。
「ねえ。」
「あっ、すみません!こんなことして、プライバシーの侵害ですよね!!」
「あっ、すみません!こんなことして、プライバシーの侵害ですよね!!」
えらく常識的なことで謝る伊月に対し、リルルはこう語る。
本のようになったまま口の部分のみがパクパク動くのは、どこかシュールだ。
本のようになったまま口の部分のみがパクパク動くのは、どこかシュールだ。
「どうでもいいわ。それより何か書いてみない?」
ヘブンズ・ドアーの相手の情報を読み取る以外の、もう一つの能力。
それは本にした相手のページに書き込むことで、相手の行動・記憶を本体の思うとおりに制御することが出来る。
それは本にした相手のページに書き込むことで、相手の行動・記憶を本体の思うとおりに制御することが出来る。
「私、ありのままのリルルさんが知りたいから、こんなことしたくないんですよね。」
リルルの提案に対し、これまたズレた回答で、拒否する伊月。
リルルの提案に対し、これまたズレた回答で、拒否する伊月。
「そんなこと言ってる場合じゃないわ。この能力、ヘタすればこのゲームからの脱出も可能になるかもしれないのよ。
『この会場から脱出できる』とか、マーダーを全員倒せる力が手に入るとか書けば、それで解決じゃない?」
『この会場から脱出できる』とか、マーダーを全員倒せる力が手に入るとか書けば、それで解決じゃない?」
「あっ、確かにそうですね。でももしそれが出来るなら、こんなものが支給されていない気が……。」
漫画でも、物語が一瞬で破綻してしまうような道具、能力などは導入されないのが普通だ。
この戦いが一つの物語になるというなら、そのようなバランスブレイカーは混ざってないはずだ。
この戦いが一つの物語になるというなら、そのようなバランスブレイカーは混ざってないはずだ。
そう思いながら、『リルルがいた世界へ戻れる』と書き込む伊月。
「やはり、ダメみたいです。」
その他にもあれこれ書いてみるが、結局このゲームを盤上から引っ繰り返せそうな内容は、ほとんど消えてしまった。
その他にもあれこれ書いてみるが、結局このゲームを盤上から引っ繰り返せそうな内容は、ほとんど消えてしまった。
「やはり、その対策はしてあるみたいね。」
「これはこれでいいんじゃないですか?あっさり終わってしまったら、面白くないですよ。
それに書きたいことは一つだけ書き込めたんで。」
「これはこれでいいんじゃないですか?あっさり終わってしまったら、面白くないですよ。
それに書きたいことは一つだけ書き込めたんで。」
嬉しそうに笑う伊月。
何が嬉しいのか面白くないのか、言ってることがさっぱりわからないと思っていた瞬間、放送が流れた。
何が嬉しいのか面白くないのか、言ってることがさっぱりわからないと思っていた瞬間、放送が流れた。
『聞け! この地に集いし全てのものたちよ!』
ミルドラースの放送が会場全土に響き渡る。
★
『さて……最後に、私の名を告げておこうか。私は”ミルドラース”。魔界の王にして王の中の王である。願わくば最後に私の前に立つものが、勇者に相応しい者である事を望む』
「ミルドラース……ですか。是非ともゲームや漫画でしか見たことのなかった魔界がどういう世界か、知りたいですね!!」
「無事に生き残れたらね。あと、ミルドラースが漫画を読んでくれるような人ならいいけれど。」
「無事に生き残れたらね。あと、ミルドラースが漫画を読んでくれるような人ならいいけれど。」
元の顔に戻ったリルルが、興奮しすぎて辺りが見えなくなっていた伊月に声をかける。
どうやら、集中力が別の方に向くと、スタンド効果は途切れるようだ。
どうやら、集中力が別の方に向くと、スタンド効果は途切れるようだ。
「それと、早速転送されたって言ってた名簿見てみない?
誰が参加させられているか、気になるわ。」
誰が参加させられているか、気になるわ。」
「うわ!名前からして、凄い人がいますよこれ!!」
伊月がそう言うのも、納得できる話だった。
伊月がそう言うのも、納得できる話だった。
「印刷ミス?同じ勇者って名前の人が二人いるわね……!?」
リルルは『勇者』、『勇者』と書かれた箇所を怪訝に見つめるが、その後すぐに重要なことに気づいた。
「この人って……。」
「そんな……佐々木先生まで!?」
一番最初に目を引いたのは、伊月から聞いた名前。
佐々木哲平という随分とありふれた名前だが、『藍野伊月』のすぐ上にあるので、彼だと断定して間違いないだろう。
伊月のためにも是非とも会って、真相を問い詰めたい相手だ。
「そんな……佐々木先生まで!?」
一番最初に目を引いたのは、伊月から聞いた名前。
佐々木哲平という随分とありふれた名前だが、『藍野伊月』のすぐ上にあるので、彼だと断定して間違いないだろう。
伊月のためにも是非とも会って、真相を問い詰めたい相手だ。
「佐々木先生はこんな所で死んでいい人ではありません!!
一刻も早く見つけないと……。」
一刻も早く見つけないと……。」
盗作された決定的な証拠を突き止めてなお、佐々木哲平を先生と呼ぶ藍野伊月。
それを傍で見たリルルは、実は彼女がヘブンズ・ドアーで、『佐々木哲平を咎めることは出来ない』と書いてあるのではないかと疑ってしまうくらいだった。
それを傍で見たリルルは、実は彼女がヘブンズ・ドアーで、『佐々木哲平を咎めることは出来ない』と書いてあるのではないかと疑ってしまうくらいだった。
「ねえ。あなた本当に、佐々木哲平を信頼しているの?」
「リルルさんは知らないから疑っているだけです、佐々木先生に、一度会ってみれば私と同じ考えを持つ、素晴らしい人だってわかりますよ。」
「あなた、もう少し誰かの悪意ってものを知った方がいいわよ。」
「リルルさんは知らないから疑っているだけです、佐々木先生に、一度会ってみれば私と同じ考えを持つ、素晴らしい人だってわかりますよ。」
「あなた、もう少し誰かの悪意ってものを知った方がいいわよ。」
リルルの言葉をなおも釈然としない表情で受け止める伊月。
彼女はどうにも、悪意に疎すぎると思った。
先ほど彼女と会話した際に、伊月は漫画を破られるようないじめを受けて、引きこもりになったのだと聞いた。
伊月自身はいじめより面白いものがあれば誰もそのようなことはしなくなると言っていたが、リルルは全く思わなかった。
彼女はどうにも、悪意に疎すぎると思った。
先ほど彼女と会話した際に、伊月は漫画を破られるようないじめを受けて、引きこもりになったのだと聞いた。
伊月自身はいじめより面白いものがあれば誰もそのようなことはしなくなると言っていたが、リルルは全く思わなかった。
たとえホワイトナイトのような面白いものがあったとしても、誰かに対して自らの悪意をぶつける者はいる。
健康で文化的な生活を送ることが出来る資本を持ちながらも、その生活に満たされず、他者から何かを奪おうとする者だっている。
そのような悪意を知らないことは、日常ではもちろん、このような殺し合いの場では、致命的な欠点ではないのかと疑った。
健康で文化的な生活を送ることが出来る資本を持ちながらも、その生活に満たされず、他者から何かを奪おうとする者だっている。
そのような悪意を知らないことは、日常ではもちろん、このような殺し合いの場では、致命的な欠点ではないのかと疑った。
しかし、彼女にとって佐々木哲平以上に見つけなければならない人物が、名簿に二名掲載されていた。
自分の敵であり、そして命の恩人でもある存在。
ドラえもん、野比のび太。
自分の敵であり、そして命の恩人でもある存在。
ドラえもん、野比のび太。
彼の仲間たちやジュドはどうしているのか分からないが、彼らはこんな所で失われていい命ではない。
たとえ人間を守るにせよ、殺すにせよ、彼女にとって重要な人物になりうるはずだ。
一刻も早く、彼らを見つけて、この戦いから脱出しなければならない。
たとえ人間を守るにせよ、殺すにせよ、彼女にとって重要な人物になりうるはずだ。
一刻も早く、彼らを見つけて、この戦いから脱出しなければならない。
「伊月さん。ここから先は、私の行きたい場所へ向かっていい?」
これまでは伊月に先導を任せておいたリルルが、急に目的地を提案する。
「え?良いですが、どこのことですか?」
これまでは伊月に先導を任せておいたリルルが、急に目的地を提案する。
「え?良いですが、どこのことですか?」
リルルは地図の北東部分を指さす。
「この『ジャンク・ジャンクション』よ。工場地帯というなら、何か……。」
『首輪解除の部品』
『首輪解除の部品』
リルルは言葉を発しながら、支給品の紙を一枚取り出し、真に必要なことを書く。
「え!?リルルさんってくb………。」
首輪のことを言おうとした伊月の口を、慌ててふさぐ。
首輪のことを言おうとした伊月の口を、慌ててふさぐ。
「ロボットに簡易的な修理を施す技術くらいならあるわ。」
『首輪 設計 シンプル』
『首輪 設計 シンプル』
「え!?」
彼女の技術力は、既に伊月のスタンドで見抜いていた。
だが、首輪の解除まで取り掛かると告げられれば、驚いてしまう。
彼女の技術力は、既に伊月のスタンドで見抜いていた。
だが、首輪の解除まで取り掛かると告げられれば、驚いてしまう。
『盗聴 〇 盗撮 ×』
『音しかこちらの方には聞こえないということですか?』
『カメラ レンズ ない』
『音しかこちらの方には聞こえないということですか?』
『カメラ レンズ ない』
リルルの言う通り、首輪には外側も内側も、それらしきものはなかった。
ただし、内側をなぞってみると、首輪に小さな穴があることに気づいた。
流石に監視機器を設置する位置にしては、首しか見えなくなってしまう以上、それがカメラだという可能性は極めて低い。
恐らくそこから音を取り入れているのだろうと、伊月も断定した。
ただし、内側をなぞってみると、首輪に小さな穴があることに気づいた。
流石に監視機器を設置する位置にしては、首しか見えなくなってしまう以上、それがカメラだという可能性は極めて低い。
恐らくそこから音を取り入れているのだろうと、伊月も断定した。
『工具 欲しい』
逆に、必要な道具さえあれば、解除の可能性が出てくる。
逆に、必要な道具さえあれば、解除の可能性が出てくる。
「じゃあ、行きましょう!!」
「ええ。私の飛行能力を使えば、そこまで大変でもないと思うわ。」
「え……?飛行能力!?」
「メカトピアのロボットなら多くが持っている機能よ。さっきスタンドで私のこと、よく知ったんじゃなかったの?」
飛行能力に疑問を抱きながらも、伊月は筆談の紙を破き、出発しようとする。
「ええ。私の飛行能力を使えば、そこまで大変でもないと思うわ。」
「え……?飛行能力!?」
「メカトピアのロボットなら多くが持っている機能よ。さっきスタンドで私のこと、よく知ったんじゃなかったの?」
飛行能力に疑問を抱きながらも、伊月は筆談の紙を破き、出発しようとする。
しかし、他者ばかりを心配している場合ではないことに、すぐに気付くことになる。
彼女らがいた市街地に、一人の危険な男が入ってきた。