「ここは……、私は何故このような場所にいるのかしら……?」
殺し合いの舞台の何処か、緑色の瞳に毛先が緑色の透き通るような白い髪を植物をモチーフとした特徴的な髪飾りでサイドテールに纏め、背中にマントのような特徴的な装飾を付けた緑と白で彩られた優雅なワンピースを着た幼い少女が自らの置かれた状況に困惑の色を隠せないでいた。
彼女の名はナヒーダ、とある世界に存在する大陸、テイワット大陸に存在する7つの国「モンド」「璃月」「稲妻」「スメール」「フォンテーヌ」「ナタ」「スネージナヤ」を治める「俗世の七執政」と呼ばれる7柱の魔神の一柱で、7つの国の中で「知恵」の国「スメール」の統治を任されている少女である。
とは言っても彼女がスメールにおいて人々から統治者として認められたのはつい最近の話であり、500年前のカーンルイアにおける戦乱において彼女は力を使い果たして力と知恵を失った幼い少女となってしまい、その事によって彼女を見限ったスメールの行政機関「教令院」の賢者達に裏切られ、力と知恵を失ってしまったが故に抵抗することすら出来ずにスラサタンナ聖処にある瞑想のための外界遮断装置の中に閉じ込められ、更に賢者たちが装置を改造したことで内部から操作できないようにされた上に外部から厳重なロックをかけられてしまったことで脱出不可能な状態にされたことで500年近くの長きにわたって装置の中に監禁拘束され続けた上に、更に教令院が掌握したスメールの巨大コンピューター「アーカーシャ」から提供された技術とスネージナヤの特殊部隊「ファデュイ」が教令院を支援したことで実現した計画「創神計画」によってスメールを支配する新たな神が創造されることで不要な存在として処分されそうになったことに絶望したものの、同時期にスメールを訪れた旅人とパイモン、及び彼女と同盟を結んだ神の目の所有者たちによる決死の救出作戦によって教令院の手から救出され晴れて自由の身となり、その後自ら「創神計画」によってファトゥス執行官序列六位「散兵」をコアとして造り出された人造神「正機の神」七葉寂照秘密主に対して旅人と共に戦いを挑み、500年の年月をかけて取り戻した力と知恵、そしてスメールの民全ての知恵と旅人の協力を全て駆使したことによって七葉寂照秘密主の破壊に成功することによって「創神計画」を阻止することに成功し、現在では無事スメールの民たちからスメールを統治する神として認められ、これから民たちと共に新たな一歩を踏み出そうとした矢先に今回の殺し合いに巻き込まれてしまったのだ。
(何故このようなことに……、まさかまた教令院とファデュイが手を組んで……、いや、それは有り得ないと言っていいわね。)
ナヒーダは最初、自身を始末するために再び教令院とファデュイが手を組んでこのような事を仕組んだのかと考えたのだが、様々な要因から「それは有り得ない」とその考えを一蹴する。
まず第一にファデュイがスメール及び自身を再び狙う理由が無いという事だ。「創神計画」の要であった七葉寂照秘密主は自身と旅人の手によって破壊され、コアとなった散兵も今は自身が個人的に保護していた。それに彼らの目的であった「草の神の心」も散兵戦の直後にファトゥス執行官序列2位「博士」が現れ、戦闘になりかけたため自らの実力では博士に勝てないと考え、彼と交渉することで散兵から回収した「雷の神の心」と自身の「草の神の心」を引き渡すことと引き換えに、博士の分身体全ての破壊と知恵の神である自身でも抗えない位有益な情報を提供するという事で交渉は成立し、それを最後にファデュイはスメールから完全に撤退したため、自身は神の心を既にファデュイに渡して失ってしまっている以上、ファデュイが自身に対して今更何かする理由はないはずであった。
それに教令院にしても500年前ならいざ知らず、今の自分は草の神として十分な力をつけた魔神であり、更にはアーカーシャも現在では自身の手で完全に機能停止させており、自身を閉じ込めたスラサタンナ聖処の外界遮断装置も現在では聖処から撤去した上で廃棄処分しており、更にはスメールの民たちも自身の事を「草神様」と呼ぶほどにまで自身の事をスメールの統治者として完全に受け入れているため、かつてのように教令院が今の自分をどうこうする手段も理由も存在しないはずであった。
(これらの事からあの「海馬乃亜」と名乗った人物が教令院やファデュイの関係者である可能性は無いと言っていい……、では彼は何者?……まさか……彼はもしや「降臨者」?)
ナヒーダは様々な可能性の中から、自身を殺し合いに参加させた「海馬乃亜」と名乗った少年の正体が「降臨者」なのではないかという結論に達する。
「降臨者」……それは「テイワットに属さない外来的存在」の事を指す言葉であり、ナヒーダが把握している限りではテイワットには少なくとも4人の降臨者が存在しており、一人目は「天理」と呼ばれる謎の神、4人目は自身も一時期行動を共にした旅人、二人目と三人目は詳細は不明ながらも少なくとも存在はしていることは確かと未だ詳細は不明な謎多き存在であり、知恵の神であるナヒーダですら自身の「草の神の心」と引き換えに「博士」からようやくその情報を手に入れることが出来た最重要機密と言っていい存在であり、実際旅人も天理も7神であるナヒーダの予測の範疇すら超えた未知の力を有している事もまた事実なのであった。
それならばもし仮に「海馬乃亜」と名乗った謎の少年が「降臨者」であったとする場合、自らを「神」と名乗ったことも7神である自身をこの殺し合いに参加させる程の力を有していることも全て説明がつくように感じていた。
「とはいえ、現段階ではあまりにも判断材料に乏しすぎる……、それにこうして考えているよりもまずは行動を起こして判断材料を集めてから、それから結論を出してからでも遅くはないわね。」
そう言うとナヒーダは自らに支給されたランドセルを地面に降ろし、支給品を確認する。基本、テイワットにおいては元素力を扱う力を持つのは「神の目」と呼ばれる外付けの魔力器官を有する者達であり、その者たちは神の目を奪われれば単に元素力を扱えなくなるだけでなく、神の目を授かる切っ掛けとなった「渇望」、すなわち願いや情熱やそれに関する記憶を失ってしまい、それが原因で人格障害や記憶障害を引き起こす危険性すら孕んでおり、実際遠い海の先に存在する国「稲妻」においてはナヒーダと同じ「俗世の七執政」の一人で稲妻の統治を任されている雷電将軍が発令した「目狩り令」によって多くの神の目の所有者たちが雷電将軍の手によって神の目を奪われ、それが原因で元素力を使えなくなり人格障害や記憶障害を引き起こしたものも数多くいたということをナヒーダは把握していた。
もし仮に「神の目」の所有者がこの殺し合いに参加させられていた場合、海馬乃亜の手によって神の目を没収され、「目狩り令」にあった者たちと同様、元素力を使えなくなり人格障害や記憶障害を引き起こす危険性があったであろう。
……だが幸いにもナヒーダに関してはその心配をする必要はなかった。
何故ならナヒーダはそもそも神の目を所有しておらず、神の目を必要とせずに元素力を扱うことが出来る数少ない「例外」と言える存在であったからだ。
何故ならナヒーダはそもそも神の目を所有しておらず、神の目を必要とせずに元素力を扱うことが出来る数少ない「例外」と言える存在であったからだ。
ナヒーダを始めとする「俗世の七執政」――風の国「モンド」を治める風神バルバトス「ウェンティ」、岩の国「璃月」を治める岩神モラクス「鍾離」、雷の国「稲妻」を治める雷神バアルゼブル「雷電影」、草の国「スメール」を治める草神クラクサナリデビ「ナヒーダ」、水の国「フォンテーヌ」を治める水神フォカロルス、炎の国「ナタ」を治める炎神、氷の国「スネージナヤ」を治める氷神「氷の女皇」、彼ら7柱の魔神達は神の目を必要とせずにそれぞれに対応した元素力を扱うことが出来る例外的存在であり、また自身が対応した元素を扱うことに関しては同じ属性の元素力を扱う者たちと比較しても右に並ぶ者がいない頂点に位置する存在達でもあった。
そして彼女――ナヒーダの扱う元素力は「草元素」であり、幼い少女でありながらスメールはおろかテイワット全土においても草元素を扱うことに関しては彼女の右に並ぶものはいない、草元素使いの頂点に位置する存在でもあった。
そして彼女――ナヒーダの扱う元素力は「草元素」であり、幼い少女でありながらスメールはおろかテイワット全土においても草元素を扱うことに関しては彼女の右に並ぶものはいない、草元素使いの頂点に位置する存在でもあった。
……だがだからといって彼女自身はそれに驕り、慢心するつもりは全くなかった。500年前、力と知恵を全て失い、ただの非力な幼い少女に成り下がった時に教令院の賢者達に成す術もなく捕らえられ、監禁拘束されたこともそうだが、力を取り戻した現在においても、テイワットにおいては彼女を上回る力を持つ存在がいるという事も理由の一つであった。
氷の国「スネージナヤ」が有する秘密組織「ファデュイ」には「ファトゥス」と呼ばれる11人の最高幹部が存在し、彼ら11人の執行官は実力によって序列が決定されていた。
中でも執行官序列3位「少女」コロンビーナ、執行官序列2位「博士」ドットーレ、執行官序列1位「道化」ピエロの上位3名はナヒーダを初めとした七執政にすら匹敵するほどの実力を誇り、実際ナヒーダ自身も「博士」ドットーレと直に対峙した際、「勝てない」と感じるほどの力の差を痛感したため、何とか知恵を駆使して交渉に持ち込み、神の心と引き換えに重要な情報を手に入れるのがやっとという有様であった。
もし仮にこの殺し合いに「コロンビーナ」「ドットーレ」「ピエロ」に匹敵、若しくは上回る力を持った存在が参加していた場合、自身が死力を尽くして戦っても敗北し、殺される可能性が高かった。
中でも執行官序列3位「少女」コロンビーナ、執行官序列2位「博士」ドットーレ、執行官序列1位「道化」ピエロの上位3名はナヒーダを初めとした七執政にすら匹敵するほどの実力を誇り、実際ナヒーダ自身も「博士」ドットーレと直に対峙した際、「勝てない」と感じるほどの力の差を痛感したため、何とか知恵を駆使して交渉に持ち込み、神の心と引き換えに重要な情報を手に入れるのがやっとという有様であった。
もし仮にこの殺し合いに「コロンビーナ」「ドットーレ」「ピエロ」に匹敵、若しくは上回る力を持った存在が参加していた場合、自身が死力を尽くして戦っても敗北し、殺される可能性が高かった。
だから何としても殺し合いを生き延びられる可能性を上げられるよう、戦力になるものがないかランドセルの中を探していた際、ある一つの銃を発見した。
その銃は至る所に深緑とダークピンクの色をしたビーズがはめ込まれたオモチャのような見た目をした銃であった。説明書にはこの銃の名前は「96ガロンデコ」であることが書かれており、どうやらこの銃は実弾ではなく、インクを発射するタイプの銃であるとも書かれていた。
「……」
普通の参加者であれば、「なんだ、ただのオモチャの銃かよ」と間違いなくハズレ扱いされる武器なのであるが、ナヒーダにとっては自身と非常に相性のいい武器だと考え、有難く使わせてもらう事にした。
そして他に何かないか引き続きランドセルの中を探していた際、使い古された手記帳を発見したため、中身を確認してみる事にした。
この手記帳は「フリージャーナリスト ルカ・レッドグレイヴの手記帳」という名前らしく、この手記帳は名前の通りフリーのジャーナリストであるルカという名前の男性が今まで自分の足で集めた情報が数多く記載されていた。
この手記帳は「フリージャーナリスト ルカ・レッドグレイヴの手記帳」という名前らしく、この手記帳は名前の通りフリーのジャーナリストであるルカという名前の男性が今まで自分の足で集めた情報が数多く記載されていた。
「……これは……」
ナヒーダは手記帳に書かれた内容を見て目を丸くする。この手記帳には知恵の神であるナヒーダから見ても非常に興味深い内容の文章が書かれており、それと同時にこの手記帳の元の持ち主であるルカというジャーナリストの男性の行動力の高さに感心の気持ちもナヒーダの中に生まれていた。
もし仮に教令院の賢者や学生たちがこのルカという男性並みの行動力を持っていたら、アーカーシャに頼り切りになることもなかったんだろうなという感想を抱きつつ、ナヒーダは手記帳をランドセルの中にしまい、引き続きランドセルの中を捜索すると最後に発見したのは自身の好物である食べ物「ナツメヤシキャンディ」の素材一式、「デーツ」4つ、「杏仁」2つ、「バター」2つ、「スメールローズ」1つの食材セットであった。
……だが幾ら食材を渡されても料理鍋が無ければ料理をすることは出来ない。つまり現状ではこの食材セットは何の意味もない支給品でないかとナヒーダは苦笑しつつ、食材セットを再びランドセルの中にしまうとナヒーダはこれで自身に支給された支給品が全てであることを確認し、ランドセルを背負ってこの場を後にすることにした。
……だが幾ら食材を渡されても料理鍋が無ければ料理をすることは出来ない。つまり現状ではこの食材セットは何の意味もない支給品でないかとナヒーダは苦笑しつつ、食材セットを再びランドセルの中にしまうとナヒーダはこれで自身に支給された支給品が全てであることを確認し、ランドセルを背負ってこの場を後にすることにした。
「クックック……今宵のマオーの生贄は貴様か?」
「!?」
だがその時、ナヒーダの前に突如として一人の少女が現れ、ナヒーダはその少女を警戒し、身構える。
外見年齢はナヒーダよりもやや上くらいに見えた。銀色の髪をツインテールで纏め、上半身は胸を辛うじて隠しているだけの露出度の高い鎧を身に纏い、下半身はミニスカートを履いている格好であったが、何よりナヒーダの目を引いたのは頭部の二本の角と臀部に直に生えた尻尾であった。
ナヒーダには目の前の少女の正体が分からなかったが、明らかに人間では有り得ない特徴から、目の前の少女が自身と同じ魔神……もしくはそれに近い存在なのかと考え、警戒しながら少女に向かって問いかける。
「!?」
だがその時、ナヒーダの前に突如として一人の少女が現れ、ナヒーダはその少女を警戒し、身構える。
外見年齢はナヒーダよりもやや上くらいに見えた。銀色の髪をツインテールで纏め、上半身は胸を辛うじて隠しているだけの露出度の高い鎧を身に纏い、下半身はミニスカートを履いている格好であったが、何よりナヒーダの目を引いたのは頭部の二本の角と臀部に直に生えた尻尾であった。
ナヒーダには目の前の少女の正体が分からなかったが、明らかに人間では有り得ない特徴から、目の前の少女が自身と同じ魔神……もしくはそれに近い存在なのかと考え、警戒しながら少女に向かって問いかける。
「貴女……一体何者なの?」
「クックック……よくぞ聞いてくれた!冥土の土産に教えてやるのだ!マオーの名は『魂の魔王』クレブスクルム!人間よ、マオーの最初の生贄として特別にとびきり残虐な方法で殺してやるのだ!!」
「『魂の魔王』クレブスクルム……」
ナヒーダは少女の紹介を聞きながら、彼女の正体について考察していた。
「クックック……よくぞ聞いてくれた!冥土の土産に教えてやるのだ!マオーの名は『魂の魔王』クレブスクルム!人間よ、マオーの最初の生贄として特別にとびきり残虐な方法で殺してやるのだ!!」
「『魂の魔王』クレブスクルム……」
ナヒーダは少女の紹介を聞きながら、彼女の正体について考察していた。
テイワットには自身を含む俗世の七執政と呼ばれる7柱の魔神が存在しているが、彼らはあくまで数千年前の魔神戦争を勝ち残った生き残りであり、かつてはテイワットには数多くの魔神が存在していた。モンド地方に存在してた「竜巻の魔神 デカラビアン」「氷雪の魔神 アンドリアス」、璃月地方に存在していた「渦の魔神 オセル」「塩の魔神 ヘウリア」「塵の魔神 ハーゲントゥス」「竈の魔神マルコシアス」、稲妻地方に存在していた「魔神 オロバシ」、スメール地方に存在していた自身のかつての友人の「花神」かつての力を失う前の自身と共に「禁忌の知識」の浸食から国や民を守った「キングデジェレト」などその他多くの魔神がかつては存在していたが、自身が世界樹から得た知識の中には「魂の魔神 クレブスクルム」なる魔神が存在していたなんて記録は何処にも存在していなかった。
となると、考えられる可能性は一つ、そう結論づけようとした時であった。
「……と言いたいところだが、今のマオーは人殺しは断固反対なので殺さないでおいてあげるのだ。」
「!?」
突如として「クレブスクルム」と名乗った少女から発せられる殺気が収まり、朗らかな笑顔を浮かべながら語り掛けてきたため、ナヒーダは思わずズッコケそうになるが冷静に思考を巡らせ、踏みとどまった。
「……と言いたいところだが、今のマオーは人殺しは断固反対なので殺さないでおいてあげるのだ。」
「!?」
突如として「クレブスクルム」と名乗った少女から発せられる殺気が収まり、朗らかな笑顔を浮かべながら語り掛けてきたため、ナヒーダは思わずズッコケそうになるが冷静に思考を巡らせ、踏みとどまった。
魔神たちは確かに人間を遥かに凌ぐ力を持つ強大な存在であるが、肩書に反して自身を含めた「俗世の七執政」だけでなく、人間と友好的な関係を結んだ魔神も数多くいた。
勿論デカラビアンやオセルのように人間に危害を加える危険な魔神も存在はしていたが、例えば「塩の魔神 ヘウリア」は争いを嫌う心優しい性格であり、戦いそのものを放棄したため最終的には自らが導いてきた民たちに殺害される最期を迎え、「塵の魔神 ハーゲントゥス」は「岩神 モラクス」と非常に仲が良かった上にヘウリア同様穏やかで優しい性格をしていて自らの民のために命を落としたとされ、キングデジェレトは先ほども言ったように力を失う前のかつての自身と共に「禁忌の知識」の浸食から民を守るために自らの身を犠牲としており、それらの事を考えると目の前の少女もまた、魔神でありながら人間と友好関係を結んだ存在なのではないかとナヒーダは感じていた。
勿論デカラビアンやオセルのように人間に危害を加える危険な魔神も存在はしていたが、例えば「塩の魔神 ヘウリア」は争いを嫌う心優しい性格であり、戦いそのものを放棄したため最終的には自らが導いてきた民たちに殺害される最期を迎え、「塵の魔神 ハーゲントゥス」は「岩神 モラクス」と非常に仲が良かった上にヘウリア同様穏やかで優しい性格をしていて自らの民のために命を落としたとされ、キングデジェレトは先ほども言ったように力を失う前のかつての自身と共に「禁忌の知識」の浸食から民を守るために自らの身を犠牲としており、それらの事を考えると目の前の少女もまた、魔神でありながら人間と友好関係を結んだ存在なのではないかとナヒーダは感じていた。
「ところでキサマ……その耳からしてもしかしてシェラと同じ「エルフ」なのか?」
「?」
「?」
ナヒーダはクルムの言う「シェラ」という人物のことを知らないが、「エルフ」という種族の存在は把握していた。
極少数ながらテイワット大陸にも「エルフ」という種族は存在しており、ナヒーダが把握している限りでは風の国「モンド」の治安を守る防衛組織「西風騎士団」に所属している「火花騎士」の異名を持つ少女「クレー」とその母親の「アリス」がテイワット大陸に存在している数少ない「エルフ」であり、またデータが少なく詳細は不明だが自身が治める「スメール」にて「創神計画」における一連の騒動の後、今までの賢者達を追放した後に新たに再編された新生教令院の6大学派の一つ「明論派」に所属している「レイラ」という名の学生の少女が「エルフ」である可能性がある程度であった。
極少数ながらテイワット大陸にも「エルフ」という種族は存在しており、ナヒーダが把握している限りでは風の国「モンド」の治安を守る防衛組織「西風騎士団」に所属している「火花騎士」の異名を持つ少女「クレー」とその母親の「アリス」がテイワット大陸に存在している数少ない「エルフ」であり、またデータが少なく詳細は不明だが自身が治める「スメール」にて「創神計画」における一連の騒動の後、今までの賢者達を追放した後に新たに再編された新生教令院の6大学派の一つ「明論派」に所属している「レイラ」という名の学生の少女が「エルフ」である可能性がある程度であった。
……ではナヒーダもエルフなのかと言われればそれは違うと言わざるを得なかった。
ナヒーダの正体はテイワットのほぼ全ての記録を宿す大樹「世界樹」の化身が神として昇華された存在であり、エルフ耳なのも人の姿を取る際にただ単に参考にしただけで彼女自身はエルフと無関係であった。
ナヒーダの正体はテイワットのほぼ全ての記録を宿す大樹「世界樹」の化身が神として昇華された存在であり、エルフ耳なのも人の姿を取る際にただ単に参考にしただけで彼女自身はエルフと無関係であった。
「いいえ、違うわ。私の名はナヒーダ、草の国「スメール」を治める「俗世の七執政」の一人で民たちからは「草神クラクサナリデビ」とも呼ばれているわ。」
「スメール?七執政?どれもマオーが聞いたこともないような単語なのだ。」
「スメール?七執政?どれもマオーが聞いたこともないような単語なのだ。」
やはり、とナヒーダは今のクルムの言葉を聞いて確信した。恐らく彼女も海馬乃亜と同じ「降臨者」だと。それならば自身が「魂の魔王」という言葉に聞き覚えがないのも、彼女がスメールや七執政のことも知らないことも全て説明がつく。そう思い、口を開こうとした時であった。
「……そうか、なるほど。ということはおぬし、「来訪者」だな?」
「!?」
「!?」
意外だった。クルムはナヒーダとの僅かなやり取りの中でナヒーダがクルムとは異なる世界からやってきた存在であるという事を即座に理解したのだ。
ナヒーダもそうだがやはりこの「クレブスクルム」という少女は幼い見た目に反して高い知能を有しており、「魔王」という肩書も伊達ではないという事が伺えた。
ナヒーダもそうだがやはりこの「クレブスクルム」という少女は幼い見た目に反して高い知能を有しており、「魔王」という肩書も伊達ではないという事が伺えた。
「……どうしてそう思うの?」
「マオーの知り合いの中にも「来訪者」が一人いるからな!名は「ディアウ゛ロ」、魔王ロールプレイをしないと他者とコミュニケーションを取ることが出来ないヘタレだが困っている人を見つけたら何が何でも助けないと気が済まない義理堅い性格で戦闘においては自身でも理解すらしていない多数の魔術を操り、戦闘におけるセンスや駆け引きにも優れた凄い奴なのだ!」
「マオーの知り合いの中にも「来訪者」が一人いるからな!名は「ディアウ゛ロ」、魔王ロールプレイをしないと他者とコミュニケーションを取ることが出来ないヘタレだが困っている人を見つけたら何が何でも助けないと気が済まない義理堅い性格で戦闘においては自身でも理解すらしていない多数の魔術を操り、戦闘におけるセンスや駆け引きにも優れた凄い奴なのだ!」
クルムのディアウ゛ロに対する熱い語りを聞きながら、ナヒーダは自身と行動を共にした旅人の事を思い出していた。彼女はディアブロ同様、テイワットの外からやってきた「降臨者」であり、スメールにて教令院の手によって囚われの身であった自身を決死の覚悟で救い出し、自身と共に「創神計画」によって造り出された「正機の神」と戦ってこれを撃破し、「創神計画」を阻止することに尽力してくれた。
もし彼女が居なければ今の自分は間違いなくなかったであろう。あのまま「創神計画」によって「正機の神」がスメールの新たな神として君臨し、用済みとなった自身は恐らく処分されていたに違いない。
そう考えるとディアウ゛ロも旅人同様、数々の戦いを潜り抜け、クルムを始めとした数々の者たちを救ってきたのだろうという事を、ナヒーダは「知識」ではなく「感覚」で感じていた。
もし彼女が居なければ今の自分は間違いなくなかったであろう。あのまま「創神計画」によって「正機の神」がスメールの新たな神として君臨し、用済みとなった自身は恐らく処分されていたに違いない。
そう考えるとディアウ゛ロも旅人同様、数々の戦いを潜り抜け、クルムを始めとした数々の者たちを救ってきたのだろうという事を、ナヒーダは「知識」ではなく「感覚」で感じていた。
「……ところで、ものは相談なのだが、マオーの支給品の中にマオーには使い道がないものが入っていたのだ。受け取ってくれるか?」
そう言いながらクルムがランドセルの中から携帯式のコンロに土鍋が乗ったようなものを取り出した。ナヒーダはそれに見覚えがあった。何故ならそれは璃月において選ばれた極一部の冒険者だけが所持している「仙人探しの美食家」と呼ばれるアイテムであり、このアイテムを使えばいつでもどんなところでも料理を作ることが出来る冒険者にとっては重宝するアイテムでもあった。
そう言いながらクルムがランドセルの中から携帯式のコンロに土鍋が乗ったようなものを取り出した。ナヒーダはそれに見覚えがあった。何故ならそれは璃月において選ばれた極一部の冒険者だけが所持している「仙人探しの美食家」と呼ばれるアイテムであり、このアイテムを使えばいつでもどんなところでも料理を作ることが出来る冒険者にとっては重宝するアイテムでもあった。
「ふふっ、安心して頂戴。私も丁度、そのままでは使い道のない支給品を渡されていたの。でもこれでようやく使い道が見つかったわ。」
「えっ?そうなのか!?」
「えっ?そうなのか!?」
そう言うとナヒーダはランドセルの中からナツメヤシキャンディの素材一式、デーツ4つ、杏仁2つ、バター二つ、スメールローズ1つを取り出す。
「?それをどう使うのだ?」
「まあ見てなさい。この「仙人探しの美食家」はね、いつでもどこでも料理を作ることが出来る便利アイテムなの。」
「まあ見てなさい。この「仙人探しの美食家」はね、いつでもどこでも料理を作ることが出来る便利アイテムなの。」
そう言うとナヒーダは先ほどの素材と「仙人探しの美食家」を使い、料理を作り始める。
「まずは砂糖水を透明になるまで煮詰めて……次は中に入れる材料とスメールゴマダレを混ぜ合わせて……」
ナヒーダは手慣れた手つきで料理を作り始める。ナツメヤシキャンディはナヒーダも大好きな好物であり、自由の身になった後、草神として多忙な日々を送りながらも時間がある時にはたまに自ら料理をして作って食べることもある位好きな食べ物であった。
やがて出来上がったシロップが型の中でザクザクに固まり、出来上がったのはナツメヤシキャンディ――ではなく、彼女のオリジナル料理である「ハルヴァマズダ」であった。
「?何なのだこれは?うまいのか?」
「これはナツメヤシキャンディを私流にアレンジした「ハルヴァマズダ」というお菓子よ。知ってる?マズダはスメールで「知恵」という意味を持っていてね、一つ食べるだけで物凄い速さで頭が回るようになるから、私のお気に入りの料理なの。さっ、折角作ったのだから二人で食べましょう。」
「!?い、いいのか!?」
「これはナツメヤシキャンディを私流にアレンジした「ハルヴァマズダ」というお菓子よ。知ってる?マズダはスメールで「知恵」という意味を持っていてね、一つ食べるだけで物凄い速さで頭が回るようになるから、私のお気に入りの料理なの。さっ、折角作ったのだから二人で食べましょう。」
「!?い、いいのか!?」
ナヒーダの言葉を聞いてクルムは目を輝かせる。クルムは復活直後、シェラに差し出されたビスケットを食べて以来すっかり気に入ってしまい、「人族を殺すよりもビスケットを食べた方がよっぽどいい」という考え方になり、最近ではビスケットだけでなくアップルタルトなどの甘いお菓子を色々と食べ回るほどの甘いもの好きであった。
二人はハルヴァマズダを中心として対面するような形でハルヴァマズダを食べ始める。
「んんっ~~!美味しいわぁ。やっぱり自分で作って自分で食べるハルヴァマズダは最高ね♪」
「んんっっまあぁぁぁぁぁぁいのだあぁぁぁぁぁぁ!!」
「んんっっまあぁぁぁぁぁぁいのだあぁぁぁぁぁぁ!!」
ハルヴァマズダを食べる二人の顔はまるで彼女たちの正体が魔神や魔王であることを忘れてしまいそうな、外見相応の幼い少女の顔をしていた。
やがてお互い満足したという顔で「ごちそうさま」の言葉と共に料理を食べ終わった……その直後であった。
やがてお互い満足したという顔で「ごちそうさま」の言葉と共に料理を食べ終わった……その直後であった。
ボンッ!!という音と共に突如として「仙人探しの美食家」が爆発し、粉々に砕け使用不能となってしまった。
「な、何が起こったのだ!?」
驚くクルムを尻目にナヒーダは「あちゃ~」という表情で顔を手で押さえる。
「仙人探しの美食家」はいつでもどこでも料理が出来るという一見すると便利なアイテムだが実際の所このアイテムは「消耗品である」という致命的な欠陥があり、一度使用して暫くすると壊れて使用不能になってしまい、そのせいで実際に使用した冒険者からの評価は悉く悪いという欠陥品であった。
驚くクルムを尻目にナヒーダは「あちゃ~」という表情で顔を手で押さえる。
「仙人探しの美食家」はいつでもどこでも料理が出来るという一見すると便利なアイテムだが実際の所このアイテムは「消耗品である」という致命的な欠陥があり、一度使用して暫くすると壊れて使用不能になってしまい、そのせいで実際に使用した冒険者からの評価は悉く悪いという欠陥品であった。
「うう~~~、勿体ないのだぁ~~。」
「仕方ないわ。使い道があっただけでもよしとしましょう。くよくよしても壊れた物は元に戻らないわよ。」
「それもそうだが……」
「仕方ないわ。使い道があっただけでもよしとしましょう。くよくよしても壊れた物は元に戻らないわよ。」
「それもそうだが……」
こんな事を言いつつもクルムは頭の中では理解自体はしていた。クルムは外見同様精神年齢は幼いながらも神にも匹敵しかねない驚くべき知識量を誇り、世界の成り立ちから、魔術の根源に迫るものまで途方もない量と質の知識を持っていた。
もし仮に、これが殺し合いの場ではなく、お互い二人で元いた世界における知識を披露しあっていたら時間がいくらあっても足りない位であろう。
ナヒーダとクルム、この二人は幼い見た目に反してそれほどまでの膨大な知識を有する存在同士であったのだ。
もし仮に、これが殺し合いの場ではなく、お互い二人で元いた世界における知識を披露しあっていたら時間がいくらあっても足りない位であろう。
ナヒーダとクルム、この二人は幼い見た目に反してそれほどまでの膨大な知識を有する存在同士であったのだ。
「さて、マオーはお前が気に入った!共にあの海馬乃亜を倒してこの殺し合いを止めるために手を組もうではないか!」
「ええ、有難いわ。共にこの殺し合いを止めるために二人で戦いましょう。」
「ええ、有難いわ。共にこの殺し合いを止めるために二人で戦いましょう。」
そう言いながらナヒーダとクルムはお互い手を差し出し、共に握手した時であった。
シュン ドスッ
「!?」
「ッ!!」
「ッ!!」
突如として握手した二人の手に何処からともなく飛んできた一枚のカードが突き刺さり、痛みからお互い思わず手を離す。
「あ、悪りぃ!手元が狂ったぜ!」
言葉の割に特に悪びれた様子もないような口調で謝りながら、カードを投げた犯人が二人の前に姿を現す。
犯人の正体は一人の少年であった。外見年齢はナヒーダよりやや上、クルムとそう変わらない位であろうか、腕が露出した水色の半袖のパーカーを身に纏い、ぶかぶかのズボンを履いた肌の色が褐色の少年であった。
少年の外見はナヒーダやクルムと比べるとこれといった特徴のない平凡なものであった。
だが少年はナヒーダやクルムの容姿に特に驚いた様子もない調子でズボンのポケットに手を突っ込みながらまるで無警戒な感じで近づいてくる。
言葉の割に特に悪びれた様子もないような口調で謝りながら、カードを投げた犯人が二人の前に姿を現す。
犯人の正体は一人の少年であった。外見年齢はナヒーダよりやや上、クルムとそう変わらない位であろうか、腕が露出した水色の半袖のパーカーを身に纏い、ぶかぶかのズボンを履いた肌の色が褐色の少年であった。
少年の外見はナヒーダやクルムと比べるとこれといった特徴のない平凡なものであった。
だが少年はナヒーダやクルムの容姿に特に驚いた様子もない調子でズボンのポケットに手を突っ込みながらまるで無警戒な感じで近づいてくる。
「いやホント悪かったって!人間誰しも間違いは犯すもんだろ?二人の話は聞いたぜ!俺も混ぜてくれよ!3人で協力してこの殺し合いを勝ち残ろうぜ!悪い話じゃないだろ?」
「……」
「……」
少年は二人に親しげに話しかけながら一歩、また一歩と近づいてくる。……そして少年が更に一歩踏み出した瞬間、ナヒーダは手に持っていた96ガロンデコの銃口を素早く少年に向けて引き金を引き、銃口からインクが発射される。
……だが少年は素早く手をあげると発射されたインクを手で防ぐように受け止める。……まるで「攻撃される」ということが最初から分かり切っていたかのように。
……だが少年は素早く手をあげると発射されたインクを手で防ぐように受け止める。……まるで「攻撃される」ということが最初から分かり切っていたかのように。
「あなた……誰……?」
「……なぁんだ、もう気付いていたんですね?さすが「俗世の七執政」の一人、草神ブエルさん?」
「……なぁんだ、もう気付いていたんですね?さすが「俗世の七執政」の一人、草神ブエルさん?」
少年からは先ほどまでの軽薄な感じは消えていた。代わりに少年からは全ての存在を見下しているかのような冷徹な空気が発せられ、場が一気に強い緊張感に包まれる。
「あなた……どうして私の魔神としての真名を知っているの?」
「気になりますか?ですが答え合わせの前にまずはこちらから自己紹介と参りましょう。」
「気になりますか?ですが答え合わせの前にまずはこちらから自己紹介と参りましょう。」
ナヒーダの問いに対し、少年はナヒーダ、クルムと一定の距離を保ちながら歩き出すとまるで一人語りをするかのように自らの正体を語る。
「僕の名は混沌の神 エーシル……と言いたいところですが現在の僕は片割れを失った不完全な存在なのでここでは取り敢えず『ロプト』と名乗らせてもらいましょうか。」
『ロプト』と名乗った少年は足を止め、ナヒーダの方に向き直ると懐から銅色の台座に金色に輝く鉱物が収まったような物体を取り出し、ナヒーダに見せびらかすかのように見せつける。
ナヒーダはその物体を見て目を見開いた。何故ならその物体は自国のスメールにてかつて存在していた物であり、現在ではアーカーシャの機能停止と同時期に全て回収、処分したはずのものであるからだった。
ナヒーダはその物体を見て目を見開いた。何故ならその物体は自国のスメールにてかつて存在していた物であり、現在ではアーカーシャの機能停止と同時期に全て回収、処分したはずのものであるからだった。
「そ……それは缶詰知識!?な、何故あなたがそれを!?」
「そう、これが先ほどの『問い』に対する『答え』です。これは常人なら中の記録を覗こうとしただけで廃人になるような危険な代物らしいですが……不完全とはいえ神である僕にとってはこの程度の知識のインストールなど苦でもありませんでしたね。」
「そう、これが先ほどの『問い』に対する『答え』です。これは常人なら中の記録を覗こうとしただけで廃人になるような危険な代物らしいですが……不完全とはいえ神である僕にとってはこの程度の知識のインストールなど苦でもありませんでしたね。」
ロプトは平然と言ってのけると、二人に対してまるで芝居がかった態度で缶詰知識の中に収められた知識、記録について語り始める。
「この缶詰知識の中にはスメールを治めた先代の神「マハ―ルッカデヴァータ」と2代目となる現在の神「クラクサナリデビ」……そう、貴女の事に関する記録が保存されていましてね?記録によるとどうやら相当興味深い経緯を歩んできたようだ。」
「マ、マハ―ルッカデヴァータ!?おいキサマ、どういうことなのだ!?マハ―ルッカデヴァータの事についてキサマはマオーに何も話さなかったではないか!?」
「……」
「マ、マハ―ルッカデヴァータ!?おいキサマ、どういうことなのだ!?マハ―ルッカデヴァータの事についてキサマはマオーに何も話さなかったではないか!?」
「……」
ナヒーダを問い詰めるクルムとそれに対し何も言い返せないナヒーダに対し、ロプトは無視するかのように尚も缶詰知識の中の記録について語り続ける。
「どうやら元々、スメールはマハ―ルッカデヴァータという名の神が治めていたらしいですが……500年前のカーンルイア動乱の際に彼女が死亡し、その跡地にて貴女……「クラクサナリデビ」が発見され、当時の教令院の賢者達の手によってスメールに連れ帰られました。……そうですよね?」
「……」
「……」
またしても言い返すことの出来ないナヒーダに対し、ロプトは尚も語り続ける。
「だが愚かにも教令院の賢者達はマハ―ルッカデヴァータが死亡したことも、貴女が2代目のスメールの神であることも決して認めようとはしなかった。そこで賢者たちは当時無力であった貴女をスラサタンナ聖処に物理的に幽閉、監禁拘束し貴女から一切の自由を奪った……そして民たちにマハ―ルッカデヴァータへの信仰を続けさせ、貴女を蔑ろにし続けたのです。」
「……」
「ナ、ナヒーダ……」
「……」
「ナ、ナヒーダ……」
尚も押し黙り、俯き続けるナヒーダに対し、クルムは心配そうに顔を覗き込もうとするが、ロプトは尚も話を続ける。
「そしてそのような扱いは500年間の長きにわたって続き、現代となっても大賢者アザールを始めとした賢者たちは貴女を無能な役立たずと見下し続けた……。そして最終的に賢者たちは「創神計画」という計画を立ち上げ、自らが「正機の神」と呼ばれる人造の神を創り上げ、それをマハ―ルッカデヴァータに置き換える事でマハ―ルッカデヴァータ信仰を無理矢理続けさせ、用済みとなった貴女を完全に排除しようとした……。これがこの缶詰知識に記録されたマハ―ルッカデヴァータとクラクサナリデビに関する全てです。」
「……」
「ナヒーダ……」
「……」
「ナヒーダ……」
ロプトが語ったナヒーダの悲惨な過去を聞いて、クルムは悲しそうな表情を浮かべていた。
何故ならかつてのクルムもまた、ナヒーダと同じであったからだ。
クルムは復活当初、記憶を失っており最初は訳も分からず人族を殺そうとしたのだが、ディアウ゛ロの仲間……シェラ・L・グリーンウッドとレム・ガレウの説得によって人族を殺すよりも美味しいビスケットを食べた方がよっぽどいいという考え方になったのだが、それが気に入らなかった魔王軍幹部の魔族オウロウによって輪廻転生のために殺害されそうになったのだ。その時はディアウ゛ロの活躍によってオウロウは退けられたのだが、その後人族を滅ぼすために魔族と繋がっていた魔王崇拝者の国家騎士「アリシア・クリステラ」の謀略によってレムが魔王崇拝者であるという偽りの罪で聖騎士のサドラーによって捕らえられ、自身の目の前で拷問の末に殺害されそうになり、怒りと憎しみの気持ちのままサドラーを殺害、アリシアと魔族たちの思惑通りに怒りと憎しみのままに暴れ続け、街を破壊しようとしたことがあったのだ。
何故ならかつてのクルムもまた、ナヒーダと同じであったからだ。
クルムは復活当初、記憶を失っており最初は訳も分からず人族を殺そうとしたのだが、ディアウ゛ロの仲間……シェラ・L・グリーンウッドとレム・ガレウの説得によって人族を殺すよりも美味しいビスケットを食べた方がよっぽどいいという考え方になったのだが、それが気に入らなかった魔王軍幹部の魔族オウロウによって輪廻転生のために殺害されそうになったのだ。その時はディアウ゛ロの活躍によってオウロウは退けられたのだが、その後人族を滅ぼすために魔族と繋がっていた魔王崇拝者の国家騎士「アリシア・クリステラ」の謀略によってレムが魔王崇拝者であるという偽りの罪で聖騎士のサドラーによって捕らえられ、自身の目の前で拷問の末に殺害されそうになり、怒りと憎しみの気持ちのままサドラーを殺害、アリシアと魔族たちの思惑通りに怒りと憎しみのままに暴れ続け、街を破壊しようとしたことがあったのだ。
最終的にはディアウ゛ロの活躍とレムとシェラの説得によって自身の暴走は阻止され、アリシアと魔族たちの思惑は潰える事になったのだが、自身が「クルム」としてではなく、魔族や魔王崇拝者たちからは「魂の魔王」としてしか見られなかったように、彼女もまた、「ナヒーダ」としてではなく、教令院の賢者達やスメールの民たちからは「草神」としてしか見られなかったのだという事を感じていた。
「そこで提案なのですが……どうです?あなた、どうか僕と手を組みませんか?」
ロプトはナヒーダに対し、手を差し伸べながら提案する。
「確かこの殺し合いの主催者の海馬乃亜はこう言っていましたよね?『優勝者にはどんな願いも叶えてみせる』と……、僕はこの殺し合いに勝ち残って優勝したら叶えたい願いがあるんですよ。僕の片割れが持つ『采配の力』、ルーメンの賢者が持つ『光の右目』、そしてアンブラの魔女が持つ『闇の左目』、この3つを僕の手の中に取り戻し、僕は『ロプト』としてではなく、『混沌の神 エーシル』として完全に復活を遂げなくてはいけないのです。」
「……」
「……」
何か考えているような素振りを見せているナヒーダを見つつも、ロプトはそれを無視しつつ話を続ける。
「複数の願いを叶える事を彼が了承するかは不明ですが……、僕は決めました。もし貴女が僕に協力してくれるのであれば、彼に叶えてもらう願いに『僕の住む世界とテイワットを統合して一つの世界にして欲しい』という願いを追加します。そして僕が力を取り戻し、『混沌の神 エーシル』となった暁には、協力してくれた貴女への返礼として貴女を蔑ろにした教令院の賢者達を皆殺しにすること、そして僕がスネージナヤのファトゥス執行官や氷の女皇、その上の存在である天理の調停者も全て僕が倒し、貴女にはスメールの統治者としての席を用意してあげることを約束しましょう。」
「お前……ナヒーダがそんな提案を呑む訳ないだろ!!」
「貴女もですよ。」
「!?」
「お前……ナヒーダがそんな提案を呑む訳ないだろ!!」
「貴女もですよ。」
「!?」
反論するクルムに対し、突如としてロプトに話を振られた事でクルムは驚き、固まってしまう。
「聞くところによると貴女、魔王らしいですね?考えても見てください。この殺し合いの場においては貴女が人族を襲い、殺し喰らっても誰も止める者はいません。いや、むしろ推奨されているとさえいってもいいですね。それにこの場においては人族同士でさえ醜く殺しあっているのです。魔王である貴女が誰かを殺し喰らっても別におかしなことではないと思いますがね?どうです?僕に協力してくれるのであれば僕の世界やテイワット同様、貴女の世界も含めて一つの世界として統合し、貴女を頂点とした魔族達が貴女の世界の支配者となるのを最大限支援することを約束しますがね?」
「お……お前!!それ以上何か言ってみろ!!今この場で殺すぞ!!」
「出来ますかね?たかだか魔王である貴女が不完全とはいえ神であるこの僕に?」
「うっ……」
「お……お前!!それ以上何か言ってみろ!!今この場で殺すぞ!!」
「出来ますかね?たかだか魔王である貴女が不完全とはいえ神であるこの僕に?」
「うっ……」
ロプトの言葉に対し、クルムは反論することが出来なかった。クルムは少し前、神を殺して肉を喰らい、神の力を手に入れたゲルメド帝に対して、ディアウ゛ロと共に戦いを挑んだことがあったのだ。あの時はゲルメド帝に有効な『ヘルヴェティアの槍』をアイラが命懸けで突き刺してくれた事とシェラとレムの援護のおかげで辛うじて勝つことが出来たが、ディアウ゛ロと一体化して戦ってもなお、ゲルメド帝との戦いにおいては終始劣勢を強いられ、神との力の差を痛感したことを考えると単身でロプトに戦いを挑むのは無謀だという事をクルムは理解していた。
「さて、どうします?憎き賢者達への復讐と目の上のたんこぶであるファトゥスや調停者の排除を同時に果たせるのですよ?賢い貴女ならどちらの選択を取った方が賢明か、考えるまでもないと思いますがね?」
「……そうね……」
「ナヒーダ……」
「……そうね……」
「ナヒーダ……」
ようやく考えが纏まったのか、顔をあげるナヒーダとそれを心配そうに見つめるクルムに対し、ロプトは口を歪ませ、ニヤリと笑う。
……そしてナヒーダはロプトに向けて手をかざし、淡い緑色の植物を模した草元素の波動を放出すると、ロプトに向けてこう宣言した。
……そしてナヒーダはロプトに向けて手をかざし、淡い緑色の植物を模した草元素の波動を放出すると、ロプトに向けてこう宣言した。
「……残念だけどお断りさせてもらうわ。」
「……何ですって?」
「……何ですって?」
信じられない、といった表情をするロプトに対し、ナヒーダは自身の今の気持ちをロプトに対して告げる。
「……確かにあなたの言う通り、私も最初は教令院の賢者達に対する怒りや憎しみの気持ちはあった。」
「なら何故僕の提案が呑めないのです!?自身を幽閉した教令院の賢者達に復讐したいとは思わないのですか!?自身を蔑ろにしたスメールの民たちが憎くはないのですか!?」
「なら何故僕の提案が呑めないのです!?自身を幽閉した教令院の賢者達に復讐したいとは思わないのですか!?自身を蔑ろにしたスメールの民たちが憎くはないのですか!?」
ナヒーダの発言が尚も受け入れられないロプトに対し、ナヒーダは自らの今の気持ち、考えを伝え続ける。
「でも幽閉された長い年月の中で私は気付いたの。私がこうして幽閉されているのは私が神として未熟だから、私が神として相応しくないから。だから幽閉されても仕方ないと自らの運命を受け入れ、やがてそのうち、怒りや憎しみの気持ちは徐々に消えていったわ……」
唖然とするロプトに対し、ナヒーダは尚も続ける。
「そして創神計画の存在を知ったとき、私はついに悟ったの。「ああ、私はいらないんだ。もう私は用済みなんだ、これからのスメールは賢者達が創り上げた新しい神によってつくり上げられていくんだ」と。そして絶望した私は自ら心を閉ざし、自らが処分されるその時を待ち続けるだけしか出来ないと思っていたわ……でもそんな時、旅人が私に言ったの。「そんなことない」って。教令院に命懸けで立ち向かってでも私を救い出そうとする旅人の姿を見て閉ざされた私の心の中に光がさしたような気がしたわ……そして思ったの、「ここで諦めたくない」って。私を神として認めてもらうためにもう一度精一杯頑張ってみたいと、そう思ったの。」
「……」
「……」
理解できない、といった表情をしたロプトに対し、ナヒーダは尚も告げる。
「ねえ、知ってる?あなたが見た缶詰知識の内容……、あの話にはまだ続きがあるって事を。」
「え!?あの話にはまだ続きがあったのか!?それであの後どうなったのだ!?」
「え!?あの話にはまだ続きがあったのか!?それであの後どうなったのだ!?」
ナヒーダの話に強い興味を示したクルムに対し、ナヒーダはクルム、そしてロプトに対して語り始める。
「さっきも言ったけど旅人の決死の救出作戦によって囚われの身であった私は解放されたわ……その後私は旅人と共に神降工房に突入し、完成一歩手間の状態にあった「正機の神」七葉寂照秘密主と戦い、最終的に破壊して創神計画を食い止めることに成功したわ。」
「おおっ、ナヒーダはやっぱり凄いのだ!キョ―レーインの賢者達の見立てが間違っていた事を証明したという事だな!」
「おおっ、ナヒーダはやっぱり凄いのだ!キョ―レーインの賢者達の見立てが間違っていた事を証明したという事だな!」
興奮しながらナヒーダの話を聞くクルムを尻目にナヒーダは尚も語り続ける。
「その後はファトゥス執行官第二位「博士」が私の前に現れて交渉の末に貴重な情報と引き換えに神の心を引き渡したりと色々あったのだけれどね……とにかくこれで私は無事にスメールの草の神の地位に復職し、スメールの民たちは皆私の事を受け入れてくれた……でも私にはまだ最後にやるべき事がまだ残ってたの。」
「?創神計画は食い止めたのであろう?最後にやるべき事とは一体何だったのだ?」
「?創神計画は食い止めたのであろう?最後にやるべき事とは一体何だったのだ?」
クルムの疑問に対し、ナヒーダは思い出すかのように目を閉じ、そして目を開けるとゆっくりと語り始める。
「戦いから数日した後、私はスラサタンナ聖処に大賢者アザールを始めとした創神計画に関わった全ての賢者達を呼びつけたわ。……勿論私一人でね。最初この事をセノに話した際、セノは自身を護衛として付けるようにお願いされたのだけれど私は断ったわ。このことは私自身で決着をつけなければいけないことなのだったのだから。で、当日、スラサタンナ聖処にやってきた賢者達を私は一人で出迎えた。」
「で、その後はどうしたのだ?賢者達を八つ裂きにしたのか?」
「で、その後はどうしたのだ?賢者達を八つ裂きにしたのか?」
さらっと物騒な事を言うクルムをスルーし、ナヒーダは尚も語り続ける。
「アザールは不服そうな表情をしていたけど他の賢者達は怯えた表情を見せていたわ。当然よね。今までと違って自由となった私が目の前にいるんですもの。きっと報復されると思ったんでしょうね。」
まるで外見年齢相応のいたずらっ子のような表情を見せながらナヒーダは当時を思い出すかのように語り続ける。
「そして私は彼らに挑発の意味も込めてこう言ってやったの。「さっ、無能で役立たずな神があなたたちの目の前にいるわよ?私を本当に無能で役立たずなただのクソガキだと思うのなら、500年前のように私を捕らえてまた監禁拘束したらどうかしら?」ってね。その言葉を聞いた途端、賢者達はパニックに陥ってね?全ての罪をアザールに擦り付け始めたの。何でもアザールは自分に反対した因論派と生論派の賢者を幽閉して無理矢理口封じしたらしくてね?知論派の賢者のカジェは私に土下座しながらこう言ったの。「自分たちは因論派と生論派の賢者達みたいにアザールに逆らって幽閉されるのが怖くて仕方なく従っていただけなんだ、だから本心ではこういったことをしたくなかったんだ。だから許してくださいクラクサナリデビ様。」ってね。妙論派の賢者と素論派の賢者もカジェに同調して同じように土下座しながら私に許しを請いだしたわ。」
「都合が悪くなったら手のひら返しとはそいつら「賢者」じゃなくて「愚者」の間違いなんじゃないか?」
「都合が悪くなったら手のひら返しとはそいつら「賢者」じゃなくて「愚者」の間違いなんじゃないか?」
クルムは頷きながら率直な感想を述べると、ナヒーダは尚も話を続ける。
「その後も賢者達はアザールの余罪を次々と自白していったわ……二ィロウに彼女が楽しみにしていた花神誕祭の舞をやめさせて二度とやらないように命令したこと……アルハイゼンの後頭部を殴って気絶させて連行したこと……旅人とパイモンを牢屋に閉じ込めて幽閉したこと……それらの余罪を賢者達が次々と自白していく度に、アザールの顔がどんどんと青ざめていくのが目に見えて分かったわ……」
「そのアザールって奴は本当にどうしようもない奴だな!……で、その後アザールはどうしたのだ?」
「その後も賢者達はアザールの余罪を次々と自白していったわ……二ィロウに彼女が楽しみにしていた花神誕祭の舞をやめさせて二度とやらないように命令したこと……アルハイゼンの後頭部を殴って気絶させて連行したこと……旅人とパイモンを牢屋に閉じ込めて幽閉したこと……それらの余罪を賢者達が次々と自白していく度に、アザールの顔がどんどんと青ざめていくのが目に見えて分かったわ……」
「そのアザールって奴は本当にどうしようもない奴だな!……で、その後アザールはどうしたのだ?」
ナヒーダは一旦一呼吸置くと、尚も話を続ける。
「でもアザールは中々自らの間違いを認めようとはしなかったわ……最初は半狂乱状態で周囲の兵士たちに「お、お前らぁ!!今すぐこのクソガキを取り押さえろぉ!!」と叫んだり、アーカーシャ端末をいじって何かしようとしたみたいだけど全部無駄に終わったわ。当然よね。兵士たちは今は私をスメールの草神と認めているから誰もアザールの命令を聞かなかったし、アーカーシャもその時点で全部私が掌握しているから今更アザールにアーカーシャをどうこうする権限はなかったんですもの。
そしてそれらが全て無駄に終わった事を理解すると一歩、また一歩と近づく私に対して彼は何て言ったと思う?「や、やめろっ!来るな近づくな分かった要求は何でも聞く!そうだ、大賢者アザールの名の下にお前をこのスメールを統べる草神と認めてやろう!どうだ、悪くない話だろう!だから殺さないでくれ~~っ!」ってね。
ホント、滑稽よね。今まで二ィロウやセノやアルハイゼン相手にあれだけでかい態度とっていた彼が私相手に無様な醜態を晒しながら命乞いをしているんですもの。
それでも私が近づいていくと最後には涙と鼻水を垂らしながら取り乱して「い、嫌だ死にたくない!!お許し下さいクラクサナリデビ殿!いや、クラクサナリデビ様ァ~~~~!!」と醜態を晒しながら叫び出したのよ。」
「で、それで結局どうしたのだ?殺したのか?」
「でもアザールは中々自らの間違いを認めようとはしなかったわ……最初は半狂乱状態で周囲の兵士たちに「お、お前らぁ!!今すぐこのクソガキを取り押さえろぉ!!」と叫んだり、アーカーシャ端末をいじって何かしようとしたみたいだけど全部無駄に終わったわ。当然よね。兵士たちは今は私をスメールの草神と認めているから誰もアザールの命令を聞かなかったし、アーカーシャもその時点で全部私が掌握しているから今更アザールにアーカーシャをどうこうする権限はなかったんですもの。
そしてそれらが全て無駄に終わった事を理解すると一歩、また一歩と近づく私に対して彼は何て言ったと思う?「や、やめろっ!来るな近づくな分かった要求は何でも聞く!そうだ、大賢者アザールの名の下にお前をこのスメールを統べる草神と認めてやろう!どうだ、悪くない話だろう!だから殺さないでくれ~~っ!」ってね。
ホント、滑稽よね。今まで二ィロウやセノやアルハイゼン相手にあれだけでかい態度とっていた彼が私相手に無様な醜態を晒しながら命乞いをしているんですもの。
それでも私が近づいていくと最後には涙と鼻水を垂らしながら取り乱して「い、嫌だ死にたくない!!お許し下さいクラクサナリデビ殿!いや、クラクサナリデビ様ァ~~~~!!」と醜態を晒しながら叫び出したのよ。」
「で、それで結局どうしたのだ?殺したのか?」
クルムが興味深そうに尋ねるとナヒーダは首を横に振り、こう答えた。
「でも私はアザールを許したわ。だってそもそも幽閉されていたのは私が神としてまだ未熟だったからだし、彼の醜態を見て500年分の鬱憤が一気に晴れた気がしたんですもの。セノからは「幾ら何でも甘すぎます。彼らにはもっと厳罰を与えるべきです。」と苦言を呈されたけれど、私の意向を伝えたら「分かりました。クラクサナリデビ様がそうおっしゃるのでしたら俺はクラクサナリデビ様の意思を尊重します。」と納得してくれたわ。結局アザールを初めとした賢者達は自らの意思で教令院を辞めてアビディアの森で隠居生活を送る、そういう形でこの問題は決着が着いたわ。」
「おおーっ、ナヒーダは器が大きいのだ!マオーだったら多分アザールの事を八つ裂きにしていたぞ!」
「おおーっ、ナヒーダは器が大きいのだ!マオーだったら多分アザールの事を八つ裂きにしていたぞ!」
ナヒーダはようやく話を終えるとロプトの方に向き直り、自らの意思を伝える。
「それにスメールの民たちも今の私を草神とちゃんと認めてくれてる。それにファトゥスもきっと旅人が何とかしてくれるわ。だからあなたの提案は受け入れられない。これが私が出した結論よ。」
だがナヒーダがロプトに自らの意向を伝えた瞬間、それまで沈黙を守ってきたロプトが肩を震わせ、急に笑い始めたのだ。
「クックックック……アーハッハッハッハッハッハ!!」
「何がおかしいというの?」
「何がおかしいというの?」
急に笑い出したロプトに対し、ナヒーダは不愉快そうな声を出すがやがて笑いが収まると率直な感想を伝える。
「いや何、貴女は本当にお人好し過ぎて優しすぎる神だ。僕には到底真似できませんよ。」
「……あなたも、かつてはそうだったんじゃないの?」
「?どういう意味です?」
「……あなたも、かつてはそうだったんじゃないの?」
「?どういう意味です?」
「言っている意味が分からない」といった顔をしたロプトに対し、ナヒーダはランドセルから手記帳を取り出す。
「?何です?そのボロッちい手記帳は?」
「これはフリージャーナリストのルカっていう男性が自らの足で集めた情報が色々と載っていてね。その中にとても興味深い内容のものが書かれていたの。」
「?それは一体何なのだ?」
「これはフリージャーナリストのルカっていう男性が自らの足で集めた情報が色々と載っていてね。その中にとても興味深い内容のものが書かれていたの。」
「?それは一体何なのだ?」
疑問に思うロプトとクルムに対し、ナヒーダは手記帳に書かれた内容をゆっくりと読み上げ始める。
「『エーシルの伝説……それは世界の始まりに遡る 誰も知らない原初の世界 それがある争いが元で三つの世界に分かたれた 光と闇そして混沌……その混沌の世界として誕生したのがこの人間界だ やがて三つの世界にはそれぞれに統治者が誕生した……もちろんこの人間界にもな その神の名はエーシル エーシルは山の頂上から長きに渡って静かに下界を見守っていた 彼の観測が事象を確定し観測あるがゆえに世界はその存在を認められた つまり観測者たる彼の目は世界を創造する神の力そのものだったんだ だが彼は自我を持たない未熟な人間たちを憂い 自らが持つ世界を司る力を二つに分けそれぞれを人間たちに委ねることにした 光の右目と闇の左目だ エーシルの神の目を二者に分かれて持つことで人間たちに選択の概念が生まれた 世界を確定する二つの目で人間たちは自らの道を選び自我に目覚めていったんだ かくして我々人類は考える葦となって偉大なる繁栄の大きな一歩を踏み出したのさ 神の目を受け継ぐ創造主として……』……これがこの手記帳に書かれていたエーシルの伝説の全てよ。」
「?でもおかしいのだ。その伝説を聞く限りだとその『エーシル』って言う神はいい神様のように見えるのだ。でもマオーにはあの『ロプト』って奴が悪い奴にしか見えないのだ。それは一体どういうことなのだ?」
「?でもおかしいのだ。その伝説を聞く限りだとその『エーシル』って言う神はいい神様のように見えるのだ。でもマオーにはあの『ロプト』って奴が悪い奴にしか見えないのだ。それは一体どういうことなのだ?」
ナヒーダもそれは感じていた。そもそも伝説に書かれたエーシルと自身の目の前にいるロプトが同一の存在だとはとても思えなかったのだ。
ナヒーダが疑問を口にする前にロプトがその疑問に対する答えを口にする。
ナヒーダが疑問を口にする前にロプトがその疑問に対する答えを口にする。
「……なるほど、その疑問も最もですよ。でもその伝説に書かれていることは全て本当の事です。ですが人間たちを自我に目覚めさせたのは僕ではなく、正確には二つに分かれた僕の『片割れ』なんです。彼は人間たちに自我を目覚めさせるために神の力を二つに分け、その時にこの身も二つに引き裂いたのです。そして僕はただの抜け殻となったはずでしたが……残念ながら片割れは一つだけ計算違いをしましてね、人間たちの繁栄とともに膨れ上がった邪なる心の力……そう、貴女方を苦しめた教令院の賢者達や魔王崇拝者のような醜い人間たちが生んだ邪悪な心によってかつての神の力をほぼ取り戻したのです。後はこの殺し合いに優勝し、片割れが持つ『采配の力』、ルーメンの賢者が持つ『光の右目』、そしてアンブラの魔女が持つ『闇の左目』の3つを取り戻しさえすれば僕は完全な『混沌の神 エーシル』として世の趨勢を全て僕の意思で統べて見せましょう。」
「く……狂ってる……狂ってるのだ……」
クルムがロプトの宣言に動揺する中、ナヒーダはロプトの宣言を冷静に分析し、ロプトの正体についてある一つの結論を導き出す。
「く……狂ってる……狂ってるのだ……」
クルムがロプトの宣言に動揺する中、ナヒーダはロプトの宣言を冷静に分析し、ロプトの正体についてある一つの結論を導き出す。
「……分かったわ。『エーシル』は『混沌の神』……それが二つに分かれたという事は、恐らく人間たちを自我に目覚めさせた『片割れ』が『善良』の象徴とするならば……あなたは恐らく『邪悪』の象徴……だから伝説で語られたエーシルと今のあなたの性格や考え方に齟齬が発生しているということね。」
「へえ、流石は『知恵の神』、鋭い考察だ。だが、だからどうしたのです?聡明な貴女なら今この瞬間における戦力の差は理解できるでしょう?まだ遅くはありません、先ほどの言葉を撤回し、僕に力を貸してくれるのであればスメールの統治者としての地位だけでなく、テイワット大陸の国の幾つかを貴女の統治下として移譲することを約束しましょう。」
「……」
「へえ、流石は『知恵の神』、鋭い考察だ。だが、だからどうしたのです?聡明な貴女なら今この瞬間における戦力の差は理解できるでしょう?まだ遅くはありません、先ほどの言葉を撤回し、僕に力を貸してくれるのであればスメールの統治者としての地位だけでなく、テイワット大陸の国の幾つかを貴女の統治下として移譲することを約束しましょう。」
「……」
どうせ彼女には何もできない。このまま断るのであれば今この場で殺すだけだ。ロプトがそう思った時であった。
「……いや、マオーにはお前に勝つ手段が一つだけ残されているのだ。」
「ほう、それは何です?」
「ほう、それは何です?」
クルムの発言に疑問を抱くロプトを尻目に、クルムはナヒーダの肩に手をポンと置くと、ナヒーダに語り掛ける。
「さっきのキサマの話を聞いてマオーは思ったのだ。キサマは本当に信頼できるヤツだって……よって、キサマにマオーの力を託すのだ。」
「……え?それってどういう……」
「……え?それってどういう……」
突然のクルムの宣言に対し、ナヒーダが真意を聞き出そうとした時であった。
なんとクルムの纏っているわずかな鎧が全て消え去り、クルムは一糸纏わぬ全裸となる。
なんとクルムの纏っているわずかな鎧が全て消え去り、クルムは一糸纏わぬ全裸となる。
「何のつもりです?……まさか自身の処女を捧げるからこの場は見逃して欲しい、なんて言うつもりじゃないでしょうね?」
「うるさいのだ。いいから黙って見ているのだ。」
「うるさいのだ。いいから黙って見ているのだ。」
そう言うとクルムはナヒーダの小さな身体を両手で抱きかかえ、唇を寄せてくる。
「キサマに……全てを託すぞ……ナヒーダ」
「え!?ちょ、ちょっと何を……」
「え!?ちょ、ちょっと何を……」
脳に染みこんでくるような声で――
「クレブスクルムの名において宣言する。マオーの全ての力よ、草神ブエルに応え、草神ブエルに属し、草神ブエルに従え」
「クル……ッ……」
ナヒーダの小さな唇と、クルムの小さな唇が重ね合わされる。
「んっ……」
やわらくて。熱い。クルムの高い体温が、じんわりと伝わってくる。早い鼓動と、溢れる魔力も。
「やぁ……ちょ……ちょっとやめて……」
「ん?ナヒーダよ、キサマは知恵の神なのであろう?このような事に対する知識はないというのか?」
「こ……これは知恵とか知識とかの問題じゃなくて常識の問題で……や……やぁ……」
そう言いながらもナヒーダの顔は紅潮して息遣いも荒くなっており、表情もどこかうっとりとした表情を浮かべていた。
無理もない。彼女は記憶を失ってから500年の間ずっと、スラサタンナ聖処で監禁拘束生活を送ってきたのだ。それ故に「知識」はあってもこのような「経験」は今回が初めてであった。
「ね……ねえ……クルム……本当に……これ……必要な事なの?」
「ん……どうであろ?」
「あ……あなたねぇ……」
くすくす、と楽しげに彼女が笑う。
「許すがよいのだ。マオーがこの目で見る、最後の光景かもしれぬのだから」
「え……それって一体どういう……」
「クレブスクルムの名において宣言する。マオーの全ての力よ、草神ブエルに応え、草神ブエルに属し、草神ブエルに従え」
「クル……ッ……」
ナヒーダの小さな唇と、クルムの小さな唇が重ね合わされる。
「んっ……」
やわらくて。熱い。クルムの高い体温が、じんわりと伝わってくる。早い鼓動と、溢れる魔力も。
「やぁ……ちょ……ちょっとやめて……」
「ん?ナヒーダよ、キサマは知恵の神なのであろう?このような事に対する知識はないというのか?」
「こ……これは知恵とか知識とかの問題じゃなくて常識の問題で……や……やぁ……」
そう言いながらもナヒーダの顔は紅潮して息遣いも荒くなっており、表情もどこかうっとりとした表情を浮かべていた。
無理もない。彼女は記憶を失ってから500年の間ずっと、スラサタンナ聖処で監禁拘束生活を送ってきたのだ。それ故に「知識」はあってもこのような「経験」は今回が初めてであった。
「ね……ねえ……クルム……本当に……これ……必要な事なの?」
「ん……どうであろ?」
「あ……あなたねぇ……」
くすくす、と楽しげに彼女が笑う。
「許すがよいのだ。マオーがこの目で見る、最後の光景かもしれぬのだから」
「え……それって一体どういう……」
『ふふ……キサマは神の癖に優しすぎる』
最後の言葉は、頭の中で響いた。
クルムの身体が消えナヒーダは解放され、ナヒーダの中にまるで吸収されるように消えてしまう。
クルムの身体が消えナヒーダは解放され、ナヒーダの中にまるで吸収されるように消えてしまう。
「……何で……短い付き合いなはずなのに何で私のために……それに……前にもこんなことがあったような気がする……まるでこれが初めての別れじゃないかのような……」
ナヒーダは暫く放心状態となり、その目から涙が溢れていた。しかしナヒーダ自身は「何で自分が涙を流しているのか分からない」といった表情を浮かべていた。
「思い出せない……私にとって大切な存在だったはずなのに……忘れたくない存在だったはずなのに……何で……何で思い出せないの……?」
そう言うナヒーダの身体は金属のような質感でありながら、衣服よりも軽い鎧に覆われていた。
紫色の鎧のような身体。ごつごつした頭には、紅く輝く目が五つ。頭にも肩にも角があり、耳まで裂けた口を持った、正真正銘『魔神』を思わせる異形の姿となっていた。
その様子を見たロプトは肩をすくめ、がっかりしたような声を出す。
ナヒーダは暫く放心状態となり、その目から涙が溢れていた。しかしナヒーダ自身は「何で自分が涙を流しているのか分からない」といった表情を浮かべていた。
「思い出せない……私にとって大切な存在だったはずなのに……忘れたくない存在だったはずなのに……何で……何で思い出せないの……?」
そう言うナヒーダの身体は金属のような質感でありながら、衣服よりも軽い鎧に覆われていた。
紫色の鎧のような身体。ごつごつした頭には、紅く輝く目が五つ。頭にも肩にも角があり、耳まで裂けた口を持った、正真正銘『魔神』を思わせる異形の姿となっていた。
その様子を見たロプトは肩をすくめ、がっかりしたような声を出す。
「はぁ、結局こうなるんですね。賢明な貴女なら正しい判断が出来ると思ったんですが……結局は下等な人間の味方をするとは。……いいでしょう。それなら神の力を味わいながら、自らの過ちを後悔しながら死になさい!!」
そう言うとロプトの身体から青白いオーラが立ち昇り、一瞬にしてロプトの背後に神話の阿修羅を思わせるような六本の腕が形成され、ロプトは戦闘状態へと移行する。
「隙だらけですね!!」
そう言うとロプトは六本の腕の手を開いて前面に展開、展開した掌から魔法弾が形成され、未だ放心状態のナヒーダへと次々に放たれる。
ナヒーダは寸での所でこれに気付くものの、時すでに遅し、直撃は避けられない……と思われた時であった。
ナヒーダは寸での所でこれに気付くものの、時すでに遅し、直撃は避けられない……と思われた時であった。
『バリアーなのだ!!』
甲高い、子供の声だった。ナヒーダの周囲に、多重の魔術陣が広がる。
球状の結界が、敵の魔法弾を遮断した。接触した瞬間に爆発する。
小さな弾に、どれほど膨大な魔力が込められていたのか。
結界があるにもかかわらず衝撃を受け、激しく揺さぶられた。
球状の結界が、敵の魔法弾を遮断した。接触した瞬間に爆発する。
小さな弾に、どれほど膨大な魔力が込められていたのか。
結界があるにもかかわらず衝撃を受け、激しく揺さぶられた。
「きゃああ!!……こ、これは何で?」
また頭の中で、子供の声がする。
『危なかったのだー』
「ク、クルム!?生きていたの!?」
『トーゼンなのだ!』
「だってあなた……「最後の光景かもしれない」って……だから私……てっきり……」
『あれはからかって言っただけなのだ!そもそもマオーはこの身を『光翼の鎧』と化したのはこれで2度目だからな!だからマオーが死なないことも元に戻れることも既に知っているのだ!』
「もう!本気で死んだと思ったじゃない!」
『ゴメンなのだー!』
そうしてナヒーダとクルムが脳内で言い争いをしている時であった。
また頭の中で、子供の声がする。
『危なかったのだー』
「ク、クルム!?生きていたの!?」
『トーゼンなのだ!』
「だってあなた……「最後の光景かもしれない」って……だから私……てっきり……」
『あれはからかって言っただけなのだ!そもそもマオーはこの身を『光翼の鎧』と化したのはこれで2度目だからな!だからマオーが死なないことも元に戻れることも既に知っているのだ!』
「もう!本気で死んだと思ったじゃない!」
『ゴメンなのだー!』
そうしてナヒーダとクルムが脳内で言い争いをしている時であった。
「独り言をグチグチと……舐めているのですかあなたは!!」
そう言うとロプトは六本の腕の内右半分の三本を肥大、巨大化させ、そのまま巨大化させた3つの拳でナヒーダを殴り飛ばす。
バキィ!!!
「きゃああ!!」
ナヒーダは吹っ飛ばされるが直ぐに体勢を立て直すと足で踏ん張ってその場に踏みとどまり、ロプトを睨みつける。
ナヒーダは吹っ飛ばされるが直ぐに体勢を立て直すと足で踏ん張ってその場に踏みとどまり、ロプトを睨みつける。
「ちっ……威力が落ちてますね……」
ロプトは自身の攻撃の威力が落ちていることを実感しながら、『海馬乃亜』と名乗った少年の言葉を思い出す。
『圧倒的強者にはハンデも与えよう。ただ、殺すだけじゃなく戦略も必要になるわけさ』
「つまりはそういうことですか……やってくれますね……」
ロプトは毒づきながらも乃亜の言葉の意味を理解する。恐らくこの殺し合いにおいて特定の参加者が一方的に無双できないよう、そういった『強い』参加者のスペックをある程度落とすことでどのような参加者でも優勝でき、どのような参加者でも敗北し、脱落する可能性が発生するように調整がしてあるのだという事をロプトは理解する。
これで確実に優勝できる可能性はかなり低くなった。だがだからといって優勝できなくなった訳ではない。ロプトはエーシルではない不完全な状態でもあのアンブラの魔女――ベヨネッタ相手に終始優勢に戦いを進め、彼女の母ローサを殺害できる程の力量を有していた。
幾ら制限でパワーが落ちていても、元々の力量が高い以上、未だ優勝の目は潰えてない――依然としてロプトはそう考えていた。
幾ら制限でパワーが落ちていても、元々の力量が高い以上、未だ優勝の目は潰えてない――依然としてロプトはそう考えていた。
(まずはあのガキ二人を殺す。どんな手品を使ったかは知りませんが、合体した所で僕には勝てないという事を思い知らせてやりますよ……フフフフフ……)
一方、ナヒーダとクルムはロプトを倒すために、脳内でお互い話し合っていた。
『奴め……神を名乗るだけあって半端ない強さなのだ。今のコンフォートモードでは奴に勝つのは厳しいのだ。』
「コンフォートモードって?」
『コンフォートモードはマオーの普段通りの力しか出していない状態なのだ。そもそもこの状態で勝てる相手ならマオーだけで勝てるからそもそも意味が薄い状態なのだ。だからそれよりも更に上の状態……ファナティックモードに移行するのだ。』
その言葉と同時……ナヒーダの身体が熱くなって魔力や元素力がどんどん湧いてくるのを感じ、頭に血が上る感覚に襲われるが自らの理性で抑え込み、冷静さを取り戻す。
『更に上の状態としてマオーモードが存在するが……使うか?』
「いいえ、マオーモードは温存しましょう。この殺し合いは彼を倒せばそれで終わりじゃない……まだ他の参加者との戦いが控えていることを考えるとここで全力を出し切るのは得策じゃないわ。それより私に作戦があるんだけど……聞いてくれる?」
『?どんな作戦なのだ?』
「実はね……」
『奴め……神を名乗るだけあって半端ない強さなのだ。今のコンフォートモードでは奴に勝つのは厳しいのだ。』
「コンフォートモードって?」
『コンフォートモードはマオーの普段通りの力しか出していない状態なのだ。そもそもこの状態で勝てる相手ならマオーだけで勝てるからそもそも意味が薄い状態なのだ。だからそれよりも更に上の状態……ファナティックモードに移行するのだ。』
その言葉と同時……ナヒーダの身体が熱くなって魔力や元素力がどんどん湧いてくるのを感じ、頭に血が上る感覚に襲われるが自らの理性で抑え込み、冷静さを取り戻す。
『更に上の状態としてマオーモードが存在するが……使うか?』
「いいえ、マオーモードは温存しましょう。この殺し合いは彼を倒せばそれで終わりじゃない……まだ他の参加者との戦いが控えていることを考えるとここで全力を出し切るのは得策じゃないわ。それより私に作戦があるんだけど……聞いてくれる?」
『?どんな作戦なのだ?』
「実はね……」
ナヒーダの作戦を聞いたクルムは面白そうな声で了承する。
『おお、それは面白そうなのだ!その作戦、乗った!』
だがその言葉と同時、ナヒーダの様子を見ていたロプトが待ちくたびれたかのようにナヒーダに声を掛ける。
「脳内会議は終わりましたか?どんな策を講じたか知りませんが……少しは楽しませてくれるのでしょうね?」
「ええ、待たせたわね……それじゃあ、いくわよ?」
「ええ、待たせたわね……それじゃあ、いくわよ?」
どんな攻撃が来るのか、ロプトが身構えた時であった。
「知識を……あなたにも……」
まずナヒーダは高まった元素力を使って自らの切り札である元素爆発『心景幻成』を発動し、まるで白亜の宮殿を思わせるような領域「摩耶の宮殿」を展開する。
「?何ですこれは?」
どんな攻撃が来るかと思えばただ幻の宮殿を出現させただけじゃないか、そうロプトが思った時であった。
ナヒーダが手に持っていた96ガロンデコを構えるとガロンデコからインクの弾が発射される。
「!!」
攻撃が来る、そう思いロプトは6本の腕で防御するがナヒーダはそれが分かり切っていたように6本の内、5本の腕にインクの弾を一発ずつ、合計5発の弾を命中させる。
どんな攻撃が来るかと思えば次はインクの弾か、とロプトはナヒーダの行動の目的が理解できず、あまりの可笑しさに笑い出す。
「ハハハ……アッハッハッハッハッハッハ!!何をしてくるかと思えばやってくるのは幻の風景にオモチャの銃、そんなお遊びでこのボクを本気で倒そうと考えているとはどうやら貴女は見た目通り子供の遊びが好きなようだ!そんなんだから貴女は教令院の賢者達に舐められるんじゃないですか?」
だがナヒーダはロプトの挑発に乗ることなく、ただ静かにこう宣言する。
「……ええ、そうよ。そしてその慢心が、あなたの敗因となる。」
「?何ですって?」
「?何ですって?」
疑問に思うロプトを尻目に、ナヒーダは次の攻撃に移行する。
「全部丸見えね」
ナヒーダは自らの元素スキル「所聞扁計」を発動、ファインダーを展開してロプト自身とロプトの六本の腕全てを標準に収めると「所聞扁計」の効果により標準に収まったロプトに草元素ダメージを与える。
「!?ぐあっ!?」
しかもただダメージを与えただけではない。まず現在元素爆発により展開されている領域「摩耶の宮殿」はナヒーダの能力である「滅浄三業」を強化する効果があり、領域内に炎元素の仲間がいれば「滅浄三業」の威力の強化、雷元素の仲間がいれば「滅浄三業」の発動感覚の短縮の恩恵を受けることが出来た。そして魔王クレブスクルムは炎元素と雷元素の魔法を操ることが出来るため、上記の恩恵の両方を受けることが出来たのだ。
そして先ほど96ガロンデコによって発射されたインクがロプトの腕に付着したことにより、インク――つまり水元素がロプトに付着していたため、草元素と水元素の両方がロプトに付着したことにより、元素反応である「開花」反応が発生し、黄緑色の果実のような物体――「草原核」が合計5つ出現する。
更にそれだけでなく、「所聞扁計」による攻撃はただ草元素ダメージを与えるだけでなく、ダメージを与えた敵に「蘊種印」という特殊な印を付与することが出来、更に「蘊種印」が付与された敵に元素反応が発生するとナヒーダの能力である「滅浄三業」の効果が発動し、「摩耶の宮殿」の効果による強化も上乗せされた草元素ダメージによる追撃がロプトを襲う。
そして先ほど96ガロンデコによって発射されたインクがロプトの腕に付着したことにより、インク――つまり水元素がロプトに付着していたため、草元素と水元素の両方がロプトに付着したことにより、元素反応である「開花」反応が発生し、黄緑色の果実のような物体――「草原核」が合計5つ出現する。
更にそれだけでなく、「所聞扁計」による攻撃はただ草元素ダメージを与えるだけでなく、ダメージを与えた敵に「蘊種印」という特殊な印を付与することが出来、更に「蘊種印」が付与された敵に元素反応が発生するとナヒーダの能力である「滅浄三業」の効果が発動し、「摩耶の宮殿」の効果による強化も上乗せされた草元素ダメージによる追撃がロプトを襲う。
「ぐううっ!!」
そしてナヒーダは最後の仕上げに入ろうとしていた。
「後はお願いね。」
その言葉と共にナヒーダの纏う雰囲気が変化し、ナヒーダから発せられる声に明確な変化が発生していた。
「任せたのだ!」
その声はナヒーダではなく、クルムの声に変化していた。
七神の一柱である草神ブエルであるナヒーダは草元素の神として神の目無しで草元素を操ることが出来るだけでなく、幾つかの権能を有していた。
その一つが「意識の乗っ取り」「意識の交換」であり、ナヒーダと何らかの形で意識が繋がった相手に対してナヒーダはその対象の意識を乗っ取って操ったり、対象と自らの意識を交換することが出来た。基本的にナヒーダ自身は心優しく相手の意思を最大限に尊重する性格なため、滅多に使われることはないのであるが、今回はこの権能を応用することで自身と一体化したクルムと意識を交換し、疑似的な二重人格として必要に応じて人格を切り替える戦法を取ることが出来た。
七神の一柱である草神ブエルであるナヒーダは草元素の神として神の目無しで草元素を操ることが出来るだけでなく、幾つかの権能を有していた。
その一つが「意識の乗っ取り」「意識の交換」であり、ナヒーダと何らかの形で意識が繋がった相手に対してナヒーダはその対象の意識を乗っ取って操ったり、対象と自らの意識を交換することが出来た。基本的にナヒーダ自身は心優しく相手の意思を最大限に尊重する性格なため、滅多に使われることはないのであるが、今回はこの権能を応用することで自身と一体化したクルムと意識を交換し、疑似的な二重人格として必要に応じて人格を切り替える戦法を取ることが出来た。
「このマオーが焼き尽くしてくれるのだ!食らえ!!『サンダーストーム』!!」
ナヒーダと意識を交換したクルムが自らの手から彼女の得意魔術である雷属性の魔術を発動し、無数の雷がロプトに向けて発射される。
「!!」
だがロプトもただ黙って攻撃を受けるつもりはない。攻撃を回避するためにその場から跳躍し離れるが、クルムの魔術はロプト――ではなく、先ほどの元素反応によって発生した5つの草原核に向かって放たれていた。
「ははっ!何処に向かって攻撃しているんですか!」
だがそのロプトの嘲笑に対し、クルムは不敵に笑って答える。
「……いいや、マオーの狙いは正確なのだ。」
「?」
「?」
そしてサンダーストームによる雷撃が草原核に届くと……サンダーストーム、つまり雷元素の攻撃が草原核に付与されたことにより、「開花」反応の上位反応である「超開花」反応が発生し、草原核全てが破裂、それら全てが草元素の追尾弾へと変化し、ロプトに向かって正確に放たれ、直撃する。
「!?ぐあああっ!?」
しかもそれだけではない。再び元素反応が発動したことによってナヒーダの能力である「滅浄三業」の効果が再び発動し、「摩耶の宮殿」の効果による強化も上乗せされた草元素ダメージによる追撃が再びロプトを襲う。
「ぐううううっ!!」
彼女らを侮っていたか、とロプトは自らの慢心を後悔する。先ほどの無意味に見えた行動全てがこれらの連鎖反応に対する布石であり、敢えて油断と慢心を誘ったうえで本命を叩きこむ、これこそが「知恵の神」ナヒーダの立てた作戦であり、璃月の鍾離や稲妻の雷電将軍と比べ単純な力では劣りながらも彼らと同格に近い強さを持っているナヒーダの強さを支える要素の一つでもあった。
「成程……教令院の賢者達同様、僕も貴女の本当の実力を見誤ったようだ……ならばこちらも僕の全力を以ってあなた達を叩き潰すとしましょう!!」
だが一連の攻撃を受けても尚、明確にダメージは負っていてもロプトの負ったダメージは致命傷とは言い難かった。
ハンデにより一連の攻撃の威力が全体的に落ちていた事もそうだが、ロプト自身も見た目に反して高い耐久力を有しており、自身よりも遥かに巨大な天使や悪魔に対しても有効打を与え、倒す事が出来るベヨネッタの攻撃に対しても耐えることが出来るほどのものであった。
そしてロプトの身体が青白いオーラに包まれると、ロプトの6本の腕が最早限界が存在しないのではないかと思われるほど長く伸び、伸びた6本の腕が近くの岩山を掴むと岩山から無理矢理巨大な岩塊を剥ぎ取り、剝ぎ取った巨大な岩塊をそのまま力任せにナヒーダとクルムに向かって投げ飛ばす。
最早小細工無しの巨大な力による攻撃――直撃すれば魔神といえど肉塊と化すような、それほどまでに巨大な岩塊による攻撃であった。
ハンデにより一連の攻撃の威力が全体的に落ちていた事もそうだが、ロプト自身も見た目に反して高い耐久力を有しており、自身よりも遥かに巨大な天使や悪魔に対しても有効打を与え、倒す事が出来るベヨネッタの攻撃に対しても耐えることが出来るほどのものであった。
そしてロプトの身体が青白いオーラに包まれると、ロプトの6本の腕が最早限界が存在しないのではないかと思われるほど長く伸び、伸びた6本の腕が近くの岩山を掴むと岩山から無理矢理巨大な岩塊を剥ぎ取り、剝ぎ取った巨大な岩塊をそのまま力任せにナヒーダとクルムに向かって投げ飛ばす。
最早小細工無しの巨大な力による攻撃――直撃すれば魔神といえど肉塊と化すような、それほどまでに巨大な岩塊による攻撃であった。
だがそれもナヒーダにとっては既に予測済みであった。一連の攻撃を終えた後、意識を交換し自らの意識へとチェンジしたナヒーダは、クルムに託された指輪を装着し、その指輪の効果によって使えるようになった超弩級魔術の詠唱を完了し、両手を突き出して自らに迫りくる巨大な岩塊に向けて放つ。
「『覆滅の炎』!!!」
先ほど装着した指輪は『眼球の魔王 イアンカローズ』の奥義である、MMORPGクロスレヴェリのなかで最大火力と言われる超弩級魔術『覆滅の炎』が使えるようになる魔王の指輪であり、効果は『覆滅の炎』が使えるようになるものの、それ以外の魔術が一切使えなくなるデメリットを持つ指輪であった。
『覆滅の炎』の閃光が巨大な岩塊と衝突し相殺、岩塊は粉々に砕け、『覆滅の炎』の閃光もまた、消滅する。
だが『覆滅の炎』を放ったことによる消耗が大きいナヒーダと違い、ロプトは多少のダメージや消耗はあれど、未だ余裕はあるといった感じであった。
『やはりマオーの見立てが甘かったか……ファナティックモードでは奴に勝つことは出来ないのだ……』
「そんな……それじゃあ、どうしたら……」
『もうマオーモードを使うしかないのだ。マオーモードは理性が飛び、破壊衝動が強くなってしまう可能性があるが……もう背に腹は替えられないのだ。』
「……分かった。あなたに任せるわ……。」
そう言うとナヒーダは自らの権能を使い、クルムと意識を交換する。それに対し、ロプトは挑発するように声を掛ける。
「そんな……それじゃあ、どうしたら……」
『もうマオーモードを使うしかないのだ。マオーモードは理性が飛び、破壊衝動が強くなってしまう可能性があるが……もう背に腹は替えられないのだ。』
「……分かった。あなたに任せるわ……。」
そう言うとナヒーダは自らの権能を使い、クルムと意識を交換する。それに対し、ロプトは挑発するように声を掛ける。
「ここまで頑張ったのは褒めてあげますが……ここで打ち止めですか?ならば僕は今ここであなた達を殺し、次の獲物を探しに行くとしましょう。」
だが返事はなく、代わりにナヒーダの身体を借りたクルムから妖しいオーラが立ち昇ると、クルムは凄まじい勢いで絶叫した。
「グルルルウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーッ!!」
「!!?」
「!!?」
最早知恵も理性も感じられない獣の叫び――マオーモードによって単純な力の増大と引き換えにかつてアリシアに嵌められて暴走し、破壊衝動の塊と化したかつての魔王クレブスクルムを再現したような、破壊と暴力の化身へとクルムは変化していた。
そしてそのまま上昇した身体能力に任せて、クルムはロプトに向かって一直線に突撃する。
「小手先の策が通じないからとやけになりましたか!」
だがロプトは動じることなく、6本の腕を肥大化させるとそのまま突っ込んでくるクルムを挟みこむように叩き潰す。
……だがクルムは自らを叩き潰した6つの手を無理矢理跳ね除けるとそのままロプトの懐に潜りこみ……そのまま拳をロプトの顔面に力任せに叩きこむ。
「ぐあああ!!」
吹き飛ばされたロプトは体勢を立て直すと尚も突っ込んでくるクルムに対し、6本の腕による拳の乱打をクルムに向かって放つ。
激しい拳の嵐による殴打を受け、クルムの外装となる鎧が幾らか凹むが、それでも怯むことなく尚も突き進み、再びロプトの懐に入ると……足を振り上げ、ロプトの頭部に踵落としを決め、地面に叩きつける。
「ぐううっ!!」
そしてロプトの頭部を掴んで無理矢理起こすとロプトの腹部に膝蹴りを2発、3発と執拗に叩きこみ、そして最後にロプトを力任せに殴り飛ばす。
吹き飛ばされたロプトは何回か地面を転がるとやがて停止し、ロプトは息を荒くしながらも顔を上げ、クルムを睨みつける。
「ふざけるなよ……魔王如きが神であるこの僕にぃぃ……」
だがそんなロプトに対し、クルムは一歩、また一歩と近づくと、拳を振り上げ、再びロプトに向かって拳を叩きこもうとした……その時であった。
パッ
「な!?」
「え!?」
「え!?」
何とナヒーダとクルムの光翼の鎧による合体が解除され、合体する前の元の二人の状態へと戻ってしまう。
こうなってしまったのには理由があった。先ほどの『覆滅の炎』を放ったことによる魔力などの大幅消費とロプトの攻撃によるダメージの蓄積に加え、マオーモードまで解放したこと、それら全てが総合した結果、乃亜が架したハンデにより合体が強制解除となってしまったのである。
こうなってしまったのには理由があった。先ほどの『覆滅の炎』を放ったことによる魔力などの大幅消費とロプトの攻撃によるダメージの蓄積に加え、マオーモードまで解放したこと、それら全てが総合した結果、乃亜が架したハンデにより合体が強制解除となってしまったのである。
あまりに突然のことにロプトはあっけに取られるも、事態を理解したのかロプトは立ち上がり、笑い出す。
「ククククク……ハハハハハハハ!!!やはり彼が言う『ハンデ』というのは僕だけではなく、彼女たちにも架せられていたという事ですか!最初は忌まわしいと思いましたが……この時ばかりは彼に感謝しなければいけませんね!!さて、まずは……」
そう言うとロプトは地面に倒れているナヒーダに向かってゆっくりと近づき、ナヒーダの首を掴むとそのまま彼女を片腕で持ち上げる。
「うう……」
「ナ、ナヒーダ……」
「ナ、ナヒーダ……」
地面に倒れているクルムはロプトとそれに持ち上げられているナヒーダを見つめるが、力を使い果たしたのかどうすることも出来なかった。
「さて、貴女はこのまま生かしといてはとても厄介ですからね。ここで確実に始末するとしましょう。」
そう言うとロプトはナヒーダを掴んでいない手で抜き手を放ち、その手がナヒーダの腹部に突き刺さる。
そう言うとロプトはナヒーダを掴んでいない手で抜き手を放ち、その手がナヒーダの腹部に突き刺さる。
「ナ、ナヒーダァァァァァ!!」
クルムの叫びも虚しく、ロプトの抜き手がナヒーダの腹部を貫いた……と思われたその時、クルムの、そしてロプトの視界にノイズのようなものがはしり、腹部を貫かれたはずのナヒーダがロプトに向かって静かに語り掛ける。
「……ねえ、あなたが私を狙ったのがこれで何回目か、分かる?」
「!?」
「!?」
何故死なない、そうロプトが思ったその時、周囲の風景全てにまるでガラス細工のようなヒビが入ると、それら全てが割れたガラスのように粉々に砕け散り、それに驚いて目を覆ったロプトが目を開けると、まるで今までの戦いがなく、最初に対峙した時の状態を再現したかのようにロプトの目の前にナヒーダとクルムの二人が立っていた。
「さっきので3回目よ。これがこの私、草神ブエルが持つ権能『夢境』の力……さっきまであなたは私たちと無意味な戦いを繰り広げていたの。」
「なっ……一体いつからその力を使っていたんですか!?……はっ、まさかあの時……」
「なっ……一体いつからその力を使っていたんですか!?……はっ、まさかあの時……」
ロプトには権能を行使されたタイミングに一つだけ心当たりがあった。ナヒーダがロプトの誘いを断った時、ナヒーダが手をかざし、淡い緑色の植物を模した草元素の波動を放出していたことを思い出したのだ。
今にして思えば、というよりあのタイミングの時しか思い浮かばないのであるが、あの時既に権能を行使されていたのだという事を、ロプトは理解する。
今にして思えば、というよりあのタイミングの時しか思い浮かばないのであるが、あの時既に権能を行使されていたのだという事を、ロプトは理解する。
「……成程そういうことですか。ですがこんな事をして何になるというのです?例え何度繰り返そうとも、その度に僕は貴女達を叩き潰し、力の差を思い知らせてあげますよ。」
「ええ、お好きにどうぞ。……あなた自身が脱落してもいいというのであればね?」
「?どういう意味です?」
「ええ、お好きにどうぞ。……あなた自身が脱落してもいいというのであればね?」
「?どういう意味です?」
意味が分からない、という顔をしたロプトに対し、ナヒーダが分かりやすく彼に説明をする。
「さっきも言ったでしょ。私の権能は『夢境』の力だって……つまり私たちは今夢の世界にいて、現実の私たちは眠りについているのよ。それが何を意味しているか、分かる?」
「!?……ま、まさか貴女達は……」
「!?……ま、まさか貴女達は……」
そう、現実の肉体が眠りについているという事は、現実の自分たちはその場から動くことも出来ない、完全な無防備状態であるという事を意味していた。
「ようやく気付いたようね。この殺し合いには他の参加者も参加している……そんな状態で無防備な状態のままでいれば、他の参加者に容赦なく狩られるか……もしくは殺し合いを円滑に進めるために設定されるであろう『禁止エリア』に動くことも出来ずに放置される状態になり、首輪を爆破されてそのまま退場するか……つまりこのままあなたが私たちと夢の世界で無意味に戦い続けていれば、いずれあなたには敗退の道しか残されていないという事になるのよ?」
「なっ……しかしそれは貴女達も同じなはず!まさか貴女は僕とこのまま心中するおつもりですか!?」
「なっ……しかしそれは貴女達も同じなはず!まさか貴女は僕とこのまま心中するおつもりですか!?」
ロプトの言葉に対し、ナヒーダは首を縦に振り、こう答える。
「ええ、仮に私がここで死ぬことになっても、あなたの命と引き換えなら安い代償だわ。私の命一つであなたの凶行を止めることが出来るのであれば、あなたのせいで苦しむことになる多くの命を救うことが出来るのですもの。」
「くっ……」
「くっ……」
彼女は本気だ、ナヒーダの目を見てロプトはこれがハッタリではなく、本気だという事を理解し、矛を収めざるをえないと理解した。
「さっ、取引をしましょう。今ここで私たちを見逃すか、それとも私たちとこのまま戦い続けて死ぬか……どっちの道を選ぶかあなたに『選択』させてあげるわ?」
かつて人間たちに選択の概念を与えたロプト……エーシルに対し、『選択』の道を突き付ける……そんな皮肉とも言える状況の中、ロプトは不敵に笑うとある一つの結論に達した。
「……いいでしょう。どうせ貴女達はいつでも殺せるのです。より確実に殺せるものを殺し、力をつけてからいずれまた貴女達を殺して差し上げますよ。」
「……そう、分かったわ。」
「……そう、分かったわ。」
今この場は見逃す……そう選択したと受け取ったナヒーダは夢境の権能を解除し、3人は夢の世界から目覚め、現実世界へと引き戻される。
「……さて、あなたがこちらに有利な選択をした以上、私もそれ相応の代価を払わなければ筋が通らないわね。さっきあなたが私に投げてきたカード……これをあなたに返すわ。」
そう言うとナヒーダは最初にロプトが投げてきたカードをロプトに提示する。
「いい事教えてあげるけどこのカード……『カオスエンドルーラー 開闢と終焉の支配者』はただ投げつけるだけじゃなくて念じればカードのモンスターが実体化して呼び出した人物の指示に従って戦わせることが出来るわ……どう?悪くない代価でしょ?」
そう言うとナヒーダはカードを自身の足元に置き、そのままじりじりと後退する。
「言っておくけどもしあなたが何かおかしな真似をすればカードは直ぐに焼却処分して私はまた夢境の権能を発動させるわ……それが嫌なら黙って自身の選んだ選択を守ることね。」
ナヒーダの言葉に対し、クルムは黙って自身の手をカードに向けてかざす。ロプトが何かした瞬間、カードを直ぐに燃やせるように。
そのままじりじりとお互い仕掛けることもないまま両者の距離は離れていき……やがてお互いが視認できない距離まで両者の距離は離れ、両者は完全に離れることになった。
そのままじりじりとお互い仕掛けることもないまま両者の距離は離れていき……やがてお互いが視認できない距離まで両者の距離は離れ、両者は完全に離れることになった。
◆◆◆
「凄いのだー!あんな凄い能力があるならこれから先も……って、ナヒーダ!?」
先ほどの戦いの場所から大分離れた場所でナヒーダは辛そうな表情で頭を抑えながら蹲り、クルムはそんな急変したナヒーダの容態を心配して覗き込んでいた。
「ハァ……ハァ……大丈夫よ……このくらいならまだ平気だから……」
「全然大丈夫じゃなさそうなのだ!!急に一体どうしたのだ!?」
「……恐らく私の『夢境』の権能にも制限が掛かっているのね。行使するたびに頭痛が酷くなっていったから……」
先ほどの戦いの場所から大分離れた場所でナヒーダは辛そうな表情で頭を抑えながら蹲り、クルムはそんな急変したナヒーダの容態を心配して覗き込んでいた。
「ハァ……ハァ……大丈夫よ……このくらいならまだ平気だから……」
「全然大丈夫じゃなさそうなのだ!!急に一体どうしたのだ!?」
「……恐らく私の『夢境』の権能にも制限が掛かっているのね。行使するたびに頭痛が酷くなっていったから……」
そう、ロプトやクルム同様、ナヒーダにも『ハンデ』という名目の制限がかかっており、自身の権能である『夢境』の力を行使するたびに頭痛が激しくなり、徐々に本人が消耗するような制約がかけられていた。
つまりあそこでロプトとの駆け引きで彼が引いてくれるかどうかは一種の賭けであり、もし仮にあそこでロプトが構わずに襲いかかってきたら、彼が諦めるか共倒れするまで権能を行使し続けなければならず、最悪その前に彼女が倒れていた可能性もあった。
つまりあそこでロプトとの駆け引きで彼が引いてくれるかどうかは一種の賭けであり、もし仮にあそこでロプトが構わずに襲いかかってきたら、彼が諦めるか共倒れするまで権能を行使し続けなければならず、最悪その前に彼女が倒れていた可能性もあった。
「……さあ、早く行きましょう。まずは仲間を集めてこの殺し合いを止める手段を探さないと……」
未だ辛そうな表情で頭を抑えながらナヒーダが立ち上がろうとした時であった。
「無理をするな!その前にキサマの限界が来るぞ!今は休め!」
明らかに無理をしている、そう判断したクルムがナヒーダを座らせようとしたその時であった。
未だ辛そうな表情で頭を抑えながらナヒーダが立ち上がろうとした時であった。
「無理をするな!その前にキサマの限界が来るぞ!今は休め!」
明らかに無理をしている、そう判断したクルムがナヒーダを座らせようとしたその時であった。
「……私は早くスメールに帰らなきゃいけないのよ!!」
座らせようとしたクルムの手を払いのけ、ナヒーダは普段冷静な彼女からは考えられないようなひどく焦ったような表情で声を荒げていた。
「私の帰りをスメールの民たちが待っているのよ!!私は草神としてスメールを治める責務を全うしなきゃならないの!!だから……私は……私は……」
その時であった。ナヒーダの脳裏にかつての大賢者アザールの言葉がフラッシュバックして蘇ってきた。
座らせようとしたクルムの手を払いのけ、ナヒーダは普段冷静な彼女からは考えられないようなひどく焦ったような表情で声を荒げていた。
「私の帰りをスメールの民たちが待っているのよ!!私は草神としてスメールを治める責務を全うしなきゃならないの!!だから……私は……私は……」
その時であった。ナヒーダの脳裏にかつての大賢者アザールの言葉がフラッシュバックして蘇ってきた。
――クラクサナリデビ……彼女に何が出来る?
「え……待って……私は……私は……」
「?ナヒーダ?」
ナヒーダの今の表情は先ほどまでの焦った表情とは打って変わって、酷く怯えたような表情を浮かべていた。
――民をなだめる?砂塵への対策?それとも荒唐無稽なおとぎ話でも作ることか?そんなの教令院でも簡単にできる。ならば私たちも神なのか?
「ち……違うの……私は……私なりにスメールの民たちのために必死に尽くそうとして……」
――我々はマハ―ルッカデヴァータ様の恩恵を受けた民。この眼で見たことがなくとも、我々の先祖たる学者たちは「真の知恵」を見た。だが、今のクラクサナリデビは神の座にいても、学者たちに迷いをもたらす――「あれが真の知恵なのか」?
「ご……ごめんなさい……私が未熟だから……スメールを治める神に相応しくないから……でもこれから頑張るから……頑張ってスメールを治める神に相応しい「真の知恵」を身につけるから……だからお願い……見捨てないで……」
――ならば、彼女にずっとスラサタンナ聖処にいてもらったほうが、学術環境もより安定する。
「いや……それだけはやめて……そんなことをしたら私は一人ぼっちになっちゃう……頑張って「真の知恵」を身につけてスメールを治めるのに相応しい神になるから……だからお願い、それだけはやめて……」
――神を創る……我々は人類の知恵をもってして神を創っているんだ!もし人類が「全知全能」に届かないのであれば、神を創ってそれを公示すればいい!これこそが人類が到達できる知恵の頂点。我々は神の導きを再びこの手にする。もう二度と意識と知恵の暗闇で、当てもなく彷徨う必要がなくなる……。たとえ世界樹の危機であろうとも、最後にはあっさり解決できるであろう。神が自分の手から誕生するその喜びを、お前では永遠に味わえないであろう。お前の知恵では……この感情を理解するには不十分だからな。
「いやあ……イヤアアアアアアアァァァァァァァァァァァ!!!」
「ナヒーダ!!」
「え……待って……私は……私は……」
「?ナヒーダ?」
ナヒーダの今の表情は先ほどまでの焦った表情とは打って変わって、酷く怯えたような表情を浮かべていた。
――民をなだめる?砂塵への対策?それとも荒唐無稽なおとぎ話でも作ることか?そんなの教令院でも簡単にできる。ならば私たちも神なのか?
「ち……違うの……私は……私なりにスメールの民たちのために必死に尽くそうとして……」
――我々はマハ―ルッカデヴァータ様の恩恵を受けた民。この眼で見たことがなくとも、我々の先祖たる学者たちは「真の知恵」を見た。だが、今のクラクサナリデビは神の座にいても、学者たちに迷いをもたらす――「あれが真の知恵なのか」?
「ご……ごめんなさい……私が未熟だから……スメールを治める神に相応しくないから……でもこれから頑張るから……頑張ってスメールを治める神に相応しい「真の知恵」を身につけるから……だからお願い……見捨てないで……」
――ならば、彼女にずっとスラサタンナ聖処にいてもらったほうが、学術環境もより安定する。
「いや……それだけはやめて……そんなことをしたら私は一人ぼっちになっちゃう……頑張って「真の知恵」を身につけてスメールを治めるのに相応しい神になるから……だからお願い、それだけはやめて……」
――神を創る……我々は人類の知恵をもってして神を創っているんだ!もし人類が「全知全能」に届かないのであれば、神を創ってそれを公示すればいい!これこそが人類が到達できる知恵の頂点。我々は神の導きを再びこの手にする。もう二度と意識と知恵の暗闇で、当てもなく彷徨う必要がなくなる……。たとえ世界樹の危機であろうとも、最後にはあっさり解決できるであろう。神が自分の手から誕生するその喜びを、お前では永遠に味わえないであろう。お前の知恵では……この感情を理解するには不十分だからな。
「いやあ……イヤアアアアアアアァァァァァァァァァァァ!!!」
「ナヒーダ!!」
最早限界に達したのか、普段の冷静な彼女からは想像も出来ないような絶叫をあげながらナヒーダは頭を抱えてしゃがみ込む。
「私は頑張るから!!頑張って「真の知恵」を手に入れるから!!「知恵の神」として相応しい存在になるから!!民を導くのに相応しい偉大な神様になって民の皆を安心させられるような存在になるから!!だからお願い!!私を見捨てないで!!もう二度と私を一人ぼっちにしないで!!イヤア!!イヤアアアアアアアアアアアアア!!!」
「ナヒーダ!!」
「私は頑張るから!!頑張って「真の知恵」を手に入れるから!!「知恵の神」として相応しい存在になるから!!民を導くのに相応しい偉大な神様になって民の皆を安心させられるような存在になるから!!だからお願い!!私を見捨てないで!!もう二度と私を一人ぼっちにしないで!!イヤア!!イヤアアアアアアアアアアアアア!!!」
「ナヒーダ!!」
バァン!見かねたクルムがナヒーダの頬を平手打ちすると正気を取り戻したナヒーダがクルムの方を見る。
「何でそんなにナヒーダは自分で自分の事を追い詰めるような事をするのだ!!何が「真の知恵」だ!!大層な事を言って結局そのアザールって奴はただ威張り腐ってキサマをイジメているだけではないか!!そんな奴は「大賢者」なんかじゃない!!ただのクソジジイだ!!」
「……え?」
「何でそんなにナヒーダは自分で自分の事を追い詰めるような事をするのだ!!何が「真の知恵」だ!!大層な事を言って結局そのアザールって奴はただ威張り腐ってキサマをイジメているだけではないか!!そんな奴は「大賢者」なんかじゃない!!ただのクソジジイだ!!」
「……え?」
これまで自分がスラサタンナ聖処に監禁幽閉されていたのは自分が神として相応しくないから、そう思い込んでいたナヒーダにとってクルムの発言は信じられないような言葉であり、ただ放心状態でクルムの顔をじっと見つめる。
「マオーが復活したばかりの頃オウロウとアリシアが「魔王は人族を殺すもの、人族を殺さないお前は魔王として相応しくない」と言ってきたがそんなこと言われてもマオーは気にしなかったぞ!マオーにとってはビスケットやアップルタルトを食べたり町でのんびり暮らす方が楽しいし、人族を殺すよりもずっといい!そんなマオーをディアウ゛ロもシェラやレムもエデルガルドもシルヴィもセレスもみんな受け入れてくれてる!」
「……」
「マオーが復活したばかりの頃オウロウとアリシアが「魔王は人族を殺すもの、人族を殺さないお前は魔王として相応しくない」と言ってきたがそんなこと言われてもマオーは気にしなかったぞ!マオーにとってはビスケットやアップルタルトを食べたり町でのんびり暮らす方が楽しいし、人族を殺すよりもずっといい!そんなマオーをディアウ゛ロもシェラやレムもエデルガルドもシルヴィもセレスもみんな受け入れてくれてる!」
「……」
ナヒーダは未だ放心状態でクルムの事を見つめていた。知恵や知識はあっても理解が追いつかない、ナヒーダの思考は今まさにそんな感じであった。
「では何故教令院のクズ共はキサマを閉じ込めた!?自由を奪った!?それは教令院の連中はキサマの事を「ナヒーダ」としてではなく、ただ「草神」としてしか見ていなかったからだ!!オウロウもアリシアも同じだ!オウロウもアリシアもマオーの事を「クルム」としてではなく、ただ「魂の魔王」としてしか見ていなかったからオウロウはマオーの事を「輪廻転生」と称して殺そうとしてきたしエデルガルドにも手を出した!アリシアも魔族と手を組んでレムを罠に嵌めて傷つけた!何故か!?それはオウロウもアリシアも教令院の連中もマオーやナヒーダが「魂の魔王」「草神」としては自身が望んだ存在ではなかったからだ!だからレムは傷つけられ創神計画は企てられた!結局のところあいつらにとってはマオーやナヒーダの事なんて本当はどうでも良かったのだ!!」
「……わ……私は……私は……」
「では何故教令院のクズ共はキサマを閉じ込めた!?自由を奪った!?それは教令院の連中はキサマの事を「ナヒーダ」としてではなく、ただ「草神」としてしか見ていなかったからだ!!オウロウもアリシアも同じだ!オウロウもアリシアもマオーの事を「クルム」としてではなく、ただ「魂の魔王」としてしか見ていなかったからオウロウはマオーの事を「輪廻転生」と称して殺そうとしてきたしエデルガルドにも手を出した!アリシアも魔族と手を組んでレムを罠に嵌めて傷つけた!何故か!?それはオウロウもアリシアも教令院の連中もマオーやナヒーダが「魂の魔王」「草神」としては自身が望んだ存在ではなかったからだ!だからレムは傷つけられ創神計画は企てられた!結局のところあいつらにとってはマオーやナヒーダの事なんて本当はどうでも良かったのだ!!」
「……わ……私は……私は……」
クルムの言葉を聞いてナヒーダは未だ現実を受け入れられないでいた。自身と全く違う生き方、考え方をしている存在を目の前にして、ナヒーダの頭は知識はあっても理解が追いつかない、そんな状態に陥っていた。
「それにキサマ……キサマはまだ、まだ幼くて小さな女の子ではないか!!」
「!!?」
そう、今まさにクルムの言った通りであった。ナヒーダは500歳であるが、500歳といえば魔神基準でいえば見た目通りのまだ小さくて幼い子供だ。本来ならお菓子を食べたり同世代の子とブランコやかくれんぼで遊んで天真爛漫に過ごしてもいいような、そんなまだ小さくて幼い子供そのものな、そんな年齢なのだ。
だが教令院の賢者達はそれを認めなかった。オウロウやアリシア同様、ナヒーダの事を「草神」としてしか見ていなかった彼らは彼女のことを「草神として相応しくない都合の悪い存在」と見なして彼女から一切の自由を奪い、創神計画によって自分たちにとって都合のいい神を創り上げ、ナヒーダの存在を排除しようとした。
つまり教令院の賢者達やスメールの民にとっては自分たちにとって都合のいい「草神」が欲しかったのであり、ナヒーダの事などどうでも良かったのだ。
「それにキサマ……キサマはまだ、まだ幼くて小さな女の子ではないか!!」
「!!?」
そう、今まさにクルムの言った通りであった。ナヒーダは500歳であるが、500歳といえば魔神基準でいえば見た目通りのまだ小さくて幼い子供だ。本来ならお菓子を食べたり同世代の子とブランコやかくれんぼで遊んで天真爛漫に過ごしてもいいような、そんなまだ小さくて幼い子供そのものな、そんな年齢なのだ。
だが教令院の賢者達はそれを認めなかった。オウロウやアリシア同様、ナヒーダの事を「草神」としてしか見ていなかった彼らは彼女のことを「草神として相応しくない都合の悪い存在」と見なして彼女から一切の自由を奪い、創神計画によって自分たちにとって都合のいい神を創り上げ、ナヒーダの存在を排除しようとした。
つまり教令院の賢者達やスメールの民にとっては自分たちにとって都合のいい「草神」が欲しかったのであり、ナヒーダの事などどうでも良かったのだ。
「さっきも言ったがマオーは毎日お菓子を食べたり自由にのびのびと過ごしていたりする今の日々に満足しているし、それが魔王らしくなくても誰にも文句を言わせないぞ!ナヒーダも本当はそんな日々を過ごしたいという気持ちがあるのではないか?」
「……うっ……うっ……」
「……うっ……うっ……」
そう、上記のような経緯があったからこそ、ナヒーダは旅人によって救い出され、解放された後でも決して周りの人間たちに見下されないよう、自分を押し殺して気丈に振る舞い、「神として相応しい存在で居続ける」ために常に自らが持ちゆる知恵や能力を駆使し、創神計画を阻止しただけでなく、その後も事件の後処理や神としての毎日の事務仕事など多忙な日々を送ってきたのであるが、それも遂に限界を迎えようとしていた。
「それにここはスメールではないのだ。ここで何をしようともスメールでのキサマの評価が落ちるわけではない。今くらいは心の赴くままに自由に振る舞ってもいいのではないか?」
「うっ……うっ……うっ……」
「それにここはスメールではないのだ。ここで何をしようともスメールでのキサマの評価が落ちるわけではない。今くらいは心の赴くままに自由に振る舞ってもいいのではないか?」
「うっ……うっ……うっ……」
駄目だ、決して折れてはいけない、ここで折れたらまたあの辛い監禁拘束生活に逆戻りしてしまう、そんな気持ちで今まで必死になって気丈に振る舞い、自らを押し殺してきたナヒーダであったが、最早それも限界に達していた。
「うっ……うええええええぇぇぇぇぇぇぇん!!もうやだよぉ!!子供らしく遊びたいよぉ!!自由にのびのびとしていたいよぉ!!うわああああぁぁぁぁぁぁん!!」
最早限界に達したナヒーダは、今まで押し殺してきた自らの本心を吐露するかのように泣き叫ぶと、そのまま暫く今まで抑えていた全てを吐き出すかのように泣き続けていた……
「うっ……うええええええぇぇぇぇぇぇぇん!!もうやだよぉ!!子供らしく遊びたいよぉ!!自由にのびのびとしていたいよぉ!!うわああああぁぁぁぁぁぁん!!」
最早限界に達したナヒーダは、今まで押し殺してきた自らの本心を吐露するかのように泣き叫ぶと、そのまま暫く今まで抑えていた全てを吐き出すかのように泣き続けていた……
◆◆◆
「……ㇲ―……ㇲ―……」
「全くこうして見ると戦いの時のナヒーダとはまるで別人みたいなのだ。今まで必死に自分を押し殺してきたのだな。」
暫くした後、泣きつかれたのか安らかな寝息を立てながら眠るナヒーダと、それを背負いながら歩くクルムの姿があった。
因みに眠るナヒーダの寝顔は今までの気丈に振る舞っていた時からは想像できないような、外見年齢相応の安らかな子供らしい寝顔であった。
「全くこうして見ると戦いの時のナヒーダとはまるで別人みたいなのだ。今まで必死に自分を押し殺してきたのだな。」
暫くした後、泣きつかれたのか安らかな寝息を立てながら眠るナヒーダと、それを背負いながら歩くクルムの姿があった。
因みに眠るナヒーダの寝顔は今までの気丈に振る舞っていた時からは想像できないような、外見年齢相応の安らかな子供らしい寝顔であった。
「それにしてもあの乃亜の奴ムカつくのだ!本物の神様のナヒーダだって決して民を見下したりせず真剣に民の事を思って頑張っているのに、「神だから何をしたっていい」みたいな態度でみんなを見下して命を簡単に奪うなんてナヒーダの爪の垢を煎じて飲ませてやりたいのだ!」
クルムはこの殺し合いに連れてこられたばかりの頃、自らこの殺し合いを主催し、神を名乗って「ルフィ」「エース」という名前の少年二人の命を躊躇なく奪い、彼ら二人を踏みにじった海馬乃亜の事を思い出していた。
クルムもまた、乃亜を鋭く睨みつけ、殺意を持った眼光を放った一人なのであるが、乃亜が彼ら二人を容易く殺した首輪の威力を警戒し、ここで逆らっても無駄死にだと考え、様子見に回った一人でもあった。
クルムはこの殺し合いに連れてこられたばかりの頃、自らこの殺し合いを主催し、神を名乗って「ルフィ」「エース」という名前の少年二人の命を躊躇なく奪い、彼ら二人を踏みにじった海馬乃亜の事を思い出していた。
クルムもまた、乃亜を鋭く睨みつけ、殺意を持った眼光を放った一人なのであるが、乃亜が彼ら二人を容易く殺した首輪の威力を警戒し、ここで逆らっても無駄死にだと考え、様子見に回った一人でもあった。
現状、乃亜に逆らっても首輪がある限り彼に勝つことなど出来ないだろう。だがナヒーダなら……「知恵の神」である彼女ならこの首輪を解除する手段を見つけることが出来るかもしれない。彼の戦力がどれほどのものなのかは知らないが、ナヒーダが「正機の神」を、クルムが「ゲルメド帝」を仲間と共に倒す事に成功したように、仲間を集め結束すれば、乃亜を倒す大きな力となるとクルムは考えていた。
確かに「正機の神」も「ゲルメド帝」も力だけならまさに神に等しい強大な存在であったが、他の存在を見下し傲慢に驕った結果、仲間との結束の力の前に敗れ去っている。
ならばあの海馬乃亜も「正機の神」や「ゲルメド帝」同様、仲間と結束すれば彼を打ち破れる可能性が残されているかもしれなかった。
そのためにも背中の彼女が……「知恵の神」であるナヒーダが最後の希望なのかもしれない。
クルムはそう思いながら仲間を探しに歩を進めていた。
ならばあの海馬乃亜も「正機の神」や「ゲルメド帝」同様、仲間と結束すれば彼を打ち破れる可能性が残されているかもしれなかった。
そのためにも背中の彼女が……「知恵の神」であるナヒーダが最後の希望なのかもしれない。
クルムはそう思いながら仲間を探しに歩を進めていた。
「待っているのだ乃亜。必ずキサマの元に辿り着き、キサマを倒してこの殺し合いを終わらせてやるのだ。」
【ナヒーダ@原神】
[状態]:健康、疲労(小)、睡眠中、
[装備]:96ガロンデコ@スプラトゥーン3
[道具]:基本支給品、ルカ・レッドグレイヴの手記帳@ベヨネッタ2
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止めてスメールに帰る
1:自身に賛同する仲間を集め、いずれは乃亜を打倒し、仲間と共に殺し合いを止める。
2:いずれ首輪を解除する方法を見つける
3:知恵の神として殺し合いを止められるよう尽力したい。でもたまには子供らしく振る舞いたい。
[備考]
伝説任務「知恵の主の章」第一章終了後からの参戦です。そのためマハ―ルッカデヴァータの事を忘れています。
『夢境』の権能に制限が掛けられています。その他スキル等の制限に関しては後続の書き手様にお任せします。
【支給品紹介】
【96ガロンデコ@スプラトゥーン3】
ナヒーダに支給。同ゲームにおいて「シューター」に分類される「52ガロンデコ」を更に発展させたグレネードランチャーに酷似した見た目をした銃。あくまでインク発射用の銃なため殺傷能力はないが、インクが水元素と扱われるため、ナヒーダは自身の草元素と組み合わせて元素反応である「開花」「超開花」反応を起こすためのコンボ用の武器として扱う。
[状態]:健康、疲労(小)、睡眠中、
[装備]:96ガロンデコ@スプラトゥーン3
[道具]:基本支給品、ルカ・レッドグレイヴの手記帳@ベヨネッタ2
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止めてスメールに帰る
1:自身に賛同する仲間を集め、いずれは乃亜を打倒し、仲間と共に殺し合いを止める。
2:いずれ首輪を解除する方法を見つける
3:知恵の神として殺し合いを止められるよう尽力したい。でもたまには子供らしく振る舞いたい。
[備考]
伝説任務「知恵の主の章」第一章終了後からの参戦です。そのためマハ―ルッカデヴァータの事を忘れています。
『夢境』の権能に制限が掛けられています。その他スキル等の制限に関しては後続の書き手様にお任せします。
【支給品紹介】
【96ガロンデコ@スプラトゥーン3】
ナヒーダに支給。同ゲームにおいて「シューター」に分類される「52ガロンデコ」を更に発展させたグレネードランチャーに酷似した見た目をした銃。あくまでインク発射用の銃なため殺傷能力はないが、インクが水元素と扱われるため、ナヒーダは自身の草元素と組み合わせて元素反応である「開花」「超開花」反応を起こすためのコンボ用の武器として扱う。
【ルカ・レッドグレイヴの手記帳@ベヨネッタ2】
ナヒーダに支給。同ゲームの登場人物であるフリージャーナリスト「ルカ・レッドグレイヴ」が自らの足で集めた情報が纏められた手記帳。「イワシのムニエルが美味しい魚料理の店」などの情報の他、作中において伝えられている人間界の神「エーシル」の伝説についてもまとめられている。
ナヒーダに支給。同ゲームの登場人物であるフリージャーナリスト「ルカ・レッドグレイヴ」が自らの足で集めた情報が纏められた手記帳。「イワシのムニエルが美味しい魚料理の店」などの情報の他、作中において伝えられている人間界の神「エーシル」の伝説についてもまとめられている。
【魔王クルム@異世界魔王と召喚少女の奴隷魔術】
[状態]:健康、疲労(小)、主催への怒り(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、魔王の指輪@異世界魔王と召喚少女の奴隷魔術、ランダム支給品0~1
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止めてディアウ゛ロ、シェラ、レムの所に帰る
1:乃亜にナヒーダの爪の垢を煎じて飲ませてやりたいのだ
2:ナヒーダがこの殺し合いにおける最後の希望なのかもしれないのだ
3:人族を殺す人族はぶっ飛ばしてやりたいのだ
[備考]
原作14巻におけるゲルメド帝戦後からの参戦です。
光翼の鎧等に制限が掛かっています。その他スキル等の制限に関しては後続の書き手様にお任せします。
【支給品紹介】
【魔王の指輪@異世界魔王と召喚少女の奴隷魔術】
クルムに支給。MMORPGクロスレヴェリのボスの一人である『眼球の魔王 イアンカローズ』を倒した際にドロップするアイテムで、効果は彼の奥義である超弩級魔術『覆滅の炎』を使用可能となる。ただし代償として装着者はそれ以外の魔術を一切使えなくなる。
[状態]:健康、疲労(小)、主催への怒り(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、魔王の指輪@異世界魔王と召喚少女の奴隷魔術、ランダム支給品0~1
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止めてディアウ゛ロ、シェラ、レムの所に帰る
1:乃亜にナヒーダの爪の垢を煎じて飲ませてやりたいのだ
2:ナヒーダがこの殺し合いにおける最後の希望なのかもしれないのだ
3:人族を殺す人族はぶっ飛ばしてやりたいのだ
[備考]
原作14巻におけるゲルメド帝戦後からの参戦です。
光翼の鎧等に制限が掛かっています。その他スキル等の制限に関しては後続の書き手様にお任せします。
【支給品紹介】
【魔王の指輪@異世界魔王と召喚少女の奴隷魔術】
クルムに支給。MMORPGクロスレヴェリのボスの一人である『眼球の魔王 イアンカローズ』を倒した際にドロップするアイテムで、効果は彼の奥義である超弩級魔術『覆滅の炎』を使用可能となる。ただし代償として装着者はそれ以外の魔術を一切使えなくなる。
「やってくれますね……まさか僕が獲物を仕留め損ねるとは……」
先ほどの戦いの場所から少し離れた夜の森の中、一枚のカードを持った一人の少年がいた。ロプトである。
先ほどの戦いの場所から少し離れた夜の森の中、一枚のカードを持った一人の少年がいた。ロプトである。
「それにしても彼女は本当に駆け引きが上手い……彼女は『代価』と言いましたが実際の所は僕が取引に応じるメリットを敢えて提示することで僕が取引に応じるよう上手く誘導したという訳ですか……全く『知恵の神』の称号は伊達ではないという事ですね。」
ロプトは自身の手の中にあるカード『カオスエンドルーラー 開闢と終焉の支配者』を見つめながら、彼女……ナヒーダに対する感想を述べる。
そもそもこの殺し合いは最終的に最後まで生き残らなければ意味がない。だから無理に戦って共倒れするよりも、相手に殺し合いにおいて有利になる要素を敢えて提示することで要求を呑ませる、要求を呑まなければ相手に不利になるように行動する……あの状況においては有効的な上手い取引方法であった。
ロプトは自身の手の中にあるカード『カオスエンドルーラー 開闢と終焉の支配者』を見つめながら、彼女……ナヒーダに対する感想を述べる。
そもそもこの殺し合いは最終的に最後まで生き残らなければ意味がない。だから無理に戦って共倒れするよりも、相手に殺し合いにおいて有利になる要素を敢えて提示することで要求を呑ませる、要求を呑まなければ相手に不利になるように行動する……あの状況においては有効的な上手い取引方法であった。
「それにしても解せませんね……あれ程まで有能な存在を教令院は何故冷遇したのでしょうか?普通なら優遇した方がメリットが大きいはずですが……」
ロプトは暫し考え、そして口元をニヤリと歪ませるとある一つの結論に達する。
「やはり人間は愚か……そうとしか考えられませんね。ルーメンの賢者バルドル、教令院の大賢者アザール、彼らは賢者を名乗っておきながらどちらも度し難いレベルの愚か者でした。そんな連中が賢者を名乗って人々を導く、そんなんだから人間はますます愚かになり、救いようのない存在となっていくのです。」
ロプトは不気味な笑みを浮かべると、次の獲物を探しに歩き出した。最終的にはこの殺し合いに優勝し、采配の力と光の右目と闇の左目を取り戻し、『混沌の神 エーシル』として完全復活を遂げるために。
「やはり人間に自我など必要ありません。あるのはこのロプト……いや、エーシルの意思のみ。世界を観測し、世界を創る……世の趨勢はこのエーシルが司るのです。」
【ロプト@ベヨネッタ2】
[状態]:健康、疲労(小)、
[装備]:カオスエンドルーラー 開闢と終焉の支配者@遊戯王ZEXAL
[道具]基本支給品、神の缶詰知識@原神、ランダム支給品0~1
[思考・状況]基本方針:自分以外の参加者全てを皆殺しにして優勝して願いを叶えてもらい、混沌の神 エーシルとして復活を遂げる
1:やはり人間は愚かです。自我など必要ありません。
2:ナヒーダは警戒しなければいけませんね。
3:神である自分に勝てるものなどいません。
[備考]
チャプター15「真実」ラストでローサを殺害した直後からの参戦です。
制限により多少弱体化しています。
[状態]:健康、疲労(小)、
[装備]:カオスエンドルーラー 開闢と終焉の支配者@遊戯王ZEXAL
[道具]基本支給品、神の缶詰知識@原神、ランダム支給品0~1
[思考・状況]基本方針:自分以外の参加者全てを皆殺しにして優勝して願いを叶えてもらい、混沌の神 エーシルとして復活を遂げる
1:やはり人間は愚かです。自我など必要ありません。
2:ナヒーダは警戒しなければいけませんね。
3:神である自分に勝てるものなどいません。
[備考]
チャプター15「真実」ラストでローサを殺害した直後からの参戦です。
制限により多少弱体化しています。
【支給品紹介】
【カオスエンドルーラー 開闢と終焉の支配者@遊戯王ZEXAL】
効果モンスター
星10/光属性/戦士族/攻3500/守2000
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地に存在する光属性・戦士族モンスター1体と闇属性・悪魔族モンスター1体をそれぞれゲームから除外して特殊召喚する。
このカードの特殊召喚に対して魔法・罠・効果モンスターの効果を発動する事はできない。
1000ライフポイント払う事で 相手の手札・フィールド上・墓地に存在するカードを全てゲームから除外する。
この効果で除外したカードの枚数×500ポイントダメージを相手ライフに与える。
【カオスエンドルーラー 開闢と終焉の支配者@遊戯王ZEXAL】
効果モンスター
星10/光属性/戦士族/攻3500/守2000
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地に存在する光属性・戦士族モンスター1体と闇属性・悪魔族モンスター1体をそれぞれゲームから除外して特殊召喚する。
このカードの特殊召喚に対して魔法・罠・効果モンスターの効果を発動する事はできない。
1000ライフポイント払う事で 相手の手札・フィールド上・墓地に存在するカードを全てゲームから除外する。
この効果で除外したカードの枚数×500ポイントダメージを相手ライフに与える。
当ロワでは召喚条件関係なく呼び出すことが出来るが代償として一度呼び出すとその後は二度と呼びだすことが出来ない使い切りとなっており、また戦闘が終了するか制限時間(15分)が過ぎると消滅するため、ずっと出しっぱなしにすることも出来ない。
【神の缶詰知識@原神】
ロプトに支給。ある程度の知識、情報を保存し、使用したものの脳に知識、情報を直接インストールするアイテムで、本来ならアーカーシャ端末との接続が必要だが、当ロワではアーカーシャ端末関係なく直接中に保存されている知識、情報を得ることが出来る。ただし知識、情報を直接インストールする関係上、神の缶詰知識のようなデータ量が膨大な物の場合、常人なら精神崩壊は避けられない危険な側面もある。
当ロワではナヒーダが教令院の賢者達に発見されて連れて帰られ、スラサタンナ聖処に監禁拘束されてから、旅人たちによってナヒーダが救出される直前までのナヒーダの境遇に関する知識、情報が保存されている。
ロプトに支給。ある程度の知識、情報を保存し、使用したものの脳に知識、情報を直接インストールするアイテムで、本来ならアーカーシャ端末との接続が必要だが、当ロワではアーカーシャ端末関係なく直接中に保存されている知識、情報を得ることが出来る。ただし知識、情報を直接インストールする関係上、神の缶詰知識のようなデータ量が膨大な物の場合、常人なら精神崩壊は避けられない危険な側面もある。
当ロワではナヒーダが教令院の賢者達に発見されて連れて帰られ、スラサタンナ聖処に監禁拘束されてから、旅人たちによってナヒーダが救出される直前までのナヒーダの境遇に関する知識、情報が保存されている。