空間が震えあがり、罅割れるような轟音が木霊する。
悟飯の打撃が散弾のように炸裂し、両腕を楯にした悟空がその全てを防いでいく。
悟空は重厚な岩石のように、微動だにしない。
ひたすらにじっと打ち付けられる拳に耐え続ける。
ひたすらにじっと打ち付けられる拳に耐え続ける。
「──────ッ!!」
だが、空へと突き上げるアッパーが悟空のガードを砕いて、顎へと刺さる。
悟空はそのまま打ち上げられ、宙を舞う。
ヒュンッと音だけを残して悟飯が消えた。
飛ばされた悟空の頭上へと移動し、両手を組んで振り下ろす。
ハンマーのように落ちたそれは悟空の顔面に直撃し、真っ逆さまに地面へと激突。
クレーターを作り、砂塵を巻き上げる。
もくもくと土煙があがるなか、それらを呑み込んで青の光弾が降り注ぐ。
数十メートルのクレーターはさらに規模を広げ、窪んだ地形はどんどん大地を侵食する。
ものの二秒の間に百を超える気弾が放たれた。
クレーターは消失し、大地はさも最初から平面であったかのように更地となってしまう。
舗装された道路も、脇に植えられた木も、人の生活を支える電柱も、住宅や店といったあらゆる施設も。
人間が築き上げた文明が一瞬にして原始時代にまで還ったのだった。
悟空はそのまま打ち上げられ、宙を舞う。
ヒュンッと音だけを残して悟飯が消えた。
飛ばされた悟空の頭上へと移動し、両手を組んで振り下ろす。
ハンマーのように落ちたそれは悟空の顔面に直撃し、真っ逆さまに地面へと激突。
クレーターを作り、砂塵を巻き上げる。
もくもくと土煙があがるなか、それらを呑み込んで青の光弾が降り注ぐ。
数十メートルのクレーターはさらに規模を広げ、窪んだ地形はどんどん大地を侵食する。
ものの二秒の間に百を超える気弾が放たれた。
クレーターは消失し、大地はさも最初から平面であったかのように更地となってしまう。
舗装された道路も、脇に植えられた木も、人の生活を支える電柱も、住宅や店といったあらゆる施設も。
人間が築き上げた文明が一瞬にして原始時代にまで還ったのだった。
「……何故、やり返さないんだ」
悟飯はゆるやかに空から下降しながら、何もない場所に立つ自身の敵へと問いかける。
「……」
胴着の所々に穴や切れ目を作り、土や埃で顔を汚しながら、悟空はそこに生存していた。
体の節々から血を流しているものの、何も残らない無の中で、ただ一個の生命として健在。
力強い瞳を濁さないまま、悟飯を見つめていた。
体の節々から血を流しているものの、何も残らない無の中で、ただ一個の生命として健在。
力強い瞳を濁さないまま、悟飯を見つめていた。
「ふざけているのか……何なんだよォ!!!」
誰に対しても礼儀正しく、父親にすら敬語で話す悟飯らしからぬ荒々しい声。
ゼオンの消失を合図に、幕が下りた孫親子の戦闘。
常に攻撃を仕掛けるのは悟飯で、防御に回っているのは悟空であった。
常に攻撃を仕掛けるのは悟飯で、防御に回っているのは悟空であった。
殴っている間は痒みが消える。蛆が見えない。
だが、やられっぱなしの悟空が不気味に見えないといえば嘘になる。
だが、やられっぱなしの悟空が不気味に見えないといえば嘘になる。
雛見沢症候群の凶暴性をも上回る怪訝さが、悟飯に全力を出させるのを躊躇わせた。
「何を企んでいるんだ……お前はァッ!!!」
悟空も為すがままだが、しっかりと防御は固めており、ダメージを最低限に抑えている。
死ぬ気がないのは伝わってくる。だからといって、何も話さずただただ殴られ続けているのが分からない。
死ぬ気がないのは伝わってくる。だからといって、何も話さずただただ殴られ続けているのが分からない。
「時間稼ぎか……一体……く、ぅ……ぎゃ、ぁ……ッ!!?」
思案にふけようとした途端、首の痒みが再発。
まだ見えないが、このままでは蛆が体内から肉と皮を喰い破って続々と出てくると、直感する。
まだ見えないが、このままでは蛆が体内から肉と皮を喰い破って続々と出てくると、直感する。
痒みを振り払うように大地を蹴る。風を切って加速する。
悟空へ肉薄し、拳を見舞う。立てた腕に阻まれる。
もう片方の腕で打撃を放つもいなされる。
常人では目で追う事すら困難な打撃の応酬、その実態は悟飯の拳を悟空が常にさばきながら後退していく、防戦一方の光景。
これを、悟飯は自分の実力で追い込んでいるなどとは考えない。悟空はあえて、防御の姿勢しか取っていない。
悟空へ肉薄し、拳を見舞う。立てた腕に阻まれる。
もう片方の腕で打撃を放つもいなされる。
常人では目で追う事すら困難な打撃の応酬、その実態は悟飯の拳を悟空が常にさばきながら後退していく、防戦一方の光景。
これを、悟飯は自分の実力で追い込んでいるなどとは考えない。悟空はあえて、防御の姿勢しか取っていない。
それが────無性に腹立たしい。
鐘を槌を打つような鳴動が鳴り渡る。
悟飯の拳が悟空の顔面を捉え、その前方に悟空のバツの字になった腕が、防壁のように組まれていた。
悟飯の拳が悟空の顔面を捉え、その前方に悟空のバツの字になった腕が、防壁のように組まれていた。
「美柑さん、沙都子さん、イリヤさんのように……僕を陥れる気なのかァ!!!」
何もわからないが、何かをしてくるのだけは分かっている。それがたまらなく不気味で嫌で気持ち悪くて、恐ろしい。
内から湧き出す恐怖を、憎悪に変えて悟飯は拳に乗せる。
目の前に居るのは、敬愛すべき偉大なる父であったのに、最早得体の知れない正体不明の何かにしか見えない。
内から湧き出す恐怖を、憎悪に変えて悟飯は拳に乗せる。
目の前に居るのは、敬愛すべき偉大なる父であったのに、最早得体の知れない正体不明の何かにしか見えない。
そうだった。
美柑も最初から、あんな風に見ていたような気がする。
シュライバーと命懸けで戦って、助けて、守ったのに。
差し伸べた手を払われた。見るからに、化け物を見るような目で怖がって。
シュライバーの時なら、まだ自分に非があると悟飯も認められたものを、リーゼロッテの時だって、しっかり悟飯が守ろうとしても美柑は終ぞ歩み寄る事はなく。
喧嘩になったのび太の肩を持ったり、美柑は徹底して悟飯を排除しようとしていた。
しかも、のび太まで利用して、傷付けさせて追い出す口実を作ろうとまでして。
差し伸べた手を払われた。見るからに、化け物を見るような目で怖がって。
シュライバーの時なら、まだ自分に非があると悟飯も認められたものを、リーゼロッテの時だって、しっかり悟飯が守ろうとしても美柑は終ぞ歩み寄る事はなく。
喧嘩になったのび太の肩を持ったり、美柑は徹底して悟飯を排除しようとしていた。
しかも、のび太まで利用して、傷付けさせて追い出す口実を作ろうとまでして。
「お父さんも、僕をやっつけたいんだろ!!」
何故、はっきりと言わないのか。
嫌いなら嫌いでそう言えばいい。いなくなってほしいなら、自分に直接伝えれば良い。
嫌いなら嫌いでそう言えばいい。いなくなってほしいなら、自分に直接伝えれば良い。
「みんな卑怯者だッ!!
ドロテアもモクバも……全員、悪い奴なんだよッッ!!!」
ドロテアもモクバも……全員、悪い奴なんだよッッ!!!」
唯一信じられた父親すら、今は何を考えているのかも分からない。
自分の言う事に耳を傾けず、ずっとネモとあろうことか、あのルサルカなんかを信じているのだ。
自分を除け者にして、何かを話して企んでいる。
あのゼオンとかいう子供もそうだ。きっと、悟空の仲間で、自分を殺すように合図を受けたに違いない。
少なくとも悟飯と悟空を除けば、この場で一番強いのはゼオンか無惨のどちらかだ。
先程出そうとしてきた技も、制限された悟飯が直接受ければ、少なくないダメージを負うことになる。
悟空はそうやって、自分を削って苦しめようとしている。悟飯はその妄想を本気で信じていた。
自分の言う事に耳を傾けず、ずっとネモとあろうことか、あのルサルカなんかを信じているのだ。
自分を除け者にして、何かを話して企んでいる。
あのゼオンとかいう子供もそうだ。きっと、悟空の仲間で、自分を殺すように合図を受けたに違いない。
少なくとも悟飯と悟空を除けば、この場で一番強いのはゼオンか無惨のどちらかだ。
先程出そうとしてきた技も、制限された悟飯が直接受ければ、少なくないダメージを負うことになる。
悟空はそうやって、自分を削って苦しめようとしている。悟飯はその妄想を本気で信じていた。
「はああああああああああああッッ!!!」
憎悪が怒りとなり、悟飯の中に秘められた力がマグマのように溢れ出す。
髪が逆上がり、黒の頭髪は白くクリームのような色合いへと変色し、風のように巻き上がる透明なオーラは金色へと染まる。
瞳孔から青く、黒の瞳は碧眼へ。髪は完全な変化を遂げ、獅子のような黄金色に成る。
雛見沢症候群L5+にまで、症状が悪化した事による激しい感情が作用した。
本来、一度の変身でインターバルが必要なスーパーサイヤ人の制限を、悟飯は力づくで突破したのだ。
髪が逆上がり、黒の頭髪は白くクリームのような色合いへと変色し、風のように巻き上がる透明なオーラは金色へと染まる。
瞳孔から青く、黒の瞳は碧眼へ。髪は完全な変化を遂げ、獅子のような黄金色に成る。
雛見沢症候群L5+にまで、症状が悪化した事による激しい感情が作用した。
本来、一度の変身でインターバルが必要なスーパーサイヤ人の制限を、悟飯は力づくで突破したのだ。
「……よく分かった」
燃え上がる怒りと憎しみ、そして自身に向けられた殺意を浴びながら、悟空はゆっくりと構えを解く。
顎を上げて、何かに気付いたかのように目を光らせる。
顎を上げて、何かに気付いたかのように目を光らせる。
「ネモッ! ルサルカッ!! 聞こえっか?」
大きく張り上げられた声に、カルデア内の二人は唖然とした。
先程、念話を傍受され悟飯の精神に、悪影響を与えたことを忘れたのか?
返事をしたくともできないというのに。そう、言いたくなった二人の心を読んだかのように、悟空の声だけが一方的に送られてくる。
先程、念話を傍受され悟飯の精神に、悪影響を与えたことを忘れたのか?
返事をしたくともできないというのに。そう、言いたくなった二人の心を読んだかのように、悟空の声だけが一方的に送られてくる。
「考えてみりゃあよ、目の前で内緒話なんかされたら気分も悪くなる。
こうやって、オラが声を出して話せば、大丈夫だと思う。だから返事してくれ」
こうやって、オラが声を出して話せば、大丈夫だと思う。だから返事してくれ」
『……それで、何よ。急にこっちに声をかけてきて、あの悟飯(こ)にも話してる事筒抜けだって分かってるわよね?』
「おう、別に隠す事じゃねえ。
悪いんだけどよ。マリーン達に頼んで、小恋を連れて来てくれ」
悪いんだけどよ。マリーン達に頼んで、小恋を連れて来てくれ」
『小恋!!?』
そう叫んだのは、ずっと念話を聞きながら沈黙を守っていた的場梨沙。
この緊急事態に、殆ど一般人の梨沙に介入できることはないと、成り行きを見守っていたが、とうとう声を出すのを我慢できなくなった。
この緊急事態に、殆ど一般人の梨沙に介入できることはないと、成り行きを見守っていたが、とうとう声を出すのを我慢できなくなった。
『悟空氏……彼女に、何をさせる気でしょう?』
「悟飯の体力を回復させる」
ルサルカは目を見開く。
プロフェッサーの眼鏡はフレームがズレて、双眸と水平に並んでいたレンズが斜めに傾いた。
プロフェッサーの眼鏡はフレームがズレて、双眸と水平に並んでいたレンズが斜めに傾いた。
『あの、悟空氏ー……聞き間違いでしょうか……?』
「さっきの攻撃で分かったんだ。悟飯はオラよりもずっと戦ってきたみたいで、体力を消耗している。
だから回復させる」
だから回復させる」
『何言ってるのよ!! 小恋にそんなことさせて……』
梨沙の怒鳴り声が悟空の頭の中に反響する。
「で……でっけえ、声出すなよ……」
咄嗟に、耳に指を入れるが、直接頭に聞こえてくるので意味はないなと悟空はすぐに諦めた。
「安心しろって、小恋が危なくなったらオラがなんとかすっから」
『それもあるけど、そこには龍亞やリルにしおもいるんでしょ? 悟飯って子から、守ってあげないと駄目じゃない!!』
「ああ、守るさ。けどその為に悟飯と戦わなくちゃ駄目だろうしよ」
『だ……だったら……』
体力がないなら、それは悟空にとって有利なことのはずである。
だから、梨沙は困惑した。そのアドバンテージを自分から手放す理由が、全く分からない。
だから、梨沙は困惑した。そのアドバンテージを自分から手放す理由が、全く分からない。
(なに……分からないの、私だけ?)
ルサルカとプロフェッサーを交互に見つめるが、二人とも頭上にクエスチョンマークを浮かべているかのように、釈然としない形相をしていた。
自分だけではなく、もっと頭が良くて戦いにも詳しい二人ですら、悟空の考えに追い付けていないのだ。
自分だけではなく、もっと頭が良くて戦いにも詳しい二人ですら、悟空の考えに追い付けていないのだ。
「何の……つもり、ですか……これは……」
念話を聞いていた悟飯も眉をあげて訝しむ。
「このまま戦うのはフェアじゃねえ……悟飯、お前には体力を回復してもらう」
「嘘だ……そうやって僕を────ッッ」
「嘘だ……そうやって僕を────ッッ」
悟空がそう言った直後、水風船に小さく針で穴を開けて水が漏れたかのように、悟飯の手足から血が吹き出す。
当の悟飯も、自分の視界がブラついた事に驚嘆した。
当の悟飯も、自分の視界がブラついた事に驚嘆した。
「見ろ。お前の体から血が溢れ出している。
スーパーサイヤ人の負担に、体力をなくした体が耐えきれなくなっているんだ」
スーパーサイヤ人の負担に、体力をなくした体が耐えきれなくなっているんだ」
「……、……ッ……!!」
指摘されてみれば、確かに異様な倦怠感を抱いていることに、気付いた。
ヤミとの初戦と同じく、体力の配分を誤りかけていたのだ。
ヤミとの初戦と同じく、体力の配分を誤りかけていたのだ。
『フェア…………? ねえ、悟空君……あなた、頭おかしくなったんじゃないでしょうね』
「自壊衝動(ボケ)てきてる、おめえよりは、まともさ」
それよりも、早くしてくれねえか」
それよりも、早くしてくれねえか」
『分かりましたー。お二人とも、少々お待ちくださいー」
プロフェッサーを睨み付け、ルサルカはどういうつもりだ、と声に出さず異議を唱える。
同じく梨沙もルサルカほどの敵意はないものの、疑問を視線に込めて見つめていた。
同じく梨沙もルサルカほどの敵意はないものの、疑問を視線に込めて見つめていた。
「悟空氏の考えは全く分かりませんが……」
「でしょうね? はっきり分かったわ。あの親子、馬鹿よ」
「でしょうね? はっきり分かったわ。あの親子、馬鹿よ」
シュライバーを相手に、止めを刺す機会を逃した悟飯の失態は記憶に新しい。
「いるのよ、あの手の馬鹿が」
あの二人の本質をルサルカは理解できた気がした。
度が付く戦闘馬鹿だ。人種としては、黒円卓のベイなどが近いか。何なら、ザミエルとも話が合うかもしれない。
度が付く戦闘馬鹿だ。人種としては、黒円卓のベイなどが近いか。何なら、ザミエルとも話が合うかもしれない。
「大丈夫なの? 小恋だって……」
「どうしたの? おねえちゃんたち」
「どうしたの? おねえちゃんたち」
一人だけ、名指しで指名された小恋はきょとんとして、首をかしげていた。
梨沙は不安そうに見下ろして、彼女を庇うように腕を広げる。
梨沙は不安そうに見下ろして、彼女を庇うように腕を広げる。
「駄目よ、やっぱり……あんなところに悟空もいるからって、危険だわ」
「気持ちは分かります。しかし、ここは悟空氏に賭けてもいいかもしれません。
気付きませんでしたか? 乱心していた悟飯氏が……敬語に戻っていることに」
「気持ちは分かります。しかし、ここは悟空氏に賭けてもいいかもしれません。
気付きませんでしたか? 乱心していた悟飯氏が……敬語に戻っていることに」
プロフェッサーの指摘を受けて、梨沙ははっとした。
────何の……つもり、ですか
言われてみれば、荒い言動になっていた悟飯が再び敬語を使っていたのだ。
「小恋氏の護衛は我々が全力を尽くします。
今は、悟空氏の指示に従ってみましょう」
今は、悟空氏の指示に従ってみましょう」
肩をすくめ広げた腕を腰の横へ下ろしながら、梨沙は唇を噛んだ。
「おにいちゃん!」
「よ、小恋。さっそくで悪いけど、悟飯を治してやってくれ、できそうか?」
「うん!!」
「よ、小恋。さっそくで悪いけど、悟飯を治してやってくれ、できそうか?」
「うん!!」
マリーンに連れられ、近づいてくる小恋を見て、悟飯は肩をビクッと震わせた。
「安心しろ。デンデみたいなもんだ。じっとしてりゃすぐに回復する」
手を伸ばしてきた人間を警戒する野良猫のような仕草に、悟空は苦笑する。
「いたいのいたいの、とんでけー」
「…………、ッ」
傷が治っていく。
母親が子供に気休めで言うような呪文を唱えて、本当に体のダメージが癒えていくのだ。
これがチユチユの実の能力。
ネモが首輪解析の間、空いた時間で悟空が試行錯誤ながら、小恋に能力の練習をさせた成果もあり、発動自体は安定して行えるようになっていた。
もっとも、あらゆる傷を治せる医者いらずの回復力には、まだまだ遠く及ばないが。
母親が子供に気休めで言うような呪文を唱えて、本当に体のダメージが癒えていくのだ。
これがチユチユの実の能力。
ネモが首輪解析の間、空いた時間で悟空が試行錯誤ながら、小恋に能力の練習をさせた成果もあり、発動自体は安定して行えるようになっていた。
もっとも、あらゆる傷を治せる医者いらずの回復力には、まだまだ遠く及ばないが。
「どう? いたくない?」
小恋がにっこりと微笑み、悟飯はたじろいで目を逸らした。
ほんとうに体が楽になったのだ。なにか、企みがあるのではと思っていたのに、この笑みには裏表がない。
ほんとうに体が楽になったのだ。なにか、企みがあるのではと思っていたのに、この笑みには裏表がない。
「よし! 小恋、下がってろ」
「うん! リルお姉ちゃんのところにいってるね」
おねえちゃーん、と呑気な声をあげながら、リルに抱き着く小恋を見て、悟飯は最後まで彼女に殺意を向けることができなかった。
最後にはあの娘だって殺さなくてはいけないのに、それを分かっていながら、どうしても殺意を抱けない。
最後にはあの娘だって殺さなくてはいけないのに、それを分かっていながら、どうしても殺意を抱けない。
「よーし、じゃ……始めっか」
胸の前で、左腕を横に向け右腕に挟み軽く締め上げる。
一挙手一投足がゆるやかで軽やかに、ぐっと手足をほぐして、運動前の準備体操のように体をほぐす。
これから、実の息子と命懸けの殺し合いをするとは思えない穏やかな動作。
一挙手一投足がゆるやかで軽やかに、ぐっと手足をほぐして、運動前の準備体操のように体をほぐす。
これから、実の息子と命懸けの殺し合いをするとは思えない穏やかな動作。
「はッ!!!」
体操を終えた悟空は、だらりと両腕を腰まで落とす。
深呼吸を一度行い、それから全身に力を漲らせる。
髪が逆立ち、根元から毛先まで漆の髪が金色へと染め上がる。
悟空もまた同じくスーパーサイヤ人へと変身した。
深呼吸を一度行い、それから全身に力を漲らせる。
髪が逆立ち、根元から毛先まで漆の髪が金色へと染め上がる。
悟空もまた同じくスーパーサイヤ人へと変身した。
「……来いよ、悟飯」
左腕を腰に沿え、右腕はゆらりと空へ向ける。
「全力でぶつかってこい」
構えを取った悟空の姿は、不動の守護神のような幼い矮躯に見合わぬ格を放っていた。
どんな不条理があろうとも、いかな絶望と災厄が振り掛かろうとも。
彼さえいてくれれば、絶対に何とかしてくれるという、理屈のない安心感。
どんな不条理があろうとも、いかな絶望と災厄が振り掛かろうとも。
彼さえいてくれれば、絶対に何とかしてくれるという、理屈のない安心感。
「…………ッ、……!!」
セルなんかにも勝てなかった悟空が、何故ああも大きく見えるのか。
そして、何故か脳裏に浮かんだのは、勝てないと分かっていながら、自分に歯向かってきた一人の少女だった。
そして、何故か脳裏に浮かんだのは、勝てないと分かっていながら、自分に歯向かってきた一人の少女だった。
────まだ、私は負けてないよ
たった一人で、挑み。光の中に消えた銀髪の少女。
彼女に、何故だか今の悟空は重なって見えた。
彼女に、何故だか今の悟空は重なって見えた。
悟飯は戸惑うように、思考して、そして止めた。
結局、意味がないのだ。自分の決定は絶対で、それを覆せる力を悟空は持っていない。
もしも自分が間違いだというのなら、その手で正してみせろ。
そう暗に告げるように、悟飯は構えすら取らずに、力強く悟空を見つめる。
結局、どんな奇麗事も力がなければ通す事はできないのだから。
結局、意味がないのだ。自分の決定は絶対で、それを覆せる力を悟空は持っていない。
もしも自分が間違いだというのなら、その手で正してみせろ。
そう暗に告げるように、悟飯は構えすら取らずに、力強く悟空を見つめる。
結局、どんな奇麗事も力がなければ通す事はできないのだから。
無様に消し飛んだ、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンのように。
二者の視線が交錯する────!!
世界から二人の姿が消えた。
けたたましく響き渡る轟音。砲弾を機関銃のように乱射したかのような破壊をもたらす音。
発生する衝撃波は、ビルを縦にかち割り、窓ガラスを粉々に粉砕する。
木々を揺らして、樹冠から葉が毟られ空に舞う。幹は風圧だけで圧し折られた。
やっていることは簡単だ。ただ殴り合う。まるで子供の喧嘩の延長線上。
しかし、一つの拳が世界を軋ませる。
殴るというひたすらに単調で、技巧を有さない人間の初歩的な攻撃が、空から舞い落ちる流星群のような破壊力を秘めていた。
人という矮小な生き物の中に、地形すら容易く変えてしまう破壊力が眠っている。
発生する衝撃波は、ビルを縦にかち割り、窓ガラスを粉々に粉砕する。
木々を揺らして、樹冠から葉が毟られ空に舞う。幹は風圧だけで圧し折られた。
やっていることは簡単だ。ただ殴り合う。まるで子供の喧嘩の延長線上。
しかし、一つの拳が世界を軋ませる。
殴るというひたすらに単調で、技巧を有さない人間の初歩的な攻撃が、空から舞い落ちる流星群のような破壊力を秘めていた。
人という矮小な生き物の中に、地形すら容易く変えてしまう破壊力が眠っている。
悟空の頬に拳がめり込む。
悟飯の脇腹に蹴りが刺さる。
光をも置き去りにする速さで殴り合っていた金色の戦士達が、汗と唾液を撒き散らしながら吹き飛ばされた。
「魔閃光!!」
悟飯が両手を重ね、光芒を射出する。
体内のエネルギーを練り上げ、破壊力を持たせた気の塊。
圧縮された気が奔流し、灼熱の殺意を纏って襲いかかる。
悟空は自らを弾丸と化す。
狙いは一つ。
魔閃光に正面からぶつかり、拳を殴りつけて射線を強引に反らすこと。
自らを焼かんと迫る光を捻じ伏せ、悟空はさらに加速。
手に痺れを残しながら、拳を握り直し悟飯へと急接近。
体内のエネルギーを練り上げ、破壊力を持たせた気の塊。
圧縮された気が奔流し、灼熱の殺意を纏って襲いかかる。
悟空は自らを弾丸と化す。
狙いは一つ。
魔閃光に正面からぶつかり、拳を殴りつけて射線を強引に反らすこと。
自らを焼かんと迫る光を捻じ伏せ、悟空はさらに加速。
手に痺れを残しながら、拳を握り直し悟飯へと急接近。
拳が激突した。
二人を中心に暴風が荒れ狂い、大地が沈み岩石が浮力を得て空へと打ち上がる。
悟空は、顔面を捉えた悟飯の拳を手で抑える。
悟飯は、肘打ちを身を反らして避ける。
さらに、飛び上がった悟空の蹴りを左腕で受け止め、ガラ空きのボディへ右ストレート。
ぐるんっと体を捻らせ、悟空は飛んでくる拳を避けて地面へと着地。
そのまま、頭上に降ってくる踵を飛び退いて避けるも、悟飯は瞬く間に悟空へと肉薄。
悟飯は、肘打ちを身を反らして避ける。
さらに、飛び上がった悟空の蹴りを左腕で受け止め、ガラ空きのボディへ右ストレート。
ぐるんっと体を捻らせ、悟空は飛んでくる拳を避けて地面へと着地。
そのまま、頭上に降ってくる踵を飛び退いて避けるも、悟飯は瞬く間に悟空へと肉薄。
「ぐォ……ッ!!」
悟空の鳩尾に拳が突き刺さる
フ、と鼻で笑いながら悟飯は拳を捻りながら深く埋めていく。
悟空が苦悶の形相を晒すのを楽しむように。
フ、と鼻で笑いながら悟飯は拳を捻りながら深く埋めていく。
悟空が苦悶の形相を晒すのを楽しむように。
「ッ、!!!」
だが、悟飯の顔面を青の光が照らす。
そっと物を置くような自然な仕草で、顔の前に悟空の掌が翳されていた。
瞬間、光が弾け凄まじい衝撃が悟飯を殴りつける。
大地に線を二つ引きながら両者が後退した。
そっと物を置くような自然な仕草で、顔の前に悟空の掌が翳されていた。
瞬間、光が弾け凄まじい衝撃が悟飯を殴りつける。
大地に線を二つ引きながら両者が後退した。
「はァ……は、ぁ……」
腹を抑えながら、膝を折る悟空。
「……この程度で、バテないでくださいよ」
顔を横に向けたまま、直立を崩さない悟飯。
ダメージは、悟空の方が受けている。
彼我の被害状況を比較し、そして悟飯は苦笑しながら挑発を飛ばした。
彼我の被害状況を比較し、そして悟飯は苦笑しながら挑発を飛ばした。
「同じスーパーサイヤ人の筈なんだけどな……」
荒くなった息を整えるように、悟空は深呼吸を行う。
ふぅと溜息も吐きながら、苦笑いで悟飯を見つめる。
乃亜の言うハンデを考慮した上で、悟空は悟飯との実力は自分と横並びになっていると認識していた。
それは、悟飯とやり合ったらしきシュライバーとの手合わせで得た情報も参照した分析だ。
精度は決して低くない。
計算を狂わす要素として、雛見沢症候群さえなければ。
ふぅと溜息も吐きながら、苦笑いで悟飯を見つめる。
乃亜の言うハンデを考慮した上で、悟空は悟飯との実力は自分と横並びになっていると認識していた。
それは、悟飯とやり合ったらしきシュライバーとの手合わせで得た情報も参照した分析だ。
精度は決して低くない。
計算を狂わす要素として、雛見沢症候群さえなければ。
(怒る事で、悟飯は潜在能力を解放していた……。
今の悟飯はずっと怒り続けている。ハンデありのオラじゃ、ちと厳しいな)
今の悟飯はずっと怒り続けている。ハンデありのオラじゃ、ちと厳しいな)
強さの均一化を図った上で外的要因も加わり、同じスーパーサイヤ人でも差が生じている。
何故、怒り続けているのか。
ネモの言うように寄生虫かウィルスか細菌か、頭に何らかの障害が起きているのか。
悟空に判別は付かないが、悪い物が憑りついているのは確かである。
それゆえに、悟飯の怒りは止めどなく、潜在能力を爆発させる着火剤として機能している。
何故、怒り続けているのか。
ネモの言うように寄生虫かウィルスか細菌か、頭に何らかの障害が起きているのか。
悟空に判別は付かないが、悪い物が憑りついているのは確かである。
それゆえに、悟飯の怒りは止めどなく、潜在能力を爆発させる着火剤として機能している。
「波ァ!!」
悟空から二つの光の放流が放たれる。
悟飯が両腕を振るい、それらを弾き飛ばす。光が逸れた先に悟空はいない。
ヒュンヒュンと風を切る高速音だけが耳朶を打つ。
悟飯が両腕を振るい、それらを弾き飛ばす。光が逸れた先に悟空はいない。
ヒュンヒュンと風を切る高速音だけが耳朶を打つ。
「フン」
悟飯はその場に立ちつくし、眼球だけを目まぐるしく動かす。
ゴゥンッッ!! と、鋼鉄を打ち合うような音が轟いて、悟空と悟飯の腕が交差する。
鈍器は刃物で鍔迫り合いになっているかのように、筋張った肉の鎧に覆われた腕がせめぎ合う。
悟空のもう片方の拳が飛ぶ。悟飯の顔面を貫き、そして幻のように消え去った。
残像拳。幻術の類を一切必要としない。目の錯覚を起こさせるスピードで走り、世界に色の付いた影絵を残す技。
鈍器は刃物で鍔迫り合いになっているかのように、筋張った肉の鎧に覆われた腕がせめぎ合う。
悟空のもう片方の拳が飛ぶ。悟飯の顔面を貫き、そして幻のように消え去った。
残像拳。幻術の類を一切必要としない。目の錯覚を起こさせるスピードで走り、世界に色の付いた影絵を残す技。
腕を伸ばし切った悟空へ悟飯の蹴りが放たれ、またそれも実体をなくす。
風を切る音を響かせ、超スピードで発生する幻影が次々に現れては消失する。
殴っては消え、蹴り飛ばせば貫通する。
風を切る音を響かせ、超スピードで発生する幻影が次々に現れては消失する。
殴っては消え、蹴り飛ばせば貫通する。
縦横無尽に轟音を木霊させ、無数の幻影が殺される。
高速の騙し合いのなか、飽いたように再び世界に実体を伴った姿を見せたのは悟飯。
高速の騙し合いのなか、飽いたように再び世界に実体を伴った姿を見せたのは悟飯。
「ぐあああああああッッ!!!」
天地を揺るがす雷鳴のような衝撃音が空気を裂いた。
遥か高空へと吹き飛ばされた悟空が、痛烈な叫びを吐き散らす。
顔面、腹部、右肩。三点に深く刻まれたのは、容赦なき拳の痕跡。
残像を見破り、先んじて一撃を叩き込んだのは、他ならぬ悟飯だった。
遥か高空へと吹き飛ばされた悟空が、痛烈な叫びを吐き散らす。
顔面、腹部、右肩。三点に深く刻まれたのは、容赦なき拳の痕跡。
残像を見破り、先んじて一撃を叩き込んだのは、他ならぬ悟飯だった。
「だりゃあああああああああああッッ!!!」
気をみなぎらせ、咆哮と共に宙に浮かぶ悟空。
刹那、気力が爆発的推進力へと変貌する。
雷撃の如く落下する悟空のドロップキックが、頭上から死角を貫いて襲いかかる!
刹那、気力が爆発的推進力へと変貌する。
雷撃の如く落下する悟空のドロップキックが、頭上から死角を貫いて襲いかかる!
「はあッ!!」
悟飯はじっと佇みながら、片腕だけを翳して受け止めた。
地面を砕き、浮き上がった岩盤がさらに細分化され石になり、砂に変わる。
かまいたちのような、触れるものを切り裂き粉砕する衝撃波の中央で、冷ややかな目をして悟飯は腕に気を込める。
推進力に後押しされた悟空を、気で発生させた浮力で押し返す。
その瞬間、残像を残して悟空が消えた。
地面を砕き、浮き上がった岩盤がさらに細分化され石になり、砂に変わる。
かまいたちのような、触れるものを切り裂き粉砕する衝撃波の中央で、冷ややかな目をして悟飯は腕に気を込める。
推進力に後押しされた悟空を、気で発生させた浮力で押し返す。
その瞬間、残像を残して悟空が消えた。
「ッ、……!」
身を屈め、両手を地に付けたまま悟飯の視線の下へと移動。
姿勢を後ろに傾け、両足を天に跳ね上げる。
全体重を支える腕の力で身体を持ち上げ、二つの靴裏が悟飯を撃ち上げた!!
バゴンッ!!!という破裂音が響き、悟飯は空に強制的に跳躍させられた。
両腕を開き、太鼓を打つように空気を裂いて、体に圧し掛かった慣性を殺す。
姿勢を後ろに傾け、両足を天に跳ね上げる。
全体重を支える腕の力で身体を持ち上げ、二つの靴裏が悟飯を撃ち上げた!!
バゴンッ!!!という破裂音が響き、悟飯は空に強制的に跳躍させられた。
両腕を開き、太鼓を打つように空気を裂いて、体に圧し掛かった慣性を殺す。
「はああああああああああああああ!!!!!」
地上から、高射砲が連射するかのように、光の砲弾が悟飯を追う。
音速を優に超える砲弾が、行き場をなくすように悟飯の視界を覆い隠す。
音速を優に超える砲弾が、行き場をなくすように悟飯の視界を覆い隠す。
「だァッッ!!!」
光の弾幕を睨み付け、気合を放った途端、旋風が巻き起こり全ての光が吹き消された蝋燭の火のような呆気なさで、掻き消された。
さらに旋風は隕石のように勢いを増し地上へ拡大する。
上空から悟空を押し潰さんと、広大なドーム状になって堕ちていく。
悟空は腕を力ませ、二つの拳を握り込んだまま、外側へ広げる。
放たれた気が爆風となり、旋風のドームと衝突。
荒れ狂う大気の気流が、蛇の共食いのように絡み合う。爆音を轟かせ、二つの見えざる力が消滅した。
さらに旋風は隕石のように勢いを増し地上へ拡大する。
上空から悟空を押し潰さんと、広大なドーム状になって堕ちていく。
悟空は腕を力ませ、二つの拳を握り込んだまま、外側へ広げる。
放たれた気が爆風となり、旋風のドームと衝突。
荒れ狂う大気の気流が、蛇の共食いのように絡み合う。爆音を轟かせ、二つの見えざる力が消滅した。
「お父さんが、僕を回復させた理由が分かりましたよ」
巻き上がった石がコツコツと音を奏でながら、悟空と悟飯に降り注ぐ。
悟飯は固体の雨の中に、わざわざ下降して、地に足を着ける。
舞空術の制限により、長時間の飛行が縛られていたのもあるが、あえて悟空と同じ視線で話してやろうという傲慢さが伺えた行為だった。
悟飯は固体の雨の中に、わざわざ下降して、地に足を着ける。
舞空術の制限により、長時間の飛行が縛られていたのもあるが、あえて悟空と同じ視線で話してやろうという傲慢さが伺えた行為だった。
「自分が負けた時、お父さんは自分が疲れているのを言い訳にしたかったんだ。
僕が回復していたから負けたんだ。実力じゃないと、自分を誤魔化したかったんだ」
僕が回復していたから負けたんだ。実力じゃないと、自分を誤魔化したかったんだ」
フェアな勝負と言っていたが、それは違う。
悟空は自分に勝ち目がないのを一目で悟っていたのだ。
だが、負けるのを認めたくなく敢えて敵に塩を送り、負ける理由を作りたかった。
悟空は自分に勝ち目がないのを一目で悟っていたのだ。
だが、負けるのを認めたくなく敢えて敵に塩を送り、負ける理由を作りたかった。
「やはり、お父さんは僕を恐れている」
失望の色を込めた視線で、悟空を見つめる。
「美柑さん達と同じだ」
恐怖し慄き、卑怯な手段で身を守ろうとする。
美柑が自分を非難する側へ回り、なにもせず責任も負わず、守られるだけで自分の手は汚さない。
悟空も同じじゃないかと、悟飯の中でドロドロとした負の感情が蠢いていた。
美柑が自分を非難する側へ回り、なにもせず責任も負わず、守られるだけで自分の手は汚さない。
悟空も同じじゃないかと、悟飯の中でドロドロとした負の感情が蠢いていた。
「分かりますよ。お父さんはカッコつけてるだけだ」
一瞬だけ、僅かだけあの偉大な父親と会えた安堵と、全く変わっていないかもしれないという信頼が悟飯の感情の中に生まれたが、拳を交えてはっきりした。
悟空よりも悟飯の方が強いのだ。
こんな場所でコソコソ隠れて、自分が死ぬのを待っていたのだろう。
シュライバーや沙都子をを使って、追い込んで自滅するのを心待ちにしていたのだ。
それが失敗したら、フェアな戦いだと嘯いて、自分のプライドを守るのに必死になっている。
悟空よりも悟飯の方が強いのだ。
こんな場所でコソコソ隠れて、自分が死ぬのを待っていたのだろう。
シュライバーや沙都子をを使って、追い込んで自滅するのを心待ちにしていたのだ。
それが失敗したら、フェアな戦いだと嘯いて、自分のプライドを守るのに必死になっている。
「いつ、その目があの目になるか……」
美柑達が向けた、あのような目にいずれ変わるのだ。
悟空であってもそれは例外ではないと、悟飯はそう信じ込んでいる。
悟空であってもそれは例外ではないと、悟飯はそう信じ込んでいる。
「僕が少し本気を出したら、お父さんは本当の恐怖を知ることになるんだ」
心底、悟空を馬鹿にしたような笑みを浮かべて、悟飯は確信した。
美柑もイリヤも沙都子もカオスもモクバもドロテアもヤミも日番谷も……誰もかれもが、全員最後にはあの目をする。
人間を見るそれではない視線、信じられない怪物を見るあの目線。
悟飯だって血の通った人間だ。
良かれと思い、皆を守ろうとしたのに一方的に差別され、排除されるあの疎外感。
美柑もイリヤも沙都子もカオスもモクバもドロテアもヤミも日番谷も……誰もかれもが、全員最後にはあの目をする。
人間を見るそれではない視線、信じられない怪物を見るあの目線。
悟飯だって血の通った人間だ。
良かれと思い、皆を守ろうとしたのに一方的に差別され、排除されるあの疎外感。
「……ああ、想像以上だ。互角と思ってたけど、お前の方が全然強えや」
悟空は、ふっと糸が切れたように朗らかに笑って断言した。
乃亜によるハンデがなければ、悟空が遥かに悟飯を上回る。これはれっきとした事実であり、覆せない道理だ。
しかし、それは悟空が常に修行を続け力量を維持しながら、アップデートを重ねたがゆえに。
もしも悟飯が学者ではなく、武闘家として生涯を打ち込んだのなら、悟空とはまるで手も足も出ない程に差をつけていた事だろう。
その才能と潜在能力は、まさしく宇宙最強の可能性を未だに秘めている。
この殺し合いでは、悟空の修行によって得た力量は完全には発揮できない。
悟飯と悟空の戦闘レベルは、ほぼ同一にまで調整されている。
そうなってしまえば、あとはそれぞれの地力によって強さは変動していくのだが。
乃亜によるハンデがなければ、悟空が遥かに悟飯を上回る。これはれっきとした事実であり、覆せない道理だ。
しかし、それは悟空が常に修行を続け力量を維持しながら、アップデートを重ねたがゆえに。
もしも悟飯が学者ではなく、武闘家として生涯を打ち込んだのなら、悟空とはまるで手も足も出ない程に差をつけていた事だろう。
その才能と潜在能力は、まさしく宇宙最強の可能性を未だに秘めている。
この殺し合いでは、悟空の修行によって得た力量は完全には発揮できない。
悟飯と悟空の戦闘レベルは、ほぼ同一にまで調整されている。
そうなってしまえば、あとはそれぞれの地力によって強さは変動していくのだが。
「困った事に、全く攻撃が通じてねえ……」
へへ、と笑う悟空。
軽い調子であったが、声には重い感情が乗せられていた。
軽い調子であったが、声には重い感情が乗せられていた。
「あの男……本気か? 貴様ァッ!!」
『悟空君!? 大丈夫なんでしょうね!! あなた、本当に────』
『悟空君!? 大丈夫なんでしょうね!! あなた、本当に────』
無惨とルサルカの譴責が耳朶と脳内の両方に響き渡る。
眉を下ろしながら、「うるせえなあ」と呟く悟空に、二人はほぼ同じタイミングで激しい殺意を抱いた。
眉を下ろしながら、「うるせえなあ」と呟く悟空に、二人はほぼ同じタイミングで激しい殺意を抱いた。
「言っていることのわりに、まだまだ余裕そうですね……」
「まあ、強えけど……勝てないほどじゃないかな」
「そうですか……それなら、もう少し本気を出しましょうか?」
「まあ、強えけど……勝てないほどじゃないかな」
「そうですか……それなら、もう少し本気を出しましょうか?」
まだまだ、強がりを言えるらしい。
悟飯は、初めて父親に憐れみを抱いた。
セルにすら勝てなかったあんな人が、どうやって自分に勝つのだろうと、心の底から疑問だった。
そして、本気を出せばあんな態度は二度と取れないだろうと確信する。
悟飯は、初めて父親に憐れみを抱いた。
セルにすら勝てなかったあんな人が、どうやって自分に勝つのだろうと、心の底から疑問だった。
そして、本気を出せばあんな態度は二度と取れないだろうと確信する。
「はッ!!」
黄金の気が、さらに膨れ上がり悟飯を覆うオーラの波が荒々しく歪んでいく。
バチッという音が、何度も発生して、紫電が弾けては消える。
地鳴りのように大地が鳴動する。
悟飯の周りから亀裂が生じて、地割れのように大地が罅割れだした。
バチッという音が、何度も発生して、紫電が弾けては消える。
地鳴りのように大地が鳴動する。
悟飯の周りから亀裂が生じて、地割れのように大地が罅割れだした。
「今、降参すれば許してあげるかもしれませんよ?」
意地悪な表情で、悟飯は悟空に問いかける。
「おめえの悪い癖だ。普通にやりゃあ勝つのに、油断して負けちまうのはな」
減らず口を叩く悟空に、悟飯は乾いた笑いを浮かべて、より抑えられた力を解放した。
「────ハハ」
逆立った髪はより鋭利に天を刺し、気の放流は激しく隆々と燃え盛る焔のように鼓動。
世界が破裂したかのような爆音を轟かせた後、濛々と土煙を吹き上げて、その金色の戦士は顕現する。
世界が破裂したかのような爆音を轟かせた後、濛々と土煙を吹き上げて、その金色の戦士は顕現する。
「お父さんは、なれないでしょう。これに」
雷の獰猛さと、見た者を氷結させるかのような冷たい碧眼で、悟空を睨みながら悟飯は口許をより一層吊り上げた。
スーパーサイヤ人を超えたスーパーサイヤ人2。
乃亜のハンデは、サイヤ人の強化態への変身を抑えるものであり、前者が12時間、後者が24時間のインターバルを挟まなくてはならない非常に重い制約を課せられている。
しかし、悟飯はその両方の制限をも超越して、インターバルを踏み倒しスーパーサイヤ人2へと変身した。
怒りにより潜在能力を発揮する悟飯に、凶暴性を加速させる雛見沢症候群が最悪のベストマッチを起こした事による、バトルロワイアルのバグである。
スーパーサイヤ人を超えたスーパーサイヤ人2。
乃亜のハンデは、サイヤ人の強化態への変身を抑えるものであり、前者が12時間、後者が24時間のインターバルを挟まなくてはならない非常に重い制約を課せられている。
しかし、悟飯はその両方の制限をも超越して、インターバルを踏み倒しスーパーサイヤ人2へと変身した。
怒りにより潜在能力を発揮する悟飯に、凶暴性を加速させる雛見沢症候群が最悪のベストマッチを起こした事による、バトルロワイアルのバグである。
「悔しいが……オラには乃亜のハンデを破れる力がねえ」
悟空は、突き付けられた事実を否定せず頷いて、認めてしまった。
元より、無知や無邪気さから非常識な行動に出ることはあっても、悟空は冷静である事が多い。
友の死に怒りを見せることはあれど、悟飯のように感情を激しく発露させるのは得意ではない。
また、潜在能力も悟飯には遥かに劣る。
元より、無知や無邪気さから非常識な行動に出ることはあっても、悟空は冷静である事が多い。
友の死に怒りを見せることはあれど、悟飯のように感情を激しく発露させるのは得意ではない。
また、潜在能力も悟飯には遥かに劣る。
「ずるくねえか? 乃亜の野郎、いい加減なハンデにしやがって」
現状、悟空がなれるのは通常のスーパーサイヤ人。
それもセルゲームの時期にまで調整され、さらに殺し合いを破綻させないように規模を落とされた劣化品。
積み重ねた修行の優位性すら、取り上げられてしまっている。
それもセルゲームの時期にまで調整され、さらに殺し合いを破綻させないように規模を落とされた劣化品。
積み重ねた修行の優位性すら、取り上げられてしまっている。
「スーパーサイヤ人じゃ、お前のスーパーサイヤ人2にはとても勝ち目がない」
悟空の評価は的確であった。
『ねえ……考えがあるのよね? ねえ、そうよね?』
(一刻も早く、この場からの離脱を────しかし、体の再生が終わらぬッ……)
的確過ぎるが故に、生き汚い魔女と鬼は取り乱す。
(あの猿野郎、何を落ち着いてやがんだ)
また両者の霊圧を比べた上で、やはり悟空の勝機は薄いと判断したリルは焦燥に駆られながら、解せないと言わんばかりの目で悟空を見つめる。
あの目は、まだ死んでいない。
言ってしまえば似ている。涅マユリや浦原喜助のような、常に手段を保持して隠し続ける狸連中のそれに。
あの目は、まだ死んでいない。
言ってしまえば似ている。涅マユリや浦原喜助のような、常に手段を保持して隠し続ける狸連中のそれに。
「苦しまずに終わらせてあげますよ」
悟飯は憐憫に満ちた目で悟空を見て、掌を翳した。
仮にも父親を相手に、甚振るような趣味は悟飯にはない。
雛見沢症候群の狂気の中で、少しばかり残された良心がその選択をさせる。
仮にも父親を相手に、甚振るような趣味は悟飯にはない。
雛見沢症候群の狂気の中で、少しばかり残された良心がその選択をさせる。
(あの人……やばいんじゃ……!?)
龍亞の手がパワーツールのカードに触れる。
「ものみな眠る小夜中に
In der Nacht, wo alles schläft」
In der Nacht, wo alles schläft」
ルサルカの渇望が、彼女の声帯を通じて世界に唱えられる。
通じるか否かは最早問題ではない。
最大戦力の敗北が決定した時点で、最善手を打たねばならない。
もっとも単純なのは、戦力の加算。つまり一対一ではなく、複数人で悟飯をリンチすること。
上手く行くとは限らないが、ただでさえ低い勝率をさらに引き上げるには、この方法しか存在しない。
最大戦力の敗北が決定した時点で、最善手を打たねばならない。
もっとも単純なのは、戦力の加算。つまり一対一ではなく、複数人で悟飯をリンチすること。
上手く行くとは限らないが、ただでさえ低い勝率をさらに引き上げるには、この方法しか存在しない。
「ルサルカ──────それに、他の奴等も手ぇ出さねえでくれ!!!」
だが、その無駄な足掻きとも言える抵抗も、他ならぬ悟空自身に制止される。
『まだ、カッコ付ける気!!?』
「いいんですよ。全員で、掛かって来たって」
ルサルカは苛立ちながら、頭にキンキン響かせるのを狙ったかのような声を上げる。
悟飯も軽蔑するような表情で、共闘を促してくる。
スーパーサイヤ人2になれない悟空に、悟飯への対抗手段は皆無であるというのに。
悟空はまだ諦観したわけでもなく、狂って壊れたのでもない。
悟飯も軽蔑するような表情で、共闘を促してくる。
スーパーサイヤ人2になれない悟空に、悟飯への対抗手段は皆無であるというのに。
悟空はまだ諦観したわけでもなく、狂って壊れたのでもない。
「前々から、思い付いてはいたんだけどよ……」
本気で勝利するという自信の元、余裕を見せていた。
「調整が難しくて、開発は諦めてたんだ」
悟空を覆う金色のオーラの膜がぴたりと止んだ。
鋭い目付きは、釣り上がった眦が丸まった事で穏やかなものへと変容する。
鋭い目付きは、釣り上がった眦が丸まった事で穏やかなものへと変容する。
(あれは……)
思い当たる節がある。セルゲームの前に悟空が考案した、穏やかなスーパーサイヤ人だ。
変身の負担に体を慣らせるようにと、日常生活を送れるまでに気性の荒さと不必要な力をそぎ落とした形態である。
しかし、あくまで負担を軽減させた形態であり、この場で必要な即戦力に繋がる代物ではない。
変身の負担に体を慣らせるようにと、日常生活を送れるまでに気性の荒さと不必要な力をそぎ落とした形態である。
しかし、あくまで負担を軽減させた形態であり、この場で必要な即戦力に繋がる代物ではない。
「だがよ……殺し合い(ここ)でなら、できるかもしれねえと思ったんだ」
消失したオーラ、無風のまま佇む悟空からは嵐の前の静けさと言わんばかりの、威風が滾っている。
沈黙する世界の中、悟空は丸まった眦をあげた。そのまま拳を握り込み、両腕を曲げながら腰を落とす。
沈黙する世界の中、悟空は丸まった眦をあげた。そのまま拳を握り込み、両腕を曲げながら腰を落とす。
「────いくぞ!!」
咆哮と共に叫ばれる神より与えられし真紅の奥義。
静寂を破り、紅蓮の闘気が悟空を包み込む。悟飯はこの光景を知っていた。
静寂を破り、紅蓮の闘気が悟空を包み込む。悟飯はこの光景を知っていた。
「界王拳!!」
燃え盛る炎のように、赤の気が悟空から発せられ炎々と揺らめいていく。
上昇していく気の放流に、悟空はこめかみに血管を浮かべて耐えるかのように、苦悶に形相を歪めさせる。
体内で爆破物を調合し、合成させているかのような精密性を必要とする気のコントロールに悟空は苦戦していた。
上昇していく気の放流に、悟空はこめかみに血管を浮かべて耐えるかのように、苦悶に形相を歪めさせる。
体内で爆破物を調合し、合成させているかのような精密性を必要とする気のコントロールに悟空は苦戦していた。
「ぐっ……ぐぐ、ァ……ォ、おおおおおおおおおッッ!!!!」
高まり続ける暴力的な気の上昇は、悟空という入れ物すら容易く破壊せしめるだけの猛烈さを秘めている。
悟飯は悟空がスーパーサイヤ人の状態で、界王拳を使用した姿を見たことがない。
疑問に思ってはいたのだ。だが、悟空と過ごした精神と時の部屋での一年間の修行の中にヒントがある。
悟空は無理なく、必要以上に体を虐める手法を良しせず、それは悟飯にも伝えている。
スーパーサイヤ人の変身は、体に負担を強いる。
そして、界王拳も同様に変身者に強烈な反動を残してしまう。
恐らく、この二つの併用は理論上は可能であっても実現は不可能なのだ。
例え、サイヤ人という強固な肉体を保持していようとも、二つの異なる肉体の異常強化には耐えきれないと悟空は判断し、セルゲームですら使うことはなかった。
悟飯は悟空がスーパーサイヤ人の状態で、界王拳を使用した姿を見たことがない。
疑問に思ってはいたのだ。だが、悟空と過ごした精神と時の部屋での一年間の修行の中にヒントがある。
悟空は無理なく、必要以上に体を虐める手法を良しせず、それは悟飯にも伝えている。
スーパーサイヤ人の変身は、体に負担を強いる。
そして、界王拳も同様に変身者に強烈な反動を残してしまう。
恐らく、この二つの併用は理論上は可能であっても実現は不可能なのだ。
例え、サイヤ人という強固な肉体を保持していようとも、二つの異なる肉体の異常強化には耐えきれないと悟空は判断し、セルゲームですら使うことはなかった。
「自殺行為ですね……そんなもの……」
口では無駄と嘲りながら、しかし悟飯は悟空から目を反らさない。
真紅に輝く悟空を見て、その瞳に孕んでいた先程までの狂気は薄らいでいた。
真紅に輝く悟空を見て、その瞳に孕んでいた先程までの狂気は薄らいでいた。
ありえない。使えるのなら、セル戦の何処かで使用していた。悟飯相手に勝ち目がないと悟った悟空のやけであり、盛大な自害行為に過ぎない。
勝手に死なれるくらいなら、この手で殺してやれと、雛見沢症候群の狂気が悟飯へ囁く。
報酬システムのポイントにもなる。それに、自分を殺してくるような奴等と手を組んでいる奴に、自殺なんかで許してやるものか。
愛情の裏返った憎しみが、悟飯を凶行へ突き動かそうとする。
勝手に死なれるくらいなら、この手で殺してやれと、雛見沢症候群の狂気が悟飯へ囁く。
報酬システムのポイントにもなる。それに、自分を殺してくるような奴等と手を組んでいる奴に、自殺なんかで許してやるものか。
愛情の裏返った憎しみが、悟飯を凶行へ突き動かそうとする。
「……お父さんのプライドをズタズタにしてやる」
しかし、気弾を溜めた手を持ち上げようとして、狂気を超えた狂気が悟飯を押し留まらせる。
「はああああああああああああァァァァァァァッッ!!!!」
試してみたくなったのだ。己の力を。
苦戦など感じなかったスーパーサイヤ人を超えたスーパーサイヤ人のその限界を。
なにより、見てみたい。悟空のスーパーサイヤ人だけに頼らない新たな可能性を。
苦戦など感じなかったスーパーサイヤ人を超えたスーパーサイヤ人のその限界を。
なにより、見てみたい。悟空のスーパーサイヤ人だけに頼らない新たな可能性を。
悟飯を蝕むあらゆる狂気が捻じ伏せられ、この瞬間のみ戦闘民族サイヤ人の闘争心が全てを凌駕した。
「おおおおおおおおッッ!!! あああああああああああああッッ!!!」
爆発的な気の暴走が発生し、とうとう肉体が耐えきれずに弾け飛んだかと思わせる程の赤い閃光。
悟飯が目を細めた瞬間、光は最高潮の眩さに達した。
悟飯が目を細めた瞬間、光は最高潮の眩さに達した。
「……待たせたな」
赤の輝きを、金色の輝きすら霞むほどの濃度に圧縮させ、全身に纏わせる悟空の姿がそこにはあった。
「あの世で一度、パイクーハンという達人とやり合った時、一瞬だけ成功したんだ」
懐かしむように、この世にはもういないライバルの一人を思い浮かべて、悟空は口を開いた。
「気のコントロールさえうまく調整すれば、重ね掛けはできるってことは分かった。
だが、スーパーサイヤ人は気性だけじゃなく、気の増幅も激しくなっちまう。
あの世と違い、現世じゃ肉体の反動が変わってくるから、成功はしないはずだ」
だが、スーパーサイヤ人は気性だけじゃなく、気の増幅も激しくなっちまう。
あの世と違い、現世じゃ肉体の反動が変わってくるから、成功はしないはずだ」
悟空の習得した全ての変身において、界王拳の重ね掛けの条件を満たす形態は存在していない。
「穏やかな心と気のコントロールを極めた。
そんなスーパーサイヤ人なんてものがあれば、話は別だったかもしれねえけど……そう上手くはいかねえ。
界王様の技と、スーパーサイヤ人は相性が悪いんだよなあ」
そんなスーパーサイヤ人なんてものがあれば、話は別だったかもしれねえけど……そう上手くはいかねえ。
界王様の技と、スーパーサイヤ人は相性が悪いんだよなあ」
その点、スーパーサイヤ人4は3のような激しいエネルギー消耗を抑えており、一見すれば最適な形態でもあるのだが、調整にまだまだ手間取りそうだった。
仮にスーパーサイヤ人4の界王拳が成功するのであれば、それはもっと長い時間を有して、研鑽を重ねる必要がある。
仮にスーパーサイヤ人4の界王拳が成功するのであれば、それはもっと長い時間を有して、研鑽を重ねる必要がある。
「この首輪だ。乃亜はオラ達の気を吸収する仕組みを作って、この中に組み込んだんだ」
にぃと悟空は悪戯が成功した子供のような表情で、悟飯に笑みを向ける。
「高まり過ぎた気は、全て首輪に吸収されちまう。それは気のデカさを一定まで首輪(こいつ)が調整してくれるってことだ。
界王拳もスーパーサイヤ人だって関係なくな……」
界王拳もスーパーサイヤ人だって関係なくな……」
ネモから首輪の仕組みを聞いた時に、悟空は既に技の構想を練っていた。
「だから、やれると思ったのさ。
乃亜のハンデが掛かっている間だけは、気のデカさを気にせずに、二つの異なる技と変身の気の配合にだけ集中できる。オラの負担が減るんだ」
乃亜のハンデが掛かっている間だけは、気のデカさを気にせずに、二つの異なる技と変身の気の配合にだけ集中できる。オラの負担が減るんだ」
首輪に備わった機能、エネルギー吸収装置に気の調整を一部代理で運用させ、悟空の負担を軽減させ二つの力を配合し、肉体へと馴染ませる。
穏やかなスーパーサイヤ人になったのも、気の調節を行いやすくするためだ。
穏やかなスーパーサイヤ人になったのも、気の調節を行いやすくするためだ。
「こいつがオラの奥の手……スーパー界王拳さ」
相対する悟飯に圧し掛かるプレッシャーは、偽りではなかった。
少なくともこの島で、シュライバーに次いで本気の悟飯を害せる敵が目の前に現れたのだ。
下に向けていた拳が自然と持ち上がり、小さく歓喜で震えていた。
少なくともこの島で、シュライバーに次いで本気の悟飯を害せる敵が目の前に現れたのだ。
下に向けていた拳が自然と持ち上がり、小さく歓喜で震えていた。
「でも、所詮は界王拳。フリーザにも通じない弱い技じゃないですか」
地面に足一つ分の窪みを作って、悟飯が消える。
「僕には通じませんよ」
悟空の眼前にまで瞬時に駆け、振り被った拳が激突する。
「!!!?」
じりっと砂と靴裏の擦れる音が足元から鳴り、悟空は数十センチ後退した。
悟飯の一撃を受けながら、強固な防御の姿勢を崩さないまま耐えきったのだ。
拳から伝う悟空の頑強さを、直に察知した悟飯は瞠目する。
悟飯の一撃を受けながら、強固な防御の姿勢を崩さないまま耐えきったのだ。
拳から伝う悟空の頑強さを、直に察知した悟飯は瞠目する。
「安心しろ。悟飯、お前をガッカリさせないだけの力はあるつもりだ」
紅の気が逆風となって悟飯に襲い掛かる。
悟飯は後方へ飛び退き、距離を稼ぎ気弾を数発打ち込む。
悟飯は後方へ飛び退き、距離を稼ぎ気弾を数発打ち込む。
「おおおッッ!!」
だが、深い谷底で爆音が轟き反響しているかのような独特な音が、けたたましく響く。
火薬が炸裂した弾丸のように悟空が加速。
火薬が炸裂した弾丸のように悟空が加速。
「はァッ!!」
気弾を過ぎ去り、肉薄する悟空。
悟飯が、腕を横薙ぎに振るって殴りつける。
赤い残影を残して、悟空が消失する。次の瞬間、悟飯の背後から拳が数発叩き込まれた。
悟飯が、腕を横薙ぎに振るって殴りつける。
赤い残影を残して、悟空が消失する。次の瞬間、悟飯の背後から拳が数発叩き込まれた。
「チッ……!」
速い。
残留する痛みに表情を歪めながら、悟飯は舌打ちをする。
残留する痛みに表情を歪めながら、悟飯は舌打ちをする。
「だりゃああああああッ!!!」
そしてパワーも速度上昇に伴い、飛躍的に跳ね上がっている。
眼前に迫りラッシュを叩き込む悟空に、悟飯がガードを強いられる程に。
立てた両腕からギシギシと骨が軋んでいき、肉が潰され皮が裂けそうな衝撃が伝わる。
消耗後の無茶な戦闘で手玉に取られたヤミを除けば、ここまで悟飯が圧倒されたのは殺し合いの中では初めてだ。
眼前に迫りラッシュを叩き込む悟空に、悟飯がガードを強いられる程に。
立てた両腕からギシギシと骨が軋んでいき、肉が潰され皮が裂けそうな衝撃が伝わる。
消耗後の無茶な戦闘で手玉に取られたヤミを除けば、ここまで悟飯が圧倒されたのは殺し合いの中では初めてだ。
「ぐ、ォッ、がああああああああああッッ!!」
圧されていく。絶対の強さを不動のものとした悟飯の表情が、苦々しく歪む。
だが、同時に狂気によるものではなく、純粋な喜びから溢れた微笑も浮かばせていた。
だが、同時に狂気によるものではなく、純粋な喜びから溢れた微笑も浮かばせていた。
「フ、ふふ……ははっ……」
悟飯が全力を出した上で、弱者を甚振る蹂躙ではない戦いが、この島でようやく行えるのだ。
それが何故だか無性に嬉しい。そして楽しかった。
恐怖や猜疑に満ちた視線ではなく、憎しみや厭悪のような敵意に満ちた形相でもない。
悟空が悟飯に向けたものは、怪物としか扱われなかった悟飯が、最も欲するものであった。
それが何故だか無性に嬉しい。そして楽しかった。
恐怖や猜疑に満ちた視線ではなく、憎しみや厭悪のような敵意に満ちた形相でもない。
悟空が悟飯に向けたものは、怪物としか扱われなかった悟飯が、最も欲するものであった。
「うおおおおおおおおおおォォォォォッッ!!!」
だから、本気で後先考えずに、全てを出し切ってぶつけてみたい。
ここにいる全員を殺す等、もうどうでもよくなってきた。
この戦いを目一杯楽しんでから、その後に考えればいい。
ここにいる全員を殺す等、もうどうでもよくなってきた。
この戦いを目一杯楽しんでから、その後に考えればいい。
「ぐァッ!!」
悟飯の打撃が悟空を殴り飛ばす。
「が、ァ……!!」
悟空が悟飯の顎を蹴り上げる。
目にも止まらぬ打撃の応酬が続き、常人の肉眼では視認すら出来ない攻防が展開される。
「大したパワーだ……だけど、いつまで続きますかね?」
空を大地を海を、世界を構成する全ての物質を鳴動させ、紅蓮の戦士と金色の戦士の激突は続く。
だが、その渦中にある悟飯は既に戦いの終焉を予感していた。
だが、その渦中にある悟飯は既に戦いの終焉を予感していた。
「スーパーサイヤ人と、界王拳の併用も長くはもたない。そうでしょう?」
自身の肉体に浴びせられる拳が弱体化しているのを、悟飯は感じ取っていた。
界王拳の弱点は、長期戦には不向きな強烈な反動である。
戦闘力の前借り、積もり積もった負債は何処かで返却しなくてはならず、返しきれない負債は破産という形で崩壊する。
ただでさえ、体を酷使するスーパーサイヤ人を使い、そこに界王拳のというドーピングまで重ねれば、今の悟空に圧し掛かる負債は計り知れないものとなる。
界王拳の弱点は、長期戦には不向きな強烈な反動である。
戦闘力の前借り、積もり積もった負債は何処かで返却しなくてはならず、返しきれない負債は破産という形で崩壊する。
ただでさえ、体を酷使するスーパーサイヤ人を使い、そこに界王拳のというドーピングまで重ねれば、今の悟空に圧し掛かる負債は計り知れないものとなる。
「ああ……だから、早めにケリつけさせてもらう!!」
指摘されるまでもなく、悟空本人が最も理解している欠点だ。
体にズキズキと鋭い痛みが生じており、掛けた負担がデメリットとして表面化している。
悟空の勝利は早期決着の他にない。
体にズキズキと鋭い痛みが生じており、掛けた負担がデメリットとして表面化している。
悟空の勝利は早期決着の他にない。
「させませんよ!!」
飛んでくる打撃をいなして、悟飯は屈んで、悟空の懐に潜り込みアッパーを数発叩き込む。
後方へ退きながら、悟空は鳩尾を押さえて向き直る。
自ら突っ込んでくる悟飯と視線が交錯した。
悟空の敗北は時間の経過により、確固たるものとなる。
手段を選ばなければ、悟飯は悟空から付かず離れず、悟空が界王拳に耐え切れずに自爆するのを、攻撃を避け続けながら待てばいい。
だが、そうではなく。自身の強さによって、引導を渡すことを悟飯は選択した。
後方へ退きながら、悟空は鳩尾を押さえて向き直る。
自ら突っ込んでくる悟飯と視線が交錯した。
悟空の敗北は時間の経過により、確固たるものとなる。
手段を選ばなければ、悟飯は悟空から付かず離れず、悟空が界王拳に耐え切れずに自爆するのを、攻撃を避け続けながら待てばいい。
だが、そうではなく。自身の強さによって、引導を渡すことを悟飯は選択した。
「お前だって時間がねえだろ?」
悟空もまた、確信を得た表情で悟飯へ問い返す。
カオスとの交戦でスーパーサイヤ人2に変身したからこそ、そのハンデの重さを理解していた。
初戦のシュライバーとの戦闘で、乃亜のハンデによる強制変身解除を悟飯は経験している。
もしも、またおかしなタイミングで変身を解除されれば、厄介なことになる。
界王拳との併用とはいえ、悟空はまだスーパーサイヤ人しか使用しておらず、ハンデが緩い可能性もあるのだ。
戦いを長引かせ、不測の事態を起こすのは悟飯としても避けたい。
カオスとの交戦でスーパーサイヤ人2に変身したからこそ、そのハンデの重さを理解していた。
初戦のシュライバーとの戦闘で、乃亜のハンデによる強制変身解除を悟飯は経験している。
もしも、またおかしなタイミングで変身を解除されれば、厄介なことになる。
界王拳との併用とはいえ、悟空はまだスーパーサイヤ人しか使用しておらず、ハンデが緩い可能性もあるのだ。
戦いを長引かせ、不測の事態を起こすのは悟飯としても避けたい。
「まあ……うだうだ言ってっけどよ……」
二つの拳面が激突し、烈風を引き起こす。
「時間切れなんて決着が一番つまらねえ、お前もそう思っているんだろ?」
白状すれば、悟空はずっとこの殺し合いに呼ばれてから、邪とも言える願望を一つ抱いていた。
それは、かつての悟空すら追い付けぬほどの高みへと上り詰めた悟飯との戦い。
セルに向けられたその最強の拳を、今度は自分が交えてみたいという願い。
悟空の時代では前線を退き、戦いの勘も衰えている。
究極の力は眠りにつき、目覚めさせる手段もあるかもしれないが、それでもセルゲームの時のような圧倒的な力の昂りは期待できそうにない。
この時代の最も戦闘の感覚が研ぎ澄まされ、まだ見ぬ潜在能力を滾らせた悟飯の力が見たいのだ。
悟空の我儘ではあるが、学者ではなくこのまま武道家としての可能性を存分に発揮するような、そんな将来の一端をこの身で体感したい。
それは、かつての悟空すら追い付けぬほどの高みへと上り詰めた悟飯との戦い。
セルに向けられたその最強の拳を、今度は自分が交えてみたいという願い。
悟空の時代では前線を退き、戦いの勘も衰えている。
究極の力は眠りにつき、目覚めさせる手段もあるかもしれないが、それでもセルゲームの時のような圧倒的な力の昂りは期待できそうにない。
この時代の最も戦闘の感覚が研ぎ澄まされ、まだ見ぬ潜在能力を滾らせた悟飯の力が見たいのだ。
悟空の我儘ではあるが、学者ではなくこのまま武道家としての可能性を存分に発揮するような、そんな将来の一端をこの身で体感したい。
「はあああああああああああああああッッッ!!!!」
悟飯からの猛攻を受けながら、徐々にダメージを蓄積され、悟空は界王拳の反動との板挟みになる。
内からも外からも肉体が壊され続け、ズキズキと軋めく音が鳴り響いている。
やはり、長くは戦えない。この楽しい時間を伸ばす事はできないが、この時間をより最高なものとする為に、悟空は残された全ての気を凝縮させ体外に纏う。
内からも外からも肉体が壊され続け、ズキズキと軋めく音が鳴り響いている。
やはり、長くは戦えない。この楽しい時間を伸ばす事はできないが、この時間をより最高なものとする為に、悟空は残された全ての気を凝縮させ体外に纏う。
(効かねえ攻撃を何発入れても埒があかねえ。パワーを維持できる今のうちに、やれるだけの一撃を叩き込む)
戦闘力のピークは過ぎ、このままパワーは下落していく一方だ。常にこの瞬間が維持できる最高の戦力であると考えた方が良い。
対して悟飯は、まだまだ戦力を維持したまま気の流れに淀みすらない。
遠からぬうちに拮抗した戦闘は、段々と悟空の弱体化で、悟飯の蹂躙へと変容する。
その前に、まだ攻撃が通る今のうちに、最大の攻撃をぶち当てる。
対して悟飯は、まだまだ戦力を維持したまま気の流れに淀みすらない。
遠からぬうちに拮抗した戦闘は、段々と悟空の弱体化で、悟飯の蹂躙へと変容する。
その前に、まだ攻撃が通る今のうちに、最大の攻撃をぶち当てる。
(つっても、ダラダラ気を溜める暇もくれねえ……さて、どうすっか……)
課題となるのは、気のチャージャだ。
悟飯を一撃で倒すだけの攻撃には、大量の気を溜める必要がある。
それらを、悟空が防御しながら行うのは困難だ。
猛攻をいなしながら、悟空はその頭脳をフルに回転させる。
悟飯を一撃で倒すだけの攻撃には、大量の気を溜める必要がある。
それらを、悟空が防御しながら行うのは困難だ。
猛攻をいなしながら、悟空はその頭脳をフルに回転させる。
「よし────」
そして、見つけた。
「はあああああッッ!!!」
悟飯が僅かに後退し助走を付けて、悟空へと突撃する。
爆風を巻き上げて、地盤を砕き、戦場に轟音が轟く。
その砂塵の中で、悟飯は手ごたえを感じない。
爆風の外へ、悟空が後方へ飛び退いて避けていた。
光すら追い付けないかのような高速。
さらに追尾するように肉薄する悟飯から、悟空は瞬時に加速して猛攻を読み切り避けていく。
爆風を巻き上げて、地盤を砕き、戦場に轟音が轟く。
その砂塵の中で、悟飯は手ごたえを感じない。
爆風の外へ、悟空が後方へ飛び退いて避けていた。
光すら追い付けないかのような高速。
さらに追尾するように肉薄する悟飯から、悟空は瞬時に加速して猛攻を読み切り避けていく。
瞬間、光の嵐が空を裂く。
弾幕が絨毯爆撃のように悟空の周囲に展開された。
それらを悟空は全て紙一重で、掠めることなく避ける。
赤い残光だけを残しながら、無駄のない動きで絶の回避。
この動き、悟飯には見覚えがあった。
弾幕が絨毯爆撃のように悟空の周囲に展開された。
それらを悟空は全て紙一重で、掠めることなく避ける。
赤い残光だけを残しながら、無駄のない動きで絶の回避。
この動き、悟飯には見覚えがあった。
「これは、シュライバーの動きか?」
魂(エネルギー)を効率的に速度へと変換させる燃焼。
齎された速度を、さらに活かすべく編み出した高速走法の技。
悟空は、一度見たシュライバーの速さを高い精度で模倣し再現してみせたのだ。
あらゆる防御を捨て、ただただ接触の拒絶に全てを賭して望む渇望と制約により成り立つ神速。
神技と呼ぶにふさわしい観察眼と経験の融合により、悟空はその神速を模倣する。
活動位階の段階までなら、限りなく近づけているレベルへ。
齎された速度を、さらに活かすべく編み出した高速走法の技。
悟空は、一度見たシュライバーの速さを高い精度で模倣し再現してみせたのだ。
あらゆる防御を捨て、ただただ接触の拒絶に全てを賭して望む渇望と制約により成り立つ神速。
神技と呼ぶにふさわしい観察眼と経験の融合により、悟空はその神速を模倣する。
活動位階の段階までなら、限りなく近づけているレベルへ。
「か」
右側の脇下で、両手を腰の横で重ね合わせる。
悟空の喉から低い声が絞り出された。
光の殺意に囲まれながら、その集中は乱れない。
掌に集まった青光の破壊力を底上げすることにのみ、悟空の意識は注がれる。
悟空の喉から低い声が絞り出された。
光の殺意に囲まれながら、その集中は乱れない。
掌に集まった青光の破壊力を底上げすることにのみ、悟空の意識は注がれる。
「め」
悟飯は両腕を振り上げ、空に無数の気弾を撃ち放つ。
一定の高度まで上昇してから、雨あられのように気弾が大地へと落下していく。
避けていく悟空の行先を絞るように、気弾の勢いが増す。
一定の高度まで上昇してから、雨あられのように気弾が大地へと落下していく。
避けていく悟空の行先を絞るように、気弾の勢いが増す。
悟空の狙いは、一撃必殺。
全ての防御を跳ね上がったスピードによる回避に委ねて、大技に残された気を全て注ぎ込み一発で悟飯を沈めること。
だが、この戦術には一つの致命的な弱点がある。
肉体の強度に気を回せない事だ。
通常、悟空達の操る気功術は体内のエネルギーを練り上げることで、あらゆる力も速さも肉体の頑強さも、全てが総合的に強さとして跳ね上がる。
だが、悟空はシュライバーの神速を得るために、この瞬間速さ以外のほぼ全てに充てられるエネルギー充填を空にした。
全ての防御を跳ね上がったスピードによる回避に委ねて、大技に残された気を全て注ぎ込み一発で悟飯を沈めること。
だが、この戦術には一つの致命的な弱点がある。
肉体の強度に気を回せない事だ。
通常、悟空達の操る気功術は体内のエネルギーを練り上げることで、あらゆる力も速さも肉体の頑強さも、全てが総合的に強さとして跳ね上がる。
だが、悟空はシュライバーの神速を得るために、この瞬間速さ以外のほぼ全てに充てられるエネルギー充填を空にした。
「────────ッ、ぐ……!!」
光の雨が、悟空の肩をかすめる。
たったそれだけで、酸を浴びせられたように悟空の顔は苦痛の形相を浮かべる。
たったそれだけで、酸を浴びせられたように悟空の顔は苦痛の形相を浮かべる。
これこそが、あの絶対回避の渇望を抱くシュライバーの神速、その代償。
現在の悟空の耐久力はゼロにも等しい。
防御に一切の気を回さずに、全ての気を攻撃のチャージとスピードへ振り分けている為に、現在の耐久性は著しく低下しているのだ。
耐久力を棄てた悟空にとって、たった一撃、スーパーサイヤ人2の悟飯の拳が掠めるだけで、それは死を意味する。
耐久力を棄てた悟空にとって、たった一撃、スーパーサイヤ人2の悟飯の拳が掠めるだけで、それは死を意味する。
「次から次へと……お父さんは、色んな技を見せてくれますね」
無数の爆撃が天地を裂き、大地を焼く。
轟音の渦を縫うように、悟空が飛ぶ。目にも映らぬ速さ。だが悟飯の瞳は、それを捉えていた。
忙しくなく視界を回しながら、悟飯を笑っていた。
楽しいのだ。圧倒してもしきれない、簡単には倒させてくれない敵が。
実力の近しい者同士で、苦戦しながら、次はどう対処して相手はどう出るか、戦術を考えるのがこの上なく楽しい。
轟音の渦を縫うように、悟空が飛ぶ。目にも映らぬ速さ。だが悟飯の瞳は、それを捉えていた。
忙しくなく視界を回しながら、悟飯を笑っていた。
楽しいのだ。圧倒してもしきれない、簡単には倒させてくれない敵が。
実力の近しい者同士で、苦戦しながら、次はどう対処して相手はどう出るか、戦術を考えるのがこの上なく楽しい。
初めてだった。相手を上回り圧殺するのでも、格上に嬲られ甚振られるのでもない。
接戦で、しのぎを削り競い合うというのは。
接戦で、しのぎを削り競い合うというのは。
「……へへ」
悟空すら笑っていた。一手ミスをすれば、即座に死を迎える極限状態にありながら。
汗が頬を滑り落ちるのを感じながら、悟空も戦いを楽しんでいたのだ。
汗が頬を滑り落ちるのを感じながら、悟空も戦いを楽しんでいたのだ。
「はは……」
口角を吊り上げながら、悟飯は脳内で軌道を計算する。
耐久力がゼロであるということは、あらゆる攻撃を必ず避けなければいけない。
それは、全ての選択肢が回避に偏るということに他ならない。
であるならば、回避される前提で攻撃を放ち、かわさせることで行動を限定させればいい。
それは、全ての選択肢が回避に偏るということに他ならない。
であるならば、回避される前提で攻撃を放ち、かわさせることで行動を限定させればいい。
爆撃の角度、悟空の動き、すべてを読み切る。
次の瞬間、爆煙の奥から悟空が迫った。まさに読んだ通り。
「は」
悟飯が地面を蹴る。肉体が空間を断ち割るように走る。
爆風に巻かれながらも、視線を逸らさない。
爆風に巻かれながらも、視線を逸らさない。
そして。
「捉えた!!」
悟空の眼前に、悟飯が立ち塞がった。
まるで待ち伏せていたかのように。いや、まさしく待っていた。
まるで待ち伏せていたかのように。いや、まさしく待っていた。
親の先を読む息子の目が、初めて父を追い詰めた瞬間だった。
掌に気を溜めて、灼熱の光を練り上げる。
ものの一秒もせずに済む工程が、とても長く感じられた。
これは、そうだ。高揚感というものだろう。
達成感とも満足感とも言える。そして、淀みのない嬉しさ。
勝利を目前に、高まる熱狂が悟飯を武者震いさせる。
ものの一秒もせずに済む工程が、とても長く感じられた。
これは、そうだ。高揚感というものだろう。
達成感とも満足感とも言える。そして、淀みのない嬉しさ。
勝利を目前に、高まる熱狂が悟飯を武者震いさせる。
「ッッ!!?」
その瞬間、悟空は朗らかに笑う。刹那、ビシュンッという音を残し消失した。
別の異次元への侵入をコンマ数秒のみ可能とし、元の次元へ座標を指定し高速で転移する。
ラードヤット星人の持つ特殊技能、瞬間移動。
バトルロワイアルにおいて、長距離の移動は封じられたが、戦闘時の極短距離の移動ならば発動に問題はない。
別の異次元への侵入をコンマ数秒のみ可能とし、元の次元へ座標を指定し高速で転移する。
ラードヤット星人の持つ特殊技能、瞬間移動。
バトルロワイアルにおいて、長距離の移動は封じられたが、戦闘時の極短距離の移動ならば発動に問題はない。
悟空が転移し、再びこの物質世界に帰還したのは、悟飯の背後。
意表を突き、精神の動揺の合間、ガラ空きとなった背中に特大のかめはめ波を叩き込む。
手の中に高エネルギー体を強く意識し、脇下で構えた両手を、悟空はあらん限りの力で突き出した。
意表を突き、精神の動揺の合間、ガラ空きとなった背中に特大のかめはめ波を叩き込む。
手の中に高エネルギー体を強く意識し、脇下で構えた両手を、悟空はあらん限りの力で突き出した。
「読んでいましたよ」
だが、眼前に広がるのは、不敵な笑みを向け正面から悟空を見つめる悟飯。
「しま……」
戦闘使用時の瞬間移動に制約がないのなら、いざという時の緊急回避に持ち出す事も容易に想像がつく。
一年間、共に修行し鍛え上げた仲だ。悟空の思考パターンを読めないほど、悟飯は馬鹿ではない。
だから、わざわざ爆撃攻撃で行き場を潰し、遠回りな方法で追い込んだ。
追い詰めれば、必ず悟空は瞬間移動を使ってくる、その使用後に生じる隙を作るために。
一年間、共に修行し鍛え上げた仲だ。悟空の思考パターンを読めないほど、悟飯は馬鹿ではない。
だから、わざわざ爆撃攻撃で行き場を潰し、遠回りな方法で追い込んだ。
追い詰めれば、必ず悟空は瞬間移動を使ってくる、その使用後に生じる隙を作るために。
「さよなら」
瞬間移動を用いた悟空が出現するであろう箇所を予測し、的確に掌を翳していた。
(勝った)
大地が震え、魔光が悟空を妖しく照らす。
迸る気の奔流が空間を染めて、破壊の光が轟々とした咆哮と共に弾ける。
防御力を意図的に下げている悟空に、直接受けるという選択肢は潰えている。
時間を掛けて溜めたかめはめ波で相殺したとして、膨大な気力を集中させた一撃を無駄打ちした事になる。
もう一度、それと同等以上の攻撃を溜める前に、界王拳のタイムリミットが訪れる。
そろそろ肉体にも激痛が走る頃合い。
悟飯にはまだ体力も残され、仮にスーパーサイヤ人2を解除されても、戦闘を継続できる。
勝敗は決したのだと、確信した。
時間を掛けて溜めたかめはめ波で相殺したとして、膨大な気力を集中させた一撃を無駄打ちした事になる。
もう一度、それと同等以上の攻撃を溜める前に、界王拳のタイムリミットが訪れる。
そろそろ肉体にも激痛が走る頃合い。
悟飯にはまだ体力も残され、仮にスーパーサイヤ人2を解除されても、戦闘を継続できる。
勝敗は決したのだと、確信した。
(ああ、でも……)
勝利を目前にした高揚感は最高潮に達しながら、寂しさを感じていた。
燃え盛る炎が高い火柱を上げながら、燃やす薪を全て炭に変えてしまい、後はただ萎んでいき消滅するのを待つだけのような、そんな悲痛さを覚えたのだ。
何故だか、終わりにしたくなかった。
まだまだこれからだというのに、もっと殺して全員をドラゴンボールで蘇生しなくてはいけないのに。
燃え盛る炎が高い火柱を上げながら、燃やす薪を全て炭に変えてしまい、後はただ萎んでいき消滅するのを待つだけのような、そんな悲痛さを覚えたのだ。
何故だか、終わりにしたくなかった。
まだまだこれからだというのに、もっと殺して全員をドラゴンボールで蘇生しなくてはいけないのに。
(つまらないな)
心の何処かで、この楽しい時間を終わらせるのが、自分が勝利してしまうことが嫌だと、拒絶する悟飯がいる。
「いやだよ……お父さんを、殺すなんて……」
心の声を口にしてしまう程に、こんな結末を迎えることへ激しい忌避を抱く。
「──────めぇぇぇッッ!!」
信じがたい光景が現出した。
「おとうさ…………!!?」
逆さまの姿勢、倒立のまま、一つの人影が前進してくる。
その両の掌には、青く脈動し輝く光球。
悟飯の放った気功波の表面を荒れる海面を滑るように進む。
その両の掌には、青く脈動し輝く光球。
悟飯の放った気功波の表面を荒れる海面を滑るように進む。
「波ァッッ!!!!」
雷鳴のような咆哮と共に、悟空が地に降り立つ。
その瞬間、放たれた輝きが、惨劇(かなしみ)を砕く。
その瞬間、放たれた輝きが、惨劇(かなしみ)を砕く。
(やっぱり、凄いや……お父さんは……)
閃光を前にして、悟飯の顔はとても穏やかだった。
雛見沢症候群の研究者がこの光景を見れば、とても驚愕することだろう。
L5+の発症者が見せる表情では、決してあり得ないと。
L5+の発症者が見せる表情では、決してあり得ないと。
もしも、悠久の雛見沢(とき)を繰り返す魔女が見ていたのであれば──月下に照らされた二人の少年少女の決闘を思い起こし、誇らしく言うのだろう。
これを人は奇跡と言うのよと、怨敵であり何よりも親愛の情を抱く、ただ一人の親友に語り掛けるように。
これを人は奇跡と言うのよと、怨敵であり何よりも親愛の情を抱く、ただ一人の親友に語り掛けるように。
■■■■■■
(悟空氏はここまで考えていたのでしょうかー)
悟空は結果として悟飯を殺さずに制圧してみせた。
完全な正気を失いながら暴れ狂う悟飯を、ただ一人の犠牲者も出さずに。
もしも、この場にいる全員が総動員して悟飯の排除を行えば、絶対に死亡者が出ていた。
体力を回復させ、自らフェアな戦いを申し出て、悟飯を不必要に追い込むことを決してせずに。
だからこそ、悟飯は周りにいた無惨達や、悟空が守るカルデアを狙うというダーティな手段も取れたというのに、そうはしなかった。
体力を回復させ、自らフェアな戦いを申し出て、悟飯を不必要に追い込むことを決してせずに。
だからこそ、悟飯は周りにいた無惨達や、悟空が守るカルデアを狙うというダーティな手段も取れたというのに、そうはしなかった。
命を奪い合う。血塗られた殺し合いを。
悟空は試合へと変えた。
悟空は試合へと変えた。
魔女のような誰かが仕組んだ惨劇を、悟空という戦士の強さが覆したのだ。
全てを考えて念密な計画を練っていたのだろうか、それともただの偶然だったのか。
プロフェッサーの頭脳を以てしても、その思考を予測する事はできない。
「キャプテンの目に、狂いはありませんでしたねー」
そして、考えるのをやめて、ふっとプロフェッサーは顔を綻ばせる。
何度も多用できない切札のスーパーサイヤ人を切ったとはいえ、悟飯を相手にしたのだからこの戦果はベストだ。
悟飯の調査を行い、もしも彼を完全に正気に戻せたのなら、最強の戦力が二人、対主催につく事になる。
悟飯の調査を行い、もしも彼を完全に正気に戻せたのなら、最強の戦力が二人、対主催につく事になる。
嬉しそうにプロフェッサーは、これからのタスクを整理し始めた。
「殺せ、殺してしまえ。孫悟空」
カメラのマイクを通して、鬼舞辻無惨の声がカルデア内に届くまでは。