コンペロリショタバトルロワイアル@ ウィキ

痛くないフリをして、でたらめに笑う

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身を焼く蒼炎の輝きに、悟飯は痛みよりも心地の良さを覚えていた。
全身の力を奪い去り、凄まじい疲労感に浸りながら、自身の敗北を確信する。
それが、非常に喜ばしく安堵していたのだった。

(やっぱり……お父さんは強いや)

本気になれば、誰も自分には適わない。自他共に認める最強の驕りを、悟空は完膚なきまでに打ち砕いてくれた。
この島に呼ばれて、シュライバーとの戦いから、ずっと視線の刃に刺され続けた。
言ってほしかった。いっそ、自分が怖いならそう言ってくれれば、まだ楽だった。
けれど、初めて気付いた事だが、悟飯の持つ力は普通の人間には強大過ぎた。
失礼ながらも、自分には太刀打ちできないと思っていたヤムチャですら、本来は人類全体の脅威になりかねない程の力を持つ。
美柑達にとって、悟飯は意志を持つ核爆弾のようなもの。
しかも、雷管が剥きだしていつ爆発するかも分からない。扱いには慎重を期する。

母親のチチはまだしも、ブルマのような非力な女性があんな強気な態度で自分やZ戦士(みんな)と関わり合いになれたのは、
今ならばブルマという女性の心が強く、また強固な信頼関係を築き上げたからだとはっきり分かる。

まるで、別の生き物を見るような目で、怯える美柑に対して申し訳なさが最初はあった。
だが徐々に鬱陶しさを覚え、気付けば憎悪と恐怖に変わったのだ。
セルのようなひたすらに悪いだけの人物であれば、力づくで捻じ伏せれば良く、セルも分かりやすく襲って来てくれるから、まだやりやすかった。
美柑達は弱いからこそ、毒を仕込んだり騙したり……やり方が汚くて、予想がつかない。
それが怖かった。

信用できると思った悟空も、先回りされ騙されているのかもしれないとすら思った。
それどころか、もしかしたら悟空が黒幕かもしれないと、本気で思い込んでしまった。

だから、殺そうと思った。

拳を交え、戦いを繰り広げて、そんな疑念は消えていく。
楽しかった。イリヤの時のような殺し合いではなく、純粋な力の競い合いが楽しい。

ドサ、と音を立てて背中から倒れ込む。

完全な敗北だが胸が空く思いだった。

悟空は終ぞ、自分を殺す事はしなかった。
自分を見下ろす表情は、朗らかなものだった。
激しく息を荒げながら、思いっきりスポーツをやって爽やかな汗を流したように、明るい笑みだ。

もう一度だけ、この人を信じられるかもしれない。

何故だか分からないけれど、理屈ではない感情がそう叫ぶ。
不思議だ。どんなことがあっても、悟空ならばどうにかしてくれる。
そうだ……思い返せば、いつだってそうだった。
サイヤ人に追い詰められて、絶体絶命の時も。
ギニュー特戦隊との戦いで、ベジータがリタイアして打つ手がなかった時も。
フリーザが真の力を解放して、誰も太刀打ちできなかった時だって。

いつだって、どんな絶望も悟空なら何とかしてくれた。そんな気持ちにさせてくれたからこそ、父親を誰よりも敬愛していたのだから。

何故、こんなことを忘れていたのだろう。

ああ……本当に、自分は馬鹿だなと思った。

お父さんに全て話そう。そして、目の前で死なせてしまった美柑さん達の事だって……しっかりと、向き合おう。
のび太さんを死なせた事も、こんな方法で生き返らせて彼が喜ぶ筈がないのだから。

「おと……さ──────」

だが、裏切りというのはいつだって唐突で、また心を許した隙を目ざとく突いてくる。
倒れた悟飯の脇腹を、鋸のように刃を生やした鞭のような触手が切り裂いたのだ。
灼熱感を伴う激痛と、血が噴き出る喪失感。
信頼の光を灯しかけた悟飯の瞳に、再び暗雲が立ち込めた。


■■■■■■


「邪魔をするな。孫悟空」

仕留めそこなった。
無惨が振るった刃の腕は、悟空の強靭な手に掴まれる。
悟飯を屠るべく放ったそれは、腹を切ったが感触は浅い。殺しきれてはいない。

「ドラゴンボールとやらで生き返れるのだろう?」

悟空が口を開く前に、無惨が先んじて口を開いた。
堪忍袋の緒が切れたのだ。果たしてこれが何度目の断裂であるか、それが物質であれば緒どころか、袋そのものがズタズタに引き裂かれているであろう激怒を無惨は隠しもしない。
静かな声ではあるが、乗せられた重圧は歴戦の戦士であっても畏怖する。
悟空でなければ、掴んだ手を放していただろう。

「言っていたな? 奴が、孫悟飯がドラゴンボールで死んだ者達を蘇生させると」

狂った悟飯が述べたことを鵜呑みにする無惨ではない。
しかし、悟空はただの威圧やましてや力づくで、従う手合いではない。
ならば理詰めで説き伏せようと、無数の頭脳が情報を統合して言葉を紡ぐ。

「貴様とネモがカルデアとやらで、呑気に首輪(じかん)を解析(ろうひ)していた理由が分かった」

眉唾な話ではあるが、これまでの状況証拠を集めたことで、無惨の中では高い信憑性を得ていた。
ネモは夢想を信じる稚拙な倅では断じてない。マーダーと判明した神戸しおを連れるなど、理解に苦しむ甘さはあれど、賛同はしないが人の情としては無惨も理解できる範疇だ。
モチノキデパートでの邂逅から、一定の情報を共有していたが、首輪を外す道筋を徹底して組み立てていたのも知っている。

「貴様らは、ドラゴンボールで犠牲者の帳尻を合わせようとしている」

生き返る前提であれば、無理に救う必要性はない。
無惨にとって腹立たしいのは、切り捨てる対象に無惨を含んでいた事ではあるが。
そこはいい。怒りを飲み込み。今は、敢えて触れない。

「正しい考えだ。認めてやろう。
 私を爪弾きにする魂胆は業複だが……構わぬ。だが、例外を作るな」

そう、正しい。
いくら理想をたれようと、首輪を外し乃亜を倒す手段がなければ、いずれ全員が死んでしまう。
無惨をものともしない悟飯の強さ、またそれを返り討ちにした悟空という最大戦力を保持したうえで、ネモが首輪を外せるのであれば、それが乃亜に辿り着く最短ルート。
ネモと悟空の立てた方針とプランは正しい。けれども、それ故に。

「孫悟飯は生かすに値せぬ」

首輪を外せる唯一の光明を、不意にしかねない特大級の爆弾を抱えることが無惨には認められない。

「いつ、何がきっかけで牙を剥くか分からぬ狂犬だぞ?
 貴様が常にこいつを止められるとでも?」

全ての命を等しく扱うのなら、自分の息子であっても同様に扱え。
無惨にはそれを言う権利があると、本気で考えていた。
一度、全ての命を犠牲にすると覚悟を決めた以上、息子だけは例外等と無惨が認められる筈がない。

「気付かないとでも思ったか? 界王拳という技を使ってから、貴様の体は反動で弱体化している」

悟空がそれでも拒むのであれば、無惨に為す術はないが。
その我儘とエゴを通す力が、悟空からは失われつつあることも見抜いていた。

「何故、今の斬撃を防ぎきれなかった? それは体が自由に動かないからだろう。
 次があれば、貴様が勝つ保証など何処にもないではないか」

まだ、先の攻撃を防ぎきれるのであれば、悟空の強さは担保されていた。
しかし、不意打ちとはいえ悟空は反応に遅れ、悟飯は引き裂かれたのだ。
もし二度目が起きた時、今度こそ悟空が悟飯を止められる保証はない。

「……それとも、自分の息子だからと区別をする気か?
 ふざけるな。何人、死んだと思っている。
 貴様、神にでもなったつもりか。ドラゴンボールとやらで、命すら自在に操り、死をも超越したとでも?」

無惨は憤り、眉間に皺を寄せた。
思い返せば、つくづく自分を虚仮にしてくれたものだ。
ネモはドラゴンボールについて、一切話さなかった。
無惨が情報で劣るのを良い事に、都合よく使い捨て切り捨てることを画策していたのだ、と無惨は思い込んでいる。
今すぐにでも、カルデア内のネモの顔面を叩き潰してやりたいところだが、それをしないのはまだ利用価値があるからだ。

「殺せ、殺してしまえ。孫悟空」

ギシ、と悟空の五指が軋んだ。膨張する鋼のような筋肉が、表皮に青筋を浮かべながら押し上げている。
人ならざる異形の暴力という理不尽が、一振りの腕に込められていた。

「分かった。お前の言いてえことはそこそこ分かった」

悟空は頷いた。

「悟飯も治療はするが、傷は回復させねえ。それならいいだろ?」

向こうにとって、悟飯は理由も分からず襲ってきた狂犬だ。
無惨に止めを刺さない理由はない。
そこまでは、悟空も納得する。

「お前の与えたダメージで、まともには動けねえからな。
 もし、また襲ってきたらオラとお前と……それにリルとルサルカの四人で止めりゃ、大丈夫だろ」

無惨は怪訝そうに、眦を吊り上げる。

「乃亜を倒すには、悟飯の力が必要かもしれねえ」

悟空も何故、悟飯があのような凶行に走ったのかを理解していない。
無惨のように、殺してからドラゴンボールで安全な状態で蘇生させるほうが危険はない、それは悟空も承知の上。

「オラの力は……乃亜に完全に制御されてんだ。そいつは、オラの手の内が全てバレているってことだ。
 このまま、あいつを倒しに行っても対策されてると思う」

この戦い、悟空が勝利こそしたが、制限を破り乃亜の想定を上回ったのは悟飯である。
対して悟空は、乃亜の制限に囚われたままだ。
乃亜とて反逆の可能性を考えて、悟空への対抗手段を握っているだろう。
負けるつもりはないが、このまま首輪を外して戦いを挑んでも、悟空の勝ち目は薄いと考えていた。
少なくとも乃亜は一度悟空を無力化させ、この島に拉致しているのだ。

やはり、乃亜の想像を超える逆転の一手を用意したい。

悟空は強い。自他共に認める、この島では最強の実力者だ。
だが、明確な上限がある。スーパーサイヤ人4という規格外の力を有してはいるものの、現状はそれが限界である。
自分を何もさせないまま拉致して、殺し合いに放り込むような力を持つ乃亜。
悟空が制限を解いて戦いを挑んだとして、とても素直に勝たせてくれるような相手ではないだろう。
スーパーサイヤ人4をも完封する手段を有していると考えていいはずだ。

そこへ、悟飯と拳をかわし、悟空は確信した。

セルを圧倒し、きっかけさえあれば鈍りきって弱体化しながらも、悟空の数年間の鍛錬を追い抜き、魔人ブウすら歯牙にもかけない。
あの最強の潜在能力は、未だ健在、それを悟空は身をもって実感した。
乃亜への切り札になりうる、スーパーサイヤ人4を超えるかもしれない力を悟飯は秘めている。

「だ……だが、……悟飯の奴は……あ……あいつのハンデを破りやがった……!
 間違いねえ……やっぱ、悟飯の潜在能力はぶっちぎりで最強だ……」

悟空は、抑えきれない獰猛な笑みを浮かべて、無惨を見つめる。
その期待は自分をも上回るかもしれない者の誕生を願っているものだ。
それを理解した時、癇癪が服を着て歩いているような無惨から、怒りという感情が消失する。

(この男……)

強さを求める者は存在する。鬼狩り共はその最たる例だ。
無惨を殺すために、無駄な努力を重ね日々を研鑽に捧げ、大半は食われて無駄死にを繰り返す異常者ども。
身の程を弁えず何故、あるべき明日を進まず、過去に囚われ復讐に走るのか。
家族が愛人が友が殺されたのなら、また作ればいい。
絶対に勝てない災害を相手にしていることと何ら変わりない。
だが、面倒ではあるが無惨は人の姿をしている。形のない災害とは違い、憎しみをぶつけやすい的になるのは分からなくもない。
また、上弦の鬼も存在価値は強さだ。特に参の猗窩座は上昇傾向が強い。
けれども、彼らは決して自分より上の存在を欲しているわけではない。
鬼狩りは無惨を殺す為、上弦の鬼も自らの立場を確立する為に。
手段として強さを欲している。
少なくとも、もしも自分を遥かに凌駕するかもしれない強者と対峙した時、先に驚嘆と恐怖が襲い掛かるだろう。
だが、この男は笑っていた。喜悦に満ちた狂気の笑顔で。

「乃亜を倒すために、悟飯の潜在能力に賭ける価値はある」

「ふざけるな」

この男は異常者だ。

こめかみに青筋を浮かべ、無惨の腕が華奢な子供の物から数倍にまで膨れ上がる。
丸太のように膨張した腕は、子供の頭など軽く圧し折り引き千切ってしまいそうだ。
悟空は微動だにせず、ただ掴んだ刃の触手に握力を込める。
両者の殺意と敵意が跳ね上がり、視線が衝突した。


(そもそもが────)


あれだけの力を有しながら、それを凌駕する者の出現を何故喜べる?
悟空は自分を脅かす存在の台頭を恐れていないのか?
無惨であれば、やはり殺す。
その潜在能力を認めた時点で確実に本人はおろか一族郎党、孫親子の存在を知った今、飼い犬に猫、家畜まで念入りに根絶やしにするに違いない。
ましてや、何を理由に暴れ出すか分からない。
しかも雷管が剥き出しなのは知っているが、何が雷管かは分からず、迂闊に触れようものなら、すぐに起爆する爆弾のような男を生かすなど考えたくもない。
何を悟飯に期待しているかは知らないが、悟空さえ残ればそれでいいではないか。


(貴様らのような化け物が、二人もいることが私には耐えらない)


こんな連中が一人でも嫌で仕方ないのに、二人いることが最早理不尽だった。
願わくば、殺し合いが終わったのと同時に早く死んで欲しい。
悟飯など要らない。悟空を残して、悟空も乃亜と共倒れして欲しい。
神と仏がいるのであれば、この時だけは祈りを捧げてやってもよかった。

(──────お前達は存在していてはいけない生き物だ)

お願いだから死ね。死んでくれ。今すぐに、シュライバーと魔神王も乃亜も一緒に全員死んでくれ。

『悟空君!! 戻ってきて!!! メリュジーヌが────ッッ!!!』

二者の対立を一気に瓦解させたのは、ルサルカの念話での一声であった。
メリュジーヌという名に覚えがある。悟空が沙都子と邂逅した時に同行していた少女だ。
後にネモから、シカマルという少年が襲われたと聞かされ、友好対象から警戒対象へと変わった。
沙都子がマーダーらしきことも、またシカマルの情報をネモを通じて入手している。
悟空はさほど驚きもせず、嫌な懸念が現実になったことを嘆いていた。

「仕方ねえ……リル、あと頼む!! マリーン達もな!! もし、ヤバくなったら呼んでくれ!!」

悟飯は再起不能だ。
無惨の追い打ちもあり、小恋が回復させなければしばらくは立ち上がれない。
マリーン達に応急処置を任せつつ、龍亞としおはリルに任せれば、この場は何とか収めてくれるだろう。
あとは……カルデア内に現れたらしいメリュジーヌへの対処だ。
気の感知を巡らせてみれば、確かに力強い気配がある。沙都子と会った時は気を探れなかったが、何かのカラクリで気を消していたのだろうか。
とにかく、一旦瞬間移動でカルデア内に戻る。この距離ならギリギリで使用できるのは実証済みだ。
ルサルカの気はエイヴィヒカイトによる魂の蒐集により、複数の気が混ざり合った気色の悪いものであった。
だが、その特異性から気を辿り転移する瞬間移動の座標固定には利用しやすい。
ルサルカもそれは承知の上で、悟空が辿りやすいように魔力を上昇させてくれてもいる。

「悪い、無惨! お前も一緒に来てくれ!!」

揉めている無惨をこの場に放置するわけにもいかず、悟空は逡巡して一緒に連れていく事にした。
幸い、それなりに強いので簡単に死ぬことはない。戦力として期待もできる。
悟飯の事については、あとでじっくり話し合うとして、一先ずはメリュジーヌの処理を無惨にも手伝ってもらう。

「きさ────────」

無惨が怪訝に口を開く前に、悟空は指を額に当てた。
言い終わる前に二人の姿が世界から消失する。


「あり……?」


再び、悟空と無惨が三次元に帰還したのは、龍亞としおの背後であった。
振り返る龍亞達と悟空達が目を見合わせて、全員が困惑に包まれる。

「ど……どうしたの?」

「……こ……こいつは……」

不安そうに見つめる龍亞に悟空は何も言えないまま俯く。
瞬間移動の検証は事前にしっかり重ねていた。
リルとルサルカの戦闘力では対処する相手に限界があるので、悟空が彼女達が分断されている時に素早く往復できるように。
また、ネモの首輪解析を邪魔させないためにも。

(乃亜が急にハンデを重くしやがったのか? いや、そうじゃねえ……)

真っ先に疑うのは乃亜の介入だが、感覚的にハンデが変化したものではない。

「猿野郎、お前の霊圧……安定してねえぞ」

異変に一早く気付いたのはリルだ。
悟空から感じられる霊圧が、上昇と下降を繰り返している。
的確に制御され、戦闘力を意図的に操作しているのではなく、意思を持ったように、霊圧が勝手に変動しているのだ。

(気のコントロールがきかねえ……!?)

そして悟空も異常が起こったのは首輪ではなく、自身の体にあると結論を出した。

(やべえぞ……念話も聞こえなくなっちまったし……)

気を練り上げ放出する穴があるとすれば、そこに蓋をされたような異物感。
瞬間移動の座標固定も安定せず、使い物にならない。
体を巡る気の操作が不安定になっていた。


(か……界王拳の反動か? だけど……そ……それだけじゃねえ……)


遅発性乱気症という病がある。

出鱈目な気の使い方をすることで、後日、気の操作に支障を及ぼす。
別世界線の悟空が、宇宙一の殺し屋との戦いで、蒼神のスーパーサイヤ人と界王拳の併用を発動した後に発症したことのある病だった。
界王曰く、気の筋肉痛とも例えられる。
悟空は乃亜の施した制限下による特異な状況下での、スーパーサイヤ人と界王拳の併用による負担をかけた。
これが発症のトリガーとなる。
しかも、本来は数日後に発症する病なのだが、併用が不可能である二つの力を特殊な環境を利用して、無理やり変身した事で肉体にさらなる負荷がかかり、発症をより早めてしまったのである。


「しお……ッ!!?」


この時、鬼の始祖も滅却師も百戦錬磨のスーパーサイヤ人ですら、全員が動揺した。
勝手に瞬間移動に巻き込まれた挙句、何故か龍亞達の背後に移動させられた無惨は意図が全く掴めず。
リルはカルデアに異常事態が起きているのを察し、注意が散漫になっていた。
悟空は初めて経験する未知の病に焦燥を抱き、僅かではあるが周りが見えなくなる。

その隙は実に1秒。

しおが龍亞の横から、駆け出していく。
龍亞が伸ばした手は、しおには触れることなく虚空を切る。

龍亞の叫びで、全員の視線がしおに向けられた時、彼女は悟空の懐に体当たりのように飛び込む。
懐いている兄に甘えるような幼女の姿にも見えた。

(あのこ……悟空お兄ちゃんと、なかいいのかなぁ……)

寂しかったから、ぎゅっとしたいのかな。小恋は名前も知らない女の子に、良かったねと心の中でささやかな祝福を送る。
だけど……あの悟飯という子が斬られている時に、そんなことをしている場合なのかなと、小恋は首をかしげる。

「小娘……!!」

無論、小恋を除いて、決してそんなことはありえないと誰もが理解する。
無惨が腕を振り下ろす。棘を生やし殺傷力を高めた鈍器の腕は、しおの小さな頭を潰すには過剰すぎる。
しかし、無惨は誤らない。たった一秒にも満たない時間で、神戸しおという少女の脅威が跳ね上がったのを察知した。

「う、ッ……ぐ、ぎゃあああああああああああああああああああああ!!!!」

悟空の背を削られるかのような鋭い激痛が走った。
人間の背中を採掘に使うドリルを押しあてたとでもいうような焼けるような痛み。
表皮を抉り取られ、肉を擦り下ろされるような感覚。
辛うじて骨と重要な神経まで達していないのは、修行により鍛え上げた肉体そのものの強度の賜物であった。
その腕の中で、しおは無傷で生存していた。

「ありがとう……師匠(せんせい)」

その声は親愛に満ちている。
とても演技とは思えない感情を乗せた声色。

しおを庇った悟空の顔も、本人の善良さというよりも、とても大切な身内を守ろうとする切迫した形相をしている。
そして、しおも悟空を師匠と呼び慕っていた。長年の師弟関係を思わせる口ぶりだ。
無惨は苛立ちを募らせながら、確信を持つ。

「貴様ッ……!!!」

ブック・オブ・ジエンド。
悟飯との交戦時、緊迫した状況の中で誰もがそんな小さな破片を気に掛ける暇などなく。
飛び散った微細な破片が、何処に落下したか数えるような物好きは早々いない。
だから、あの場面では誰も気付けなかった。
悟飯が砕いた飛散した破片を、しおが回収していたことに。

(……すごいな。この剣)

刃の破片は、しおを導くように銀色に煌めく。

しおは、無惨が何の説明もなく、ぴょんぴょんワープくんDXを起動させたことから、違和感を覚えていた。
しかも、あのネモですら修理に匙を投げてしまうような機械をだ。

使えるかもしれないと、しおは思った。
物を直すだけの力ではないかもしれない。
切った物に合わせて、何か効果が得られるのは確かだ。

無機物以外にも効果があるのか、重大な副作用はないだろうか。
そんなこと、考えもしなかったし、しおにはどうでもよかった。
優勝して、松坂さとうとの愛を取り戻せれば怖いものなんてない。

そして、使うとすれば、やはり悟空か悟飯にしようと決めていた。
無惨は悟飯を切ろうと試みていたし、高いリスクに見合ったリターンを使い手に与えてくれるのだろう。
しおなりの根拠はあるものの、割合は勘に偏った運任せの一手。
だが、全ての武器を取り上げられ、現状生かさず殺さずのしおに時間はない。
ネモと悟空は超えなくてはならない敵。放っておけば、必ず殺し合いを破綻させる。
背後に悟空が現れた時に、しおは決断した。
ここで命を落としても構わない。彼女の短い人生の中で、最大の博打を仕掛けることを。
この瞬間こそが、自分に恵まれた最後にして最高の好機であると信じて。

「ぐ、ぁッ……!!」

自分を庇った“師匠“を突き飛ばして、苦悶の声をあげる悟空を冷たく見下ろす。
情がないと言えば嘘になる。なにせ、魔人ブウを倒した後、ウーブという少年と一緒に修行をつけてもらった大切な師匠だ。
母親に捨てられたしおを悟空が引き取って、武道の道を示してくれた事には感謝しているし、返しきれないだけの恩がある恩人に違いない。

そういうことになっていた。

相手の過去に自分を介入させてしまう能力。
しおも使ってみて、初めてそれを理解した。

「ごめんね」

頬を涙で濡らす。
とても悲しかった。
自分を庇ってくれる師匠を、これから殺さなくてはいけないことに瞳を潤わせる。
家族同然に過ごしてきた、きっとこういう人が世間ではお父さんと呼ばれるのかもしれない。
けれども、もっと大切な人がいる。
そんな、優しい師匠を殺めてでも、絶対に守らなくてはいけない人がいる。
だから、ありがたい能力だとしおは思った。
さとうを守るために、二人の愛を成就させて永遠に昇華させるために。
他人の愛を利用し尽くす力を与えてくれたことに。

さとうを守るためなら、どんな事だってやってみせる。


「────ッ!!? マジかよ……!!」


神聖滅矢を避けられた。
小さい的へ更に被弾確立を上げるために胴を狙った一撃だったが、しおは難なく身を後ろに反らして光矢は空を切って消失する。
矢を見て、避けたのだ。死神代行でも滅却師でもない、ただの人間の少女が。
ありえない、と数日前のリルならば驚嘆していたが、彼女もまたあの完現術を詳細は知らないまでも目撃している。
過去を挟む。
涅マユリと月島秀九郎の会話を想起して、それが切りつけた物への過去改変であることは理解していた。
しかし、リルの想像以上だ。あれは悟空の元で、修練を重ねた戦士の身のこなしである。
リルを上回りはしない。無惨やルサルカであっても負けることはありえない。
護廷十三隊の階級で高く見積れば席官クラスといったところ。
強さで言えば、決して脅威ではない。
それでも、すぐに殺されないだけの強さはある。

次弾を放つべく弓を引くリルの前から、しおが消えた。

「あの馬鹿、厄介な技教えやがって……!!!」

挟まれた過去でどんな修行をしたのか定かではないが、悟空は手塩にかけて育成したようだ。
戦う術の他に、瞬間移動まで伝授したらしい。

(師匠、か。
 上手く考えて挟みやがったな。
 ……ああ、あの猿野郎なら上手い事、死なないように鍛えるよな)

荒事の才能がないであろうしおに、最低限の自衛手段を叩き込み、その上で生存力を跳ね上げるのであれば、瞬間移動は最適だ。
しおの生存率を高めるための、緊急避難手段として考慮したのだろう。
弟子思いの師匠にリルは眩暈すら覚えそうだった。

(どこだ……カルデアか? ……)

首輪の解析を妨害するのなら、ネモの方だ。
ルサルカが悟空の救援を迎えるために霊圧を高めている。
だが、何処からも霊圧が探知できない。
気配を上手く消しているようだ。これも、悟空から学んだ気功術の一種か。

「あの……メスガキッ!!」

そしてリルの視線の先、しおを見付けた時、傍らには血を流して倒れ伏す孫悟飯を認める。
そうか、とリルは得心がいった。
悟飯に過去を挟み傀儡にして、優勝まで駒を進める腹積もりだ。
霊圧を引き上げ、リルは矢の殺傷力と自身の速度を上乗せさせる。
石田家が飛廉脚と呼称する高速走法を用いて、速攻で肉薄、しおと場合によっては悟飯諸共殺す。
悟空に文句は言わせない。
ブックオブ・ジ・エンドの効力は絶大過ぎる。
十数秒まで、龍亞や下手をすれば小恋のような子供にすら負けるかもしれないような幼女を、星十字騎士団の滅却師から数撃は凌げる戦士へと瞬く間に変貌させた。
あの悟空ですら、咄嗟の場面で庇うほどに情に絆されている。
この場で、悟飯を生かすリスクとリターンは前者に傾いていた。

「助けて! ソニック・ウォリアー君!!」

リルの脇腹に何者かの蹴りが突き刺さる。
然したる痛手はなく、掠り傷もないがその一瞬は大きな分け目であった。
しおが手にしていたカードから呼び出された鮮緑の甲冑を纏う、機械の異形戦士。
ソニック・ウォリアーは萩色の眼光を輝かせ、しおを守る騎士のようにリルの前に佇む。

神戸しおの傍にずっといてくれたデュエルモンスターズカードだった。
彼女は、あまりこのカードゲームが好きではなかったけれど、この子だけは血の繋がった家族のような存在だ。
悪魔のような実の父親と家庭内暴力で擦り減り精神がおかしくなった母親の元にいた頃も、ソニック・ウォリアーがいたから耐えられた。
ゼオンが消し飛ぶ時に散らばった所持品の中に、これがあったのは不幸中の幸いだった。

「……ばいばい」

これもまた、使い方を理解するために過去を挟んで生じた記憶だ。
だけど、そんな大切なカードでも、目の前であっさりリルの矢に風穴を空けられ爆散しても。
涙を流しながら、やはりしおは冷酷なままだった。

「しゃらくせえ!!」

ますます厄介な力だ。使い手の発想と拡大解釈次第で、無尽蔵の活用法が生まれる。

「余計なことをッッッ──────するなああああァァァァァァッッ!!!!」

ゴォォォォという洞窟内を風が切るような不気味な風音を轟かせて、無惨の腹部が開口する。
夜ランプの闇夜の下、暗闇の帳の中で無惨の目が妖しく光る。
止めどない殺意の濁流が、憎悪と自らを守りたいという激しい生存欲求による恐怖という感情が。
無惨の内から吹き出るかのように溢れて、それらは疾風の雪崩のようにしおと悟飯を襲う。

「ッ……!!!」

並の戦士であれば対応は叶わず、何が起きたのかも分からないまま肉の塵に変えられる風の刃弾。

「チッ……俺ごとかッ!」

飛廉脚で肉薄したリルもその範囲内に含まれていた。
直撃すれば、静血装で強化した体でも深い痛手を負いかねない。
コンマ数秒の中でリルは離脱する。



「……、……!!? あの、ガキッ!!」


しおが笑っていた。
自分達を襲う殺意の暴風に吹かれながら、しおは確信めいた笑みでリルを見ている。
その横には、小恋がいた。
手を翳して悟飯を回復させようとチユチユの実の力を行使している。
恐らく、過去を挟まれて、しおを友人か何かだと認識させられているのだろう。
疑うこともなく、言われたままに悟飯を治そうとしている。
無惨を一瞥して、リルは舌打ちした。
あれが、余計な横槍さえ入れなければ……!!


「……ありがとう」


しおが礼を言った直後、爆風が吹き荒れた。
愛らしい顔とクルっとした癖毛が揺れる。
それらは呆気なく、赤い血飛沫へと変わった。


■■■■■■




『君に見張りなんて任せられない』

今だって、間違った事を言ったつもりはない。
強さも人間性としても、とてもじゃないがのび太さんに見張りを任せるなんて、無理だ。

『やめてよ、二人ともっ!!」
『そうや、ホンマこういうのはアカンで悟飯!!』

『………二人は』

なのに、また美柑さんとケルベロスは僕をあの目で見てきて、止めてくる。

『僕が間違ってるって言うんですか』
『ちゃう!そうやない!!でも今の悟飯はやりすぎって言うとるんや!!』
『そうだよ、こんなのおかしいよ!!』

どうして、こうやって毎回僕を邪魔してくるんだよ。

『…そうやって、またリップとニンフの時のような事を繰り返すの?』
『ニンフの事だけじゃない。リップだって……きっと生きたいってそう思ってたよ』

のび太さんは、知った風な口を聞いて、僕はニンフという人を殺す気はなかったんだ。
リップだって好き好んで殺したわけないだろ。
彼は知らないんだ。世界には、話し合いなど通じない奴がいるってことを。

『やめてぇッ!悟飯君、お願いだから!!』
『そうや悟飯、ちょっとおかしいでお前!頭冷やしてこい!』

まただ。また、こうやってのび太さんを庇う。


『やめてよ』


……………………この三人には、ずっと辟易させられる。
もう……いい加減、何処かで……あとで、ドラゴンボールで生き返らせればそれでいいでしょ。



『イリヤちゃんの言う通りだよ。
 悟飯君、ずっと頑張ってるんだよ? どうして、みんな分かってあげないの』


そこまで考えて、まだ僕が耐えきれていたのは、しおさんがいてくれたから。
彼女がいなかったら僕は……きっと何処かで挫けていた。


『のび太くんが、悟飯くんに伝えたいことがあるんだって』


しおさんがいてくれたから、のび太さんと少しだけ分かり合えたんだ。

海馬コーポレーションの時だってそうだ。


『悟飯くん、私は絶対にいなくならないよ』


ドロテアとモクバのせいで何も信じられなくなった僕に……ずっと、しおさんだけは寄り添おうとしていてくれた。

それでも、僕は……のび太さんを殺してしまって、自暴自棄になって……美柑さんまで誰かに殺されて……日番谷が逃げて、ドロテア達もイリヤも、誰もいなくなってから。

『悟飯くんは、正しい事の為に力を使える人だって、私信じてるから』

全員、殺してしまおうと思った僕を最後まで止めてくれたのは、やっぱりしおさんだったんだ。

『だって……悟飯くんは私にとっての救世主(ヒーロー)だもん』

全部、何もかも……しおさんがいてくれたから、僕はやってこれたんだ。



「…………、ッ!!!?」


お父さんとの戦いに負けた後、あの体を変形させる奴が僕を襲ってきた。
お腹を斬られたはずだけど、治っていた。
何が何だか分からず、凄い衝撃波が吹いてきた。
とにかく一旦気を高めて、防ぐ。
砂塵が吹き荒れて、何も見えない。
しおさんは? 大丈夫なのか。
これが晴れたら、とにかくしおさんを探そう。


「し、お……さん……?」


僕の支えになっていた大切な人は、今、空を飛んでいた。
鳥のように優雅に飛ぶわけでも、舞空術のように自在に舞うわけでもない、
空に打ち上げられていたんだ。
ゴミ箱に空き缶を投げて入れるみたいな、そんな軽い軌道を描いていた。
明かに、空中で自由の効かない不便な滞空。重力に引っ張られていくだけの落下である。

びしゃっ。

酷い音だった。個体が落ちた音じゃない。液体が零れたような、音だ。

ああ、これは人じゃないんだ。僕は最初、そう思った。
だって、こんな形をした人がいるはずがない。

これがあの、神戸しおさんのはずはないんだ。

…………あれ、しおさんは?

なんで、しおさんがいないんだ?

僕と一緒にいたはずなのに。


「…………ァ、ッ……、……………」


なんだ? あの、良く分からない落ちてきたものが声を出したんだ。
もの? ものじゃない。人だ。
僕は都合よく解釈していた認識を改める。最初から、気付いていたのに、目を背けていたそれに向き合う。

真っ赤に染まって、肉塊が飛んでいた。
大きなじゃがいもかなと僕は一瞬思った。
だけど、違う。これは人間だ。
全身がぐちゃぐちゃになって、赤黒い雑巾のようになっているけれど、人間だ。
息はあるようで、これは……多分胸だろうか、上下に膨らんで萎んでを繰り返す。
上に生えている首らしきものにくっついているのが顔……だろうか。

「し、お…………」

僕は膝から崩れ落ちた。

とても、人間の姿じゃない。

「ご……は、く……ん」

呼んでくる。僕の名前を、この時だけは聞きたくなったその声で。
喉に血が詰まったのか、痛みで呂律が回らないけど、頑張って声を出そうとする。

「…………よ、か……」

こんな時なのに、ただ生きているだけの肉塊になっているのに。
しおさんは、僕の事を心配していた。

それっきり、力尽きて彼女は何も話さなくなった。



■■■■■■



作戦なんて、なかった。

使えるかもしれないと思って、こっそり拾っておいた道具と。
偶然、不穏になった状況に直感的に体が動いた。

外がこんな騒ぎになっているのに、ネモは姿を見せない。
悟空の口ぶりから、カルデアという建物にいるのは間違いないのに。

きっと、首輪の解析を始めて離れられないのだろうと、しおは思った。

ネモは卑怯者じゃない。問題が起きたら、絶対に解決しにやってくる。
こちらの騒動に出向けない別の理由がある。
だから、あるとすれば、首輪の解析しかありえない。


『安心してください。君の得た首輪の情報は私が有効活用してあげますよ』


偽無惨が言っていた。
ネモは、首輪の情報を握っているのだと。
悟空と秘密の会話をしていたのも分かっていたので、しおの中で疑念は確信に変わる。
こんな状況でも、未だに姿を見せないのが何よりの証拠である。

だから、ここで手を打つしかなかった。

ネモに殺し合いを潰されたら、しおに縋る希望はない。
自分の命と引き換えに、全身をズタズタに引き裂かれる生き地獄という代償を払って、最期の賭けに出た。
妨害されたり、その気になった悟空が殺しに来ることもありえた。
どれだけの覚悟を決めようとも、所詮は子供の浅知恵だ。
上手くいくはずがないかもと、しおだって思わなかったわけじゃない。

運が良かっただけだ。

この世界線の悟空は破壊神と出会わず、遅発性乱気症を知らなかったから。
無惨とリルの連携さえ取れていれば。
近くにいた龍亞がブックオブ・ジ・エンドの破片に気付いていれば。
たまたま、運が良かったのだ。
しかし、運命はこの時だけはしおに味方してくれた。
最悪の両親と家庭環境に生まれて、破綻者と巡り合い狂った愛慕を植え付けられた彼女に。
運命は、より残酷に微笑んだのだった。


『私ね。さとちゃんを、元の世界に戻ったら助けてあげたいの……悟飯くんがピッコロさんを助けてあげようと、ナメック星に行ったみたいに』

『…………』

『お願い……悟飯くん、もし私が死んじゃったら……私のことはいいから……さとちゃんのこと、助けてあげて』


改変された偽りの記憶。

あるはずのない。交わされた事のない記憶の映像を、鮮明にしおは見つめていた。


「う……ァ、ァ……あ、ッ……!! ぅ、ァ……」


それは奇しくも悟飯も同じ。


『分かりました。絶対に……約束します。
 さとちゃんさんは、僕が助けます。そして、しおさんも……必ず生き返らせます』


捻じ曲げられた真実と、歪められた感情を支えに。


「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッ────────────────!!!!!」


虚構の救世主(メシア)が誕生した。



■■■■■■



(あのこ、いたそうだったもん)

思い出すのは、海馬コーポレーションで出会った体のない首だけの男の子。
話す事はなかったけど、とても痛そうで苦しそうだった。
小恋はそれを見た時、怖かったけれど、可哀想だなと思った。
そして、きっとこの場所はそういうことが起きてしまう場所なんだなと、幼いながらに理解した。

(みんな、こわいおもいなんて、したくないよ)

できることなら、そんな人はいなくなってほしい。
誰もが一度は思う子供の稚拙な理想論であり、そして遅かれ早かれ現実を知り妥協する。
しなかった者達は何かしらの力を与えられ、飛び抜けた才を持つ非凡な存在である。
幸か不幸か、小恋には与えられてしまった。

ぶらっくまじしゃんがーるのげんきをあげるまほう。

その実態はチユチユの実の能力。
他者を慈しみ癒す異能。

小恋という少女の善性には、これ以上なく相性のいい能力である。
良すぎてしまった。
できることが増えたが故に、浅い経験の中で見分けが付かない奈落の穴とも気付かず、小恋が足を進めてしまう程に。

『あぁ、またオラ達が怪我した時は治してくれっと助かるぞぉ』

怪我をしたら、また小恋が治すと約束だってした。
小さなささやかな約束を守るために、この力を使おう。
幼いが故に、目の前の怪我人を救うことに迷いはない。

(しおちゃんはともだちだもん……ごはんくんのことはよくわからないけど、まってて、すぐにいたいのとんでけーするからね!)

しおにとって都合のいい過去を挟まれ、小恋は何の迷いもなく悟飯を助ける。
友達が助けようとしている男の子を見捨てる理由はなかった。
何故か、リルと喧嘩をしているのは不思議だったけど、悟飯を治してから仲直りしてもらおう。
その後で悟空も治して、無惨とも仲直りすれば、これ以上、皆は痛い思いをしなくて済む。

「……ごはんくん、なおるよ!!」

みるみる内に傷口が塞がっていった。
よかった。そう思った矢先に、強風が吹いて体に凄い勢いで、何かがぶつかるような衝撃が響いた。

「おねえちゃ……」

小恋の顔に影が重なった。

「く、そ……、が……ッ」

急に抱っこをされたかと思えば、背中から赤い翼のように血を吹き出して倒れるリルがいた。
全てが一瞬のことで、小恋には理解できなかったが
リルの腕から滑るようにして落ちた小恋は、困惑しながら、また夥しい出血量に言葉を失った。

「…………まってて、たすけるから!!」

だが、それでも自分にできることを忘れずに、リルに手を翳す。
まだ10歳にも満たない子供としては、上出来すぎる判断だった。
それでも、血は一向に止まらない。ドクドクと雪崩のように、大量の血が流れてはアスファルトを赤く濡らす。
どうして、と小恋は思う。短い時間だが悟空と特訓して、回復のコツを掴んだ自覚があったのに。
能力は発動こそしているが、小恋の練度不足であった。
ある元王下七武海の大海賊は言った。常に、己の能力を研ぎ澄ませていると。
それは悪魔の実を食べ、能力を得ただけの能力者達を唾棄する発言だ。
つまるところ、能力とはただ身に着けただけでは真価を発揮しない。
現在の小恋の実力では、致命傷を負ったリルを救えるほどではない。

忘れてはならない。鬼舞辻無惨は怪物である。
それらを上回る悪鬼羅刹達がいくら跋扈していようとも、彼が人を超越した上位者であることは揺らがない。
狂乱の白騎士に格上との戦闘経験が欠けていると指摘された通り、無惨は一回限りの例外を除き、全ての食物連鎖の頂点に立つ者。
決して、無惨は弱者ではない。

その無惨が明確な殺意をもって振るった攻撃を、直接受けてしまえば、たとえ滅却師であろうともただでは済まされない。
霊的な存在に、物理的な干渉が可能となったこの島ではなおさらだ。

(むか……つく……が……、……基礎を、もっと高めとけば、よかったぜ……)

薄れる意識で、リルは癪に障るサングラスをかけた元同僚の男の顔を思い浮かべる。
完聖体を奪われたリルに比べ、滅却師の基礎能力を磨き続けたあの男の静血装であれば、ここまでの深手は負わなかっただろう。
もっとも、それは無惨の攻撃を受けるという結果ありきの比較。
本来であれば、リルは避けれていたのだ。
それにも拘らず、彼女は……ガラにもないことをした。
避けれたはずの攻撃を、静血装で強度を高めた生身の肉体で受けざるを得なく、自らを追い込んだのだから。

「…………、チッ……く、そぉ……!!」

その叫びは誰に対してか、クソったれなしおか、あっさりと過去を挟まれ利用された小恋か、計算外のアクシデントを引き起こした悟空か、他ならないリルを害した無惨か。

それとも、馬鹿な事をした自分にか。

「……はや、く………にげ……」

リルは重くなった瞼に抗えず、意識を手放した。
最後まで、自分の甘ったるさに反吐が出そうになりながら。



■■■■■■


「うぐゥゥゥゥッッ!!! おああああああああああああああああああああああああああああああァァァァッッッ!!!!」

絶叫が木霊する。無惨がその命を離散させまいと、必死に繋ぎとめる足掻きが叫びに現れていた。
鉄拳の連撃が一秒の間に数百以上叩き込まれる。心臓が4つ破裂し、脳が2つ弾けた。
人の形を保つ事はかなわず、悲鳴を上げるだけの肉の塊と化していた。


だから、だから言ったのだ。あれほど警告したのだと、無惨は死の恐怖に怯えながら心の中で怒りをぶちまける。

神戸しおなどさっさと殺しておけばいいものを。
孫悟飯など、生かしておくからこんなことになるのだ。

そして、最後にツケを支払う羽目になるのが、無惨になるのだ。

「ご、おおおおおぉぉぉぉぉッッ!!!」

全身に風穴が14箇所、骨が200以上砕け、血を吹き出しながら地べたを転がる。
アスファルトの粉と砂の微粒が血に張り付いて、傷口をさらに微細に広げていく。
それらを払う間もなく、光の雨が降り注ぐ。爆薬を投下したような上昇気流が巻き起こる。
全身は焼き爛れ、肉の底から白い骨が飛び出していた。
流れる血は蒸発して、皮と肉を焼きながら無惨は骨だけになった四肢で、無我夢中で這いずり回る。
なまじ、すぐに死ねないのが不幸だろう。悟飯にとって、その苛立ちをぶつけても壊れず、心が全く痛まない、優れたサンドバックなのだから。
決して首輪周りを傷付けないように、悟飯は拷問を継続していた。


「……、くっ……ぅ……う、……おぉぉ……!!」

焼けるような背の痛みに、悟空は顔を顰めさせる。

記憶の中に、しおがいた。
ウーブと出会った後に、母親と逸れたしおを拾って親代わりになって育てたという記憶。
そんな彼女が、殺し合いに乗っている現状を理解しながらも、死に掛けた時に悟空は庇ってしまった。

決意した筈だ。藤木の時と同様に、この先必要ならば手足を砕くと決めた。
マーダーとして、自分達の邪魔をさせる訳にも、また殺し合いに優勝できる見込みのないしおに無謀な真似をさせない為に。

作られた過去を挟みながらも、悟空という男は悟空のまま、合理的に物事を決意して決断した。
けれども、やはり人の親だったのだろう。あの咄嗟の場面では、全ての思考が吹き飛んで無惨からしおを庇ってしまった。
彼女が、殺し合いに乗っているのを知っていながら。

「…………だ、だめ……か……」

やはり、気が練れない。
スーパーサイヤ人は消失した。界王拳の紅蓮の鎧は纏えない。
それに対して、悟飯はやはり桁違いの潜在能力を発揮させ、またもや、スーパーサイヤ人へと変身していた。
悟空が地べたを這いながら、気を操るのにも苦労しているというのに。

「こ……こ、じゃ……治せねえかもな……!!」

この肉体の異常を回復させるほど、小恋は能力の扱いに慣れていない。
恐らくは、気のコントロールが戻る事はない。何より、回復させている時間もない。


「だ、が…………邪魔、させる……わけにゃ、いかねぇッ!!!」


ネモが首輪の解析を進めている。ここが正念場だ。
この機会を逃せば、乃亜を倒す道筋は完全に途絶えてしまう。
辛うじて、かき集めた体内の気を……それも殆どが搾りカスのようで、焼け石に水をかけるようなものだが、体内で燃焼させエネルギーに変換させる。
咆哮を轟かせ、悟空は悟飯へと突貫した。

止むを得ない。

悟飯を死なせたくなかった。
乃亜への切札として、彼の潜在能力を解放できれば、どれほど心強かったか。
殺し合いの開幕直後に、悟飯がスーパーサイヤ人2へと変身したのは気の上昇で察知しており、ハンデのインターバルも悟空と同じだろう。
だからこそ、こんなに軽々インターバルを踏み倒す悟飯の異常さと、将来性は悟空が誰よりも理解していた。
首輪の効力が弱まったのでは決してない。乃亜の想定を悟飯の力が超えている。
今でも思う。もしかしたら、もしかするかもしれないと……。
悟空のスーパーサイヤ人4すら習得して、セルゲームの頃のような圧倒的なパワーを引き出せるかもしれない。

自分を再び、超えるかもしれない。

だが、それを待つ猶予はない。

ここで悟飯を殺さなくては……ネモも、ここにいる全員が死ぬ。
それに、カルデアに現れたというメリュジーヌも何とかしなくてはならない。

狙うは首輪だ。スーパーサイヤ人の悟飯に戦いを挑んでも勝負にはならない。
癪に障るが、乃亜の用意した首輪を誤爆させ、悟飯を殺す。

「……宇宙最強のスーパーサイヤ人が、情けないですね」

悟空の指先が、首輪の数ミリ手前で止まる。

「ベジータさんを見習った方がいいかもしれませんよ。
 あの人なら、こんな卑怯な手は使いませんからね」

悟飯の手が腕を掴んでいた。

無惨が一度、悟飯を殺そうとして失敗した手段だ。
格下が格上を殺すのに、首輪を狙おうとするのは、この島では常套手段になっている。
だから悟飯もここだけは、常に気を張り詰めて警戒していた。

……こんなことも分からないのか。

失望と軽蔑が拭えなかった。

敬愛する父まで、卑怯な真似に走るのか。

さっきまでは、正々堂々戦っていたのにどうして?

なんで、あんな不意打ちを無惨にさせたんだ?

なんで、自分の恩人のしおがあんな目に合っているんだ。

なんで、悟空が急に殺意を持って殺しにくるんだ。

「……………分からない。分かりませんよ」

混濁する意識と記憶と正気と狂気の中で、悟飯は全ての認識が疑わしかった。

「もう一度……僕に勝ってくださいよ」

それは懇願だった。

最強と信じて疑わない偉大な父への、絶大な信頼から泣きついているのと同じだ。

「お父さんなら……できるじゃないですか!!」

涙を流しながら、今でもまだ自分を信じる息子に、悟空は何も言えなかった。
こんなはずじゃなかった。
スーパーサイヤ人と界王拳の併用にあんな落とし穴があるなど、想像もできなかった。
無惨という男が、あんなにも悟飯に怯えていたのも計算外だった。

何より、しおがこの場面で、大胆な一手に打って出たのも誤算であった。

(…………くそったれ……!!)

以前なら叶えられた願いも、今は叶える術を持たない。
忌々しく、心の中で悟空は舌打ちした。
顔面にめり込む鉄拳を避けることすら出来ず、悟空は吹き飛ばされていく。
そして悟飯は冷めた目で、それを淡々と見つめていた。


「ぐ、ッッ!!?」


悟飯の全身を衝撃が貫く。痛覚が刺激され、表情を歪ませながら後ずさっていく。
腕を顔の前に翳して、誰が攻撃を仕掛けたのかを悟飯は探ろうとする。
先程殴り飛ばした悟空か? いや、そんな気は残されていない。
界王拳の負荷による反動で悟空は気をコントロールできていない。
ならば、無惨か? しかし無惨が操る衝撃波とも異なる感覚。

「ッ! ぐ、ごぉッッ!!!?」

まただ。また何かが飛来してきた。
次ははっきりと聞こえた。銃声をさらに音量を引き上げたような爆発音と共に、何かが悟飯に向かって射出された。
そして、悟飯の動体視力を以てしてその砲撃は避けられない、絶対必中の一弾。

「か……亀……?」

もう一つ、悟飯の視界に新たな異物が入り込む。それは巨大な亀だった。
亀ハウスにいるウミガメをさらに若くして、体格も大きくしたような亀がいる。
異様なのは甲羅の上には黒光りした砲台が据え付けられており、その上に烏の特徴を持った人型の生物が膝をついていることだ。
次の瞬間、砲身が動き、悟飯に向けてゆっくりと照準を合わせる。
そして砲台が唸りを上げ、鳥人を砲弾のように撃ち出した。

放たれたそれは空中で光弾へと変化し、一直線に悟飯へと突き刺さる。

「ぐ、ォ……!!! おまえ、かぁぁぁ!!!」

怒声を吐き出しながら、悟飯はあれはモクバが操っていた使い魔と同じものだと確信する。
彼はその使い魔の主たる少年に、鋭い視線を向けた。
龍亞がデュエルディスクにセットされたカードを取り出しては、再びセットするのを繰り返す。
それに合わせるように、発射された鳥の生物が復活して、亀の砲台に装填される。

(やっぱり……効果ダメージなら、どれだけ硬くても通じるんだ!!)

デュエルディスクに展開されているカードは3枚。
モンスターを射出して、その攻撃力の半分のダメージを与える『カタパルト・タートル』。
もう一枚、クロウ・ホーガンが使用する『BF-精鋭のゼピュロス』と、伏せカードとして場に出しているの『くず鉄のかかし』。

『ゼピュロス』は墓地にいる場合、場にあるカードを手札に戻して特殊召喚するモンスター。
そして、『くず鉄のかかし』は発動後に場に再セットされるカード。

海馬コーポレーションで悟飯に襲われた直後から再使用不可状態であったとはいえ、『くず鉄のかかし』はその場にセットされ続けた状態である。
『ゼピュロス』のコストとして、使用することは可能だ。
そして、『ゼピュロス』は『カタパルト・タートル』の効果により、リリースされ射出。
使用不可(ぼちにいる)状態で、自身の効果で『くず鉄のかかし』を戻して再召喚、『カタパルト・タートル』の効果で射出。
再び『くず鉄のかかし』を伏せて、手札に戻して『ゼピュロス』の効果を発動し召喚、『カタパルトタートル』の効果で射出し、『くず鉄のかかし』を伏せて、『ゼピュロス』を特殊召喚して、『カタパルト・タートル』の効果で射出。

これを繰り返す無限ループ。

「いっけええええええええええ!!!」

そして、本来『ゼピュロス』の効果を使用するにはライフを削る必要があるが。
『ハネワタ』の効果により、効果によるダメージを0にしている。

しおが拾って使役した『ソニック・ウォリアー』の他に数枚、龍亞はゼオンの所持していたカードが散らばっていた事に気付いていた。
それは『ハネワタ』と『ゼピュロス』の2枚。
一見して、攻撃性のない『ハネワタ』と特異すぎる効果ゆえに、使い道の浮かばなかった『ゼピュロス』はゼオンとメリュジーヌにとってはその価値を見いだせなかったのだろう。
ランドセルの奥底に眠っていた。
だが、『カタパルト・タートル』を所持していた龍亞にとっては違う。

『ハネワタ』で『ゼピュロス』の効果ダメージをケアしながら、『ゼピュロス』のリソース回復能力により『カタパルト・タートル』の無限コンボに繋げられる。

理論上、命に限りがあるのなら誰であろうと殺し尽くす、最強のワンターンキルがここに完成した。

「ぐ、ああああああああああああああ!!!」

悟飯は『ゼピュロス』の砲弾を連続で浴びせられ続ける。
額から赤い滴りを流して、間違いなく体にダメージが蓄積しているようだった。
防御力を貫通した効果ダメージは、1個1個は微量であれど無限に繰り返す事で絶大なダメージ量を実現させる。
無限のリソース回復とダメージ蓄積に殺せないものはない。

「……ふ、フフ」

けれど、その体力が有限であれども限りなく無限に近いのであれば、いずれ殺せるとしても、そのいずれが来るのは永久にも等しい先のこと。
着実に削られていく自身の命を顧みながら、悟飯は不敵に笑っていく。
自分を殺しきる前に、あの龍亞という少年が力尽きる方が早い。そう強く確信していたからだ。

「もう十回以上は打ち込んでいるのに……!!」

サイヤ人と地球人の肉体性能には差がある。
地球人であれば肉片一つ残さず消し飛ぶような砲撃でも、サイヤ人の強固な体は、鎧すら必要とせず耐えきるように、根本的なスペックからしてかけ離れている。
龍亞がそれをはっきりと認識した時、あまりにも膨大な底知れない体力に、一瞬で心が折れかけた。
『カタパルト・タートル』と『ゼピュロス』の無限ループコンボは、理論上であれば、この島に殺せない者はいない。
だが、それはコンボを継続する人間の負担を考慮していない。
操るデュエリストの体力と精神が先に摩耗すれば、カード達はその効力を自発的に発動させることはない。
間違いなく、悟飯を敗北へと近づけている。けれども、その先に広がる展望は夜空に輝く星々の数のように、天文学的回数が必要なのだ。

悟飯が徐々に、ゆっくりと近づいてくる。

『ゼピュロス』の砲弾を頭頂部から浴びせられ、血を滴らせながら、顔を紅に染めて不敵に笑う。
使い魔の本体である龍亞へ近づいていく。靴底から立つ砂利を踏み鳴らす音が、砲撃音に飲まれる事なく、龍亞の耳朶を打つ。
まるで悪魔のような風貌だった。
決して殺しきれないと分かっていながら、無意味な攻撃を連続して撃ち続ける、その虚無のような抵抗と絶望。
無力な人間が人知を超えた力に翻弄され、無慈悲に殺されていく。

「う……うわっ!!」

二人の距離が縮まった瞬間、振り上げた悟飯の腕に対して龍亞は悲鳴を上げて顔を庇う。
ただの子供の喧嘩であればまだしも、かたや星をも容易に砕く異星の戦士である。
そっと撫でるだけでも、龍亞の頭頂部を割って、脳髄を飛散させてしまう。

「…………ッ、く……!!」

だが、悟飯は振り被った腕を停止させ、固く握った拳を開いた。
かと思えば、ゆったりとした動作で龍亞の肩を押し出した。
龍亞の体が吹き飛ばされて、宙を舞ってから地べたに転がっていく。

「ご……悟飯……?」

子供と言えど、人一人を軽々舞い上げさせる膂力に驚嘆すべきところではあるが、
悟飯を知る悟空からすれば、それですら非常に精細な手加減をして調整されたものであることが良く分かる。

「お……お前……」

狂気の中にある、息子の良心に悟空は訴えかけるように呼び掛けようとして、その声は最後まで紡がれることはなかった。
対話を拒絶するかのように、悟飯から膨大な量の気が高まっているのだ。
金色のオーラは燃え盛る焔のように昂り、大地を揺らして地鳴りを引き起こす。
悟飯は微動だにせず、両腕を腰の下に置いたまま、悟空とそしてその背後にあるカルデアを睨み付ける。

「か……め……」

全てを無に帰す。ここにいる全員を抹殺するという強い意志を込め、悟飯は父親から継承された奥義の名を口にする。

「は……め……」

何故、龍亞を殺せなかったのか。まだ自分の中にある甘さを払拭し、迷いを払う為に。
内なる狂気に身をゆだねて、悟飯は目に映る全てを消そうとしていた。
高まる殺意を肌で感じながら、悟空に最早対抗手段は残されていない。
自分はおろか、カルデアにある最後の希望たるネモすら、このままでは抹消されてしまう。

「波────────!!!」

「ま……まて、悟h──────!!?」

一切の足掻きすら許されないまま、悟飯が放つ気の濁流が放たれる。
悟空にとっての切札が、悟空自身に牙を剥いた瞬間であった。



■■■■■■




「……が、がんばって…………おねえちゃん!!」


小恋は怯えながらも、リルを引きずっていた。
しかし、小柄とはいえリルと低学年の小恋では身長差は数十センチ以上も開いている。
だから、そんな小恋がリルを引っ張るのは無理があった。
ジリジリとほんの少しづつではあるものの、前進はしているが。
その歩みは牛のように、いや牛や亀であればまだマシで、カタツムリのような遅さだ。

「しおちゃんも……!! う、う……んッ……く、ゥ……」

さらにリルに加えて、しおまで小恋は連れ出そうとしていた。
小恋には何が起きているのか、あまりよく分かっていない。
だが、ここが危ないのは分かっていて、自分ではリル達を助けられないから……頼れるネモ達の元に行こうとしていた。

このまま、ここに放置していては絶対に助からないから。

「…………こ、こ……ちゃ、ん……?」

赤黒い塊が視界の端で動く。
しおが、僅かに顔を小恋に向けていた。
どうして、自分を引きずっているのか考えて、そういえば過去を挟んだから、この娘とは友達だったなと思い出す。
体も少しだけ楽になっていて、きっと回復もしてくれたのだろう。
それでも、助かりそうにもなかったが。

「しおちゃん……もうちょっと、もうちょっとだけ……がまんしてね!」

小恋は諦めていなかった。
子供でも分かるような現実を、駄々をこねる子供みたいに否定している。

「……む……り、だ……よ」

リルとしおを引きずって、小恋がここから離れるなんて不可能だ。
だから、なにか一つを選ぶしかない。
自分の願いは、悟飯に託した。ここで死んでも悔いはない。
それゆえに、しおはただ思ったことを口にする。
特に打算もなく、疑問を解消したいという思いを込めて。
別に……自分が助かっても、助からなくても……あとはなるようにしかならないから。

「み、……の……りちゃん、に……あえなく……」

唯一、最も助かる可能性が高いのは小恋が一人で逃げることだ。
暴れ出した悟飯の巻き添えを食う前に。
しおならば、そうしている。偽無惨とネモとの戦闘とは訳が違う。
あの時、しおが届けた仮面のように盤上をひっくり返せるようなジョーカーは残されていない。
それに、小恋には愛する人がいる。山田みのりという将来を約束した人が。

小恋に過去を挟んだからこそ。

友達として、ずっと一緒にいたからこそ。

その愛が世界には認められない不純なものであろうと、偽りではないと知っている。
だから、小恋はその最愛の人の元へ帰らなくてはいけないはずだ。
何を犠牲にしようと、蹴落とし利用し、踏みにじっても。


騙しても

犯しても

奪っても

殺しても


「いや!」

小恋は感情のままに、やはり否定していく。

「みのりちゃんだけいて、しおちゃんもリルおねえちゃんも……みんないないなんて、小恋はいや!!」

それは駄々だった。
自分の認めたくないものを、頑なに受け入れない頑固な子供の駄々。
小恋はひたすらに、強欲だった。みのりがいるのは当然として、悠も母親の百合香も陽愛も学校のクラスメイト達も全員いなければ満足できない。
そこに今度はリルもしおも……恐らくは、少し関わっただけの悟空やネモ、梨沙、顔しか知らないようなルサルカだって加わっているかもしれない。
現実を知らない稚拙な理想。
誰からも相手にされず、呆れ果てるだけの意味のない言葉。

(……ズルいな)

しおからすれば、とても空虚だった。
この娘は、きっと全てを失う。みのりちゃんとも会えず、何処かで野垂れ死ぬだろう。
だというのに、無視すればいいものを、しおは心中穏やかではなくなっている。
心がざわついてくる。
一番がいるのに、それ以外も平等に愛する彼女に。
全てを味方にする小恋に。


「わ……が、まま……だ……」


言って、気付いた。

こんなにも、誰も傷付けない愛もあるんだ。
お母さんも友達も……愛している人も、皆のビンが詰まっていて、壊れない。

生きる為にお母さんの機嫌を伺うんじゃなくて、小恋は当たり前のように我儘を言えている。
お母さんという存在が、お父さんに殴られるものじゃないって初めて知った。

そうだ。師匠になった悟空もウーブと一緒に稽古をつけてもらっている間に、奥さんのチチという人の食事は世界で一番美味いなんて、ちょっと惚気てもいたっけ。
自慢げに、今度、チチに作って貰えるか頼んでみるから一緒に食べようなんて、約束をした覚えもある。
あんな、色恋に興味のなさそうな悟空でも、しっかりと家族に愛情を抱いていた。

(そっか……これが、みんなの……愛なんだ……)

勝てないかもしれない。初めて、しおはそう思った。
強さの指標で最も分かりやすいのが、数の暴力だ。
自分の知る世界より、ずっとずっと大きかった。とても大きくて広くて、温かくて優しい世界が存在していた。


(ごめんね……私、やっぱり……それでも、負けられないや)


個人的には、小恋のことは好きだったかもしれない。
この娘はいい娘だ。
自分にも手を差し伸べてくれる。
優しくて、甘い人。
もしも、バトルロワイアルのことがなければ、小恋にはみのりちゃんとも上手くいってほしいとも思う。
しおは、みのりちゃんを生理的に受け付けないが。
本当に自分と関係さえなければ、幸せにあの優しい世界で生きていて欲しい。

(私は……さとちゃん以外の手は握れないから)

かつてのネモのように、悟空のように。
しおに手を差し伸べる人も、助けられる人達もいた。
だけど、それはしお一人しか救えない。本当に守りたかったさとうだけは、決して助けられない。
伸ばされた手を握れば、他の幸せは得られる。
さとうという一つの幸福さえ切り捨てることができれば、最善の結末にはなる。

立ち上がる。

小恋の回復と、悟空の元で修行したという過去のおかげだろう。
数分前であれば、死亡していた肉体の損傷でも、まだ命を繋ぎとめていられる。
振り上げる腕は、手にした刃の破片は、手の中で握り締められ、鋼は紅く染まっていた。


「……、ハァ……!」


小恋を殺す。

しおが最後にやれる。さとうを守るのに必要な仕事だった。
チユチユの力は、大勢の人を救うことができる。
不調になった悟空を回復させてしまうことだってやれてしまうかもしれない。
今はまだ未熟でも、いずれ練度をあげるだろう。
それでは、困る。
少しでも、自分の宿願を託した悟飯優勝の可能性をあげるために、小恋という不確定要素を
削りたかった。

振り上げた刃が、驚愕する小恋の顔を冷たく写し、その幼い顔に鋒を突き立てる。

「ぐ……ふ、ゥ……!!?」

その寸前、光の矢がしおの胸を打ち抜いた。

「こんなクソ技、キルゲみたいな物好き以外は使わねーと思ってたぜ」

背中から血を流しながら、額に脂汗を浮かべ、リルトット・ランパードは立っていた。
ダメージが消えたのではない。動かない体を無理やり、別の力で操作しているのだ。
気を操れるようになったしおだからこそ、目を凝らす事で、リルの体に光の糸が纏わりついているのが良く分かる。

乱装天傀。

無数の霊子の糸を束ねて、操り人形のように使用者が自らの体を操作する技。
老いた滅却師がなおも戦う為に編み出された技であり、現代において使用が確認されたのは2回。
滅却師を研究していた涅マユリをして、失われた技法と結論付けたのも無理からぬ技だった。

「頭下げてろガキ!!」

考える前に、迫力のある叫びに威圧され、小恋はその場に蹲る。
その頭上を光の矢が弾幕のように張られて、しおを包囲する。
一瞬にして、しおを飲み込んで、消失した。

「……チッ」

殺せていない。

夥しい血の跡はあれど、死体がない。
跡形もなく消し飛んだとしても、最低首輪は残っているはずだ。
永くはもたないだろうが、止めを刺し損ねた。
さっさと追って、殺しておきたいところだったがそのような暇もなさそうだ。

孫悟飯が放つ青光を目の当たりにして、リルは気だるげに笑った。

死んでたまるか、そう吐き捨てたいところだが……今はそんな気にもなれない。
クソッタレがとも思う。どうあってもこれ以上、自分が生き延びる策は何もなかった。
絶対に自分はここで死ぬ。滅却師として、修羅場を潜った経験と勘がそう告げていた。

「こいつの元の持ち主の死神には悪いが……使わせてもらうぜ」

ハートのデザインを模した神聖弓ではなく、リルの手には一つのメダルが握られている。
乃亜がクソガキであることに、リルは今も撤回する気はないが、無駄なところで律儀なのだなと、呆れたように笑っていた。
恐らくは、完聖体を失ったリルに対する代替品として、これを支給したのだろう。
見えざる帝国が開発した、対死神戦に用いた星章化。
卍解へと至った死神からその卍解を奪い去り、自らの権能として行使する。
乃亜が尸魂界に赴き、わざわざ隊長格の死神からかっぱらったのか、あるいは限りなく卍解に近づけた模倣品として用意したのかは、リルにとっては不明でありどうでもよかったが。
だが、現状の自身の持ち得る最大戦力である以上は、有難く使わせてもらうことにする。

「卍解──────」

このメダルに封印されていた、死神の奥義が顕現する。

それは金色の砲身だった。

リルの右腕を覆う金色の装甲が、肩から腕にかけて広がっている。
既に装填されている弾道ミサイルの如く巨大な蜂の針のような砲弾も、同じく金色に燦然と輝いていた。
全長はおおよそ3メートルを超え、小柄のリルの身長から一回り以上の差があった。
その重量も見た目に違わず、装着されている右腕はだらりと垂れ下がった。
悟飯のかめはめ波が迫る。既に、リル達との間合いは2mもない。
リルはその場に佇んだまま、右半身の筋肉を動かして砲身に備わった弾頭を光に水平に向けた。
避ける気はない。防ぐつもりもない。ただ、迎え撃つ者の構えであった。

(この馬鹿デカさだ……なるほど、一撃必殺とはよく言ったもんだ。
 反動で、死ぬかもな)

血装でも血を止められない傷の深さ。
滝のように吹き出し、流れていく血を一瞥する。死に直結する重傷を目の当たりにしながら、リルは何処か他人事だった。

(あいつの霊圧なんかを見付けたせいか)

数時間前、乃亜の放送後に施設を追加した際に、僅かだが覚えのある懐かしい霊圧を察知した。
ネモの分霊らしいプロフェッサーにも伝えたが、あれは紛れもなくグレミィ・トゥミューのものだ。
グレミィが生きているとは考えない。体を何かのパーツに使われ、能力を流用されているのだろう。
綱彌代時灘を黒幕とする一連の事件の時のように、乃亜もグレミィの死体を利用している。
そうであれば、自ら神を自称する稚拙な万能感にも納得できるものだ。

Vの聖文字。
それは想像を具現化させる。

人間に許された力を遥かに凌駕する、まさに神の御業。
厄介だ。これ以上なく厄介で面倒なものを、乃亜は拾い上げたものだろう。
見えざる帝国内ですら、そのスケールのデカさ故にほぼ全ての滅却師たちから疎まれていた。
頭領たるユーハバッハもグレミィを幽閉するという手段で配下に置いていた事からその強大さが伺える。


(ふざけやがって)


こんな時に、あんなクズ野郎の面を思い出すのも癪に障ると思った。
まるでガラにもない事をやらかして、挙句死に掛けるのが、グレミィの事で動揺してしまったからのようだ。


(……あの、クソガキの思うように事が進むのが、気に入らねえだけだ)


全ては高みの見物で、せせら笑いながら殺し合いを眺めているだろう乃亜に対するささやかな抵抗だった。
リルのあずかり知らない所でやるなら勝手にやっていればいい。だが、下らないガキの遊びに付き合わされて、いい加減腹に据えかねていた。
小恋が見殺しにされて、悟飯が悟空を殺すのを期待して、どっかのモニターの前でふんぞり返り喜んで見ていることだろう。
あれの思うように、事が進むのが気に入らない。
だから、リスクを負ってまで小恋を助けてやった。
傷を癒すチユチユの力ならば、この先大勢の誰かを救う。
それは殺し合いを破綻させることに繋がる。
これから親殺しをしようとする、バカ息子をぶちのめすのも同様だ。
悪趣味な、親子対決の惨劇を晒させてやる義理もない。
乃亜を喜ばせるより、あれが悔しがる面を想像する方が、まだ溜飲も下がる。



「雀蜂雷公鞭」



感情を一切伺わせない平坦な声で卍解の名を紡ぐ。

つまるところ、これは嫌がらせだ。それ以上でもそれ以下でもなく。
その最中にしくじって、死に瀕しているというだけの間抜けな話でしかない。
小恋を連れて、無惨の衝撃波から脱せる自信があった。だが、その見積もりを誤ったリルのミスというだけだ。
そして尚、気に入らない乃亜に死ぬまで嫌がらせを続けている。
ただそれだけだ。

「お……おねえちゃん……?」

リルの背を見て、自分の事よりもリルの背中から流れる夥しい血に、心配そうな声をかける小恋。
それを一瞥して、心底うんざりしたようにリルは溜息を吐く。
たかだかドーナッツ程度で、随分と割に合わない取引をさせられたものだ、と。


「邪魔だ。向こう行ってろ、小恋」


次の瞬間リルは迫りくるかめはめ波の光を前にして、砲弾を撃ち放った。



■■■■■■



「クソ、クソ……クソぉ……!!!」

鈴を転がすような美麗な声を、醜悪に磨り潰しながら、ルサルカ・シュヴェーゲリンは口汚く罵る。
血と汗と埃と泥に塗れていたのは数時間前のこと、シャワーを浴び全身からフローラルな香りを漂わせ、孫悟空やキャプテン・ネモといった有力な対主催に接触し取り入った。
紆余曲折あったが、駒の進ませ方は悪くなかった。
カルデアに到着するまで、死ぬような目にあいながら、到着後もネモに過去を暴かれ、見られたくないプライベートを晒された甲斐はあった。
綱渡りはあれど、致命的なミスは犯していない。……そのはずだった。

「メリュジーヌ!!!!」

忌々しい怨敵の名を吐き出して、血で真っ赤に染まったルサルカは全身を震わせる。
美しき妖精國最強の騎士は自らの名を聞いて、何の感傷もなくルサルカを見つめていた。
彼女もまた甲冑を血で汚している。しかし、ルサルカが自らの血で赤く彩られているのなら、メリュジーヌは全て返り血を浴びたものだった。

『血の伯爵夫人』により呼び出した拷問機器の残骸が散らばる。
カルデアの設備であるPCを初めとする電子機器、魔術的な霊装が粉々に破壊され尽くされる。
そのカルデアを回していたネモの分身、マリーン達の死体が数体転がされている。

ルサルカは壁面にめり込まされ、腰を掛けたように腰を前のめりにくの字に曲げていた。
呪いを込めた怒声を轟かせながら、上体を持ち上げたのは流石は黒円卓の一員と賞賛に値した。
紛れもなく、水銀の支配する第四神座時代の人類の中で最上位に数えられる、魔人の一人に恥じない、生命力と打たれ強さであった。
冠位の竜種、アルビオンの左手たるメリュジーヌを相手に実質1人で応戦しまだ持ち堪えているのだ。
エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグが聞きつければ、ルサルカの評価を改めていたかもしれない。
そんなところで評価が上がったところで、ルサルカからすればなんの旨味もないのだが。

「なん、で……こんな時に……っ!!」

ルサルカは苛立ちのあまり、どうしようもない愚痴を吐き捨てる。
メリュジーヌの襲撃は孫悟空と孫悟飯との激闘が決着したのと同時だった。
カルデアの面々と、悟空の周りの参加者達がこの戦いに気を取られ過ぎていた。
その気になれば、マッハ規模の速度での飛行を可能とするメリュジーヌは、突如として地面を穿ってカルデア内に出現したのだ。
自らの魔力で生成した刃をドリルのように回転させ、カルデアの真下まで進行し、ルサルカ達の不意を突いた。
今になって考えてみれば、ゼオン・ベルの来訪からしてきな臭い。
悟飯の登場は鬼舞辻無惨のイレギュラーにしても、ゼオンは元からメリュジーヌと手を組んでいた可能性が高い。
悟空があちらの対応をしている間に、メリュジーヌが奇襲を仕掛ける策だったのかもしれない。

「念話が、通じない……何やってんのよ!! あいつはッ!」

肝心の悟空も、先程から念話が通じない。一方的にルサルカからの連絡が遮断されているようだった。
外を映していたモニターに映っているのは、悟飯が再度激怒し悟空が背中を裂かれ、血塗れになっている映像であった。
悟空の身に異変が起きたのは間違いなく、神戸しおという少女がブック・オブ・ジエンドを使い事態をより混乱させている。
そして、カルデアにはメリュジーヌが直接叩きにきた。

ルサルカは思案する。ここにある戦力で、メリュジーヌに対抗できるのは悟空しかいない。
しかし、悟空は最悪の場合死んでいるかもしれず、生き残ったところで彼が言う『気』という力を失っているとルサルカは推測する。
でなければ、無惨の攻撃であれだけの重傷を負わされるはずがない。

あとの面子では、とてもではないがメリュジーヌの相手をさせるには力量不足だった。
せめて、あのリルトット・ランパードという女が来て手を組めれば、まだどうにかなったかもしれないが……。
あれも生きているか分からない。

増援は期待できず、彼我の戦力差は圧倒的。

メリュジーヌが首輪の解析を行っているネモを見つけ出し、殺すのはそう遠くはないだろう。
そして、その前にルサルカは殺されている。


「ものみな眠る小夜中に
 In der Nacht, wo alles schläft

 水底を離るることぞ嬉し
 Wie schön, den Meeresb────────────ッッ!!!!」


残された切札は、メリュジーヌに知られている。
G-2 港、早朝での初戦でルサルカはメリュジーヌに過去を挟んだ。
共に妖精騎士として、妖精國で切磋琢磨し無二の親友として過ごしたという”本物”の過去を。
ともすれば、ルサルカはメリュジーヌに愛慕すら抱いていただろう。
彼女が奥の手とする魔道の奥義、エイヴィヒカイトの第三位階、自らの渇望の顕現を伝えてしまう程に。
故に使わせない。仮に使われたとして、メリュジーヌは絶対に勝利するという自信を持っているが、だからといって敢えて使わせる理由はないのだ。
一気に加速しマッハの領域にまで到達する。この狭い室内をソニックブームに晒し、あらゆる残骸を粉々に砕き、砂塵を巻き上げながらルサルカに肉薄する。
カルデア全体を揺るがすような炸裂音を轟かせながら、ルサルカは背面の壁をぶち抜いて、幾重もの壁を貫通して吹き飛ばされる。
瓦礫の破片と血飛沫が舞い、それらが床に落ちる前にメリュジーヌはルサルカの飛ばされた、進行先へ回り込む。

「がッ……ぎゃあああああああああああああああああああッッ!!!」

全身を数十箇所、コンマ一秒以内の間に切り刻まれ激しい金切り声でルサルカは絶叫する。
まるで子供の一人遊びだ。ボールを壁に蹴って、跳ね返ったものをまた蹴り飛ばす。
再度、吹き飛ばされていく滞空時間のなかで、ルサルカは奥歯を噛み締める。
ギリギリと軋んで、歯が欠けたかもしれない。
肩から瓦礫やガラス片などが散らばる床に落ちて、細かな切り傷をいくつも作って転がっていく。
『霊的装甲』さえ生きていれば、こんなもので自分が傷を作ることなんてありえないのにと、ルサルカはさらに苛立つ。
手を突いて、体重を乗せながら体を起こしていく。皮膚の中に埋まった微細なガラス片が筋肉の脈動にあわせて牙を立てて切り刻む。
この程度で泣きべそを晒すような歳は過ぎているが、痛みである以上は苦痛であり不快だった。

「ぐ、ごおッ……!!!」

上体を手で押して持ち上げた瞬間、ルサルカの顔面にメリュジーヌの爪先が突き刺さる。
骨がゴリゴリと擦り潰れた鈍い音を立てて、またもやルサルカは地べたと短い別れを告げる。

「『今は知らず、無垢なる』──────」

カルデアに辿り着くまでに、地中を掘り進める際、一度宝具を使用していたのだろう。
ハンデによるインターバルをカウントし、そして再度使用可能になったのを見計らい、メリュジーヌは淡々と言霊を唱える。
これから殺すであろうルサルカに対し、何の感情もなければ関心もない。
サトシやキウルに見せた情を一切伺わせない。バイザーを付けた表情は、氷のように冷たいままだった。



掌大の空間が包まれて圧壊した。


的場梨沙は、思うままに本能に従って掌を視線の先にいるメリュジーヌへと重ねていた。
何故、と疑問に考えることもなく。万物に存在する綻びを感知していた。
フランドール・スカーレット がその能力と知識を、自らの目を継承する梨沙の脳に直接送り込んでいたことが一つの理由。
そしてもう一つ、孫悟空の血を取り込んだことも要因といえるだろう。
血とは魂の通貨、命の貨幣、命の取引の媒介物。
血を吸う事は命の全存在を自らのものとする
とある世界の狂った少佐が比喩として挙げたように、吸血鬼という種が『血』を喰らう事には重要な意味合いがある。
孫悟空の人生は稀有なものだ。存命中の人物でありながら、二度の死を経験している。
そう、『死』という概念を悟空は知識ではなく、肌で感じ知っている。
それは『血』という情報媒介にも記録されていた。

『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』とは、言い換えれば万物を破壊(ころ)す力とも言える。

『死』という概念を悟空の血を通じて理解し、梨沙は万物の綻びである『目』を感じ取るにまで至っていた。

偶然が重なった奇跡的な産物ではあるが、梨沙はこの瞬間、ルサルカとメリュジーヌの戦いを物陰に隠れながら観察を続け、ようやくメリュジーヌの『目』を捉えたのだ。
それさえ潰してしまえば、如何な戦力差をも覆して誕生して数時間の新米吸血鬼ですら、冠位の竜種を打ち負かすことすら可能。


「…………え、?」


ぽと、と間抜けな音を立てながら、指を折り込もうとした左腕が床に落ちていく。
その瞬間、自分の顔に影が覆いかぶさっているのが分かった。
眼前にメリュジーヌが立っていたのだ。

「惜しかったね」

ヒュと風切り音が響く。そして、梨沙は絶叫した。

「あ゛ぁ゛────────ッッ!!」

眼窩に収まった眼球を、横薙ぎに切り裂かれたのだ。焼けるような目の痛みに悶えながら、梨沙は何をされたのかを理解した。

「ぐ、ッ……ぁ……あああああああああああああああああああッ!!!」

赤い涙を片手で押さえながら、梨沙は膝を折った。

上手くいったと思った。
タイミングは悪くなかったはず。フランの知識と照らし合わせても、能力はしっかり発動したのに。

そう、全ては上手くいっていた。
梨沙のセンスはずば抜けていた。フランのフォローと悟空の血があってこそとはいえ、彼女は初の実戦で抜群の戦果を上げたと言えるだろう。
ただ、メリュジーヌが地力で勝っていた。
異変に気付き、手を握ることが能力の発動と予測し、先にそれを切断。
そして瞳に宿る魔力から、魔眼の類を想定して目を潰した。
これらの動作を1秒も掛けずに終わらせられたメリュジーヌが、単純に地力で勝っていただけのことだった。

「あぐッ……ぁ、……」

梨沙は自分の命が刈り取らんとされようとしていることすら気付けないでいた。
視界という情報を潰された梨沙に、何が起きているのか知る術はなかった。


「MOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!」


耳朶に轟く雷鳴を聞いて、梨沙はようやく自分が死に掛けていたのを知った。
雄々しく咆哮を挙げて疾走する猛牛は雷のよう。
梨沙を殺す寸前、優先順位を変動させる程度にはメリュジーヌにとっては脅威であった。
大地を奔る稲妻のように肉薄し、凄まじい破壊力を乗せた突進。
メリュジーヌはゆらりと身を反らし、猛牛の顎を蹴り上げる。
爆発的なエネルギーが瞬く間に殺され、顎から猛牛は首を持ち上げて、空へと飛んでいく。
カルデアの天井を突き破り、さらに上階へと。

「梨沙!」

魔力の切先が少女の頭蓋をかち割る前に、その名を叫んだネモが割り込んだ。
左腕を胸の前で水平に構え、長い銃身を乗せて454カスール カスタムオートのトリガーを引く。
火薬が弾け、爆破の圧力により弾丸が空気の壁を突き破る。
さらに弾丸は水流を纏った。
元より、熊のような大型獣を仕留める超火力の銃であり、吸血鬼を殺すべくカスタムされた度を越したスペックを持つ、454カスール カスタムオート。
オシュトルの仮面の力を引き出し、水流をウォ-ターカッターのように放出。
従来の火力に、仮面の水流を上乗せしその威力は数十倍にまで跳ね上がる。
前方から縦横に敷き詰められた水流の魔弾に、メリュジーヌは躊躇いなく突っ込む。
魔力の粒子を残し、地を蹴り駆ける。
トンファーのように両腕に構えた鞘をクルクルと回す。
二つの小さな螺旋が、台風の目のように豪風を引き起こす。
人間を砂の白のように、呆気なくミンチへと変え得る魔弾の雨を蹴散らしていく。
迫りくる弾丸を全て、弾き返しカルデア内へと飛び散っていく。

「くっ……!!」

そんなことは既に予見していたように、ネモは苦々しく奥歯を噛み締めながらも、梨沙を抱えて飛び退いていた。
相手は怪物を上回る超越種。冠位のドラゴン。
吸血鬼を滅ぼすための銃では、武装として不足。
つい一秒前に、自身のいた場所を粉々に砕くメリュジーヌを見て、ネモは冷や汗を流した。

「ネモ……!!?」

血を流し、肉の中にガラス片を埋もれさせ、微細な無数の痛みに苛まれながらルサルカはネモを見つめる。
それは増援が来たという安堵ではなく、むしろより事態が悪化しているという懸念であった。
首輪の解析の最中、本体のキャプテン・ネモは身動きが取れないと、ネモ本人の口から聞かされていた。
なら、ここにいるネモは何だというのだろうか。
分身の一体であってほしいと、ルサルカは願うが……彼女の魔眼がそれを否定する。
紛れもなく、最上位権限を持つキャプテンその人だ。
つまり……首輪の解析は終了したか、打ち切られたと考えるべきだった。
前者はありえない。
何故なら、解析に数時間は有する。
それまでにキャプテンを死守しろと言ったのはプロフェッサーである。
だから、解析は……打ち切られたのだ。
入手したデータに問題があったのか、それともメリュジーヌが出鱈目に破壊した設備が解析に支障を及ぼしたのかは分からないが。
いずれにしても、失敗、その二文字がルサルカの脳裏をよぎる。

「アンナ────あとで、全て説明する!!」

ネモの叫びに、ルサルカは思考を切り替える。
現状、真っ先に片づけなければいけないのは、メリュジーヌだ。
殺し合いの脱出か、優勝か……どちらを目指すにしろ。目先の窮地を脱してからでなければ意味がない。

「創造
 Briah──」

魔女が心の底から願う渇望を唱え。

「真名、偽装展開」

煩わしそうに、騎士が湖面に光る月の彩光を放つ。


『波────────!!!』


理の異なる二つの霊妙が交わる寸前、モニターを貫通する咆哮と青の閃光が煌めく。
次の瞬間、世界から音が消え、輝きの中に全てが飲み込まれた。


■■■■■■


衝突する光の放流。
大地を震わし、音を殺して、太陽すらも霞むような閃光が世界を焼く。
灼熱を孕んだ爆風が吹き荒れる。
あらゆる万物を拒絶し破壊し尽くす蒼炎の地獄に、あまりにもか細い一筋の砲弾が突き刺さる。

一撃必殺。

もしも、リルに支給された卍解が千本桜景厳のような、繊細なコントロールと念密な制御、何よりそれらを可能とさせる、長年の修練を要求される代物であったのであれば詰んでいた。

単純明快にして、ありったけの霊圧を発射するという、
使い方が明瞭である雀蜂雷公鞭であったのは、不幸中の幸いだった。
あるいは、乃亜がそれを考慮して配ったのかもしれないが。
使い所は選ぶが、一度繰り出せば後は考えなしに霊圧を込め続ければいい。
華奢な体躯で砲台を固定し、砲身と一体化した右腕を左手で押さえながら、リルは反動にひたすら耐え続ける。
だが、必殺の放射は未だに青き破壊の光線を貫けない。
じりじりと、リルの靴底が削られる。反動とそしてかめはめ波に押され、背後のカルデアに向かって後退させられていた。

(あの……クソガキがッ……!!)

流した血が多すぎて瀕死というのもあるが、雀蜂雷公鞭が消耗の大きい卍解であるのも影響する。
一撃で沈められない強敵に対し、弐撃目を装填できるだけの霊圧は残されていなかった。
向かい来る光線は表面を水面の波紋のように歪ませるが、徐々に砲撃を押してリルへと肉薄していく。
さらに最悪なのが、悟飯は右腕だけでかめはめ波を放っていた。
まだまだ余力を残しながら、リルを圧倒していたのだ。
薄っすらと笑みすら浮かべているのが、悟飯の力の底知れなさを伺わせる。


「はあああああああああああ────ッッ!!!」


『う……うわっ!!』

『…………ッ、く……!!』

あんなことは、殺しを躊躇うのはこれで最後だ。
悟飯は自ら打ち放つ、かめはめ波の光の中に歩み出した。
今、こうして目の前の壁となっているリルを殺し、その後ろにある建物も全部吹き飛ばす。
もう立ち止まれない。死なせてしまった人達を助け出して、そして……悟飯の背負った贖罪を果たすには────。


「畜生……だ……め、か……!!」


ユーハバッハに挑んだ時の事がリフレインした。
ペペ・ワキャブラーダを食らい、"L"【愛】の力に懸けた絶望的な決戦。
分かってはいた事だが、結果は惨敗だ。生き延びただけで儲けものの完敗だった。
この戦いも同じく、薄い一筋の光明に全てを懸けたが、やはりジャイアントキリングは為されない。
忌々しく舌打ちしながら、リルの表情は冷静であり、自分自身を鼻で笑っている。
絶望の淵に立たされ、底なしの奈落はすぐそこだ。
ただ意味もなく、意地でぶっ放した卍解も捻じ伏せられ、無駄死に終わる。

せめて嫌がらせくらいはしてやりたかったのに、
乃亜が蔑むように笑う面を想像すると苛立ちこそあるが、状況を判断してこれ以上の望みがないことも理解していた。
小恋もグレミィも……。
どいつもこいつも、菓子の一つで割に合わない連中ばかりで反吐が出そうだ。
そんな連中に、律儀に付き合ってやったリル自身すら、物好き過ぎて笑うしかない。

「な、に……!!?」

だが驚嘆に歪むのは悟飯。
突如として、視界の端から飛来する青い光球に目を奪われる。
知っていた。それは、その奥義の名は『元気玉』。
息も絶え絶えの悟空が、投球後のような姿勢で悟飯を睨む。

遅発性乱気症により、悟空は気のコントロールが効かない。
肩で息をしているのも、この病の症状である倦怠感も原因だろう。

しかし、厳密にはコントロールが困難であり、完全に操作出来ない訳ではない。
自分の気を練り上げ、気弾に生成するのは無理だった。
では、自分以外の気を集めて形にするのは?
これも気功術の応用であり、現在の悟空にはハードルが高い。

この難題を解決するヒントは悟空の身近にあった。

大気中に偏在する霊子を集め、自らの武具とする滅却師の技術。
元気玉は、ありとあらゆる生物から、果ては太陽のような惑星からも気を集め破壊力へと変換する。
その術式と設計思想は、奇遇にも滅却師達の技と似通ったもの。
元気玉の作成に不足する悟空の気の制御を、霊子収束で補い、応用を効かせるという発想は、ずば抜けた悟空の戦闘センスにより導きだされた。

リルの技術を見よう見まねで模倣し、この島に僅かに存在する海と山、そして草木達から気を収束させる。
『元気玉』としても『滅却師の霊子収束』としても、穴だらけの杜撰な複合技だったが、それが形になるだけでも十分であった。

(元気玉……!!)

避けるべきか、この時悟飯は判断に迷った。
絶不調の最中、放っただけでも上出来とはいえ、それは悟空の最後っ屁ともいうような代物。
ノロノロと漂う光球は悟飯の脅威にはならない。はっきり言えば、遅すぎる。
とても実戦で使用したところで、相手に当てられるような出来ではない。
身を反らすだけで、簡単に避けられる。
こんな拙い出来損ないの技に、命運を懸けるまでに、悟空が追い込まれていることの何よりの証左だった。

「こんな、もの……」

けれども、悟飯はかめはめ波に添えようとした左手を握り込み拳を作った。
元気玉は悪の気がなければ跳ね返せる。
この行いが本当に正しければ、元気玉は悟飯を傷付けられない。
自分が、間違っているはずがない。狂気の中で悟飯は強く、己の考えを肯定していく。
他の誰でもない悟飯自身が、そう思わなくては立っていられなかった。

「跳ね返してやるッ!!!」

飛来する元気玉を、避けられるはずの攻撃を悟飯は薙ぎ払った。
元気玉を跳ね返し、自分を正当化させるかのように。

「ッッ……!! な、……!?」

瞬間、光は爆ぜる。

「こんなッ……もの……!!!」

ミイラになったジュジュという少女と、首を切断されたケルベロス。
ミンチにされたスネ夫。
守れなかったユーイン。
自分が死なせたのび太とニンフ。

最後まで分かり合えなかった美柑。

彼らを救う方法は、ドラゴンボールに願う他ない。
その為に立ち塞がる障害があるのなら、世界を守るために手に入れた力を振るうことに迷いはない。

この選択が、間違っているはずがない。

しかし、その全てを否定していくように気のスパークが迸る。
跳ね返せない。
薙ぎ払った腕が、物凄い圧力に縫い付けられて悟飯を襲う。

振り払いきれない。

眩い輝きが悟飯を包み込み、そして……。

「しま────」

集中の乱れ、僅かな隙を突いて砲弾がかめはめ波を突き破る。

「……ざまぁ……見やがれ、クソガキ……」

打ち上げられる悟飯を見て、リルは薄く笑った。

「とは……いえ、乃亜……てめえを直接ぶち殺せなくて、残念だぜ……」

誰にも届かない声で、リルは鬱憤を吐き出し倒れる。

その直後────全てが世界から消失した。



【一日目/夕方/???】

【孫悟飯(少年期)@ドラゴンボールZ】
[状態]:ダメージ(中)、自暴自棄(極大)、恐怖(極大)、疑心暗鬼(極大)疲労(大)、激しい後悔(極大)激怒(極大)
雛見沢症候群L???、普段より若干好戦的、全員への嫌悪感と猜疑心(絶大)、首に痒み(大)、絶望、ブチギレ
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、ホーリーエルフの祝福@遊戯王DM、ランダム支給品0~1(確認済み、「火」「地」のカードなし)
[思考・状況]基本方針:全員殺して、その後ドラゴンボールで蘇らせる。
0:皆殺し。特に悟空を殺す。
1:僕の記憶の中にある、しおさんって誰なんだ? 気持ち悪いな。
[備考]
※セル撃破以降、ブウ編開始前からの参戦です。
※殺し合いが破綻しないよう力を制限されています。
※SSの変身制限を破っています。
※舞空術、気の探知が著しく制限されています。戦闘時を除くと基本使用不能です。
※雛見沢症候群の影響により、明確に好戦的になっています。
※悟空はドラゴンボールで復活し、子供の姿になって自分から離れたくて、隠れているのではと推測しています。
※イリヤ、美柑、ケロベロス、サファイアがのび太を1人で立たせたことに不信感を抱いています。
※何もかも疑っています。
※蛆虫の幻覚を見始めました。常に見ているわけではありませんが、また不定期に見ることもあるかもしれません。




「す……すまねえ、リル……!!」



世界が無に帰す直前、悟空は龍亞と小恋を抱えて離脱していた。
気が操れないとはいえ、元々山暮らしで恐竜相手なら素手で瞬殺するようなフィジカルだ。
子供二人を抱えて走るのは、さほど苦ではなかった。


「ネモ……!!」


だが、リルの決死の一撃は悟空達を逃がす時間を与えたが、カルデアへのかめはめ波の到達を阻むには足りなかった。
破壊の閃光はあっさりとカルデアを溶かして、焼け野原へと変えてしまった。
あそこにいた仲間達の安否は分からない。仮に生きていても、首輪の解析は……。


「どうするつもりだ? ……孫悟空ッッ!!」


「……、……」


今、抱えている幼い二人ともう一人、ネモの代わりに立っていたのは、怒りに荒れ狂う鬼舞辻無惨だった。
悟空は苦虫を噛み潰したように表情を歪ませながら、何も言わずに沈黙を守ることしかできなかった。


【リルトット・ランパード@BLEACH 死亡】
【孫悟飯 ドミノ100ポイント獲得】
【雀蜂雷公鞭@BLEACH 消失】
【ゼオン・ベル@金色のガッシュ! 生死不明】
【メリュジーヌ(妖精騎士ランスロット)@Fate/Grand Order 生死不明】
【シルバースキン@武装錬金 破壊】
【人理継続保証機関フィニス・カルデア 消失】

【一日目/夕方/D-5】

【孫悟空@ドラゴンボールGT】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、遅発性乱気症
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~1(確認済み)、首輪の解析データが記されたメモ、タイムコピー(残り2回、夜まで使用禁止)@ドラえもん
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。
0:ご……悟飯……。
1:藤木はオラが始末をつける。容赦は出来ない。
2:カオスの奴は止める。
3:シュライバー、リーゼロッテを警戒する。
4:ネモ……生きてるよな……?
5:ぜ……全然、力が出ねえ……。
[備考]
※参戦時期はベビー編終了直後。
※殺し合いが破綻しないよう力を制限されています。
※遅発性乱気症によって。気のコントロールが殆ど利きません。
 制限が消えても、界王拳も瞬間移動も使用出来ず、SSにもなれず、気に関係するほぼ全ての能力がなくなっています。
※SSは一度の変身で12時間使用不可、SS2は24時間使用不可。
※SS3、SS4はそもそも制限によりなれません。
※瞬間移動も制限により使用不能です。
※舞空術、気の探知が著しく制限されています。戦闘時を除くと基本使用不能です。
※記憶を読むといった能力も使えません。
※悟飯の参戦時期をセルゲームの頃だと推測しました。
※ドラゴンボールについての会話が制限されています。一律で禁止されているか、優勝狙いの参加者相手の限定的なものかは後続の書き手にお任せします。
※界王拳使用時のハンデの影響を大まかに把握しました。三倍までなら軽めの反動で使用できます。


【鈴原小恋@お姉さんは女子小学生に興味があります。】
[状態]:精神的疲労(大)、チユチユの実の能力者。
[装備]ブラック・マジシャン・ガールのコスプレ@現地調達
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:みのりちゃんたちのところにかえる。
1:おねえちゃん……?
[備考]
※参戦時期は原作6巻以降。
※チユチユの実の能力者になりました。
※カナヅチになった事を知りません、また、能力についても殆ど把握していません。
※能力も発現仕立てなので、かなり未発達でムラがあります。
※遅発性乱気症は治せません。


【鬼舞辻無惨(俊國)@鬼滅の刃】
[状態]:ダメージ(中) 、回復中、俊國の姿、乃亜に対する激しい怒り。警戒(大)。 魔神王(中島)、シュライバーに対する強烈な殺意(極大)、世界に対する怒り(極大)
[装備]:捩花@BLEACH
[道具]:基本支給品×2(ルサルカの分)、夜ランプ@ドラえもん(使用可能時間、残り5時間)
[思考・状況]基本方針:手段を問わず生還する。
0:孫悟空……!!
1:禰豆子が呼ばれていないのは不幸中の幸い……か?そんな訳無いだろ殺すぞ。
2:脱出するにせよ、優勝するにせよ、乃亜は確実に息の根を止めてやる。
3:首輪の解除を試す為にも回収出来るならしておきたい所だ。
4:中島(魔神王)、シュライバーにブチ切れ。次会ったら絶対殺す。
5:ネモ、早く首輪を外せッ!!
[備考]
参戦時期は原作127話で「よくやった半天狗!!」と言った直後、給仕を殺害する前です。
日光を浴びるとどうなるかは後続にお任せします。無惨当人は浴びると変わらず死ぬと考えています。
また鬼化は無理です。
容姿は俊國のまま固定です。
心臓と脳を動かす事は、制限により出来なくなっています、
心臓と脳の再生は、他の部位よりも時間が掛かります。
ネモが入手した首輪の解析データを共有しています


【龍亞@遊戯王5D's】
[状態]ダメージ(小)、体に痺れ(小)、疲労(大)、悲しみ(大)、右肩に切り傷と銃傷(シカマルの処置済み)、
全身に軽度の火傷、殺人へのショック(極大)
[装備]パワー・ツール・ドラゴン、スターダスト・ドラゴン、フォーミュラ・シンクロン
  シューティング・スター・ドラゴン&シンクロ・ヘイロー(2日目黎明まで使用不可)
龍亞のデュエルディスク(くず鉄のかかしセット中)@遊戯王5D's、亜空間物質転送装置(夕方まで使用不可)@遊戯王DM、カタパルト・タートル(24時間使用不可)、ハネワタ、アニメ版のBF-精鋭のゼピュロス(使用不可状態)
[道具]基本支給品×3(龍亞、シカマル、勝次)
フラッシュバン×5@現実、気化爆弾イグニス×3@とある科学の超電磁砲、首輪×3
シカマルの不明支給品×1、モチノキデパートで回収した大量のガラクタ
[思考・状況]基本方針:殺し合いはしない。
0:しお……。
1:梨沙と首輪を外せる参加者を探す。
2:沙都子とメリュジーヌを警戒
3:モクバを探す。羽蛾は信用できなさそう。
4:龍可がいなくて良かった……。
5:ブラックの事は許せないが、自分の勝手でこれ以上引っ掻き回さない。
6:藤木は許せない……
7:誰が地縛神を召喚したんだ?
8:しおが死ななくていいような、皆が未来を奪われない奇跡を諦めたくない。
[備考]
少なくともアーククレイドルでアポリアを撃破して以降からの参戦です。
彼岸島、当時のかな目線の【推しの子】世界について、大まかに把握しました。


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