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或る相棒の死

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────時間を掛け過ぎた。

珍しく、風見一姫は己の失態を悔いていた。

「ガッシュ、もう諦めましょう」

「しかし……」

「残念だけれど、もうこれ以上マサオに時間は掛けられないわ。
 貴方も、救うべき子供はこの子だけではないと分かるでしょう?」

「……それは…分かっておるが」

元々、フリーレン達と友好的な関係を結べるように。そしてガッシュという強力な戦力の確保及び、フリーレンの魔族への敵対心から二人は分断した方が良いだろうという大局的判断。
あとは一応、マサオ本人の救助という人道的な理由も多少は込みで。
一姫はマサオの探索を引き受けた。
だが結果はマサオを見付ける事は叶わなかった。

(時間を割き過ぎたわね)

本音を言えば。
マサオにこれだけの時間を掛ける価値はない。
救えるのなら、手を差し伸べるつもりだが。
だが、優先して生かさねばならない程の重要人物では到底ない。
フリーレンを味方にするという特大のメリットと、子供の足であれば然程遠くには行けないだろうと考えて、この探索を引き受けた。
誤算だったのは、マサオは大きく移動したことだろう。
そして移動先も見当が付かない。
良く考えれば、強い対主催に保護され同行しているか。悪く考えればその逆か。
名前が放送で呼ばれてない以上、まだ死んではいない。
いずれにしろ、一姫には判断できる情報がなかった。
モクバ達の合流を除けば、ここまでアリ一匹見掛けていないのだ。情報面でも不利なのは否めない。

「もう少し、探さぬか? それにゼオンも……」

ガッシュもまた無力な少年と、それと同じく兄であるゼオンの行方を気にしていた。
映画館にも立ち寄っては見たが、戦闘痕と施設の裏側に人を埋葬した形跡があるだけだ。
桃華の証言通り、ゼオンが残したとみられる痕跡は確認できたが、当のゼオンもマサオも当然見当たらない。

「ガッシュ、ゼオンの事だけど……」

どうして敵対していたの。

そう続けた一姫の意図がガッシュは理解できなかった。

「さっき確認した名簿だけど、私の弟の名前が載っていたわ。
 もう高校生よ。高嶺清麿よりも年上で、身長も歳相応。この殺し合い、その参加者の選定条件には不適合よね」

「ウヌ…?」

「もし、同姓同名でないとすれば、ユージを幼少期の頃から連れてきたと私は思うわ」

「何を言っておるのだ? その雄二という者は清麿より大人なのだろう」

「だから、別の時間から参加者を集めているというのはどうかしら」

梨花は死ぬたびに別の時間軸、過去の時系列にタイムリープすると話していた。
カケラと表現したパラレルワールドへと移動しているとも解釈できるが、時間移動に近しい芸当を行っている。
梨花と言うより、羽入という神の力の行使らしいがそれには制約があり融通が利かないらしいが、乃亜がそれらの力を更に発展させ、自由の効く時間移動を完成させた。
あるいは別世界にそういった技術が存在し、流用したとも考えられる。

「貴方と敵対していた、その時期から拉致された。その頃のゼオンなら」

「……殺し合いに、乗るかもしれぬ」

聡い子だ。
清麿というパートナーから良い影響を受けているらしい。
一姫のヒントから、ガッシュは論理的に結論へと辿り着く。そして辿り着いたからこそ、事態はより悪化していると判断出来てしまった。
ゼオンと和解できたのは、ガッシュがバオウを継承した理由を知ったからだ。
それも意図的に引き起こしたのではなく、暴走状態のバオウをゼオンが最大呪文で受け止めその記憶が流れ込んだから。
はっきり言えば、偶然に過ぎない。今の制御しているバオウをゼオンにぶつけたとして、果たしてそれがゼオンに伝わるのか。

「今、ゼオンに会っても説得は出来ぬ……」

クリアの件で、魔界とガッシュの為に殺し合いに乗っているのであれば、対話は可能だろう。
だがバオウと父親を巡った件であれば、ゼオンは感情的になりかつ修羅の一面がより一層際立っている。
口で話しても、対話が成り立つ相手ではない。
恐らくは、そのまま殺し合いへと発展するだろう。

「私もユージが気になるわ。場合によっては、殺し合いに乗っているかもしれない」

ヒース・オスロに飼われていた時期であれば、積極的に他者を殺め殺戮を繰り返していることだろう。
一姫にとっては何よりも優先すべきは弟の風見雄二。
他者にとっての脅威であり、仇であろうとも死なせる気はない。だからこそ、早期に合流し状況の把握に務め、場合によっては無力化し監視下に入れたい。
更に言えば、より懸念すべきはタイムパラドックスだ。ここに呼ばれた過去の雄二が死ねば、現代の一姫の時間軸の雄二はどうなるのか。
別の世界として何の干渉もなく、枝分かれした世界線として存続するのか。
あるいは矛盾を消化する為に、現代の雄二が消えてしまうのか。
多くの血で汚してしまったその罪諸共。

────もしかしたら、その方がユージにとっては。

「とにかく、一旦方針を再度考え直すべきだと思うわ」

過った破滅的な救済に結論を出さず。
一姫は雄二を死なせないという己のエゴを優先し、ガッシュを急かす。

「……梨花達を見に行かぬか?」

合意をしながら、ガッシュは一つの要望を出す。
港に向かった梨花とサトシとの再合流だった。

「……」

時間はあまりない。
放送一時間後にグレイラット邸で、フリーレン達と合流の手筈だ。
一姫の足では急いでも、そんな寄り道をしては間に合わない。
だが、ガッシュがマントで抱えて走れば別だ。方角的に大きく回り道をするわけでもない。
ただフリーレンとの合流を疎かにするほどかと考えれば、素直に首を縦には振れない。
結局得られるのは北条沙都子が殺し合いに乗ったという証言のみ。
沙都子を追放し糾弾するのであれば、これ以上ない証拠だが。
メリュジーヌを連れている以上、そうなれば力づくで襲われ交戦する羽目になる。
そもそもの話、警戒対象ではあるが、一姫の目的は雄二の安全の確保と殺し合いからの脱出。
沙都子だけに気を取られるより、早期に脱出手段を見付けるほうが先決だ。
決して、一度でも裏切る相手を信用することはない一姫だが。
脱出手段というカードを手にすれば、沙都子相手の駆け引きには使える。結果的には沙都子を抑制する手段にもなり得るのだ。

「少しだけよ」

逡巡の末、一姫はガッシュの要望を快諾した。
不要と断じれば即斬り捨てる冷徹な一姫でも、この殺し合いという極限下で極端な行いをすれば自分の首を絞め、挙句の果てに雄二にまで追求が及ぶ可能性を考慮しない程愚かでもない。
特にガッシュの善性をこの殺し合いで最も間近で見てきたのだ。
この少年には、カリスマがある。優しき王になると豪語するだけの器はあるようだ。
その善性に惹かれ、大勢の対主催と友好的な関係を築けるのは後々大きなメリットになる。

「あくまで、港の様子を見るだけよ。そこに梨花達が居なくても、そのままグレイラット邸へ向かう。
 良いわね?」
「分かっておる」

ガッシュの方針に従う方が一姫にとっても得だと判断したまでのこと。




────




間に合わない。
絶対に手遅れだ。
小さな体で、持ち前の俊敏さを活かし確定された結末へと抗う。

「ピカ、ピ……」

最強の竜種という、伝説のポケモンにも匹敵する強敵との交戦を後にして。
疲弊が蓄積された肉体は休息を求める。
肉体も精神も。既にピカチュウは限界を迎えていた。
目にも止まらぬ初速から、素早く駆け抜け相棒の危機へと一秒でも早く辿り着くために走る。
分かっている。どれだけ早く走っても、精々短縮できるのは良くて数分。
それすらも希望的観測だ。

「……ピ、カァ!!」

きっと、全ての決着は着いている。
もう全てが終わっている。
分かってる。分かっているが、意識がある限りそれを認める事は出来なかった。

「ピカピ……」

全身が痛い。戦闘のダメージか全速力で一エリアをぶち抜いて走り続けた影響か。
上がった息はまるで収まらず、何度も深呼吸しても苦しさが和らぐことはない。
こんな時に、誰かに襲われでもしたら何も抵抗もできない。
だから、隠れた方が良い。そう理屈で分かっていながら、今のピカチュウにとっては些細な事だった。

「……ピカピ、ピカ――チュウ!!!」

なけなしの電撃を放つ。
1000万ボルトはおろか、十八番の10万ボルトにすら遠く及ばない。
それでも人に撃てば、骨が透けて見える程の電圧。
常人ならばともかく、ずっと旅を続けて、冒険を重ねて。
色んなものを一緒に見て。色んな困難も一緒に乗り越えて。
この先もまた、ずっと旅をする筈だった相棒には何てことない電撃だ。

「ピカ……ピカピ、ピカ…ピ……」

きっと疲れて寝ているだけだ。こうして起こせば、もう少し寝かせてくれよとピカチュウに怒りながら飛び上がってくれるだろう。
何でも良かった。怒ってくれても、これで嫌われてもいい。
だから、何か言って欲しかった。何でも良いから、口を動かして声を掛けて欲しかった。

「……ピカチュウ? ピカ、ピカピ?」

揺すっても、突いても、痺れさせても。
何も言ってくれない。
まるで石みたいだ。生き物じゃなくて、物になってしまったように。
一つだけ物と違うのは、サトシの周りに赤い血だまりが出来てしまっていること。

「ピカチュウ……」

そう。
間に合わなかった。
自分は間に合うことが出来なかった。
相棒の危機に、友達のピンチに。死の間際に看取る事も叶わず。
大敗を期し、そして取り返しの付かない大事なものを喪ってしまった。
自分だけが生き延びてしまった。本当に守りたい大事なものを守れずに。最後まで戦うことも出来ずに。

「梨花、サトシ……! どういうことなのだ、これは……!!」

自分とよく似た声の少年。
数時間前に出会った、ガッシュという男の子の声だとピカチュウは思い出した。



────間に合わなかった。


それはピカチュウと同じく、ガッシュも惨状を見て抱いた後悔だった。
腕を欠損した梨花と、胸を貫かれたサトシに横たわった遺体。
ピカチュウの扱う言語の意味は分からないが、身振り手振りでそれをやったのはあのメリュジーヌという騎士だと一姫とガッシュは察する。
アシュロンに匹敵する程の竜種にして、高い実力を持つ最強の妖精騎士。
世界を制した最強のポケモンとトレーナーである一匹と一人ですら、及ばないのも無理からぬこと。

「すまぬッ……私がもっと早く、ここに来ていれば!」

マサオという少年の探索に時間を費やし、見つける事も叶わず、自分達と志を同じとする仲間を死なせてしまった。

「私の判断ミスよ」

メリュジーヌを侮っていた訳ではなかった。
だが、沙都子が口封じに港へ引き返す可能性は低いと考えていた。理由はあれだけ悪事をばら撒かれた以上、一気に移動し一姫達とまだ未遭遇の参加者の信用を買う方が話が早い。
いくらメリュジーヌが強いと言えども、悪戯に戦いを吹っかけるやり方は沙都子も好まない。
彼女自身は普通の人間の域を出ないのだから。
だからこそ。沙都子がメリュジーヌと別れ、港に襲撃を掛けたのは想定外。
彼女の唯一にして最大の戦力だ。それを手放し、別行動を取るなど。

(別の手駒を増やしたみたいね)

候補は、場所的にあの悟空と名乗る少年か。あるいはモクバ達が出くわした中島という少年の容姿を借りた怪物か。
厄介なのは、沙都子に切れる手札が増えた。しかも、恐らくはメリュジーヌより扱いやすく信用のおける完全な支配下に置いた相手。
でなければ、その恐れは極端に低いと言えど、返り討ちに合うか、そうでなくとも深いダメージを負うなどして再合流出来ず逸れたままになる可能性も考慮せず、メリュジーヌを単身で突っ込ませる大体な手は打たない。
最悪の場合、メリュジーヌが居なくとも沙都子は戦力を最低限維持できる環境を手にしている。

(面倒ね。早めに手を打たないと……)

まだ脱出の目途も立っていないというのに、厄介なマーダー同士で手を組まれるのは最悪だ。
それだけに意識を割かれる訳にはいかないが、彼女らの妨害も視野に入れ、脱出方法を模索しなくては。

「ガッシュ、分かっているわね」

酷だとは分かっていた。
一姫も人の心が分からない訳ではない。
このピカチュウという生物も、人と同じような高い知性を持っているのも確認している。
その上で、ここで立ち止まる訳にはいかない。
最愛の弟の為でもあり、自分自身が生き延びる為でもあり、この場の罪のない子供達が一人でも助かる為でもある。

「……ピカチュウ、お主は私のランドセルに入るのだ」

首輪の回収。
それが意味するのは、二人の首を落とすこと。
一姫もガッシュもまだ耐えられる。気持ちのいいものではないが、首輪のサンプルは必要だ。
関わった時間も非常に短く、だからまだ割り切れる。
でも、ピカチュウは違う。
一姫やガッシュとは違う。サトシと共に長い時間を積み重ねた掛け替えのない友だ。

「ピカ」

抱き上げようとしたガッシュの手を拒むようにして、ピカチュウは顔を振る。

「お主、何故……」

ピカチュウは尻尾を光らせ硬質化させている。
そう、確かサトシはアイアンテールと呼んでいた。
それを意味することを、分からない程、ガッシュは幼くない。

「……もう、よいのだ」

優しく、僅かに震わせた声を出す。

「お主はもう、戦わなくて良いのだぞ」

悟空と名乗る少年相手に、共に戦った時から分かっていた。

「ずっと、この者の為に戦っていたのだろう」

────これからオレの体に何が起ころうと、オレを振り返るな。

そして知っていた。
信頼を置き、絆を積み上げたパートナーの死を。
どれほどの絶望と空虚さと悲しみに支配されるか、短い間だがガッシュは痛い程経験した。
もしも清麿が蘇生せず、本当に死んでいたら。
魔本を読めるパートナーの有無に関わらず、ガッシュはあの後も戦えていたか。

「ピカチュウ……」

「お主、だが……」

ピカチュウは技を解かなかった。
涙を浮かべたまま、サトシの帽子だけ前足で掴んで────。


───ピカチュウ!お前は、俺の代わりに……みんなを助けてくれ。


最高の相棒の最後の願いを叶える為に。

もう二度と、声を交わす事が出来なくとも。
もう二度と、目覚めなくとも。
こうしろと、サトシが言う事をピカチュウには分かっていたから。



「すまぬ……」



拳を強く握りしめ、ガッシュは頬を涙で濡らす。
尽きる事のない後悔と共に。
こんな殺し合いに乗り、何人も殺めるメリュジーヌへと憤り。
戦うことを望まぬ者に、それを強いられせ、神を気取りほくそ笑む乃亜に怒りを滾らせ。
ガッシュはその小さな肩を震わせるしかできない。

「お主は少し、休むのだ」

「ピカ……」

ガッシュの差し伸ばした腕を、今度は拒むこともせず。
そのままピカチュウは意識を失ったまま、丁寧にランドセルの中に入った。

「梨花」

ぽつりと、少し前までの同行者の名を呟き、今は自分の手にある首輪に視線を落とす。
特別、親しい友という訳でもなかった。死ねばいい訳でもないが。
ただ組む相手としては、妥協点をあげられる程度の間柄だ。特段、その死を引き摺るような存在ではない。

「……後悔してるわ。こんなに後悔したのは、大分久しぶりよ」

だが、梨花が港に行くと言い出したあの時、もっと自分にやれることがあった筈だ。
もっと沙都子の動向を予測することは可能だった。
出来ることがあったのに。一姫がもっとも悔しいと思う後悔を。今、彼女はしていた。
だから、これは失敗だ。それも特大級の大失敗だろう。

「それでも、約束するわ。失敗を失敗のまま終わらせないと」

もう今は居ないかつての同行者に向けて。
きっと、この娘は諦めが悪いだろうから。
何せ遺体の背には損傷が一つもなかった。最後まで、何かしらの糸口を掴もうと足掻いていたのだろう。
なら、その糸口を引き継ぎ掴んで手繰り寄せ、結果を出すのは天才たる己の仕事だ。

「ガッシュ」

「ウヌ!」

首輪を回収した二人を埋葬し、二人は港に背を向けた。



【G-2/1日目/早朝】

【ガッシュ・ベル@金色のガッシュ!】
[状態]全身にダメージ(小)
[装備]赤の魔本
[道具]基本支給品、ランダム支給品0~2、サトシのピカチュウ&サトシの帽子@アニメポケットモンスター
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。
0:梨花、サトシ……すまぬのだ。
1:マサオという者と赤ん坊は気になるが、今はグレイラット邸へ向かう。
2:戦えぬ者達を守る。
3:シャルティアとゼオンは、必ず止める。
4:絶望王(ブラック)とメリュジーヌと沙都子も強く警戒。
[備考]
※クリア・ノートとの最終決戦直前より参戦です。
※魔本がなくとも呪文を唱えられますが、パートナーとなる人間が唱えた方が威力は向上します。
※魔本を燃やしても魔界へ強制送還はできません。


【風見一姫@グリザイアの果実シリーズ(アニメ版)】
[状態]:疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3、首輪(サトシと梨花)×2
[思考・状況]基本方針:殺し合いから抜け出し、雄二の元へ帰る。
0:グレイラット邸へ向かう。
1:首輪のサンプルの確保もする。解析に使えそうな物も探す。
2:北条沙都子を強く警戒。殺し合いに乗っている証拠も掴みたい。場合によっては、殺害もやむを得ない。
3:1回放送後、一時間以内にボレアス・グレイラット邸に戻りフリーレン達と再合流する。
4:可能な限り早くに雄二を見つけ出す。
[備考]
※参戦時期は楽園、終了後です。
※梨花視点でのひぐらし卒までの世界観を把握しました。
※フリーレンから魔法の知識をある程度知りました。
※絶対違うなと思いつつも沙都子が、皆殺し編のカケラから呼ばれている可能性も考慮はしています。


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