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悪魔は神には頼らない

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鬼舞辻無惨は激怒した。
必ずあの邪知暴虐の海馬乃亜を抹殺する事を、硬く硬く硬く金剛石よりも固い十七回目の決意を固めたその時だった。


「一体私が何をしたァアアアアアアアァアアアッッッ!!!!!」
「やかましいんだよ、劣等ォオオッ!!!!」


魔神王に食いちぎられた心臓と脳の再生をやっと終えて。
この殺し合いから脱出するのに重要な手がかりである、海馬モクバの身柄を抑えるべく移動していた最中の事だった。
突然白髪に眼帯の、異装の装いをした通り魔に何の脈絡もなく襲い掛かられたのは。
そう、狂犬。今しがた無惨を銃の連射と拳で滅多打ちにしている少年は、無惨にとって異常者である鬼殺隊以上の狂った狗だった。



「全く、屍が欲しいなら何前何万何億だろうと殺してやるのに──」



苛立つ。
苛立つ。
苛立つ。
“黄金“の近衛である大隊長、ウォルフガング・シュライバーの精神は、
この殺し合いの開幕から最高峰にささくれ立っていた。


「一体全体乃亜の奴は、何を考えてるんだ?」


雷より負ったダメージは既に癒した。
体を包む疲労感も、黄金錬成によって取り込んだ魂を薪にして回復した。
その所要時間、おおよそ数分。驚異的なスピードでシュライバーは復調した。
だが、シュライバー本人の認識と考えから言えば──なんだそれは?と。
憤慨せざるを得ない事実だった。


白騎士(アルベド)は傷など負わない。
いついかなる時もその速度で標的を圧倒し、見目麗しい様相を保ったまま虐殺に興じる。
英雄(エインフェリア)は疲れない。
そもそも魔人の身体を得る前から、シュライバーという少年は疲労とは無縁の肉体だった。
何時間戦い続けようと、何人殺そうと、その肉体に疲労の概念は存在しなかった。
にも関わらず───この島ではシュライバーがその速度を発揮すればするほど、
疲労の二文字が纏わりついてくる。
ある一定の閾値を超えると、体が水を吸った衣服の様に重くなるのだ。


「ハイドリヒ卿の元で行う戦争なら、こんな事にはならなかった」


どうせ最後に勝つのは自分なのだから、建前だけの制限など撤廃してしまえば良い。
殺して欲しいのなら、どうして自分に全力を出させるのを良しとしない。
忠誠を誓った黄金の君であれば、こんな面倒なハンデなど設けない。
ただあるがままに、己の魔名を轟かせ、狂い踊る事を良しとするのに。
せめて形成さえ自由に開放できたなら、三十秒もかからずこの島を焦土としてやるのに。
殺す。自分に窮屈で不快な思いをさせた海馬乃亜は必ず殺す。


「いい加減死ねよ、ベイにも劣る蝙蝠が。僕の手をこれ以上煩わせる事は───
君の下らない人生における、一番の大罪だとまだ理解できないのかい?」


愛用の銃を破壊された瞬間から、苛立ちは治まるところを知らない。
取るに足らない、戦争の二文字も知らない小僧共に不覚を取ったなど認められない。
その事実を塗りつぶすには、新たなる殺戮。
殺戮兵器としての自身の性能の証明に他ならない。
端的に言って、恥をかいたガキ大将がいじめられっ子を叩きのめし、下がった株の回復を図るのと全く同じ思考回路だった。



「黙れ……品性下劣のゴミ屑が………!」


常人なら子供どころか大人でも三度は卒倒しそうな殺意と憤怒を向けられて。
対する白の外套に身を包んだ少年…否、男は自身の死を求める言葉を一蹴した。
当然だ。なぜなら彼はシュライバーに劣らぬ魔人。
全ての鬼の始祖。鬼神。鬼舞辻無惨その人なのだから。
憤怒に狂う白狼を前にしても、精神的には一歩も劣らぬ強固な自我を備える。
そして、無惨もまたシュライバー以上に憤慨していた。一言で言ってキレていた。

何故自分がこんな目に遭わなければならない。
鬼舞辻無惨は神も仏も信じてはいない。
そんな者は脆弱な人間が作り上げた妄想でしかない。
この地に招かれる以前、千年間の生涯で数えるのも馬鹿らしく成程人を殺してきたが、
未だ神も仏も無惨の前に現れた事はない。
そして、あぁ──やはりこの地においても神などいないか、役立たずだと確信できる。
自分より余程裁かれて然るべき殺人を是とする狂犬を、のうのうと生かしているのだから。
神や仏がいるのなら、この狂犬を今すぐ何とかしろ!!
無惨の憤りは留まるところを知らなかった。


「誰の許しを得てこの私の打擲に及んでいる。身の程を弁えろ狂人が!」
「身の程ならこれ以上ない程弁えてるよ。僕は英雄だ。英雄には怪物退治が付きものさ。
とは言っても、君程度の劣等じゃ誇るのも馬鹿らしい陳腐な一節にしかならないだろうけどねェッ!!」


言葉と共に、シュライバーの手の中の魔銃より轟音が轟く。
無惨の人外の移動速度を以てしても、撃たれてからの回避は不可能。
腹の底に響く鉄の号砲と共に、戦車砲の斉射のような魔弾が無惨に襲い掛かる。


「この、乃亜の走狗如きがァ……っ!」


凄まじい威力の銃弾だ。携帯火器の火力とはとても思えない。
その上、今まで銃弾の装填作業をしている様子が一度もない。
つまり、大砲を超える威力の銃弾を、無尽蔵に目の前の通り魔は放っている事になる。
海馬乃亜は何をやっている。
支給品なのか血鬼術の様な術理なのかは知らないが、こんな無法をなぜ許している。
無能無能無能無能無能無能無能無能無能無能。制裁制裁制裁制裁制裁制裁制裁制裁制裁。
撃ち込まれた銃弾が三百を数えた頃には、脳内がその二つの言葉に埋め尽くされていた。


「チッ……!」


しかし、無惨の思考を怒りで染め上げる猛攻も。
当のシュライバーには、ただただ不満が募る結果にしか繋がっていなかった。
まず単純に、自身の武装の双翼を担うルガーの拳銃が破壊されたことによって火力が半減している。
もし普段の二丁拳銃が健在であれば、撃ち込んだ銃弾はとっくに千を超えていた。
標的の黒円卓の魔人に匹敵する速度を考慮しても、今の自分の制圧力は失望を禁じ得ない物である事は間違いない。


「本当に……忌々しい………!」


尖った犬歯を軋ませ、相対する白い外套を纏った少年を睨みつける。
自分にこれだけ銃弾を撃ち込まれているにもかかわらず、標的は健在だった。
感じる気配は、同僚であるヴィルヘルム=エーデンブルグ、ガズィクル・ベイ中尉にとても良く似ていた。
だが、ベイ中尉と比べればその強さは絶対に劣る。
黄金に愛される白騎士である、自分と比べれば絶対的な差があるものの。
ベイであればここまで一方的に自分に遅れは取らない。
彼が創造を開放すれば、自分に少しは追いすがる筈だと、シュライバーは評価していた。
翻って目の前の吸血鬼もどきの蝙蝠男は白い外套を頼り、サンドバッグにされるのみ。
防戦一方で、自分に攻撃することすら殆どできていない。
時折聖遺物と見られる刀から水流を出して攻撃してきたが、狙いは雑の一言。
当然掠りもせず、数回繰り返した後無惨は諦めたように刀を仕舞った。
それを目にすれば、最早戦争という死の舞踏の踊り手としてはとても見れない劣等。
シュライバーが少年へそう評価を下したのは無理からぬ話だろう。
そして、だからこそ憤る。



「邪魔な白服さえなければ……とっくに陽の下に放り出してやるのに………!」


そんな劣等を、未だ始末できていない自分に。
ルガーの喪失による火力の半減も関与している。
しかしそれ以上に標的の纏う白の外套が堅牢なのだ。
恐らく、何某かの聖遺物に匹敵する代物なのだろう。
その防御力を、シュライバーは未だ突破できていない。
直撃した銃弾であれば外套を削ることもできるが、すぐさま再生してしまう。
そして、着ている吸血鬼擬きも生命力だけは黒円卓の魔人に匹敵する水準。
一言で言ってタフだった。それ故に、未だシュライバーは殺害を遂行できていない。
劣化ベイは自身に攻撃することすらできないが、
自身もまた、頑健な劣等を殺しきることができない。
結果、訪れるのは千日手。互いに決定打が無い泥仕合。


「さっさと僕の勝利(わだち)になって消え失せろ、劣等ォッ!!」


絶対回避。その不条理を以てあらゆる攻撃をシュライバーは回避する。
それは敵対者にとって無敵の盾に等しい。
だが、矛の視点では黄金の近衛。三人の大隊長の中で彼は最も後塵を拝す立ち位置だ。

世界全てを灼熱の砲門に内包してしまうエレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグ、
ザミエルであれば、覇道を示す業火の爆撃で外套が再生する暇もなく敵手を焼き尽くし、
その果てに怪物を陽の光の下へと追いやっただろう。

防御不可能な死そのものの一撃を有するゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン、
マキナであれば、小賢しい外套など幕引きの一撃で貫き、
その内側にいる敵手の肉体をも、強制的に終焉に導いたはずだ。

翻ってウォルフガング・シュライバーも攻撃力の平均値こそ二人に並ぶ水準であるが。
それは取り込んだ魂の総量が桁違いである事実に担保されたものだ。
他の大隊長と比べれば、火力の最大値という点では能力の性質上どうしても劣る。
その欠点を埋めるのが、町一つを軽く焦土とする形成、魔人の愛機である軍用バイク。
如何に劣等の身に纏う外套が頑丈であっても、自身の形成であれば確実に吹き飛ばせる。
シュライバーはそう見ていたし、事実その見立ては正しかった。
一撃の吶喊で地方都市を焼け野原にする彼の形成であれば、一度目の突撃で外套を吹き飛ばし、二度目の突撃で敵の総身を微塵に砕けただろう。
だが、乃亜のハンデで形成はあと数時間は封じられている。無い物ねだりでしかない。
この程度の劣等を殺しきれぬ姿を黄金の君主に見られれば、無能の誹りは免れないだろう。
シュライバーは圧倒的優位に立ちながら、終始歯噛みする思いだった。


「いい加減にしろ、この異常者がァッッッ!!!」


対する無惨もまた、怒りのボルテージは指数関数的に上昇し、怒髪天を突いていた。
これまで散々射的の的にされ、沸点が瞬間湯沸かし器並みに低い彼が狂わぬ筈もない。
防護服の武装錬金、シルバースキンは凶獣からしっかりと無惨の命を守っていたが。
完璧に守り切れている訳でもなかった。
回避しきれず、受けた銃弾は容赦なくシルバースキンの装甲を削っていく。
例え装甲が削られても、即座に自己修復できるのがシルバースキンの強みである。
しかし人間と無惨には決定的に違う条件が一つあった。
それは、日光に当たれば消滅してしまうという特性だ。
じゅう、と肉が焼ける音が無惨の耳朶に届く。


「乃亜ァアアアアアァアアアア何をしている!!」


着弾と共に装甲が削れ、日光が容赦なく雨合羽の隙間から肌をソテーにする。
陽光が鬼を焼き尽くすには十数秒程の猶予があるため、致命には至らない。
そして無惨の肉体が限界を迎えるまでに、シルバースキンは再生を果たす。
さっきからこれの繰り返し、戦闘開始から無惨の肉体は陽光に蝕まれ続けている。
この時点で、無惨の身に纏う鎧に下す評価は決まっていた。
担い手を保護する責務も果たせぬ欠陥品のガラクタ。使えぬ愚物。
こんな物より、もっと高性能な鎧を用意すればいいものを。
いや、それよりも先にあの凶獣の制限をもっと強めるべきか。
不満は数え切れぬ程あるが、この時無惨が言いたいことは一つだった。



「主催者だというなら、責務から逃げるな乃亜ァアアアアアア!!!!」


勝手に拉致し自分に首輪を嵌めて、殺し合いを強いるだけでも万死に値するが。
呼ぶだけ呼んでおいて管理も放棄など、億死を超えて兆死でも足りぬほどだ。
無惨は怒った。全身の沸騰した血が頭に集まり、顔色が赤黒く変色する。
満ちた怒りを噴火させるように、彼は反撃の咆哮を響かせた。


「調子に………乗るなァッ!!」
「おっと」


ドン!という旋律が大気を駆け巡る。
ここで初めて、シュライバーが守勢を取った。
射撃をいったん中断し、後方に目にも映らぬ速度で飛びのく。
大気に満ちた音の正体。それは無惨が行った攻撃だった。
少し先に未来にて鬼殺隊を苦しめた衝撃波を、眼前の狂犬に向けて放ったのだ。
僅かでも掠れば腕や足が吹き飛ぶ威力である衝撃波を、波の様に広げ制圧する。
それを狙っての攻撃であった。


「……………………」


そんな無惨の思惑を苦も無く飛び越え。衝撃波を刹那で躱し。
果たしてシュライバーは暫しの間苛立ちも忘れ、怪訝な顔で無惨を見つめ尋ねた。
目の前では白い外套の敵が蹲っている。当然ながら、自分が何かをした覚えはない。



「………何してるんだい?君」
「~~~~~!!!!!」



無惨自身を起点として円状に広がる衝撃波。
成程シュライバー相手にカウンターを狙うなら、最適解ではあったのだろう。
だが、この時無惨はシルバースキンを身に纏っている。
この武装錬金は裏返して使う事で、最強の拘束具となるほど内側も頑丈なのだ。
そんな物を身に纏った状態で衝撃波を出せばどうなるか。
答えは簡単だ。内側で跳ね返った衝撃波が放った本人を切り刻む。
それが、たった今鬼舞辻無惨が招いた惨事の原因だった。
挙句衝撃波がシルバースキンの内側を切り裂いた事で日光に焼かれ、のたうち回っている。
日光対策に身に着けていた雨合羽など、襤褸切れになってしまっていた。


「ハァ……君さ、自分より強い相手と戦ったこと、殆ど無いんじゃない?」


何だかバカバカしくなってきたと、呆れた様子でシュライバーは無惨に指摘を行う。
実際、その指摘は正しかった。
日輪の剣士、神の寵愛を受けし者、鬼舞辻無惨にとっての怪物。
始祖の呼吸の担い手を除けば、常に無惨こそ最強の存在だった。
鬼の序列では頂点に位置する上弦の壱ですら、無惨には及ばない。
ただ無造作に腕を振るうだけで、自身の命を狙う異常者たちの肉体は粉砕する。
彼は自身の存在を最も完璧に近い生物だと考えていたが、概ね間違っている訳でもない。
もう一度述べよう。
日輪の寵児の没後、彼は大正の闇において紛れもなく最強の存在だった。
しかしだからこそ、自身に匹敵する存在との交戦経験が彼には圧倒的に不足していた。
鍛える事すら女々しいと肉体の研鑽も積まず、血鬼術を高める事もしない。
更に乃亜のハンデにより肉体分裂の逃走すら封じられれば、自爆の不様もやむなしだろう。


「黙れ……痴れ者が…………!!」


だがそれでも、無惨の心は折れない。
これまで相対者の心胆を凍らせてきたシュライバーを前にしても。
退かず。媚びず。省みず。
外套の下から射抜く様に殺気をぶつける。
だが、幾ら無惨が睨みつけようと、シュライバーにとっては不快害虫の威嚇でしかない。
冷え切った視線で地を這う蛆虫を見つめながら、シュライバーは告げる。



「もう潮時だろう。さっさと諦めて死ぬといい。
僕の様な英雄に討たれるんだ、君みたいに下等な怪物には過ぎた栄誉じゃないか」


どうせ勝ちの目は君にはない。
怪物を殺すのは、いつだって英雄なのだから。
既に夜は明けた。闇の中に生きる怪物は闇に還る時間だ。
英雄として怪物を滅ぼすべく、チェックメイトの宣言を果たすべく。
シュライバーはこの地に訪れて得た武装を展開する。


「────グランシャリオ」


無惨の身に纏う白の外套と対になるような、漆黒の全身鎧を身に纏い。
白騎士は、獲物を狙う餓狼の如く姿勢を深く沈みこませた。
これ以上時間をかけるつもりはない。次の一撃で終わらせる。


「まずその面倒くさい装甲を吹き飛ばして、その後存分に日光浴をさせてあげるよ」


シュライバーの考えた詰みへと繋がる一手は、実に自身の速度に物を言わせた物だった。
グランシャリオで身を包み、最高速度で相手にぶつかる。それだけだ。
単なる突進と言えばそうだが、シュライバーの速度でそれを行えば。
それは防御不能、回避不能の破壊槌に等しい。
ここまでシュライバーが放ってきた銃弾は強力であったが所詮は点の攻撃。
無惨本人が回避する割合も考えれば、決定打にはならなかった。
故に、吶喊で一時的に白い外套を一度大きく吹き飛ばし、即時修復不可能な損傷を与える。
その後、こじ開けた風穴が塞がる前に、修復スピードを超える銃弾を撃ち込み日光の下へ引きずり出す。
単純であるが故に、速度で圧倒的に劣っている相手には極めて対処が難しい一手であった。


「泣き叫べよ劣等。ここに神はいない」


語る言葉に、怒りの彩はもう無かった。
怒りを向けるに値しない夜魔もどき、目の前の標的はシュライバーにとって既にその程度の存在なのだ。
最短距離、最高速度で殺戮兵器として駆動し、劣等の死と言う結果を導く。
今まさに羊を貪らんとする狼のように姿勢を低く、構えを取る。


「───何が」


差し迫った死を目前にして。
鬼舞辻無惨は逃げる素振りを見せなかった。
どうせ、ただ逃げただけではこの狂犬から逃げ延びる事は出来ない。
肉体分裂は封じられている。となれば、逃走の為には賭けに出る他なかった。
日光に灼かれた肉体の修復は既に終わっているため、立ち上がるのに問題はない。
全身に力を籠め、眼前から目を逸らす事無く始祖の鬼は立ち上がる。


「何が英雄だ」
「あぁ、まだ囀れたんだね。いいさ、これが最後だ。
なんなら好きに抵抗しても構わないよ。どうせ無駄だから」


揺さぶりなど無意味。
シュライバーにとって劣等の口から出る言葉は言葉ではない。
家畜の発する鳴き声だ。豚の嘶きを不快に感じても、言葉を交わそうとする者などいない。
無惨の言葉は、シュライバーに届かない。
だが、始祖の鬼にとって届くも届くまいもどうでも良かった。
始めからそんな事は関係ないと言う様に、これまでの生に従い感情をぶつける。


「自己を他人に依存して存在し、威勢がいい様に見えて常に逃げ腰の戦闘、
不死の英雄が聞いて呆れる。一言で言って、醜い」



戦闘の経験値に劣ると言っても、無惨の観察力は冴えを見せる時もある。
それを裏打ちする様に、自爆の際も無惨は敵の状態をしっかり観察していた。
そこで彼はある事に気づいた。無惨が衝撃波を放った時、凶獣は回避行動を取ったのだ。
元より当たる可能性がほぼ絶無であるにも関わらず。
シルバースキンから漏れ出た僅かな衝撃も厭う様に飛びのいた。
ここまで無惨は銃弾の豪雨を受け、攻撃する機会はほぼなかったが。
苦し紛れに斬魄刀を振るった瞬間は、何度か存在していた。
その時も、猛攻の影でシュライバーは回避を優先していたように思える。
それに気づいた時、無惨は確信した。


「貴様など私の知る真の化け物には遠く及ばぬ」


目の前の狂犬は、狂ってはいるが日輪の剣士ほど怪物ではない。
あの鬼滅の化身であれば、分裂逃亡を封じられたこの身にここまで手こずりはしない。
乃亜から与えられた欠陥品の防具など。瞬きの間に紙のように切り裂くはずだ。
少なくとも、敵の攻撃の余波にすら怯える臆病者などでは断じてない。
ならば、やりようはある。そこまで思考が行きついた瞬間、無惨に一つの策が浮かぶ。


「貴様は英雄などではない。ただの───臆病な野良犬だ」


策と言う名の賭けを成功させるべく。
それ以上に自分の怒りを知らしめるため、無惨はありったけの侮蔑を突き付ける。
成功しても失敗しても、恐らく次が、最後の交錯となるだろう。
確信と共に放たれた挑発の言葉が、絶殺の意志と衝突を果たす。
挑発を受けた狂乱の魔狼が吐く言葉は、やはり凍てつく様に冷たい物だった。


「そうかい、陳腐に過ぎて欠伸が出る遺言だった。劣等は語彙まで劣等らしい」


今まさに獲物に飛び掛からんとする狼が如く。
無惨が上下左右前方後方何処に逃げようと、確実に捉えられるように。
意識を集中させ、総身に満ちる殺意を漲らせる。
さぁ、我が牙を以て死に絶えるがいい。夜明けの吸血鬼よ───!!


「アハハハハハハハハハハハァ─────!!!」


狂笑と共に。轟ッ!とソニックブームを発生させながら。
悪名高き狂乱の狼が、不遜な愚者の下へと駆ける暴風と化す。
極限域まで時間が圧縮され、コンマ一秒が百万倍へと引き上げられる。
白い外套のお陰で、無惨の表情はシュライバーからは見えない。
だがきっと、恐怖と絶望に彩られた表情をしているはずだ。
現在のスピードは先ほどとは桁違いの、正しく本気の疾走なのだから。
一瞬で防御と回避、共に不可能だと確信させるほどの速度。
その勢いで以て、一気に距離をお互いの吐息すら感じそうな距離まで詰める───!


「───来い、狂犬が」


届いた声に、絶望の感情は籠められていなかった。
シュライバーの想定を超越せんと、鬼舞辻無惨が勝負に出る。
始祖の鬼としての意地で以てして、狂った走狗の肝を抜かんと、一か八かに挑む。


「────な、に?」


シュライバーの隻眼が瞠目した。
無理も無いだろう。先ほどまで外套に頼りきりであった劣等が。
外套を身に纏っていなければ日輪に灼かれ死に至る筈の劣等が。
外套を消失させて、日光の下にその五体を晒したのだから。
想定外の挙動に一瞬呆気にとられ、しかし直ぐに何も問題はないと結論付けた。
邪魔な防護服はこれで消え去った。ならばこのまま敵の身体を砕くことを優先する。
機械のように冷酷無慈悲な判断によって駆動し、腕(かいな)を振り上げて。
そのまま目の前の敵を引き裂きバラバラにせんと────



かかったな。間抜けが。


交錯の刹那。
露わになった鬼の始祖の眼差しは、雄弁に白騎士(アルベド)に向けてそう語っていた。
ウォルフガング・シュライバーに対して、鬼舞辻無惨の勝機はこの刹那を置いて他にない。
視線が交差し、無惨の瞳を見てシュライバーが想起するのは先ほどの喜劇芝居。
吸血鬼もどきの劣等が、自爆した瞬間のこと。
先程は身に纏っていた外套のせいで、英雄を討ち取らんとした怪物の牙は届かなかったが。
しかし、その外套を自ら取り払った今ならばどうか?
不味いと、白狼の本能が警鐘を高らかに鳴らす。
しかし、既に敵を撃滅せんと攻撃態勢に移っていた五体は既に止める事は出来ず。


────死ね!!


ドン!と遠雷に似た爆音と同時に。
カウンターの要領で、無惨渾身の衝撃波がシュライバーに向けて放たれた。
彼の“渇望”の制約を考慮せずとも、ハンデを受けた肉体で受ければ死に至る。
そう確信させるほど、鬼種の頂点の全霊がその一撃には籠められており。


「───ォ、オオオオオオオオッ!!!!!!」


着弾までのコンマ数秒の中で、シュライバーは吼えた。
エイヴィヒカイトの全力使用。創造位階に達さないまま、絶対回避を成し遂げる。
両断しようとしていた腕を引き抜き、慣性の法則を完全に無視し、後方へ退避を行う。
後方へ。後方へ。この攻撃さえ凌げば、自分の勝ちだ。
態々自分から邪魔な甲羅に等しい外套を解いてくれたのだ。たっぷりと料理してやる。

邪で獰猛な必殺の意志を燃料として、白騎士は遂に衝撃波を躱しきった。

さぁ反撃だ。そして今度こそ、この戦いの幕引きを導く。
殺意を胸に拳銃を構え、照準を付けようとしたその時だった。
鬼舞辻無惨の矮躯が、中空を舞っていた。


「待て──」


無惨の取った手は、実に単純な物だ。
挑発を行い、カウンターでシュライバーの殺害を狙うのと同時に。
衝撃波に指向性を付与し、体の角度を調整して前方と足元を狙いうち、推進力とする。
カウンターでシュライバーを殺害できればそれでよし。
出来なかった場合の保険として、空中を飛び逃走する。攻防一体の策であった。


「逃げるなァッ!!」


当然、それに感づいたシュライバーが心穏やかでいられる筈もない。
銃を瞬時に彼方の空に飛んでいこうとする無惨に向け、乱射を行う。
しかしシュライバーが引き金を絞るのに先んじて、無惨はもう一度衝撃波を放った。
魔弾の数々が凄まじい密度の衝撃波に強引に軌道を変えられ、明後日の方向へと飛ぶ。
こうなれば空中疾走が可能な創造位階に達していない現状では打つ手がない。
最後に残った選択肢として白狼の化身を招来するが、銃撃を行ったために一手遅れた。
劣等の肉体が、白狼の巨躯でも届かぬ彼方の空へ消えていく。

油断した。あの臆病者がこんな分の悪い賭けに出るとは。
無惨が消えていった方角を睨みながら、銃を仕舞った。
鋭く尖った犬歯を?み締め、握りこぶしを地面に叩きつけ。
ただの一発で出来上がった十メートル規模のクレーターの中心で、餓狼は怒りを咆える。



「僕に戦争をして欲しいなら……なんでもっと気持ちよく戦わせないッ!!」



【F-4/1日目/午前】

【ウォルフガング・シュライバー@Dies Irae】
[状態]:疲労(大)、形成使用不可(日中まで)、創造使用不可(真夜中まで)、
欲求不満(大)、イライラ
[装備]:モーゼルC96@Dies irae、修羅化身グランシャリオ@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:皆殺し。
0:銃を探す。
1:敵討ちをしたいのでルサルカ(アンナ)を殺す。
2:いずれ、悟飯と決着を着ける。その前に大勢を殺す。
3:ブラックを探し回る。途中で見付けた参加者も皆殺し。
4:ガッシュ、一姫、さくら、ガムテ、無惨は必ず殺す。
[備考]
※マリィルートで、ルサルカを殺害して以降からの参戦です。
※殺し合いが破綻しないよう力を制限されています。
※形成は一度の使用で12時間使用不可、創造は24時間使用不可
※グランシャリオの鎧越しであれば、相手に触れられたとは認識しません。



────武装錬金!!


千年間の内で。
ここまで生命の危機に晒されたことは、耳飾りの剣士に追い詰められて以来なかった。
戦場から離脱し、武装錬金を再展開するのがあと数秒遅ければ。
もしくは、正史と同じく珠代の老化薬を投与されていれば。
無惨の肉体は、日光で消滅していただろう。


「ハァー……ハァー……ぐっ……あ、の、狂犬がァ………」


しかし逃走成功の代償として、無惨もまた満身創痍。
通常の損傷なら一瞬で治すにも関わらず、焼け爛れた肉体の再生が鈍い。
耳飾りの剣士に切り刻まれた時と同じ、痛みと身体に纏わりつく熱がいつまでも後を引く。
それでも暫し時間を置けば完全回復に至るだろうが…
乃亜のハンデを考慮すれば、あと一~二時間は戦闘を行うのは避けたい処だった。


「こんな乱痴気騒ぎに巻き込まれなければ……既に産屋敷を殺し、
竈門禰豆子を喰らって……完全な生物になっていた筈だった………!」


頸の切断すら克服した、最も完璧に近い鬼の始祖。
しかしそんな彼でも、日光は特級の弱点として機能し続けている。
それ故に、無惨は日光の克服をこの千年間悲願として生きてきたのだ。
兎に角、身を休めなければ。

竈門禰豆子も名簿に記載されていなかった以上、無理を押して行動する理由も無い。

それに今襲われれば、死にはしなくとも……例え狂犬に劣る相手でも不覚を取りかねない。
モクバの救援に赴くのも取りやめだ。予期せぬ飛翔により位置も大分離れてしまった。
日光で死にかけた今、直ぐに外に出る気にはならない。
というよりも、何故自分が多大なリスクを抱えて出向いてやらねばならないのか。
護衛してやるのだから、向こうが自分の下に来るのが筋と言う物だろう。
ままならない。何もかもが全くもってままならない。
それもこれも───、


「殺してやる……殺してやるぞ海馬乃亜………!!」


全部、乃亜が悪い。優勝でも脱出でも、顔を合わせた瞬間八つ裂きにしてやる。
そう結論付けて、無惨は近場にある潜伏場所にできそうな施設の選定を始めた。



【B-3/1日目/午前】

【鬼舞辻無惨(俊國)@鬼滅の刃】
[状態]:ダメージ(極大) 、回復中、俊國の姿、乃亜に対する激しい怒り。警戒(大)。 魔神王(中島)、シュライバーに対する強烈な殺意(極大)
[装備]:捩花@BLEACH、シルバースキン@武装錬金
[道具]:基本支給品、夜ランプ@ドラえもん(使用可能時間、残り6時間)
[思考・状況]基本方針:手段を問わず生還する。
0:中島(魔神王)、シュライバーにブチ切れ。次会ったら絶対殺す。今は回復に努める。
1:禰豆子が呼ばれていないのは不幸中の幸い……か?そんな訳無いだろ殺すぞ。
2:脱出するにせよ、優勝するにせよ、乃亜は確実に息の根を止めてやる。
3:首輪の解除を試す為にも回収出来るならしておきたい所だ。
4:柱(無一郎)が居る可能性もあるのでなるべく慎重に動きたい。
5:一先ず俊國として振る舞う。
6:モクバと合流は後回し、モクバの方から出向いてこい。
[備考]
参戦時期は原作127話で「よくやった半天狗!!」と言った直後、給仕を殺害する前です。
日光を浴びるとどうなるかは後続にお任せします。無惨当人は浴びると変わらず死ぬと考えています。
また鬼化等に制限があるかどうかも後続にお任せします。
容姿は俊國のまま固定です。
心臓と脳を動かす事は、制限により出来なくなっています、
心臓と脳の再生は、他の部位よりも時間が掛かります。



092:さすらいの卑怯者 投下順に読む 094:A ridiculous farce-お行儀の悪い面も見せてよ-
時系列順に読む
089:その涙の理由を変える者 ウォルフガング・シュライバー 104:僕は真ん中 どっち向けばいい?
057:くじけないこころ 鬼舞辻無惨(俊國) 101:神を継ぐ男

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