Dog Soldiers
飛び出した鉛弾が標的に喰らい付く。ズタズタになったポンチョコートに抱きすくめられるように、感染者が床に崩れ落ちる。
その亡骸を飛び越え、五匹の犬の顎が迫る。充分に引き付けてから、指に力をこめる。閃光の中、か細い悲鳴が銃声の中に消えた。
硝煙の向こうに、複数の物言わぬ肉塊が重なり合っている。耳障りな呻き声はもう聞こえない。
マシンピストルを降ろし、ハンクは踵を返した。これで、この区画に居た感染者は全て排除したはずだ。空になった弾倉を手早く交換する。
遭遇した二人の男女から情報を聞き出すため、手近なオフィスビルに入ったのだが、この建物にも複数の感染者が当然のように侵入していた。
己一人であるなら無視しても構わない存在だが、今は彼女らの安全を確保せねばならなかった。少なくとも、彼が必要とする情報を持っているかどうかの確認が取れるまでは。
この消費は後々響いてくるかもしれないが、必要経費だとも言える。
サイレントヒル――別行動を取る前に男から聞きだした町の名前だが、心当たりは全くなかった。分かるのはナイト・ホークが待機している可能性が殆どないということだけだ。
ただし、この町に、アンブレラ社に関連する何らかの施設があることは確かだろう。ラクーンシティよりも規模は小さいようだが、ウィルスの漏洩事故が発生しているのだから。
もっとも、己がアンブレラ社の持つ研究施設の所在を全て把握しているわけではない。それどころか、ほんの一握りだ。
雇い主にとって、己は利用価値のある猟犬に過ぎない。猟犬は己の分を弁えているものだ。過信せず、目にみえる事象のみを追いかけていればいい。
知る必要のないものを知ろうとしないことだ。それだけで多少は長生きできる。
問題は、己自身に何の情報も与えられていないことだ。最初に思い至ったのは任務の変更だが、その報せもない。必要最低限の情報すら与えられないことは珍しくもないが、何もないという状況は初めてだ。
何より、新種のウィルスのサンプルはまだハンクの手にある。その回収よりも優先される任務で、且つ何の情報も与えられないものとなると想像することも難しい。
扉を前にしてノックを二つし、かつては事務所だったらしい部屋に入る。
乱れたデスクの列は、町を覆った混乱の爪痕を如実に表していた。観葉植物を備えた室内は合理性と快適さを兼ね備えた構成になっており、職員への細かい心配りが想像できた。
しかし、今は、フロアタイルには赤黒い汚泥がこびり付き、デスクの上には血糊のような物が広がっている。
男は一番手前の席に腰掛け、女はその横に立っていた。女は机上に広がる物体を調べていたようだ。ハンカチで指先を拭っていた。
両者とも戻ってきたハンクへと顔を向けている。
「一通り片付けてきた。質問に答えてもらえますかな? ミスター……」
「カートランドだ。ダグラス・カートランド。彼女は式部人見。あんたは?」
「ハンクと呼ばれています。ミスター・カートランド。サイレントヒルと言われましたが、残念ながら私の記憶にはない町のようだ。どの辺りにある町ですか?」
問いに、カートランドは所属する州や近隣の町の名前を答えた。サイレントヒルは合衆国の北東部にある町のようだ。ラクーンシティが中西部の都市だから、相当の距離を移動していることになる。
観光地とのことだが、こうまで汚染された後では余程の物好きしか集まらないだろう。汚染の程度はどうあれ、町の命は既にカウントダウンに入っている。
通りを闊歩する腐った感染者たちは、その状況に何の痛痒も感じないだろうが。
そのことを哀れと思わないでもないが、いつか終わりと言うものは来るのだ。この町が他の町よりも僅かばかり運が足りなかっただけだ。
気づかれないよう、ハンクはため息をついた。
まず為すべきは、アンブレラ社と連絡を取ることだ。しかし、既存の通信機器がまともに使えることを期待するのも無駄だろう。
アンブレラ社の弄した策によって外部との通信手段は遮断されていると考えていい。無線が故障している以上、町からの脱出が当面の目標になる。
説明を終えて、カートランドが探るように下からハンクを仰ぎ見た。
「あんた、そんな格好をしているが、軍人か何かか? バードウォッチングが趣味ってわけじゃないだろう?」
「傭兵ですよ。この装備は雇い主持ちです」
「……成る程」
当たり障りのない嘘を告げる。カートランドは嘘に勘付いたかもしれないが、その追求をさせる間もなく問いを重ねる。
「ご説明、感謝します。情けない話ですが、迷子状態でね。一番近い町の出口を教えて貰えると助かるのですが」
「……一番近いのは、このビルが面している通りを東か西へ抜けることだろうな」
カートランドは歯切れ悪く告げた。己の言葉を疑っている。そのような雰囲気だ。
式部が肩を竦めたのが、衣擦れの音で分かった。
「彼の情報も当てにならない。そういうことよ」
「というと?」
「これ、外の掲示板で見つけた地図なんだけど、どうも彼の記憶や所持していた地図とは違うようね」
「……見せてもらってもよろしいかな? ミセス・シキブ」
「まだ独身よ。どうぞ」
「それは失礼」
彼女に近寄り、地図を受け取る。ハンクはマスクを外し、直に地図を見た。直に吸う空気は生臭さが漂っており、気分がいいものとはいえない。
そこには湖を中心に置いた町の概要が描かれていた。今懐の中に入っている地図と同一のもののようだ。風変わりなテーブルクロスだと踏んでいたのだが違ったらしい。
遊園地や病院、警察署といった公共的なものから、個人の宅地まで記載されている。ただし、後者で載っているものは極一部だ。
観光地であることを鑑みると、地元の名士の生家か何かなのだろう。
現在位置をカートランドが告げる。確かに湖沿いに東西へと抜ける道が描かれている。しかし、南へ抜けるルートの方が若干距離が短いように見えた。
「具体的にはどう違っているんです?」
「殆どさ。今居るビルの正面にあるローズウォーターパーク――その地図では単に公園と書かれているが、そこの対岸にはレイクビューホテルとレイクサイドアミューズメントパークがあったはずだった。しかし、この地図には描かれていない。代わりに北岸には町が広がっている。ホテルと遊園地は湖の東岸と西岸にそれぞれ移動しているようだ。それに加えて、トルーカ湖が随分と小さくなっているように思う。これは縮尺が分からないから、なんとも言えないがね」
序でに二人の容貌を確認する。
カートランドは頭に白い物が混じり始めた初老の男だ。好々爺然とした風貌だが、どこか厭世的な空気を纏っている。着崩れたステンカラーコートが、その印象に拍車を掛けていた。年齢の割りに体格もよく、軍か警察に籍を置いているのかもしれない。
式部は東洋人の女だった。最低限の化粧しか施されていない面は、そのせいでより元の整った容貌を際立たせているように思える。切れ長の瞳は知性と、そして我の強さを如実に表していた。
再び地図に視線を戻す。
描かれている施設で目に留まったのは研究所だ。おそらくはアンブレラ社のものだろう。専用の通信機器がまだ生きている可能性はある。ただし、ラクーンシティに倣うならば、ウィルス漏洩事故の中心地でもあるのだ。
装備が充実しているならまだしも、今の状態で向かうのは得策ではない。縦しんば繋ぎが取れたとしても、そこから脱出するのは至難の業だ。自信がないわけではないが、わざわざリスクを冒す必要はない。
ハンクは地図から視線を上げた。
「そこまでとなると、そのサイレントヒルですらないかもしれませんね。しかし……奇妙な地図だ。具体的名称が一つも無い」
「まるで子供が書いたみたいに曖昧な代物よ。最悪、どれもこれもが間違っているかもしれない」
「そうかもな。南へのルートは?」
「道が無くなっているのよ」
式部が苛立たしげに答えた。
「無くなっている?」
「そう。私たちがこの町に入った道は崩落していたわ。道だけじゃなく、大地そのものが絶壁に変わっていた。ほんの少し、目を放した隙にね。頭がおかしくなったと思うでしょうけど」
そう式部は自嘲した。彼女もまた、己の言葉を信じられないでいるようだ。
小さい嘘か、とんでもない大法螺を吹くかが人を騙すためのコツと言うが、少なくとも彼女の様子から嘘を見抜くことは出来なかった。
「あまりに突拍子もないせいで、むしろ信じる気になりましたよ。要は、逃走経路は二通りしかないというわけだ。太陽が昇る場所か、もしくは沈む場所か――」
「こんな事態なのに落ち着いているんだな」
ぼそりとカートランドが呟いた。
「こういったものには多少慣れていますから」
「迷子にか? それとも化け物や死体が動き回る事態にかね?」
射抜くような眼光が向けられる。身体は衰えてきているのだろうが、瞳には年齢を感じさせない強さがあった。
「そんなに私の経歴が気になりますか? どのような返答をお望みで?」
「……すまない。職業病だ。どうにも、嗅ぎ回ることから離れられない性質でね」
カートランドは苦笑を浮かべた。しかし、それでも彼は探りを入れようとしたようだが、その機先を式部の言葉が制する。
「それは的を射た表現じゃないわね。死体は歩いたりしない。死後に筋肉が緩んで痙攣したり、腐敗の進行によって動いたりすることはあってもね。歩き回っている以上、あれは生きた人間のはずよ。ハンセン病のような、悪性の感染症かもしれない」
「……言葉のあやだ。見たままを言ったまでだよ」
「それが間違いになるのよ。言葉にすることで、より一層誤った認識が自分の中で固まってしまう。知らず知らずのうちにね。そんな曇った眼で真実を見通すことなど不可能よ」
カートランドにぶつけられる式部の言葉には怒りすら感じられた。死体が歩いたところで別に構わないだろうが、彼女にとっては大きな問題らしい。何が何でも認めるわけにいかない。癇癪めいた雰囲気が、彼女の言葉の端端に窺えた。
人間は常に、自分に理解できない事柄はなんでも否定したがるものであるというパスカルの言葉は正しかったわけだ。
彼女は科学者なのかもしれないが、その姿は自らの教義を押し通そうとする宗教家の姿と似通っていた。
科学は進歩するが、人間は変わらない。
そんな言葉も頭をよぎる。カートランドのうんざりとした表情が見えた。
式部は一拍置くと、くるりとハンクに向き直った。
「あなたは知っているの? 彼らの正体を」
カートランドとは違う、鋭利な刃物を思わせる眼差しだ。鋭く、脆い――そんな印象を覚える。
ハンクはマスクの裏で苦笑した。言葉に気をつけて答えなければならない。彼女を支持するにしろしないにしろ、余計な時間をとられかねない。彼女との無意味な討論も楽しそうだが、今はそのときではない。
式部に地図を返しながら、ハンクは大仰に肩をすくめて見せた。
「撃てば、死ぬ。知っているのはそれぐらいですよ」
「随分とシンプルなのね」
「だが、一番重要なことだと思いますね。それさえ分かれば、人間か否か、わざわざ区別する必要はない」
「素敵な平等主義だことで。人も"化け物"も、あなたにとっては同じ?」
皮肉げな式部の言葉を、ハンクは身振りではぐらかした。どうやら、彼女のお気に召す答えではなかったようだ。
だが、事実は事実だ。懸命に意識し続けなければ、今このときも目の前に居る彼らと化け物の区別はつかなくなってしまうだろう。
正直なところ、必要な情報を持っていないことを知った今、カートランドたちを撃たない理由は何処にもないのだ。ただ、銃弾二発分の価値が彼らに勝っているだけに過ぎない。
そもそもが武器を持った素人と玄人とを比べるようなものだ。どちらも危険には変わりない。引いては、同じく排除の対象ということだ。
リスクを無くすために得物の選り好みをしないのと同じだ。使える物でありさえすれば、望む結果を導くことが出来る。
ふと思いついて、式部に付け加える。
「……ひょっとするとなんだが――もしかしたら、叩いたり潰したり燃やしたり磨り潰したり削ったりすることにも弱いかもしれない。そうすると弱点ばかりだな」
「………………。そうかもね」
今度は彼女の期待する答えを提供できたようだ。その結果に満足し、ハンクはマスクを被り直した。もう彼らと会話の必要はない。
式部は疲れたように吐息をついて、カートランドに視線を向ける。
「この地図にもモーテルはあるわ。まずはそこでヘザーを探して見ましょう。その後は病院ね」
「異論はないよ……」
カートランドが立ち上がり、部屋を出て行く。ハンクも彼らに続いた。
薄暗い通路の途中で彼らを追い越し、白い格式ばった扉を開ける。
瞬間、骨の髄まで痺れるような感触が奔る。無意識にハンクは膝の力を抜いて、ポーチ床の上に身を伏せた。刹那、連続した銃声が闇を貫いた。ハンクに続いて出ようとしたカートランドの身体が小刻みに跳ねる。式部がカートランドの名を叫んだのが聞こえた。前のめりに倒れこむ彼とすれ違う形で、ハンクは転がるようにオフィスビルの中に戻る。
ほんの一呼吸間を置いて、雨の様な掃射が玄関口を襲った。その躍るように軽やかな咆哮に、外壁と扉が耳障りな悲鳴を上げる。
式部はハンクから一ヤードほど離れた壁に背を預けて座り込んでいる。存外に落ち着いているが、それはパニック寸前の静けさのように見えた。
「……ここからじゃ無理そうね。扉ももう保たないんじゃない?」
「そうだな。一瞬でも気をそらすことが出来れば仕留めるチャンスも出来るがな。奇抜であればあるほど効果が高い」
「私に素っ裸になって踊れとでも言う気?」
僅かに見える閃光に向かって、マシンピストルの引き金を引く。相手の銃撃は些か自己主張が激しすぎる。最初の銃撃は、正確にハンクの身体があった空間を射抜いていた。間違いなく、敵はこの暗闇の中でハンクを捕捉している。その一方で、ハンクは相手の姿を捉えられていなかった。あの時であれば、仕切り直しは可能だったはずだ。アドバンテージは相手にあったのだから。
にも関わらず、敵はこれでもかと己の所在を示してくる。
つまりは――囮だ。
マシンピストルの弾倉を入れ替えた後、ハンクは左手で拳銃を引き抜いた。マシンピストルでの牽制を続けながら、次に起こり得る状況を思い描く。
「……もう少し若くないと」
冷たい夜気の流れ込む屋内の空気が質量を持ったかのように一気に張り詰める。カシンと音を立ててマシンピストルの動きが止まった。
「後ろよ!」
裏の倉庫から侵入したのだろう。足音もなく接近する白い人影に向けてハンクは拳銃を発砲した。
純白の火花が咲き、先頭の影が翻筋斗打って倒れる。その背後から現れるサブマシンガンの銃口――それに向かって用無しとなったマシンピストルを投げつける。同時にハンクは床を蹴った。放られたマシンピストルに射線を遮られ、相手の行動が一呼吸遅れる。その一呼吸の間にハンクは襲撃者の懐にまで踏み込んだ。
相手の動作が致命的なまでに緩慢に映った。一瞬一瞬の出来事が己の命を摘み取ろうと迫ってくる。それを振り切るために、意識は何処までも澄み、冴え渡っていた。
再び構え直された銃身を右手で跳ね上げ、その首に拳銃を引っ掛ける。相手の抵抗に合わせて、身体をひねった。己の気勢の息吹が他者のもののように鼓膜を震わせる。相手の腕に触れながら足を蹴り払い、すれ違いざまに体勢を崩した襲撃者の背後を取った。
銃声が響き、襲撃者の体越しに振動が伝わる。案の定、囮役がこの間に距離を詰めて来ていたのだ。腰を落とし、襲撃者を盾とする。容赦のない銃撃に肉の盾が爆ぜて行く。力なく揺れる腕の隙間から、玄関口に現れた二つの人影に向けて引き金を引いた。
銃弾が肉を食い破った音を耳が拾う。甲高い悲鳴を上げて二人は絶息した。
更なる襲撃がないことを確認してから、まだ息のあった襲撃者の元にまで戻り、ハンクはその喉を踏み砕いて止めを刺した。
ハンクと式部を除いて、この空間で動くものはない。
仕留めた獲物を確認する。襲撃者たちはハンクと瓜二つの恰好をしていた。間違いなく"U.S.S."の隊員だ。彼らが身に着けた防弾ベストにはどれも醜い爪痕が刻まれている。戦闘の末に負ったものだろうが、防弾ベストの役目が失われるほどの大きさと深さだ。これで命に届かなかったのだから、余程このチームはついていたと見える。
敢えてこちらを狙ってきたことから察するに、彼らは生存者の抹殺指令でも受けていたのだろう。問題は、同胞にまで銃口を向けてきたことだが――。
ふと、彼らがこちらの正体に気づく時間も満足に与えられなかったことに気付く。
結局、彼らの運はそこで尽きていたのだ。
幸運は続かない。一度は防弾ベストに救われたのかもしれないが、二度目はなかった。単にその程度のことだ。
ブーツが床を叩く硬音。その足音に振り返ると、一度出て行った式部が戻ってきていた。彼女は沈んだ声でカートランドの死を告げた。
式部の息は上がっていた。どうやらカートランドの死体を、せめて中に入れてやろうとしたようだ。結果は無駄な努力に終わったようだが。
死体はもう肉の塊でしかないというのに、感傷的な女だ。
式部はハンクの足元の死体に目を向けた。
「……お知り合い?」
「なんだろうが、知らないな」
ふと興味が湧き、足元の死体からマスクを剥ぎ取る。黒髪の壮年が、精気のない目を見開いていた。フェイスペイントでも施したのか、塗料か何かの汚れが目元や口元にこびり付いているのが分かる。
やはり見覚えはない。そのはずだ。誰一人とて憶えてすらいなかったのだから。
すぐに興味を無くし、ハンクは襲撃者のサブマンシンガンに目を向けた。装着された弾倉に弾はまだ十分に残っていた。無線機を調べると、弾丸が貫いていて使い物にならない。物の管理が出来ていない男だったようだ。
がらくたになった無線機を放り、他の死体に足を向ける。
「……この死体、おかしいわ。死んで大分経ったみたいに冷たい」
式部はマスクを剥ぎ取った死体を調べていた。
「ならば、死体が動いていたんだろう」
死体から当面必要な分の弾倉を抜いておく。無線機には無事なものもあったが、今所持しているものと同じように故障しているようだ。それまで続いていた衣擦れの音が音が途絶えた。
式部を見やると、彼女は手を止めている。どこか、その姿には深い慙愧が感じられた。
「……それは認められない。監察医としてね。これまでの真実が何の意味もなさなくなってしまう。私の友人は喜びそうだけど」
「なるほど……上手くできた関係だ」
「何が……?」
「死体で喜ぶんだ。その友人は死体愛好家だと分かる。監察医ならば、身元不明の死体を横流すのも容易だろうからな。見事な泥沼の絆だ」
「……もう、それでいいわ」
なぜか急に疲れた様子の式部から目を外し、ハンクは拳銃の弾倉を入れ替えた。
これまでの銃声で離れていた感染者たちも寄ってくるだろう。長居は無用だ。襲撃者の死体の一つを担いで、半開きの扉に手をかける。
「では、お元気で。ミス・シキブ」
「モーテルまで護衛してくれるつもりはないわけね」
「私はもう二回も、護衛対象ですらない君の命を救っている。これまでしたことがないくらいのサービス精神だ。今の私なら街に出て無闇矢鱈と犬に吼えられることもないと確信する」
「私もあなたの命を救ったわ。彼らの接近を報せた」
「言われなくとも気づいていた」
どうかしらと、式部は微笑した。ハンクはため息をついた。
「君と一緒に行くつもりはない。その方が良い結果になる」
「……嫌われたものね」
式部が小さく唇をゆがめて髪を掻き揚げた。彼女はハンクの言葉を嫌味と受け取ったようだが、それは本心だった。
己と彼女の住まう世界は似て非なる。いわば、人と獣のようなものだ。同じ土地に居るからといって、同じ世界で生きてはいない。そこには大きな隔たりが存在する。理解することなど出来はしない。
そして、人と獣が無理に交われば、そこには不幸な結末しか訪れない。獣には獣の生き方があるのだ。
扉を押し――まず死体を放り出してから、ハンクは外に出た。銃声は響くことなく、感染者たちのうめき声も今は聞こえない。
路上に出て、周囲を見渡す。対面にある公園の柵が見え、波音が心地よく耳を通り抜けていく。
式部が出てきたのを音で確認する。
このまま立ち去ろうとしたが、ハンクはふとそれを思いとどまった。どうせ最後だ。多少、色をつけてやってもいい。
「最後のサービスだ。再会したとき、私は君を撃たない。すぐには――だが」
「そういうのはサービスというのかしらね……。まあ、いいわ。さようなら、傭兵さん」
苦笑の刻まれた別れの言葉を背中で聞き、ハンクは道を歩き出した。式部の足音は躊躇うように響きの後で、小さくさようならと呟いたのが聞こえた。
本当に感傷的な女だ。足音は遠ざかり、やがて波音以外は何も聞こえなくなった。
【ダグラス・カートランド@サイレントヒル3 死亡】
【C-5/公園前の通り/一日目夜中】
【式部人見@流行り神】
[状態]:上半身に打ち身。
[装備]:??????
[道具]:旅行用ショルダーバッグ、小物入れと財布 (パスポート、カード等) 筆記用具とノート、応急治療セット(消毒薬、ガーゼ、包帯、頭痛薬など)、地図
[思考・状況]
基本行動方針:事態を解明し、この場所から出る。
1:モーテルと病院に行って、ヘザーを探す。
2:怪奇現象……認めてなんて……
※オフィスビルから何か持ち出しているかもしれません。
【ハンク@バイオハザード アンブレラ・クロニクルズ】
[状態]:健康
[装備]:USS制式特殊戦用ガスマスク、H&K MP5(30/30)、 H&K VP70(残弾18/18)、コンバットナイフ
[道具]:MP5の弾倉(30/30)×4、無線機、G-ウィルスのサンプル、懐中電灯、地図
[思考・状況]
基本行動方針:この街を脱出し、サンプルを持ち帰る。
1:道の東から脱出する。
2:現状では出来るだけ戦闘は回避する。
3:アンブレラ社と連絡を取る。
※足跡の人物(ヘザー)を危険人物と認識しました。
※C-5のオフィスビルに、ステアー TMP(0/30)、ダグラス(ベレッタM92(残弾 2/10)、ベレッタの予備弾倉 (×1)、手帳と万年筆、ペンライト、財布(免許証など)、携帯ラジオ)の所持品、及び"U.S.S."闇人4人の装備品(H&KVP70×4(残弾不明)、H&KMP5×3(残弾不明)、弾倉×2、無線機等)が残っています。しかし、実際に何が残っているかは、状態表にある人見の持ち物の結果に準拠します。