系譜
- 父はネレウス、母はクロリス。
- 妻はエウリュディケ(またはアナクシビア)、子はペイシディケ、ポリュカステ、ペルセウス、ストラティコス、アレトス、エケプロン、ペイシストラトス、アンティロコス、トラシュメデス。
解説
- 別名、ネストール。
- トロイア戦争が始まった時、ネストルはおよそ110歳という高齢だったという。彼は頑強な黄金の楯をもっていた。ホメロスはしばしば彼を「ゲレニアの騎手」の通り名で呼んだ。
- ホメロスはネストルを基本的に老賢者風に表現するが、時おり滑稽にも描く。彼の助言の多くは、昔の功績を長々と自慢するための口実である。彼はネストルを退屈者と考えているように感じられる。
オデュッセイアでのエピソード
- テレマコスはピュロスでネストルに会った。ネストルはトロイアからの帰還の様子を語ったが、オデュッセウスの消息は知らないという。ネストルは屋敷でテレマコスをもてなし、翌朝には馬と車を用意させた。テレマコスはペイシストラトスとスパルタへ向かった。(第3歌)
- スパルタからイタカへ向かう途中、ピュロスに着いた。テレマコスはネストルに会って歓待に引き止められるのは困るので、このまま船に乗って帰りたいとペイシストラトスに言って、そこで別れた。(第15歌)
エピソード
ヘラクレスに父兄弟を殺される ヘラクレスがペロポネソス半島を襲い、エリスとラケダイモンとピュロスの王国を破壊した時、ネストルはまだ少年だった。ヘラクレスはピュロスを占領した時、ネストルの父ネレウスとネストルの兄弟を皆殺しにしたが、ネストルはその時ゲレニアで育てられていたので、殺戮をまぬがれた。ピュロスでの戦闘の間に、ヘラクレスはピュロス人の味方をしていたハデスを傷つけた。この冥府の王が崇拝されていたのはピュロスだけであった。
トロイア戦争に参加する トロイア戦争では、ネストルと彼の子アンティロコスとトラシュメデスがギリシャ勢に参加した。ネストルは老齢であったので、戦闘よりは賢明な助言によって知られていたが、皆に尊敬されており、多くの作戦の決定に強い影響力を持っていた。
アキレウスと[[アガメムノン]]を調停する アガメムノンがアキレウスの恋人を取り上げたために二人が対立し、アカイア人の結束が危機にさらされた時、ネストルは二人の怒りをなだめようとした。しかし二人ともそれを聞こうとせず、和解はならなかった。
[[トロイア]]勢に敗北を喫する ゼウスはアキレウスの味方であったので、アガメムノンの夢にネストルの姿で現れて、トロイア陥落の時は目の前であると嘘を信じこませた。アガメムノンは集会の席で夢のことを語り、賢明なネストルでさえその夢を本当のことと信じた。戦ってみると、トロイア人の大勝利であり、アカイア人たちはさんざん打ちのめされた。ネストルは戦場を戦車で駆けていたが、パリスに馬を射ち殺され、そこへヘクトルがやってきて、殺されかかったところを、ディオメデスに救われた。ネストルはなおも戦ったが、ゼウスが彼の戦車の前に雷を落とすと、ようやく神意の前に人間は無力であることを悟り、退却した。
アガメムノンにアキレウスとの和解を助言する アキレウスが退陣している限り、戦いがアカイア人に有利な展開になることはない。ネストルはアキレウスへの怒りをなだめるよう、アガメムノンを説得した。アガメムノンは自分の失敗を悟り、アキレウスをなだめようと、彼から取り上げたブリセイスを含む多くの贈物を贈った。アガメムノンはブリセイスには一切手をつけていないことを誓った。
アキレウスへの使者になる ネストルはオデュッセウス、アイアス、ポエニクスと共にアキレウスの所に遣わされた。アキレウスは贈物の内容を聞いても怒りをおさめることはなく、使いは失敗に終わった。その後、ネストルが戦場でアスクレピオスの子マカオンが傷ついたのを運び出しているのをアキレウスは見た。彼はアカイア人に同情し始め、本当に怪我をしたのがマカオンか確かめるために、パトロクロスを遣わした。
パトロクロスを説得する パトロクロスはネストルのテントを訪れた。パトロクロスは怪我人や、アカイア人の手痛い敗北について聴いた。ネストルはアキレウスの戦線復帰を請願し、それが駄目ならせめてパトロクロスだけでも復帰できないかと頼んだ。
トロイアから無事帰国する トロイア陥落後、ネストルとディオメデスは出航し、レスボス島でメネラオスと合流した。メネラオスは嵐にあって船を失い、5隻だけになってエジプトに漂着した。ディオメデスはアルゴスへ帰ったが、反乱が起こったため、イタリアへ向かった。ネストルは無事に故国へ帰還した数少ないアカイア人リーダーだった。
テレマコスの訪問をうける テレマコスが故国に帰ってこない父オデュッセウスの消息を求めてピュロスへやってきた。ネストルは彼に、アカイア人たちの運命を語り、屋敷へ案内して泊めた。次の日、ネストルの末娘ポリュカステはテレマコスを風呂に入らせ、油を塗った。テレマコスはスパルタへ向かった。
アポロンから長寿を授かる アポロンの助けによって、彼は三世代を生きた。アポロンはかつてネストルの母クロリスの兄弟姉妹を殺したので、その奪った命の分をネストルに与えたのである。トロイア戦争の時、彼はすでに二世代分の年月を生きており、三世代目に入っていた。彼がどのように死んだかは知られていない。