回って、回って、回り疲れて。そう、僕は、君が望むピエロだ。
ピノキオは人間になれました。メデタシメデタシ。
殺し合いという異常な状況の中。高校の制服に身を包んだ少女が、膝を抱えて蹲っていた。
「怖いよ、咲希、穂波、志歩……」
彼女……星乃一歌には幼馴染がいた。いつからか疎遠になってしまった幼馴染が。
病気で遠くに行った咲希が帰ってきて、ヴァーチャルシンガーのはずのミクと交流する不思議な体験があって、ひょっとしたらこれから色んなことがあって、昔みたいに戻れるのではないかと思っていた矢先に、一歌はこの殺し合いに巻き込まれた。
「助けて、ミク……歌で私に、勇気を……」
いつも一歌に元気を与えてくれたヴァーチャルシンガー、初音ミク。彼女の歌声を脳裏に浮かべても、それでも怖い。記憶の中のミクの歌声が、あの爆発の時の音や周りの悲鳴で掻き消されていくようだ。
自分も本田という男の子のように、首輪を爆発させられて死ぬかもしれない。そう思うと動けない。
自分も本田という男の子のように、首輪を爆発させられて死ぬかもしれない。そう思うと動けない。
「……あれ? この、音……クラシックギター?」
その時、一歌の耳に殺し合いの場に似つかわしくない音が聞こえてきた。ギターの音色だ。
「聞いたことない曲だけど……」
なぜだか一歌にはその音色が、とても哀しく聞こえた。
だからと言うわけでもないが、思わず、と言った風にギターの音色の方へ歩いていく一歌。
不気味さよりも物悲しさが勝る廃村の奥へと進んでいくと、やがて音の正体が見えてくる。
だからと言うわけでもないが、思わず、と言った風にギターの音色の方へ歩いていく一歌。
不気味さよりも物悲しさが勝る廃村の奥へと進んでいくと、やがて音の正体が見えてくる。
「あの、なに、してるんですか?」
「……音楽で『心』を、落ち着けてたんだ」
ギターを弾いていたのは、一歌とそう歳の変わらないように見える、ゴーグルを額にかける少年だった。
「ジローさん、すごくギターが上手ですけど、バンドが何かやっていたんですか?」
「いや、ただ、父さんが音楽好きで、僕や兄さんに楽器を持たせてくれたんだ」
ギターの少年……ジローは年齢を言いたがらなかったが、落ち着いた物腰からおそらく年上だろうと、一歌は敬語を使っていた。
「あ、お兄さんがいるんですね」
家族構成の話というのは会話の取っ掛かりとしては定番の部類だ。一歌も例に漏れずそこから会話を広げようとする。
しかしアンニュイな雰囲気の、幼馴染の中で言えば少し穂波に近い感じのするジローは、なぜかより一層表情を暗くしてしまった。
しかしアンニュイな雰囲気の、幼馴染の中で言えば少し穂波に近い感じのするジローは、なぜかより一層表情を暗くしてしまった。
「うん……いたんだ」
『いる』ではなく『いた』。その言葉のニュアンスの違いに気づかないほど、一歌は鈍感ではなかった。
「一歌ちゃん、あまり僕に近寄らない方がいい」
「あっ、あの、気を悪くしたなら謝ります」
「いや、そういうんじゃないんだ。ただ……」
兄の死に触れられて気を悪くしたのかと謝罪しようとする一歌を制すジロー。
「僕は、人間じゃないんだ」
「え?」
突然、ジローの姿が、異形のものへと変わる。
左右で赤と青の対象的な色を持ち、左側の顔からは電子回路のようなものが覗くグロテスクな未完成の機械。
左右で赤と青の対象的な色を持ち、左側の顔からは電子回路のようなものが覗くグロテスクな未完成の機械。
「僕は……機械だ」
未完成の『良心』を持つが故に、人間に最も近い機械……人造人間、キカイダー。それがジローの正体である。
その後。
「あまり驚かないんだね」
「その、確かに驚きましたけど、さっきの会場でのこととか、セカイでミクたちと会ったりとか、色々あったから」
ジローのグロテスクな見た目に最初こそ驚いた一歌だったが、機械……ヴァーチャル世界にしか存在しないはずの初音ミクたちと関わったことのある彼女は、思いのほかすんなりとジローの姿を受け入れた。
なにより、あんなに感情を込めた演奏のできる彼が、悪人だとは思えなかったから。
なにより、あんなに感情を込めた演奏のできる彼が、悪人だとは思えなかったから。
「そっか」
「あの、はい……」
ジローも一歌も決していわゆるコミュ障ではない。だがどちらも根っこは強いものの基本的には繊細な性格だ。
この緊急事態の初対面で何を話せばいいのか分からない。
この緊急事態の初対面で何を話せばいいのか分からない。
とりあえず配られた支給品でも見せ合うか、と二人がどちらともなく動き出そうとした時。
「ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ア゛ア゛!!!!」
「な、なにっ!?」
「グッ、ガ……っ!」
突然その場に、甲高い絶叫が響く。
(この感覚、ギルの横笛やハカイダーの口笛と同じ……!)
ジローは不完全な良心回路の弱点を突かれ、敵に操られかけたことが何度もある。今響いている叫びは、その時の感覚と似ていた。
「ジローさん、大丈夫、です、か……」
突然苦しみだしたジローに駆け寄ろうとした一歌だが、急に力が抜けたかのようにペタンと女の子座りでへたり込んでしまう。
「あ……ぁ……」
「一歌ちゃん?」
「来ないで!!」
頭を抑えて苦しみながらも一歌に寄り添おうとしたジローを、鋭い声で拒む一歌。
「違う……ミクたちとは違う! ジローさんは、ミクたちと違って、本当に機械だよ! あのセカイでもミクは暖かったし、優しかったし、ミクは……!」
「一歌ちゃん! 落ち着くんだ!」
「無駄だよ」
支離滅裂なことを言い出した一歌を落ち着かせようとするジローに、声をかけるものがいた。
「私の叫びは、『絶望』の叫び……私の声を聞いた人は、みんな絶望しておかしくなる」
紫色の長髪に、被るというより引っ掛けるといった風な小さなパンプキンハット。そして包帯で右目を隠している少女……トリシュナ・ノールアミン。
「お前……!」
「私はトリシュナ。さっきの叫びは私の叫びだよ」
「それに、皆も皆だよ……! 確かにちょっと色々あったけど、私たちは、友達だったのに! みんなのこと、大好きだったのに!」
絶望に犯された一歌は、支離滅裂な心情……本来の感情を『絶望』で塗り変えられた悪意を吐露し続ける。元々繊細な性格の少女である。一度絶望に呑み込まれてしまえば、あとは脆かった。
「なんで!! なんでみんな、あんなに仲良かったのに、一緒に、星を見たのに!! どうして、私は、これじゃ、自分だけどこか、取り残された……!」
「こうなった人を、私は何人も見てきたから分かる。些細なことでいがみ合い憎しみ合い、争い合う……こんな状況だもん、余計に私の叫びが効いてるみたい」
「一歌ちゃ、ん……」
「来ないでよ!!」
一歌はジローから距離を取ると、自らの支給品……仮面ライダー斬鬼の音撃弦・烈雷を構える。
「うわぁあああああ!!!!」
焦っているからか、技巧も何もなしに烈雷を掻き鳴らす一歌。しかし音撃弦の『清めの音』は相手に直接流さなければ効果が薄い。
「くっ……! トリシュナ! 人を絶望に陥れて、自分は安全な所で見ているだけのつもりか!」
「別に安全な所にいるつもりはないよ。貴方みたいにあまり効かない人もいるし」
「……なに?」
「私の大切な人がずっと追いかけてる相手もそうだから分かる。貴方、機械でしょ?」
トリシュナが全てを捧げる男性、アスタル・テイム。彼は宿敵のテツジン・グランキオに勝つためだけに生きている。戦争用機械兵であるテツジンは強い。アスタルが全てを投げ売ってでも勝ちたいと思うほどに。
「心のない機械には私の絶望は効かないけど、女の子と一緒にいてくれてよかった」
トリシュナの願いはただ一つ。ただ、大切な人の……アスタルの望みを叶えてあげたいだけだ。アスタルがこの場にいるかいないかは分からない。いるなら彼の為に死ぬし、いないなら優勝して、アスタルをテツジンに勝てるくらい強くしてもらう。
幸い自分の能力とこの殺し合いのシチュエーションは相性が良い。戦わずに絶望を振りまいて参加者に同士討ちをさせる。そうすれば自然と敵も減るし、消耗した所を漁夫の利すれば終盤に備えて支給品も貯められる。
「うわぁああああ!!!!」
完全に錯乱した一歌が、今度は烈雷をジローに向けて突き刺しにかかる。
自分たちの一応のリーダーであるシック辺りなら大喜びしそうな光景だが、別にトリシュナは好きでこんな悪趣味なことをやっているわけではない。ただこれしかできないだけだ。
錯乱した一歌を止めるのは手を焼くだろう。落ち着いて対処されないように同時に攻撃して、よりジローを消耗させようと企むトリシュナの前で。
「ごめんね」
ジローの貫手が、一歌の胸を貫いた。
「え?」
間の抜けた声を出すのは、二人が争うように仕向けた張本人であるトリシュナ。
一歌は明らかに錯乱しているだけだった。ジローはそんな少女をいきなり手にかけるようには見えなかった。仮に殺すとしても、もっとギリギリまで粘ってから、ジロー自身に無視できないダメージが溜まってからだと思っていた。
一歌は明らかに錯乱しているだけだった。ジローはそんな少女をいきなり手にかけるようには見えなかった。仮に殺すとしても、もっとギリギリまで粘ってから、ジロー自身に無視できないダメージが溜まってからだと思っていた。
「お前は一つだけ間違えた」
ジローは俯きながら一歌の胸から手を引き抜く。夥しい血が溢れ、力無く倒れる一歌。即死のようだ。
「確かに僕は機械だ。だけど、不完全な良心と完全な悪の心を植え付けられた……人間と同じ『心』を持った機械なんだ」
ジローは泣いていた。オイルかなにか知らないが、機械の涙にしては、綺麗な涙だった。
「機械が、心……?」
トリシュナにも覚えがある。アスタルがテツジンとの闘いで追い詰められた時、トリシュナは咄嗟に絶望の叫びを放ったことがある。心のない機械に効くはずのない……と思っていたが何故かテツジンは急に苦しみだし、トリシュナとアスタルは撤退できた。
「僕にとっての絶望は、ギルに植え付けられた服従回路(イエッサー)。お前の絶望のせいでそれが強まった」
悪質な命令に背くための良心回路(ジェミニィ)が不完全なまま作られたジローは、善悪の判断に迷う、ある意味で人に近い機械だった。人にも機械にもなりきれずに苦しんでいたジローは、ある時悪の命令に従わされてしまう悪の心……服従回路(イエッサー)を埋め込まれてしまう。
良心と悪意を両方持ったことで……善と悪の間で揺れ動く心を持ったことで、ジローは人間と同じになれた。けれどそれは、悪と良心の心の戦いが永久に続くことを意味していた。
「だからお前の絶望に狂わされただけの可哀想な子も殺せる。いや……殺してしまった」
「心で苦しんでるんだ……アスタルと同じだね、体はテツジンと同じなのに」
「ああ、思えばいつも僕は、心もないのに『良心の呵責』に苦しめられてたよ」
そう言ってジローは一歌の血に濡れた腕を掲げ、高らかでもなく、気高くもなく、ただ悲哀に満ちた声で叫ぶ。
「……チェンジ!!」
再び、ジローの体が左右非対称の未完成で不完全な機械……キカイダーのものへと変わる。
「だからトリシュナ、お前を殺す!!」
「ゔ、あ゛、あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
凄まじいスピードで迫るキカイダーに対して、再び絶望の叫びを放つトリシュナ。機械とはいえ『心』があるなら多少は怯ませられるのだが……
「無駄だ! お前の絶望は、僕の服従回路(イエッサー)を強めるだけだ! むしろそのおかげで、俺はより残酷になれる!」
叫びをものともせずにトリシュナに肉薄したキカイダーは、包帯を巻いている方の死角から鋭い横蹴りを放つ。
「あぐっ……!」
「ブラスターがなくても、お前程度!」
キカイダーの内蔵武器にして最強兵器……敵に操られた兄弟3人を皆殺しにしたブラスターはハ・デスに取り上げられていたが、それを抜きにしてもキカイダーは強い。
ましてトリシュナは叫び以外の純粋な戦闘能力は低い部類だ。
ましてトリシュナは叫び以外の純粋な戦闘能力は低い部類だ。
『悪の心』が命じるまま、一歌を殺させられた恨みを晴らすように、キカイダーは何度も何度もトリシュナを殴り、蹴り、最後に近くの廃屋の壁に叩きつけた。
「あ゛あ゛っ……ぐぅう゛うう゛……ひぐぁ゛っ……!」
殴られながら合間合間に悪あがきのように絶望の叫びをあげるトリシュナの声が痛々しい。しかしそんなことで手を緩めるキカイダーではない。
「終わりだ……電・ジ・エンド!!!」
腕をクロスさせて高圧電流をスパーク。必殺技の体勢に入るキカイダー。
「死ぬわけには、いかない……アスタルの所に、帰る!! ゔぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛!!!!」
「無駄だと言って……!」
キカイダーの必殺技を前に、再び叫ぶトリシュナ。いい加減声が鬱陶しくなってきたキカイダーが、一息にクロスさせた腕をぶつけようとした瞬間……
「なにっ!?」
トリシュナの『絶望』に吸い寄せられた悪霊型のモンスター……闇よりの恐怖がトリシュナとキカイダーの間に割り込んできた。
仕方なく電・ジ・エンドを邪魔な闇よりの恐怖に当てるキカイダー。
そして、爆風。
──特撮好きの読者諸兄にはいちいち説明するまでもないだろうが……ヒーローが怪人を倒すのは二回目の時だ。一回目はたいてい、色々あって取り逃がすのだ。
闇よりの恐怖が爆散した後、そこにトリシュナの姿はなかった。
「逃したか」
シュン、と変身を解くジロー。無意味に叫んでいるように見えたが、モンスターを呼び寄せて注意を逸らすためだったとは読めなかった。
今すぐに追えば見つけられるかもしれないが……自分が殺した少女をそのままにするのは『良心』が咎めた。
今すぐに追えば見つけられるかもしれないが……自分が殺した少女をそのままにするのは『良心』が咎めた。
「一歌ちゃん……ごめん」
トリシュナがいなくなったことで『心』が落ち着いたジローは、何が起こったのかも分からないまま息絶えた一歌の見開かれたままの瞳をそっと閉じた。
絶望の叫びで服従回路(イエッサー)が増幅されなければ、気絶くらいで済ませられただろうか。
分からない。後悔してもしきれない。心さえなかったら、ただ命令を聞くだけの機械ならこんな風に迷うことも悔やむこともなかったのに。
「……こんなもの!」
ジローに支給されたギター……海堂直也のクラシックギターは、本来の末路と同じように、粉々に砕けた。
ピノキオ
──からくりピエロは人間になって、本当に幸せになれたのだろうか?
──からくりピエロは人間になって、本当に幸せになれたのだろうか?
【星乃一歌@プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク 死亡】
【ジロー@人造人間キカイダー(漫画版)】
[状態]:疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~2
[思考・状況]
基本方針:基本的には『良心』に従って行動する。
1:僕は……どうしたいんだろう。
2:一歌ちゃんを埋める。
[備考]
制限でブラスターは取り外されています。
近くに音撃弦・烈雷@仮面ライダー響鬼が落ちています。
[状態]:疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~2
[思考・状況]
基本方針:基本的には『良心』に従って行動する。
1:僕は……どうしたいんだろう。
2:一歌ちゃんを埋める。
[備考]
制限でブラスターは取り外されています。
近くに音撃弦・烈雷@仮面ライダー響鬼が落ちています。
【トリシュナ・ノールアミン@回転むてん丸】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:優勝してアスタルの望みを叶える。アスタルがいた場合は彼の為に戦う。
1:まずは体を休めつつ名簿が現れるのを待つ。
2:絶望の叫びを振りまいて参加者同士を争わせる。
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:優勝してアスタルの望みを叶える。アスタルがいた場合は彼の為に戦う。
1:まずは体を休めつつ名簿が現れるのを待つ。
2:絶望の叫びを振りまいて参加者同士を争わせる。
【NPC紹介】
闇よりの恐怖@遊戯王OCG
効果モンスター
星4/闇属性/アンデット族/攻1700/守1500
闇よりの恐怖@遊戯王OCG
効果モンスター
星4/闇属性/アンデット族/攻1700/守1500
最上級アンデットモンスター、闇よりいでし絶望の下位種。トリシュナの絶望に吸い寄せられたのもその為。
ガス状の悪霊型モンスターである。一応自身を蘇生させる効果があるが本ロワでは無関係。ていうかOCGでもほとんど使う機会がない。
ガス状の悪霊型モンスターである。一応自身を蘇生させる効果があるが本ロワでは無関係。ていうかOCGでもほとんど使う機会がない。