◆
ドッペルの創り出した世界から帰還後、現実世界にていろはと共に次なる戦場へ移動。
地縛神が発する気配が濃さを増し、巨体が目視可能な位置まで近付いた時。
遊星から譲渡されたフィールド魔法、闇を使った。
時間制限付きだが日中の屋外においても、黒死牟本来の戦法を可能にする。
地縛神が発する気配が濃さを増し、巨体が目視可能な位置まで近付いた時。
遊星から譲渡されたフィールド魔法、闇を使った。
時間制限付きだが日中の屋外においても、黒死牟本来の戦法を可能にする。
仮に主がこの札を手にし、橘との戦闘時に使っていれば。
わざわざ慣れぬ鎧を着込む必要も無く、始祖としての能力を十全に発揮しただろう。
現実にそうならなかった為、無惨は黒死牟の知らぬ内に人間へ敗北。
鬼狩りとの因縁も、無関係の者の手で断たれた。
わざわざ慣れぬ鎧を着込む必要も無く、始祖としての能力を十全に発揮しただろう。
現実にそうならなかった為、無惨は黒死牟の知らぬ内に人間へ敗北。
鬼狩りとの因縁も、無関係の者の手で断たれた。
起こり得たかもしれない話を続けたとて、現実に立ち塞がる障害相手には役に立たない。
怪鳥の頭部を飛び降り着地、両腕を双剣に変えた巨人と睨み合う。
怪鳥の頭部を飛び降り着地、両腕を双剣に変えた巨人と睨み合う。
「助っ人登場ってとこか。用心しとけ、あいつは――」
「奴の相手は……私のみでいい……」
「おいおい、途中参戦にしちゃデカく出たな?」
「奴の相手は……私のみでいい……」
「おいおい、途中参戦にしちゃデカく出たな?」
言葉を遮り、余計な手出しは無用と告げられた。
愛想の欠片も無い態度へ機嫌を損ねるでもなく、おどけたように士は言う。
地縛神が如何に厄介かは、身に染みて理解している。
そのような相手に一人で挑むなど、本気で言ってるのだろうか。
愛想の欠片も無い態度へ機嫌を損ねるでもなく、おどけたように士は言う。
地縛神が如何に厄介かは、身に染みて理解している。
そのような相手に一人で挑むなど、本気で言ってるのだろうか。
「お前達は獣の娘の方に行け……殺さずに終わらせる戦を……私に期待するな……」
「……大体分かった。適材適所ってやつか」
「……大体分かった。適材適所ってやつか」
今でこそ好戦的に暴れ回るキャルだが、いろは達の話を聞くに元々は信頼出来る仲間。
実際、最初に研究所前に現れた時は真っ当に仲間との再会へ安堵していた。
そのような相手を無力化で決着に持って行くのは、士達の方が適任だと言いたいらしい。
反対に地縛神へ手心は一切無用、剣で以て終わらせるなら実に分かり易い。
実際、最初に研究所前に現れた時は真っ当に仲間との再会へ安堵していた。
そのような相手を無力化で決着に持って行くのは、士達の方が適任だと言いたいらしい。
反対に地縛神へ手心は一切無用、剣で以て終わらせるなら実に分かり易い。
「ま、ヤバくなったら遠慮なく言えば良い。大口叩いた割に、とは思わないでいてやる」
「普通に手を貸すって言いなさいよ。…あんたも気を付けろよ」
「普通に手を貸すって言いなさいよ。…あんたも気を付けろよ」
飄々とした態度の士と、一瞬躊躇するも口論の暇はないと自分を納得させる戦兎。
早く行けと視線で促され、CcapacApuの相手を黒死牟に任せた。
手早く変身を終え、もう一体の脅威の下へ急ぐ。
早く行けと視線で促され、CcapacApuの相手を黒死牟に任せた。
手早く変身を終え、もう一体の脅威の下へ急ぐ。
地縛神と鬼が奏でる戦闘の音色を背に、地へ降り立ったいろはと相対するは悪の陰陽師。
表面上は余裕の笑みを崩さず、初対面の少女を粘つく瞳で見据える。
表面上は余裕の笑みを崩さず、初対面の少女を粘つく瞳で見据える。
「直に会うのはこれが初ですな。灯花殿の想い人たる貴女を、一度我が目で見ておきたいと思っておりました」
「……灯花ちゃんに、何をしたんですか?」
「さて?何と聞かれましてもどう答えれば良いのやら。迷える子女の背中をほんの少し、小突いてやった程度しか思い当たる節がありませぬので」
「……灯花ちゃんに、何をしたんですか?」
「さて?何と聞かれましてもどう答えれば良いのやら。迷える子女の背中をほんの少し、小突いてやった程度しか思い当たる節がありませぬので」
腰の低い態度と思わせて、その実嘲笑を隠し切れていない。
アリナ・グレイの狂気やデェムシュの憤怒とはまた違う、煮詰め続けて熟した悪意の持ち主。
対面するだけで魂を蝕まれそうな悪寒を、決して気の迷いと切り捨てず。
強く警戒を向けると共に、灯花の様子がおかしかった原因であると確信。
表情に険しさが増すのと比例し、相手の笑みは深まるばかり。
アリナ・グレイの狂気やデェムシュの憤怒とはまた違う、煮詰め続けて熟した悪意の持ち主。
対面するだけで魂を蝕まれそうな悪寒を、決して気の迷いと切り捨てず。
強く警戒を向けると共に、灯花の様子がおかしかった原因であると確信。
表情に険しさが増すのと比例し、相手の笑みは深まるばかり。
「しかし折角再会を果たしたでしょうに、灯花殿の手を離すとはいやはや…不憫でなりませぬ。どれ、拙僧が一肌脱ぐとしましょうか」
「これ以上灯花ちゃんも、皆も!あなたの好きにはさせません!」
「これ以上灯花ちゃんも、皆も!あなたの好きにはさせません!」
この期に及んでまだ灯花達を弄ばんとする男が、対話で解決する類でないのは今の問答だけで十分分かった。
戦意に呼応し、沈黙のドッペルが布を射出。
大型のウワサを引き千切る破壊力が目前に迫るも、敵は慌てず指先で五芒星を描く。
戦意に呼応し、沈黙のドッペルが布を射出。
大型のウワサを引き千切る破壊力が目前に迫るも、敵は慌てず指先で五芒星を描く。
本体のリンボでさえ制限を掛けられ、まして式神とあれば出力は更に低下。
平時であれば脆弱と嗤った攻撃だろうと、ここでは一撃消滅の危険性が常に付き纏う。
なれど枷については既に把握済、故にこそ落ちた力を補う方法を己に打ち込んだのだ。
負の神聖を秘めたノロ、闇の術を多岐にわたって操るリンボ。
両者の相性は最早、深く説明するまでもない。
平時であれば脆弱と嗤った攻撃だろうと、ここでは一撃消滅の危険性が常に付き纏う。
なれど枷については既に把握済、故にこそ落ちた力を補う方法を己に打ち込んだのだ。
負の神聖を秘めたノロ、闇の術を多岐にわたって操るリンボ。
両者の相性は最早、深く説明するまでもない。
五本のアンプルを打って尚、苦悶が顔に表れる事は一切無し。
皐月夜見が陥った暴走状態をあっさり乗り越え、強度を高めた結界を展開。
布の直撃を真っ向から防ぎ、もう片方の手で呪符を投擲。
皐月夜見が陥った暴走状態をあっさり乗り越え、強度を高めた結界を展開。
布の直撃を真っ向から防ぎ、もう片方の手で呪符を投擲。
「鳥と戯れるのがお好きと見ました。では、拙僧からも一つ施しを」
念を籠めると瞬く間に、複数羽の烏へ変化。
血走った目でいろはを睨み付け、肉を啄む嘴を突き出す。
魔法少女の衣装越しに、柔肌を喰い尽くされる末路は当然お断り。
布を鞭のように操り叩き落とし、頭上からリンボ目掛けて振り下ろす。
血走った目でいろはを睨み付け、肉を啄む嘴を突き出す。
魔法少女の衣装越しに、柔肌を喰い尽くされる末路は当然お断り。
布を鞭のように操り叩き落とし、頭上からリンボ目掛けて振り下ろす。
本体のリンボが身体能力にも秀でたように、式神もまた然り。
術師であるも鍛え抜いた肉体は見せかけに非ず、地を蹴り紙一重で布を回避。
猫に追われる鼠のように、逃げるだけが能ではない。
足を止めないまま、指先が宙へ五芒星を描き術式を起動。
術師であるも鍛え抜いた肉体は見せかけに非ず、地を蹴り紙一重で布を回避。
猫に追われる鼠のように、逃げるだけが能ではない。
足を止めないまま、指先が宙へ五芒星を描き術式を起動。
大蛇を象った火炎を放ち、襲い来る布を焼き払う。
十数枚を纏めて消し炭に変えただけで終わらず、ドッペルを操るいろはへ牙を剥く。
だが布が焼かれた時点で既に、回避行動を選択済だ。
両足が地から離れ、浮遊状態を維持し大蛇から距離を取る。
十数枚を纏めて消し炭に変えただけで終わらず、ドッペルを操るいろはへ牙を剥く。
だが布が焼かれた時点で既に、回避行動を選択済だ。
両足が地から離れ、浮遊状態を維持し大蛇から距離を取る。
当然、避けるだけに意識を割かないのはいろはだって同じ。
布を四方八方に伸ばし、瓦礫や折れた電柱を掴んで投げ放つ。
少女の腕力を優に超えるパワーを乗せ、命中を許せば人体など豆腐を崩すのと変わらない脆さ。
これをリンボ、デイパックから引き寄せた得物での迎撃を選ぶ。
布を四方八方に伸ばし、瓦礫や折れた電柱を掴んで投げ放つ。
少女の腕力を優に超えるパワーを乗せ、命中を許せば人体など豆腐を崩すのと変わらない脆さ。
これをリンボ、デイパックから引き寄せた得物での迎撃を選ぶ。
「滅殿の遺品、有難く使わせてもらいまする」
オーソライズバスターを近接形態、両刃の斧として振り回す。
マギアやレイダーのみならず、滅亡迅雷.netの仮面ライダーにもダメージを与えた武器だ。
勢いを乗せたとて、瓦礫の十や二十は恐れるに足らず。
片手で薙ぎ払いながら、もう片方の手は呪符を展開。
描かれた眼が妖しく光り、複数体の異形を呼び出した。
マギアやレイダーのみならず、滅亡迅雷.netの仮面ライダーにもダメージを与えた武器だ。
勢いを乗せたとて、瓦礫の十や二十は恐れるに足らず。
片手で薙ぎ払いながら、もう片方の手は呪符を展開。
描かれた眼が妖しく光り、複数体の異形を呼び出した。
「何と言いましたか、ああそうそう。荒魂、でした」
黒の肉体を所々橙色に光らせた、狗のような異形が四体。
ノロに籠められた負の念(データ)を読み取ったが故に、可能となった荒魂の召喚である。
ノロに籠められた負の念(データ)を読み取ったが故に、可能となった荒魂の召喚である。
リンボの号令を合図に一斉に飛び掛かるも、人ならざる存在の出現にいろはは慌てない。
魔女やウワサの相手を幾度もこなしただけに、冷静に対処を行う。
機動力を活かしながら迫る荒魂を、大量数の布を使い逆に移動範囲を狭める。
追い詰められた二体を巻き取り圧殺、悲鳴には耳を傾けず残り二体の撃破へ集中。
が、荒魂が動く最中にリンボが何もしないと言った覚えはない。
魔女やウワサの相手を幾度もこなしただけに、冷静に対処を行う。
機動力を活かしながら迫る荒魂を、大量数の布を使い逆に移動範囲を狭める。
追い詰められた二体を巻き取り圧殺、悲鳴には耳を傾けず残り二体の撃破へ集中。
が、荒魂が動く最中にリンボが何もしないと言った覚えはない。
「いけませぬなぁ、拙僧から目を離しては」
残る二体を片付け終えたのとタイミングを同じくし、真正面より急接近。
破壊痕が真新しい地面が更に砕かれる、爆発的な速度だ。
至近距離へ近付かれたと分かるや即、沈黙のドッペルが嘴を叩き付ける。
その程度は読んでるとばかりにヒラリと避け、いろはの腕を掴んで引き寄せた。
破壊痕が真新しい地面が更に砕かれる、爆発的な速度だ。
至近距離へ近付かれたと分かるや即、沈黙のドッペルが嘴を叩き付ける。
その程度は読んでるとばかりにヒラリと避け、いろはの腕を掴んで引き寄せた。
「っ、離して……!」
「ンンンン、折角です。いろは殿にも拙僧自ら、特別に着飾らせてしんぜましょう」
「そんなのいりません!」
「ンンンン、折角です。いろは殿にも拙僧自ら、特別に着飾らせてしんぜましょう」
「そんなのいりません!」
額へ指を当てられる寸前、短剣を一本生成。
重力に従い落ちた刃物を、編み上げサイハイブーツの爪先で真上に蹴り上げる。
顎下から迫る刃をリンボが身を引き躱し、再接近はさせぬといろはがクロスボウを連射。
爪と呪符で叩き落とし後退、距離を取ったと見るや布を射出し更に引き剥がす。
重力に従い落ちた刃物を、編み上げサイハイブーツの爪先で真上に蹴り上げる。
顎下から迫る刃をリンボが身を引き躱し、再接近はさせぬといろはがクロスボウを連射。
爪と呪符で叩き落とし後退、距離を取ったと見るや布を射出し更に引き剥がす。
「いやはやつれない、現代の言葉を用いるなら“があどが硬い”と言った所ですか。ンン、ではでは。少々手荒くいくのも止む無しなれば」
投げ放った呪符が宙へ留まり、五芒星を形作る。
垂れ流された暗黒が一点へ集中、高火力の術の発動段階へ移行。
対するいろはもクロスボウを構え、魔力を収束し迎え撃つ。
垂れ流された暗黒が一点へ集中、高火力の術の発動段階へ移行。
対するいろはもクロスボウを構え、魔力を収束し迎え撃つ。
○
「とっととくたばりなさいよ虫けらァッ!!!
月光舞獅子姫から放たれたのは怒声だけじゃない。
左手からは火炎と冷凍ガスが、頭部からは熱線が戦士達を襲う。
極度の高温や低温地帯での活動が可能なライダーのスーツに加え、それぞれ敏捷性に秀でた形態。
両方があるからこそ、どうにか致命傷を負わずに凌いであった。
左手からは火炎と冷凍ガスが、頭部からは熱線が戦士達を襲う。
極度の高温や低温地帯での活動が可能なライダーのスーツに加え、それぞれ敏捷性に秀でた形態。
両方があるからこそ、どうにか致命傷を負わずに凌いであった。
「どいつもこいつも、ゴキブリみたいにちょこまかして…!」
苛立つ月光舞獅子姫はベリアル融合獣を解除されたが、本来の姿とも言い難い。
左手は獣人の特徴とも一致しない、ハサミ状の顎を生やした怪獣の頭。
更に頭部へ頭巾のように、別の怪獣が大口を開け被さっている。
左手は獣人の特徴とも一致しない、ハサミ状の顎を生やした怪獣の頭。
更に頭部へ頭巾のように、別の怪獣が大口を開け被さっている。
正規のデュエルによる融合召喚と違い、この月光舞獅子姫は怪獣メダルを用いて変身した姿。
となれば、月光カテゴリ以外のメダルを組み合わせるのも理論上不可能ではない。
左腕にはレイキュバス、頭部には超コッヴ。
ファイブキングと同じパーツを融合させ、より歪でグロテスクな怪獣へと変貌を遂げた。
となれば、月光カテゴリ以外のメダルを組み合わせるのも理論上不可能ではない。
左腕にはレイキュバス、頭部には超コッヴ。
ファイブキングと同じパーツを融合させ、より歪でグロテスクな怪獣へと変貌を遂げた。
二体の怪獣の能力に加え、月光舞獅子姫自身のモンスター効果や敏捷性も健在。
現に光線を避けた者達へ右手の曲刀が襲い掛かり、地面に斬傷を刻み込む。
余波だけで吹き飛ばされかねないが、今更になってそのような姿は誰も見せない。
現に光線を避けた者達へ右手の曲刀が襲い掛かり、地面に斬傷を刻み込む。
余波だけで吹き飛ばされかねないが、今更になってそのような姿は誰も見せない。
「ビルドアップ!」
『レスキュー剣山!ファイヤーヘッジホッグ!イェーイ!』
フルボトルを入れ替えたビルドが、白と赤のベストマッチフォームへチェンジ。
左腕から伸縮自在のウィンチを飛ばし、強引にその場に留まる。
風に揉まれる枯れ葉と化すのを防ぎ、すかさず両腕を月光舞獅子姫へ向けた。
針状の弾丸の連射と火炎放射を浴びせ、怯ませるのに成功。
左腕から伸縮自在のウィンチを飛ばし、強引にその場に留まる。
風に揉まれる枯れ葉と化すのを防ぎ、すかさず両腕を月光舞獅子姫へ向けた。
針状の弾丸の連射と火炎放射を浴びせ、怯ませるのに成功。
『FINAL ATTACK RIDE DE・DE・DE DECADE!』
『マブシー!マブシー!ダイカイガン!オメガフラッシュ!』
「チィッ……!」
続けてライドブッカーとサングラスラッシャーによる、光線技が発射。
曲刀を盾に使いつつ、額から熱線を撃ち相殺。
徐々に巨大な敵への対処に慣れて来たのか、小賢しくも反撃に出始めた。
曲刀を盾に使いつつ、額から熱線を撃ち相殺。
徐々に巨大な敵への対処に慣れて来たのか、小賢しくも反撃に出始めた。
新しいメダルを使うか、いやそれよりを地縛神を呼び出し二体掛かりで叩き潰す方が手っ取り早い。
現在向こうで相手取ってるのは一人、強いのは知ってるがCcapacApuを倒せる程とは思えない。
リンボの術で最初に召喚した時を超える、今の状態なら猶更だ。
自身が従える邪神の勝利を信じて疑わずに、もう一つの戦場を見やり、
現在向こうで相手取ってるのは一人、強いのは知ってるがCcapacApuを倒せる程とは思えない。
リンボの術で最初に召喚した時を超える、今の状態なら猶更だ。
自身が従える邪神の勝利を信じて疑わずに、もう一つの戦場を見やり、
「…………は?」
信じられぬものを見た。
○
――月の呼吸 捌ノ型 月龍輪尾
長大化させた妖刀、虚哭神去が描くは極太の斬閃。
月の呼吸の基本となる壱の型に似た軌道であるも、威力・範囲の両面が遥かに上。
数十人を巻き込んで尚喰らい足りぬ、巨大な半月を仮に凌ごうとも。
不規則に膨張と収縮を繰り返し、時間差で顔を見せる月輪が半端な対処を決して許さない。
本命である斬撃と、付随する力場の罠。
鬼殺隊の呼吸法とは明確に異なる、血鬼術を組み合わせた悪辣な技。
それを我が身で味わい、地縛神に堪えた様子はまるで見られなかった。
月の呼吸の基本となる壱の型に似た軌道であるも、威力・範囲の両面が遥かに上。
数十人を巻き込んで尚喰らい足りぬ、巨大な半月を仮に凌ごうとも。
不規則に膨張と収縮を繰り返し、時間差で顔を見せる月輪が半端な対処を決して許さない。
本命である斬撃と、付随する力場の罠。
鬼殺隊の呼吸法とは明確に異なる、血鬼術を組み合わせた悪辣な技。
それを我が身で味わい、地縛神に堪えた様子はまるで見られなかった。
倒すには至らず、だが攻撃を受けた事実そのものまでは無かった事にしない。
左右から挟み撃ちで襲い来る双剣を、黒死牟は身を屈め回避。
頭上で吹きすさぶ暴風には意識を奪われず、後退ではなく前進を選択。
ホオオオと呼吸による独自の音を響かせ、自身の背丈を優に超える脚部目掛け刀を振るう。
左右から挟み撃ちで襲い来る双剣を、黒死牟は身を屈め回避。
頭上で吹きすさぶ暴風には意識を奪われず、後退ではなく前進を選択。
ホオオオと呼吸による独自の音を響かせ、自身の背丈を優に超える脚部目掛け刀を振るう。
――月の呼吸 弐ノ型 珠華ノ弄月
斬り上げた得物は一本なれど、放たれる斬撃波は三つ。
獣の顎の如く噛み砕く三日月が、無数の半月を引き連れ脚を斬り刻む。
しかし案の定、機動力を奪うだけの効果は無し。
獣の顎の如く噛み砕く三日月が、無数の半月を引き連れ脚を斬り刻む。
しかし案の定、機動力を奪うだけの効果は無し。
近付いたということは、自ら敵の狩場へ足を踏み入れたのも同じ。
小石を蹴飛ばすように爪先が眼前へと迫り、地を蹴り大きく後退。
降り立つや逃がさぬと、双剣が風を切り裂き迫りつつあった。
小石を蹴飛ばすように爪先が眼前へと迫り、地を蹴り大きく後退。
降り立つや逃がさぬと、双剣が風を切り裂き迫りつつあった。
大きさとはそれだけで脅威と化す。
面積が広ければ広い程、こちらが付けられる傷は減少。
加えて、現在のCcapacApuはノロを用いた術の恩恵に与る身。
生命力の強さがそのまま、現世へ深く根を張る生存への渇望に繋がった。
幾度斬っても傷がロクに付かない、というよりは。
斬った傍から瞬時に塞がる、上弦に並ぶ再生能力を宿すと言った方が正しい。
面積が広ければ広い程、こちらが付けられる傷は減少。
加えて、現在のCcapacApuはノロを用いた術の恩恵に与る身。
生命力の強さがそのまま、現世へ深く根を張る生存への渇望に繋がった。
幾度斬っても傷がロクに付かない、というよりは。
斬った傍から瞬時に塞がる、上弦に並ぶ再生能力を宿すと言った方が正しい。
更に付け加えるとすれば、CcapacApuに戦闘技術と呼ぶべきものはない。
腕を振り回し、時には蹴りを放つ。
やっているのはそれ以上でもそれ以下でもなく、しかし侮るのは大間違い。
巨体と釣り合った膂力、一方で速さは鈍重とは程遠い。
単純に力強く、素早く、そして巨大。
ただそれだけが為に、シンプルな脅威だった。
腕を振り回し、時には蹴りを放つ。
やっているのはそれ以上でもそれ以下でもなく、しかし侮るのは大間違い。
巨体と釣り合った膂力、一方で速さは鈍重とは程遠い。
単純に力強く、素早く、そして巨大。
ただそれだけが為に、シンプルな脅威だった。
跳躍し双剣の範囲から逃れると、CcapacApuも跳ぶ。
巨体が浮かんだ際の暴風だけでも危険だが、この巨人はもっと厄介だから始末に負えない。
黒死牟の頭上を越え、両腕を広げ宙で回転。
真上から降って来た巨大な回転鋸へ、安定しない体勢から技を繰り出す。
巨体が浮かんだ際の暴風だけでも危険だが、この巨人はもっと厄介だから始末に負えない。
黒死牟の頭上を越え、両腕を広げ宙で回転。
真上から降って来た巨大な回転鋸へ、安定しない体勢から技を繰り出す。
――月の呼吸 拾ノ型 穿面斬・蘿月
斬撃波を二連、並べて放ち相殺。
片腕を弾かれたCcapacApuが体勢を崩した瞬間に、着地。
すかさず自身目掛け降り注ぐ飛び蹴りを避け、真横へと回り込む。
だがこちらが刀を振るうのを待たず、片腕の剣で斬り上げを放った。
地面を砕きながら襲い来る脅威を前にし、もう片方の得物を振り抜く。
妖刀と魔剣を重ね合わせ、巨剣の刀身へ叩き付けるように逸らす。
片腕を弾かれたCcapacApuが体勢を崩した瞬間に、着地。
すかさず自身目掛け降り注ぐ飛び蹴りを避け、真横へと回り込む。
だがこちらが刀を振るうのを待たず、片腕の剣で斬り上げを放った。
地面を砕きながら襲い来る脅威を前にし、もう片方の得物を振り抜く。
妖刀と魔剣を重ね合わせ、巨剣の刀身へ叩き付けるように逸らす。
「ヌ、オ、オ……!!」
鬼の膂力を呼吸で更に強化した黒死牟でなければ、肉片に変えられていただろう。
力任せに狙いを外し、こちらが斬り掛かる番と得物を振り被る。
が、寸前で肌が粟立つ感覚と共に瞳が異変を捉えた。
力任せに狙いを外し、こちらが斬り掛かる番と得物を振り被る。
が、寸前で肌が粟立つ感覚と共に瞳が異変を捉えた。
六眼が透過したのは、人の肉体とは似ても似つかない光景。
当然の話だ、カードから召喚された存在に生物の内部構造がある筈もない。
但し、透き通る世界が闘争に役立てられないと言い切るのは間違いだ。
既存の生物と違おうと現実に存在する以上、動きを見せる際には必ず何かしらの予兆が表れる。
戦闘開始当初こそ多少戸惑ったが、慣れてしまえば見極めるのは不可能に非ず。
当然の話だ、カードから召喚された存在に生物の内部構造がある筈もない。
但し、透き通る世界が闘争に役立てられないと言い切るのは間違いだ。
既存の生物と違おうと現実に存在する以上、動きを見せる際には必ず何かしらの予兆が表れる。
戦闘開始当初こそ多少戸惑ったが、慣れてしまえば見極めるのは不可能に非ず。
仮にキャルが縁壱と再戦を余儀なくされた場合、初戦時のように吹き飛ばすのすら最早叶わずに。
怪獣の剛腕をも容易く突破される可能性に繋がるが、それはともかく。
怪獣の剛腕をも容易く突破される可能性に繋がるが、それはともかく。
CcapacApuの胴体が蠢くのを見て、黒死牟は攻撃を中断し飛び退いた。
直後、広範囲へ斬撃の嵐が舞飛ぶ。
双剣の交差で頸への衝撃は確実に防ぎながら、他の傷は捨て置く。
戦場は未だ闇が覆い隠しており、再生能力は問題無く作用。
今しがたの猛攻の正体を六眼に閉じ込め、喉が微かに引き攣った音を立てる。
直後、広範囲へ斬撃の嵐が舞飛ぶ。
双剣の交差で頸への衝撃は確実に防ぎながら、他の傷は捨て置く。
戦場は未だ闇が覆い隠しており、再生能力は問題無く作用。
今しがたの猛攻の正体を六眼に閉じ込め、喉が微かに引き攣った音を立てる。
CcapacApuの胴から、大量の刃が生えていた。
その全てにノロの特徴でもある、目玉がへばり付き周囲を睥睨。
本来の地縛神には存在しない、ノロの影響を受けた為にやれた事だ。
刃でありながら生物のように身をしならせ、耳障りな鳴き声らしきものを響かせる。
邪神と呼ぶ事すら憚れる程の、怖気が走る光景だった。
その全てにノロの特徴でもある、目玉がへばり付き周囲を睥睨。
本来の地縛神には存在しない、ノロの影響を受けた為にやれた事だ。
刃でありながら生物のように身をしならせ、耳障りな鳴き声らしきものを響かせる。
邪神と呼ぶ事すら憚れる程の、怖気が走る光景だった。
「偶然も……度が過ぎれば不愉快極まる……」
CcapacApuを召喚したキャルも、術を仕掛けたリンボも。
黒死牟が無限城で何をやったかは、知る筈もない。
偶然の産物に過ぎないとはいえ、当て付けのように思えてならず、
黒死牟が無限城で何をやったかは、知る筈もない。
偶然の産物に過ぎないとはいえ、当て付けのように思えてならず、
「……」
見上げた巨体へ、鬼狩り達に追い詰められた時を思い出し。
これと酷似した自身がどういった存在かを、突き付けられる。
これと酷似した自身がどういった存在かを、突き付けられる。
実のところ、黒死牟が血鬼術を放つのに必ずしも刀を振るう必要はない。
確かに呼吸を組み合わせた剣技は、当代きっての実力を誇る柱達からしても脅威。
しかしもっと単純に、敵対者を殲滅へ追いやる戦術がある。
生前最後の死闘で全身から虚哭神去を生やし、時透無一郎と不死川玄弥を死に追いやる一手を打った。
複雑な技術を一切用いず、剣士として磨き上げた技すら無用の。
予備動作の全てを取っ払った、ただ不可視の刃を飛ばす。
自身を一種の発射装置として扱う、それが鬼としての到達点だった。
確かに呼吸を組み合わせた剣技は、当代きっての実力を誇る柱達からしても脅威。
しかしもっと単純に、敵対者を殲滅へ追いやる戦術がある。
生前最後の死闘で全身から虚哭神去を生やし、時透無一郎と不死川玄弥を死に追いやる一手を打った。
複雑な技術を一切用いず、剣士として磨き上げた技すら無用の。
予備動作の全てを取っ払った、ただ不可視の刃を飛ばす。
自身を一種の発射装置として扱う、それが鬼としての到達点だった。
ク、と。
漏らした声が自嘲か、苛立ちか。
はたまたどちらとも異なるのかは、黒死牟自身にも分からず。
だが、明確に同じ訳ではなくとも。
嘗ての己を重ねずにはいられない異形を前に、嫌でも思わずにはいられない。
漏らした声が自嘲か、苛立ちか。
はたまたどちらとも異なるのかは、黒死牟自身にも分からず。
だが、明確に同じ訳ではなくとも。
嘗ての己を重ねずにはいられない異形を前に、嫌でも思わずにはいられない。
“あの姿”にならずとも、こんなものが侍と呼べる筈があるか。
効率だけを重視するなら。
勝利という結果だけを貪欲に欲するなら、わざわざ呼吸に頼る必要もない。
己の内側から刃を生やし、敵が息絶えるまでひたすらに斬撃波を飛ばすだけで片が付く。
柱達との戦闘でも、最初からそうやっていれば全滅へ追いやれただろう。
屠り合いに招かれた者達相手にも、同様の戦法を取り続ければ良かった。
馬鹿正直に斬り結び、長々と時間を掛けるまでもない。
勝つ、それだけだったら手っ取り早い方法が他にあったろうに。
勝利という結果だけを貪欲に欲するなら、わざわざ呼吸に頼る必要もない。
己の内側から刃を生やし、敵が息絶えるまでひたすらに斬撃波を飛ばすだけで片が付く。
柱達との戦闘でも、最初からそうやっていれば全滅へ追いやれただろう。
屠り合いに招かれた者達相手にも、同様の戦法を取り続ければ良かった。
馬鹿正直に斬り結び、長々と時間を掛けるまでもない。
勝つ、それだけだったら手っ取り早い方法が他にあったろうに。
「……」
では何故、自分は今も昔もそうしなかった。
刀を振るう戦い方を、無限城での焦燥に駆られる前までは捨てなかったのか。
鬼と化しても、侍に拘り続けた理由はなんなのか。
刀を振るう戦い方を、無限城での焦燥に駆られる前までは捨てなかったのか。
鬼と化しても、侍に拘り続けた理由はなんなのか。
「理由、など……」
考えるまでもない。
記憶の果てまで探らずとも、焼き付き色褪せない男。
決して消えることのない火炎となり、永劫燃え盛る日輪。
己を狂わせ、嫉妬と憎悪をどうしようもない程に滾らせる人間(ばけもの)。
幾年の時が経とうと、惹き付けて止まない絶技の使い手。
記憶の果てまで探らずとも、焼き付き色褪せない男。
決して消えることのない火炎となり、永劫燃え盛る日輪。
己を狂わせ、嫉妬と憎悪をどうしようもない程に滾らせる人間(ばけもの)。
幾年の時が経とうと、惹き付けて止まない絶技の使い手。
後にも先にも超える者は現れなかった、最強の二文字を不滅のものとする剣士。
血を分けた弟へ、焦がれ続けた以外の理由はない。
血を分けた弟へ、焦がれ続けた以外の理由はない。
それは、屠り合いでも変わらない。
生き恥を晒した挙句に自壊し、柱に討ち散られた末路が影を差し。
方針一つ決められず、主への忠誠すらも見失って。
されど、剣を握って戦うという一点のみは捨てられなかった。
生き恥を晒した挙句に自壊し、柱に討ち散られた末路が影を差し。
方針一つ決められず、主への忠誠すらも見失って。
されど、剣を握って戦うという一点のみは捨てられなかった。
たとえ縁壱が神の傀儡へと堕ち、無辜の民の屍を積み上げる剣鬼なのは変えられなくとも。
今の自分が弟へ抱く感情の正体を、未だ理解出来ずにいるとしても。
鮮烈な記憶の数々までは消えないし、消せない。
今の自分が弟へ抱く感情の正体を、未だ理解出来ずにいるとしても。
鮮烈な記憶の数々までは消えないし、消せない。
何の為に強さを得るべく足掻いたのかと問われれば、きっと。
人間の継国巌勝だった時と、変わらぬ答えを返すだろう。
人間の継国巌勝だった時と、変わらぬ答えを返すだろう。
(そうか……)
思考が自分でも驚く程冷静だった。
範囲を徐々に広げ、放って置けば一帯を刃で侵す巨体を見上げる。
生半可な威力では倒し切れず、悪戯に邪神を刺激するだけ。
ならば如何に斬るかを、己が脳内で組み上げ完成へ近付けていく。
範囲を徐々に広げ、放って置けば一帯を刃で侵す巨体を見上げる。
生半可な威力では倒し切れず、悪戯に邪神を刺激するだけ。
ならば如何に斬るかを、己が脳内で組み上げ完成へ近付けていく。
想像で終わらせず、実現させるのに必要なものは何か。
両手に握る双剣、人間時代より習得し練度を高めて来た呼吸法。
後は、自らに魔剣を突き刺し得た力。
身体能力を更に引き上げるのは、これまでの戦闘で実証済。
両手に握る双剣、人間時代より習得し練度を高めて来た呼吸法。
後は、自らに魔剣を突き刺し得た力。
身体能力を更に引き上げるのは、これまでの戦闘で実証済。
だが足りない。
今のまま漠然とした使い方では、遠くない内に限界が来ると確信を抱く。
今のまま漠然とした使い方では、遠くない内に限界が来ると確信を抱く。
(私は……)
故に、初心へ立ち返る。
呼吸を我が物とした時や、至高の領域たる世界を瞳が映し出した時。
縁壱の力を手にれるべく、執念で近付こうとした時のように。
今の自分自身を細部まで認識、動かす体を知らずして辿り着ける道理は無し。
呼吸を我が物とした時や、至高の領域たる世界を瞳が映し出した時。
縁壱の力を手にれるべく、執念で近付こうとした時のように。
今の自分自身を細部まで認識、動かす体を知らずして辿り着ける道理は無し。
(俺は、まだ)
我ながら奇妙な感覚だった。
思考が冴え渡り、一方で心は未だ縁壱に強く囚われているのに。
遥か頭上で燦燦と照らす太陽を睨み上げ、魂の悲鳴が鳴り止まぬのに。
死に物狂いで天への石を積み上げるのではない。
ただふと、その時になってようやっと気付いた道へ。
一歩踏み出す、そんな気がした。
思考が冴え渡り、一方で心は未だ縁壱に強く囚われているのに。
遥か頭上で燦燦と照らす太陽を睨み上げ、魂の悲鳴が鳴り止まぬのに。
死に物狂いで天への石を積み上げるのではない。
ただふと、その時になってようやっと気付いた道へ。
一歩踏み出す、そんな気がした。
(お前の背に、追い付きたいのか)
「――――――っ!!!」
頬へ浮かぶは火炎の如き痣のみに非ず。
ステンドグラスを思わせる、本来はファンガイアが持つ力の証。
魔皇力が活性化、黒死牟の全身から活力が漲り出す。
ステンドグラスを思わせる、本来はファンガイアが持つ力の証。
魔皇力が活性化、黒死牟の全身から活力が漲り出す。
これまで同様、漠然と強化するのとは違う。
細胞一つ一つにまで、血液のように魔皇力を流し込む。
膂力、走力、感覚機能が数段階上へ到達。
そこへ加わるは全集中の呼吸による、身体機能の上昇。
異なる力を組み合わせるのは、魔法少女とのコネクトで勘は掴んだ。
肺活量も含め精度をより磨き上げる事で、生前では叶わなかった領域へ足を踏み入れる。
細胞一つ一つにまで、血液のように魔皇力を流し込む。
膂力、走力、感覚機能が数段階上へ到達。
そこへ加わるは全集中の呼吸による、身体機能の上昇。
異なる力を組み合わせるのは、魔法少女とのコネクトで勘は掴んだ。
肺活量も含め精度をより磨き上げる事で、生前では叶わなかった領域へ足を踏み入れる。
黒死牟の変化に気付いたか、或いは認識する敵を殺すだけのプログラムか。
CcapacApuの胴体から生えた刃が殺到、餌に群がる蟲のように喰い殺さんと迫る。
頭上から降るおぞましき雨、その全てを鬼の六眼は正確に捉えた。
視て終わりではない、双剣を構え災厄の渦中へ疾走。
CcapacApuの胴体から生えた刃が殺到、餌に群がる蟲のように喰い殺さんと迫る。
頭上から降るおぞましき雨、その全てを鬼の六眼は正確に捉えた。
視て終わりではない、双剣を構え災厄の渦中へ疾走。
得物を振るい、時には無駄を削いだ動きで躱す最中。
黒死牟の眼は邪神を見ながらも、目の前に一人の男の背を映し出していた。
自身へ一瞥も寄越さず、襲い来る地獄さながらの刃の群体を身一つで捌く。
縁壱がここにいればきっと、己を遥かに超えて難なく凌ぐだろうと。
憎たらしくも、確信を抱かざるを得ない。
黒死牟の眼は邪神を見ながらも、目の前に一人の男の背を映し出していた。
自身へ一瞥も寄越さず、襲い来る地獄さながらの刃の群体を身一つで捌く。
縁壱がここにいればきっと、己を遥かに超えて難なく凌ぐだろうと。
憎たらしくも、確信を抱かざるを得ない。
記憶から引き出した姿を六眼が追い、しかし全ては捉え切れない。
挙句、先に限界が来るのは自分の方。
網膜が焼き切れ即座に再生、すぐにまた焼けては再生の繰り返し。
本当に、脳を掻き毟りたくなる程の衝動に駆られる。
己が記憶を元に想像を重ねただけであろうと、隔絶した差を思い知らされるのだから。
挙句、先に限界が来るのは自分の方。
網膜が焼き切れ即座に再生、すぐにまた焼けては再生の繰り返し。
本当に、脳を掻き毟りたくなる程の衝動に駆られる。
己が記憶を元に想像を重ねただけであろうと、隔絶した差を思い知らされるのだから。
それでも、その背を追うのは止められない。
死に物狂いで食らい付き、己が身へ取り入れる。
一本で完璧に捌く剣を、異次元の領域にも等しい足捌きを。
未完成だった技の、隙間を片っ端から埋めていく。
死に物狂いで食らい付き、己が身へ取り入れる。
一本で完璧に捌く剣を、異次元の領域にも等しい足捌きを。
未完成だった技の、隙間を片っ端から埋めていく。
「――――そこ、か」
前面から襲い来る、津波としか思えない刃の壁。
進んでも退いても餌食は避けられぬだろう悪夢へ、一点を斬りちっぽけな綻びを生み出す。
十分だ、跳躍し無防備な宙へ躍り出た。
即座に囲まんと刃が伸ばされ、
進んでも退いても餌食は避けられぬだろう悪夢へ、一点を斬りちっぽけな綻びを生み出す。
十分だ、跳躍し無防備な宙へ躍り出た。
即座に囲まんと刃が伸ばされ、
ふと、もう一つの戦場にて。
陰陽師との闘争を繰り広げる、桜色の少女が映り。
瞬きを終えるかも分からぬ一瞬、彼女と目が合った。
陰陽師との闘争を繰り広げる、桜色の少女が映り。
瞬きを終えるかも分からぬ一瞬、彼女と目が合った。
――『心から“こうしたい”って答えが出せるように、支えたいって思うんです』
それに返せるだけの答えは、未だ至らず。
頼んだ覚えもない戯言へ、感謝を抱くなど以ての外。
だが、彼女の力を組み合わせ技に昇華させた感覚が己の糧となり。
あの娘と会ってから始まった闘争の数々が、今へ至らせた可能性があるとすれば。
頼んだ覚えもない戯言へ、感謝を抱くなど以ての外。
だが、彼女の力を組み合わせ技に昇華させた感覚が己の糧となり。
あの娘と会ってから始まった闘争の数々が、今へ至らせた可能性があるとすれば。
――月の呼吸
無意味ではなかったのかもしれないと。
ただそれだけを、事実として受け入れた。
ただそれだけを、事実として受け入れた。
――拾参ノ型【極】
魔皇の真紅に染まりし、二振りの剣が振るわれる。
荒ぶる魂共々、猛威へ終焉を告げるべく。
邪神をも喰らう鬼の牙が、突き立てられた。
邪神をも喰らう鬼の牙が、突き立てられた。
○
「なによ、それ」
自分の口から出た声だと、キャルが認識出来たかは怪しい。
何時の間にか他の者も動きを止め、その光景を目にしていたとも気付けない。
高熱でうなされた時に見るかのような、荒唐無稽な悪夢染みた。
しかし紛れもない現実が、そこにあった。
何時の間にか他の者も動きを止め、その光景を目にしていたとも気付けない。
高熱でうなされた時に見るかのような、荒唐無稽な悪夢染みた。
しかし紛れもない現実が、そこにあった。
六眼の侍、黒死牟が手にした二振りの得物。
業物だろうがCcapacApuの巨体には到底届かない、小針同然のそれらを振るって。
業物だろうがCcapacApuの巨体には到底届かない、小針同然のそれらを振るって。
邪神の上半身を、無数の刃諸共“喰い千切った”。
腰から上を失い、切断部分が僅かに波打つも。
無駄な足掻きに過ぎないと悟り、残る下半身も崩れ落ちる。
轟音を立てるより早く消滅し、邪神がいた痕跡は周囲に刻まれた夥しい建造物の残骸のみ。
無駄な足掻きに過ぎないと悟り、残る下半身も崩れ落ちる。
轟音を立てるより早く消滅し、邪神がいた痕跡は周囲に刻まれた夥しい建造物の残骸のみ。
「おかしいでしょ、そんなの」
CcapacApuを召喚した際の高揚感は、ハッキリと覚えている。
あの時でさえ尋常ならざる力を感じ、此度はリンボの術で更なる強さを得たのだ。
何人束になった所で、蹴散らされる雑魚が増えるだけに過ぎない筈だろうに。
嫌でも見せ付けられる敗北へ、声色に感情を宿す事すら忘れる。
あの時でさえ尋常ならざる力を感じ、此度はリンボの術で更なる強さを得たのだ。
何人束になった所で、蹴散らされる雑魚が増えるだけに過ぎない筈だろうに。
嫌でも見せ付けられる敗北へ、声色に感情を宿す事すら忘れる。
「ンンンンンンソンンソソンン!!ええ、ええ、そうでしょうとも!宿業を植え付けたが如き腐らせた魂だろうと、貴殿が剣士であるならば!そういった可能性は無きにしも非ず!しかししかしィ!これだから、剣に身を捧げた蛮族どもは!」
笑みを深め早口で言葉を並べ立てるリンボの目には、過去へ置いて来た姿がチラ付く。
ああ成程、確かにそうなってもおかしくはない。
悪鬼に堕ちた男であろうと、剣に魂を捧げた人でなしなら。
天眼を宿す二天一流の究道者、至高天を名に冠する剣術無双。
彼奴らとは毛色が違う、未だ惑う魂を抱えた男であっても。
下総国にて眼へ深く刻み付けられた、剣士どもを忘れていないが故に。
絶対に有り得ぬ展開とは言い難く、なればこそ余計に腹が立つ。
ああ成程、確かにそうなってもおかしくはない。
悪鬼に堕ちた男であろうと、剣に魂を捧げた人でなしなら。
天眼を宿す二天一流の究道者、至高天を名に冠する剣術無双。
彼奴らとは毛色が違う、未だ惑う魂を抱えた男であっても。
下総国にて眼へ深く刻み付けられた、剣士どもを忘れていないが故に。
絶対に有り得ぬ展開とは言い難く、なればこそ余計に腹が立つ。
「然らば!里見灯花への供物を貴殿の元から奪うまで!」
先程までの上機嫌はどこへやらの有様だが、やるべき事は同じ。
五芒星の中心から放たれる、邪気を籠めた熱線。
式神とはいえノロの恩恵に与り、何よりリンボは術師としての腕も並外れている。
小娘一人の抵抗に遅れを取る程、耄碌した覚えも無し。
五芒星の中心から放たれる、邪気を籠めた熱線。
式神とはいえノロの恩恵に与り、何よりリンボは術師としての腕も並外れている。
小娘一人の抵抗に遅れを取る程、耄碌した覚えも無し。
「ンンン!?」
眉間がピクリと反応し、対峙中の娘に起きた変化を察知。
そこに立つのはいろは一人だけ、されど宿す力は一つではない。
肩を並べて挑むように、或いは包み込んで守るように。
青く輝く魔力が、桜色の光と溶けて一つになる。
そこに立つのはいろは一人だけ、されど宿す力は一つではない。
肩を並べて挑むように、或いは包み込んで守るように。
青く輝く魔力が、桜色の光と溶けて一つになる。
(やちよさん……!)
感じる魔力が、己の魂へ宿った希望が誰のものか分からない訳がない。
彼女の力が自分に流れ込んだ理由だってそう。
全て分かるからこそ、目尻から雫が零れ落ちる。
それでも、今はまだこの感情に身を委ねる時ではない。
戦わねばならない敵が、すぐそこにいる。
彼女の力が自分に流れ込んだ理由だってそう。
全て分かるからこそ、目尻から雫が零れ落ちる。
それでも、今はまだこの感情に身を委ねる時ではない。
戦わねばならない敵が、すぐそこにいる。
「ストラーダ・フトゥーロ――」
クロスボウへ装填した魔力が最高潮へ達し。
同時に生成する、複数本の槍。
真っ直ぐに自身を狙い撃つ熱線へ、二種の力を重ねて放った。
同時に生成する、複数本の槍。
真っ直ぐに自身を狙い撃つ熱線へ、二種の力を重ねて放った。
焼き潰さんと駆ける熱線を、槍が貫き矢が押し返す。
暫しの拮抗を見せた後、熱と矢は揃って霧散。
弾き飛ばされた槍は宙を舞い、秒と経たずに自然落下だろう。
飛散したエネルギーの熱波を防いだリンボは、即座に次の術を構築し、
暫しの拮抗を見せた後、熱と矢は揃って霧散。
弾き飛ばされた槍は宙を舞い、秒と経たずに自然落下だろう。
飛散したエネルギーの熱波を防いだリンボは、即座に次の術を構築し、
「アブソリュート!!」
上空より降り注がれた力の拡散を、目の当たりにする。
計10本の槍が、独りでに解けていくも消滅ではない。
無数の細かな、だが密度は断じて軽く見れない青の矢に変化。
膨大な数でありながらも標的を的確に絞り、眩い集中豪雨を降らせた。
計10本の槍が、独りでに解けていくも消滅ではない。
無数の細かな、だが密度は断じて軽く見れない青の矢に変化。
膨大な数でありながらも標的を的確に絞り、眩い集中豪雨を降らせた。
「何のこれしき!拙僧を屠りたくばこの万倍は必要と思いなされ!」
ノロの神聖を引き出し、結界を頭上に生成。
魔女を祓う光の雨が、負の念で構成された荒魂の核を削ぎ落とす。
だがそこはキャスター・リンボ、呪力の緻密なコントロールで我が身に傷は負わせない。
魔女を祓う光の雨が、負の念で構成された荒魂の核を削ぎ落とす。
だがそこはキャスター・リンボ、呪力の緻密なコントロールで我が身に傷は負わせない。
「こん、の……!がぐっ!?」
幻想的ながら威力と範囲にも優れた雨に降られるのは、リンボだけじゃあない。
曲刀で打ち払う月光舞獅子姫だが、如何せん数が数。
獣人の体へ突き刺さり、掻き消すも弾けた魔力が肌を焼く。
曲刀で打ち払う月光舞獅子姫だが、如何せん数が数。
獣人の体へ突き刺さり、掻き消すも弾けた魔力が肌を焼く。
両名共にいろはの大技(マギア)へ意識を割き、隙が生じた今こそ反撃のチャンス。
「行ってくださいココア!」
「え、レイちゃん?」
「敵を打ち倒すだけが、力の使い道ではありません!」
「え、レイちゃん?」
「敵を打ち倒すだけが、力の使い道ではありません!」
振り下ろされた戦斧を防ぎながら、背後を見ぬまま取るべき手を促す。
一瞬の困惑を見せるも、すぐに力強く頷き返した。
今言われた通りだ、倒す以外にも自分の力でやらねばならない事があるだろう。
一瞬の困惑を見せるも、すぐに力強く頷き返した。
今言われた通りだ、倒す以外にも自分の力でやらねばならない事があるだろう。
「クロックアップ!」
『CLOCK UP』
ライダーベルト横のスイッチを押し込み、加速の世界へ侵入。
制限の影響下にあり、本来よりも更に限られた時間のみしか許されない。
その為、迷っていれば無意味に終わってしまう。
レイ一人に戒の相手を任せる形となるが、躊躇を振り切り駆け出す。
制限の影響下にあり、本来よりも更に限られた時間のみしか許されない。
その為、迷っていれば無意味に終わってしまう。
レイ一人に戒の相手を任せる形となるが、躊躇を振り切り駆け出す。
『CLOCK OVER』
「よっ、と!桃ちゃん大丈夫!?」
「――え、保登さん……?」
「――え、保登さん……?」
いろはを相手取りながらも、リンボは常に桃へ意識を割いていた。
しかしCcapacApuの撃破と今しがたの集中豪雨により、僅かに外れたのだ。
同じマスクドライダーシステムや、時を止められでもしない以上ココアを阻む者はいない。
桃を捕えた式神はロクに反応出来ないまま倒され、奪還に成功。
クロックアップの解除と同時に、ココア達は加速の世界から弾き出される。
その様子はリンボの目にも映った。
しかしCcapacApuの撃破と今しがたの集中豪雨により、僅かに外れたのだ。
同じマスクドライダーシステムや、時を止められでもしない以上ココアを阻む者はいない。
桃を捕えた式神はロクに反応出来ないまま倒され、奪還に成功。
クロックアップの解除と同時に、ココア達は加速の世界から弾き出される。
その様子はリンボの目にも映った。
「何と!?……と慌てふためくとでも思いましたかなァ?浅はかなり!」
桃を奪い返されたとて、呪符は根を張ったように健在。
遠隔で呪力を流すのは容易く、サッと指が宙を走る。
遠隔で呪力を流すのは容易く、サッと指が宙を走る。
「甘いのは貴様の方だ」
だがリンボに余計な真似をされる前に、スペクターが掌から光を発し先手を打つ。
呪符の効力が急速に弱まり、一枚残らず消滅。
魔法少女を縛る枷を無効化したのは、グレイトフル魂に宿る力。
邪馬台国の女王にして、未来を予告した英雄。
ヒミコ魂が持つ悪を浄化する能力で、リンボの呪術を祓ったのだ。
呪符の効力が急速に弱まり、一枚残らず消滅。
魔法少女を縛る枷を無効化したのは、グレイトフル魂に宿る力。
邪馬台国の女王にして、未来を予告した英雄。
ヒミコ魂が持つ悪を浄化する能力で、リンボの呪術を祓ったのだ。
「おのれ!英雄を使役し使い潰す!いやはやどうにも……“奴”を思い出さずにはいられませぬぞ!」
「眼魂に宿る英雄は、俺やタケル達と共に戦う存在だ!他者を利用するだけの、貴様とは違う!」
「眼魂に宿る英雄は、俺やタケル達と共に戦う存在だ!他者を利用するだけの、貴様とは違う!」
天空寺タケルと英雄達の関係を根底から否定するリンボへ、怒りのままに長銃を一斉掃射。
ガンガンハンドが銃声を奏で、殺到する弾丸を毒虫の大量召喚で防御。
汚らしい悲鳴を上げ挽肉と化す式神には目もくれず、各々決着の為に動き出す。
ガンガンハンドが銃声を奏で、殺到する弾丸を毒虫の大量召喚で防御。
汚らしい悲鳴を上げ挽肉と化す式神には目もくれず、各々決着の為に動き出す。
『FINAL FORM RIDE KA・KA・KA KABUTO!』
「二回目ならもう慣れただろ」
「ひゃあっ!?ぜ、全然慣れてないよ~!」
「ひゃあっ!?ぜ、全然慣れてないよ~!」
いきなり背に手を置かれ、変形させられる感覚は何とも言えない。
とはいえ抗議もそこそこに、巨大なカブトゼクターと化したココアは突撃。
冴島邸前での戦闘時を思い出し、角へ風を纏わせる。
とはいえ抗議もそこそこに、巨大なカブトゼクターと化したココアは突撃。
冴島邸前での戦闘時を思い出し、角へ風を纏わせる。
「本当に虫になったっての?害虫は駆除してやるに限るわね!」
真っ向から仕掛けて来たココアへ、月光舞獅子姫も冷気ガスを噴射。
凍結し不細工な氷像に変えてから、粉微塵へ砕いてやればいい。
但し、ココアも無策で突っ込んだ覚えはない。
全身の回転によりガスを払い除け、ドリルのように角を突き出した。
舌を打つ月光舞獅子姫の曲刀と衝突、金属音を響かせ合う。
凍結し不細工な氷像に変えてから、粉微塵へ砕いてやればいい。
但し、ココアも無策で突っ込んだ覚えはない。
全身の回転によりガスを払い除け、ドリルのように角を突き出した。
舌を打つ月光舞獅子姫の曲刀と衝突、金属音を響かせ合う。
「いやどういう仕組みだよ。明らかに人間がして良い関節の動きじゃないだろ……」
「なら、お前も試してみろ」
「なら、お前も試してみろ」
ココアの変形に困惑を隠せないビルドへ、サラリと告げ新たなカードを取り出す。
殺し合いに巻き込まれた直後は白紙だったが、今はもう違う。
ゲーマドライバーを修理していた際、あの時の会話が切っ掛けとなり。
戦いの中で、背を預けられる仲間だと言葉に出さずとも認められたのだろう。
新たに結んだ絆へ嫌味の無い笑みを浮かべて、力を解放する。
殺し合いに巻き込まれた直後は白紙だったが、今はもう違う。
ゲーマドライバーを修理していた際、あの時の会話が切っ掛けとなり。
戦いの中で、背を預けられる仲間だと言葉に出さずとも認められたのだろう。
新たに結んだ絆へ嫌味の無い笑みを浮かべて、力を解放する。
『FINAL FORM RIDE BUI・BUI・BUI BUILD!』
「ちょっとくすぐったいぞ」
「は?ちょ、え、ええええええええええっ!?」
「は?ちょ、え、ええええええええええっ!?」
思わず振り返ろうとするビルドに構わず、背に置いた手を開く。
カブトのような変形は起きないが、変化なら起きた。
赤一色のビルドと青一色のビルドに分裂し、二人のビルドとなったのだ。
本来ならボトルスロットが二つある筈のドライバーは、一つだけとなり。
ベストマッチではなくなった反面、それぞれラビットとタンクのボトルの成分へ特化させた未知の形態と化す。
カブトのような変形は起きないが、変化なら起きた。
赤一色のビルドと青一色のビルドに分裂し、二人のビルドとなったのだ。
本来ならボトルスロットが二つある筈のドライバーは、一つだけとなり。
ベストマッチではなくなった反面、それぞれラビットとタンクのボトルの成分へ特化させた未知の形態と化す。
「どうなってんのこれ?えっ?ってか俺の意識が両方にちゃんとある?分身じゃない?」
「遠隔操作、でもないよな?どんな原理?気になって仕方ねぇよ!」
「実験なら後でやれ。今はさっさと、あのネコ娘を大人しくさせるぞ」
「遠隔操作、でもないよな?どんな原理?気になって仕方ねぇよ!」
「実験なら後でやれ。今はさっさと、あのネコ娘を大人しくさせるぞ」
お互いを見ながら軽いパニックになるビルド達へ、ネオ生命体相手に共闘した二人で一人の探偵を思い出しつつ。
最優先はキャルの無力化、モタついてる余裕はない。
機動力を活かし立ち回っているココアだけに、押し付ける気はビルドだって皆無。
気を引き締め直すのを確認し、ディケイドが更にカードを装填。
最優先はキャルの無力化、モタついてる余裕はない。
機動力を活かし立ち回っているココアだけに、押し付ける気はビルドだって皆無。
気を引き締め直すのを確認し、ディケイドが更にカードを装填。
『FINAL ATTACK RIDE KA・KA・KA KABUTO!』
『FINAL ATTACK RIDE BUI・BUI・BUI BUILD!』
カブトと二体のビルド、そしてディケイド自身。
四体のライダーに必殺のエネルギーを付与し、跳躍。
先んじて宙を舞うカブトに並び、月光舞獅子姫目掛けて急降下。
迎撃で放たれた熱線や火炎をも突っ切り、咄嗟に防御へ回した曲刀に蹴りが叩き込まれる。
四体のライダーに必殺のエネルギーを付与し、跳躍。
先んじて宙を舞うカブトに並び、月光舞獅子姫目掛けて急降下。
迎撃で放たれた熱線や火炎をも突っ切り、咄嗟に防御へ回した曲刀に蹴りが叩き込まれる。
「こ、の……ぎっ!?」
押し返さんと踏ん張るも、限界が来たのは曲刀の方。
蹴り砕かれ、三人の足底と一人の角が胴体を叩く。
芯まで響く痛みに短く悲鳴が零れ、しかし巨獣の打たれ強さで耐え凌ぐ。
頭部から熱線を乱射、ディケイド達を引き離し、
蹴り砕かれ、三人の足底と一人の角が胴体を叩く。
芯まで響く痛みに短く悲鳴が零れ、しかし巨獣の打たれ強さで耐え凌ぐ。
頭部から熱線を乱射、ディケイド達を引き離し、
「はああああああああっ!!!」
本命を放つ雷鳴の剣士が、得物を振り被った。
双眸から涙を流しながらも、モニカの剣は揺るがない。
悲しみならある、喪失へ打ちのめされたのは偽りじゃない。
蹲って泣き続けていれば、どれ程楽だったろうか。
悲しみならある、喪失へ打ちのめされたのは偽りじゃない。
蹲って泣き続けていれば、どれ程楽だったろうか。
しかしそれは、今尚戦い続ける仲間達から目を背けるのは。
(そんなものが――マナブが力になりたいと言ってくれた、“私”なわけがないだろう!)
友の死に嘆き、どうしてなんだと理不尽な死へ叫び。
學を守るどころか、自分を助ける為に犠牲となり。
心に亀裂が生まれそうな程の、痛みを味わったのは否定せずとも。
學を守るどころか、自分を助ける為に犠牲となり。
心に亀裂が生まれそうな程の、痛みを味わったのは否定せずとも。
命と引き換えに生かした自分への信頼を、裏切る事だけは。
モニカ自身が、断じて許せない。
モニカ自身が、断じて許せない。
紺色の剣士と戦った時の感覚を、今一度思い出す。
魂が求める願いは忘れていない。
幾度絶望が立ち塞がろうと、仲間達を守る輝きに。
魂が求める願いは忘れていない。
幾度絶望が立ち塞がろうと、仲間達を守る輝きに。
戦場を照らす光になりたいと、心からの渇望を抱き。
戦乙女の剣は再び、モニカに応える。
戦乙女の剣は再び、モニカに応える。
「紫電――一閃!!!」
「がっ……あっ……」
「がっ……あっ……」
振り抜かれた刃は、最早月光舞獅子姫の反応速度をも追い越し。
胸部を焼き斬り、膝を付かせ。
死闘の末にとうとう、怪獣化を解除させるに至った。
胸部を焼き斬り、膝を付かせ。
死闘の末にとうとう、怪獣化を解除させるに至った。
その光景を視界に捉えたのは、自我なき屍兵。
日輪との死闘を経て、既に櫻井戒の魂は肉体を離れた。
故にただ単に、自身を生み出した術師の敵を見たに過ぎないのか。
若しくは、別の理由があるのか定かではないが。
雷の如き輝きへ、確かに戒は動きを止めた。
日輪との死闘を経て、既に櫻井戒の魂は肉体を離れた。
故にただ単に、自身を生み出した術師の敵を見たに過ぎないのか。
若しくは、別の理由があるのか定かではないが。
雷の如き輝きへ、確かに戒は動きを止めた。
瞬間、生じた隙へ閃刀姫が斬り込むのは至極当然の流れだ。
意識を斬り合う敵へ引き戻し、咄嗟の回避に動くも躱し切れない。
急所だけは避けられたが、代償は少なくなかった。
生前に失い、蘇生の際にノロを用いて再生した左腕が。
あるべき形へ戻るように斬り飛ばされ、宙を泳いだ後に消失。
急所だけは避けられたが、代償は少なくなかった。
生前に失い、蘇生の際にノロを用いて再生した左腕が。
あるべき形へ戻るように斬り飛ばされ、宙を泳いだ後に消失。
「卑怯、とは言いっこなしですよ」
仕留め切れなかった失態を噛み締め、踏み込んで突きを放つ。
残る右腕で戦斧を操り、レイの猛攻へ対処。
浮かべた顔に、輝きへの動揺は欠片も見当たらなかった。
残る右腕で戦斧を操り、レイの猛攻へ対処。
浮かべた顔に、輝きへの動揺は欠片も見当たらなかった。
闘争は佳境へと突入。
ガンガンハンドの銃撃に合わせ、サングラスラッシャーを二丁生成。
ビリー魂の射撃能力を味方に付け、スペクターがリンボを執拗に狙い撃つ。
ガンガンハンドの銃撃に合わせ、サングラスラッシャーを二丁生成。
ビリー魂の射撃能力を味方に付け、スペクターがリンボを執拗に狙い撃つ。
「ぬぅっ!?おのれ盗人猛々しい!」
「貴様が言えた台詞か!」
「貴様が言えた台詞か!」
だが本命は銃弾の嵐に隠した、フーディーニ魂の鎖。
スペクターの意志で操り、対処へ意識を割かれたリンボの元からある物を奪取。
非難轟々の相手へ正論を叩き付け、本来の持ち主に投げ渡す。
魔法少女への変身に必要不可欠なステッキを、桃が慌てて受け取る。
戸惑いながらも礼を口にし、視線が捉えたのはリンボへ挑まんとするもう一人の魔法少女。
スペクターの意志で操り、対処へ意識を割かれたリンボの元からある物を奪取。
非難轟々の相手へ正論を叩き付け、本来の持ち主に投げ渡す。
魔法少女への変身に必要不可欠なステッキを、桃が慌てて受け取る。
戸惑いながらも礼を口にし、視線が捉えたのはリンボへ挑まんとするもう一人の魔法少女。
(あの魔力って、七海さんの……)
コネクトを通じ魔力を重ね、足の治療でも力を分け与えてくれた仲間。
彼女だけが一向にこの場へ現れず、いろはに彼女の魔力が宿る理由。
察しが付くのに時間は掛からない。
彼女だけが一向にこの場へ現れず、いろはに彼女の魔力が宿る理由。
察しが付くのに時間は掛からない。
「……っ」
まただ、また自分がロクに戦えなかったせいで。
無力感を痛感し、だというのに未だ恐怖を払拭出来ないのが嫌になる。
立ち向かおうとすれば、刻み付けられたトラウマが鎖となって巻き付く。
自分を殴り付けたい衝動は無限に湧くくせに、肝心の敵への攻撃はマトモにやれそうにない。
無力感を痛感し、だというのに未だ恐怖を払拭出来ないのが嫌になる。
立ち向かおうとすれば、刻み付けられたトラウマが鎖となって巻き付く。
自分を殴り付けたい衝動は無限に湧くくせに、肝心の敵への攻撃はマトモにやれそうにない。
それでも、出来る事がゼロじゃないなら。
一緒に戦えてるとは口が裂けても言えないけれど、少しでも力になれるなら。
一緒に戦えてるとは口が裂けても言えないけれど、少しでも力になれるなら。
「いろはちゃん……!私の、魔力も使って……!」
「桃さん!?はい!わたしとコネクトしてください!」
「桃さん!?はい!わたしとコネクトしてください!」
意図を即座に理解し、差し出された掌に自分のを合わせる。
流れ込む桃の魔力と、いろは自身の魔力を一つに。
十数個のバリスタがリンボを取り囲んで配置、装填されたのはハート型のステッキモチーフの矢だ。
いろはの号令を受け一斉発射、桃色の光が迸った。
流れ込む桃の魔力と、いろは自身の魔力を一つに。
十数個のバリスタがリンボを取り囲んで配置、装填されたのはハート型のステッキモチーフの矢だ。
いろはの号令を受け一斉発射、桃色の光が迸った。
「これしきの児戯が何するものぞ!!」
呪符を大量に展開し、全方位へ向け火炎の渦を発生。
ただの一本とて寄せ付けさせず、放った本人らをも灼熱地獄に閉じ込めようと念を籠め、
ただの一本とて寄せ付けさせず、放った本人らをも灼熱地獄に閉じ込めようと念を籠め、
『レッツゴー!リョウマ!オメガフォーメーション!』
「っ!?」
これ以上の暴挙を許すまじと言うように、スペクターもまた技を発動。
土佐の藩士、リョウマ魂の英雄ゴーストと共に光線で撃ち抜く。
五芒星を描き結界で防ぐも、体勢を強引に変えた為に動きが鈍る。
時間にすれば指を折って数えられるかも怪しい、されど隙は隙。
土佐の藩士、リョウマ魂の英雄ゴーストと共に光線で撃ち抜く。
五芒星を描き結界で防ぐも、体勢を強引に変えた為に動きが鈍る。
時間にすれば指を折って数えられるかも怪しい、されど隙は隙。
「届いて!」
仲間の心強い支援を受け、いろはが手前に設置した最後のバリスタを放つ。
さながら己は罠に掛かった哀れな獣かと、崩れかかった笑みで身を捩る。
が、今度ばかりは完全回避も叶わない。
胴体部を引き千切られ、皮数枚で辛うじて繋がるのみだ。
さながら己は罠に掛かった哀れな獣かと、崩れかかった笑みで身を捩る。
が、今度ばかりは完全回避も叶わない。
胴体部を引き千切られ、皮数枚で辛うじて繋がるのみだ。
「これ、は……効きますなァ……!」
ノロを打ち込んだのもあってか、未だ意識は保っていられる。
とはいえ所詮この身は式神、果たして何時まで持つやら。
フェントホープに腰を落ち着けた本体のように、治療へ充てる時間をくれる者はここにいない。
とはいえ所詮この身は式神、果たして何時まで持つやら。
フェントホープに腰を落ち着けた本体のように、治療へ充てる時間をくれる者はここにいない。
但し、乱入者が現れないとも限らないが。
「っ!この魔力は……!」
いろはが動きを止めた途端、空中から灼熱を帯びた魔力の塊が降り注ぐ。
地面が弾け爆熱が起こるも、いろはにだけは一切の被害を齎さない。
周囲の仲間達を強制的に引き離し、放った本人も地面へ近付いて来た。
空を泳ぐ、歪で巨大なシャチのぬいぐるみ。
デストーイ・クルーエル・ホエールに跨った少女は、焦燥を露わに手を伸ばす。
地面が弾け爆熱が起こるも、いろはにだけは一切の被害を齎さない。
周囲の仲間達を強制的に引き離し、放った本人も地面へ近付いて来た。
空を泳ぐ、歪で巨大なシャチのぬいぐるみ。
デストーイ・クルーエル・ホエールに跨った少女は、焦燥を露わに手を伸ばす。
「灯花ちゃん!?」
「ダメだよそんなの……わたくしからお姉さまが離れて行くなんて、あっちゃいけないんだから……!」
「ダメだよそんなの……わたくしからお姉さまが離れて行くなんて、あっちゃいけないんだから……!」
周りの者には目もくれず、望みの存在はいろはただ一人。
力づくでも連れて行く気概を見せ、手が届く瞬間。
力づくでも連れて行く気概を見せ、手が届く瞬間。
「呆けるな……二度も……囚われる気か……?」
「ひゃっ!?」
「ひゃっ!?」
割って入った影が腕を掴み、いろはを引き寄せた。
素っ頓狂な声が飛び出し、見上げると最早この体勢がお馴染みになりつつある相手。
地縛神を撃破し駆け付けた黒死牟が、灯花と火花を散らし合っている。
素っ頓狂な声が飛び出し、見上げると最早この体勢がお馴染みになりつつある相手。
地縛神を撃破し駆け付けた黒死牟が、灯花と火花を散らし合っている。
「また、邪魔して……!ああもう!本当にウザい!ムカつく!」
普段のこましゃくれた態度は鳴りを潜め、癇癪染みた苛立ちを吐き捨てる。
映像越しに見た時から不快な存在だったが、抱く負の感情は留まるところを知らない。
怒りに呼応し発せられる魔力の質は、小学生の少女とは思えない程に苛烈。
元より戦闘に油断を持ち込まない黒死牟も、小娘だからと軽くあしらえる類に非ずと再認識。
映像越しに見た時から不快な存在だったが、抱く負の感情は留まるところを知らない。
怒りに呼応し発せられる魔力の質は、小学生の少女とは思えない程に苛烈。
元より戦闘に油断を持ち込まない黒死牟も、小娘だからと軽くあしらえる類に非ずと再認識。
いろはと黒死牟、リンボ以外には未知の相手となる魔法少女の乱入。
どう動くべきかに各々差は有れど、思考を働かせ動きを止め。
結果、ある者にとっては降って湧いた悪運と化す。
どう動くべきかに各々差は有れど、思考を働かせ動きを止め。
結果、ある者にとっては降って湧いた悪運と化す。
『Golza.』
『Mleba.』
「チェンジ……モンスターフォーム……!」
『Golbar!』
平時であれば意識が飛びかねない激痛も、地縛神を召喚し膨れ上がった攻撃的な人格で耐える。
灯花の登場で自分への警戒が、一瞬薄れた隙にメダルを装填。
ウルトラマンティガに敗れた二体の古代獣の力を融合。
異なる世界で、ウルトラマントリガーに撃破された怪獣。
メルバーに姿を変え、翼状の巨大な被膜を広げた時にはもう誰が気付こうと遅い。
真下の地面を薙ぐように、渾身の力で振るった。
灯花の登場で自分への警戒が、一瞬薄れた隙にメダルを装填。
ウルトラマンティガに敗れた二体の古代獣の力を融合。
異なる世界で、ウルトラマントリガーに撃破された怪獣。
メルバーに姿を変え、翼状の巨大な被膜を広げた時にはもう誰が気付こうと遅い。
真下の地面を薙ぐように、渾身の力で振るった。
「うおおおおっ!?」
「きゃああああああああっ!?」
「きゃああああああああっ!?」
本来より大幅にサイズダウンしてるとはいえ、5階建ての建造物に相当する巨体だ。
発揮する能力も大きさに見合ったものだと、今更言うまでもない。
周囲一帯、目に見える参加者全員を巻き込む大災害が発生。
到底立ってなどいられず、宙へと投げ飛ばされた。
発揮する能力も大きさに見合ったものだと、今更言うまでもない。
周囲一帯、目に見える参加者全員を巻き込む大災害が発生。
到底立ってなどいられず、宙へと投げ飛ばされた。
「お姉さま――!にゃあっ!?」
「失礼します灯花殿。よもやよもや!こちらでもみかん殿の呪いもかくやな天災に見舞われるとは!」
「――っ!?」
「失礼します灯花殿。よもやよもや!こちらでもみかん殿の呪いもかくやな天災に見舞われるとは!」
「――っ!?」
口走った名前に反応を見せた、桃色の魔法少女には最早構っていられず。
灯花を掴み、反対の手でデストーイ・クルーエル・ホエールへしがみ付く。
あっという間に彼方へ吹き飛ばされるリンボ達を、止める余裕は誰一人ない。
灯花を掴み、反対の手でデストーイ・クルーエル・ホエールへしがみ付く。
あっという間に彼方へ吹き飛ばされるリンボ達を、止める余裕は誰一人ない。
「ココア……!くっ、手が……!」
「クソッ!掴まれ……!」
「クソッ!掴まれ……!」
伸ばした手は寸での所で仲間に届かず、レイが悔やむも状況は悪化の一途を辿る。
これ以上バラバラになるのを防ぐべく、どうにか士には届いた。
どこへ叩き付けられるにしろ、激突前に対処しなくては。
これ以上バラバラになるのを防ぐべく、どうにか士には届いた。
どこへ叩き付けられるにしろ、激突前に対処しなくては。
「黒死牟さん……!今だけ、許してください……!」
「……っ」
「……っ」
暴風の勢いが激し過ぎる余り、沈黙のドッペルの飛行すらままならない。
だがこのまま闇で覆われたフィールドを抜け、日の下に彼を晒す訳にもいかない。
必死に布を操って巻き付けて、自分の方へと引き寄せる。
即席の日除けで守りながら、いろは達も行先不明の空の旅へ出発を余儀なくされた。
だがこのまま闇で覆われたフィールドを抜け、日の下に彼を晒す訳にもいかない。
必死に布を操って巻き付けて、自分の方へと引き寄せる。
即席の日除けで守りながら、いろは達も行先不明の空の旅へ出発を余儀なくされた。
「マナブ……!離してくれマコト……!」
「もう無理だ!すまない……!」
「もう無理だ!すまない……!」
亡き友の屍もまた、風に吹かれ何処かへ運ばれる。
安置させる事も叶わず、悔やむ思いでマコトはモニカの腕を掴んだ。
安置させる事も叶わず、悔やむ思いでマコトはモニカの腕を掴んだ。
『稲妻テクニシャン!オクトパスライト!イェーイ!』
「絶対離すなよ千代田……!」
「わ、分かってる……!」
「わ、分かってる……!」
ベストマッチフォームへの変身が間に合ったのは、運が良いとしか言いようがない。
タコの足状の触手を、まだ原形を保つ建造物へ伸ばす。
吸盤を張り付かせ、もう片方の手で桃の手を掴む。
アクション映画のワンシーンのようだと、能天気に思える戦兎ではなく。
暴風が治まるまでの間、両腕を離すまいと堪えるので精一杯。
タコの足状の触手を、まだ原形を保つ建造物へ伸ばす。
吸盤を張り付かせ、もう片方の手で桃の手を掴む。
アクション映画のワンシーンのようだと、能天気に思える戦兎ではなく。
暴風が治まるまでの間、両腕を離すまいと堪えるので精一杯。
やがて風は徐々に勢いを落とし、戦兎と桃に掛かる負担も減少。
鯉のぼり染みた泳ぎからも解放され、体は垂直にぶら下がる。
異様に長く感じたが、実際は1分経ったかすら怪しい。
ようやっと大丈夫だと分かり、桃を抱えて着地。
周囲を見回しても、自分達以外に誰もいなかった。
鯉のぼり染みた泳ぎからも解放され、体は垂直にぶら下がる。
異様に長く感じたが、実際は1分経ったかすら怪しい。
ようやっと大丈夫だと分かり、桃を抱えて着地。
周囲を見回しても、自分達以外に誰もいなかった。
「最っ悪だ……」
口を突いて出る、現状を表すのへ相応しい言葉。
頭を抱える戦兎に、桃も内心同意していた。
頭を抱える戦兎に、桃も内心同意していた。