えきぞちっく・といぼっくす ◆LxH6hCs9JU
「プッチャンがドリルになっちゃった~!?」
プッチャン――それは、私がいつも右手につけていたパペット人形の名前です。
周りのみんなからはよくブサイクなんて言われるけれど、私にとってはかけがえのない親友。それがプッチャンなのです。
そのプッチャンが! いつも右手にはまっていたはずのプッチャンが!
今はなぜか、ドリルになっちゃってるんです!
周りのみんなからはよくブサイクなんて言われるけれど、私にとってはかけがえのない親友。それがプッチャンなのです。
そのプッチャンが! いつも右手にはまっていたはずのプッチャンが!
今はなぜか、ドリルになっちゃってるんです!
……拝啓、ミスター・ポピット。私の未来は暗いです……。
◇ ◇ ◇
私立宮神学園には、教職者たちよりも権限のある、美しき乙女たちがいる。
宮神学園“極”大権限保有最“上”級“生徒会”。
略して――極上生徒会!
◇ ◇ ◇
といったものなんですが……ここじゃあ、極上生徒会書記の肩書きも形無しです。
たくさんの人たちが集まって殺し合いをする。
私はいま自分が置かれている境遇をちゃんと理解できていたけれど、受け入れられたわけではありません。
名簿を見ても、私が知っている人は極上生徒会生徒会長の神宮司奏会長ひとりだけ。
生徒会のみんなはいない。先生もいない。奏会長やプッチャンとも離れ離れ。なんだか涙が出てきます。
そんな涙目な私を導いてくれたのは、とっても怪しい人でした。
たくさんの人たちが集まって殺し合いをする。
私はいま自分が置かれている境遇をちゃんと理解できていたけれど、受け入れられたわけではありません。
名簿を見ても、私が知っている人は極上生徒会生徒会長の神宮司奏会長ひとりだけ。
生徒会のみんなはいない。先生もいない。奏会長やプッチャンとも離れ離れ。なんだか涙が出てきます。
そんな涙目な私を導いてくれたのは、とっても怪しい人でした。
「あらあら、可愛い泣き顔。そんな顔をしていては、悪い狼さんに攫われてしまってよ?」
それが彼女――『怪盗ル・リム』との初めての出会いでした。
◇ ◇ ◇
「粗末でごめんなさい。茶葉も上等なものではないけれど、美味しくなるよう努力して淹れたわ」
舞台は移って、ここは海が一望できる高台の別荘地。そのカフェテラス。
泣きながら街を彷徨っていた私に声をかけてくれた怪盗ル・リムは、今は目の前でお茶を啜っています。
優雅な物腰と流麗な手つきは、一枚の絵画として残したいほどの美しさです。
泣きながら街を彷徨っていた私に声をかけてくれた怪盗ル・リムは、今は目の前でお茶を啜っています。
優雅な物腰と流麗な手つきは、一枚の絵画として残したいほどの美しさです。
そう、たとえ……学生服の上から白いマントを羽織り、頭に白い帽子も被り、
目元を蝶の羽根のようなアイマスクで覆っていたとしても――絵になる美しさです。
目元を蝶の羽根のようなアイマスクで覆っていたとしても――絵になる美しさです。
どこか、奏会長を彷彿とさせる清楚さと、おひさまのような暖かい印象を感じます。
聞くところによると、この怪盗ル・リムさんも、聖ル・リム女学校というところの生徒会長さんをやっているそうです。
だからかな……奏会長に似てるなんて思っちゃったのは。
仮に、奏会長が怪盗ル・リムさんのような仮装をしていたとしたら……うー、私には想像できません。
聞くところによると、この怪盗ル・リムさんも、聖ル・リム女学校というところの生徒会長さんをやっているそうです。
だからかな……奏会長に似てるなんて思っちゃったのは。
仮に、奏会長が怪盗ル・リムさんのような仮装をしていたとしたら……うー、私には想像できません。
「夜の海を眺めながらお茶をするというのも……風情があっていいとは思わない?」
「はぁ……」
「はぁ……」
木製の白いテーブルを挟んで、私と怪盗ル・リムさんは言葉を交わします。けれどやっぱり、私はまだ戸惑い気味です。
いきなりおかしな格好で私の前に現れて、お茶でもいかが? と誘ってくれたのもそうですけど……
いきなりおかしな格好で私の前に現れて、お茶でもいかが? と誘ってくれたのもそうですけど……
「あの~……」
「あら? 砂糖が足りなかったかしら。りのちゃんは甘党?」
「いえ、そうじゃなくて……」
「ん?」
「……そろそろ、本当の名前を教えてもらえないでしょうか?」
「あら? 砂糖が足りなかったかしら。りのちゃんは甘党?」
「いえ、そうじゃなくて……」
「ん?」
「……そろそろ、本当の名前を教えてもらえないでしょうか?」
私はまだ、怪盗ル・リムさんの本名を教えてもらっていません。
交わした情報は、お互いの学校のことやそれぞれの支給品、とりあえず殺し合いをする気はないという意志のみ。
もっと他にも話し合わなきゃいけないことがあるはずなのに、それはお茶をしながら、と流されてしまいました。
交わした情報は、お互いの学校のことやそれぞれの支給品、とりあえず殺し合いをする気はないという意志のみ。
もっと他にも話し合わなきゃいけないことがあるはずなのに、それはお茶をしながら、と流されてしまいました。
バカでグズでノロマでダメダメな私だけど、名簿のチェックくらいはちゃんと済ませました。
その中に『怪盗ル・リム』なんて名前は、もちろん載っていません。
つまり、怪盗ル・リムというのは偽名……! この人は、正体を偽っているに違いありません!
その中に『怪盗ル・リム』なんて名前は、もちろん載っていません。
つまり、怪盗ル・リムというのは偽名……! この人は、正体を偽っているに違いありません!
「では、クイズといきましょう」
名探偵・蘭堂りのとして糾弾を――って、あれ? クイズ!?
「お察しのとおり、怪盗ル・リムというのは仮の名。本名は別にあります」
「それはわかってます」
「じゃあ、その本名を言い当ててみてくださる? 解答は三回まで。はい、どうぞ」
「えっ、えと、ええとぉ……」
「それはわかってます」
「じゃあ、その本名を言い当ててみてくださる? 解答は三回まで。はい、どうぞ」
「えっ、えと、ええとぉ……」
私は考えます。
怪盗ル・リムさん……仮初の名前は置いておくとして、見た目のイメージは奏会長と同じお嬢様タイプ。
きっと名前もお嬢様っぽくて、呼んだときの響きはそれはもうお嬢様で、お嬢様みたいな綺麗な名前なんだと思います。
支給されたデイパックの中から名簿を取り出して、怪盗ル・リムさんの顔と照らし合わせます。
怪盗ル・リムさん……仮初の名前は置いておくとして、見た目のイメージは奏会長と同じお嬢様タイプ。
きっと名前もお嬢様っぽくて、呼んだときの響きはそれはもうお嬢様で、お嬢様みたいな綺麗な名前なんだと思います。
支給されたデイパックの中から名簿を取り出して、怪盗ル・リムさんの顔と照らし合わせます。
「え、えーと……じゃあ、佐倉霧さん!」
「残念、はずれ」
「えぇ!? んと、じゃあ……西園寺世界さん!」
「ざーんねん。それもはずれですわ」
「えぇー! えっと……じゃあ、源千華留さん」
「ぶっ!? ごほっ、ごほっ……ざ、残念。それもはずれです」
「ええぇー! そんなぁ~」
「残念、はずれ」
「えぇ!? んと、じゃあ……西園寺世界さん!」
「ざーんねん。それもはずれですわ」
「えぇー! えっと……じゃあ、源千華留さん」
「ぶっ!? ごほっ、ごほっ……ざ、残念。それもはずれです」
「ええぇー! そんなぁ~」
ううう……全部不正解で悲しいです。
佐倉霧さんでも西園寺世界さんでも源千華留さんでもないとしたら、あとはえーと……
佐倉霧さんでも西園寺世界さんでも源千華留さんでもないとしたら、あとはえーと……
「と、クイズはこれくらいにしましょう。次は私から質問、よろしいかしら?」
落ち込んでいる私を尻目に、怪盗ル・リムさんは微笑んでいます。
いつでも笑みを絶やさない、お母さんみたいな表情。
生徒会長さんというのは、どこの学校でもこういう人ばかりなのかな。
などと思いながら首を傾げる私に、怪盗ル・リムさんは質問します。
いつでも笑みを絶やさない、お母さんみたいな表情。
生徒会長さんというのは、どこの学校でもこういう人ばかりなのかな。
などと思いながら首を傾げる私に、怪盗ル・リムさんは質問します。
「……その、『ドリル』は外さないのかしら?」
そう言って怪盗ル・リムさんが指差したのは、私の右腕に嵌っているドリルです。
男のロマン、ホリ・ススムための道具、穴を掘って埋まりますぅ~……な、あのドリルです。
支給品の一つらしく、ここに飛ばされた当初からなぜかプッチャンの代わりに嵌められていたのだけれど、もう慣れました。
といってもこのドリル、実は本物ではなく、アイドルさん専用のステージアクセサリーの一種なんだそうです。
当然回転もしませんし、穴も掘れません。見せだけだけのダメダメなドリルです。
男のロマン、ホリ・ススムための道具、穴を掘って埋まりますぅ~……な、あのドリルです。
支給品の一つらしく、ここに飛ばされた当初からなぜかプッチャンの代わりに嵌められていたのだけれど、もう慣れました。
といってもこのドリル、実は本物ではなく、アイドルさん専用のステージアクセサリーの一種なんだそうです。
当然回転もしませんし、穴も掘れません。見せだけだけのダメダメなドリルです。
「これは外せません。切なくて寂しいので、プッチャンと再会するまで嵌めておくことにします。
……『おれの名前はドリルのドッチャン。それ以上でもそれ以下でもない』……ほらっ」
「そんな、ドリルで腹話術をやられても……。せっかくの可愛い衣装が台無しに思えるのだけれど」
……『おれの名前はドリルのドッチャン。それ以上でもそれ以下でもない』……ほらっ」
「そんな、ドリルで腹話術をやられても……。せっかくの可愛い衣装が台無しに思えるのだけれど」
怪盗ル・リムさんが、今度は私の着ている服を指差します。
私が身に纏っているのは、もちろん私立宮神学園女子制服……ではないんです。
オレンジ色を基調とした、フリフリふわふわが可愛い洋服。お屋敷のメイドさんが着るメイド服なのです。
これも私の支給品の一つなんですが、これは最初から着ていたわけではありません。
この怪盗ル・リムさんに、「こんなの持ってるんです」と言ったら、「ならば着替えましょう」と返され、その後は一瞬。
瞬く間に着せ替えられ、みぎてにドリル、からだにメイド服を装備した、いつもとはちょっと違う蘭堂りのが爆誕したのです。
私が身に纏っているのは、もちろん私立宮神学園女子制服……ではないんです。
オレンジ色を基調とした、フリフリふわふわが可愛い洋服。お屋敷のメイドさんが着るメイド服なのです。
これも私の支給品の一つなんですが、これは最初から着ていたわけではありません。
この怪盗ル・リムさんに、「こんなの持ってるんです」と言ったら、「ならば着替えましょう」と返され、その後は一瞬。
瞬く間に着せ替えられ、みぎてにドリル、からだにメイド服を装備した、いつもとはちょっと違う蘭堂りのが爆誕したのです。
「それでもやっぱり外せません。変ですか?」
「いいえ。それはそれで、個性が出ていていいと思うわ。それに、こんなことは言いたくないのだけれど……」
「いいえ。それはそれで、個性が出ていていいと思うわ。それに、こんなことは言いたくないのだけれど……」
お茶を啜り、一呼吸置きます。
「……それは、見ようによっては武器にも見えるわ。りのちゃんが武器を持っているという、アピールに繋がるの」
「どういうことですか?」
「ここには、りのちゃんのような可愛い女の子を襲う輩がごまんといるわ。
けれど、りのちゃんが武器を持っていたとしらどうかしら?
相手は警戒心を強め、迂闊には襲撃できなくなる。相手の気持ちになって考えてみて。
自分から襲い掛かって、もしそのドリルで反撃されたら嫌でしょう?」
「あっ……」
「どういうことですか?」
「ここには、りのちゃんのような可愛い女の子を襲う輩がごまんといるわ。
けれど、りのちゃんが武器を持っていたとしらどうかしら?
相手は警戒心を強め、迂闊には襲撃できなくなる。相手の気持ちになって考えてみて。
自分から襲い掛かって、もしそのドリルで反撃されたら嫌でしょう?」
「あっ……」
納得です。
誰だって、自分が傷つくのは怖い。だってこれは殺し合いだから。
納得……できたんだけれど、同時にちょっとだけ悲しくなりました。
誰だって、自分が傷つくのは怖い。だってこれは殺し合いだから。
納得……できたんだけれど、同時にちょっとだけ悲しくなりました。
可愛いお洋服を着て、夜景を眺めながらお茶なんて飲んでるけど……今は全然そんな場合じゃない。
こうしている間にも、奏会長やプッチャンが危険な目にあっているかもしれない。
そう思うと、膝がガクガク震えます。海からやって来る夜風が、肌に突き刺さります。
寒い、不安、ジッとしていられない……!
こうしている間にも、奏会長やプッチャンが危険な目にあっているかもしれない。
そう思うと、膝がガクガク震えます。海からやって来る夜風が、肌に突き刺さります。
寒い、不安、ジッとしていられない……!
「あの、怪盗ル・リムさん! 私……」
「ねぇ、りのちゃんは、このゲームでなにがしたいのかしら?」
「ねぇ、りのちゃんは、このゲームでなにがしたいのかしら?」
堪えきれず立ち上がった私を、怪盗ル・リムさんは穏やかな声で引き止めます。
唐突な質問に、私はすぐ答えを返すことができませんでした。
……なにをしたいのか。
簡単な質問のはずなのに、答えるべき解答が喉の奥で詰まる不快感。
また不安が押し寄せてきて、私は、
唐突な質問に、私はすぐ答えを返すことができませんでした。
……なにをしたいのか。
簡単な質問のはずなのに、答えるべき解答が喉の奥で詰まる不快感。
また不安が押し寄せてきて、私は、
「わたっ、私はっ! 奏会長やプッチャンを探したいです!」
つい、怒鳴るように宣言してしまいました。
怪盗ル・リムさんは驚いた様子も見せず、「そう」と言ってお茶を啜ります。
怪盗ル・リムさんは驚いた様子も見せず、「そう」と言ってお茶を啜ります。
「では、その目的を果たすために、人を傷つける覚悟はおありかしら?」
「人を傷つける、覚悟……?」
「人を傷つける、覚悟……?」
怪盗ル・リムさんがなにを言っているのか、私には理解できませんでした。
だからでしょうか。困っている私の顔を見て、怪盗ル・リムさんが艶やかに笑います。
だからでしょうか。困っている私の顔を見て、怪盗ル・リムさんが艶やかに笑います。
「だってそうでしょう? これは殺し合い。人を傷つけなくては成り立たない。
りのちゃんは人を探したいだけかもしれないけれど、周囲にはあなたの命を狙っている人だっているのよ?」
「わ、私、成績も悪くてなにをやってもへなちょこだけど、そこまで恨まれるようなことしてません!」
「恨み妬みの話ではないわ。生きるか死ぬかの問題なの。自然界における生存競争と一緒。
この世界では、他者を殺さなければ生を拾えない……最終的に自分一人になるまで、それを続ける。
つまり、それがこの世界のルールであり大前提。あの舞台上で神父様が言っていた言葉は覚えているでしょう?」
りのちゃんは人を探したいだけかもしれないけれど、周囲にはあなたの命を狙っている人だっているのよ?」
「わ、私、成績も悪くてなにをやってもへなちょこだけど、そこまで恨まれるようなことしてません!」
「恨み妬みの話ではないわ。生きるか死ぬかの問題なの。自然界における生存競争と一緒。
この世界では、他者を殺さなければ生を拾えない……最終的に自分一人になるまで、それを続ける。
つまり、それがこの世界のルールであり大前提。あの舞台上で神父様が言っていた言葉は覚えているでしょう?」
いつの間に、です。
怪盗ル・リムさんは真剣な眼差しで私の瞳を見据え、たったそれだけで私は身動きが取れなくなりました。
立ち去ることも座ることもままならぬまま、今度は怪盗ル・リムさんが立ち上がります。
怪盗ル・リムさんは真剣な眼差しで私の瞳を見据え、たったそれだけで私は身動きが取れなくなりました。
立ち去ることも座ることもままならぬまま、今度は怪盗ル・リムさんが立ち上がります。
「さて、りのちゃんが答えてくれたのだから、今度は私が教える番ね。私の、したいことを……」
テーブルの端に指を伝わせながら、怪盗ル・リムさんが私に近づいてきます。
怖い――本能的に、私はそう感じていました。
けれど動けない。怖いから動けない。
でもこの怖いは、おばけなどを見たときに感じる恐怖とは違ったもの。
怖い――本能的に、私はそう感じていました。
けれど動けない。怖いから動けない。
でもこの怖いは、おばけなどを見たときに感じる恐怖とは違ったもの。
「ねぇ……りのちゃん」
怪盗ル・リムさんの細くてすらっとした指が、私の頬に触れます。
ぷにっ、と頬っぺたを押されて、顔中が熱くなります。
怪盗ル・リムさんは笑っています。ふふふっ、と優雅に、楽しそうに。
ぷにっ、と頬っぺたを押されて、顔中が熱くなります。
怪盗ル・リムさんは笑っています。ふふふっ、と優雅に、楽しそうに。
「私のしたいこと……それはね、りのちゃん。あなたのような可愛い女の子を、お持ち帰りすることなの」
「……へ?」
「……へ?」
そっ、と怪盗ル・リムさんの顔が接近してきます。
私は怪盗ル・リムさんの言葉の意味が理解できず、行動の真意も理解できず、顔に熱を持ったまま立ち尽くすだけです。
私は怪盗ル・リムさんの言葉の意味が理解できず、行動の真意も理解できず、顔に熱を持ったまま立ち尽くすだけです。
「私の通う学校……聖ル・リム女学校と、それを含むアストラエア三校のことは、さっき説明したわよね?」
「は、はい」
「は、はい」
怪盗ル・リムさんが生徒会長を務める聖ル・リム女学校には、聖ミアトル女学園と聖スピカ女学院という、二つの姉妹校があるそうです。
これら三つをまとめて、アストラエア三校。
でもこの三校、決して仲良しさんというわけじゃないそうです。
これら三つをまとめて、アストラエア三校。
でもこの三校、決して仲良しさんというわけじゃないそうです。
「聖ル・リムは、アストラエア三校の中でも一番新しく建てられた女学校……言わば、末の妹というところね。
そのせいか、他二校と比べるとどうしても印象が弱いの……注目を浴びるのは、いつもミアトルかスピカ。
ル・リムには、絆奈ちゃんたちのような可愛い苺さんたちが揃っているというのに……ふふふ、おかしな話」
そのせいか、他二校と比べるとどうしても印象が弱いの……注目を浴びるのは、いつもミアトルかスピカ。
ル・リムには、絆奈ちゃんたちのような可愛い苺さんたちが揃っているというのに……ふふふ、おかしな話」
至近距離から見つめられて、私は体どころか視線を動かすことも適わなくなってしまいました。
「私ね、あのルール説明が行われた舞台上で、一つ気づいたことがあるのよ。
どんな選別方法が取られたかは知らないけれど……このゲームには、可愛い女の子が豊富に揃っているみたいなの。
そのことに気づいて、つい考えてしまった……」
どんな選別方法が取られたかは知らないけれど……このゲームには、可愛い女の子が豊富に揃っているみたいなの。
そのことに気づいて、つい考えてしまった……」
怪盗ル・リムさんが、私の耳元で囁きます。
「りのちゃんたちのような可愛い女の子をたくさん持ち帰れば……私たちの聖ル・リム女学校が天下を取ることも可能じゃないかしら?」
耳の中に、息が吹きかけられて、私の体、が……
◇ ◇ ◇
聞いた!? 宮神学園極上生徒会執行部書記の蘭堂りのが聖ル・リム女学校生徒会会長の源千華留様とパヤパヤしてるって!
パヤパヤってなに?
ええー!? 宮神学園極上生徒会執行部書記の蘭堂りのが聖ル・リム女学校生徒会会長の源千華留様とパヤパヤしてるぅ!?
パヤパヤはパヤパヤよ
宮神学園極上生徒会執行部書記の蘭堂りのなんかが聖ル・リム女学校生徒会会長の源千華留様とパヤパヤしてるのぉぉ~!?
いやー! 不潔ぅ!
宮神学園極上生徒会執行部書記の蘭堂りのが――
◇ ◇ ◇
ちから……力ぬけ、なぁー!
……な、なんか今、変な幻聴を聞いたような……ううん、今はそんなことよりも!
「そ、それってどういうことですかっ!?」
「言葉どおりの意味。可愛い女の子を、聖ル・リムにお持ち帰りして、イメージアップを図るの」
「お持ち帰りなんて、そんなのどうやって!?」
「それは後々考えるわ。今はとりあえず、可愛い女の子を確保するところから……」
「言葉どおりの意味。可愛い女の子を、聖ル・リムにお持ち帰りして、イメージアップを図るの」
「お持ち帰りなんて、そんなのどうやって!?」
「それは後々考えるわ。今はとりあえず、可愛い女の子を確保するところから……」
ただでさえ間近にいた怪盗ル・リムさんが、さらなるパヤパヤ……じゃない、スキンシップを求めて手を伸ばします。
私は飛び退いて、警戒の念を込めたドッチャンを向けます。
私は飛び退いて、警戒の念を込めたドッチャンを向けます。
「私、聖ル・リム女学校にはお持ち帰りされません!」
「あら、どうして? りのちゃんくらい可愛い女の子なら、資格は十分なのだけれど」
「私は、宮神学園極上生徒会執行部書記の、蘭堂りのだから! 強制的に転校させられるわけにはいきません!」
「あら、どうして? りのちゃんくらい可愛い女の子なら、資格は十分なのだけれど」
「私は、宮神学園極上生徒会執行部書記の、蘭堂りのだから! 強制的に転校させられるわけにはいきません!」
断固抵抗!
私は怪盗ル・リムさんと真っ向から敵対する道を選びます!
私は怪盗ル・リムさんと真っ向から敵対する道を選びます!
「どうしても、お持ち帰りさせてくれないの?」
「どうしてもです! 生徒会のみんなや、先生を裏切ることなんてできません!」
「そう……それは、残念」
「どうしてもです! 生徒会のみんなや、先生を裏切ることなんてできません!」
「そう……それは、残念」
一台のテーブルを挟んで、怪盗ル・リムさんと距離を取る私。
私の拒絶を受け止めた怪盗ル・リムさんは、悲しそうな顔でスカートのポケットに手を伸ばします。
私の拒絶を受け止めた怪盗ル・リムさんは、悲しそうな顔でスカートのポケットに手を伸ばします。
「本当に、残念。考え直してはくれない? だって、りのちゃんが本当に断るようなら――」
取り出したのは、黒光りする一丁の拳銃。
月明かりの下、その黒は光が反射して一層鮮やかに……え?
けん、じゅー……? え…………え、えぇ~!?
月明かりの下、その黒は光が反射して一層鮮やかに……え?
けん、じゅー……? え…………え、えぇ~!?
「ね、考え直してはくださらない? ここでりのちゃんとお別れするようなことは、したくないから」
驚いたなんてものじゃありません。私は反射的にドッチャンを引っ込めてしまいました。
怪盗ル・リムさんが握っているのは、おもちゃじゃない、本物の拳銃です。
種類はわからないけれど、お巡りさんが持っているような奴じゃなくて、マフィアさんが持っているような形の黒いやつ。
怪盗ル・リムさんが握っているのは、おもちゃじゃない、本物の拳銃です。
種類はわからないけれど、お巡りさんが持っているような奴じゃなくて、マフィアさんが持っているような形の黒いやつ。
「そんな……どうして、どうしてこんなことするんですか!?」
「さっき言った目的を達成するためよ。だって、不憫だとは思わない? ル・リムだって、可愛い子が一杯揃っているの。
ミアトルやスピカに劣るところなんてそうあるわけじゃない。そろそろ私たちの出番が来てもいい頃なのよ」
「そんなこと、本当にできると思っているんですか!?」
「うふっ……私の悪い癖。ほんの少しでも可能性があると思うと、つい勝負したくなるの。
だって…………ギャンブルは、オッズが高ければ高いほど面白いんだもの。うふふふっ」
「さっき言った目的を達成するためよ。だって、不憫だとは思わない? ル・リムだって、可愛い子が一杯揃っているの。
ミアトルやスピカに劣るところなんてそうあるわけじゃない。そろそろ私たちの出番が来てもいい頃なのよ」
「そんなこと、本当にできると思っているんですか!?」
「うふっ……私の悪い癖。ほんの少しでも可能性があると思うと、つい勝負したくなるの。
だって…………ギャンブルは、オッズが高ければ高いほど面白いんだもの。うふふふっ」
――銃で撃たれるのって、どれくらい痛いんだろう。
私は咄嗟に、そんな弱い考えをしてしまいました。
私は咄嗟に、そんな弱い考えをしてしまいました。
頭の中に蔓延する死のイメージ。
銃弾が私の皮膚を貫き、血管を通過していく。
入った穴と出て行った穴から、どぱっ、と血が噴き出して。
だくだくだくっ、と血が滝のように流れ落ちて、足元は水溜りに。
それから、それから……考えただけで、卒倒しそう。
銃弾が私の皮膚を貫き、血管を通過していく。
入った穴と出て行った穴から、どぱっ、と血が噴き出して。
だくだくだくっ、と血が滝のように流れ落ちて、足元は水溜りに。
それから、それから……考えただけで、卒倒しそう。
たぶん、きっと、間違いなく。
私の顔は、いま真っ青になっているんだと思う。
それはもう、青ざめているなんてレベルじゃなくて。
全身から血を抜かれたような、そんな感じの…………ダメ!
私の顔は、いま真っ青になっているんだと思う。
それはもう、青ざめているなんてレベルじゃなくて。
全身から血を抜かれたような、そんな感じの…………ダメ!
お母さんを亡くしたときの喪失感と、見せしめにされた人たちの死の瞬間。
二つのマイナスイメージが頭の中を駆け巡って、だけど私はそれを懸命に振り払う。
二つのマイナスイメージが頭の中を駆け巡って、だけど私はそれを懸命に振り払う。
もし奏会長がここにいたら、やさしく包み込んでくれたと思う。
もしプッチャンがここにいたら、厳しく叱咤して励ましてくれたと思う。
もしプッチャンがここにいたら、厳しく叱咤して励ましてくれたと思う。
けど、今ここには私、蘭堂りのしかいない。
だからダメ……っていう話じゃない!
だからこそ、一人でも、立ち向かわなくちゃいけないんだ!
だって私は、みんなとまだお別れしたくないから――!
だからこそ、一人でも、立ち向かわなくちゃいけないんだ!
だって私は、みんなとまだお別れしたくないから――!
「怪盗ル・リムさん……いえ、怪盗ル・リム!」
私は、再びドリルのドッチャンを突きつけます。
「そんな横暴は、この極上生徒会執行部書記の蘭堂りのが絶対に許しません!」
遊撃のみんなはいないけど、ここは宮神学園じゃないけれど、それでも。
私は、極上生徒会の一員としてこの人に立ち向かいたい!
私は、極上生徒会の一員としてこの人に立ち向かいたい!
「……返答は変わらず、ということですわね」
「え……あ、う……えと……」
「え……あ、う……えと……」
うっ……立ち向かいたい、けど、銃口を向けられると意志が折れちゃうやっぱりダメダメな私。
で、でも――と、思ったときでした。
で、でも――と、思ったときでした。
「……本当に残念。じゃあ、りのちゃんとはお別れね」
その瞬間、私は全てを理解しました。
この怪盗ル・リムという人がどういう人なのか。
あの銃がなにを意味して、なにを成すための道具だったのか。
そして私に課せられた運命は、こんなにも過酷だったのかと――。
この怪盗ル・リムという人がどういう人なのか。
あの銃がなにを意味して、なにを成すための道具だったのか。
そして私に課せられた運命は、こんなにも過酷だったのかと――。
「たっ……」
気づけば、私は弱音を零していました。
「助けて……助けてぇー! プッチャン、奏会長ぉー!!」
ギュッと目を瞑り、そして――
私の額に、とすっ、と軽い衝撃が。
ああ、当たってしまいました。
当たっちゃったら、そこで終わっちゃうのに。
終わっちゃった。
……プッチャン……私、一人じゃダメだったよ…………。
夢……そう、これは夢。
夢を、夢を見ていました。
夢の中のわたしは、メイドさんの格好をしてドリルで腹話術。
ああ、夢の中のわたし、なんてだめっ子なわたし。
夢の中のあなたは、格好だけの怪盗で私を欺いて。
ああ、夢の中のあなた、なんて怪しいあなた。
最愛の会長と親友は、わたしのピンチに現れてはくれず。
わたしは一人ぼっちのまま、夢に浸り、夢から覚めるのです。
意識は闇に消え、夢に、夢の世界に埋没――する、はず………………あれ、しない?
「ハッ!?」
なにかに目覚めて、私は瞑っていた目を見開きました。
眼前には、穏やかな笑みを浮かべる奏会長が――ううん、違う。
怪盗ル・リムにそっくりの……蝶々のアイマスクを取った怪盗ル・リムさんが、やさしく微笑みかけていました。
眼前には、穏やかな笑みを浮かべる奏会長が――ううん、違う。
怪盗ル・リムにそっくりの……蝶々のアイマスクを取った怪盗ル・リムさんが、やさしく微笑みかけていました。
「え、え、え?」
なにがなんだかわからない私。
ただ、目の前の女性が素顔を晒した怪盗ル・リムさんだということだけはわかります。
そして銃弾が命中したと思った私の額には……怪盗ル・リムさんの綺麗な人差し指が、小突くように触れていました。
ただ、目の前の女性が素顔を晒した怪盗ル・リムさんだということだけはわかります。
そして銃弾が命中したと思った私の額には……怪盗ル・リムさんの綺麗な人差し指が、小突くように触れていました。
「聞いちゃった。りのちゃんの弱音」
悪戯っぽく唇を動かして、怪盗ル・リムさんは放心状態の私に言います。
「うふふふ……ごめんなさい。少しおふざけがすぎたわね。これも私の悪い癖。
ああ、安心して。この銃は見せかけだけのおもちゃだから。ちょっと、りのちゃんの勇気を試してみたかったの」
ああ、安心して。この銃は見せかけだけのおもちゃだから。ちょっと、りのちゃんの勇気を試してみたかったの」
あ、なんだそうだったんですか~……なんて態度は取れません。
まったく予想もしていなかった展開に、私は「え? え? え? え?」のフォーカード状態です。
まったく予想もしていなかった展開に、私は「え? え? え? え?」のフォーカード状態です。
「あらら? ひょっとして……私の言葉が耳に届いてない?
……怖がらせすぎてしまったみたい。本当にごめんなさい。
でも大丈夫。りのちゃんはもう、大丈夫だから。どうか、安心して……」
……怖がらせすぎてしまったみたい。本当にごめんなさい。
でも大丈夫。りのちゃんはもう、大丈夫だから。どうか、安心して……」
落ち着きを取り戻せない私に、怪盗ル・リムさんはそっと手を伸ばします。
細い指、けがれのない掌、ピンク色の綺麗な爪。
見ているだけで安心感が込み上げてくる、救いの手が、私の頭をなでます。
怪盗ル・リムさんの表情は、清らなる聖母のようで。
なでなでしてくれる手は、暖かい太陽のようで。
銃口を前にした恐れも、未来に対する不安も、どこかへ吹き飛んで。
細い指、けがれのない掌、ピンク色の綺麗な爪。
見ているだけで安心感が込み上げてくる、救いの手が、私の頭をなでます。
怪盗ル・リムさんの表情は、清らなる聖母のようで。
なでなでしてくれる手は、暖かい太陽のようで。
銃口を前にした恐れも、未来に対する不安も、どこかへ吹き飛んで。
私は、いつしか自然に、笑えていました。
◇ ◇ ◇
「ええ~!? じゃあ、今までのは全部お芝居だったんですか~!?」
平静を取り戻した私。仮面を取り外した怪盗ル・リムさん。
二人は安堵の空気に身を置いたまま、淹れ直したお茶を啜ります。
二人は安堵の空気に身を置いたまま、淹れ直したお茶を啜ります。
「ええ。意地悪だとは思ったけれど、りのちゃんをテストしてみたかったの。
共にこの波乱を乗り越えるに相応しいかどうか……結果は、文句なしの合格と言ったところね」
「うう~、もてあそばれた~」
共にこの波乱を乗り越えるに相応しいかどうか……結果は、文句なしの合格と言ったところね」
「うう~、もてあそばれた~」
白帽子に白マント、黒い長髪の両端をリボンで結ったその人は、もう怪盗を思わせるアイマスクはつけていません。
奇人でもなく、変人でもなくなったその人は、絶世の美人さん。
もし宮神学園にいたら、大人気間違いなし。
彼女のトレカは、きっとレアカードとして高値で売買されるに違いありません。
奇人でもなく、変人でもなくなったその人は、絶世の美人さん。
もし宮神学園にいたら、大人気間違いなし。
彼女のトレカは、きっとレアカードとして高値で売買されるに違いありません。
「改めて自己紹介をするわね。はじめまして。私は聖ル・リム女学校生徒会会長、源千華留です」
「あ、はい。私は宮神学園極上生徒会執行部書記の蘭堂りのです。よろしくおねが……ええーっ!?
み、源千華留さんって、さっき私がクイズで言った名前じゃないですかー!」
「あらあら? そうだったかしらー」
「あーん、ダブルでだまされたー!」
「あ、はい。私は宮神学園極上生徒会執行部書記の蘭堂りのです。よろしくおねが……ええーっ!?
み、源千華留さんって、さっき私がクイズで言った名前じゃないですかー!」
「あらあら? そうだったかしらー」
「あーん、ダブルでだまされたー!」
大ショックです。こんなにも簡単に騙されてしまう自分が情けなくて仕方がありません。
「悲観することはないわ。りのちゃんは、いい意味で正直者なのよ。
これ、結構強みよ? この嘘と真が入り乱れる舞台では……そう、特に」
これ、結構強みよ? この嘘と真が入り乱れる舞台では……そう、特に」
怪盗ル・リムさん改め千華留さんはフォローを入れてくれますが、私は立ち直れません。
「……あの神父様たちがそう呼んでいたから、私も便宜上、今回の催しを『ゲーム』と呼ぶけれど……
こういったゲームでは、とにかく情報が錯綜するのが定番なの。まるで真実と虚構の渦ね。
他者に欺かれず、嘘の中から真実を見抜き、決して他に流されず、信じるべきものを信じぬく。
私はね、りのちゃん。大切なものを信じぬくことができる……そんな純真無垢な仲間を探していたの」
こういったゲームでは、とにかく情報が錯綜するのが定番なの。まるで真実と虚構の渦ね。
他者に欺かれず、嘘の中から真実を見抜き、決して他に流されず、信じるべきものを信じぬく。
私はね、りのちゃん。大切なものを信じぬくことができる……そんな純真無垢な仲間を探していたの」
組み合わせた両手の上に顎を乗せ、千華留さんは笑います。
この人の微笑みはホッとする。お母さんや奏会長に似た雰囲気。
性格は全然違うはずなのに、私はその笑顔を見つめるだけで、晴れやかな気持ちになれます。
この人の微笑みはホッとする。お母さんや奏会長に似た雰囲気。
性格は全然違うはずなのに、私はその笑顔を見つめるだけで、晴れやかな気持ちになれます。
「さっきの、可愛い女の子をお持ち帰りっていう話は……」
「え? も、もちろん冗談でしてよ? い、今はそんな状況じゃないものね!」
「なんだー、そうだったんですか~。私はてっきり……」
「それよりもりのちゃん! そろそろここを出発しましょうか! ほら、ちょうどお茶も飲み終えたし!」
「え? も、もちろん冗談でしてよ? い、今はそんな状況じゃないものね!」
「なんだー、そうだったんですか~。私はてっきり……」
「それよりもりのちゃん! そろそろここを出発しましょうか! ほら、ちょうどお茶も飲み終えたし!」
なにやら急に慌て出した千華留さん。
私は首を傾げながら、千華留さんとともにそそくさと退席します。
私は首を傾げながら、千華留さんとともにそそくさと退席します。
◇ ◇ ◇
……さて。
ゲームがスタートして、初めに遭遇したのがりのちゃんだったのは僥倖と言うほかない。
仮にもし、ゲームに賛同した者や冗談の通じない相手だったら……私の悪い癖も、考えものね。
まぁ、結果良ければ全て良し、と楽観的に受け止めておきましょう。
実際、私の冗談を真に受けて、さらに銃まで向けられたというのに立ち向かったりのちゃんの度胸は、大したものだと思う。
彼女なら、きっと信頼に足る。
恐れ、迷い、憎しみ……そういった、こういうゲーム特有の暗黒面に染まる心配も薄い。
ゲームがスタートして、初めに遭遇したのがりのちゃんだったのは僥倖と言うほかない。
仮にもし、ゲームに賛同した者や冗談の通じない相手だったら……私の悪い癖も、考えものね。
まぁ、結果良ければ全て良し、と楽観的に受け止めておきましょう。
実際、私の冗談を真に受けて、さらに銃まで向けられたというのに立ち向かったりのちゃんの度胸は、大したものだと思う。
彼女なら、きっと信頼に足る。
恐れ、迷い、憎しみ……そういった、こういうゲーム特有の暗黒面に染まる心配も薄い。
「それで千華留さん、千華留さんの本当にしたいことっていうのは……あたっ!?」
……まぁ、ちょっとおっちょこちょいなところはあるようだけれど。それはそれで、ポイント高し。
私は立ち上がり様に躓いたりのちゃんを抱き止め、自らの胸中に包み込む。
私は立ち上がり様に躓いたりのちゃんを抱き止め、自らの胸中に包み込む。
「はえ? あ、あの、ち、千華留さん!?」
抱擁。
ええ……そう。
りのちゃんなら、きっと。
この偽りだらけの世界でも、真実を見い出せる。
真実が真実であると、最後まで信じぬくことができる。
それは、とっても素晴らしいこと。誰もができることじゃない。
ええ……そう。
りのちゃんなら、きっと。
この偽りだらけの世界でも、真実を見い出せる。
真実が真実であると、最後まで信じぬくことができる。
それは、とっても素晴らしいこと。誰もができることじゃない。
「……大丈夫。一緒に頑張りましょう、りのちゃん。
奏会長さんやプッチャンにも、きっと巡り会えるわ。
渚砂ちゃんにも、きっと……だから、ね。安心して」
奏会長さんやプッチャンにも、きっと巡り会えるわ。
渚砂ちゃんにも、きっと……だから、ね。安心して」
私の胸の中で黙りこくるりのちゃん。
密着していると、心臓の鼓動が聞こえてきそう。
とくん、とくん、と脈打つ音が、耳に残って心地いい。
密着していると、心臓の鼓動が聞こえてきそう。
とくん、とくん、と脈打つ音が、耳に残って心地いい。
「……安心、してます」
「うん。そう」
「うん。そう」
りのちゃんの穏やかな声。
安心させてあげられた。そう実感すると、私も安心する。
安心させてあげられた。そう実感すると、私も安心する。
「なら、シャキッとして! これから私たちは、戦場に突入するのだから!」
「はい! って、またその仮面つけるんですか~?」
「あら、これは変装の意味も含めているのよ? マントに帽子、そして仮面! 怪しいと思わない?」
「怪しまれちゃダメなんじゃ……警戒されちゃいますよ」
「そうかしら? 楽しそう、と思って声をかけてくれるかもしれないわよ」
「えー……そうなのかなぁ? ドッチャンはどう思う?」
「はい! って、またその仮面つけるんですか~?」
「あら、これは変装の意味も含めているのよ? マントに帽子、そして仮面! 怪しいと思わない?」
「怪しまれちゃダメなんじゃ……警戒されちゃいますよ」
「そうかしら? 楽しそう、と思って声をかけてくれるかもしれないわよ」
「えー……そうなのかなぁ? ドッチャンはどう思う?」
悩ましげな顔で、りのちゃんは右手のドリル――いえ、ドッチャンと会話する。
改めて見ると、変わった子。下手っぴな腹話術は、見ていて微笑ましくもある。
改めて見ると、変わった子。下手っぴな腹話術は、見ていて微笑ましくもある。
りのちゃんを見ていると、ル・リムに残してきた妹たちを思い出す。
私を千華留お姉さまと慕ってくれた女の子たち。
私がいなくなって、戸惑ったりはしていないだろうか。なるべく早く帰ってあげなくては。
でも……ごめんなさい。みんなよりも前に、私はここにいるあの子を心配しなくちゃいけない。
私を千華留お姉さまと慕ってくれた女の子たち。
私がいなくなって、戸惑ったりはしていないだろうか。なるべく早く帰ってあげなくては。
でも……ごめんなさい。みんなよりも前に、私はここにいるあの子を心配しなくちゃいけない。
蒼衣渚砂ちゃん――ミアトルの生徒である彼女は私の直接の後輩ではないけれど、かけがえのない存在であることには違いない。
この地に解き放たれ、知ってしまった渚砂ちゃんの存在。
校則第8条……「上級生は下級生を常に守り教え導くこと」。
ここはアストラエアの丘ではないけれど、私の辿るべき道は変わらない。
渚砂ちゃん、それにりのちゃんも、きっと私が守ってみせる。
みんなが安心して笑えるような環境を――そう、この銃で。
この地に解き放たれ、知ってしまった渚砂ちゃんの存在。
校則第8条……「上級生は下級生を常に守り教え導くこと」。
ここはアストラエアの丘ではないけれど、私の辿るべき道は変わらない。
渚砂ちゃん、それにりのちゃんも、きっと私が守ってみせる。
みんなが安心して笑えるような環境を――そう、この銃で。
りのちゃんにはおもちゃだなんて嘘をついたけれど、あの銃はれっきとした本物。
スプリングフィールドXD。込められた銃弾の数は十六。
これが私たちの生命線。できれば使わずに済ませたい、最後の切り札。
スプリングフィールドXD。込められた銃弾の数は十六。
これが私たちの生命線。できれば使わずに済ませたい、最後の切り札。
絵空事だということは自覚しているけれど、それでも私は願う。
神様が私に与えてくれた、たった一つの矛を。
どうか、再び握る瞬間が訪れませんように。
神様が私に与えてくれた、たった一つの矛を。
どうか、再び握る瞬間が訪れませんように。
「……千華留さん? どうしたんですか、難しい顔して」
「なんでもないわ。それより、歩きながらでいいから奏会長とプッチャンのことをもっとよく教えてくれない?」
「なんでもないわ。それより、歩きながらでいいから奏会長とプッチャンのことをもっとよく教えてくれない?」
テーブルの上のティーセットは片付けない。
テラスから覗く、海上の夜景にお別れを告げて。
私は戦場という名の街に繰り出す。
テラスから覗く、海上の夜景にお別れを告げて。
私は戦場という名の街に繰り出す。
――神様、どうか私たちをお守りください。
――いってきます。
――いってきます。
「……ところで、千華留さん」
「あら、なにかしらりのちゃん」
「千華留さんの変装はともかくとして……私のメイド服は着替えちゃダメですか?」
「き、き、き……着替えるだなんて、とんでもないッ!!」
「あら、なにかしらりのちゃん」
「千華留さんの変装はともかくとして……私のメイド服は着替えちゃダメですか?」
「き、き、き……着替えるだなんて、とんでもないッ!!」
【H-4 別荘地/1日目 深夜】
【蘭堂りの@極上生徒会】
【装備】:メルヘンメイド(やよいカラー)@THE IDOLM@STER、ドリルアーム@THE IDOLM@STER
【所持品】:支給品一式、ランダム支給品×1(確認済み。武器、衣装の類ではない)
【状態】:健康
【思考・行動】
基本:殺し合いはしない。ダメ、絶対。
1:千華留さんと一緒に行動。
2:奏会長、プッチャン、渚砂さんを探す。
【蘭堂りの@極上生徒会】
【装備】:メルヘンメイド(やよいカラー)@THE IDOLM@STER、ドリルアーム@THE IDOLM@STER
【所持品】:支給品一式、ランダム支給品×1(確認済み。武器、衣装の類ではない)
【状態】:健康
【思考・行動】
基本:殺し合いはしない。ダメ、絶対。
1:千華留さんと一緒に行動。
2:奏会長、プッチャン、渚砂さんを探す。
【源千華留@Strawberry Panic!】
【装備】:怪盗のアイマスク@THE IDOLM@STER、能美クドリャフカの帽子とマント@リトルバスターズ!、
スプリングフィールドXD(9mm×19-残弾16/16)
【所持品】:支給品一式
【状態】:健康
【思考・行動】
基本:殺し合いはしない。りのちゃんや渚砂ちゃんを守る。
1:りのちゃんと一緒に行動。
2:渚砂ちゃん、奏会長、プッチャンを探す。
【装備】:怪盗のアイマスク@THE IDOLM@STER、能美クドリャフカの帽子とマント@リトルバスターズ!、
スプリングフィールドXD(9mm×19-残弾16/16)
【所持品】:支給品一式
【状態】:健康
【思考・行動】
基本:殺し合いはしない。りのちゃんや渚砂ちゃんを守る。
1:りのちゃんと一緒に行動。
2:渚砂ちゃん、奏会長、プッチャンを探す。
029:死の先にあるモノ | 投下順 | 031:殺す覚悟 |
時系列順 | ||
蘭堂りの | 043:王達の記録 | |
源千華留 |