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殺す覚悟

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殺す覚悟 ◆jRWsRROwBY


如月双七――本名、武部涼一。
神沢市の神沢学園に通う彼もまた、此度の殺人遊戯、神崎の言葉を借りるならゲームの参加者の一人だ。

彼には大体五歳位の時以前の記憶はほとんどない。
おぼろげながらながら残っている記憶も漠然としたものばかり。
割と普通の家庭だったことくらいしか覚えていない。
少なくとも、父も母もいた。特別貧しかった覚えもない。
両親も親としての資質に問題があった覚えもない。
簡単に言うと、断片的に残ってる記憶が真実ならば、如月双七の幼年時代はごく普通だったと言える。
普通に泣いて、普通に笑って、普通に怒ったりしていたのだろう。
しかし、以降の双七の記憶、いや、人生は決して平坦なものではなかった。

彼は人妖としての素質を持っていて、まだ幼少のみぎりにその能力を覚醒させてしまったのだ。
きっかけは子供の頃、一人で公園で遊んでいたときに遭遇した変質者から身を護るため。
襲い掛かる悪意に、吐き気を催した幼少時代の双七の防衛本能は、己の異端としての能力を心の奥底から引っ張り出してきたのだ。
幼い双七が目にしたのは、悲鳴に呼応して突如としてジャングルジムが飴細工のように変形し、変質者を絡め取ったいく光景。
変質者は、身動きできないほどにジャングルジムに絡め取られ、瀕死の重症を負ってしまったらしい。
潰されんまでに圧迫された肺と、眼球が飛び出さんまでに剥きだしになっていたのを、昔の双七はよく夢で繰り返し見ていた。
変質者は一命を取り留めたものの、半ば廃人のようになってしまったという。

事件はここで終わりではない。
例え相手が変質者であろうと、無意識のうちの行為と言えど、双七のやったことは明らかに過剰防衛。
なにより、人々に忌み嫌われている人妖であることが、双七の立場をさらに悪くさせた。
双七は琥森島と呼ばれる場所へ移送されることになった。

一口に人妖能力と言っても、その能力は人を軽々と殺せる能力から、虫も殺せないような能力まで様々にある。
大抵は、人妖と知られれば、即座に神沢市へと送られる。
しかし、一般には知られてないが、その人妖能力が危険すぎると判断された場合、琥森島と呼ばれる離島にある織咲病院へと移送される。
危険すぎる人妖能力を持つ者は、この島にある織咲病院に収監され、ここで暮らすことになる。
もちろん、如月双七もここで一生を過ごすはずだったし、事実ここで十数年の月日を過ごした。

しかし、アルカトラズ並に脱出が難しいと言われた堅牢防壁のこの施設を脱出することに、双七は成功した。
そして、追っ手から逃れるため、神沢市へと逃げ込むことになる。
神沢市は人口の96%が人妖で占められた異質な都市。
木を隠すなら森の中というわけだ。
ここで、双七は長年の夢の一つを叶えることになる。
学校へいくという、人によってはなんともかわいらしい夢だ、と笑いたくなるほど小さい夢だ。

人生の半分以上をあの琥森島で過ごした双七は、外の世界、あるいは日常というものに強く憧れていた。
島には娯楽施設など一切なかったし、病院では人間として扱われないこともしばしば。
時には名前で呼ばれず、患者番号(双七の場合227)で呼ばれることもあったほどだ。
基本的に、病院では双七たちは人妖能力を調べるためのモルモットであり、人権はほとんどなかったと言ってもいい。
他の人妖病患者とも、あまりそりが合わなかったのも大きい。
厳しく、辛い毎日に涙を流すことも多く、その悲しみを忘れるための手段の一つが漫画を読むことであった。

漫画の中の登場人物達は、毎日が輝いて見えた。
友達と遊んで、部活動に夢中になって、時には学生の身でありながら、酒を飲んだりと、毎日が楽しそうだった。
昼休みの売店での、人気のパンやおにぎりの争奪戦が、馬鹿らしくも羨ましかった。
面倒くさそうに勉強する姿さえ、双七には眩しく思えた。
何度も何度も、繰り返し繰り返しその漫画を見ては、つか学校に行ってみたいと思うようになっていった。

それが、逃亡の結果とはいえ実現することになる。
夢にまで見た学び舎が双七の眼前にあった。
当たり前の人生が、当たり前のように過ごせる。
非日常の凄惨さを知っている双七だからこそ、穏やかな日常の大切さをかみ締め、日々を大事に過ごすことができた。
漫画の中でしか見られなかった光景を、自分が同じようにできたときの感動を、双七は生涯忘れないだろう。
初めて食べた鍋料理もあまりのおいしさにまた泣いてしまった。
ともに琥森島を抜け出したすずには、そんなことで泣くなと何度も言われたが、溢れる涙を止めることはできなかった。
この感動を忘れまい、一生この日常を手放さずに守ってみせる。
如月双七の願いが一つ増えた。



さて、過去への旅路はここまでにすることにしよう。



如月双七は夜の闇の中を闊歩していた。
聞こえるのはサクサク、と土と草を踏む音だけ。
その音が、一定のリズムを刻みながら響く。
時折、双七のツンツンの髪を夜の冷たい風が撫でていく。
その優しい風の前に、双七は警戒を解いて、ひたすらこの夜風に浸っていたいという誘惑に駆られそうにもなる。
孤独、まさに世界にたった一人しかいないような錯覚にさえ陥る。
双七の歩いている場所がアスファルトに舗装された道路ではなく、草原であるというのもまた、この雰囲気を醸し出すに一役買っていた。
人工物が一切見当たらない、自然の道を歩きながら深呼吸する。
口を通して肺に入った空気は、今までの人生で一番の美味さと言えよう。
新鮮な空気を得た体は、夜の闇の前に訪れた眠気を吹き飛ばす。
その思いもよらず得られた冷静さで、双七は思案に耽っていた。

「えっと……会長と刀子先輩は問題ないだろうし、トーニャは俺と同じくらいか、もしくは俺より強いし、
 加藤教諭は戦ってるところ見たことないけど、会長や刀子先輩より強いらしいし……」

寂しさを紛らわせるためだろうか、独り言が漏れてきた。
双七は自慢ではないが、自分の強さにはそれなりに自信がある。
自らに秘められた人妖能力と、九鬼耀鋼に教えられた闘法、『九鬼流』を使えば、その辺のチンピラには負ける気はしない。
しかし、双七が神沢学園で知り合った人たちは、そんな双七の常識というか、自信の驕りを容易く打ち破った。
四階から平然と飛び降りて、しかも怪我一つなかった一乃谷愁厳には、半ば卑怯ともいえる方法で勝ったが、正攻法ではまず勝てなかっただろう。
しかも、刀子は愁厳よりもさらに強いと言う。
トーニャとは明確に敵対したのはほんの一瞬。
愁厳と争っていたときに一発だけ、蹴りを受けそうになったときだけだ。
しかし、その蹴りの威力は双七の見立てでは、双七と同じ、もしくは双七よりも身体能力は上かもしれないほどだった。
そして、聞いたところによると、加藤虎太郎教諭はそんな愁厳や刀子よりも強いらしい。
なんでも、半径150メートル内の侵入者の有無も確認できるほどだとか。
つまり、如月双七は知り合いの中では一番弱いということになる。
どうやら、世界は双七が思っていたよりもずっとずっと広いらしい。

「あれ、もしかして俺って、心配する方じゃなくてされる方?」

‘うむ、いますぐ双七君を探そう’‘ええ、そうしましょう、兄様’
‘やれやれ、会長や刀子先輩や加藤先生はともかく、如月君は探して保護しないといけないでしょうね’
‘さてと、この中ではまずは如月から探すとするか’

何故か、皆が自分の事を心配する姿が容易に想像できてしまった。
確かに、この四人で強い順に並んだら双七が一番後ろに来るのだろうが、釈然としない思いがあるのもまた事実。
しかも、その評価が過小評価ではなくて、限りなく正確な評価であることも、双七のプライドを余計傷つけた。
げんなりしそうになる気持ちを抑えて、双七はブルブルと首を振り、己が思考を切り替える。

「いやいやいや、俺よりも弱い人はいるだろうし、そういう人を守ることはできるはずだ」


「人を殺すコトそのものは、まあ呆気ないもんだ。だから、その時どんな気持ちかと言われても……怪我した腕が
 痛かったとか、蚊に刺されたところが痒かったとか……そんなコトしか頭に思い浮かばん。
 だから、大事なのは人を殺す前と後だ。
 激情にかられて殺した、不慮の事故だった。こういう動機は殺す前はいいんだ……殺す覚悟をしなくても済むからな。
 だが、後がいかん。殺した人間の精神がマトモなら一生を後悔することになる。
 逆にだ。殺す覚悟をして殺す場合、後悔はしなくて済む。だが簡単にそう言っても殺す覚悟ってのは、早々容易に身につくものじゃない。
 殺す前なら、相手に殺されるという恐怖、相手を殺すという罪悪感。
 殺した後なら、他にもっと平和的な手段はなかったのか。他にもっと上手いやり方はなかったのか……そんなことを考える。
 殺人という行為は辛く、苦しく、不意に首を締めつけてくる縄だ。だが、それでも尚。人は人を殺さなきゃならんときがある。それが何か分かるか?
 大切な人間を護りたいときだ。弱い者を護るときだ。自分が殺さなければ見知らぬ誰かが、あるいは見知った誰かが傷つき、死ぬ。
 それは――自分が罪を被るより、もっと辛い。
 いいか、涼一?人を殺さなきゃならないっていうのは、どっちみち辛い状況だ。覚悟しろ。いいか、罪を背負う覚悟をしろ。
 殺される覚悟をしろ、戦う覚悟をしろ、そしてだ。生き残る覚悟をしろ。
 まあ、正直言ってだ。……人なんてあんまり殺すもんじゃないと思うがね、俺は」


その当時の双七は九鬼の言葉を一言一句漏らさず覚えていた。
いつか来るときのときに備えてだったのだろうか、双七は言い終えた後の九鬼の分かったか?という言葉に、自分でも驚くほど神妙に頷いた記憶がある。
あの当時のやりとりは皮肉にも無駄ではなかったようで、今の双七は人生最大の山場を迎えている。
そして、何の因果か、九鬼耀鋼もまた、この舞台に呼ばれているのだ。
ふと、足を止めて、憧れの先生との思い出に浸る。
九鬼耀鋼は、琥森島で過ごしていた幼い頃の双七の人間形成に大きな役割を果たした人間の内の一人だ。
双七の憧れの先生であり、『先生』という呼び方は九鬼にしか使わないほど、双七は九鬼のことを敬愛している。
九鬼は四年前、一言もなく双七の元から去ってからも、双七の胸の中に強く生きていた。
九鬼が去ってからも、双七は九鬼に憧れ、九鬼の背中と足跡を追い続けていた。
いつの日か胸を張って会うために訓練を続けていたが、こんなところで会うとは思いも寄らぬ再会となる。
実際にはまだ会ってないが。
九鬼耀鋼は今ドミニオン所属らしいが、事態が事態だ。
きっと力になってくれるだろう。

「神崎と言峰だったか……? あいつらは多分殺せる」

言峰綺礼神崎黎人
殺し合いをゲームと称し、遊び半分で人の命を弄ぶようなやつなら躊躇いもなく殺せる自信があった。
よしんば、この二人を殺せたとしても、罪悪感に悩まされることはないだろう。
他にも、双七のような参加者の中で、血に飢えた輩ならば殺しても罪悪感は感じないだろう。
だが、他の参加者はどうだろうか?
例えば、この殺し合いに参加している誰かのために――例えば、親子や恋人――殺し合うことを選んだ人。
彼らはを絶対悪と断じることは双七にはできなかった。
双七にも帰りを待ってくれる存在もいるから、そう言った人たちの決心も痛いほど分かる。
ある意味、他人の為に自分の命を投げ出すことができる人には高潔ささえ感じることもある。
双七自身も、家族であるすずに何かあった場合、全てを投げ打ってでも助ける決意があるからだ。

「説得できればいい……けど、できるか?」

誰にともなく呟いた言葉は、夜の闇に音もなく消えていく。
説得が無理なら殺すか。
いや、それは性急だ。一度で無理なら二度三度と説得すればいい。
しかし、二度三度説得するということは、しばらく相手を拘束しないといけない可能性が高い。
その間に逃げられて、別の人間が殺されたら責任が取れるのか?
それなら――
けれど――
永遠につづくかと思われる心の中の葛藤。
明確な答えを見つけられぬまま、再び歩き始めた。



【H-2 平原/1日目 深夜】
【如月双七@あやかしびと -幻妖異聞録-】
【装備:なし】
【所持品:不明支給品1~3】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:仲間の確保と保護
1:移動して仲間を集める
2:向かってくる敵は迎撃。殺すかどうかはまだ葛藤中

※双七の能力の制限がどうなってるかは未定です



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