望郷 ◆lcMqFBPaWA
「……これは…なんでしょー?たこさん?」
「……」
「変な生き物の模型だなあ、おい」
「……」
「変な生き物の模型だなあ、おい」
博物館の探索行っていた、葛木宗一郎と、高槻やよいの二人が「俺をシカトすんじゃねー」
…失礼、葛木宗一郎、高槻やよいと、やよいの手にあるしゃべる人形『プッチャン』の三人(?)が、会話しているのは、『生物の資料』の展示コーナーであった。
彼らの目の前にあるのは、部屋の中央部に何個か鎮座しているガラスケース、その内の一つ。
奇怪な蛸のような生き物の模型。
恐らくは、模型。
少なくとも、このような奇怪な生き物の剥製などという事は無い、筈。
そう、三人とも考えていた。
…失礼、葛木宗一郎、高槻やよいと、やよいの手にあるしゃべる人形『プッチャン』の三人(?)が、会話しているのは、『生物の資料』の展示コーナーであった。
彼らの目の前にあるのは、部屋の中央部に何個か鎮座しているガラスケース、その内の一つ。
奇怪な蛸のような生き物の模型。
恐らくは、模型。
少なくとも、このような奇怪な生き物の剥製などという事は無い、筈。
そう、三人とも考えていた。
「半魚人さん…ですか?」
「……」
「これも良くわかんねえなあ。 着ぐるみか?」
「……」
「これも良くわかんねえなあ。 着ぐるみか?」
その隣のガラスケースにはこれまた奇怪な人型の『着ぐるみ?』
大きさは成人男性程度だが、その顔は人とはかけ離れており、その体皮は鱗に覆われ、背中には背ヒレ、手足にも水かきが付いている。
よく戦隊ヒーローものの敵役の怪人にいそうな外見、といえばイメージしやすいかもしれない。
兎にも角にも、そのような生き物の模型、だ。
こちらも、常識的に考えて剥製ということはあり得ない、筈。
大きさは成人男性程度だが、その顔は人とはかけ離れており、その体皮は鱗に覆われ、背中には背ヒレ、手足にも水かきが付いている。
よく戦隊ヒーローものの敵役の怪人にいそうな外見、といえばイメージしやすいかもしれない。
兎にも角にも、そのような生き物の模型、だ。
こちらも、常識的に考えて剥製ということはあり得ない、筈。
いや、それらだけで無い。
この部屋にあるのは、頭部の無い骨格標本やら、殻の付いた幼虫のような蟲やら、シーツを被っただけのオバケやらと、兎に角意味不明なモノが多い。
いや、意味不明、かつ不気味な代物というべきか。
何が言いたいのかというと、
「うう…気持ち悪くなってきました…」
ごく普通の少女には精神的にキツイものがあったようだ。
「…うおい、大丈夫だから落ち着けって!
つーか俺で口元を覆うつーのはどういう了見だ!
吐くなよ! 絶対吐くなよ!!」
「うう……気持ち悪い時に『吐く』って言われると本当に吐きそうになりますよね…」
「だーー!! おい! 相棒!!
のんびり見ていないで何とかしてくれって!」
基本的にどこかのんびりとしたやり取りではあるが、当事者達はそれなりに真剣だ。
そして、
「……高槻、気分が悪いのであれば医務室まで連れて行くが」
ここに当事者達よりもはるかに真剣に対応する男が一人。
テストの問題用紙にミスがあったからという理由で、テスト用紙を全て回収したという伝説を持つ男、葛木宗一郎。
彼の辞書には基本的にのんびりとか、不真面目という言葉は存在しない。
この部屋にあるのは、頭部の無い骨格標本やら、殻の付いた幼虫のような蟲やら、シーツを被っただけのオバケやらと、兎に角意味不明なモノが多い。
いや、意味不明、かつ不気味な代物というべきか。
何が言いたいのかというと、
「うう…気持ち悪くなってきました…」
ごく普通の少女には精神的にキツイものがあったようだ。
「…うおい、大丈夫だから落ち着けって!
つーか俺で口元を覆うつーのはどういう了見だ!
吐くなよ! 絶対吐くなよ!!」
「うう……気持ち悪い時に『吐く』って言われると本当に吐きそうになりますよね…」
「だーー!! おい! 相棒!!
のんびり見ていないで何とかしてくれって!」
基本的にどこかのんびりとしたやり取りではあるが、当事者達はそれなりに真剣だ。
そして、
「……高槻、気分が悪いのであれば医務室まで連れて行くが」
ここに当事者達よりもはるかに真剣に対応する男が一人。
テストの問題用紙にミスがあったからという理由で、テスト用紙を全て回収したという伝説を持つ男、葛木宗一郎。
彼の辞書には基本的にのんびりとか、不真面目という言葉は存在しない。
「うう、大丈夫です。
でも廊下に出て休んでます…」
そう言って、部屋から廊下に出て行くやよい。
「そうか」
「…つーかよ相棒、こんな部屋を真剣に見てる必要なんてあるのか?」
返事を返す葛木の背に、声を掛けるのはプッチャン。
このような意味不明な部屋を見て周ることに、大した意味など無い筈である。
この場合、彼の言っている事は概ね正しい。
……言っている本人が、負けず劣らず奇怪な存在であることを除けば、だが。
でも廊下に出て休んでます…」
そう言って、部屋から廊下に出て行くやよい。
「そうか」
「…つーかよ相棒、こんな部屋を真剣に見てる必要なんてあるのか?」
返事を返す葛木の背に、声を掛けるのはプッチャン。
このような意味不明な部屋を見て周ることに、大した意味など無い筈である。
この場合、彼の言っている事は概ね正しい。
……言っている本人が、負けず劣らず奇怪な存在であることを除けば、だが。
「…………何であれ、資料として展示されている以上は役に立つ可能性はある」
「あーそうかい?
じゃあまあ俺達は外で待っているぜ」
微妙に歯切れの悪い葛木の返事に構わず、プッチャンは(正確にはやよいは)部屋から出て行った。
そうして、残されるは葛木一人。
「……」
彼の目の前にあるものは変わらず、謎の着ぐるみ。
説明書きによれば、先ほどの蛸のようなモノ『ダゴン』を信奉する『古きものども』、とある。
「……」
その、意味のわからない説明書きを、噛みしめるように記憶に刻む。
あたかも、それが真実であるかのように。
「あーそうかい?
じゃあまあ俺達は外で待っているぜ」
微妙に歯切れの悪い葛木の返事に構わず、プッチャンは(正確にはやよいは)部屋から出て行った。
そうして、残されるは葛木一人。
「……」
彼の目の前にあるものは変わらず、謎の着ぐるみ。
説明書きによれば、先ほどの蛸のようなモノ『ダゴン』を信奉する『古きものども』、とある。
「……」
その、意味のわからない説明書きを、噛みしめるように記憶に刻む。
あたかも、それが真実であるかのように。
そうして、次の資料。
『地方妖怪マグロ』
再び、その内容を記憶する。
そうして次、『人妖』
次、『鬼』
『地方妖怪マグロ』
再び、その内容を記憶する。
そうして次、『人妖』
次、『鬼』
次、『死亡フラグ皇』
『刻印蟲』、『イグ・ソートス』、『贄の血』、『チャイナお姉さま』、『蛇神』
模型とも標本ともつかないものもあれば、写真だけのものもある。
抽象的な絵が描かれているだけのものもあれば、文章のみが記されている場合もある。
それらの資料を、一つ一つ、図ったように同じだけの時間を掛けながら、葛木は頭に刻んでいく。
そうして、いくつもの資料を巡った後、
「………………」
僅かに、そのリズムに狂いが生じた。
頭部の変わりに、動物の下あごのような骨が乗っている、骨格標本。
『竜牙兵』
と記されるそれを前にして、葛木は微動だにせず、ただそれを、その説明書きに目を向けていた。
『竜の牙より作られた魔道の兵士。 キャスター『メディア』が従者として用いている』
「……」
彼は、微動だにしない。
ただ、その文章を眺めているのみ。
そうしてしばらくして、その手が僅かに動き、スーツのの表面に触れる。
その内にあるもの、先ほど手に入れたもの、の感触が葛木の手に伝わった。
『刻印蟲』、『イグ・ソートス』、『贄の血』、『チャイナお姉さま』、『蛇神』
模型とも標本ともつかないものもあれば、写真だけのものもある。
抽象的な絵が描かれているだけのものもあれば、文章のみが記されている場合もある。
それらの資料を、一つ一つ、図ったように同じだけの時間を掛けながら、葛木は頭に刻んでいく。
そうして、いくつもの資料を巡った後、
「………………」
僅かに、そのリズムに狂いが生じた。
頭部の変わりに、動物の下あごのような骨が乗っている、骨格標本。
『竜牙兵』
と記されるそれを前にして、葛木は微動だにせず、ただそれを、その説明書きに目を向けていた。
『竜の牙より作られた魔道の兵士。 キャスター『メディア』が従者として用いている』
「……」
彼は、微動だにしない。
ただ、その文章を眺めているのみ。
そうしてしばらくして、その手が僅かに動き、スーツのの表面に触れる。
その内にあるもの、先ほど手に入れたもの、の感触が葛木の手に伝わった。
そう、少し前、数十分前の事であろうか。
最初の展示場『武器の資料』の出口に、ある文章が刻まれていた。
最初の展示場『武器の資料』の出口に、ある文章が刻まれていた。
『君は、この場所にあるものを、どれか一つ選んで持っていって構わない。
あくまで『一つ』欲張ってはいけない、チャンスは『一度』選びなおしも出来ない。
役に立つか立たないかは君しだいだ。 さあ、好きなものを手に取りたまえ」
あくまで『一つ』欲張ってはいけない、チャンスは『一度』選びなおしも出来ない。
役に立つか立たないかは君しだいだ。 さあ、好きなものを手に取りたまえ」
とりあえず、何か持っていって良いという事だけは確かなようだ。
やよいとプッチャンはしきりに騒いで、色々と見て周ってはそれら説明書きに頭をひねっていた。
その二人を尻目に、葛木は一つの短剣をその手に取り、それを見たプッチャンが『勿体無えー』と文句を言い、
そのプッチャンに構わずやよいが色々物色して、弱いものでは役に立たず、かといって巨大な銃など怖くて持てす、
そうして結局、葛木の薦めで『弾丸全種セット(100発入り)』を選んで手に入れた。(デイパックを落としていたので葛木のそれに入れた)
やよいとプッチャンはしきりに騒いで、色々と見て周ってはそれら説明書きに頭をひねっていた。
その二人を尻目に、葛木は一つの短剣をその手に取り、それを見たプッチャンが『勿体無えー』と文句を言い、
そのプッチャンに構わずやよいが色々物色して、弱いものでは役に立たず、かといって巨大な銃など怖くて持てす、
そうして結局、葛木の薦めで『弾丸全種セット(100発入り)』を選んで手に入れた。(デイパックを落としていたので葛木のそれに入れた)
「……」
葛木は、何も語らない。
ただ、何事かを黙考して、
やがて、その『竜牙兵』の前から移動した。
葛木は、何も語らない。
ただ、何事かを黙考して、
やがて、その『竜牙兵』の前から移動した。
◇
ジュウジュウ、と食欲をそそる音が部屋の中に響きわたる。
それと同時に発せられる湯気は、食材の匂いを混ぜ合わせた、言わば鼻で味わう前菜と言っても良いだろう。
それなりに名の知れたファミレスの厨房から、「フフン♪フーン♪」とリズミカルな鼻歌と共に放たれるそれらは、無論、その声の主が発しているものだ。
それと同時に発せられる湯気は、食材の匂いを混ぜ合わせた、言わば鼻で味わう前菜と言っても良いだろう。
それなりに名の知れたファミレスの厨房から、「フフン♪フーン♪」とリズミカルな鼻歌と共に放たれるそれらは、無論、その声の主が発しているものだ。
お店に押し入って勝手に食材を使うなんて泥棒と大差は無い。(というかそのもの)
当初は支給されたパンを食べる為に入ったファミレスだったのだが、ふとした拍子に見た冷蔵庫には、普通に食材が詰まっていたのだ。
(博物館内は飲食禁止。 当然葛木が破るはずも無い)
今現在、人っ子一人居ないどころか、これから先来るかも判らない。
そうなると、当然冷蔵庫の中身などもダメになってしまうわけで…。
そういうわけで、勿体無いのでいろいろ食べてしまおうという事になり、
やよいが意外と得意な料理の腕でもって調理しているというわけだ。
当初は支給されたパンを食べる為に入ったファミレスだったのだが、ふとした拍子に見た冷蔵庫には、普通に食材が詰まっていたのだ。
(博物館内は飲食禁止。 当然葛木が破るはずも無い)
今現在、人っ子一人居ないどころか、これから先来るかも判らない。
そうなると、当然冷蔵庫の中身などもダメになってしまうわけで…。
そういうわけで、勿体無いのでいろいろ食べてしまおうという事になり、
やよいが意外と得意な料理の腕でもって調理しているというわけだ。
もやし炒めという料理は、その名のとおりもやしを炒めたものである。
もやしだけを炒めたものではあるが、炒め物の中にしめるもやしの割合が高い故に、もやし炒めと称される場合もある。
「はい、お待たせしました~!
肉野菜炒めでーす」
「……」
「おお、こいつは美味そ…『肉野菜炒め』…?
もやしだけを炒めたものではあるが、炒め物の中にしめるもやしの割合が高い故に、もやし炒めと称される場合もある。
「はい、お待たせしました~!
肉野菜炒めでーす」
「……」
「おお、こいつは美味そ…『肉野菜炒め』…?
逆に言えば、野菜炒めも、もやしの量が多ければ、それはもやし炒めとなる。
いや、いい直そう、それはもやし炒めと称されるべきである。
「え?何処か変ですか?」
「いや」
「……いやまあ、相棒がいいつーんならいいんだけどよ」
食材を自由に利用しても構わないにも関わらず、作るのはもやし炒め。
いや、彼女にとっては少量でも肉やら他の野菜が入って居る時点で充分に豪華なのだ。
……恐るべき、いや嘆くべき貧乏というべきであろう……。
いや、いい直そう、それはもやし炒めと称されるべきである。
「え?何処か変ですか?」
「いや」
「……いやまあ、相棒がいいつーんならいいんだけどよ」
食材を自由に利用しても構わないにも関わらず、作るのはもやし炒め。
いや、彼女にとっては少量でも肉やら他の野菜が入って居る時点で充分に豪華なのだ。
……恐るべき、いや嘆くべき貧乏というべきであろう……。
「…美味いな」
「わあ…ありがとうございますー」
「へっ! 女の子の手料理たあ相棒もすみに置けないねえー」
「わ、そんなんじゃないですよー」
「へへ、てれるんじゃねえっーて」
「……」
人っ子一人居ないファミレスではあるが、それなりに会話は進んでいるようだ。
無口ではあるが問われれば答える葛木に、基本底抜けに明るいやよい、そして基本的に煩いプッチャンと、意外と姦しい。
無用心極まりないが、これでも一応奥の方の、外からは見えない席に陣取ってはいるのだ。
「わあ…ありがとうございますー」
「へっ! 女の子の手料理たあ相棒もすみに置けないねえー」
「わ、そんなんじゃないですよー」
「へへ、てれるんじゃねえっーて」
「……」
人っ子一人居ないファミレスではあるが、それなりに会話は進んでいるようだ。
無口ではあるが問われれば答える葛木に、基本底抜けに明るいやよい、そして基本的に煩いプッチャンと、意外と姦しい。
無用心極まりないが、これでも一応奥の方の、外からは見えない席に陣取ってはいるのだ。
そうして、食事が始まって少し後。
基本的に手持ちぶたさなプッチャンが、「そういやよう、この後どうするんだ?」
と聞いた事で、その雰囲気は終わりを告げる事になる。
基本的に手持ちぶたさなプッチャンが、「そういやよう、この後どうするんだ?」
と聞いた事で、その雰囲気は終わりを告げる事になる。
「差し当たっての目的地は存在しない。
だが、この近辺に留まっていても進展はないだろう」
葛木が、箸を置いて答える。
「とりあえず、探し人を見つけるのが先決じゃねえか?」
その、何の目的も無いという答えに、プッチャンが自らの意見を述べる。
無難ではあるが、堅実な意見とも言える。
「……そうだな」
葛木にしても反対する理由は無い。
彼自身には探し人といえる相手は存在しないのではあるが、(一応生徒が二人いるが)
それでもやよいやプッチャンの目的としては重要なものである。
だが、この近辺に留まっていても進展はないだろう」
葛木が、箸を置いて答える。
「とりあえず、探し人を見つけるのが先決じゃねえか?」
その、何の目的も無いという答えに、プッチャンが自らの意見を述べる。
無難ではあるが、堅実な意見とも言える。
「……そうだな」
葛木にしても反対する理由は無い。
彼自身には探し人といえる相手は存在しないのではあるが、(一応生徒が二人いるが)
それでもやよいやプッチャンの目的としては重要なものである。
「だが、いずれにせよそれは広義の目的でしか無い。
まずは差し当たって向かう場所を決めなくてはならないのだが」
「そう言われてもなあ…。
やよいはどう思うよ?」
「私は…」
と、そこで言葉が途切れる。
何処に行きたいか。
それは無論この島の中で、ということになる。
だが、
まずは差し当たって向かう場所を決めなくてはならないのだが」
「そう言われてもなあ…。
やよいはどう思うよ?」
「私は…」
と、そこで言葉が途切れる。
何処に行きたいか。
それは無論この島の中で、ということになる。
だが、
「私は…おうちに帰りたいです」
ふと、やよいの口からは本音が漏れる。
そう、『本音』
隠しきれぬ、そもそも隠したくない『本心』
そう、『本音』
隠しきれぬ、そもそも隠したくない『本心』
「……」
「……」
「…………ごめん、なさい」
「……」
「…………ごめん、なさい」
沈黙と、謝罪
どちらも、現実を理解しているが故に。
「い、いや、あやまる事ねえよ! なあ相棒?」
「恐らくは、無理だ」
どちらも、現実を理解しているが故に。
「い、いや、あやまる事ねえよ! なあ相棒?」
「恐らくは、無理だ」
シーンと、空気まで凍りつく。
先ほどの沈黙とは違う、
先ほどの沈黙とは違う、
「おいおい相棒! いくらなんでもそりゃ酷いんじゃねえか!?」
「だが、事実だ」
葛木宗一郎は、誠実かつ厳格な人間だ。
…少なくとも、他者からはそのように思われている。
実際のところ、彼にはそうする以外の選択肢が存在していないだけなのだが。
ただ、一つの『用途』の為だけに作られた存在であるが故に、彼には『人間』としての最低限の機能を教えられたのみ。
そう、『教えられた』のみ。
『人間』とは、本来己で学び、人になって行く存在。
そういう意味では、彼は『人間』では無い。
ただ、人の形を模した道具であれと作られ、
「だが、事実だ」
葛木宗一郎は、誠実かつ厳格な人間だ。
…少なくとも、他者からはそのように思われている。
実際のところ、彼にはそうする以外の選択肢が存在していないだけなのだが。
ただ、一つの『用途』の為だけに作られた存在であるが故に、彼には『人間』としての最低限の機能を教えられたのみ。
そう、『教えられた』のみ。
『人間』とは、本来己で学び、人になって行く存在。
そういう意味では、彼は『人間』では無い。
ただ、人の形を模した道具であれと作られ、
故に、彼に出来るのは、ただ、接することのみ。
いかなる悩み、であろうと、ただ、事実を述べ、己の持ちうる全ての力で相手に接する。
口先だけの偽りなど述べず、僅かな過ちすら換価しない。
皮肉なものではあるが、それ故に彼は『厳格ではあるが、誠実な人物』として、他者から評価を受けることとなった。
故に、述べるのは事実。
揺らぎようの無い、真理。
いかなる悩み、であろうと、ただ、事実を述べ、己の持ちうる全ての力で相手に接する。
口先だけの偽りなど述べず、僅かな過ちすら換価しない。
皮肉なものではあるが、それ故に彼は『厳格ではあるが、誠実な人物』として、他者から評価を受けることとなった。
故に、述べるのは事実。
揺らぎようの無い、真理。
「うう…でも、他には思いつかないんです~」
少女の目に浮かぶは涙。
恐らくは、二度とは帰れない。
やよいも、葛木も、この地で屍を晒すのみ。
その事を、おそらくやよい自身も漠然と理解はしている。
「私は…おうちに帰りたいです…」
少女の目に浮かぶは涙。
恐らくは、二度とは帰れない。
やよいも、葛木も、この地で屍を晒すのみ。
その事を、おそらくやよい自身も漠然と理解はしている。
「私は…おうちに帰りたいです…」
そうして、響くのは嗚咽。
再びの、嗚咽。
今度は、今度も、誰も何も口にしない。
ただ、やよいの泣き声が響くのみ。
再びの、嗚咽。
今度は、今度も、誰も何も口にしない。
ただ、やよいの泣き声が響くのみ。
そうして、しばらく時は流れる。
やがて、弥生の嗚咽が小さくなった頃。
やがて、弥生の嗚咽が小さくなった頃。
「なあ、相棒。
一つ、聞きてえんだが」
「なんだ」
その手の人形が声を発する。
一つ、聞きてえんだが」
「なんだ」
その手の人形が声を発する。
「相棒は、帰りたくねえのか?」
その、質問は、僅かに空気を変える。
やよいも、涙目でありながらも顔を上げた。
やよいも、涙目でありながらも顔を上げた。
「帰る…か」
そこで、嘆息。
(―帰りたい)
胸に響くのは、かつて何処かで聞いた声。
自身があるべき場所への、望郷の念。
おおよそ、生まれ出でた全ての存在がもつ、根源的な思い。
(―帰りたい)
胸に響くのは、かつて何処かで聞いた声。
自身があるべき場所への、望郷の念。
おおよそ、生まれ出でた全ての存在がもつ、根源的な思い。
だが、
「私は、何処に帰れば良いのだろうな…?」
元より、帰る場所など、望郷の念など持ち得ない男は、そう、迷いの篭る言葉を発する。
「私は、何処に帰れば良いのだろうな…?」
元より、帰る場所など、望郷の念など持ち得ない男は、そう、迷いの篭る言葉を発する。
そうして、再びの沈黙。
だが、今度の沈黙は長くは続かない。
「で、でも! 葛木先生は先生なんでしょ!!
それなら、生徒さんだって居るんでしょ
それに…家族の方は居ないんですか!?」
「…家族」
生徒は、無論居る。
葛木自身にはその意識は無いが、少なくとも慕われている部類である。
家族、数年に渡り滞在している寺の人間達は、家族という概念には含まれるだろう。
だが、彼の心に浮かんだのは別の影。
そう、それは、
「婚約者が…居る」
出会って数日でしかなく、互いの本心すら定かでない、一人の女性の姿。
その、姿が、何故故にか彼の心を震わす。
だが、今度の沈黙は長くは続かない。
「で、でも! 葛木先生は先生なんでしょ!!
それなら、生徒さんだって居るんでしょ
それに…家族の方は居ないんですか!?」
「…家族」
生徒は、無論居る。
葛木自身にはその意識は無いが、少なくとも慕われている部類である。
家族、数年に渡り滞在している寺の人間達は、家族という概念には含まれるだろう。
だが、彼の心に浮かんだのは別の影。
そう、それは、
「婚約者が…居る」
出会って数日でしかなく、互いの本心すら定かでない、一人の女性の姿。
その、姿が、何故故にか彼の心を震わす。
「こ…え、ええーーーーーーっ!?」
「こ…あ、あにーーーーーーっ!?」
「共に、暮らしている。
今の所は予定はないが、祝宴も恐らくは行うのだろう…………何故、驚く?」
葛木を知る人間ならば、ごく自然に発するであろう驚きは、出会って数時間の二人にも例外ではない。
だが、葛木本人からすれば、多少意外な反応ではある。
それ故に、問う。
「え、いや、その」
「あ、相棒が、その、女を口説いてる光景なんか想像できねえーんだ……」
「む…」
「こ…あ、あにーーーーーーっ!?」
「共に、暮らしている。
今の所は予定はないが、祝宴も恐らくは行うのだろう…………何故、驚く?」
葛木を知る人間ならば、ごく自然に発するであろう驚きは、出会って数時間の二人にも例外ではない。
だが、葛木本人からすれば、多少意外な反応ではある。
それ故に、問う。
「え、いや、その」
「あ、相棒が、その、女を口説いてる光景なんか想像できねえーんだ……」
「む…」
以前、言われた故か、多少口ごもる。
プッチャンの言ったことは概ね正しいのだろう。
「だっ! だったら!!
なおの事! 帰ってあげなくちゃいけないんじゃないですか!!」
と、そこにやよいの声が響く。
彼女は、既に泣いてはいなかった。
むしろ憤ってすらいた。
葛木が、まるで帰る事に興味が無いかのように見えたからである。
事実、その通りなのである、が
(――帰りたい)
プッチャンの言ったことは概ね正しいのだろう。
「だっ! だったら!!
なおの事! 帰ってあげなくちゃいけないんじゃないですか!!」
と、そこにやよいの声が響く。
彼女は、既に泣いてはいなかった。
むしろ憤ってすらいた。
葛木が、まるで帰る事に興味が無いかのように見えたからである。
事実、その通りなのである、が
(――帰りたい)
(――私は、最後に自分の国に帰りたいのです)
「そう、だな。
帰る。 いや、帰らなければ、ならない…」
のだろう、とは続けなかった。
「そう、だな。
帰る。 いや、帰らなければ、ならない…」
のだろう、とは続けなかった。
◇
「とりあえず、どうすればよいのでしょうか……」
「んー何にせよ、まずは情報を集めるべきなんじゃねーか?」
とりあえず、『おうちに帰る』という基本方針も定まり、それではまず何をするべきかという話になったが、
結局、何のあても無い事には代わりがないのだ。
「何か重要そうな情報は無いですか?」
なので、とりあえず話をふる。
「無い事も無い」
「へ?」
が、思わぬ答えが返された。
「恐らくだが、あの場に居た二人の内の一人『言峰』と言ったか。
あの男は、私にとっては無関係という訳ではない」
「んー何にせよ、まずは情報を集めるべきなんじゃねーか?」
とりあえず、『おうちに帰る』という基本方針も定まり、それではまず何をするべきかという話になったが、
結局、何のあても無い事には代わりがないのだ。
「何か重要そうな情報は無いですか?」
なので、とりあえず話をふる。
「無い事も無い」
「へ?」
が、思わぬ答えが返された。
「恐らくだが、あの場に居た二人の内の一人『言峰』と言ったか。
あの男は、私にとっては無関係という訳ではない」
「……えーと、つまりまほーつかいさんの戦いがあって、その関係者の方がいると?」
「そうなる」
「でもよお?
それが関係あんのか?
相棒の話と比べると大分違いがあるぜ」
葛木の語る、『聖杯戦争』の話。
とはいえ、彼自身はそれほど詳しいわけでもないが、それでも己の知りうる情報を、述べる。
「だが、少なくとも、『バトルロワイヤル』という部分は同じだ。
そして、参加者は強制的に選ばれ、辞退も不可能。
その辺りの事情も概ね同じ」
「なるほど」
「でもよお、結局何処に行ったらいいのかは判らないんじゃないか?」
プッチャンが、突っ込む。
聖杯戦争の情報はそれなりに貴重だが、今の所は役には立たない。
「ならば、大学に向かい、情報を手に入れるか…、
或いは、直接、本人に聞いてみるという手もある」
「そうなる」
「でもよお?
それが関係あんのか?
相棒の話と比べると大分違いがあるぜ」
葛木の語る、『聖杯戦争』の話。
とはいえ、彼自身はそれほど詳しいわけでもないが、それでも己の知りうる情報を、述べる。
「だが、少なくとも、『バトルロワイヤル』という部分は同じだ。
そして、参加者は強制的に選ばれ、辞退も不可能。
その辺りの事情も概ね同じ」
「なるほど」
「でもよお、結局何処に行ったらいいのかは判らないんじゃないか?」
プッチャンが、突っ込む。
聖杯戦争の情報はそれなりに貴重だが、今の所は役には立たない。
「ならば、大学に向かい、情報を手に入れるか…、
或いは、直接、本人に聞いてみるという手もある」
「…はい?」
「あの男は神父と名乗った。
ならば、教会にいるという可能性もある」
「あー相棒…大分飛躍してねえか、それ?」
「どの道、とりうる選択肢は少ない。
ならば、思いつく手を打ってみるというのも選択だ。」
いくらなんでもそれは無いのではないか、と二人とも思ったが、確かに言っている内容はそうおかしくは無い。
「あの男は神父と名乗った。
ならば、教会にいるという可能性もある」
「あー相棒…大分飛躍してねえか、それ?」
「どの道、とりうる選択肢は少ない。
ならば、思いつく手を打ってみるというのも選択だ。」
いくらなんでもそれは無いのではないか、と二人とも思ったが、確かに言っている内容はそうおかしくは無い。
「いずれにしろ、帰るという方針に変わりが無い以上、
いずれあの男とは合間見えなければならない」
恐らくは、敵わない。
それでも、帰る。
そう、胸の短剣に告げた。
いずれあの男とは合間見えなければならない」
恐らくは、敵わない。
それでも、帰る。
そう、胸の短剣に告げた。
【B-5 南東、ファミレス/1日目 早朝】
『先生と生徒とマスコット』
方針:大学、或いは教会に向かう。
『先生と生徒とマスコット』
方針:大学、或いは教会に向かう。
【葛木宗一郎@Fate/stay night[Realta Nua]】
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式 、ルールブレイカー@Fate/stay night[Realta Nua]、弾丸全種セット(100発入り)
【状態】:疲労(小)。右肩に切り傷
【思考・行動】
基本:帰る
1:どちらに向かうか…
2:今後、どうするべきか考える。
3:高槻やよいを守る?
4:蘭堂りのと如月千早と菊地真を探す?
5:間桐桜や衛宮士郎に関しては保留。可能なら保護
※自身の体が思うように動かない事には気付きました。
※博物館に展示されていた情報を記憶しました。
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式 、ルールブレイカー@Fate/stay night[Realta Nua]、弾丸全種セット(100発入り)
【状態】:疲労(小)。右肩に切り傷
【思考・行動】
基本:帰る
1:どちらに向かうか…
2:今後、どうするべきか考える。
3:高槻やよいを守る?
4:蘭堂りのと如月千早と菊地真を探す?
5:間桐桜や衛宮士郎に関しては保留。可能なら保護
※自身の体が思うように動かない事には気付きました。
※博物館に展示されていた情報を記憶しました。
【高槻やよい@THE IDOLM@STER】
【装備】:プッチャン(右手)
【所持品】:なし
【状態】:肉体疲労(中)、精神疲労(小)
【思考・行動】
1:葛木先生と一緒に行動。
2:うっう~。千早さんと真さんに会いたいです。
※博物館に展示されていた情報をうろ覚えながら覚えています。
【装備】:プッチャン(右手)
【所持品】:なし
【状態】:肉体疲労(中)、精神疲労(小)
【思考・行動】
1:葛木先生と一緒に行動。
2:うっう~。千早さんと真さんに会いたいです。
※博物館に展示されていた情報をうろ覚えながら覚えています。
【博物館について】
博物館には、少なくとも道具展示スペース、生物展示スペース、経観塚郷土資料館が存在。
参加者は、道具展示スペースに置いてある道具のうち、好きなものを一つだけ入手出来ます。
ルールブレイカーと、弾丸全種セット(100発入り)は説明書きだけ残されています。
博物館には、少なくとも道具展示スペース、生物展示スペース、経観塚郷土資料館が存在。
参加者は、道具展示スペースに置いてある道具のうち、好きなものを一つだけ入手出来ます。
ルールブレイカーと、弾丸全種セット(100発入り)は説明書きだけ残されています。
071:暗殺者と蛇のダンス | 投下順に読む | 073:影、ミツメル、光 |
071:暗殺者と蛇のダンス | 時系列順に読む | 046:求めなさい、そうすれば与えられる |
047:GO MY WAY!! | 葛木宗一郎 | 096:集え、そして結束しろ |
047:GO MY WAY!! | 高槻やよい | 096:集え、そして結束しろ |