GO MY WAY!! ◆LxH6hCs9JU
イェーイ! 高槻やよいです!
貧乏だけど、頑張りますけど、とりあえず今日は帰ります! 賢く特売行ってきます!
ええ、だからもう本当に帰らせてください! 家ではおなかを空かせた弟と妹が待ってるんです!
私、こんな暗くて怖いところ堪えられません! だから、お願いですから帰してください!
帰りたい、帰りたい、帰りたいったら帰りたいんです! 次頑張りますから、とりあえず今日は帰してください!
うっうー……帰りたい、帰りたいよぉ……プロデューサーぁぁぁ…………
貧乏だけど、頑張りますけど、とりあえず今日は帰ります! 賢く特売行ってきます!
ええ、だからもう本当に帰らせてください! 家ではおなかを空かせた弟と妹が待ってるんです!
私、こんな暗くて怖いところ堪えられません! だから、お願いですから帰してください!
帰りたい、帰りたい、帰りたいったら帰りたいんです! 次頑張りますから、とりあえず今日は帰してください!
うっうー……帰りたい、帰りたいよぉ……プロデューサーぁぁぁ…………
◇ ◇ ◇
「うっうー……帰りたいよぉ……」
電灯もまばらな夜の市街地。人通り皆無の道端で、女の子が一人、泣いていた。
やや癖のある長髪を、両サイド二本に纏め上げた少女の名は、高槻やよい。
父親の仕事が安定しないために貧乏生活を強いられている彼女の職業は、アイドルだ。
やや癖のある長髪を、両サイド二本に纏め上げた少女の名は、高槻やよい。
父親の仕事が安定しないために貧乏生活を強いられている彼女の職業は、アイドルだ。
長所は明朗快活な性格と、思いやりに溢れた心、強い責任感。短所は、強いて挙げるなら貧乏性だろうか。
私服のトレーナーはかなり着古しているのか、襟首の部分がくたびれており、アイドルらしさを感じさせない。
アイドルだというのに自前の携帯電話も所持しておらず、オフの日は小遣い稼ぎにバイトを入れる日もしばしば。
私服のトレーナーはかなり着古しているのか、襟首の部分がくたびれており、アイドルらしさを感じさせない。
アイドルだというのに自前の携帯電話も所持しておらず、オフの日は小遣い稼ぎにバイトを入れる日もしばしば。
――これが弱冠13歳の少女のプロフィールだというのだから、大人としては嘆息するほかない。
もっとも、そういった一端の感情を、彼――葛木宗一郎が持っているかどうかは不明だが。
「っぐ、っうう…………プロデューサーぁぁぁ…………」
「……お~い相棒、こういうとき、男として気の利いたセリフでもかけてやれねえのかよ」
「…………」
「……お~い相棒、こういうとき、男として気の利いたセリフでもかけてやれねえのかよ」
「…………」
渋い声が一つ、やよいの前に立つ男……の、右腕から発せられる。
無愛想な男の容貌からは、不似合いにもほどがある腹話術専用パペット人形。
名前はプッチャン――装着者の意志を無視して、自分勝手に喋る人形だった。
とはいえ、声帯は装着者である男の声を間借りしている。
ゆえに、響く声はプッチャンの声ではなく、プッチャンの口調をした男の声。
それがひどく、プッチャンの印象をハードボイルドなものに変えている。
無愛想な男の容貌からは、不似合いにもほどがある腹話術専用パペット人形。
名前はプッチャン――装着者の意志を無視して、自分勝手に喋る人形だった。
とはいえ、声帯は装着者である男の声を間借りしている。
ゆえに、響く声はプッチャンの声ではなく、プッチャンの口調をした男の声。
それがひどく、プッチャンの印象をハードボイルドなものに変えている。
「おい、相棒。オイったらオイ」
「…………」
「…………」
プッチャンの呼びかけにひたすら無言を貫き通すのが、装着者たる葛木宗一郎だ。
なんの不幸か、口やかましい上に自分では外せないという寄生虫のような人形を支給され、右手を封じられた状態で既に一戦。
今はその戦闘の際の『拾い物』を前に、傍観を続けている。
なんの不幸か、口やかましい上に自分では外せないという寄生虫のような人形を支給され、右手を封じられた状態で既に一戦。
今はその戦闘の際の『拾い物』を前に、傍観を続けている。
この状況も、かれこれ三十分ほど経過しただろうか。
ツヴァイと名乗る男から逃れた後、宗一郎とやよいは軽い自己紹介をすることになった。
とはいっても、語っていたのは主にやよいで、宗一郎は己の名前と職業くらいしか説明していない。
そしてやよいの自分語りが進み、崩壊は突然だった。
ツヴァイと名乗る男から逃れた後、宗一郎とやよいは軽い自己紹介をすることになった。
とはいっても、語っていたのは主にやよいで、宗一郎は己の名前と職業くらいしか説明していない。
そしてやよいの自分語りが進み、崩壊は突然だった。
「う、うう……うっう……」
きっと、話しているうちに実感してしまったのだろう――かつての日常と、今ある現実の落差に。
ただでさえ、やよいは殺し合いが始まって間もないこの時期に、死の間際というものを体感している。
痛感。やよいが突然泣き出してしまった症状について説明するなら、この一言だけで事足りた。
ただでさえ、やよいは殺し合いが始まって間もないこの時期に、死の間際というものを体感している。
痛感。やよいが突然泣き出してしまった症状について説明するなら、この一言だけで事足りた。
そんなやよいに対し、宗一郎はただ待った。彼女が泣き止むその瞬間まで。
人情味に溢れた人間ならば、励ましの言葉くらいはかけただろう。が、それもない。
葛木宗一郎は――人並みの感情を失った暗殺者は――そういう人間だからだ。
人情味に溢れた人間ならば、励ましの言葉くらいはかけただろう。が、それもない。
葛木宗一郎は――人並みの感情を失った暗殺者は――そういう人間だからだ。
「ごまえー……ごまえ……がんばぁぁってぇ……ゆーきましょ……」
嗚咽混じりのか細い声で、やよいが突然歌いだした。
曲名は『GO MY WAY!!』。
やよいの持ち歌であり、本来はもっと明るくポップな曲調だが、今のコンディションでは欠片の魅力も引き出せない。
子供はよく、怖い局面などに遭遇すると、自身を元気づけるために明るい歌を歌いだす。
今のやよいも恐怖に打ち勝つため歌っているのだろうが、背後に潜む恐れの原因が死だと考えると、ひたすら不憫に思えた。
曲名は『GO MY WAY!!』。
やよいの持ち歌であり、本来はもっと明るくポップな曲調だが、今のコンディションでは欠片の魅力も引き出せない。
子供はよく、怖い局面などに遭遇すると、自身を元気づけるために明るい歌を歌いだす。
今のやよいも恐怖に打ち勝つため歌っているのだろうが、背後に潜む恐れの原因が死だと考えると、ひたすら不憫に思えた。
職業など関係ない、やよいはどこにでもいる13歳の女子児童だ。
それも理解しているだろう。しかし宗一郎は、大人として、教師として、一参加者として、やよいの再起を待った。
決して目を背けず、去ろうと思えばいつでも去れるのに。
それも理解しているだろう。しかし宗一郎は、大人として、教師として、一参加者として、やよいの再起を待った。
決して目を背けず、去ろうと思えばいつでも去れるのに。
「……うん」
三十五分ほどかかっただろうか。一頻り歌い終えると、やよいは顔を上げ、涙を拭った。
ずっと待っていてくれた、厳しくもやさしい教師と顔を合わせ、やよいは言葉を弾く。
ずっと待っていてくれた、厳しくもやさしい教師と顔を合わせ、やよいは言葉を弾く。
「あの、さっきはどうもありがとうございますっ! 葛木先生……それから、プッチャン!」
元気よく屹立。両手を後ろに大きく跳ね上げ、深くお辞儀。やよい独特の感謝のポーズ。
その子供っぽい仕草を見て、プッチャンは僅かに笑み。
宗一郎は、微かに唇を揺らした程度だった。
その子供っぽい仕草を見て、プッチャンは僅かに笑み。
宗一郎は、微かに唇を揺らした程度だった。
◇ ◇ ◇
高槻やよいは、涙を拭いながら決心を固める。
頑張ってゆこう。
殺し合いというゲームに対し、単なる子供にすぎない自分がなにをできるかはわからない。
少なくとも、悲しみに浸ったまま時間を浪費し続けることは正解ではない。それだけはわかった。
頑張ってゆこう。
殺し合いというゲームに対し、単なる子供にすぎない自分がなにをできるかはわからない。
少なくとも、悲しみに浸ったまま時間を浪費し続けることは正解ではない。それだけはわかった。
「落ち着いたか、やよい?」
「はい、なんとか。えーと、葛木先生……じゃなくて、プッチャン」
「そう。俺の名はプッチャン。それ以上でもそれ以下でもない」
(うっうー、すごく上手な腹話術ですぅ)
「はい、なんとか。えーと、葛木先生……じゃなくて、プッチャン」
「そう。俺の名はプッチャン。それ以上でもそれ以下でもない」
(うっうー、すごく上手な腹話術ですぅ)
宗一郎の口は堅く閉ざされたまま、プッチャンの厳格な声が発せられる。
素人目だが、まったくの違和感が覚えられない、完璧すぎる腹話術だった。
素人目だが、まったくの違和感が覚えられない、完璧すぎる腹話術だった。
「……肩が震えているようだが」
「え?」
「え?」
やよいが達人の腹話術に感動していると、宗一郎が唐突に口を開いた。
元気を取り戻したかと思われたやよいの肩は、まだ小刻みに震えている。
体から恐怖が抜け切っていないのだろう。やよいはまだ本調子ではなかった。
元気を取り戻したかと思われたやよいの肩は、まだ小刻みに震えている。
体から恐怖が抜け切っていないのだろう。やよいはまだ本調子ではなかった。
「えへへ……まだちょっと、元気が足りないのかも。あ、そうだ!
いつも学校でやってるアレやれば、怖いのも治まるかもっ!」
「アレ? アレって、なんだ?」
「葛木先生。私と、手をポーンって、合わせてくれますか? それやると調子出るんです」
いつも学校でやってるアレやれば、怖いのも治まるかもっ!」
「アレ? アレって、なんだ?」
「葛木先生。私と、手をポーンって、合わせてくれますか? それやると調子出るんです」
やよいは宗一郎の難しい顔を眺め、普段プロデューサーと交わすような笑顔を振りまく。
「それじゃ、いきますよ~っ。うっう~、ハイ、ターッチ!」
「むっ」
「むっ」
満面の笑みを浮かべながら、やよいは右の手の平を高く突き上げた。
差し出された手の平に、宗一郎は反射的に自分の左手の平を合わせる。
差し出された手の平に、宗一郎は反射的に自分の左手の平を合わせる。
「いぇい!」
パン、という爽快な音が響き、やよいの笑顔も明るみが増した。
「お、おもしろそうだなソレ。なぁやよい、俺ともやろうぜハイタッチ」
やよいと宗一郎のやり取りに共感を覚えたのか、プッチャンも名乗り出る。
このハイタッチは、自分を元気づけるためのおまじないみたいなものだ。
やよいは屈託なく頷き、再び手の平を突き上げる。
このハイタッチは、自分を元気づけるためのおまじないみたいなものだ。
やよいは屈託なく頷き、再び手の平を突き上げる。
「いいですよ。じゃ、プッチャンもハイ、ターッチ!」
「ターッチ!」
「ターッチ!」
やよいの手の平を目が――けず、プッチャンを装着した宗一郎の右手は、そのまま下方にずれていった。
プッチャンの小さな手が飛び込んだ先は、やよいのトレーナーに刻まれた『MARCH』のロゴ。
つまり、胸元である。
ぽふっ、という軽い音が一つ。
音に柔らか味が欠けていたのが、やよいにとって少しだけ残酷だった。
プッチャンの小さな手が飛び込んだ先は、やよいのトレーナーに刻まれた『MARCH』のロゴ。
つまり、胸元である。
ぽふっ、という軽い音が一つ。
音に柔らか味が欠けていたのが、やよいにとって少しだけ残酷だった。
「うううっ、葛木先生~、どうしてそんなところにタッチするんですかー?」
「いや、違う。これはこいつが勝手に」
「はははっ、まあいいじゃねぇか。
コミュニケーションの苦手な相棒に代わって、俺がスキンシップを取ってやっただけのことさ」
「いや、違う。これはこいつが勝手に」
「はははっ、まあいいじゃねぇか。
コミュニケーションの苦手な相棒に代わって、俺がスキンシップを取ってやっただけのことさ」
やよいが頬を赤らませつつ困惑し、宗一郎が僅かに動じ、プッチャンが愉快に浸る。
「ううー、ひどいですプッチャン。私、ちゃんと手にしてほしかったのに……えいっ」
やよいはちょっとだけ怒った素振りを見せ、プッチャンの頬を軽くはたく。
すると、プッチャンは宗一郎の右手からスポッと飛び、そのまま地面に落下した。
すると、プッチャンは宗一郎の右手からスポッと飛び、そのまま地面に落下した。
「え……あ、あれ? ああ、ご、ごめんなさい葛木先生っ」
「……いや」
「……いや」
自分が弾き落としてしまったプッチャンを慌てて拾い、やよいは宗一郎の右手に嵌めようとする。
しかし、宗一郎は右腕を自分の背中に隠すことでそれを拒否した。
しかし、宗一郎は右腕を自分の背中に隠すことでそれを拒否した。
「え?」
「それは君に譲ろう」
「ええー? いいんですかぁ?」
「それは君に譲ろう」
「ええー? いいんですかぁ?」
抑揚のない声で、プッチャンをやよいに贈る宗一郎。
やよいはさっそく、プッチャンを右手に嵌めてみることにした。
宗一郎とは手のサイズがまるで違うが、やよいの手でも抜群のフィット感。
新しい玩具を手に入れた子供のように、やよいは童心のまま腹話術を試みる。
やよいはさっそく、プッチャンを右手に嵌めてみることにした。
宗一郎とは手のサイズがまるで違うが、やよいの手でも抜群のフィット感。
新しい玩具を手に入れた子供のように、やよいは童心のまま腹話術を試みる。
「うっうー! こんばんは、プッチャン! 今晩のおかず、アジ一匹でーす!」
「アジ一匹でーす、じゃねー! おい相棒! いきなりひでぇじゃねぇかー!」
「もげー!? 私、なにも言ってないのに、プッチャンが勝手に喋りましたー!?」
「気にするな。それはそういうものらしい」
「そうじゃねぇだろ! 出会ったばかりの相棒を捨てるなんて、おまえそれでも人間かコノヤロー!」
「右手が塞がっていてはいざというとき対処に遅れる。しかし……随分と可愛らしい声を出すのだな」
「んなー!? 笑った、おまえいま笑っただろう!? 顔じゃ笑ってなくても、心の中で笑っただろう!?」
「うっうー。なにがなんだかわかりません……私、実は腹話術の天才だったのかなぁ?」
「アジ一匹でーす、じゃねー! おい相棒! いきなりひでぇじゃねぇかー!」
「もげー!? 私、なにも言ってないのに、プッチャンが勝手に喋りましたー!?」
「気にするな。それはそういうものらしい」
「そうじゃねぇだろ! 出会ったばかりの相棒を捨てるなんて、おまえそれでも人間かコノヤロー!」
「右手が塞がっていてはいざというとき対処に遅れる。しかし……随分と可愛らしい声を出すのだな」
「んなー!? 笑った、おまえいま笑っただろう!? 顔じゃ笑ってなくても、心の中で笑っただろう!?」
「うっうー。なにがなんだかわかりません……私、実は腹話術の天才だったのかなぁ?」
宿主を宗一郎からやよいに移し、声質を少女のものに変えたプッチャンの怒声が響く。
プッチャンを単なるパペット人形としか思っていなかったやよいは、事態にただただ困惑。
宗一郎はそんなやよいへの説明すら放棄し、結局プッチャンが当人の声を借りて、やよいに説明する形になった。
プッチャンを単なるパペット人形としか思っていなかったやよいは、事態にただただ困惑。
宗一郎はそんなやよいへの説明すら放棄し、結局プッチャンが当人の声を借りて、やよいに説明する形になった。
――理解が追いつく頃には、すっかり元気を取り戻したやよい。
アイドルとお喋りな人形、無愛想な男の三人組は、並び合って夜道を歩く。
三人の行く先には、一軒の巨大な建物が聳えていた。
博物館である。
アイドルとお喋りな人形、無愛想な男の三人組は、並び合って夜道を歩く。
三人の行く先には、一軒の巨大な建物が聳えていた。
博物館である。
◇ ◇ ◇
博物館内の電灯は、最初から点灯していた。
既に何者かが踏み入っているのでは、とも懸念したが、宗一郎を信じるにどうやらその線は薄いらしい。
いるとすれば、気配遮断を極めた隠密の者か……という言は、やよいにはよくわからなかった。
既に何者かが踏み入っているのでは、とも懸念したが、宗一郎を信じるにどうやらその線は薄いらしい。
いるとすれば、気配遮断を極めた隠密の者か……という言は、やよいにはよくわからなかった。
「しっかしなぁ……博物館っていうのは、恐竜の骨とか、船の模型とかが置いてあるもんじゃねぇのか?」
やよいの幼い声で、プッチャンが男らしく喋る。
言葉遣いと声質がまったくマッチしておらず、どこか舌足らずな印象を受けた。
言葉遣いと声質がまったくマッチしておらず、どこか舌足らずな印象を受けた。
「美術品や学術資料を展示しているケースが多いものだが……これも、そうだということだろう」
「うっうー……でも、どうしてこんなものがあるんでしょう? ひょっとして動くのかなぁ?」
「いやぁ……これは本物じゃなくて作り物だろう、さすがに……」
「うっうー……でも、どうしてこんなものがあるんでしょう? ひょっとして動くのかなぁ?」
「いやぁ……これは本物じゃなくて作り物だろう、さすがに……」
やよい、宗一郎、プッチャンの三者が見つめるのは、博物館に入っていきなり目に飛び込んできた展示品。
ドラム缶のような円筒形のフォルムに、取りつけられているのは二本のアーム。その先端にはドリル。
第一印象で捉えるならば、正にロボット……展示品の名を記すプレートから参照すると、『破壊ロボ』とあった。
ドラム缶のような円筒形のフォルムに、取りつけられているのは二本のアーム。その先端にはドリル。
第一印象で捉えるならば、正にロボット……展示品の名を記すプレートから参照すると、『破壊ロボ』とあった。
「んでぇ、こっちのはなんだ? いや、あっちのダサいロボットに比べりゃ一目瞭然だけどよ」
「うっうー、ショベルカー、ですよね?」
「うっうー、ショベルカー、ですよね?」
破壊ロボから少し離れた地点には、また別の展示物。
ホワイトカラーに覆われた独特な車体は、工事現場などでよく見受けられる重機の一種。
ロボットなどに比べれば随分と一般的な、パワーショベルカーと呼ばれる代物が、そこに鎮座していた。
ホワイトカラーに覆われた独特な車体は、工事現場などでよく見受けられる重機の一種。
ロボットなどに比べれば随分と一般的な、パワーショベルカーと呼ばれる代物が、そこに鎮座していた。
「『雪の名を冠さす少女が駆りし、伝説の機体』……おいおい、随分とご立派なショベルカー様だなぁ」
「ショベルカーって、いったいいくらくらいするものなんでしょうか?」
「この手の油圧ショベルなら、安いものでも三百万ほどはすると思うが」
「3000000円!? そんなにあったら、もやし祭りができちゃいますよっ!?」
「も、もやし祭りってなんだ……?」
「でもこれ、すっごく本物っぽいですけど……こっちは頑張れば動くんじゃ」
「頑張るって言ってもなぁ。おい相棒、おまえはこれ動かせたり……っておーい、勝手に先に進むなー!」
「ショベルカーって、いったいいくらくらいするものなんでしょうか?」
「この手の油圧ショベルなら、安いものでも三百万ほどはすると思うが」
「3000000円!? そんなにあったら、もやし祭りができちゃいますよっ!?」
「も、もやし祭りってなんだ……?」
「でもこれ、すっごく本物っぽいですけど……こっちは頑張れば動くんじゃ」
「頑張るって言ってもなぁ。おい相棒、おまえはこれ動かせたり……っておーい、勝手に先に進むなー!」
博物館の奥へと進む宗一郎の背を、やよいとが慌てて追う。
命を助けてもらった恩からだろうか。宗一郎と行動を共にすることへの疑問は、欠片も湧かない。
この人は味方。この人はいい人。この人といれば大丈夫。そんな安心感が、いつしかやよいの中で働いていた。
命を助けてもらった恩からだろうか。宗一郎と行動を共にすることへの疑問は、欠片も湧かない。
この人は味方。この人はいい人。この人といれば大丈夫。そんな安心感が、いつしかやよいの中で働いていた。
宗一郎の揺れる心とは、裏腹に。
◇ ◇ ◇
自分の背中をちょこちょことついて回る、アイドルの女の子と傍迷惑なパペット人形。
教師としての立場を考えるならば、他校の生徒であろうと守護の対象に加えるべき存在だ。
そんな常人の選択を、常人ではありえない宗一郎は、選び取ることができなかった。
教師としての立場を考えるならば、他校の生徒であろうと守護の対象に加えるべき存在だ。
そんな常人の選択を、常人ではありえない宗一郎は、選び取ることができなかった。
(――殺し合い、か)
こうやってやよいと行動を共にしているのは、仮の選択にすぎない。
殺し合いという現状を、葛木宗一郎という人間は、どう立ち回るか。
その決断は、まだできない。決断するための判断材料が不足しているからだ。
殺し合いという現状を、葛木宗一郎という人間は、どう立ち回るか。
その決断は、まだできない。決断するための判断材料が不足しているからだ。
当面の選択肢はこの三つ。しかしこれは、どれも他者に用意されたものにすぎない。
人生のかかったゲームだ。選択肢は自らで調達し、自らの意志で選び取らなければならない。
なぜならば、ここには『指令』を与える者など誰もいないのだから。
人生のかかったゲームだ。選択肢は自らで調達し、自らの意志で選び取らなければならない。
なぜならば、ここには『指令』を与える者など誰もいないのだから。
「うっうー、待ってください葛木せんせーい」
この博物館の中に、宗一郎が選択肢を得るために必要な判断材料はあるのだろうか。
確率すらもわからない。あてもなく周旋する、旅人ならざる彷徨い人。
彼が答えを見つけ出す時は、いつか――?
確率すらもわからない。あてもなく周旋する、旅人ならざる彷徨い人。
彼が答えを見つけ出す時は、いつか――?
【B-5 博物館/1日目 黎明】
【葛木宗一郎@Fate/stay night[Realta Nua]】
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式
【状態】:疲労(小)。右肩に切り傷
【思考・行動】
1:博物館内を探索。
2:今後、どうするべきか考える。
3:高槻やよいを守る?
4:蘭堂りのと如月千早と菊地真を探す?
5:間桐桜や衛宮士郎に関しては保留。可能なら保護
※自身の体が思うように動かない事には気付きました。
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式
【状態】:疲労(小)。右肩に切り傷
【思考・行動】
1:博物館内を探索。
2:今後、どうするべきか考える。
3:高槻やよいを守る?
4:蘭堂りのと如月千早と菊地真を探す?
5:間桐桜や衛宮士郎に関しては保留。可能なら保護
※自身の体が思うように動かない事には気付きました。
【高槻やよい@THE IDOLM@STER】
【装備】:プッチャン(右手)
【所持品】:なし
【状態】:肉体疲労(中)、精神疲労(小)
【思考・行動】
1:葛木先生と一緒に行動。
2:うっう~。千早さんと真さんに会いたいです。
【装備】:プッチャン(右手)
【所持品】:なし
【状態】:肉体疲労(中)、精神疲労(小)
【思考・行動】
1:葛木先生と一緒に行動。
2:うっう~。千早さんと真さんに会いたいです。
046:求めなさい、そうすれば与えられる | 投下順 | 048:クモノイト |
045:まこまこクエスト~狸と筋肉とスライムと呪われし血脈 | 時系列順 | 049:胸には強さを、気高き強さを、頬には涙を、一滴の涙を。 |
001:Einsatz | 高槻やよい | 072:望郷 |
001:Einsatz | 葛木宗一郎 | 072:望郷 |